説明

滅菌装置

【課題】過酢酸系滅菌剤にかかるコストの増加を抑制し、且つ濃度管理が容易にできる滅菌装置を提供する。
【解決手段】本発明の滅菌装置において、過酢酸系滅菌剤を収納した薬液タンク3と、薬液タンク3から過酢酸系滅菌剤を滅菌機5、7へ導出する往路管9と、往路管9に設けて過酢酸系滅菌剤を加熱する加熱器19と、滅菌機5、7で使用した後の過酢酸系滅菌剤を薬液タンク3へ戻す復路管11とを備え、薬液タンク3には、冷却用ジャケット31を設けて薬液タンク3内の過酢酸系滅菌剤を冷却しており、復路管11には、薬液タンク3と滅菌機5、7との間に往路管9の過酢酸系滅菌剤と熱交換する熱交換器17を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸を含有する過酢酸系滅菌剤を用いて、例えば、ボトル入り飲料製造時におけるボトルやキャップを滅菌する滅菌方法に使用する滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボトル入り飲料製造時においてボトルの滅菌用に用いる薬液として、過酢酸系滅菌剤を用いる滅菌方法及び滅菌装置が公知である。
【0003】
かかる滅菌方法として、特許文献1及び2には、薬液の使用時に薬液を60℃以上に加熱することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、薬液タンクを60℃近くの温度で保温して用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−112713号公報
【特許文献2】特開2004−210387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、過酢酸系滅菌剤は、所定温度以上になると熱分解により過酢酸の濃度が低下する為、薬液タンクに過酢酸を添加して補充していた。例えば、図2に示すように、過酢酸系滅菌剤を所定温度で保管した場合の所定時間経過後の濃度を測定したところ、過酢酸を68℃とした場合には、60分経過後で約20%低下した。
【0007】
このような過酢酸の濃度低下により過酢酸を補充すると、滅菌剤の管理コストの増加を招くと共に、薬液タンクの濃度管理に手間がかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、過酢酸系滅菌剤にかかるコストの増加を抑制し、且つ濃度管理が容易にできる滅菌装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸を含有する過酢酸系滅菌剤で樹脂製容器又は容器の樹脂製キャップを滅菌する滅菌装置であって、過酢酸系滅菌剤を収納した薬液タンクと、薬液タンクから過酢酸系滅菌剤を滅菌機へ導出する往路管と、往路管に設けて過酢酸系滅菌剤を加熱する加熱器と、滅菌機で使用した後の過酢酸系滅菌剤を薬液タンクへ戻す復路管とを備え、薬液タンクには、冷却用ジャケットを設けて薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤を冷却しており、復路管には、薬液タンクと滅菌機との間に往路管の過酢酸系滅菌剤と熱交換する熱交換器を設けたことを特徴とする滅菌装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、冷却用ジャケットは水を用いて冷却していることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載の発明において、薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤の温度は35℃以下とし、滅菌機で使用する過酢酸系滅菌剤の温度を60℃〜70℃としていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載の発明において、薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤の温度は25℃〜35℃としてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
実験の結果、過酢酸系滅菌剤において、温度が高くなると過酢酸が熱分解し、過酢酸濃度が低下することが分かった。
【0014】
従って、本発明によれば、使用済みの過酢酸系滅菌剤を冷却して保管することにより、熱分解を抑制して過酢酸濃度の低下を防止できるから、従来おこなわれていた過酢酸の補充を低減できると共に、過酢酸の濃度管理も容易になる。
【0015】
実験の結果から、使用済み過酢酸系滅菌剤の保管温度は、35℃以下が好ましく、更に好ましくは、25℃〜35℃である。
【0016】
35℃以下の場合には、60分経過後で2%〜3%の濃度低下に留めることができ、約30℃で濃度低下は略ゼロとすることができたからである。
【0017】
一方、25℃よりも低い温度とした場合には、過酢酸系滅菌剤は、滅菌機で使用するときには一般に60℃〜70℃の滅菌温度まで加熱して用いる必要があるので、滅菌温度まで加熱するのに必要なエネルギーが増加するという不都合がある。
【0018】
滅菌機で使用する過酢酸系滅菌剤を加熱する前の往路に熱交換器を設けて、復路の使用済み過酢酸系滅菌剤の熱を熱交換器で熱交換して温度を下げれば、復路で過酢酸系滅菌剤を冷却するときの熱効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の技術的範囲に含まれない参考例としての第1実施の形態に係る滅菌装置の構成を示すブロック図である。
【図2】過酢酸系滅菌剤の温度と過酢酸濃度との関係を経過時間毎に測定した実験の結果を示すグラフである。
【図3】過酢酸系滅菌剤の温度と過酸化水素濃度との関係を経過時間毎に測定した実験の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の技術的範囲に含まれる第2実施の形態に係る滅菌装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
まず、図1を参照して本発明の技術的範囲に含まれないが、参考例として第1実施の形態にかかる滅菌装置の構成を説明する。滅菌装置は、樹脂製ボトル入り飲料製造工場における樹脂製のボトルとキャップの滅菌をするものであり、薬液タンク3内の薬液をボトル滅菌機5とキャップ滅菌機7とに供給するようになっている。
【0021】
薬液は、過酢酸、過酸化水素、及び酢酸を含有する過酢酸系滅菌剤であり、必要に応じて安定剤が混入されている。
【0022】
薬液タンク3とボトル滅菌機5の間には、往路管9と復路管11とが接続されており、往路管9は薬液タンク3から導出された薬液をボトル滅菌機5に供給し、ボトル滅菌機5で使用した薬液を復路管11により薬液タンク3に戻すようになっている。
【0023】
往路管9には、薬液タンク3から薬液を導出するポンプ13、ストレーナー15が設けてあり、ストレーナー15を通過した薬液は、熱交換器(チューブヒーター)17で復路管11の薬液と熱交換した後、蒸気加熱器(チューブヒーター)19で加熱して、ボトル滅菌機5に供給される。
【0024】
復路管11は、ボトル滅菌機5で使用済みの薬液を薬液タンク3に戻すものであり、60℃〜70℃に加熱して使用された薬液を熱交換器17に供給して往路管9の薬液と熱交換した後、冷却器(チューブクーラー)21で冷却し、ストレーナー23を介して薬液タンク3に戻している。
【0025】
薬液タンク3とキャップ滅菌機7との間の往路管9及び復路管11については、上述したボトル滅菌機5の場合と同様な構成であり、往路管9にストレーナー15、熱交換器17、蒸気加熱19が設けてあり、復路管11は熱交換器17を通過するようにしてあると共に、熱交換器17の下流に冷却器21、ストレーナー23が設けられている。
【0026】
次に、滅菌装置における作用、効果について説明する。薬液タンク3には、約30℃で保持された過酢酸系滅菌剤(薬液)が収納されており、薬液タンクから導出された薬液は、熱交換器17で復路管11の薬液と熱交換により加熱され、蒸気加熱器19で60℃〜70℃に加熱される。そして、ボトル滅菌機5では、60℃〜70℃に加熱された薬液でボトルを滅菌する。ボトル滅菌機5で薬液温度を60℃〜70℃にするのは、滅菌効果を高める為である。
【0027】
ボトル滅菌機5で使用された後の薬液は、熱交換器17で往路9の薬液と熱交換された後、冷却器21で約30℃にまで冷却された後、薬液タンク3に戻される。
【0028】
即ち、参考例としての第1実施の形態では、薬液タンク3内の薬液は、約30℃で保管されて、使用時に60℃〜70℃に加熱して使用される。
【0029】
本実施の形態では、薬液タンク3における保管温度を30℃にしているので、熱分解による過酢酸濃度の低下を防止できる。
【0030】
ここで、過酢酸系滅菌剤の保管温度と濃度との関係について、実験したのでその結果を説明する。
【0031】
実験では、所定濃度の過酢酸系滅菌剤を種々の温度で保管したときの、各経過時間毎の過酢酸濃度を測定した。その結果を図2に示す。図2において、○は保管温度が30℃、×は40℃、□及び◇は約68℃である。68℃の場合を□と◇で2つのデータを取っているのは、高温の場合には測定誤差が生じやすいからである。尚、縦軸は濃度であり、横軸は時間である。
【0032】
この図2から明らかなように、保管温度が約30℃の場合には、過酢酸濃度に大きな減少がなく、60分経過後においては、略同じ濃度を維持することができた。一方、保管温度を約40℃にした場合には、60分経過後において約4%の濃度低下が見られた、68℃においては、約20%の濃度低下があった。
【0033】
従って、濃度低下を防止するためには薬液の保管温度を約30℃、好ましくは、25℃〜35℃程度にすることが好ましい。この温度範囲であれば、過酢酸濃度が熱分解により低下することを防止できることが明らかである。
【0034】
過酢酸の濃度が減ると、過酢酸は下記(1)式の平衡を有することから、過酸化水素濃度が増えることになるが、過酸化水素が増加すると、金属配管の酸化や有機物との化学反応による合成物質が増えるという問題がある。
【0035】
(化1)
CH3COOOH(過酢酸)+H2O⇔CH3COOH+H22・・・(1)
ここで、過酢酸系滅菌剤の温度と過酸化水素濃度との関係を経過時間毎に測定する実験を行ったので、その結果を図3に示す。
【0036】
図3に示す過酸化水素濃度の測定は、図2に示す実験で用いた過酢酸系滅菌剤について、行ったものである。尚、図3のグラフで用いている記号は、図2の場合と同じ温度の記号である。
【0037】
この図3から明らかなように、過酸化水素濃度は、保管温度が30℃の場合には60分経過後でもほとんど変化していないが、保管温度が68℃の場合には約5%、保管温度が40℃の場合には、約2%増加した。
【0038】
この過酸化水素濃度の測定から明らかなように、保管温度が30℃の場合には、過酸化水素濃度が変化していないことからも、過酢酸の熱分解による濃度低下がほとんどなかったことが明らかである。
【0039】
次に、本発明の技術的範囲に含まれる第2実施の形態を説明するが、以下に説明する実施の形態において、上述した参考として示す第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付することにより、その部分の詳細な説明を省略し、第1実施の形態と主に異なる点を説明する。
【0040】
図4に第2実施の形態に係る滅菌装置を示す。この第2実施の形態では、薬液タンク3に冷却用ジャケット31を設け、冷却用ジャケット31で薬液タンク3を冷却するものであり、復路11に冷却器21を設けていないことが上述した第1実施の形態と異なる。
【0041】
冷却用ジャケット31は、薬液タンク3の周囲に設けて、冷媒により薬液タンク3を冷却する。冷媒としては、工業用水や地下水等を用いることができる。
【0042】
この第2実施の形態においても、第1実施の形態と同様な作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0043】
3 薬液タンク
5 ボトル滅菌機
7 キャップ滅菌機
17 熱交換器
19 加熱器
31 冷却用ジャケット(冷却器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酢酸、過酸化水素、及び酢酸を含有する過酢酸系滅菌剤で樹脂製容器又は容器の樹脂製キャップを滅菌する滅菌装置であって、過酢酸系滅菌剤を収納した薬液タンクと、薬液タンクから過酢酸系滅菌剤を滅菌機へ導出する往路管と、往路管に設けて過酢酸系滅菌剤を加熱する加熱器と、滅菌機で使用した後の過酢酸系滅菌剤を薬液タンクへ戻す復路管とを備え、薬液タンクには、冷却用ジャケットを設けて薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤を冷却しており、復路管には、薬液タンクと滅菌機との間に往路管の過酢酸系滅菌剤と熱交換する熱交換器を設けたことを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
冷却用ジャケットは水を用いて冷却していることを特徴とする請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤の温度は35℃以下とし、滅菌機で使用する過酢酸系滅菌剤の温度を60〜70℃としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の滅菌装置。
【請求項4】
薬液タンク内の過酢酸系滅菌剤の温度は25℃〜35℃としてあることを特徴とする請求項3に記載の滅菌装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−176804(P2012−176804A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97429(P2012−97429)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2008−148695(P2008−148695)の分割
【原出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(596126465)アサヒ飲料株式会社 (84)
【Fターム(参考)】