説明

漁獲方法および照明装置

【課題】
光の照射に伴う漁獲対象物の忌避行動を利用して、漁具付近に集群した漁獲対象物の群を適正規模に削減する。
【解決手段】
水中に漁獲対象物を捕獲する漁具Nを設置し、水面または水中に光を照射して光に対して正の走性を有する漁獲対象物を漁具N付近に集群させ、漁具N付近に集群した漁獲対象物に漁獲対象物が忌避行動をとる周期の光の点滅を照射して漁獲対象物の群Fを分断し、分断された漁獲対象物の一部の群Faを漁具Nで捕獲する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射を利用して漁獲対象物を捕獲する漁獲方法と、この漁獲方法の光の照射に使用される照明装置とに係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、光を水面,水中に照射して光に対して正の走性を有する漁獲対象物(サンマ,イカ等)を集群させて漁具(漁網,釣仕掛け等)で捕獲する漁獲方法が盛んに行われている。特に、光の照射波長の調整や光の照射領域の切換え技術等の確立によって、漁獲対象物を巧みに漁具に誘導することが可能となったため、漁獲対象物を一挙に大量に捕獲することができるようになってきている。この結果、大量の漁獲対象物が漁網の内部で圧死,損傷したり釣仕掛けを絡まらせる等の不具合が生じてきている。そして、この不具合を解消するには、漁獲対象物の集群を漁具付近で規制することが必要と考えられるようになってきている。
【0003】
一方、種々の動植物では、特定の周期の光の点滅の照射に対して忌避行動(光の照射域から離れたり、光の照射域に対して一定の距離,角度を確保しようとする行動)をとることが知られている。
【0004】
従来、動植物の忌避行動を利用する技術としては、例えば、以下に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2005−210958号公報 特許文献1には、特定の周期で点滅する発光体を取水口等に設置して、魚類等が取水口等に吸込まれないようにする技術が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る技術をそのまま漁具付近に集群する漁獲対象物に適用しようとすると、集群そのものが阻害されて群を形成することがなくなってしまうため、漁獲量が減少してしまうという問題点がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、光の照射に伴う漁獲対象物の忌避行動を利用して漁具付近に集群した漁獲対象物の群を適正規模に削減することのできる漁獲方法と、この漁獲方法の光の照射の使用に好適な照明装置とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するため、本発明に係る漁獲方法は、特許請求の範囲の請求項1,2に記載の手段を採用する。
【0008】
即ち、請求項1では、水中に漁獲対象物を捕獲する漁具を設置し、水面または水中に光を照射して光に対して正の走性を有する漁獲対象物を漁具付近に集群させ、漁具付近に集群した漁獲対象物に漁獲対象物が忌避行動をとる周期の光の点滅を照射して漁獲対象物の群を分断し、分断された漁獲対象物の一部の群を漁具で捕獲する。
【0009】
この手段では、漁具付近に一旦集群させた漁獲対象物の群に光の点滅を照射することで、漁獲対象物に忌避行動をとらせて漁獲対象物の群を分断し、漁獲対象物の一部の群を捕獲対象とする。
【0010】
また、請求項2では、請求項1の漁獲方法において、分断された漁獲対象物の捕獲対象とされない群の移動に漁獲対象物が忌避行動をとる周期の光の点滅の照射を追従させ、分断された漁獲対象物の捕獲対象とされない群を漁具から離れた水域に放逐することを特徴とする。
【0011】
この手段では、光の点滅の照射を漁獲対象物の捕獲対象とされない群の移動に追従させることで、漁獲対象物の忌避行動を継続させて漁獲対象物の捕獲対象とされない群を漁具から離し、漁獲対象物の捕獲対象とされない群と漁獲対象物の捕獲対象とされた群との再集群を阻止する。
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明に係る照明装置は、特許請求の範囲の請求項3,4に記載の手段を採用する。
【0013】
即ち、請求項3では、水面または水中に光を照射する照明器と、照明器に接続され照明器の照明状態を制御する制御部とを備え、制御部は光に対して正の走性を有する漁獲対象物を集群させる照明状態と漁獲対象物に忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とが選択可能に設定されている。
【0014】
この手段では、照明器に制御部を接続することで、漁獲対象物を集群させる照明状態と漁獲対象物に忌避行動をとらせる照明状態とを選択して切換えることができる。
【0015】
また、請求項4では、請求項3の照明装置において、照明器は光の照明方向を変更する照射方向可変機構が付設されていることを特徴とする。
【0016】
この手段では、照明器に光の照明方向を変更する照射方向可変機構が付設されることで、漁獲対象物を集群させる誘導を行ったり、漁獲対象物に忌避行動を継続させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る漁獲方法は、漁具付近に一旦集群させた漁獲対象物の群に光の点滅を照射することで、漁獲対象物に忌避行動をとらせて漁獲対象物の群を分断し、漁獲対象物の一部の群を捕獲対象とするため、光の照射に伴う漁獲対象物の忌避行動を利用して漁具付近に集群した漁獲対象物の群を適正規模に削減することができる効果がある。
【0018】
本発明に係る照明装置は、照明器に制御部を接続することで、漁獲対象物を集群させる照明状態と漁獲対象物に忌避行動をとらせる照明状態とを選択して切換えることができるため、1つの照明器に2つの機能を備えて構造を簡素化することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1〜図4は、本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第1例を示すものである。
【0021】
第1例では、サンマ漁へ適用されるものを示してある。
【0022】
第1例は、漁船Sに設備された照明器1,照射方向可変機構2,制御部3からなる照明装置を使用して、漁獲対象物であるサンマ(Pacific Saury)を捕獲するものである。
【0023】
漁船Sには、図1に示すように、サンマを捕獲する漁具としての漁網である棒受網(Stick Held Net)Nが設備されている。
【0024】
棒受網Nは、海中にU字形に張設される網本体Naの沖合側の端部に向竹Nbが掛渡され舷側の端部に引上綱Ncが連結されたもので、向竹Nbと舷側との間に張設した張出竹Nd(張出綱)と引上綱Ncとを引寄せ,引上げることで、網本体Naを海面の舷側側に手繰寄せて(必要に応じて、フィッシュポンプ等を使用する)サンマを捕獲するものである。
【0025】
照明器1は、スイッチONで直ちに最大光量が得られる発光ダイオード(LED)を多数個配列して光源としたもので、光源が必要な防水,放熱構造を備えたケーシング11に収容されて漁船Sの舷側付近に支持されて沖合側に突出される支持アーム12に回動可能に取付けられている。この照明器1は、棒受網Nの幅方向(漁船Sの船首−船尾方向)の両端部と中央部とに合計3基が配置され、海面に光を照射することができるようになっている。なお、漁船Sには、この照明器1以外にサンマを集魚するための集魚灯としての各種の照明装置が設備される。
【0026】
照射方向可変機構2は、照明器1のケーシング11,支持アーム12の間に連結されたギア等の回動連係部材21と、回動連係部材21を駆動する駆動モータ22とからなる。この照射方向可変機構2は、照明器1のケーシング11を支持アーム12に対して回動(旋回)させ、照明器1による光の照射域を移動させることができるようになっている。
【0027】
制御部3は、図3に詳細に示されるように、マイクロプロセッサ等の中央制御部31と、中央制御部31に接続され各種のデータ等を記憶するハードディスク等の記憶部32と、中央制御部31に接続され照射方向可変機構2の駆動モータ22の駆動を制御する駆動モータドライバ33と、中央制御部31に接続され照明器1の光源の照明状態を照明器1の電源部(図示せず)との間で制御する制御回路34と、中央制御部31に接続され必要なデータの入力や操作を行う操作入力部35と、中央制御部31に接続され中央制御部31の作業内容等を表示するモニタ部36とを備えている。記憶部32には、照明器1の明るさ,波長や照明器1の光の照射方向(照射方向可変機構2の駆動モータ22の駆動)からなる照明状態を調整する制御内容が記憶されている。記憶部32に記憶されている制御内容としては、少なくとも、光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態と、サンマに忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とが含まれている。操作入力部35は、記憶部32に記憶されている制御内容をモニタ部に36に表示し、記憶部32に記憶されている制御内容に必要な修正等を加えて、中央制御部31に実行を指示することができる。
【0028】
第1例によると、制御部3によって、照明器1に光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態となる集魚灯としての機能とサンマに忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態となる忌避灯としての機能とが備えることができるため、照明器1の構造を簡素化することができる。
【0029】
第1例によるサンマの捕獲では、図1に示す状態の前に、各種の照明装置の点灯切換えや照明操作によってサンマを漁船Sの片側の舷側周りに誘導する。このとき、漁船Sの誘導する舷側から海中に棒受網Nを張設しておく。そして、図1,図2,図4に示す捕獲操業工程の実行によってサンマを捕獲することになる。
【0030】
即ち、漁船Sの片側の舷側周りに誘導されたサンマは、図1(A),図2(A)に示すように、集群して魚群(群)Fを形成して棒受網Nに接近する。このとき、照明器1は、光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態となっている。図面では、照明器1の光の照射を実線の矢印で示している。
【0031】
魚群Fが適正規模(大量のサンマが棒受網Nの内部で圧死,損傷したりする等の不具合が生じない規模)である場合には、そのまま棒受網Nの中央部にまで魚群Fを誘導して捕獲する。魚群Fが適正規模であるか否かについては、捕獲操業作業員の目視または各種検出機器等の使用による検出データの解析に基づいて判断される。
【0032】
また、魚群Fが適正規模を超えている場合には、図1(B),図2(B)に示すように、中央部の照明器1を光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態とし、両端部の照明器1をサンマに忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とする。図面では、両端部の照明器1の光の点滅の照射を破線の矢印で示している。
【0033】
この結果、魚群Fの一部のサンマは、両端部の照明器1の光の点滅の照射から忌避行動をとるとともに中央部の照明器1の光の照射に誘導されて、棒受網Nの中央部にまで到達する。また、魚群Fの他の一部のサンマは、両端部の照明器1の光の点滅の照射から忌避行動をとって、棒受網Nから離れていく。即ち、魚群Fが分断されることになる。
【0034】
棒受網Nの中央部にまで到達したサンマは、捕獲対象となる魚群Fである捕獲魚群Faとなる。分断された捕獲魚群Faは、分断前の魚群Fよりも規模が縮小されている。従って、棒受網Nで捕獲しても、大量のサンマが棒受網Nの内部で圧死,損傷したりする等の不具合が生じることがない。なお、捕獲魚群Faを確実に適正規模にするには、経験則に基づく棒受網Nの大きさ等に対応した3基の照明器1の照明状態の微妙な調整が必要である。
【0035】
棒受網Nから離れていったサンマは、捕獲対象とならない魚群Fである放逐魚群Fbとなる。分断された放逐魚群Fbについては、図2(C)に示すように、放逐魚群Fbの移動に両端部の照明器1の光の点滅の照射を追従させることで、棒受網Nから遠く離れた海域に放逐(分散状態となりつつ)して捕獲魚群Faとの再集群を阻止することができる。照明器1の光の点滅の照射の追従は、照射方向可変機構2の駆動によって保障され、捕獲操業作業員の目視による手動制御や各種検出機器等の使用による検出データの解析に基づく自動制御が実施される。
【0036】
図5は、本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第2例を示すものである。
【0037】
第2例では、魚群Fが適正規模を超えて棒受網Nの中央部に集群してしまった場合(図5(A)参照)の対処が示されている。
【0038】
第2例は、棒受網Nの中央部に集群した魚群Fに対して、図5(B)に示すように、中央部の照明器1を光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態とし、両端部の照明器1をサンマに忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とする。ただし、両端部の照明器1については、照射方向可変機構2によって旋回させて棒受網Nの中央部方向へ点滅の光を照射させる。
【0039】
この結果、第1例と同様に、魚群Fが捕獲魚群Faと放逐魚群Fbとに分断されることになる。
【0040】
放逐魚群Fbについては、第1例と同様に、移動に両端部の照明器1の光の点滅の照射を追従させることで、棒受網Nから遠く離れた海域に放逐して捕獲魚群Faとの再集群を阻止する(図5(C)参照)。
【0041】
図6は、本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第3例を示すものである。
【0042】
第3例では、第2例の対処の応用例が示されている。
【0043】
第3例は、棒受網Nの中央部に集群した魚群Fに対して、図6(A)に示すように、中央部の照明器1をサンマに忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とし、両端部の照明器1を光に対して正の走性を有するサンマを集群させる照明状態とする。その後、第2例の図5(B),(C)に示す操作を行う。
【0044】
第3例によると、一旦分断された魚群Fの一部が再集群することになるが(図6(B参照))、棒受網Nの中央部に集群した魚群Fを2つに確実に分断することができる。
【0045】
図7は、本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第4例を示すものである。
【0046】
第4例では、多数個,多数種類の照明器1を備えてサンマ漁に使用される漁船Sが示されている。
【0047】
第4例は、点灯されている多数個,多数種類の照明器1を右舷の船尾側から順次に消灯させていき、サンマを右舷側から船首を回って左舷側に密に集群するように誘導する漁法に使用されるもので、棒受網Nの上方や付近にも多数個,多数種類の照明器1が配置されている。この多数個,多数種類の照明器1については、必要に応じて第1〜3例の中央部,両端部の照明器1として選択操作することになる。
【0048】
以上、図示した各例の外に、サンマ以外の各種の漁獲対象物に適用することが可能であり、漁具が釣仕掛け等であっても差支えないものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る漁獲方法および照明装置は、淡水域でも実施することができ、漁船ではなく海岸,防波堤等に設備して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第1例の斜視図であり、(A),(B)の順に捕獲操業工程が示されている。
【図2】図1の簡略化した側面図であり、(A)〜(C)の順に捕獲操業工程が示されている。
【図3】図1に設備される要部の制御ブロック図である。
【図4】図1,図2の捕獲操業工程のフローチャートである。
【図5】本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第2例の側面図であり、(A)〜(C)の順に捕獲操業工程が示されている。
【図6】本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第3例の側面図であり、(A)〜(C)の順に捕獲操業工程が示されている。
【図7】本発明に係る漁獲方法および照明装置を実施するための最良の形態の第4例の平面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 照明器
2 照射方向可変機構
3 制御部
F 魚群(群)
Fa 捕獲魚群(捕獲対象とされる群)
Fb 放逐魚群(捕獲対象とされない群)
N 棒受網(漁具,漁網)
S 漁船


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に漁獲対象物を捕獲する漁具を設置し、水面または水中に光を照射して光に対して正の走性を有する漁獲対象物を漁具付近に集群させ、漁具付近に集群した漁獲対象物に漁獲対象物が忌避行動をとる周期の光の点滅を照射して漁獲対象物の群を分断し、分断された漁獲対象物の一部の群を漁具で捕獲する漁獲方法。
【請求項2】
請求項1の漁獲方法において、分断された漁獲対象物の捕獲対象とされない群の移動に漁獲対象物が忌避行動をとる周期の光の点滅の照射を追従させ、分断された漁獲対象物の捕獲対象とされない群を漁具から離れた水域に放逐することを特徴とする漁獲方法。
【請求項3】
水面または水中に光を照射する照明器と、照明器に接続され照明器の照明状態を制御する制御部とを備え、制御部は光に対して正の走性を有する漁獲対象物を集群させる照明状態と漁獲対象物に忌避行動をとらせる周期の点滅の照明状態とが選択可能に設定されている照明装置。
【請求項4】
請求項3の照明装置において、照明器は光の照明方向を変更する照射方向可変機構が付設されていることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−283906(P2008−283906A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132206(P2007−132206)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000151944)株式会社東和電機製作所 (16)
【Fターム(参考)】