説明

漏水補修方法

【課題】簡易な方法で、貯水構造物内に発生した漏水箇所を、貯水構造物内の貯水を抜き取ることなく補修することが可能な漏水補修方法を提供する。
【解決手段】漏水補修方法は、堤防、溜池又は貯水槽等の貯水構造物に生じた漏水箇所を補修するものであり、水硬性粉体10を貯水構造物12内の水に投入する水硬性粉体投入ステップS10と、投入した水硬性粉体10を貯水構造物12内の水底に沈積させる水底沈積ステップS20と、水底に沈積させた水硬性粉体10を所定の期間静置させ養生することにより硬化させて遮水層14を形成する養生ステップS30とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防、溜池又は貯水槽等の貯水構造物に生じた漏水箇所を補修する方法に係り、特に貯水構造物から水を抜き取ることなく簡単に補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震や地盤沈下等によって、堤防、溜池又は貯水槽等の貯水構造物にクラックが生じ、そのクラックから漏水が発生することがある。その場合、一般に、クラックに止水材を注入又は塗布したり、遮水シートを設けたりすることにより漏水箇所を補修している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、漏水箇所の補修にあたっては、通常、その作業上、一旦貯水構造物に貯留される水を抜き取り、漏水箇所となるクラックを水中から気中に露呈させて補修を行うことが多く、工事に手間がかかるとともに、その工事期間中は貯水構造物内に貯水できない。
【0004】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で、貯水構造物内に発生した漏水箇所を、貯水構造物内の貯水を抜き取ることなく補修することが可能な漏水補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明は、堤防、溜池や貯水池等の貯水構造物に生じた漏水箇所を補修する方法であって、
水硬性を有する粉体を、前記貯水構造物内の貯水に投入し、前記貯水構造物内の漏水箇所を含む部位に沈積させ、所定期間養生することにより硬化させて遮水層を形成することを特徴とする(第1の発明)。
【0006】
本発明の漏水補修方法によれば、貯水構造物内の底部に沈積した水硬性の粉体が、水と反応することにより硬化して遮水層が形成され、これにより貯水構造物内の水の漏水箇所への流通を遮断することになるので、漏水が生じなくなる。すなわち、水を抜き取ることなく漏水を補修できることから、工事が簡単に行えるとともに、工事期間中も貯水構造物内に貯水することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記水硬性の粉体として、PFBC灰、又はフライアッシュとセメントとの混合物を用いることを特徴とする。
【0008】
ここで、PFBC灰とは、加圧流動床式複合発電(Pressurized Fluidized Bed Combusion,PFBC)方式の石炭火力発電所から排出される灰であり、フライアッシュとは、石炭火力発電所で微粉炭を燃焼する際に生じる副産物である。
【0009】
すなわち、本発明の漏水補修方法によれば、使用する水硬性の粉体が、PFBC灰やフライアッシュ等の産業廃棄物を主成分としていることから、安価に調達できるとともに、リサイクル製品の積極的使用に貢献することにより環境循環型社会の形成に寄与することができる。
【0010】
第3の発明は、貯水構造物であって、第1又は2の発明の漏水補修方法で漏水補修が施されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な方法で、貯水構造物内に発生した漏水箇所を、貯水構造物内の貯水を抜き取ることなく補修することが可能な漏水補修方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る漏水補修方法の手順を説明するためのフローである。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る漏水補修方法は、堤防、溜池又は貯水槽等の貯水構造物の底部に生じた漏水箇所を補修するものであり、水硬性粉体10を貯水構造物12内の水に投入する水硬性粉体投入ステップS10と、投入した水硬性粉体10を貯水構造物12内の水底に沈積させる水底沈積ステップS20と、水底に沈積させた水硬性粉体10を所定の期間静置させ養生することにより硬化させて遮水層14を形成する養生ステップS30とからなる。
【0014】
水硬性粉体10としては、PFBC灰や、中国電力株式会社製のジオシード(登録商標)を用いることができる。
【0015】
PFBC灰とは、加圧流動床式複合発電(Pressurized Fluidized Bed Combusion,PFBC)方式の石炭火力発電所から排出される灰をいう。
【0016】
また、ジオシードとは、石炭火力発電所で微粉炭を燃焼する際に副産されるフライアッシュと、セメントとを所定の重量比率で混合したものであり、具体的にフライアッシュとセメントとを10:1の重量比率にしたジオシード10や、20:1の重量比率にしたジオシード20等がある。本実施形態では、ジオシード10又はジオシード20のどちらを用いてもよい。
【0017】
水硬性粉体投入ステップS10では、水硬性粉体10を貯水された貯水構造物12内に投入するにあたり、水硬性粉体10が貯水構造物12内の水底に沈積した際に自重で押し固められ、その後硬化した際に遮水層14を形成する程度の厚みとなるような量の水硬性粉体10を投入する。
【0018】
水底沈積ステップS20では、水硬性粉体10を貯水構造物12内に水底に迅速に沈降すべく、貯水構造物12内の貯水を可能な限り攪拌しないようにする。
養生ステップS30では、投入後、水底に沈積させた水硬性粉体10を十分に養生させるために所定の期間(例えば、1〜4週間)静置する。
【0019】
このようにすることで貯水構造物12内の水底部に遮水層14が形成され、これにより貯水構造物12内の水の漏水箇所16への流通を遮断することになるので、漏水が生じなくなる。
【0020】
次に、PFBC灰とジオシードとの強度及び遮水性能の検討を行ったので以下に詳細を説明する。なお、ジオシードには、ジオシード20とジオシード10とを評価に用いた。
【0021】
図2は、水硬性粉体から遮水層となる供試体22を作製するまでの手順を示す工程図である。
【0022】
図2に示すように、市販のポリバケツ18(上端径39cm、下端径30cm、高さ48cm、容量45L、)を用意し、その中に供試体作製用の円筒形の型枠であるモールド20(φ50mm×高さ100mm)を設置し、そのポリバケツ18の中に海水を模した濃度3%の塩水19を、モールド20の上端から5cm上回る高さまで注水する(図2(1)参照、このとき注水された塩水19は24kgであった)。
【0023】
次に、そのポリバケツ18内に試験対象の水硬性粉体10を投入し(図2(2)参照)、その後、所定時間(PFBC灰にあっては6時間程度、ジオシードにあっては24時間程度)静置することにより、水硬性粉体10をポリバケツ18の底部に設置したモールド20内に沈積させる(図2(3)参照)。
【0024】
なお、本検討では、PFBC灰及びジオシードの夫々について、ポリバケツ18への投入量の違いによる2種類の供試体22を作製した。
図3は、PFBC灰又はジオシードのポリバケツ18への投入量をまとめた表である。
【0025】
図3に示すように、PFBC灰については41kg(投入ケース1)と30kg(投入ケース2)、ジオシード20については36kg(投入ケース1)と21kg(投入ケース2)、ジオシード10については36kg(投入ケース1)と22kg(投入ケース2)による供試体22を作製した。すなわち、両者の水硬性粉体10ともに、投入ケース2よりも投入ケース1の方がその投入量が多い。
【0026】
図4は、PFBC灰又はジオシードを、ポリバケツ18内の塩水19中に所定時間沈積させたときの底部に堆積した堆積物の厚さをまとめた表である。
【0027】
図4に示すように、PFBC灰を投入したときの堆積物の厚さは、投入量が投入ケース1(41kg)の場合は45cm、投入ケース2(30kg)の場合は36cmとなり、それら堆積物は上層から10cm程のまでは棒等で容易に押し込める程度の軟らかさであったが、それ以下の層は良く締まった状態であった。
【0028】
また、ジオシード20を投入したときの堆積物の厚さは、投入量が投入ケース1(36kg)の場合は42cm、投入ケース2(21kg)の場合は29cmとなり、またジオシード10を投入したときの堆積物の厚さは、投入量が投入ケース1(36kg)の場合は41cm、投入ケース2(22kg)の場合は26cmとなり、これらジオシード10及び20の堆積物は上層から5cm程のまでは棒等で容易に押し込める程度の軟らかさであったが、それ以下の層は良く締まった状態であった。
【0029】
最後に、ポリバケツ18からモールド20を取り出し、塩水19(濃度3%、20℃)中で所定の期間養生(図2(4)参照)した後、モールド20内に沈積した水硬性粉体をモールド20から脱型することにより、供試体22を作製した(図2(5)参照)。なお、養生期間についても、7日と28日との2種類に分けて供試体22を作製した。
【0030】
そして、このようにして作製された各供試体22について、コンクリートの圧縮強度試験(JIS A1108)、土の一軸圧縮強度試験(JIS A1216)及び透水試験(変水位試験、JIS A1218)を行った。
【0031】
図5は、7日間養生した供試体22の、コンクリートの圧縮強度試験、土の一軸圧縮強度試験、及び透水試験の結果をまとめた表であり、図6は、28日間養生した供試体22の、同試験の結果をまとめた表である。なお、各試験では、投入ケース1又は投入ケース2、もしくは両投入ケースの供試体22を複数用いて試験を行い、それらの平均値を求めた。
【0032】
図5に示すように、7日間養生した供試体22の圧縮強度は、PFBC灰については0.24N/mm、ジオシードについては0.10〜0.38N/mm程度になった。一軸圧縮強度は、PFBC灰については206kN/m程度、ジオシードについては130〜510kN/m程度になった。また、透水係数は、PFBC灰については3.6×10−4cm/s程度、ジオシードについては6.5〜9.6×10−5cm/s程度になった。
【0033】
また図6に示すように、28日間養生した供試体22の圧縮強度は、PFBC灰については1.9N/mm程度、ジオシードについては0.13〜0.59N/mm程度になり、また一軸圧縮強度は、PFBC灰については1600kN/m程度、ジオシードについては140〜800kN/m程度になり、7日間養生したものと比べて強度が増加した。また、透水係数については、PFBC灰が2.5×10−5cm/s程度、ジオシードが2.6〜7.5×10−5cm/s程度になった。
【0034】
図7は、土質による透水係数の帯域を示す図である。
本検討で作製した供試体22の透水係数は、図5及び図6の結果をまとめると、2.5×10−5cm/s〜3.6×10−4cm/s程度であり、図7を参照すれば、透水係数の低い微細砂やシルトに相当する。すなわち、PFBC灰やジオシードを、貯水構造物12に投入することにより、貯水構造物12の底部に発生したクラック16の上方に、ある一定の圧縮強度と、微細砂やシルトと同程度の遮水性とを有する遮水層14が形成されることになり、貯水構造物内の水のクラックへの流通を遮断することになる。
【0035】
以上説明した本実施形態に係る漏水補修方法によれば、PFBC灰やジオシード等の水硬性粉体10を、貯水された貯水構造物12内に投入し(水硬性粉体投入ステップS10)、貯水構造物12内に投入した水硬性粉体10を、貯水構造物12内の底部に沈積させ(水底沈積ステップS20)、貯水構造物12内の底部に沈積させた水硬性粉体10を、所定期間養生して(養生ステップS30)、遮水層14を形成することにより、水硬性粉体10が、貯水構造物12内の水と反応して貯水構造物12内底部で硬化して遮水層14が形成され、これにより貯水構造物12内の水の漏水箇所への流通を遮断することになるので、漏水が生じなくなる。すなわち、水を抜き取ることなく漏水を補修することができることから、工事が簡単に行えるとともに、工事期間中も貯水構造物12内に貯水することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る漏水補修方法によれば、水硬性粉体10として、PFBC灰又はジオシードを用いることにより、PFBC灰やジオシードは産業廃棄物を主成分としていることから、安価に調達できるとともに、リサイクル製品の積極的使用に貢献することにより環境循環型社会の形成に寄与することができる。
【0037】
なお、本実施形態に係る漏水補修方法では、水硬性粉体10として、PFBC灰又はジオシードを用いることとしたが、これに限らず、セメント等の水硬性を有する材料からなる粉体状のものであれば、どのようなものでも用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係る漏水補修方法の手順を説明するためのフローである。
【図2】水硬性粉体から遮水層の供試体22を作製するまでの手順を示す工程図である。
【図3】PFBC灰又はジオシードのポリバケツ18への投入量を示す表である。
【図4】PFBC灰又はジオシードを、ポリバケツ18内の塩水19中に所定時間沈積させたときの底部に堆積した堆積物の厚さをまとめた表である。
【図5】7日間養生した供試体22の、コンクリートの圧縮強度試験、土の一軸圧縮強度試験、及び透水試験の結果をまとめた表である。
【図6】28日間養生した供試体22の、コンクリートの圧縮強度試験、土の一軸圧縮強度試験、及び透水試験の結果をまとめた表である。
【図7】土質による透水係数の帯域を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10 水硬性粉体
12 貯水構造物
14 遮水層
16 クラック(漏水箇所)
18 ポリバケツ
20 モールド
22 供試体
S10 水硬性粉体投入ステップ
S20 水底沈積ステップ
S30 養生ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防、溜池や貯水池等の貯水構造物に生じた漏水箇所を補修する方法であって、
水硬性を有する粉体を、前記貯水構造物内の貯水に投入し、前記貯水構造物内の漏水箇所を含む部位に沈積させ、所定期間養生することにより硬化させて遮水層を形成することを特徴とする漏水補修方法。
【請求項2】
前記水硬性の粉体として、PFBC灰、又はフライアッシュとセメントとの混合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の漏水補修方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の漏水補修方法で漏水補修が施されたことを特徴とする貯水構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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