説明

潜像画像を有する印刷物

【課題】 本発明は、重要書類に偽造及び複製の防止用として施す潜像画像を有する印刷物に関するものである。
【解決手段】 基材上に、第一の画線、第二の要素及び第三の要素を用いて、第一の模様内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、第一の模様は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、第一の潜像模様は、拡散光領域において第一の模様と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで第二の潜像模様との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成し、第一の模様、第一の潜像模様及び第二の潜像模様は、それらを形成する第一画線、第二の要素及び第三の要素を所定の範囲内で面積率を変化させる又は画線幅を一部異ならせて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、債券等の有価証券、商品タグ及び各種証明書及び重要書類に偽造及び複製の防止用として施す潜像画像を有する印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機の高機能化及び高画質化により、銀行券、旅券、有価証券等の貴重印刷物の偽造製品が出回り、深刻な問題となっている。そのため、従来から貴重印刷物には、複写機での色、光沢又は発光等の再現が困難な機能性インキが多く用いられている。機能性インキには、複写機での色又は光沢が再現困難な金インキ、銀インキ又はパールインキ等の金属光沢インキ、赤外線領域において吸収特性を示す赤外線吸収インキ等がある。赤外線吸収インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、赤外線カメラ等の鑑定装置を必要とすることから、鑑定装置がなければ目視で赤外線吸収インキ印刷部を判別することは困難である。反対に、金属光沢インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、光沢や色の変化に留意するだけで良く、誰でも簡単に目視で判別することができる。このことから、多くの貴重印刷物には、異なるインキ特性を有する機能性インキを複数併用して利用されている。
【0003】
例えば、本出願人が先に出願した特許文献1には、二つの異なる画像を同一平面上に網点画像として均等に配置する場合において、一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(Bk)のプロセス基本インキを用いて、可視画像及び潜像画像を生成した網点印刷物が開示されている。一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)は、赤外線を吸収しない。よって、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)を重ね合わせた混色ブラックは、赤外線を吸収することがない。これに対して、ブラック(Bk)は、カーボンブラックを主体としており、紫外線領域から赤外線領域まで全域にわたり吸収を示す。前記作用を用いて、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)及び混色ブラックを用いて所定の配置規則に基づき印刷された網点印刷物は、可視光源下で視認できる可視画像内に、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察可能な潜像画像を埋め込むことができる。前記網点印刷物は、特殊なインキを用いる必要がないため、安価に作製が可能であり、現在の写真製版装置での複製が不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【0004】
また、特許文献2には、一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(Bk)のプロセス基本インキと、更に金属光沢インキを併用した、偽造防止用の印刷物が開示されている。例えば、偽造防止用の印刷物は、第一の領域と、第二の領域及び第三の領域によって拡散光視認画像が形成される。第一の領域は、金属光沢インキによって印刷され、第二の領域は、赤外線透過インキであるシアン(C)、マゼンタ(M)及び/又はイエロー(Y)によって印刷され、第三の領域は、赤外線吸収インキであるブラック(Bk)によって印刷される。偽造防止用の印刷物は、可視光源下の拡散光領域で観察した場合に、第一の領域と、第二の領域及び第三の領域からなる拡散光視認画像が視認され、正反射光領域で観察した場合に、金属光沢インキによって印刷された第一の領域が光沢画像として確認することができる。さらに、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した場合においては、第三の領域が潜像画像として視認することができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、赤外線吸収インキ及び赤外線透過インキを用いて、画線により可視及び潜像画像を生成した、偽造防止印刷物が開示されている。偽造防止印刷物は、第一の画線と第二の画線により構成されている。第一の画線は、赤外線吸収インキにより形成されており、W1及びW2という二つの画線幅を有している。なお、画線幅W1により可視画像を形成している。第二の画線は、赤外線透過インキにより形成されており、W3及びW4という二つの画線幅を有している。なお、画線幅W3により潜像画像を形成している。第二の画線は、第一の画線上に形成し、それぞれの画線幅は、W1>W2 ≧W3>W4という関係にある。さらに、第一の画線及び第二の画線は、可視光源下においては等色に視認されるものとする。
【0006】
可視光源下において、特許文献3の偽造防止印刷物は、第一の画線における画線幅W1により形成された可視画像のみ視認される。さらに、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した場合には、第一の画線は観察することができず、新たに第二の画線における画線幅W3により形成された潜像画像を観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3544536号公報
【特許文献2】特開2007−152805号公報
【特許文献3】特開2008−265189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている網点印刷物及び特許文献3に開示されている偽造防止印刷物では、特殊な網点構成又は特殊な画線構成により、可視光下で認識可能な可視画像と、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて視認可能な潜像画像という二つの画像を安価に作製することが達成できた。しかし、潜像画像は、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いなければ視認できないため、例えば、銀行、入国管理審査等の各種窓口業務における検査担当者は、目視検査による真偽判別を行うことができない問題点があった。そこで、銀行、入国管理審査等の各種窓口業務では、検査担当者が鑑定装置を用いずに、目視によって真偽判別することが可能な技術が付与された偽造防止印刷物が求められている。
【0009】
また、特許文献2に開示されている偽造防止用の印刷物では、第一の領域と、第二の領域及び第三の領域から成る拡散光視認画像が可視光源下で視認され、第一の領域は、金属光沢インキを用いて形成することにより、傾けることで光沢画像が視認され、更には第三の領域は、ブラック(Bk)を用いて形成することにより、赤外線カメラ等の鑑定装置で潜像画像が視認される。このように、偽造防止用の印刷物は、異なる観察条件で三つの画像が変化するものである。しかしながら、特許文献2の偽造防止用の印刷物は、特殊な網点構成の特許文献1とは異なり、それぞれのインキを入手することで、インクジェット印刷等で模倣品を作製される可能性がある。また、偽造防止用の印刷物は、三つの画像を同一領域に重なるようなデザインで作製することが困難であり、デザイン上の制約をうけるという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献1に開示されている網点印刷物は、網点構成によって作製されていることから、一般的に使用されているカラープリンタ、インクジェットプリンタ等を用いて簡易に作製することができるというメリットがある。しかし、版面を用いずに作製できるため、特殊な網点構成をスキャナやカラーコピー機を用いて分析された際には、同じ網点構成の印刷物を模倣される恐れがある。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(Bk)のインキと、観察角度によって周囲の印刷領域との色差ΔEが変化する材料を用いて、目視及び鑑定装置による真偽判別することが可能である。つまり、通常の状態(拡散光領域)、観察角度を異ならせた状態(正反射光領域)及び赤外線領域と、複数の条件下で異なる画像を出現させ、かつ、それぞれがデザイン上の制約を受けることの無い潜像画像を有する印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域は第一の画線、第二の要素及び第三の要素から成り、第一の画線、第二の要素及び第三の要素を用いて、第一の模様内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされて第一の模様が形成され、第二の要素は、第一の画線内に重畳して複数配置され、第二の要素は、拡散光領域において第一の画線及び第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、第二の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて第一の潜像模様が形成され、第三の要素は、第二の要素内に重畳して複数配置され、第三の要素は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで第二の要素との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成され、第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて第二の潜像模様が形成され、第一の模様は、可視光源下において視認可能な模様であり、第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な画像であり、第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで視認可能な模様であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域は第一の画線、第二の要素及び第三の要素から成り、前記第一の画線、前記第二の要素及び前記第三の要素を用いて、第一の模様内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、前記基材は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料を用いて形成され、前記基材上に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、前記基材を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が所定の値変化させない隠蔽材料を用いて隠蔽領域が形成され、前記隠蔽領域は、前記基材を隠蔽する隠蔽材料を施す領域及び前記基材を一部露出させる隠蔽材料を施さない領域から成り、前記隠蔽材料を施す領域上に、前記第一の画線及び前記第二の要素が配置され、前記第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、前記第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、前記第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされて前記第一の模様が形成され、前記第二の要素は、前記第一の画線内に重畳して複数配置され、前記第二の要素は、拡散光領域において前記第一の画線及び前記第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、前記第二の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて前記第一の潜像模様が形成され、前記第三の要素は、前記第二の要素内に複数配置され、前記第三の要素及び前記隠蔽材料を施さない領域は、同じ位置に配置され、前記第三の要素は、赤外線吸収色素を含む材料及び前記赤外線吸収色素を含まない材料いずれも配置されず、かつ、前記隠蔽材料を施さない領域と同じ大きさ及び同じ形状に配置され、前記隠蔽材料を施さない領域を介して、前記基材を一部露出させることで前記第三の要素が形成され、前記第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて前記第二の潜像模様が形成され、前記第一の模様は、可視光源下において視認可能な模様であり、前記第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な画像であり、前記第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで前記第二の要素及び前記第三の要素との色差ΔEが所定の値変化し視認可能となる模様であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物において、第二の要素及び第三の要素は、画線であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至3いずれか記載の潜像画像を有する印刷物において、第二の要素及び第三の要素が画線の場合、第一の画線、第二の要素及び第三の要素は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物において、第二の要素及び第三の要素は、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群であること特徴とする。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物において、複数の第二の要素は、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか一つから成り、複数の第三の要素は、第二の要素を形成する画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群以外の画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか一つから成ることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7記載の発明は、請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物において、複数の第二の要素及び複数の第三の要素は、複数の要素の中の一つの要素において、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか二種類以上を組み合せて成ることを特徴とする。
【0019】
また、請求項8記載の発明は、基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域は第一の画線、第二の画線及び第三の要素から成り、第一の画線、第二の画線及び第三の要素を用いて、可視画像内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされ、第二の画線は、少なくとも一部が第一の画線内に重畳して、第一の方向とは異なる第二の方向に、第一のピッチと同一ピッチで複数配置され、第二の画線は、拡散光領域において第一の画線及び第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、第二の画線において、画線幅が一部異なることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて第一の潜像模様が形成され、第三の要素は、第二の画線内に重畳して複数配置され、第三の要素は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成され、第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて第二の潜像模様が形成され、第一の模様部及び第二の模様部は、形状及び大きさが等しく、複数配置された第一の画線及び複数配置された第二の画線が重畳されて、第一の模様部と第二の背景部及び第一の背景部と第二の模様部の濃度が等しい可視画像を形成し、可視画像は、可視光源下において濃度が均一に視認可能な画像であり、第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な模様であり、第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化することで視認可能な模様であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の潜像画像を有する印刷物において、第一の画線及び第二の画線は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする。
【0021】
また、請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物において、第三の要素は、画線であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項11記載の発明は、請求項8乃至10のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物において、第三の要素が画線の場合、第一の画線、第二の画線及び第三の要素は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする。
【0023】
また、請求項12記載の発明は、請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物において、第三の要素は、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群であること特徴とする。
【0024】
また、請求項13記載の発明は、請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物において、第三の要素は、各要素において、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群の二種類以上を組み合せて成ることを特徴とする。
【0025】
また、請求項14記載の発明は、請求項1乃至13のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物において、第二の要素又は第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料とは、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域における第二の要素又は第二の画線との色差ΔEに対し、正反射光領域における前記第二の要素又は第二の画線との色差ΔEが、5以上変化する材料であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項15記載の発明は、請求項1乃至14のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物において、第二の要素又は第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料とは、光輝性材料であることを特徴とする。
【0027】
また、請求項16記載の発明は、請求項1乃至15のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物において、光輝性材料が、金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の潜像画像を有する印刷物は、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像模様が視認でき、更に赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した際には第一の潜像模様が視認可能となる。つまり、一つの印刷物において、観察条件の異なる三つの画像を形成することが可能となり、簡易な手法による真偽判別と、鑑定装置を用いた真偽判別の二重確認を行うことが可能となる。よって、銀行、入国管理審査等の各種窓口業務における検査担当者は、目視検査による真偽判別と、鑑定装置による真偽判別が可能となる。
【0029】
また、従来の画線構成に第三の画線を組み込んだことで、更に複雑な画線構成となり、より模倣品を作製することができず偽造防止効果が高い。
【0030】
さらに、本発明により得られる印刷物は、特殊な画線構成により形成しているため、従来の観察条件の異なる三つの画像を、ベタ画像として重畳して作製したものとは異なり、それぞれの画像に大きさの制限がなく、デザイン上の制約を受けることが無い。また、版面を用いて、本発明の特殊な画線構成を作製した際には、仮に、スキャナやカラーコピー機を用いて分析された際でも、同じ画線構成の模倣品を簡易に作製することができず、偽造防止効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかわる潜像画像を有する印刷物を示す平面図及び模式図の一例。
【図2】本発明にかかわる画線及び要素の一例を示す図
【図3】本発明に関わる所定の範囲内で面積率を変化する一例を示す図。
【図4】本発明にかかわる基材(1)自体に第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いた模式図及び断面図。
【図5】本発明にかかわる白インク及びマゼンタインクの分光透過率の一例を示すグラフ。
【図6】本発明にかかわる基材(1)、金属粉インキ及び赤外線吸収色素を含むインキの分光反射率の一例を示すグラフ。
【図7】本発明にかかわる印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)に対して観察角度を拡散光領域及び正反射光領域で観察した際の可視光源(R)、視点(E1、E2)及び印刷物(S)の三つの位置関係を示した図。
【図8】本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEを示すグラフ。
【図9】本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEを示すグラフ。
【図10】本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図。
【図11】本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、赤外線光源(K)下において、赤外線表示装置などの装置を介して観察した場合の平面図及び模式図。
【図12】本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図。
【図13】本発明にかかわる第一の要素構成の変形例を示す模式図。
【図14】本発明にかかわる本要素構成の第二実施形態を示す平面図及び模式図。
【図15】本発明にかかわる図1(a)に示した、画像(2)を形成する本要素構成の第三実施形態を示す平面図及び模式図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他色々な形態が実施可能である。
【0033】
図1は、本発明にかかわる潜像画像を有する印刷物(以下「印刷物」とする。)を示す平面図及び模式図の一例である。図1(a)に示すように、本発明の印刷物(S)は、紙、プラスチックカード等の基材(1)上の少なくとも一部の印刷領域に、可視画像(2)が印刷により形成されている。なお、この可視画像(2)と印刷領域は同一領域な為、以下印刷領域は省略する。可視画像(2)は、一般的に用いられるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(Bk)のインキと、更に観察角度によって、周囲の領域と色差ΔEが変化する材料を形成している。可視画像(2)は、本出願人が特開2008−265189号公報にて提案した同一平面上に画線で構成された二つの画像を、特殊な画線構成によって、互いに重畳して配置した偽造防止印刷物を一部利用することにより生成される。なお、特殊な画線構成及び色差ΔEが変化する材料については、後述する。
【0034】
図1(a)に示した可視画像(2)には、第一の模様(2a)、潜像画像である第一の潜像模様(7a)及び第二の潜像模様(8a)が埋め込まれている。可視画像(2)に各模様を埋め込むことで、可視光源下において、第一の模様(2a)が視認されるが、異なる所定の視認条件下においては、その所定の視認条件毎に異なる模様を視認することが可能となる。図1(a)に示した本発明の印刷物(S)は、図1(b)に示す本要素構成により、可視光源下における通常の視認条件(第一の視認条件)と、可視光源下において基材(1)を傾けるという視認条件(第三の視認条件)と、赤外線光源下において観察するという視認条件(第二の視認条件)により、それぞれ異なる模様を視認することができる。
【0035】
図1(a)に示した、印刷物(S)は、可視光源下における拡散光領域で観察した際には、図1(c1)に示すように、第一の模様(2a)を視認することが可能である。また、可視光源下において、基材(1)を傾ける、つまり、図1(a)に示した印刷物(S)を、可視光源下における正反射光領域で観察した際には、図1(c3)に示すように、第二の潜像画像(8)内に文字や顔画像等から構成された第二の潜像模様(8a)を視認することが可能である。さらに、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した際には、図1(c2)に示すように、第一の潜像画像(7)内に文字や顔画像等から構成された第一の潜像模様(7a)を視認することが可能となる。このように、図1(a)に示した可視画像(2)は、三つの異なる模様を有している。なお、この視認原理については、後述する。
【0036】
(本発明における本要素構成の第一実施形態)
図1(b)は、本要素構成の第一実施形態を示す模式図である。図1(b)に示すように、可視画像(2)は、基材(1)上に、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)により形成されている。
【0037】
第一の画線(3)は、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置されている。第一の画線(3)内には、第二の要素(4)が重畳して配置されている。さらに、第二の要素(4)内には、第三の要素(5)が重畳して配置されている。可視画像(2)は、それぞれの画線及び要素を、所定の範囲内で画線幅又は面積率を変化することで形成されている。なお、可視画像(2)における第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の配置個所は、これに限定されるものではなく、この形態の態様については後述する。
【0038】
本発明において要素とは、画線、網点及び画素である。図2は、画線及び要素の一例を示す図である。画線とは、例えば図2(a)に示す直線、図2(b)に示す破線、図2(c)に示す波線、図2(d)に示す破線状の波線であり、画線幅の太細により印刷部の濃淡を再現する。画線幅は、一般的に30〜1000μmが用いられる。網点とは、網目スクリーン、コンタクトスクリーン等により、印刷物上に構成された点であり、この点の大小により印刷物の濃淡を再現する。網点形状は、円形ドットに限定されるものではなく、ランダムドットや本出願人が先に出願した特開平11−268228号公報で提案している特殊網点生成法を用いて意匠性を加味した入力画像を網点(ハーフトーンスクリーン)から成る連続階調網点に変換した自由度のある特殊網点形状を用いても良い。
【0039】
画素とは、図形、文字等の二次元画像を縦横の線で分割し、分割した最小単位のことである。画素形状としては、例えば、図2(e)に示すような円形状、図示していないが楕円形状、図2(e)に示す長方形状、図2(g)に示す三角形状等の多角形状としてもよい。また、画素は図2(g)に示すように、角度を回転させて配列しても良い。さらには、図2(h)に示すように文字形状としてもよい。その際には、偽造防止効果を高めるために図2(h)のように、文字書体を異ならせて配列しても良い。
【0040】
さらに、図2(h)に示した文字形状は、一般的に微小文字又は特殊網点と呼ばれるが、本発明においては画素とする。また、図2(i)に示すように、波線と破線状の波線のように、二種類以上の画線を組み合わせたり、図2(j)に示すように文字形状、円形状、長方形状など、二種類以上の画素を組合せたりしても良い。さらには、図2(a)から図2(j)に示した、網点群及び画素群のいずれか二種類以上を組合せて構成してもよい。なお、第一実施形態については要素を画線として説明する(以下、「第一の要素構成」とする)。
【0041】
図3は、所定の範囲内で面積率を変化する一例を示す図である。図3(a)に示すように、画線を所定の範囲内で面積率を変化するとは、画線を所定の範囲(L1)において、画線幅を異ならせることをいう。また、図3(b)に示すように、網点を所定の範囲内で面積率を変化するとは、網点を所定の範囲(L1)において、網点の大きさを異ならせることをいう。さらに、図3(c)に示すように、画素を所定の範囲内で面積率を変化するとは、画素を所定の範囲(L1)において、画素数を変化させることをいう。なお、第一の要素構成については要素を画線として説明することから、所定の範囲内で面積率を変化するとは、画線を所定の範囲において、画線幅を異ならせることとする。
【0042】
図1(c1)は、画像(6)及び第一の画線(3)の一例を示す図である。第一の画線(3)は、複数配置されることで、可視光源下における拡散光領域において視認可能な画像(6)を形成する。画像(6)は、第一の画線(3)を、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置することで形成されている。画像(6)は、第一の画線(3)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W1)と最小画線幅(W2)に一部異ならせることにより、第一の模様部(3a)と第一の背景部(3b)に区分けされる。第一の模様部(3a)は、「A」という形状の第一の模様(2a)を形成する領域であり、第一の背景部(3b)は第一の模様(2a)の背景を形成する領域である。
【0043】
第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まない材料によって形成する。第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まない材料によって形成することで、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置を用いて観察した場合においては、第一の模様(2a)を視認することができなくなる。
【0044】
なお、赤外線吸収色素を含まない材料には、赤外線吸収特性を有さなければ特に限定されず、公知のグラビアインキ、スクリーンインキ、プロセスインキ等を使用することができる。例えば、基本4色インキのうち、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)は、赤外線を吸収しない性質を持っており、これら3色を重ね合わせたもので黒色系を表現すれば赤外線を吸収しない色素と同様な効果が得られる。又はクロモファインブラックインキ(大日精化工業株式会社製)やインクジェットプリンタ用の染料系インク(例えば、Canon製染料系ブラックインク等)を使用することもできる。
【0045】
第一の要素構成においては、第一の画線(3)内に第二の要素(4)が構成され、更に第二の要素(4)内に第三の要素(5)が構成されている。第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、可視光源下における拡散光領域において等色に視認されることで、第一の画線(3)のみ視認可能となる。それにより、可視光源下における拡散光領域において、肉眼では第一の画線(3)から成る第一の模様(2a)のみが視認可能となる。
【0046】
本発明における等色とは、色差ΔEが6未満のことを指す。一般的に色差ΔEが6前後においては、異なって視認される可能性がある。ただし前述のとおり本発明においては、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、肉眼ではそれぞれの領域を区別して視認することが出来ない画線幅により構成している。そのことから、前述の通り色差ΔEが6未満であれば、可視光源下の拡散光反射領域において、肉眼で第三の要素(5)を視認することが出来ず、かつ、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色として視認される。
【0047】
なお、メタメリズムの関係により、可視光源下の拡散光領域において観察した際に、肉眼で等しい色に視認された色が、特定の光源下の拡散光領域において観察した際に、異なる色で視認された場合においても、本発明においては、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色に形成されているとする。
【0048】
図1(c2)は、第一の潜像画像(7)及び第二の要素(4)の一例を示す図である。第二の要素(4)は、図1(c2)に示した、赤外線光源下において視認可能な第一の潜像画像(7)を形成する領域である。第二の要素(4)は、第一の画線(3)内に重畳して配置されている。第一の潜像画像(7)は、第二の要素(4)を、第一の方向(X)と同じピッチ(d1)で複数配置することで形成されている。第一の潜像画像(7)は、第二の要素(4)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W3)と最小画線幅(W4)に変化させることで、第二の模様部(4a)と第二の背景部(4b)に区分けされる。第二の模様部(4a)は、「B」という形状の第一の潜像模様(7a)を形成する領域であり、第二の背景部(4b)は第一の潜像模様(7a)の背景を形成する領域である。
【0049】
図1(b)は、前述した第一の画線(3)、第二の要素(4)及び後述する第三の要素(5)を、印刷物(S)上で刷り重ねた状態を示したものである。第二の要素(4)の最大画線幅(W3)は、第一の画線(3)の最小画線幅(W2)以下となっている。それにより、第二の要素(4)は、第一の画線(3)内における第一の模様部(3a)及び第一の背景部(3b)いずれにおいても配置することが可能である。
【0050】
第二の要素(4)は、拡散光領域において第一の画線(3)及び第三の要素(5)と等色であり、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成する。それにより、可視光源下の拡散光反射領域において、肉眼で第二の要素(4)を視認することが出来ず、かつ、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色として視認される。
【0051】
図1(c3)は、第二の潜像画像(8)及び第三の要素(5)の一例を示す図である。第三の要素(5)は、複数配置されることで、可視光源下において基材(1)を傾けることで視認可能な第二の潜像画像(8)を形成する。第三の要素(5)は、第二の要素(4)内に、重畳して配置されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)を、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)と同じピッチで複数配置することで形成されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W5)と最小画線幅(W6)に変化させることで、第三の模様部(5a)と第三の背景部(5b)に区分けされる。第三の模様部(5a)は、「C」という形状の第二の潜像模様(8a)を形成する領域であり、第三の背景部(5b)は第二の潜像模様(8a)の背景を形成する領域である。
【0052】
なお、第二の潜像画像(8)においては、第三の背景部(5b)を設けず、第三の模様部(5a)のみで形成することも可能である。ただし、後述するように拡散光領域において、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、肉眼において等色に視認されるが、後述する色差ΔEは1.16〜1.19を示す。そのため、第三の背景部(5b)を設けない場合には、第二の潜像画像(8)は、第三の模様部(5a)のみで形成されるが、可視画像(2)内において、第一の潜像画像(7)と第二の潜像画像(8)の大きさに差が発生する場合があり、それにより、拡散光領域においても、肉眼で第二の要素(4)及び第三の要素(5)を識別できる可能性がある。そのため、第三の模様部(5a)の隠蔽性をより高めるためには、第三の背景部(5b)を設けることが好ましい。
【0053】
図1(b)は、前述した第一の画線(3)、第二の要素(4)及び後述する第三の要素(5)を、印刷物(S)上で刷り重ねた状態を示したものである。第三の要素(5)の最大画線幅(W5)は、第二の要素(4)の最小画線幅(W4)以下となっている。それにより、第三の要素(5)は、第二の要素(4)内における第二の模様部(4a)及び第二の背景部(4b)いずれにおいても配置することが可能である。
【0054】
第三の要素(5)は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成する。本発明における色差は、CIE1976L表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L表色系での色差は、二色のLの差、aの差、及びbの差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。
【0055】
色差ΔEが変化するとは、例えば定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料を用いて印刷インキを作製し、紙等の基材上に印刷部として付与して印刷物Aを作製する。同様に定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化しない材料を用いて印刷インキを作製し、前述の紙等の基材上に印刷部として付与して印刷物Bを作製する。印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEがXとする。次に、印刷物A及び印刷物Bを定位置に設置した照明光源下において、観察角度を変化させたのち、再度、印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEを測定する。その測定した際の色差ΔEが前述したXとは異なる値であるならば、色差ΔEが変化したことになる。前述のとおり、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料であるならば、その材料は観察角度によって色差ΔEが変化する材料となる。
【0056】
本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において受光角度が35〜55°となる領域のことを指す。なお、色差ΔEが所定の値変化する原理については、後述する。
【0057】
観察角度によって、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料には、例えば、光輝性材料がある。光輝性材料とは、金属粉インキ、フォイル(金属箔)、金属蒸着により基材(1)上に形成したもの、金属、金属光沢調フィルム等がある。金属粉インキとは、一回の印刷で金属色を示すインキである。金属粉インキは、ビヒクルに微細な金属粉を混和して作製する。金属粉インキには、金インキ及び銀インキがある。金インキとは、ビヒクルに微細な黄銅粉末を混和して作製したインキであり、銀インキとは、ビヒクルに微細なアルミニウム粉末を混和して作製したインキである。金インキのみを用いて印刷を施した印刷物は、可視光源下の拡散光領域においては肉眼で第二の潜像模様(8a)を視認することが出来ず、反対に、可視光源下の正反射光領域においては、肉眼で光輝性を有する金色として視認される。また、銀インキのみを用いて印刷を施した印刷物は、可視光源下の拡散光領域においては肉眼で光輝性(光沢)を視認することが出来ず、濃度のみが視認され、可視光源下の正反射光領域においては肉眼で光輝性を有する銀色として視認される。
【0058】
また、金属粉インキの代わりにフォイル(金属箔)により第三の要素(5)を形成してもよい。フォイルとしては、金箔や銀箔などがある。フォイルは、ホットスタンプ方式又はコールドフォイル方式により基材上へ付与する。ホットスタンプ方式は、シート状のフォイルを基材に重ね、高温の金属刻印で加圧して基材に箔押しする方式である。また、コールドフォイル方式は、基材に接着剤を塗布し、シート状のフォイルを基材に重ね、加圧して箔を転写する方式である。
【0059】
フォイル(金属箔)の代わりに金属蒸着によりアルミ等を基材(1)上に形成したもの(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg等)でもよい。また、基材(1)自体をステンレスやアルミ等の金属としてもよい。さらに、基材(1)に金属光沢調フィルム(東レ株式会社製、PICASUS等)を用いても良い。金属光沢調フィルムとは、異種ポリマーを多層積層し形成した、ポリエステルフィルムであり、金属を使用せずに金属調の光沢を得ることが可能な材料のことである。
【0060】
また、第三の要素(5)については、前述のとおり、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて印刷インキ、フォイル等を作製し、その印刷インキ、フォイル等を用いて、基材(1)上に、第三の要素(5)を形成すること等で説明したが、別の態様として、基材(1)自体に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料を用いても良い。例えば、光輝性材料を用い、その基材(1)の上に、第三の要素(5)に該当する箇所のみを除いた全領域に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、基材(1)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色差ΔEが所定の値変化させない隠蔽材料(以下、「隠蔽材料」とする)を印刷する。それにより得られる印刷物は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射領域へと変化させることにより、後述する隠蔽材料を施さない領域(W’)を介して、基材(1)である光輝性材料を一部露出させることにより形成された第三の要素(5)と、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化することで、第二の潜像画像(8)が視認可能となる。つまり、基材(1)自体に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料とは、印刷物となった際に、第二の要素(4)と、第三の要素(5)との色差ΔEが所定の値変化する材料のことである。
【0061】
なお、第二の要素(4)において、第三の要素(5)は印刷を行わない、所謂、第二の要素(4)において第三の要素(5)をくり抜いた状態とする。そうすることで、第三の要素(5)は、隠蔽材料が印刷されていない領域を介して、基材(1)の光輝性を確認できることとなり、結果的には、第三の要素(5)は、光輝性材料により形成されていることとなる。
【0062】
その構成を図示したものが、図4である。図4(a)に示すように、光輝性の基材(1)上に、隠蔽材料による隠蔽領域(W)を形成し、その上に、本発明の要素構成を印刷インキにより形成する。ただし、第三の要素(5)については、赤外線吸収色素を含む材料及び赤外線吸収色素を含まない材料いずれも配置しない。併せて、第三の要素(5)と重なる部分の、隠蔽領域(W)の一部は、隠蔽材料を施さない領域(W’)とする。
【0063】
隠蔽材料は、白インキ、マットインキ(マットタイプのOPニス)等を用いることが可能だが、赤外線吸収色素を含まず、かつ、基材(1)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色差ΔEが所定の値変化させない材料であればこれに限定されない。なお、白インキには、オフセット印刷用UVインキとしてDIC株式会社製 ダイキュアRTX 白、インクジェット印刷用UVインクとして東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト等がある。
【0064】
図4(a)において、Y1−Y2における断面図を示すのが図4(b)である。図4(a)に示すように、本発明の要素構成を形成している印刷層において、第三の要素(5)は、何も印刷されておらず、同時に、隠蔽領域(W)においても、一部が隠蔽材料を施さない領域(W’)となっており、第三の要素(5)と隠蔽材料を施さない領域(W’)が同じ位置に配置されていることにより、実際の印刷物としては、第三の要素(3)は、隠蔽材料を施さない領域(W’)を介して、基材(1)である光輝性材料を一部露出させることにより形成されている。つまり、第三の要素(3)を光輝性材料で形成した場合と同じとなる。
【0065】
なお、隠蔽材料を光輝性の基材(1)の上に印刷するのは、第三の要素(5)以外の本発明の要素構成によって形成される第一の模様(2a)の視認性に影響を与えないために、光輝性を隠蔽する役割を担っているからである。
【0066】
また、赤外線吸収色素を含まない隠蔽材料を用いるのは、本発明の要素構成によって形成される第一の潜像画像(7)の視認性に影響を与えないためである。赤外線吸収色素を含む隠蔽材料を用いた場合には、本発明の要素構成により得られた印刷物を赤外線光源下において観察した際、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、全て濃度が高く(黒っぽく)観察される。そのため、第二の要素(4)を、他の要素及び画線と識別することができず、その結果、赤外線光下において観察可能な第一の潜像画像(7)を、視認することができなくなる。
【0067】
さらに、隠蔽材料により形成された隠蔽領域(W)は、赤外線領域での透過率が80%以下であることが好ましい。隠蔽領域(W)の赤外線領域での透過率が80%以上となった場合には、本発明の網点構成により得られた印刷物を赤外線光源下において観察した際、基材(1)を隠蔽する隠蔽領域(W)が透過し、第一の画線(3)は、全て透過し基材(1)が観察されるため、濃度が高く(黒っぽく)観察される。そのため、第二の要素(4)を、他の領域と識別することができず、その結果、赤外線光下において観察可能な第一の潜像画像(7)を、視認することができなくなり好ましくない。
【0068】
図5は、本発明にかかわる白インク及びマゼンタインクの分光透過率の一例を示すグラフである。図5(a)は、本発明における隠蔽材料の分光透過率であり、測定サンプルとして白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムにベタ印刷を施したものを用いた。図5(b)は本発明における隠蔽材料の分光透過率であり、測定サンプルとして白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムに図5(a)に示したサンプルに対し印刷濃度を下げて印刷を施したものを用いた。
【0069】
図5(c)は、本発明における赤外線吸収色素を含まない材料の分光透過率であり、測定サンプルとしてマゼンタインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 マゼンタ)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムにベタ印刷を施したものを用いた。なお、図5に示した分光透過率は、各測定サンプルの分光透過率から、基材であるPETフィルム単体の分光透過率を除算したものを示しており、分光透過率は、自記分光光度計(HITACHI製、U−4000形)を用いて測定した。
【0070】
760〜800nmの赤外線領域において、分光透過率の変化をそれぞれ比較すると、隠蔽材料(a)における分光透過率は、いずれの領域においても50%程度とほぼ一定である。印刷濃度を下げて印刷した隠蔽材料(b)における分光透過率は、赤外線領域において80%程度とベタ印刷した隠蔽材料(a)と比べると高い値となっている。赤外線吸収色素を含まない赤外線透過材料(c)は、赤外線領域においては、95%程度とベタ印刷した白インク(a)及び印刷濃度を下げて印刷した白インク(b)に比べ、高い値となっている。なお、同一の波長においては、赤外線吸収色素を含まない材料の場合、分光透過率が低い方が、濃度が高く(白っぽく)視認され、反対に分光透過率が高い方が、濃度が低く(透明っぽく)視認される。なお、赤外線カメラを用いて観察した際には、隠蔽材料(a)は白く、印刷濃度を下げて印刷した隠蔽材料(b)は淡い白に、また赤外線透過材料(c)はほぼ透明に観察された。
【0071】
また、基材(1)自体を光輝性材料により形成することでも良いが、紙等の基材(1)全面に金属粉インキやフォイル(金属箔)を形成しても良い。
【0072】
以上のとおり、本発明における第三の要素(5)については、光輝性材料、具体的には、金属粉インキ、フォイル(金属箔)等により形成しても良く、また、基材(1)自体を光輝性材料により形成又は基材(1)上に光輝性材料を形成し、その光輝性材料の上に、第三の要素(5)の部分だけを除いて隠蔽材料による隠蔽層を形成することにより、第三の要素(5)を実質上基材(1)の光輝性材料により形成しても良い。それにより得られた図4に示す印刷物は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射領域へと変化させることにより、隠蔽材料を施さない領域(W’)を介して、基材(1)である光輝性材料を一部露出させることにより形成された第三の要素(5)と、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化することで、第二の潜像画像(8)が視認可能となる。なお、以降については、基材(1)自体に光輝性材料を用いて第三の要素(5)を形成する態様ではなく、第三の要素(5)自体を第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料、具体的には光輝性材料により形成する例により説明する。
【0073】
なお、後述する第一の要素構成の変形例及び第二の要素構成においても、同様に光輝性の基材(1)上に、隠蔽材料による隠蔽領域(W)を形成し、その上に、本発明の要素構成を印刷インキにより形成することが可能であることは言うまでも無い。
【0074】
図6は、本発明にかかわる基材(1)、金属粉インキ及び赤外線吸収色素を含むインキの分光反射率の一例を示すグラフである。図6における(a)は、本発明における基材(1)の分光反射率であり、測定サンプルとしてインクジェットプリンタ用写真用紙(EPSON製 写真用紙<光沢>)を用いた。(b)は、本発明においける第三の要素(5)の分光反射率であり、測定サンプルとして、金属粉インク(日本ペイント株式会社製、金コロイドインク)を用いてインクジェット印刷によりベタ印刷を施したものを用いた。(c)は、本発明における第二の要素(4)を形成する材料の一例として、赤外吸収色素を含む材料の分光反射率であり、カーボンブラック(EPSON製 マットブラック)を用いてインクジェット印刷によりベタ印刷を施したものを用いた。なお、分光反射率は、自記分光光度計(HITACHI製、U−4000形)を用いて測定した。
【0075】
400〜760nmの可視光領域と、760〜800nmの赤外線領域において、分光反射率の変化をそれぞれ比較すると、写真用紙(a)における分光反射率は、いずれの領域においても90%前後とほぼ一定である。金属粉インク(b)における分光反射率は、可視光領域、赤外線領域、いずれの領域においても写真用紙(a)と比べると低く、赤外線領域においては、金属粉インク(b)も50%前後と写真用紙(a)に比べ、低い値となっている。赤外線吸収インク(c)は、いずれの領域においても10%前後とほぼ一定であり、赤外線領域においては、写真用紙(a)に比べ、低い値となっている。なお、同一の波長においては、分光反射率が高い方が、濃度が低く(白っぽく)視認され、反対に分光反射率が低い方が、濃度が高く(黒っぽく)視認される。なお、赤外線カメラを用いて観察した際には、写真用紙(a)は白く、金属粉インク(b)はグレーに、また赤外線吸収インク(c)は黒く観察された。
【0076】
第三の要素(5)を、可視光源下の拡散光領域において第一の画線(3)及び第二の要素(4)と等色の材料を用いて形成することで、可視光源下の拡散光領域においては、肉眼で第二の潜像画像(8)を視認することができない。しかし、第三の要素(5)は、可視光源下の正反射光領域において、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化することにより、第二の潜像模様(8a)を視認することが可能となる。
【0077】
また、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置を用いて赤外線領域で観察した場合においては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、基材(1)に比べいずれも濃度が高く(黒っぽく)視認される。つまり、赤外線領域においては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は識別することができないので、第二の潜像画像(8)を視認することが出来ないとともに、第一の潜像画像(7)は、一様な濃度を有する画線が、画線群となり形成された画像して視認される。
【0078】
赤外線吸収色素を含む材料には、カーボンブラックを主体としたブラック(Bk)がある。ただし、赤外線吸収特性を有する材料であればこれに限定しない。第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、印刷物(S)上に重畳又は毛抜き合わせにより形成することが可能であるが、本発明においては重畳により形成することが好ましい。毛抜き合わせにより形成した際には、高い刷り合せ精度が要求される。刷り合わせ精度が低い際には、それぞれの画線又は要素の周囲に被印刷部が発生する。それにより、可視光源下における拡散光領域おいては第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色とはならず、肉眼で第一の潜像模様(7a)及び第二の潜像模様(8a)が視認可能となる恐れがある。さらに、赤外線領域で観察した場合において、前述した被印刷部は赤外線を透過する。それにより、被印刷部は濃度が低く視認されるため、赤外線領域において第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、一様な濃度を有するベタ領域とはならず、第二の潜像模様(8a)が観察可能となる恐れがある。
【0079】
(本発明における画像の視認原理)
可視光源下の拡散光領域において、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、等色で視認されることで、肉眼では第一の潜像画像(7)及び第二の潜像画像(8)を視認できず、反対に可視光源下の正反射光領域においては、肉眼で第二の潜像画像(8)を視認可能となるように構成する。一般的に物体の色は、光源、観察環境(温度)、物体の分光反射率等により決定される。これらの観察条件により視認する色の感じ方はそれぞれ異なるが、本発明において観察条件は、一定の条件(例えば、観察条件:光源がD65で観察環境が20℃など)であるものとする。
【0080】
図7は、本発明にかかわる印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)に対して観察角度を拡散光領域及び正反射光領域で観察した際の可視光源(R)、視点(E1、E2)及び印刷物(S)の三つの位置関係を示した図である。可視光源(R)と視点(E1)と印刷物(S)が図7(a)に示す位置関係にあるとき、拡散光領域で観察したことになる。また、可視光源(R)と視点(E2)と印刷物(S)が図7(b)に示す位置関係にあるときは、正反射光領域で観察したことになる。
【0081】
次に、観察角度の変化により、第二の要素(4)と第三の要素(5)の色差ΔEが所定の値変化する原理について説明する。前述のとおり、本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において受光角度が35〜55°となる領域のことである。印刷物(S)において、第二の要素(4)と第三の要素(5)は、図7(a)に示す拡散光領域を意味する位置関係では等色であり、肉眼ではそれぞれの領域を区別して視認することができず、画像(6)のみ視認される。
【0082】
反対に、図7(b)に示す正反射光領域において、第三の要素(5)は、観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料を用いて形成しているので、観察角度を定位置の照明光源に対して拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、明度及び/又は色が変化し、第二の要素(4)と第三の要素(5)の色差ΔEが所定の値変化する。よって、第三の要素(5)は視認可能となり、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)が視認可能となる。
【0083】
図8は、本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEを示すグラフであり、図8(a)は、拡散光領域における第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEを示し、図8(b)は、正反射光領域における第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEを示す。
【0084】
測定サンプルは、第一の画線(3)を、画線幅70μmの一定幅及びピッチ500μmとして、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第二の要素(4)及び第三の要素(5)を印刷せずに第一の画線(3)をプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルA(4×4cm)と、第二の要素(4)を、第一の画線(3)と同じ画線幅及びピッチとし、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第一の画線(3)及び第三の要素(5)を印刷せずに第二の要素(4)を黒色インク(EPSON製 マットブラック)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルB(4×4cm)を、それぞれ用いて測定した。
【0085】
図8(a)に示した拡散光領域における第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEを示すグラフと、図8(b)に示した正反射光領域における第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEは、変角分光光度計GSP−2型((株)村上色彩技術研究所製。以下、「測定装置」という。)を用いて、前述した測定サンプルA及び測定サンプルBのLの値、aの値、及びbの値を測定し、得られた値から色差ΔEを算出した。
【0086】
ただし、図7(a)に示した拡散光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を−10゜から10゜まで変化させて測定した。また、図7(b)に示した正反射光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を35゜から55゜まで変化させて測定した。なお、測定装置校正は、標準白色板4020Aを用いて、入射光角度45゜、受光角度0゜、すなわち標準白板に対して完全拡散面で校正を実施した。
【0087】
図8(a)に示したように、拡散光領域においては、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEは、2.71〜2.77を示しており、相対的に小さい値であり、第一の画線(3)及び第二の要素(4)は肉眼で識別することが困難である。その結果、画像(6)内に形成された第一の潜像画像(7)は視認することができない。また、図8(b)に示した正反射光領域においても、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEは、3.37〜5.42を示しており、相対的に小さい値であり、第一の画線(3)及び第二の要素(4)は肉眼で識別することが困難である。つまり、可視光源下においては、第一の画線(3)及び第二の要素(4)は肉眼で識別することが困難であり、第一の潜像画像(7)内に形成された第一の潜像模様(7a)を視認することはできない。
【0088】
図9は、本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEを示すグラフであり、図9(a)は、拡散光領域における第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEを示し、図9(b)は、正反射光領域における第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEを示す。
【0089】
測定サンプルは、第二の要素(4)を、画線幅70μmの一定幅及びピッチ500μmとして、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第一の画線(3)及び第三の要素(5)を印刷せずに第二の要素(4)を黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルC(4×4cm)と、第三の要素(5)を、第二の要素(4)と同じ画線幅及びピッチとし、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第一の画線(3)及び第二の要素(4)を印刷せずに第三の要素(5)を金属粉インク(日本ペイント株式会社製 金コロイドインク)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルD(4×4cm)を、それぞれ用いて測定した。
【0090】
図9(a)に示した拡散光領域における第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEを示すグラフと、図9(b)に示した正反射光領域における第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEは、測定装置を用いて測定した。ただし、図7(a)に示した拡散光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を−10゜から10゜まで変化させて測定した。また、図7(b)に示した正反射光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を35゜から55゜まで変化させて測定した。なお、測定装置校正は、標準白色板4020Aを用いて、入射光角度45゜、受光角度0゜、すなわち標準白板に対して完全拡散面で校正を実施した。
【0091】
図9(a)に示したように、拡散光領域においては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEは、1.16〜1.19と相対的に小さい値を示している。前述した通り、色差ΔEが6未満であれば等色であることから、拡散光領域においては、常に第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色といえる。よって、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は肉眼で識別することが困難であり、その結果、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)は視認することができない。
【0092】
反対に、図9(b)に示した正反射光領域においては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)との色差ΔEが、6.53を示す受光角度が存在する。拡散光領域(例えば、受光角度0°)における、第二の要素(4)と第三の要素(5)とのの色差ΔEが1.17に対して、正反射光領域(例えば、受光角度45°)における、第二の要素(4)と第三の要素(5)との色差ΔEは6.53である。つまり、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色差ΔEは、1.17から6.53へと5.36変化する。よって、色差ΔEが5以上変化することで、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は肉眼で識別することが可能となり、その結果、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)を視認することが可能となる。
【0093】
なお、同じ観察条件下においては、基材(1)を傾けることにより、拡散光領域と正反射光領域は切り替えられる。つまり、基材(1)を傾けることで、第三の要素(5)は肉眼で識別することが可能となる。その結果、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)を視認することが可能となる。
【0094】
(本発明における第一の模様の視認原理)
図10は、本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。図10(a1)に示した印刷物(S)は、図10(a2)に示すように、可視光源(R)下の拡散光領域において、第一の画線(3)は肉眼で視認可能となる。つまり、画像(6)を視認することが可能となる。第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、可視光源下の拡散光領域において等色で視認されることで、肉眼では区別することが不可能となり、第二の要素(4)で形成した第一の潜像画像(7)及び第三の要素(5)で形成した第二の潜像画像(8)は、肉眼で視認することはできない。したがって、可視光源(R)下の拡散光領域において可視画像(2)を肉眼で視認した際には、画像(6)内に形成された第一の模様(2a)のみ視認可能となる。
【0095】
図10(b)は、第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の模式図である。図10(b)を用いて、可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼では、画像(6)のみが視認可能となる原理について説明する。印刷物(S)を、可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した際には、まず、第一の画線(3)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R2)と 拡散光(R3)が生じ、拡散光領域では拡散光(R3)が得られる。
【0096】
第二の要素(4)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R6)と拡散光(R7)が生じ、拡散光領域では拡散光(R5)が得られる。また、第三の要素(5)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R4)と拡散光(R5)が生じ、拡散光領域では拡散光(R7)が得られる。第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、可視光源下の拡散光領域で観察した時に等色になるように形成されていることから、それぞれの要素における拡散光の差異は、肉眼では確認できない。
【0097】
本発明の第一の要素構成においては、第一の画線(3)内に第二の要素(4)を重畳して配置し、更に、第二の要素(4)内に第三の要素(5)を重畳して配置している。第一の画線(3)における最大画線幅及び最小画線幅、第二の要素(4)における最大画線幅及び最小画線幅、第三の要素(5)における最大画線幅及び最小画線幅の大小関係は、第一の画線(3)の最小画線幅≧第二の要素(4)の最大画線幅、第二の要素(4)の最小画線幅≧第三の要素(5)の最大画線幅となっている。
【0098】
可視光源下における拡散光領域においては、画像(6)、第一の潜像画像(7)及び第二の潜像画像(8)の拡散光の強さは、ほぼ一定である。よって、第一の画線(3)内に第二の要素(4)を重畳して配置し、第二の要素(4)内に第三の要素(5)を重畳して配置し、第一の画線(3)を、第二の要素(4)及び第三の要素(5)よりも、画線幅を太くすることで、第一の潜像画像(7)及び第二の潜像画像(8)は画像(6)内に隠蔽される。よって、可視光源下の拡散光領域において、印刷物(S)を観察した場合、第一の画線(3)から構成されている画像(6)のみを視認することができ、第二の要素(4)から構成されている第一の潜像画像(7)及び第三の要素(5)から構成されている第二の潜像画像(8)を視認することはできない。
【0099】
(本発明における第一の潜像模様の視認原理)
図11は、本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、赤外線光源(K)下において、赤外線表示装置などの装置を介して観察した場合の平面図及び模式図である。図11を用いて、赤外線光源(K)下において、第一の潜像模様(7a)が観察可能となる原理について説明する。図11(a2)に示すように、赤外線光源(K)下において、赤外線表示装置で印刷物(S)を観察した場合、第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて構成されているので白く観察される。
【0100】
第三の要素(5)は、図6(a)及び図6(b)に示したように、赤外線領域において分光反射率が、基材(1)である写真用紙(a)に比べ40%程度低いことから、基材(1)に対して濃度が高く黒っぽく観察される。また、第二の要素(4)は、赤外線吸収色素を含む材料を用いて構成されているが、拡散光領域において第三の要素(5)と等色に設定することで、赤外線領域において観察した際に、図6(b)と同じ濃度で観察される。赤外線領域において第一の潜像画像(7)内に形成された第一の潜像模様(7a)が新たに観察することができる。
【0101】
(本発明における第二の潜像模様の視認原理)
図12は、本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、定位置の可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。図12(a1)に示した印刷物(S)は、図12(a2)に示すように、可視光源(R)下の正反射光領域において、第三の要素(5)は、第一の画線(3)及び第二の要素(4)と、色差ΔEが変化して視認されることで、肉眼で区別することが可能となる。
つまり、第二の潜像画像(8)内に形成した第二の潜像模様(8a)を、肉眼で視認することができる。
【0102】
図12(b)は、本発明にかかわる第一の要素構成により形成した印刷物(S)を、可視光源(R)下の正反射光領域において視認した場合の模式図である。図12(b)を用いて、可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で、第二の潜像模様(8a)が視認可能となる原理について説明する。印刷物(S)を、可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した際には、まず、第一の画線(3)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R2)と拡散光(R3)が生じ、正反射光領域では正反射光(R2)が得られる。
【0103】
第二の潜像画像(8)を形成する第三の要素(5)では、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R4)と拡散光(R5)が生じ、正反射光領域では正反射光(R4)が得られる。また、第二の要素(4)では可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R6)と拡散光(R7)が生じ、正反射光(R6)が得られる。
【0104】
よって、第三の要素(5)は、観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料を用いたインキで形成しており、第三の要素(5)の正反射光(R4)は、第一の画線(3)、第二の要素(4)のそれぞれの正反射光(R2)及び正反射光(R6)よりも高くなり、その明度の差異によって第一の画線(3)及び第二の要素(4)に対して、第三の要素(5)に色差Δが生じて潜像画像として第二の潜像画像(8)を視認することができる。よって、可視光源下の正反射光領域においては、印刷物(S)を観察した場合、新たに第二の潜像画像(8)内に形成した第二の潜像模様(8a)を視認することができる。
【0105】
なお、可視光源下の正反射光領域において、可視光源(R)からの入射光(R1)の強度、基材(1)の光沢度、またはそれぞれの画線及び/又は要素の光沢度の差により、第一の画線(3)及び第二の要素(4)のそれぞれの正反射光(R2)及び正反射光(R6)に差異が生じ、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEが変化する場合もある。しかし、第三の要素(5)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第二の要素(4)との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成していることから、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEの変化量は、第一の画線(3)及び第三の要素(5)の色差ΔE、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEの変化量に比べ少なくなる。よって、視覚マスキング効果により、可視光源下の正反射光領域においては第一の画線(3)及び第二の要素(4)は、肉眼では等色に視認されるため、それぞれを肉眼で区別することが不可能となり、新たに第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)が視認可能となる。
【0106】
視覚マスキング効果とは、人間の視覚認識の特性によるもので、大小の二つの刺激が時間的空間的に接近して与えられると、大きな刺激が認識され、小さな刺激は認識されなくなったり、認識されにくくなったり、結果として小さい刺激が見えなくなるマスキング現象(大きな刺激のみが見える)が生じることが知られており、これを視覚マスキング効果と呼ぶ。なお、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の面積比の設定や、第三の要素(5)を形成する材料の選定によっては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEの変化量が、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEの変化量に近似し、視覚マスキング効果が弱まり、第二の潜像画像(8)の視認性が低下する場合がある。
【0107】
よって、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEの変化量が、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の色差ΔEの変化量よりも大きくなるように、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の面積比や、第三の要素(5)を形成する材料を適宜選定することが好ましい。
【0108】
(本発明における第一の要素構成の変形例)
図13は、本発明にかかわる第一の要素構成の変形例を示す模式図である。図13(a)に示すように、各要素は、画線に限るものではなく、第二の要素(4)を画線とし、第三の要素(5)を、複数の網点が同一方向(Y)に配置された網点群としても良い。図12(a)においては、模式的に拡大して図示しているが、実際には網点群は一つの画線として視認される。網点群とすることで、プリンタ、複写機等を用いて複写した際には、網点群は一つの画線として複写される。それにより、画線のみを組合せた要素構成よりも偽造防止効果が向上する。
【0109】
また、図13(b)に示すように、第二の要素(4)及び第三の要素(5)を共に、複数の網点が同一方向(Y)に配置された網点群としても良い。さらには、図13(c)に示すように、第二の要素(4)を、複数の網点が同一方向(Y)に配置された網点群とし、第三の要素(5)を、複数の画素が同一方向(Y)に配置された画素群としても良い。画線、網点群及び画素群の組合せとすることで、より複製は困難となり偽造防止効果が向上する。
【0110】
なお、第二の要素(4)及び/又は第三の要素(5)を、複数の網点又は画素のいずれかによって構成した際には、同一方向に複数の網点及び/又は画素を配置する必要がある。異なる方向に配置すると、第一の模様(2a)、第一の潜像模様(7a)及び第二の潜像模様(8a)において周期的な無地部分が発生し好ましくない。
【0111】
第一の潜像画像(7)内に形成された第一の潜像模様(7a)及び第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)は、第二の要素(4)及び/又は第三の要素(5)の位相又はピッチのズレにより形成しても良い。図13(d)に示すように、第二の潜像模様(8a)を形成する第三の要素(5)は、第三の模様部(5a)及び第三の背景部(5b)からなる。第三の模様部(5a)と第三の背景部(5b)は、それぞれピッチd2で配置している。ピッチd2は、第一の潜像画像(7)を形成する第一の画線(3)のピッチ(d1)の2倍となっている。また、第三の模様部(5a)と第三の背景部(5b)は、位相をずらして構成している。これにより、第二の潜像模様(8a)は、レリーフ的な模様となる。さらに、図13(e)に示すように、レリーフ的な模様を形成する際にも、第二の要素及び第三の要素は、画線構成に限らず網点群、画素群により構成しても良い。
【0112】
(本発明における本要素構成の第二実施形態)
図14は、本発明にかかわる本要素構成の第二実施形態を示す平面図及び模式図である。なお、本発明において要素とは、画線、網点及び画素であるが、第二実施形態については要素を画線として説明する(以下、「第二の要素構成」とする)。図14(a)及び図14(b)に示すように、可視画像(2)は、基材(1)上に、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)により形成されている。第一の画線(3)は、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置されている。第一の画線(3)内には、第二の要素(4)が少なくとも一部重畳して配置されている。第二の要素(4)は、第二の方向(Y)に第一のピッチ(d1)で複数配置されている。さらに、第二の要素(4)内には、第三の要素(5)が重畳して配置されている。
【0113】
図14(c1)は、画像(6)及び第一の画線(3)の一例を示す図である。第一の画線(3)は、複数配置されることで、可視光源下における拡散光領域において視認可能な画像(6)を形成する。画像(6)は、第一の画線(3)を、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置することで形成されている。画像(6)は、第一の画線(3)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W1)と最小画線幅(W2)に一部異ならせることにより、第一の模様部(3a)と第一の背景部(3b)に区分けされる。第一の模様部(3a)は、「A」という形状の第一の模様(2a)を形成する領域であり、第一の背景部(3b)は第一の模様(2a)の背景を形成する領域である。前述した第一の要素構成においては、可視光源下における拡散光領域において画像(6)内に形成された第一の模様(2a)は視認可能であったが、第二の要素構成においては視認することができない。なお、その視認原理については後述する。
【0114】
第一の画線(3)は、拡散光領域において第二の要素(4)及び第三の要素(5)と等色であり、赤外線吸収色素を含まないインキを用いて形成する。第一の画線(3)は、赤外線吸収特性を含まない材料によって形成することで、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置を用いて観察した場合においては、画像(6)を視認することができなくなる。
【0115】
図14(c2)は、第一の潜像画像(7)及び第二の要素(4)の一例を示す図である。第二の要素(4)は、複数配置されることで、赤外線光源下において視認可能な第一の潜像画像(7)を形成する。また、第一の潜像画像(7)は、前述した画像(6)と重畳することで光源下の拡散光領域において、視認可能な格子状の可視画像(2)を形成する。なお、可視画像(2)の視認原理については後述する。第二の要素(4)は、少なくとも一部が第一の画線(3)上に、重畳して配置されている。第一の潜像画像(7)は、第二の要素(4)を、第二の方向(Y)に、第一のピッチ(d1)と同じピッチで複数配置することで形成されている。第二の方向(Y)とは、第一の方向(X)と異なる方向であり、第一の画線(3)と並行する方向は除いた方向のことである。第一の潜像画像(7)は、第二の要素(4)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W1)と最小画線幅(W2)に変化させることで、第二の模様部(4a)と第二の背景部(4b)に区分けされる。第二の模様部(4a)は、「A」という形状の第一の潜像模様(7a)を形成する領域であり、第二の背景部(4b)は第一の潜像模様(7a)の背景を形成する領域である。
【0116】
前述した、第一の模様部(3a)及び第一の背景部(3b)の所定の範囲内における画線幅の変化は、第二の模様部(4a)及び第二の背景部(4b)の所定の範囲内における画線幅の差と相反するものとなる。例えば、第一の画線(3)において、第一の模様部(3a)の画線幅(W1)とし、第一の背景部(3b)の画線幅を(W2)とした際には、第二の模様部(4a)における画線幅(W2)を、第一の背景部(3b)と同じ画線幅とし、反対に第二の背景部(4b)における画線幅(W1)は、第一の模様部(3a)と同じ画線幅とする。つまり、画像(6)と第一の潜像画像(7)は、ネガポジの関係となるように構成されている。
【0117】
また、画像(6)内に形成された第一の模様(2a)と、第一の潜像画像(7)内に形成された第一の潜像模様(7a)は、形状及び大きさが等しく、同じ領域内にそれぞれ形成している。さらに、第二の要素(4)は、拡散光領域において第一の画線(3)及び第三の要素(5)と等色で、赤外吸収色素を含む材料を用いて形成する。それにより、同じ領域内にそれぞれ形成することで、画像(6)及び第一の潜像画像(7)が重畳した際に、可視光源下の拡散光反射領域において、第一の模様部(3a)、第一の背景部(3b)、第二の模様部(4a)及び第二の背景部(4b)の濃度が等しい可視画像(2)となり、肉眼では、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は等色として視認され、第一の模様(7)を視認することはできない。
【0118】
可視光源下の拡散光領域において、画像(6)と第一の潜像画像(7)は、等色に視認される。さらに前述のように、ネガポジ関係である画像(6)及び第一の潜像画像(7)を重畳して形成することで、可視画像(2)内はすべての領域において画線面積率が等しくなる。つまり、可視光源下の拡散光領域においては、第一の模様(2a)及び第一の潜像模様(7a)は視認できず、図14(a)に図示するような、濃度が等しい格子状の可視画像(2)が視認される。
【0119】
図14(c3)は、第二の潜像画像(8)及び第三の要素(5)の一例を示す図である。第三の要素(5)は、複数配置されることで、可視光源下において基材(1)を傾けることで視認可能な第二の潜像画像(8)を形成する。第三の要素(5)は、第二の要素(4)内に、重畳して配置されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)を、第二の方向(Y)に第一のピッチ(d1)と同じピッチで複数配置することで形成されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W3)と最小画線幅(W4)に変化させることで、第三の模様部(5a)と第三の背景部(5b)に区分けされる。第三の模様部(5a)は、「C」という形状の第二の潜像模様(8a)を形成する領域であり、第三の背景部(5b)は第二の潜像模様(8a)の背景を形成する領域である。
【0120】
図14(b)は、前述した第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)を、印刷物(S)上で刷り重ねた状態を示したものである。第三の要素(5)の最大画線幅(W3)は、第二の要素(4)における最小画線幅(W2)以下とする。それにより、第三の要素(5)は、第二の要素(4)内における第二の模様部(4a)及び第二の背景部(4b)いずれにおいても配置することが可能である。なお、第三の要素(5)は、第一実施形態と同様に、観察角度を定位置の照明光源に対して拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第一の画線(3)及び第三の要素(5)の色差ΔEと、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成する。
【0121】
なお、前述した、第一の要素構成を用いた印刷物は、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像画像が視認でき、更に赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した際には第一の潜像画像が視認可能となった。しかしながら、目視検査による真偽判別のみ可能な印刷物を得るだけで良いのであれば、第二の要素(4)を有しない要素構成(以下、「第三の要素構成」という。)とすることで、一つの印刷物において、観察条件の異なる二つの画像を形成することが可能となる。つまり、第三の要素構成とすることで、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像画像が視認可能となる。それについては、以下説明する。
【0122】
図15(b)に示すように、可視画像(2)は、基材(1)上に、第一の画線(3)及び第三の要素(5)により形成されている。第一の画線(3)は、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置されている。第一の画線(3)内には、第三の要素(5)が重畳して配置されている。可視画像(2)は、それぞれの画線及び要素を、所定の範囲内で画線幅又は面積率を変化することで形成されている
【0123】
図15(c1)は、画像(6)及び第一の画線(3)の一例を示す図である。第一の画線(3)は、可視光源下における拡散光領域において視認可能な画像(6)を形成する画線であり、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)で複数配置されている。画像(6)は、第一の画線(3)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W1)と最小画線幅(W2)に一部異ならせることにより、第一の模様部(3a)と第一の背景部(3b)に区分けされる。第一の模様部(3a)は、「A」という形状の第一の模様(2a)を形成する領域であり、第一の背景部(3b)は第一の模様(2a)の背景を形成する領域である。第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まない材料によって形成する。第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まない材料によって形成することで、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置を用いて観察した場合においては、第一の模様(2a)を視認することができなくなる。
【0124】
図15(c2)は、第二の潜像画像(8)及び第三の要素(5)の一例を示す図である。第三の要素(5)は、可視光源下において基材(1)を傾けることで視認可能な第二の潜像画像(8)を形成する要素であり、第一の画線(3)内に、重畳して配置されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)を、第一の方向(X)に第一のピッチ(d1)と同じピッチで複数配置することで形成されている。第二の潜像画像(8)は、第三の要素(5)において所定の範囲内で画線幅を、最大画線幅(W5)と最小画線幅(W6)に変化させることで、第三の模様部(5a)と第三の背景部(5b)に区分けされる。第三の模様部(5a)は、「C」という形状の第二の潜像模様(8a)を形成する領域であり、第三の背景部(5b)は第二の潜像模様(8a)の背景を形成する領域である。
【0125】
図15(a)に示した印刷物(S)は、可視光源下の正反射光領域において、第一の画線(3)は肉眼で視認可能となる。つまり、画像(6)を視認することが可能となる。第一の画線(3)及び第三の要素(5)は、可視光源下の正反射光領域において色差ΔEが変化して視認されることで、肉眼で区別することが可能となり、第三の要素(5)で形成した第二の潜像画像(8)を、肉眼で視認することができる。
【0126】
第三の要素構成とすることで、赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した際には第一の潜像画像が出現しないが、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像画像が視認可能な印刷物は作製できた。なお、第三の要素構成においては、第一の画線(3)を形成する材料のみを異ならせることによっても、一つの印刷物において、観察条件の異なる二つの画像を形成することが可能となる。例えば、可視光源下の拡散光領域で観察した際には画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像画像が視認でき、更に赤外線カメラ等の鑑定装置を用いて観察した際には、画像が再度出現する。それについては、以下説明する。
【0127】
第三の要素構成において、第一の画線(3)を、赤外線吸収色素を含むインキを用いて形成する。第三の画線(3)は、赤外線吸収特性を含む材料によって形成することで、可視光源下における拡散光領域と、赤外線領域という二つの異なる観察条件において観察可能な画像(6)を形成する領域となる。なお、第三の要素(5)においては、前述と同様の材料により形成する。
【0128】
前述の要素構成及び材料により得られた印刷物(S)は、可視光源下の拡散光領域において、第一の画線(3)は肉眼で視認可能となる。つまり、画像(6)を視認することが可能となる。第一の画線(3)及び第三の要素(5)は、可視光源下の拡散光領域において等色で視認されることで、肉眼では区別することが不可能となり、第三の要素(5)で形成した第二の潜像画像(8)は、肉眼で視認することはできない。
【0129】
また、可視光源下の正反射光領域においては、第三の要素(5)は肉眼で視認可能となる。つまり、第二の潜像画像(8)を視認することが可能となる。第一の画線(3)及び第三の要素(5)は、可視光源下の正反射光領域において色差ΔEが変化して視認されることで、肉眼で区別することが可能となり、第三の要素(5)で形成した第二の潜像画像(8)を、肉眼で視認することができる。
【0130】
さらに、赤外線光源下において、赤外線表示装置などの装置を介して観察した場合、赤外線吸収色素を含むインキを用いて形成した第一の画線(3)及び第三の要素(5)は観察可能となる。前述の通り、第三の要素(5)は第一の画線(3)内に重畳して配置している。つまり、赤外線光源下においては、画像(6)が再度出現する。
【0131】
本発明の第一の模様、第一の潜像模様及び第二の潜像模様は、文字、数字、記号、絵柄、風景等適宜選択することが可能である。また、第一の画線(3)における画線形状を、直線状の線群として説明したが、同じピッチで線が配置されていれば、直万線、波万線、同心円万線又は波同心円万線等何ら限定するものではない。さらに、第二の要素(4)、第三の要素(5)を網点とした際に、網点形状として円形ドットをそれぞれ用いたが、円形に限定されるものではなく、三角、四角、多角形等の形状、ランダムな形状、あるいは本出願人が先に出願した特許第3478474号公報で提案している自由度のある網点形状を用いてもよい。
【0132】
本要素構成を形成する材料としては、公知のグラビアインキ、スクリーンインキ、プロセスインキ、インクジェットプリンタ用インク、フォイル(金属箔)等を使用することができる。また、基材(1)にそれぞれの画線及び要素を形成する方法としては、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ、金属蒸着、ホットスタンプ、コールドスタンプ等、特に限定されるものではない。
【0133】
本発明に用いる基材(1)は、特に限定されることがなく、上質紙、コート紙、アート紙等の紙葉類、フィルム等を用いることができる。定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、明度及び/又は色が変化する材料の特性を効果的に発揮させるために基材(1)の平滑度が1,000秒以上2,000秒未満であることが好ましい。なお、平滑度の測定は、日本工業規格のJIS P 8119に規定されている試験方法で行い、デジベック平滑度試験機(株式会社東洋精機製作所製、DB−2型)を用いて測定を行うとする。
【0134】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を限定するものではない。
【0135】
(実施例1)
実施例1として、図1に示した第一の要素構成により印刷物(S)を作製した。印刷物(S)は、基材(1)としてインクジェットプリンタ用写真用紙(EPSON製 写真用紙「光沢」)を用いて、インクジェットプリンタ(EPSON製 PX−G930)により可視画像(2)を形成した。なお、第一の要素構成におけるそれぞれの要素は、ピッチ500μmで等間隔の配置を成す直万線状の画線とした。第一の画線(3)は、最大画線幅(W1)を300μmとし、最小画線幅(W2)を180μmとした。第二の要素(4)は、最大画線幅(W3)を180μmとし、最小画線幅(W4)を110μmとした。第三の要素(5)は、最大画線幅(W5)を110μmとし、最小画線(W6)を30μmとした。
【0136】
まず、第三の要素(5)及び第二の要素(4)の色設定を行った。色設定は、第三の要素(5)を最大画線幅(W5)110μmの一定幅の直万線とし、金インク(日本ペイント株式会社製、金コロイドインク)を用いてインクジェット印刷により印刷した測定サンプルと、第二の要素(4)を最小画線幅(W4)110μmの一定幅の直万線とし、黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷した測定サンプル(4×4cm)とをそれぞれ作製し、それらの色差ΔEを前記測定装置を用いて測定し、可視光源下における拡散光領域において等色(色差ΔEが6未満)となるよう、第二の要素(4)を色設定した。
【0137】
次に、第二の要素(4)及び第一の画線(3)の色設定を行った。第二の要素(4)を最大画線幅(W3)180μmの一定幅の直万線とし、黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により前述した色設定を行った条件で印刷した測定サンプルと、第一の画線(3)を最小画線幅(W2)180μmの一定幅の直万線とし、プロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により重ね合わせて黒色に印刷した測定サンプル(4×4cm)をそれぞれ作製し、それらの色差ΔEを、測定装置を用いて測定し、可視光源下における拡散光領域及び正反射光領域において等色(色差ΔEが6未満)となるよう、第一の画線(3)を色設定した。
【0138】
次に、第一の模様(2a)の階調に合わせ、第一の画線(3)の画線幅を最大画線幅(W1)300μm、最小画線幅(W2)180μmの範囲内で変化させ、画像(6)を形成した。第一の画線(3)は、プロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を重ね合わせ、前述した色設定を行った条件と同じ条件で黒色に印刷した。
【0139】
次に、第一の潜像模様(7a)の階調に合わせ、第二の要素(4)の画線幅を最大画線幅(W3)180μm、最小画線幅(W4)110μmの範囲内で変化させ、第一の潜像画像(7)を形成した。第二の要素(4)は、黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いて、色設定を行った条件で黒色系に印刷した。
【0140】
さらに、第二の潜像模様(8a)の階調に合わせ、第三の要素(5)の画線幅を最大画線幅(W5)110μm、最小画線幅(W6)30μmの範囲内で変化させ、第二の潜像画像(8)を形成した。第三の要素(5)は、金インク(日本ペイント株式会社製、金コロイドインク)を用いて印刷した。第一の画線(3)及び第二の要素(4)を黒色系に色設定することで、可視光下の拡散光領域において、第一の画線(3)、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は同一色として視認可能となった。
【0141】
実施例1にて作製した印刷物(S)を、可視光下の拡散光領域において肉眼で観察した。第一の画線(3)は視認可能であり、よって画像(6)内に形成された第一の模様(2a)である「A」は視認できた。また、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は黒く視認された。つまり、第一の画線(3)及び第二の要素(4)の差異は肉眼では確認し難く、第一の潜像画像(7)内に形成された第一の潜像模様(7a)である「B」は視認できなかった。さらに、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、それぞれ黒く視認された。つまり、第二の要素(4)及び第三の要素(5)の差異は肉眼では確認し難く、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)である「C」は、視認できなかった。
【0142】
次に、実施例1にて作製した印刷物(S)を可視光源下の正反射光領域において、肉眼で観察した。第一の画線(3)は視認可能であり、画像(6)内に形成された第一の模様(2a)である「A」は視認できた。また、第三の要素(5)は、金色に視認でき、第二の潜像画像(8)内に形成した第二の潜像模様(8a)である「C」は視認できた。第一の画線(3)及び第二の要素(4)は、それぞれ黒色に視認されることから、第一の潜像画像(7)内に形成した第一の潜像模様(7a)である「B」は、視認できなかった。可視光下の正反射光領域において肉眼で視認した際、画像(6)を形成する第一の画線(3)と第二の要素(4)の色差ΔEよりも、第二の要素(4)と第三の要素(5)の色差ΔEの方が、大きく変化した。それにより、第二の潜像模様(8a)である「C」は、第一の模様(2a)である「A」よりも、はっきりと視認することが可能となった。
【0143】
さらに、実施例1にて作製した印刷物(S)を、赤外線光源下において、赤外線表示装置(ワテック株式会社製、CCDカメラWAT−704Rに富士写真フィルム株式会社製、シャープカットフィルターIR−80を装着したもの)を介して観察した。第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まないインクにより印刷したので、赤外線を透過した。つまり、赤外線表示装置には淡く(白っぽく)表示され、第一の画線(3)内に形成した第一の模様(2a)である「A」は観察できなかった。
【0144】
第二の要素(4)は、赤外線吸収色素を含むインクにより印刷したので赤外線を吸収し、赤外線表示装置には基材(1)よりも濃く(黒っぽく)表示された。また、第三の要素(5)も、基材(1)より濃く(黒っぽく)視認された。第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、基材(1)よりも濃く(黒っぽく)視認されることで、第一の潜像画像(7)内に形成した第一の潜像模様(7a)である「B」は観察できた。なお、第二の要素(4)は、可視光領域の拡散光領域で第三の要素(5)と等色であり、赤外吸収色素を含む材料を用いていることから、赤外線領域において、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は識別することができないので、第二の潜像画像(8)内に形成した第二の潜像模様(8a)である「C」は視認できなかった。それにより、第一の潜像模様(7a)である「B」のみを観察することができた。
【0145】
(実施例2)
実施例2として、図14に示した第二の要素構成により印刷物(S)を作製した。印刷物(S)は、基材(1)としてアート紙(王子製紙(株)製 OK金藤Nグロス)を用いて、オフセット印刷機により可視画像(2)を形成した。なお、第二の要素構成におけるそれぞれの要素は、ピッチ1000μmで等間隔の配置を成す直万線状の画線とした。第一の画線(3)と90度で交差する方向に第二の要素(4)を重畳し、更に第二の要素(4)内に第三の要素(5)を配置した。第一の画線(3)及び第二の要素(4)は、最大画線幅(W1)を600μmとし、最小画線幅(W2)を400μmとした。また、第三の要素(5)は、最大画線幅(W3)を300μmとし、最小画線幅(W4)を200μmとした。
【0146】
まず、第三の要素(5)及び第二の要素(4)の色設定を行った。色設定は、第二の要素(4)を第三の要素(5)の最大画線幅(W3)と同じ画線幅である300μmの一定幅の直万線とし、黒色インキ(東洋インキ製造(株)製 TKハイエコーミレニアムブラック)を用いてオフセット印刷により印刷した測定サンプルA(4×4cm)と、第三の要素(5)を最大画線幅(W3)300μmの一定幅の直万線とし、銀インキ(DIC(株)製、NCPシルバー)を用いてオフセット印刷により印刷した測定サンプルB(4×4cm)をそれぞれ作製し、それらの色差ΔEを前記測定装置を用いて測定し、等色(色差ΔEが6未満)となるよう、第二の要素(4)を色設定した。
【0147】
次に、第二の要素(4)及び第一の画線(3)の色設定を行った。色設定は、第二の要素(4)を最大画線幅(W1)600μmの一定幅の直万線とし、黒色インキ(東洋インキ製造(株)製 TKハイエコーミレニアムブラック)を用いてオフセット印刷により前述した色設定を行った条件で印刷した測定サンプルC(4×4cm)と、第一の画線(3)を最大画線幅(W1)600μmの一定幅の直万線とし、プロセスカラーインキ(大日本インキ化学工業(株)製、GEOS−G(黄)インキ、GEOS−G(紅)インキ、GEOS−G(藍)インキ)を用いてオフセット印刷により印刷した測定サンプルD(4×4cm)をそれぞれ作製し、それらの色差ΔEを前記測定装置を用いて測定し、等色(色差ΔEが6未満)となるよう、第一の画線(3)を色設定した。
【0148】
次に、第一の模様(2a)を形成した。第一の模様(2a)は、文字「A」をMSゴシック、200ポイントとした。第一の模様(2a)の階調に合わせ、第一の画線(3)の画線幅を最大画線幅(W1)600μm、最小画線幅(W2)400μmの範囲内で変化させ、画像(6)を形成した。第一の画線(3)は、プロセスカラーインキ(大日本インキ化学工業(株)製、GEOS−G(黄)インキ、GEOS−G(紅)インキ、GEOS−G(藍)インキ)をオフセット印刷により重ね刷りし、前述した色設定を行った条件と同じ条件で黒色に印刷した。
【0149】
次に、第一の潜像模様(7a)を、第一の模様(2a)の形状及び大きさ合わせて形成した。第一の潜像画像(7)内には、第二の要素(4)の画線幅を最大画線幅(W1)600μm、最小画線幅(W2)400μmの範囲内で変化させることで、第一の潜像模様(7a)である「A」を形成した。なお、第一の潜像模様(7a)は、第一の模様(2a)と同じ文字「A」をMSゴシック、200ポイントで形成した。
【0150】
なお、第二の要素(4)は、黒色インキ(東洋インキ製造(株)製 TKハイエコーミレニアムブラック)を用いてオフセット印刷により前述した色設定を行った条件と同じ条件で印刷した。
【0151】
さらに、第二の潜像模様(8a)を形成した。第二の潜像画像(8)内には、第三の要素(5)の画線幅を最大画線幅(W3)300μm、最小画線幅(W4)200μmの範囲内で変化させることで、第二の潜像模様(8a)である「C」を形成した。第三の要素(5)は、銀インキ(DIC(株)製、NCPシルバー)を用いて印刷した。
【0152】
実施例2にて作製した印刷物(S)を、可視光下の拡散光領域において肉眼で観察した。画像(6)、第一の潜像画像(7)及び第二の潜像画像(8)は、それぞれ黒く視認された。つまり、可視光源下の拡散光領域においては、可視画像(2)内に形成した第一の模様(2a)、第一の潜像模様(7a)及び第二の潜像模様(8a)いずれも視認できず、図14(a)に図示するような、濃度が等しい格子状の可視画像(2)が視認された。
【0153】
次に、実施例2にて作製した印刷物(S)を照明光源が定位置の可視光源下の正反射光領域において、肉眼で観察した。画像(6)及び第一の潜像画像(7)は、それぞれ黒く視認され、第二の潜像画像(8)は銀色に視認された。つまり、可視光源下の正反射光領域においては、画像(6)及び第一の潜像画像(7)により、濃度が等しい格子状の可視画像(2)が形成され、更にその上に、第二の潜像画像(8)内に形成された第二の潜像模様(8a)が視認された。
【0154】
さらに、実施例2にて作製した印刷物(S)を、赤外線光源下において、赤外線表示装置(ワテック株式会社製、CCDカメラWAT−704Rに富士写真フィルム株式会社製、シャープカットフィルターIR−80を装着したもの)を介して観察した。第一の画線(3)は、赤外線吸収色素を含まないインクにより印刷したので、赤外線を透過した。つまり、赤外線表示装置には淡く(白っぽく)表示され、第一の画線(3)内に形成した第一の模様(2a)は観察できなかった。
【0155】
第二の要素(4)は、赤外線吸収色素を含むインクにより印刷したので赤外線を吸収し、赤外線表示装置には基材(1)よりも濃く(黒っぽく)表示された。また、第三の要素(5)も、基材(1)より濃く(黒っぽく)視認された。第二の要素(4)及び第三の要素(5)は、基材(1)よりも濃く(黒っぽく)視認されることで、第一の潜像画像(7)内に形成した第一の潜像模様(7a)である「A」は観察できた。なお、第二の要素(4)は、可視光領域の拡散光領域で第三の要素(5)と等色であり、赤外吸収色素を含む材料を用いていることから、赤外線領域においては、第二の要素(4)及び第三の要素(5)は識別することができないので、第二の潜像画像(8)内に形成した第二の潜像模様(8a)である「C」は、視認できなかった。それにより、第一の潜像模様(7a)である「A」のみを観察することができた。
【符号の説明】
【0156】
1 基材
2 可視画像
2a 第一の模様
3 第一の画線
3a 第一の模様部
3b 第一の背景部
4 第二の要素
4a 第二の模様部
4b 第二の背景部
5 第三の要素
5a 第三の模様部
5b 第三の背景部
6 画像
7 第一の潜像画像
7a 第一の潜像模様
8 第二の潜像画像
8a 第二の潜像模様
S 印刷物
W 隠蔽領域
d1 第一のピッチ
X 第一の方向
Y 第二の方向
R 可視光源
r 入射光
K 赤外線光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域は第一の画線、第二の要素及び第三の要素から成り、前記第一の画線、前記第二の要素及び前記第三の要素を用いて、第一の模様内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、
前記第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、
前記第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、
前記第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされて前記第一の模様が形成され、
前記第二の要素は、前記第一の画線内に重畳して複数配置され、
前記第二の要素は、拡散光領域において前記第一の画線及び前記第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、
前記第二の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて前記第一の潜像模様が形成され、
前記第三の要素は、前記第二の要素内に重畳して複数配置され、
前記第三の要素は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで前記第二の要素との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成され、
前記第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて前記第二の潜像模様が形成され、
前記第一の模様は、可視光源下において視認可能な模様であり、前記第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な画像であり、前記第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで視認可能な模様であることを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項2】
基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域は第一の画線、第二の要素及び第三の要素から成り、前記第一の画線、前記第二の要素及び前記第三の要素を用いて、第一の模様内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、
前記基材は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料を用いて形成され、
前記基材上に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、前記基材を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が所定の値変化させない隠蔽材料を用いて隠蔽領域が形成され、
前記隠蔽領域は、前記基材を隠蔽する隠蔽材料を施す領域及び前記基材を一部露出させる隠蔽材料を施さない領域から成り、
前記隠蔽材料を施す領域上に、前記第一の画線及び前記第二の要素が配置され、
前記第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、
前記第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、
前記第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされて前記第一の模様が形成され、
前記第二の要素は、前記第一の画線内に重畳して複数配置され、
前記第二の要素は、拡散光領域において前記第一の画線及び前記第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、
前記第二の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて前記第一の潜像模様が形成され、
前記第三の要素は、前記第二の要素内に複数配置され、
前記第三の要素及び前記隠蔽材料を施さない領域は、同じ位置に配置され、
前記第三の要素は、赤外線吸収色素を含む材料及び前記赤外線吸収色素を含まない材料いずれも配置されず、かつ、前記隠蔽材料を施さない領域と同じ大きさ及び同じ形状に配置され、
前記隠蔽材料を施さない領域を介して、前記基材を一部露出させることで前記第三の要素が形成され、
前記第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて前記第二の潜像模様が形成され、
前記第一の模様は、可視光源下において視認可能な模様であり、前記第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な画像であり、前記第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで前記第二の要素及び前記第三の要素との色差ΔEが所定の値変化し視認可能となる模様であることを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項3】
前記第二の要素及び前記第三の要素は、画線であることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項4】
前記第二の要素及び前記第三の要素が画線の場合、前記第一の画線、前記第二の要素及び前記第三の要素は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項5】
前記第二の要素及び前記第三の要素は、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群であること特徴とする請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項6】
前記複数の第二の要素は、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか一つから成り、前記複数の第三の要素は、前記第二の要素を形成する画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群以外の画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか一つから成ることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項7】
前記複数の第二の要素及び前記複数の第三の要素は、複数の要素の中の一つの要素において、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群のいずれか二種類以上を組み合せて成ることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項8】
基材上における少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域は第一の画線、第二の画線及び第三の要素から成り、前記第一の画線、前記第二の画線及び前記第三の要素を用いて、可視画像内に観察条件を異ならせることで視認可能な第一の潜像模様及び第二の潜像模様が埋め込まれた潜像画像を有する印刷物であって、
前記第一の画線は、第一の方向に第一のピッチで複数配置され、
前記第一の画線は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成され、
前記第一の画線において、画線幅が一部異なることで、第一の模様部及び第一の背景部に区分けされ、
前記第二の画線は、少なくとも一部が前記第一の画線内に重畳して、前記第一の方向とは異なる第二の方向に、前記第一のピッチと同一ピッチで複数配置され、
前記第二の画線は、拡散光領域において前記第一の画線及び前記第三の要素と等色、かつ、赤外線吸収色素を含む材料を用いて形成され、
前記第二の画線において、画線幅が一部異なることで、第二の模様部及び第二の背景部に区分けされて前記第一の潜像模様が形成され、
前記第三の要素は、前記第二の画線内に重畳して複数配置され、
前記第三の要素は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで前記第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成され、
前記第三の要素において、所定の範囲内で面積率を変化させることで、第三の模様部及び第三の背景部に区分けされて前記第二の潜像模様が形成され、
前記第一の模様部及び前記第二の模様部は、形状及び大きさが等しく、
前記複数配置された第一の画線及び前記複数配置された第二の画線が重畳されて、前記第一の模様部と前記第二の背景部及び前記第一の背景部と前記第二の模様部の濃度が等しい可視画像を形成し、
前記可視画像は、可視光源下において濃度が均一に視認可能な画像であり、前記第一の潜像模様は、赤外線光源下において観察可能な模様であり、前記第二の潜像模様は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化することで視認可能な模様であることを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項9】
前記第一の画線及び前記第二の画線は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする請求項8記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項10】
前記第三の要素は、画線であることを特徴とする請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項11】
前記第三の要素が画線の場合、前記第一の画線、前記第二の画線及び前記第三の要素は、各画線において、直線、波線及び破線の少なくとも一つから成ることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項12】
前記第三の要素は、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群であること特徴とする請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項13】
前記第三の要素は、各要素において、画線、複数の網点が同一方向に配置された網点群又は複数の画素が同一方向に配置された画素群の二種類以上を組み合せて成ることを特徴とする請求項8又は9記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項14】
前記第二の要素又は前記第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料とは、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域での前記第二の要素又は第二の画線との色差ΔEに対し、正反射光領域での前記第二の要素又は第二の画線との色差ΔEが5以上変化する材料であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項15】
前記第二の要素又は前記第二の画線との色差ΔEが所定の値変化する材料とは、光輝性材料であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項16】
前記光輝性材料が、金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項記載の潜像画像を有する印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−247516(P2010−247516A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255214(P2009−255214)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】