説明

潤滑剤、ならびに磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】 各種使用条件下において優れた潤滑性能が保たれ、長時間の使用においても潤滑効果が持続する潤滑剤、特に磁気記録媒体用潤滑剤を提供する。
【解決手段】 下記一般式(a)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、下記一般式(b)および下記一般式(c)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合し、好ましくは下記一般式(d)で示される化合物をさらに混合して潤滑剤とし、さらに、この潤滑剤で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成する。
【化1】




【化2】




【化3】




【化4】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高精度な潤滑性が要求される精密機械もしくは精密部品等に使用する潤滑剤ならびに当該潤滑剤を使用する磁気記録媒体およびその磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録の分野においては、記録・再生機器のデジタル化、小型化および使用時間の長時間化等の高性能化に伴い、それに適した高密度磁気記録媒体の開発が活発に行なわれている。最近では塗布型磁気記録媒体に代わって、短波長記録に極めて有利な金属薄膜型磁気記録媒体が実用化されている。一般に、金属薄膜型磁気記録媒体とは、非磁性支持体上に、記録層として強磁性金属薄膜から成る磁性層を設けたテープおよびディスク等をいう。また、高密度磁気記録媒体の記録・再生に用いられる磁気記録媒体システムとしては、例えば、デジタルビデオデッキやハードディスクドライブが挙げられる。
【0003】
デジタルビデオテープに代表される金属薄膜型磁気記録媒体においては、磁性層は極めて良好な表面性を有する、すなわち磁性層の面の粗度が小さい。そのため、磁性層と磁気ヘッドとの接触面積が増えるので、磁性層は信号の記録・再生の過程において磁気ヘッドと高速摺動する間に大きな摩擦力を受けて磨耗されやすい。磁性層の磨耗は、磁気記録媒体の走行耐久性あるいはスチル耐久性等に大きな影響を与えるため、これを低減させることは金属薄膜型磁気記録媒体の研究開発において大きな課題となっている。
【0004】
そこで磁性層表面に保護膜と潤滑剤層をこの順に設けることによって磨耗を低減し、走行耐久性およびスチル耐久性を改善しようとする試みがなされている。潤滑剤層を設ける場合、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスによる出力低下を極力抑えて高出力化を図るべく、磁性層表面に設けられる保護膜と潤滑剤層は薄く形成されることが求められている。特に潤滑剤層は僅か数nmの厚さで潤滑特性を発揮することが求められている。
【0005】
また、一般的なハードディスクドライブにおいてはCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式が採用されている。CSS方式とは、高密度磁気記録媒体であるハードディスクが停止している状態では磁気ヘッドがディスクに接触し、起動時にハードディスクが高速回転し始めると、これに伴って発生する空気流により磁気ヘッドがディスク表面から浮上し、この状態で記録・再生が行われる方式である。そして、停止時にディスクの回転が減速され、再び磁気ヘッドはハードディスクと接触するようになる。
【0006】
このCSS方式においてはディスクの運転停止時あるいは起動開始時に磁気ヘッドがハードディスク表面を擦って走行するので、そのときに加わる摩擦力が大きな問題となっている。ハードディスクドライブの信頼性を保つにはCSS走行試験後の媒体の摩擦係数が初期と同じであることが望まれる。しかし、表面平坦性が高い、すなわち粗度の小さな磁気ディスクでは、この要求を満たすことは難しい。また、ハードディスクが高速で回転している際に、ヘッドと媒体とが衝突する、いわゆるヘッドクラッシュも解決すべき課題の1つである。そして、ヘッドクラッシュが発生する要因の一つとして、磁気記録媒体が適当な保護膜および潤滑剤層を有していないことが挙げられる。
【0007】
そこで、磁気記録媒体に適した潤滑剤が広く検討されている。その1つとしてフッ素系化合物がある。フッ素系化合物は優れた潤滑特性を示すため、各種フッ素系化合物の使用が提案されている(特許文献1〜4)
【0008】
しかしながら、さらなる高記録密度化に伴い、MRヘッドまたはGMRヘッドの搭載ならびにコンタクト記録方式の採用等、新たな技術への対応を考えていく必要がある。そのためには磁気記録媒体に用いる潤滑剤特性をより向上させる必要がある。
【0009】
【特許文献1】特開2002−92858号公報
【特許文献2】特開2002−150530号公報
【特許文献3】特開2002−241349号公報
【特許文献4】特開平5−194970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁気記録媒体に用いられる潤滑剤に要求される特性として、低温環境での使用でも潤滑特性が優れること、潤滑特性を維持したまま極めて薄く塗布できること、長時間の使用でも潤滑特性が維持されること、磁気ヘッドへの粉付きが少ないこと、等が要求される。ここで、粉つきとは、潤滑剤が磁気記録再生装置での走行時に磁気ヘッドとの接触により磁気記録媒体から削られ、削られた粉が磁気ヘッドに蓄積されることを示す。
【0011】
しかしながら、前記潤滑剤に要求される特性は、磁気記録媒体の特性上非常に厳しい特性が要求される。そのため、従来用いられている潤滑剤ではこれらの要求を全て満足することが難しい。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、各種使用条件下において優れた潤滑性が保たれるとともに、長時間の使用においても潤滑効果が持続し、磁気記録媒体の潤滑剤層を形成する場合には、粉つきが少ない磁気記録媒体を与える潤滑剤、ならびに該潤滑剤を用いた磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、第1の要旨において、特定の組成を有する潤滑剤を提供する。かかる潤滑剤は、下記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに下記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および下記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【化1】



(式中、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRの少なくとも一方が水素であり、RおよびRの少なくとも一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qはそれぞれ0から30の整数であり、rは1〜12の整数である。)
【化2】



(式中、R、Rは、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、xは1から6の整数であり、yは1から5の整数であり、s、tはそれぞれ0から30の整数であり、uは1〜12の整数である。)
【化3】



(式中、Rはフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、Rは脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、aは1〜12の整数である。)
【0014】
本発明の潤滑剤は、上記一般式(a)で示される化合物と、上記一般式(b)および/または上記一般式(c)とを組み合わせた点に特徴を有する。この特定の化合物の組合せから成る潤滑剤を用いて磁気記録媒体の潤滑剤層を形成すると、走行耐久性およびスチル特性ともに優れた、磁気記録媒体を得ることができる。
【0015】
本発明の潤滑剤は好ましくは、上記一般式(a)で示される化合物と、上記一般式(b)および/または上記一般式(c)との組み合わせに、さらに下記一般式(d)で示される化合物を組み合わせて提供される。一般式(d)で示される化合物を追加することにより、この潤滑剤を用いて磁気記録媒体の潤滑剤層を形成すると、さらに走行耐久性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【化4】



(式中、R、R10はそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、bは1〜12の整数であり、vは1〜12の整数であり、wは1〜6の整数であり、zは1〜5の整数であり、hおよびkはそれぞれ0〜30の整数である。)
【0016】
本発明の潤滑剤で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成した場合に、良好な性能を達成できる理由は、次のとおりであると考えられるが、これは本発明を何ら拘束するものではない。まず、一般式(a)〜(c)に示す全ての化合物において、エステル結合R”COOR’は、アルコキシル基−OR’のR’がフッ素を有し、アシル基R”CO−のR”が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である構造を有する。即ち、本発明の潤滑剤は、主たる成分として含まれる化合物において、アシル基がフルオロアルキル基等の含フッ素基を有しない。このことは、潤滑剤の安定性の向上に寄与する。また、一般式(a)で示される化合物は、末端にカルボキシル基を有するために、磁気記録媒体の走行耐久性の向上に寄与し、一般式(b)および(c)で示される化合物は、末端にエステル結合を含むために、磁気記録媒体のスチル寿命の向上に寄与し、またヘッド粉つきを少なくする。したがって、両者を組み合わせることによって、磁気記録媒体において良好な走行耐久性およびスチル寿命、ならびに少ない粉つきを同時に達成し得る。さらにまた、一般式(b)で示される化合物は、一般式(a)で示される化合物と同様に、分子中にフルオロエーテル基を有するから、一般式(b)で示される化合物と一般式(a)で示される化合物とは高い相溶性を有する。したがって、一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物を組み合わせることにより、均一性に優れた潤滑剤を得ることができる。一般式(b)で示される化合物はまた、一分子中のエステル結合の数が多いので、スチル寿命をより向上させ得る。一般式(c)で示される化合物は、一般式(b)で示される化合物と比較して、エステル結合の数は少ないが、分子量が小さく、分子容が小さいため、磁気記録媒体の走行性の向上に寄与する。したがって、一般式(a)で示される化合物と一般式(c)で示される化合物とを組み合わせることにより、低温度環境での走行特性を安定に保つことができる。
【0017】
一般式(d)で示される化合物は、フルオロアルキルエーテル鎖を主鎖とし、この両端にそれぞれ窒素を有し、この窒素原子が1つのヒドロキシアルキル基と結合し、且つ、水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基のいずれかと結合している構造を有する。上記一般式(d)で示される化合物において、両方の窒素原子に結合されたヒドロキシアルキル基は潤滑剤の対象物(例えば磁気記録媒体の保護膜)への付着力を向上させる役割を果たすと考えられる。上記一般式(d)で示される化合物は、ヒドロキシアルキル基が各窒素原子に1個ずつ結合して、1個の分子において2個に限定されることに特徴を有する。この特徴により、一般式(d)で示される化合物が潤滑剤として付与された対象物と摺動接触する相手方の物(例えば、磁気記録再生装置の磁気ヘッド)に当該化合物が過度に吸着することにより、対象物の潤滑特性が低下することを防止でき、また、相手方の物(例えば、磁気ヘッド)に吸着した潤滑剤が凝集して粉状物を生成することを防止できる。また、少なくとも一方の窒素原子に脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基が結合する場合、これらの基は潤滑特性の向上に特に寄与すると考えられる。したがって、この化合物は、窒素原子がもたらす高い付着力とフルオロアルキルエーテル鎖がもたらす潤滑特性に加えて、窒素原子に結合した基がそれぞれ優れた特性を発揮する結果、全体として耐久性および潤滑性の均衡がとれた潤滑剤として機能すると推察される。
【0018】
本発明は、第2の要旨において、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が上記本発明の潤滑剤を少なくとも1種含む磁気記録媒体を提供する。本発明の磁気記録媒体は、潤滑剤層が上記本発明の潤滑剤を含んで成る層であるために、優れたスチル特性および走行耐久性を有するものとなる。
【0019】
本発明はまた、第3の要旨において、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法を提供する。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、その潤滑剤層の形成工程に特徴を有し、それ以外の工程は従来から磁気記録媒体の製造に用いられている工程であってよい。本発明の製造方法における潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に、潤滑剤層を構成する化合物(即ち、潤滑剤)を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程を含むことを特徴とする。炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒とを組み合わせた混合溶媒を使用することにより、塗布ムラが極めて少ない均一な薄い潤滑剤層が形成され得る。したがって、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の潤滑剤は、特定のフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、特定のフッ素系ジエステル化合物および/または特定のフッ素系モノエステル化合物とを組み合わせて成り、好ましくはさらに特定のフッ素系アミノアルコール化合物が組み合わされて成る。この潤滑剤は、この特定の化合物の組合せによって、潤滑性を付与すべき対象の表面(例えば磁気記録媒体の炭素膜表面)に良好に付着して、優れた潤滑特性を様々な環境下で長期間にわたって発揮する。したがって、本発明の潤滑剤は、様々な機械、装置もしくは部品の潤滑剤として有用である。
【0021】
本発明の潤滑剤は、特に磁気記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適している。本発明の潤滑剤で潤滑剤層を形成した磁気記録媒体は、優れた走行性および耐久性を示し、具体的には、種々の使用条件下において優れた潤滑性を示し、長時間使用しても潤滑性が低下せず、粉つきが少ないという特性を有する。本発明の磁気記録媒体は、特にデジタルビデオテープレコーダやハードディスクドライブで用いるのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の実施の形態について説明する。
本発明の潤滑剤は上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。本発明の潤滑剤は、好ましくは、上記一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物をさらに含む。本発明の潤滑剤は、これらの特定の化合物に加え、必要に応じて他の既知の潤滑剤、防錆剤等を含んでもよい。
【0023】
下記一般式(a)で示される化合物は、同一分子内に2個のカルボキシル基と、2個のエステル結合と、1個のアルキル基またはアルケニル基からなる末端基と、1個のフルオロエーテルもしくはフルオロポリエーテル鎖を有する。
【化5】



【0024】
一般式(a)において、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRの少なくとも一方が水素であり、RおよびRの少なくとも一方が水素である。したがって、一般式(a)で示される化合物には、i)Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素である化合物、ii)Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素であり、Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、iii)Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素であり、Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素である化合物、およびiv)Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、ならびにv)R〜Rがすべて水素である化合物が含まれる。
【0025】
一般式(a)において、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基の炭素数(即ち、R、R、RおよびRのうち1つ又は複数の基が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合の当該1つ又は複数の基の炭素数)は、好ましくは1〜22であり、より好ましくは8〜18である。脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R、R、RおよびRのうち複数の基が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合、当該複数の基は同じ基であってもよく、あるいは互いに異なる基であってもよい。
【0026】
一般式(a)において、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、pおよびqはそれぞれ0から30の整数である。mはより好ましくは、2〜5の整数である。nはより好ましくは1〜4の整数である。(m、n)の好ましい組合せは(2,1)または(1,2)である。pはより好ましくは2〜6の整数であり、qはより好ましくは2〜6の整数である。rは1〜12の整数である。
【0027】
一般式(a)において−(OC2m(OC2n−で示される部分が1種のオキシフルオロアルキレンのみから成る場合、一般式(a)においてq=0であるとし、一般式(a)で示される化合物は(OC2m)のみを含むものとする。この場合、mは、好ましくは2である。
【0028】
pおよびqがともに0である場合、一般式(a)で示される化合物は、1つのエーテル結合を含むから、いわゆるフルオロエーテルを含む。p≠0かつq=0である場合、あるいはpおよびqがともに1以上の整数である場合、一般式(a)で示される化合物においてエーテル結合の数は2以上となり、当該化合物はフルオロポリエーテル鎖を含むこととなる。
【0029】
一般式(a)において−(OC2m(OC2n−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当する。pおよびqは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2m)とオキシフルオロアルキレン単位(OC2n)とから成る共重合体は、p個の(OC2m)のブロックとq個の(OC2n)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(a)は、−(OC2m(OC2n−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0030】
一般式(a)で示される化合物は、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、または無水コハク酸と、フルオロアルキレンオキサイド基を有するフルオロアルキルジアルコールとを混合加熱撹拌することによって製造される。一般式(a)で示される化合物を合成する方法は、例えば特許文献3に記載されているように公知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0031】
下記一般式(b)で示される化合物は、同一分子内に2個のエステル結合と、2個のアルキル基またはアルケニル基からなる末端基と、1個のフルオロエーテルもしくはフルオロポリエーテル鎖を有する。
【化6】



【0032】
一般式(b)において、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基(即ち、RおよびRの炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは6〜20である。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30を超える場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい
【0033】
一般式(b)において、xは1から6の整数であり、yは1から5の整数であり、sおよびtはそれぞれ0から30の整数である。xはより好ましくは、2〜5の整数である。yはより好ましくは1〜4の整数である。(x、y)の好ましい組合せは(2,1)または(1,2)である。sはより好ましくは2〜6の整数であり、tはより好ましくは2〜6の整数である。uは1〜12の整数である。
【0034】
一般式(b)において、−(OC2xs(OC2y−で示される部分が1種のオキシフルオロアルキレンのみから成る場合、一般式(b)においてt=0であるとし、一般式(b)で示される化合物は(OC2x)のみを含むものとする。この場合、xは、好ましくは2である。
【0035】
sおよびtがともに0である場合、一般式(b)で示される化合物は、1つのエーテル結合を含むから、いわゆるフルオロエーテルを含む。s≠0かつt=0である場合、あるいはsおよびtがともに1以上の整数である場合、一般式(b)で示される化合物においてエーテル結合の数は2以上となり、当該化合物はフルオロポリエーテル鎖を含むこととなる。
【0036】
一般式(b)において−(OC2xs(OC2y−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当する。sおよびtは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2x)とオキシフルオロアルキレン単位(OC2y)とから成る共重合体は、s個の(OC2x)のブロックとt個の(OC2y)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(b)は、−(OC2xs(OC2y−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0037】
一般式(b)で示される化合物を、本発明の潤滑剤の成分として使用する場合には、一般式(a)で示される化合物の−(OC2m(OC2n−で示される部分と、一般式(b)で示される化合物の−(OC2xs(OC2y−で示される部分は、同じであることが好ましい。即ち、m=x、n=y、p=s、およびq=tであることが好ましい。その場合には、2つの成分の基本骨格が共通するものとなるため、2つの成分の相溶性がより良好となる。
【0038】
一般式(b)で示される化合物の合成方法は、例えば末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテルとカルボン酸クロリドとを反応させることによって製造される。一般式(b)で示される化合物を合成する方法は、例えば特許文献4に記載されているように公知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0039】
下記一般式(c)で示される化合物は、同一分子内に1個のエステル結合と、1個のアルキル基またはアルケニル基からなる末端基と、1個のフルオロアルキル末端基、フルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基とを有する。
【化7】



【0040】
一般式(c)において、Rはフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基である。
【0041】
がフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基であることが好ましい。
【0042】
がフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である場合、Rはフッ素化された環式炭化水素基を有していてよい。フッ素化された環式炭化水素基は、一部または全部の水素がフッ素で置換された芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、および縮合多環式炭化水素基から選択される置換基であり、好ましくは脂環式炭化水素基(即ち、シクロアルキル基)である。フッ素化された環式炭化水素基は、全部の水素がフッ素で置換されていることが好ましい。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の水素またはフッ素と置換する。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基のいずれの炭素に結合していてもよく、例えば、側鎖基として結合していてよい。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の末端の炭素に結合していることが好ましい。フッ素化された環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは4〜8である。
【0043】
がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合、この化合物を含む潤滑剤で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成する場合に、磁気記録媒体の潤滑性および信頼性が低下することがある。フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0044】
一般式(c)において、Rは脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。Rの炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または30を超える場合には、潤滑性能が低下することがある。Rは直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。
【0045】
一般式(c)で示される化合物は、含フッ素アルコールと脂肪酸とを反応させることにより合成できる。この反応は、含フッ素アルコールおよび脂肪酸を、触媒の存在下で、溶媒中にて加熱しながら混合攪拌すると、都合良く進行させることができる。溶媒として、ヘプタン、オクタンまたはトルエンを用いることが好ましい。また、加熱温度が低いと未反応物が多量に残る傾向にあり、加熱温度が高いと副生成物が生成される傾向にある。したがって、加熱温度は、80〜150℃とすることが好ましく、120〜130℃とすることがより好ましい。触媒として、酸触媒または塩基触媒を用いることができる。酸触媒として好ましいものは、例えば、p−トルエンスルホン酸である。塩基触媒として好ましいものは、例えば、ピリジンである。また、脂肪酸の変わりに脂肪酸クロリドを用いることも可能であり、この場合、触媒はなくてもよい。
【0046】
本発明の潤滑剤は、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)および/または一般式(c)で示される化合物とを、重量比で1:9〜9:1の割合で含み、より好ましくは2:8〜9:1の割合で含み、さらにより好ましくは4:6〜9:1の割合で含む。潤滑剤が、一般式(b)で示される化合物および一般式(c)で示される化合物をともに含む場合(即ち、3成分系の潤滑剤である場合)、前者と後者の割合は、重量比で1:9〜9:1であることが好ましい。
【0047】
本発明の潤滑剤は、さらに、下記一般式(d)で示される化合物を含む。即ち、本発明の潤滑剤は、各一般式で示される化合物を簡略して、(a)、(b)、(c)、(d)と表示したときに、(a)/(b)/(d)もしくは(a)/(c)/(d)の3成分系、または(a)/(b)/(c)/(d)の4成分系として提供されることが好ましい。
【0048】
【化8】



【0049】
上記一般式(d)で示される化合物は、分子内に2つの窒素原子および2つのヒドロキシアルキル基を含み、好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは2つの脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を含む。
【0050】
一般式(d)において、R、R10はそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、bは1〜12の整数であり、vは1〜12の整数であり、wは1〜6の整数であり、zは1〜5の整数であり、hおよびkはそれぞれ0〜30の整数である。
【0051】
およびR10は一般には同じであるが、互いに異なっていてよい。RおよびRが互いに異なる場合、一方は水素であってよい。あるいはまた、RおよびR10は、ともに水素であってよい。R=R10=Hの化合物は、Rおよび/またはR10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物と比較して、潤滑性の点でやや劣るが、2つのヒドロキシアルキル基により適度な吸着性が確保されるので、本発明の潤滑剤を構成する化合物として好ましく使用される。
【0052】
一般式(d)において、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基(即ち、Rおよび/またはR10の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは6〜20である。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30を超える場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。
【0053】
一般式(d)において、wは1から6の整数であり、zは1から5の整数であり、hおよびkはそれぞれ0から30の整数である。wはより好ましくは、2〜5の整数である。zはより好ましくは1〜4の整数である。(w、z)の好ましい組合せは(2,1)または(1,2)である。hはより好ましくは2〜6の整数であり、kはより好ましくは2〜6の整数である。bは1〜12の整数であり、vは1〜12の整数である。
【0054】
一般式(d)において、−(OC2w(OC2z−で示される部分が1種のオキシフルオロアルキレンのみから成る場合、一般式(a)においてk=0であるとし、一般式(d)で示される化合物は(OC2w)のみを含むものとする。この場合、wは、好ましくは2である。
【0055】
hおよびkがともに0である場合、一般式(d)で示される化合物は、1つのエーテル結合を含むから、いわゆるフルオロエーテルを含む。h≠0かつk=0である場合、あるいはhおよびkがともに1以上の整数である場合、一般式(d)で示される化合物においてエーテル結合の数は2以上となり、当該化合物はフルオロポリエーテル鎖を含むこととなる。
【0056】
一般式(d)において−(OC2w(OC2z−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当する。hおよびkは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2w)とオキシフルオロアルキレン単位(OC2z)とから成る共重合体は、h個の(OC2w)のブロックとk個の(OC2z)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(d)は、−(OC2w(OC2z−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0057】
一般式(d)で示される化合物は、下記に示す合成方法により得られる。まず、カルボン酸変性のフルオロアルキルエーテル化合物を塩化チオニルと反応させて、ジカルボン酸クロライド体を得る。次に、ジカルボン酸クロライド体と、脂肪族炭化水素鎖を有するアルカノールアミンとを反応させて、アミド変性体のフルオロアルキルエーテル化合物を得る。次に、このアミド変性体をLiAlH(リチウムアルミニウムハイドライド)等の触媒で還元することにより、本発明のフルオロアルキルポリエーテル化合物が得られる。触媒として、例えば、LiAlHの他に、NaBHまたはBuSnHを使用できる。
【0058】
一般式(d)で示される化合物を、本発明の潤滑剤の成分として使用する場合には、一般式(a)で示される化合物の−(OC2m(OC2n−で示される部分と、一般式(d)で示される化合物の−(OC2w(OC2z−で示される部分は、同じであることが好ましい。即ち、m=w、n=z、p=h、およびq=kであることが好ましい。その場合には、2つの成分の基本骨格が共通するものとなるため、2つの成分の相溶性がより良好となる。同様に、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)で示される化合物と、一般式(d)で示される化合物とを組み合わせる場合には、一般式(a)で示される化合物の−(OC2m(OC2n−で示される部分と、一般式(b)で示される化合物の−(OC2xs(OC2y−で示される部分と、一般式(d)で示される化合物の−(OC2w(OC2z−で示される部分は、同じであることが好ましい。即ち、m=x=w、n=y=z、p=s=h、およびq=t=kであることが好ましい。その場合には、3つの成分の基本骨格が共通するものとなるため、3つの成分の相溶性がより良好となる。
【0059】
本発明の潤滑剤が、上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および/または上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物と、上記一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物とを含む場合、上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、その他の2または3の化合物(即ち、(b)+(d)、または(c)+(d)、または(b)+(c)+(d))との混合割合は、重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることが好ましく、2:8〜9:1の範囲内にあることがより好ましく、4:6〜9:1の範囲内にあることが好ましい。そのような潤滑剤において、一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および/または一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物と、一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物との混合割合は、1:9〜9:1の範囲内にあることが好ましく、2:8〜8:2の範囲内にあることがより好ましく、4:6〜6:4の範囲内にあることがさらにより好ましい。また、そのような潤滑剤が、一般式(b)で示される化合物、一般式(c)で示される化合物、および一般式(d)で示される化合物をすべて含む場合、それらの混合割割合は1:1:18〜9:9:2((b):(c):(d))であることが好ましい。
【0060】
本発明の潤滑剤は、先に述べたように、一般式(a)〜(d)で示される化合物以外に、他の潤滑剤、防錆剤および/または極圧剤等を含んでよい。その場合、一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物および/または一般式(c)で示される化合物ならびに場合により含まれる一般式(d)で示される化合物とを合わせた量は、それらと他の潤滑剤等とを合わせた全体の量の30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物および/または一般式(c)で示される化合物ならびに場合により含まれる一般式(d)で示される化合物とを合わせた量が30重量%未満であると、例えばこの組成物で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成した場合、良好な潤滑特性を磁気記録媒体に付与することができない場合がある。
【0061】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が本発明の潤滑剤を含むものである。潤滑剤層中に含まれる本発明の潤滑剤の量は、潤滑剤層の表面1m2当たり0.05〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましい。潤滑剤層にこのような少量の潤滑剤を均一に存在させるために、本発明の磁気記録媒体の潤滑剤層は次の方法で形成することが望ましい。
【0062】
潤滑剤層は、常套の材料および手段を用いて非磁性支持体の上に強磁性金属膜および保護膜をこの順に形成した後、保護膜上に形成する。潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒に本発明の潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程、ならびに塗布した塗布液を乾燥して混合溶媒を蒸発させる工程を含む。最終的に混合溶媒が蒸発することにより、保護膜上には溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液を厚く塗布しても、溶媒が蒸発することにより、保護膜上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤が保護膜を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0063】
本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレンおよびケトン等である。本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールである。混合有機溶媒は、具体的には、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、ヘキサンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、またはヘプタンとイソプロピルアルコールの混合溶媒であることが好ましい。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎるとコスト面で不利であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。
【0064】
塗布液の濃度および塗布厚は、溶媒が蒸発した後に保護膜上に形成される潤滑剤層が所望の厚さになるように塗布する。一般には、潤滑剤の濃度が100〜10000ppmである塗布液を、10〜100μmの厚さとなるように塗布することが好ましい。
【0065】
上記混合溶媒を用いて潤滑剤層を形成する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法およびスピンコーティング法等の湿式塗布法または有機蒸着法があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0066】
塗布液を塗布した後、乾燥処理して有機溶媒を蒸発させると、保護膜上に潤滑剤層が形成される。乾燥処理は、加熱あるいは自然乾燥によって実施することができる。そして、最終的に得られる潤滑剤層の厚さは3〜5nm程度とすることが好ましい。ただし、潤滑剤の組成に応じて潤滑剤層の厚さの最適範囲が存在するため、潤滑剤層の厚さは必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
【0067】
このように、所定の混合有機溶媒を用いることにより、塗布ムラのない均一な厚さの潤滑剤層が得られ、しかも溶媒が最終的に蒸発した後には数nmという非常に薄い潤滑剤層を形成することができる。その結果、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0068】
先に述べたとおり、本発明の磁気記録媒体は、潤滑剤層以外の層に関しては、常套の材料および手段を採用して形成することができる。
【0069】
例えば、非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド、もしくは芳香族ポリイミドからなるフィルム;ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート、ガラス、セラミック、カーボン、アルミニウムもしくは銅等の金属、アルミニウム合金もしくはチタン合金等の軽金属、または単結晶シリコン等から成る基板;あるいは紙であってよい。非磁性支持体としてアルミニウム合金から成る基板またはガラス基板等の剛性の大きい基板を使用する場合には、アルマイト処理等により基板表面に酸化被膜やNi−P被膜等を形成してその表面を硬くしてもよい。
【0070】
非磁性支持体の強磁性金属膜が形成される表面(即ち、磁性層と直接的に又は場合により下地層等を介して接する側の面)には、実用信頼性と良好なRF出力値とを両立するために、直径20〜700nm、高さ5〜70nmの突起形成処理が施されていることが望ましい。突起は、具体的には、例えば、SiOまたはZnO等の無機物質から成る超微粒子、あるいはイミド等の有機物質から成る超微粒子を非磁性支持体の表面に分散し固着させることにより形成される。あるいは、突起はそのような微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成される。
【0071】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層は強磁性金属膜である。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属で磁性層を形成することが特に好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0072】
強磁性金属膜は、具体的には、Fe、CoおよびNi、ならびにCo−Ni、Co−Fe、Co−Cr、Co−Cu、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Co−Au、Fe−Cr、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−CrおよびFe−Co−Ni−Cr等の合金から選択される1または複数の材料で形成される。強磁性金属膜は酸素を含んでいてよく、酸素はこれらの金属または合金の酸化物の形態で含まれていてよい。強磁性金属膜は、単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。
【0073】
強磁性金属膜はイオンプレーティング法、スパッタリング法または電子ビーム蒸着法等で形成することができる。強磁性金属膜を酸素雰囲気下で形成すれば、強磁性金属膜に酸素が含まれることとなる。強磁性金属膜の厚さは一般に30nm〜300nmである。
【0074】
保護膜は、好ましくは炭素膜である。炭素膜は、ビッカース硬度が約2.45×10N/mm(約2500kg/mm)と高く、磁気記録媒体のダメージを潤滑剤層と共に防止する。実用信頼性と出力とのバランスを考慮すれば、その厚さは1〜20nmであることが好ましい。
【0075】
炭素膜は、グラファイト状カーボンまたはダイヤモンドライクカーボンであることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有し、磁気ヘッドを損傷することなく磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、最も好ましい材料である。グラファイト状カーボンまたはダイヤモンドライクカーボンから成る炭素膜は、炭化水素ガスのみ、もしくは炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いたプラズマCVD法により形成され、あるいはカーボンのターゲットを用いたスパッタリング法により形成される。
【0076】
炭素膜は、具体的には、真空容器中に炭化水素ガスまたは炭化水素ガスとアルゴン等の不活性ガスの混合ガスを導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で真空容器内部で放電を発生させ、炭化水素ガスのプラズマを発生させることにより、強磁性金属膜上に形成する。放電形式は外部電極方式および内部電極方式のいずれでもよく、放電周波数は実験的に決めることができる。また、非磁性支持体側に配置される電極に0kVから−3kVの電圧を印加することによって、炭素膜の硬度を増大させることができ、また、炭素膜と強磁性金属膜との密着性を向上させることができる。炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンまたはベンゼン等を用いることができる。
【0077】
なお、硬質の炭素膜を形成するためには、放電エネルギーを大きくすることが望ましく、併せて非磁性支持体の温度を高温に維持することが望ましい。例えば、放電エネルギーは、交流電流、例えば高周波電流と直流電流を重畳して実効値を600V以上にすることが望ましい。
【0078】
本発明においては、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成し、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることが好ましい。含窒素プラズマ重合により炭素膜の表層部にアミノ基が存在することとなり、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度がより大きくなり、磁気記録媒体の耐久性がより向上することとなる。そして、潤滑剤層に特定のフルオロアルキルエーテル化合物を含有させることと相俟って、電磁変換特性が損なわれることなく優れた潤滑性能を有する走行耐久性、スチル耐久性および耐蝕性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0079】
含窒素プラズマ重合膜は、真空容器中にプロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンもしくはテトラメチレンジアミン等のアミン化合物をガス化して導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で、真空容器内部に高周波放電を生じさせて形成する。含窒素プラズマ重合膜を形成することにより上記特定の含フッ素化合物を含む潤滑剤の化学吸着力が向上し、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度が向上する。含窒素プラズマ重合膜の膜厚は3nm未満が適当であり、これよりも含窒素プラズマ重合膜が厚い場合には炭素膜の保護効果が低下する。なお、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する方法は、米国特許第5540957号および第5637393号に開示されており、この引用によりこれらの特許に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0080】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面にバックコート層を有してよい。バックコート層は、ポリウレタン、ニトロセルロース、ポリエステル、カーボンおよび炭酸カルシウム等から選ばれる1つもしくは複数の材料により形成される層であってよく、あるいは、金属、金属酸化物または合金から成る薄膜であってよい。バックコート層の厚さは約50〜500nmとすることが好ましい。
【0081】
本発明の磁気記録媒体は、上記の構成に限定されない。例えば、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が形成される面とは反対側の面に金属の蒸着により形成した補強層を有し、補強層の上にバックコート層が形成された構成のものであってよい。あるいは、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の突起処理が施された面に補強層を有し、当該補強層の上に磁性層が形成された構成、または当該補強層の上に下地層および磁性層がこの順に積層された構成のものであってよい。また、本発明の磁気記録媒体は、テープ状およびディスク状のいずれの形態であってもよい。
【0082】
図1に本発明の磁気記録媒体の一例を模式的に断面図で示す。図1には、非磁性支持体(1)の一方の表面に磁性層(2)が形成され、磁性層の上に保護膜(3)が形成され、保護膜(3)の上に潤滑剤層(4)が形成されるとともに、非磁性支持体(1)の他方の面にバックコート層(5)が形成されている、磁気記録媒体(100)が示されている。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
実施例1において、本発明の磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法の実施例を説明する。
非磁性支持体として、表面に粒状突起を有するポリエステルフィルムを用意した。具体的には、(1)シリカ微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成された勾配のゆるやかな突起(平均高さ7nm、直径1μm)を100μm当たり数個有し、かつ(2)直径15nmのシリカコロイド粒子が紫外線硬化エポキシ樹脂でポリエステルフィルム表面に固着されて形成された急峻な突起を1mm当り1×10個有するポリエステルフィルムを使用した。本実施例で使用したポリエステルフィルムは、重合触媒の残さに由来する微粒子によってフィルム表面に形成される比較的大きな突起の数が極めて少ないものであった。
【0085】
ポリエステルフィルムの粒状突起が形成された面に、連続真空斜め蒸着法によりCoから成る強磁性金属膜(膜厚100nm)を微量の酸素の存在下で形成した。強磁性金属膜中の酸素含有量は原子分率で5%であった。
【0086】
次に、強磁性金属膜の上に、プラズマCVD法によってダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ5nmの保護膜を形成した。保護膜は、真空容器中にヘキサンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を39Paに保ちながら、周波数20kHz、電圧1500Vの交流と1000Vの直流を重畳し、これを放電管内の電極に印加することにより形成した。さらに、炭素膜上にプロピルアミンガスを導入し、6.5Paの圧力を保った状態で10kHzの高周波プラズマ処理を行ない、炭素膜の表層部に厚さ2.5nmの含窒素プラズマ重合膜を形成した。
【0087】
続いて、化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤をイソプロピルアルコールとトルエンとの混合有機溶媒(重量比1:1)に溶解して塗布液を調製した。
【化9】



【化10】



【0088】
調製した塗布液をリバースロールコータを用いて保護膜上に湿式塗布法で塗布した後、乾燥処理して溶媒を蒸発させた。最終的に保護膜上には、潤滑剤を表面1mあたり7mg含有する潤滑剤層が形成された。これを所定幅に裁断して磁気テープを作製した。
【0089】
(実施例2)
化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを7:3(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0090】
(実施例3)
化学式(a2)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b2)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを4:6(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化11】



【化12】



【0091】
(実施例4)
化学式(a3)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(b2)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化13】



【0092】
(実施例5)
上記化学式(a3)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、下記化学式(b3)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化14】



【0093】
(実施例6)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、下記化学式(c1)で示されるフッ素系モノエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化15】



【0094】
(実施例7)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、下記化学式(c2)で示されるフッ素系モノエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化16】



【0095】
(実施例8)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物と、上記化学式(c1)で示されるフッ素系モノエステル化合物とを1:1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0096】
(実施例9)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物と、下記化学式(d1)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物とを1:1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化17】



【0097】
(実施例10)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(c1)で示されるフッ素系モノエステル化合物と、上記化学式(d1)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物とを1:1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0098】
(実施例11)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物と、上記化学式(c1)で示されるフッ素系モノエステル化合物と、上記化学式(d1)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物とを1:1:1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0099】
(比較例1)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0100】
(比較例2)
化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0101】
(比較例3)
下記化学式(e1)で示される公知の化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化18】



【0102】
(比較例4)
上記化学式(d1)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物のみを使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0103】
(比較例5)
下記化学式(z1)で示される公知の潤滑剤である化合物を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【化19】



【0104】
(比較例6)
上記化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(e1)で示されるフッ素系モノエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を用い、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0105】
(比較例7)
化学式(c1)で示されるフッ素系モノエステル化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0106】
(比較例8)
化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を、イソプロピルアルコール(単一溶媒)に溶解して塗布液を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0107】
(比較例9)
化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステル化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を、トルエン(単一溶媒)に溶解して塗布液を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0108】
実施例1〜11および比較例1〜9で得られた磁気テープ試料について、それぞれ下記の評価を行った。
【0109】
(I)走行性試験
各試料を、23℃50%RHの環境下で、巻き付け角90°で摩擦部材(ステンレス製(SUS420J2、表面粗さ0.2S)、外径6mm)に巻き付け、テンション0.2Nの条件で試料を18mm/秒の速度で巻き出し、同じ速度で巻き取り、巻き取り側においてテンションを測定した。巻き取り側のテンションと巻き出し側のテンションとの比からオイラーの式より動摩擦係数を計算して求めた。1回の巻き出し及び1回の巻取りをセットで1パスとし、各試料について100パス目および1000パス目における摩擦係数を計算した。
【0110】
(II)スチル寿命試験
スチル寿命は、スチル寿命測定用に改造した市販デジタルVTR(松下電器産業(株)製、商品名NV−DJ1)を用い、3℃、5%RHの環境下で測定した。スチル寿命は初期から出力が6dB低下するまでの時間(分)で示す。
【0111】
(III)耐久性試験
耐久性は、ヘッド目詰まりにて評価した。RF(高周波)出力測定用に改造した市販デジタルVTR(松下電器産業(株)製、NV−DJ1)を用い、各試料を23℃、60%RHの環境下で1000パス、1330時間繰り返し再生を行い、再生中のRF出力からヘッド目詰まりを測定した。この繰り返し再生中、RF出力が6dB以上低下したときにヘッド目詰まりが発生したものとし、そのような低下が測定された時間を合計した時間をヘッド目詰まりとした。
【0112】
また、繰り返し再生後の磁気ヘッドを、光学顕微鏡を用いて観察し、磁気ヘッドに付着している粉つきを観察した。粉つきは5段階で評価し、粉つきがほとんど見られないレベルを5、粉つきがヘッド面積に対し30%以下であり出力に影響しないレベルを4、粉つきがヘッド面積に対し50%以下であり出力に影響しないレベルを3、粉つきがヘッド面積に対し50%以下であり出力に影響するレベルを2、粉つきがヘッド面積に対し50%以上であるレベルを1とした。
各試験の評価結果を表1に示す。
【0113】
(IV)吸着性試験
吸着性試験は、潤滑剤層を形成した試料を、潤滑剤層を形成する際に塗布液の調製に用いた溶媒中に10秒間浸漬することにより洗浄し、洗浄後の潤滑剤の残存率を求めた。この試験によれば、残存率の大きいものほど、吸着性が高いと評価される。潤滑剤の残存率は、ESCA分析によりフッ素原子を検出し、溶媒による洗浄の前後でのフッ素原子の存在量の変化量から求めた。
各試験の評価結果を表1に示す。
【0114】
【表1】



【0115】
表1から明らかなように、特定のフッ素系ジカルボン酸ジエステル化合物と、特定のフッ素系ジエステル化合物または特定のフッ素系モノエステル化合物とを組み合わせて成る潤滑剤を用いた実施例1〜11の試料は、常温常湿や低温低湿等の環境化において、優れた走行耐久性および耐久性を示し、またスチル寿命が長かった。具体的には、実施例1〜11の磁気テープは、1000パス走行後も低い摩擦係数を維持し、また、スチル寿命が90分よりも長かった。一般式(a)で示される化合物のみ、一般式(b)で示される化合物のみ、一般式(c)で示される化合物、および一般式(d)で示される化合物のみから成る潤滑剤を用いて作製した、比較例1、2、7、4の磁気テープはいずれも、走行性、スチル寿命、および耐久性の点で劣っていた。また、公知の潤滑剤を使用して作製した比較例3および比較例5の磁気テープも、走行性、スチル寿命、および耐久性の点で劣っていた。一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)および(c)で示されるエステル以外のエステルを混合して成る潤滑剤を用いて作製した比較例6の磁気テープは、走行性および耐久性の点で実施例1〜11のものよりも劣っていた。これらの結果から、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)または一般式(c)で示される化合物との組合せ、およびこの組合せにさらに一般式(d)で示される化合物を組み合わせたものが、磁気記録媒体用の潤滑剤として極めて良好に機能することがわかる。特に、一般式(a)で示される化合物と一般式(d)で示される化合物の組み合わせは、潤滑剤残存率が高く、潤滑剤の吸着特性の面において優れていることが分かる。さらに、実施例1と比較例8および9との結果から、本発明の潤滑剤を炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒に溶解して塗布することによって、良好な特性を有する潤滑剤層を形成し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の潤滑剤は、特定の2以上の化合物を、それぞれがもたらす効果が相乗的に発揮されるように組み合わせたものである。本発明の潤滑剤は、特に磁気記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適し、例えば、デジタルビデオテープレコーダやハードディスクドライブ等で用いられる、磁気記録媒体の潤滑剤層であって、磁気ヘッド等と擦り合わされる潤滑剤層を構成するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例の略断面図
【符号の説明】
【0118】
1 非磁性支持体
2 磁性層(強磁性金属薄膜)
3 保護膜
4 潤滑剤層
5 バックコート層
100 磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに下記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む潤滑剤。
【化1】



(式中、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRの少なくとも一方が水素であり、RおよびRの少なくとも一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qはそれぞれ0から30の整数であり、rは1〜12の整数である。)
【化2】



(式中、R、Rはそれぞれ、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、xは1から6の整数であり、yは1から5の整数であり、s、tはそれぞれ0から30の整数であり、uは1〜12の整数である。)
【化3】



(式中、Rはフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、Rは脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、aは1〜12の整数である。)
【請求項2】
上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、および上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、および上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項4】
上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および/または上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物との混合割合が、重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤。
【請求項5】
下記一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑剤。
【化4】



(式中、R、R10はそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、bは1〜12の整数であり、vは1〜12の整数であり、wは1〜6の整数であり、zは1〜5の整数であり、hおよびkはそれぞれ0〜30の整数である。)
【請求項6】
上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および/または上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物ならびに上記一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物との混合割合が、重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることを特徴とする請求項5に記載の潤滑剤。
【請求項7】
上記一般式(b)で示されるフッ素系ジエステル化合物および/または上記一般式(c)で示されるフッ素系モノエステル化合物と、上記一般式(d)で示されるフッ素系アミノアルコール化合物との混合割合が、重量比で1:9〜9:1の範囲内にある請求項6に記載の潤滑剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤からなる磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項9】
非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤を少なくとも1種含む磁気記録媒体。
【請求項10】
保護膜がダイヤモンドライクカーボンである請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
保護膜が表層部に含窒素プラズマ重合膜を有する炭素膜であり、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されている、請求項9または請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、保護膜の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜の上に塗布する工程を含む、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲内にある請求項12に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2005−350652(P2005−350652A)
【公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47435(P2005−47435)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】