説明

潤滑剤及び転がり軸受

【課題】振動が大きい場合でもフレッチング摩耗の軽減効果の高い潤滑剤、並びに耐フレッチング性により優れ、より耐久性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】平均粒径が1〜100nmの硫化鉄微粒子を含有する潤滑剤、並びに内輪と外輪との間に、複数の転動体を保持器を介して保持してなり、前記潤滑剤が封入されている転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種装置、機器の潤滑に使用される潤滑剤、並びに前記潤滑剤を封入してなる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の回転機器の回転軸を回転・支持する部位には転がり軸受が使用されているが、特に微小往復動を行う場合、あるいは微小振動を受けるような場合には、転動体表面や転走面にフレッチングが生じ、軸受トルクの増大や損傷部を起点とした剥離等さまざまな不具合が生じる。そのため、転動体にセラミックボールを採用することにより、フレッチング摩耗を軽減する対策が採られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、セラミックボールは、通常用いられている鋼球と比較して高価であるため、潤滑のために封入される潤滑剤に超微粒子を添加してフレッチング摩耗を軽減することも講じられている。例えば、酸化鉄超微粒子(特許文献2参照)や、疎水化処理を施したシリカ超微粒子(特許文献3参照)等を含有する潤滑剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−188726号公報
【特許文献2】特開平9−67588号公報
【特許文献3】特開2006−169316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の超微粒子を含有する潤滑剤では、振動が小さい場合にはフレッチング摩耗の軽減効果が得られるものの、振動が大きくなるとフレッチング摩耗の軽減効果が十分ではなくなり、その改善が強く求められている。
【0006】
そこで本発明は、振動が大きい場合でもフレッチング摩耗の軽減効果の高い潤滑剤を提供することを目的とする。また、本発明は、耐フレッチング性により優れ、より耐久性に優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、平均粒径が1〜100nmの硫化鉄微粒子を含有することを特徴とする潤滑剤、並びに内輪と外輪との間に複数の転動体を保持器を介して保持してなり、かつ、前記潤滑剤が封入されていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑剤は、硫化鉄超微粒子を含有することにより、他の超微粒子を含有する潤滑剤に比べてフレッチング摩耗を軽減する効果が大きく、振動幅が大きい環境下でも適用箇所に十分な耐フレッチング性を付与できる。
【0009】
また、硫化鉄超微粒子を含有する潤滑剤で潤滑される本発明の転がり軸受は、これまでよりも耐フレッチング性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】玉軸受の一例を示す断面図である。
【図2】実施例で用いたフレッチング試験機を示す模式図である。
【図3】振幅比を説明するための模式図である。
【図4】フレッチング試験において、ディスク試験片が摩耗する状態を示す模式図である。
【図5】実施例で得られた、振幅比と損傷比との関係を示すグラフである。
【図6】実施例で得られた、硫化鉄超微粒子の平均粒径と損傷比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
(潤滑剤)
本発明の潤滑剤は、潤滑油に平均粒径1〜100nm、好ましくは1〜50nmの硫化鉄超微粒子を添加したものである。また、潤滑油と、硫化鉄長微粒子と、増ちょう剤とを含有するグリースであってもよい。硫化鉄超微粒子の平均粒径が1nm未満では凝集し易くなり、100nmを越えると重力により沈降凝集したり、フレッチングが発生している箇所に侵入し難くなる。尚、硫化鉄の種類には制限がなく、FeS、Fe3、FeS
とすることができる。
【0013】
硫化鉄超微粒子の含有量は、潤滑剤全量の0.01〜10質量%が好ましい。含有量が0.01質量%未満ではフレッチング摩耗の軽減効果が十分ではなく、10質量%を超えると効果が飽和することに加え、凝集し易くなる。また、潤滑剤が液状の場合(潤滑油に添加)には、0.01〜5質量%とすることが好ましく、グリースとする場合には0.01〜8質量%とすることが好ましい。
【0014】
潤滑油には制限はなく、鉱油や合成油等を目的や適用箇所に応じて適宜選択できる。例えば、鉱油または合成油。合成油としては、脂肪族炭化水素油、芳香族炭化水素油、エステル油、エーテル油、トリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテル油等が挙げられる。脂肪族炭化水素油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、ポリ−α−オレフィン(1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等)、又はこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族炭化水素油としては、アルキルベンゼン(モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等)、アルキルナフタレン(モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン)等が挙げられる。エステル油としては、脂肪族ジエステル、芳香族エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル(多価アルコールと二塩基酸及び一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステル)が挙げられる。脂肪族ジエステルとしては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルリシノレート等が挙げられる。芳香族エステルとしては、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等が挙げられる。ポリオールエステルとしては、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等が挙げられる。エーテル油としては、ポリグリコールおよびフェニルエーテルが挙げられる。ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等が挙げられる。フェニルエーテルとしては、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等が挙げられる。
【0015】
また、グリースとする場合の増ちょう剤にも制限はなく、例えば、金属石けん(アルミニウム石けん、バリウム石けん、カルシウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん等)、複合金属石けん(リチウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等)、ウレア化合物(ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等)、シリカゲル、ベントナイト、ウレタン化合物、ウレア−ウレタン化合物、ナトリウムテレフタラメート等を目的に応じて適宜選択できる。
【0016】
その他、目的に応じて、潤滑剤に使用される種々の添加剤を添加することもできる。例えば、フェニル−1−ナフチルアミン等のアミン系、2−tert−ブチルフェノール等のフェノール系、硫黄系、ジチオリン酸系等の酸化防止剤;アルカリ金属およびアルカリ土類金属等の有機スルホン酸塩、アルキル、アルケニルコハク酸エステル等のアルキル、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル等の防錆剤;リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤;脂肪酸、動植物油等の油性向上剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて添加することができる。
【0017】
また、潤滑油の粘度等の特性、グリースのちょう度等の特性にも制限はない。
【0018】
(転がり軸受)
本発明において、転がり軸受の種類には制限がなく、例えば図1に示す玉軸受を例示することができる。図示される玉軸受は、内輪軌道1を有する内輪2と、外輪軌道3を有する外輪4との間に、複数の転動体である玉5を保持器7を介して保持しており、内輪2と外輪4と玉5で形成される軸受空間に、上記の潤滑剤を充填し、シール6で封止している。
【0019】
このような玉軸受では、振動により内輪軌道1と玉5、外輪軌道4と玉5とが衝突して内輪軌道1、外輪軌道2及び玉5の各表面が損傷を受けるが、内輪軌道1と玉5との隙間及び外輪軌道3と玉5との隙間に潤滑剤の硫化鉄超微粒子が入り込み、フレッチング摩耗を軽減する。そのため、玉5をセラミック製にする必要がなく、安価にできる。
【0020】
尚、転がり軸受の種類としては、玉軸受の他、保持器付きころ軸受、総転がり軸受、総ころ軸受等も挙げることができ、転走面は単列でも複列でもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に説明する。
【0022】
(実施例1)
ポリα−オレフィン油(40℃における動粘度30mm/s)に、平均粒径20nmの硫化鉄超微粒子を0.1質量%の割合で添加し、試験潤滑剤Aを調製した。
【0023】
(比較例1)
ポリα−オレフィン油(40℃における動粘度30mm/s)を試験潤滑剤Bとした。
【0024】
(比較例2)
ポリα−オレフィン油(40℃における動粘度30mm/s)に、平均粒径12nmのシリカ超微粒子を0.5質量%の割合で添加し、試験潤滑剤Cを調製した。尚、シリカ超微粒子の全体積は、実施例1の硫化鉄超微粒子の全体積とほぼ同等である。
【0025】
(比較例3)
ポリα−オレフィン油(40℃における動粘度30mm/s)に、平均粒径20nmの酸化鉄超微粒子を0.1質量%の割合で添加し、試験潤滑剤Dを調製した。
【0026】
(フレッチング試験)
内径25m、外径52mm、高さ18mmの単式スラスト玉軸受(銘番:51305)に、上記で調製した試験潤滑剤A〜Dを同量づつ封入して試験軸受を作製した。そして、試験軸受を図2に示す日本精工(株)製フレッチング試験機に装着し、下記の試験条件でフレッチング試験を行った。尚、試験軸受において、損傷部の最大高さ(Ry)を正確に測定するために、下レースにラッピングを施したディスク試験片を用いている。
・最大面圧 :3.2GPa
・最大揺動速度:20mm/s
・揺動回数 :10000回
・振幅比 :0.5〜2.0
【0027】
尚、振幅比は、図3に示すように、接触円半径(a)と振幅(A)との比「A/b」である。図4に示すように、揺動に伴いディスク試験片が摩耗し、接触楕円の周上に摩耗粉がたまり、その部分が大きく損傷する。そこで、この損傷部の最大高さ(Ry)を比較することで、フレッチング摩耗の軽減効果を評価することができる。
【0028】
試験は所定の振幅比毎に行い、試験前後の試験軸受の下レース表面を干渉顕微鏡で観測して損傷部の最大高さ(Ry)を測定した。そして、試験軸受の試験前後のRyの比(試験後のRy/試験前のRy:損傷比)を求めた。損傷が少ないほど、損傷比は1に近づく。図5に、振幅比毎の損傷比をグラフ化して示すが、振幅比が0.5以下では何れの試験軸受でも損傷の程度に差が無いものの、0.5を超えると損傷の程度に差が出始め、振幅比が大きくなるほど顕著になっている。このことから、振動が激しい環境では、本発明に従い硫化鉄超微粒子を添加することにより、酸化鉄超微粒子やシリカ超微粒子を添加するよりもフレッチング摩耗の軽減効果が大きくなることがわかる。
【0029】
(実施例2)
ポリα−オレフィン油(40℃における動粘度30mm/s)に、平均粒径が異なる硫化鉄超微粒子を0.1質量%の割合で添加して試験潤滑剤を調製した。そして、振幅比を1.6とした以外は上記と同様のフレッチング試験を行った。
【0030】
結果を図6に示すが、硫化鉄超微粒子の平均粒径が100nmを超えると損傷比が急激に大きくなっており、100nm以下の硫化鉄超微粒子を用いることの有意性が確認された。
【符号の説明】
【0031】
1 内輪軌道
2 内輪
3 外輪軌道
4 外輪
5 玉
6 シール
7 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜100nmの硫化鉄微粒子を含有することを特徴とする潤滑剤。
【請求項2】
内輪と外輪との間に、複数の転動体を保持器を介して保持してなり、かつ、請求項1に記載の潤滑剤が封入されていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−227981(P2009−227981A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42586(P2009−42586)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】