説明

潤滑剤用添加剤

【課題】 酸化安定性、熱安定性、耐NOx性を有する極圧添加剤や耐摩耗剤として優れた機能を有する潤滑剤用添加剤及びそれらを含む潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、一般式[I]
【化1】


[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数である。]
で表わされるリン酸エステル誘導体からなる潤滑剤用添加剤、及びこれを配合した潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤用添加剤に関し、さらに詳しくは、酸化安定性、熱安定性、耐NOx劣化性に優れ、極圧添加剤や耐摩耗剤として優れた機能を有する新規なリン酸エステル誘導体 、該リン酸エステル誘導体と亜鉛化合物との反応物又は該リン酸エステル誘導体と有機亜鉛化合物との混合物からなる潤滑剤用添加剤、並びにこれらの添加剤を配合した潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、機械装置が作動する際に部品同志が摺動接触もしくは転動接触して金属表面が摩耗することを防止する能力や摩耗を制御する能力を有することが必要とされる。したがって、潤滑油の耐摩耗性を向上させ、かつ装置の寿命を延長するためには添加剤の役割が極めて重要になってくる。
一方、基油単独では、内燃機関用潤滑油や駆動系潤滑油をはじめとするその他の潤滑油組成物の用途に要求される多くの特殊な性質を有することはできない。そこで、潤滑油用添加剤を使用して、それぞれの特定の性質を付与し、潤滑油組成物の性能を向上させる必要がある。このため、これら潤滑油組成物に使用するのに適した一つあるいはそれ以上の性質を有する潤滑油の探索が行われてきた。
例えば、特許文献1には、潤滑油として、一般式
【0003】
【化1】

【0004】
[式中、Rは炭素数2〜3の飽和脂肪族炭化水素基を示し、XはそれぞれOまたはSを示し、かつ複数のR'はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基などである。]で表されるリンおよび硫黄含有リン酸エステル化合物が開示されているが具体的用途の記載はない。
特許文献2には、一般式
【0005】
【化2】

【0006】
[式中、Aは炭素数2〜6のアルキレン基であり、R'はそれぞれ炭素数2〜4のアルキル基である。]で表されるリン酸エステル誘導体が開示されており、さらに、これをアクリルエステルと共重合して防炎剤として用いられている。
特許文献3には、芳香族アミンと、一般式
【0007】
【化3】

【0008】
[式中、XはOもしくはS(少なくとも1つのはS)であり、mは0又は1(少なくとも3個のmは1)であり、複数のRはアルキル基又は芳香族基である。]で表される有機チオリン酸もしくは亜リン酸とからなるエステルベースの潤滑組成物が開示され、酸化防止剤として用いられている。
特許文献4には、一般式 Ya−S−Yb[式中、Yaは、
【0009】
【化4】

【0010】
であり、Zはヒドロカルビル基であり、Rはそれぞれヒドロカルビル基, ヒドロカルビルオキシキ基などであり、R'は水素又は二価のヒドロカルビル基である。XはS又はOであり、Ybはヒドロカルビル基などである。]で表されるリン及び硫黄含有化合物が記載されており、酸化安定剤及び耐摩耗剤として用いられている。
特許文献5には、一般式
【0011】
【化5】

【0012】
[式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基などであり、R'はアルキル基を示し、xは1〜4であり、mは1または2、m+m'=3である。]で表されるアルキルチオリン酸エステルが記載されており、第一鉄金属の腐食防止剤として用いられている。
特許文献6には、一般式
RO-(CH2CH2O)xP(R')-OH
[式中、Rはアルキルキ基又はアルケニルであり、R'はOH、アルコキシなどでありであり、xは2〜4である。]で表されるアルコキシポリエチレンオキシ酸ホスファイトエステルが開示されており、油に対する水許容度を向上させる添加剤として用いられている。
特許文献7には、一般式
【0013】
【化6】

【0014】
[式中、Rはアルキルなどであり、R'はアルキレン基であり、XはO,NHまたはSを示す。mは1〜3、m'は1〜12、m''は0又は1である。]で表される環式ホスフェートが記載され、自動車トランスミッション液のような潤滑油組成物の摩耗防止剤、酸化防止剤および摩擦改質剤として用いられている。
特許文献8には、燃料ならびに潤滑および機能流体組成物に有用な添加剤として、少なくとも1種の硫黄組成物を、ジ−又はトリ−ヒドロカルビルホスファイト及び/又はアミン化合物と反応させて得られる硫黄含有化合物のリン及び窒素含有誘導体が開示されている。
【0015】
特許文献9及び特許文献10には、(1)β−ヒドロキシチオエーテル反応体、(2)亜リン酸水素ジヒドロカルビル、亜リン酸トリヒドロカルビルおよびそれらの混合物、(3)特定の求核反応体、を含む反応混合物の反応生成物が開示され、耐摩耗剤や酸化防止剤として用いられている。
特許文献11には、一般式
(R−X'−R'−Y')m−P−(OH)3-m
[式中、X'はS(硫黄)、Y'はS(硫黄)またはO(酸素)を示す。Rは炭素数6〜20の有機基、R'は炭素数1〜6の有機基を示す。mは1〜3の整数である。]
及び一般式
【0016】
【化7】

【0017】
[式中、X',Y',R,R'は同上。pは0〜2の整数、qは0又は1の整数を示し、同時に0にはならない。]で表わされるリン及び硫黄含有亜リン酸化合物が記載されている。
特許文献12には、一般式 A−(RO)-(R'O)-P-(O)m [式中、AはHまたはOH、mは0又は1で、mが0のときAはOH、mが1のときAはHまたはOH、RとR'はそれぞれHまたは少なくとも1つのS又はOを含む炭化水素を示す。]で表わされるリン酸及び/又は亜リン酸 と、ホウ素を含むイミド分散剤を加熱処理して得られる組成物が開示されている。
特許文献13には、一般式
【0018】
【化8】

【0019】
[式中、Rはそれぞれ水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基、XはそれぞれOまたSであり、Zは金属原子を示す。]で表わされるリン酸化合物が記載され、塩基価維持性、摩耗防止性の添加剤として用いられている。
しかし、これら従来の添加剤を潤滑油に使用した場合には、高負荷で過酷な条件における極圧性、耐摩耗性および摩擦特性は未だ満足すべきものではなかった。
【0020】
【特許文献1】米国特許第2750342号明細書
【特許文献2】米国特許第2960523号明細書
【特許文献3】米国特許第3446738号明細書
【特許文献4】米国特許第4081387号明細書
【特許文献5】米国特許第4511480号明細書
【特許文献6】米国特許第4579672号明細書
【特許文献7】米国特許第4776969号明細書
【特許文献8】WO88/03554号パンフレット
【特許文献9】WO89/12666号パンフレット
【特許文献10】特表平3−500061号公報
【特許文献11】特開平11−171892号公報
【特許文献12】米国特許第6352962号明細書
【特許文献13】特開2002−294271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、このような状況下でなされたもので、新規なイオウ含有有機リン化合物、及び該化合物を含有する潤滑油用添加剤を提供し、さらに内燃機関や駆動系機械などの高負荷の過酷な運転条件においても、極圧性、耐摩耗性及び摩擦特性に優れた潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らが、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のリン酸エステル誘導体が、熱安定性、酸化安定性、耐NOx性及び塩基価維持性に優れており、極圧剤、耐摩耗剤及び摩擦特性改質剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の潤滑剤用添加剤などを提供するものである。
1.一般式[I]
【0023】
【化9】

【0024】
[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数を示す。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)からなる潤滑剤用添加剤。
2. 一般式[I]
【0025】
【化10】

【0026】
[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数を示す。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)の反応物からなる潤滑剤用添加剤。
3. 一般式[I]
【0027】
【化11】

【0028】
[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数を示す。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)と、有機亜鉛化合物(C)との混合物からなる潤滑剤用添加剤。
4. 上記一般式(I)において、YがO(酸素)のリン酸エステル誘導体である前記1〜3の
いずれかに記載の潤滑剤用添加剤。
5. 亜鉛化合物(B)が、金属亜鉛、亜鉛酸化物、有機亜鉛化合物、亜鉛酸素酸塩、ハロゲン化亜鉛及び亜鉛錯体の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である前記2記載の潤滑剤用添加剤。
6. 亜鉛化合物(B)が、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ジメチル亜鉛、ジフェニル亜鉛及び亜鉛錯体の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である前記2記載の潤滑剤用添加剤。
7. 有機亜鉛化合物(C)が、アルキルカルボン酸亜鉛、アルケニルカルボン酸亜鉛、アルキルフェニルカルボン酸亜鉛及びアルケニルフェニルカルボン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である前記3記載の潤滑剤用添加剤。
8. 有機亜鉛化合物(C)が、オレイン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アルキルフェニルカルボン酸亜鉛、アルキルサリチル酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である前記3記載の潤滑剤用添加剤。
9. 前記1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤を配合してなる潤滑剤用添加剤組成物。
10. 潤滑油基油に、前記1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤をリン元素換算量で0.001〜0.5質量%含有したことを特徴とする潤滑油組成物。
11. 潤滑油基油に、前記1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤をリン元素換算量で0.001〜0.5質量%含有したことを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
12. 前記2又は4に記載のリン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)とを反応して得ることを特徴とする潤滑剤用添加剤の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、NOx雰囲気下における塩基価維持性、すなわちロングドレイン性能に極めて優れ、さらには優れた摩耗防止性能や高温清浄性能を有する。
したがって、NOx ガス濃度の高く、しかも比較的高温下の内燃機関用の潤滑油、例えばガソリン機関やディーゼル機関、さらにはガス機関としての、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、分解ガス、石炭分解ガス等を燃料とする内燃機関のクランクケース油などとして有効に利用される。また、本発明の潤滑油組成物は、塩基価維持性、さらには摩耗防止性能及び高温清浄性が必要とされる潤滑油、例えば、動力伝達用潤滑油、ギヤ油、軸受け油、ショックアブソーバー油、工業用潤滑油などとしても使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本願の第一の発明は、前記一般式[I]で表されるものであるリン酸エステル誘導体(A)か
らなる潤滑剤用添加剤である。
一般式[I]において、R1 は炭素数4〜24の炭化水素基が好ましく、特に炭素数8〜16
のアルキル基が好ましい。R1 の炭素数が4より小さい場合には、油溶性、極圧特性、耐摩耗特性、摩擦特性、潤滑特性に劣るとともに、腐食性が増大する。R1は具体的には、ブチル基,ペンチル基,各種へキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基,各種トリデシル基,各種テトラデシル基,各種ペンタデシル基,各種ヘキサデシル基,各種ヘプタデシル基,各種オクタデシル基,各種ノナデシル基,各種エイコデシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基,各種メチルシクロヘキシル基,各種エチルシクロヘキシル基,各種プロピルシクロアルキル基,各種ジメチルシクロアルキル基などのシクロアルキル基;フェニル基,各種メチルフェニル基,各種エチルフェニル基,各種プロピルフェニル基,各種トリメチルフェニル基,各種ブチルフェニル基,各種ナフチル基などのアリール基;ベンジル基,各種フェニルエチル基,各種メチルベンジル基,各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基などを挙げることができる。
また、一般式[I]において、R2 は炭素数1〜6の炭化水素基が好ましく、特に炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。具体的にはメチレン基,エチレン基,1,2−プロピレン基;1,3−プロピレン基,各種ブチレン基,各種ペンチレン基,各種ヘキシレン基の二価の脂肪族基、シクロヘキサン,メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式基、各種フェニレン基などを挙げることができる。
【0031】
また、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示し、一般式[I]として少なくとも1つ以上のSを含有するものである。nは1〜3の整数を示し、好ましくは1または2であり、さらに好ましくは2である。
上記一般式[I]で表わされるリン酸エステル誘導体の具体例としては、トリ(ヘキシルチオエトキシ)リン酸エステル、トリ(オクチルチオエトキシ)リン酸エステル、トリ(ドデシルチオエトキシ)リン酸エステル、トリ(ヘキサデシルチオエトキシ)リン酸エステル、ジ(ヘキシルチオエトキシ)リン酸エステル、ジ(オクチルチオエトキシ)リン酸エステル、ジ(ドデシルチオエトキシ)リン酸エステル、ジ(ヘキサデシルチオエトキシ)リン酸エステル、モノ(ヘキシルチオエトキシ)リン酸エステル、モノ(オクチルチオエトキシ)リン酸エステル、モノ(ドデシルチオエトキシ)リン酸エステル、モノ(ヘキサデシルチオエトキシ)リン酸エステルなどが挙げられる。
上記一般式[I]で表されるリン酸エステル誘導体の製造方法については、特に制限はないが、例えば、リン酸エステル誘導体は、一般式[II]
1−S−R2−YH ・・・[II]
[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 、R2 は前記同様である。]で表わされるアルキルチオアルキルアルコールまたは、一般式[III]
1−X−R2 −YNa ・・・[III]
[式中、X,Y,R1,R2 は前記同様である。]
で表わされるアルキルチオアルコキシドと、オキシ塩化リン(POCl3)とを、無触媒または塩基の存在下で反応させることにより得ることができる。
【0032】
これらの反応において、アルキルチオアルキルアルコールまたはアルキルチオアルコキシドとオキシ塩化リンの使用割合は、通常、モル比でオキシ塩化リン1モルに対して、アルキルチオアルキルアルコールまたはアルキルチオアルコキシド0.1〜5.0モル、より好ましくは1〜3モル、さらに好ましくは1.5〜2.5モルの範囲である。
また、反応温度は、通常、−20〜100℃、好ましくは−10〜50℃の範囲で選ばれる。この反応は無触媒で行ってもよいし、塩基の存在下に行ってもよい。この塩基には、例えば、トリエチルアミン、ピリジンなどを使用できる。なお、この反応を行うにあたって、溶媒、例えば、キシレン、トルエン、THF、ジエチルエーテルなどを使用することができる。
【0033】
本願の第二の発明は、前記リン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)の反応物からなる潤滑剤用添加剤である。
亜鉛化合物(B)としては、金属亜鉛、亜鉛酸化物、有機亜鉛化合物、亜鉛酸素酸塩、ハロゲン化亜鉛、亜鉛錯体などが好ましく、具体的には亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ジメチル亜鉛、ジフェニル亜鉛、亜鉛錯体などが挙げられる。
リン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)との反応は、無触媒または触媒存在下で反応させることにより得ることができる。この反応において、リン酸エステル誘導体と亜鉛化合物の使用割合は、通常は、モル比で亜鉛化合物1モルに対して、リン酸エステル誘導体0.1〜5.0モル、好ましくは1〜3モル、さらに好ましくは1.5〜2.5モルの範囲である。
また、反応範囲は、通常、室温〜200℃、好ましくは40〜150℃の範囲で選ばれる。なお、この反応を行うにあたって、溶媒、例えば、キシレン、トルエン、ヘキサンなどを使用することができる。
【0034】
本願第三の発明は、リン酸エステル誘導体(A)と有機亜鉛化合物(C)との混合物からなる潤滑剤用添加剤である。
有機亜鉛塩(C)としては、アルキル又はアルケニルカルボン酸亜鉛、アルキル又はアルケニルフェニルカルボン酸亜鉛などが好ましく、具体的にはオレイン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アルキルフェニルカルボン酸亜鉛、アルキルサリチル酸亜鉛などが挙げられる。
上記の如く、本発明における潤滑剤用添加剤は、リン酸エステル誘導体(A)だけで用いることができるが、(A)成分と亜鉛化合物(B)との反応物、または(A)成分と有機亜鉛化合物(C)との混合物として用いることが好ましい。また、これらの反応物および混合物は、一種のものでもよく二種以上のものからなるものでもよい。
これら添加剤の有効配合量は、用途によって異なるが、基油基準にて、通常、リン元素換算量で0.001〜1.0質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%の割合で含有することが好ましい。
【0035】
潤滑油基油としては、鉱油や合成油が使用できる。鉱油,合成油は各種のものがあり、用途などに応じて適宜選定すればよい。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油,ナフテーン系鉱油,中間基系鉱油などが挙げられ、具体例としては、溶剤精製または水添精製による軽質ニュートラル油,中質ニュートラル油,重質ニュートラル油,ブライトストックなどを挙げることができる。
一方合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン,α−オレフィンコポリマー,ポリブテン,アルキルベンゼン,ポリオールエステル,二塩基酸エステル,多価アルコールエステル,ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレングリコールエステル,ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シクロアルカン系化合物などを挙げることができる。
これらの潤滑油基油は、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
本発明の潤滑剤用添加剤組成物においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望に応じ、従来潤滑剤組成物に慣用されている各種添加成分、例えば、清浄分散剤、酸化防止剤、防錆剤、泡消剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、抗乳化剤、他の極圧剤、耐摩耗剤などを配合することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
500ミリリットルのフラスコに、窒素気流下で、水素化ナトリウム13.2g(0.55mol)とキシレン100ミリリットルを入れ、オクチルチオエタノール95.2g(0.5mol)のキシレン(100ミリリットル)溶液を、攪拌しながら滴下した。還流しながら5時間反応した。
一方、1000ミリリットルのフラスコに、氷冷しながら、窒素気流下で、オキシ塩化リン38.3g(0.25mol)とTHF100ミリリットルを入れた。前述の反応混合物を2時間かけて滴下し、その後、室温で1時間反応した。
反応溶液に水10g(0.55mol)を滴下し、室温で1時間攪拌した後、水100ミリリットルを加え、室温で1時間攪拌した。静置して有機層と水層を分離し、再び有機層に水100ミリリットル加え、室温で攪拌する。これを2度行う。有機層から、キシレン及びTHFを蒸留し、未反応のオクチルチオエタノール及び副生成する塩化オクチルチオエチルを減圧蒸留で除去した。 生成したオクチルチオエチルリン酸の収量は75gであった。
【0037】
実施例2
300ミリリットルのフラスコに、実施例1で得られたオクチルチオエチルリン酸45g、トルエン50ml、水1gを入れ、70℃に昇温する。酸化亜鉛4.1g(0.05mol)を添加した。70℃で3時間反応した。トルエンと水を減圧留去後、150N相当の鉱物油15gで希釈し、反応物をろ過した。得られた反応生成物の収量は60gであった。
実施例3
実施例1において、オクチルチオエタノールの代わりにドデシルチオエタノール123.3g(0.5mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応生成物(ドデシルチオエチルリン酸)の収量は92gであった。
実施例4
実施例2において、実施例1で得られた反応生成物の代わりに実施例3で得られた反応生成物(ドデシルチオエチルリン酸)55gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は70gであった。
【0038】
実施例5
実施例1において、オクチルチオエタノールの代わりにヘキシルチオエタノール81.1g(0.5mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応生成物(ヘキシルチオエチルリン酸)の収量は61gであった。
実施例6
実施例2において、実施例1で得られた反応生成物の代わりに実施例5で得られた反応生成物(ヘキシルチオエチルリン酸)33gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は50gであった。
実施例7
実施例1において、オキシ塩化リン38.3g(0.25mol)の代わりにオキシ塩化リン42.2g(0.275mol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応生成物(オクチルチオエチルリン酸)の収量は62gであった。
実施例8
実施例2において、実施例1で得られた反応生成物の代わりに実施例7で得られた反応生成物(オクチルチオエチルリン酸)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は60gであった。
【0039】
実施例9
実施例1において、オキシ塩化リン38.3g(0.25mol)の代わりにオキシ塩化リン34.5g(0.225mol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は78gであった。
実施例10
実施例2において、実施例1で得られた反応生成物の代わりに実施例9で得られた反応生成物(オクチルチオエチルリン酸)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は61gであった。
実施例11
500ミリリットルフラスコに、オレイン酸112.8g(0.4mol)、酸化亜鉛16.2g(0.2mol)、トルエン50ミリリットル、水2gを入れ、70℃で3時間反応した。トルエンと水を減圧留去後、150N相当の鉱物油30gで希釈し、反応物をろ過した。得られた反応生成物の収量は145gであった。
実施例12
実施例11において、オレイン酸の代わりにステアリン酸113.6g(0.4mol)を用いたこと以外は、実施例11と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は148gであった。
実施例13
実施例11において、オレイン酸の代わりにドデシルサリチル酸122.4g(0.4mol)を用いたこと以外は、実施例11と同様にして実施した。得られた反応生成物の収量は156gであった。
【0040】
実施例14〜21及び比較例1,2
第1表の処方により、100N鉱油または500N鉱油の基油に、上記で得られたリン酸エステル誘導体または市販の耐摩耗剤或いはリン酸ジブチルエステル及び各種添加剤を加えて、本発明の潤滑油組成物(実施例14〜21)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1,2)をそれぞれ調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
(注)
*1 水素化精製鉱油、100℃動粘度4.5mm2/s,硫黄分0.0質量%以下
*2 水素化精製鉱油、100℃動粘度10.9mm2/s,硫黄分0.01質量%以下
*3 二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、リン含有量8.2質量%,亜鉛含有量9.0質量%,硫黄含有量17.1質量%
*4 Caサリシレート,Ca:7.94質量%
*5 ポリブテニルコハク酸イミド、窒素含有量1.56質量%
*6 ホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミド、窒素含有量1.76質量%,ホウ素含有量2.0質量%
*7 ジアルキルジフェニルアミンとヒンダードフェノール系酸化防止剤の混合物
*8 金属不活性化剤、消泡剤、抗乳化剤等
【0043】
上記により得られた各組成物について、下記の方法により耐NOx性試験、動弁摩耗試験、及びファレックス耐荷重能試験を行った。
(1)耐NOx性試験
試料油250ミリリットルに、鉄、銅触媒(酸化試験JIS K−2514の試験片)の存在下で濃度8000ppmの一酸化窒素(NO)ガスを6リットル/hrおよび空気を6リットル/hrの割合で吹き込んだ。試料油の温度を140℃に保持し、強制劣化させた時の塩基価(塩酸法)を測定した。塩基価の減少が小さい程、内燃機関で使用されるような窒素酸化物ガス雰囲気下においても塩基価維持性が高く、より長期間使用できる潤滑油であることを示す。
(2)動弁系摩耗試験
JASO M 328−95動弁系摩耗試験を実施し、100時間試験後のロッカーアームパッドスカッフ面積、ロッカーアーム摩耗量、カム摩耗量を測定した。それぞれ10以下の値であれば、耐摩耗性能に優れた潤滑油組成物であることを示す。
(3)ファレックス耐荷重能試験
ピンの材質;AISI−3153、ブロックの材質;AISI−1137、油量;300mL、回転数;290rpm、油温;100℃、荷重1112Nの条件で、5分慣らし運転を行った後、油温100℃で荷重を連続的に増加していき、ASTM D3233に準拠して焼付き荷重を測定した。焼付き荷重が高い程、耐荷重能に優れた潤滑油であることを示す。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
上記第2表に示す耐NOx性試験結果より、本発明の潤滑油組成物(実施例14〜21)は窒素酸化物ガス雰囲気下において優れた塩基価維持性を示している。一方、本発明における耐摩耗剤をジチオリン酸亜鉛に置き換えて同様に試験した比較例1においては、塩基価維持特性が著しく劣っていることがわかる。
また、第3表に示す動弁系摩耗試験結果より、本発明の潤滑油組成物(実施例14、19)の耐摩耗性能は優れたものであるが、比較例1では、耐摩耗性能が著しく劣っていることがわかる。
比較例2は窒素雰囲気下において優れた塩基価持続性を示し(第2表)、耐摩耗性能も優れているが(第3表)、耐荷重性能は本発明の潤滑油組成物(実施例14,19)より著しく劣っていることを示している(第4表)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の潤滑油組成物は、例えば、内燃機関用潤滑油、動力伝達用潤滑油、ギヤ油、軸受け油、ショックアブソーバー油、工業用潤滑油などとして使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]
【化1】

[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数である。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)からなる潤滑剤用添加剤。
【請求項2】
一般式[I]
【化2】

[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数である。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)の反応物からなる潤滑剤用添加剤。
【請求項3】
一般式[I]
【化3】

[式中、YはS(硫黄)またはO(酸素)を示す。R1 は炭素数4から24の有機基、R2 は炭素数1から6の二価の有機基を示す。nは1〜3の整数である。]
で表わされるリン酸エステル誘導体(A)と、有機亜鉛化合物(C)との混合物からなる潤滑剤用添加剤。
【請求項4】
上記一般式(I)において、YがO(酸素)である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤。
【請求項5】
亜鉛化合物(B)が、金属亜鉛、亜鉛酸化物、有機亜鉛化合物、亜鉛酸素酸塩、ハロゲン化亜鉛及び亜鉛錯体の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である請求項2記載の潤滑剤用添加剤。
【請求項6】
亜鉛化合物(B)が、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ジメチル亜鉛、ジフェニル亜鉛及び亜鉛錯体の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である請求項5載の潤滑剤用添加剤。
【請求項7】
有機亜鉛化合物(C)が、アルキルカルボン酸亜鉛、アルケニルカルボン酸亜鉛、アルキルフェニルカルボン酸亜鉛及びアルケニルフェニルカルボン酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である請求項3記載の潤滑剤用添加剤。
【請求項8】
有機亜鉛化合物(C)が、オレイン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アルキルフェニルカルボン酸亜鉛、アルキルサリチル酸亜鉛の群から選ばれた少なくとも一つの化合物である請求項7記載の潤滑剤用添加剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤を配合してなる潤滑剤用添加剤組成物。
【請求項10】
潤滑油基油に、請求項1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤をリン元素換算量で0.001〜0.5質量%含有したことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項11】
潤滑油基油に、請求項1〜8のいずれかに記載の潤滑剤用添加剤をリン元素換算量で0.001〜0.5質量%含有したことを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項12】
請求項2又は4に記載のリン酸エステル誘導体(A)と亜鉛化合物(B)とを反応して得ることを特徴とする潤滑剤用添加剤の製造方法。



【公開番号】特開2006−63248(P2006−63248A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249807(P2004−249807)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】