説明

潤滑油組成物

【課題】ZnDTP単独添加油の摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化が可能で優れた摩擦低減性を示す潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油、および、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、該リン化合物の金属塩が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.12質量%含有する潤滑油組成物。


[一般式(1)中、R〜Rは炭素数3〜30の直鎖型アルキル基であって、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、X〜Xは硫黄または酸素原子であって、X〜Xのうちの3個は酸素原子、1個は硫黄原子、Yは2価以上の金属原子である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機、グリースなどには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられている。これらの用途における潤滑油のうち特に内燃機関用潤滑油(「エンジン油」ともいう。)には、内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求されるようになってきている。
【0003】
従来の内燃機関用潤滑油においては、上述の要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。中でもジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、摩耗防止剤又は酸化防止剤としての機能を有するため、内燃機関用潤滑油には不可欠な添加剤として使用されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−302378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、省燃費エンジン油では、摩擦損失を低減させ、燃費を向上させるため、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートなどの金属及び硫黄を含有する有機モリブデン化合物を添加することが一般的に行われてきた。そして摩擦低減効果を発揮させるためには、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)などの金属及び硫黄を含有する化合物をある程度多量に併用し、摺動面に二硫化モリブデン皮膜を形成させる手法が一般的に行われてきた。このため、従来型の省燃費エンジン油は硫黄分の比較的多い配合となり、性能を維持しつつ低硫黄化するのは困難であるとされてきた。この問題を解決するため、ZnDTPに代わってジアルキルリン酸亜鉛(ZP)を配合することにより、優れた摩擦低減性を維持しながら低硫黄化することが提案されたが、摩耗防止性に問題があることが判明した。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化と優れた摩擦低減性を両立させることが可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ZnDTPに代わって、特定のジアルキルモノチオリン酸亜鉛を使用することにより、ZnDTP単独添加油の摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化と優れた摩擦低減性を示すことを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0008】
第1の本発明は、潤滑油基油、および、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、該リン化合物の金属塩が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.12質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物である。
【0009】
【化1】

[一般式(1)中、R〜Rは炭素数3〜30の直鎖型アルキル基であって、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、X〜Xは硫黄または酸素原子であって、X〜Xのうちの3個は酸素原子、1個は硫黄原子、Yは2価以上の金属原子である。]
【0010】
第1の本発明において、リン化合物の金属塩における前記直鎖型アルキル基の炭素数は6〜9であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑油組成物によれば、ZnDTP単独添加油の摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化と優れた摩擦低減性を示すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<潤滑油組成物>
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油、および、所定のリン化合物金属塩を含有してなる。
【0013】
(潤滑油基油)
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油としては、特に制限されず、通常の潤滑油に使用されるものが使用できる。具体的には、鉱油系潤滑油基油、合成油系潤滑油基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油基油を任意の割合で混合した混合物等が使用できる。
【0014】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTLワックス(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0015】
合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0016】
潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは50mm/s以下、より好ましくは40mm/s以下、更に好ましくは20mm/s以下、特に好ましくは10mm/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が50mm/sを超えると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは2mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が1mm/s未満の場合には、潤滑部位における油膜形成が不十分となって潤滑性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油の蒸発損失量が増加する傾向にある。ここでいう100℃における動粘度とは、JIS K2283に規定される100℃での動粘度を示す。
【0017】
また、潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温粘度特性の観点から、80以上であることが好ましい。また、低温から高温までの幅広い温度領域において優れた粘度特性が得られる観点から、潤滑油基油の粘度指数は100以上であることがより好ましく、110以上であることが更に好ましく、特に120以上であることが好ましい。
【0018】
また、潤滑油基油の硫黄分含有量は特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下、特に実質的に含有しない(0.001質量%以下)ものが好ましい。なお、本発明でいう「硫黄分含有量」とは、JIS K2541−4「放射線式励起法」(通常、0.01〜5質量%の範囲)又はJIS K2541−5「ボンベ式質量法、附属書(規定)、誘導結合プラズマ発光法」(通常、0.05質量%以上)に準拠して測定された値を意味する。
【0019】
また、潤滑油基油の全芳香族含有量は、特に制限はないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。潤滑油基油の全芳香族含有量が30質量%を超えると、酸化安定性が不十分となる傾向にある。なお、本発明でいう「全芳香族含有量」とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0020】
(リン化合物の金属塩)
本発明の潤滑油組成物は、上記の潤滑油基油に加えて、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩を含有する。
【0021】
【化2】

【0022】
上記一般式(1)中、R〜Rは炭素数3〜30の直鎖型アルキル基であって、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、X〜Xは硫黄または酸素原子であって、X〜Xのうちの3個は酸素原子、1個は硫黄原子、Yは2価以上の金属原子である。
【0023】
上記一般式(1)中、R〜Rで表される炭素数3〜30の直鎖型アルキル基としては、例えば、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基等を挙げることができる。
【0024】
〜Rは、炭素数4〜14の直鎖型アルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数5〜12の直鎖型アルキル基、更に好ましくは炭素数6〜9の直鎖型アルキル基である。
【0025】
〜Xは硫黄または酸素原子であるが、X〜Xのうちいずれか1個が硫黄原子、残りの3個が酸素原子である限り、X〜Xのうちどれが硫黄原子であっても構わない。
【0026】
上記金属塩における金属としては、具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属等が挙げられる。これらの中では、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0027】
本発明において、上記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の潤滑油組成物において、一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005質量%以上0.12質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.01質量%以上0.115質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上0.11質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以上0.105質量%以下である。なお、一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩の含有量が前記下限値未満であると耐摩耗性が不十分となり、また、前記上限値を超えると排気ガス浄化触媒の被毒を起こす可能性があるため好ましくない。
【0029】
(各種添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油及び一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩に加えて、後述する各種添加剤を含有することができる。
【0030】
(その他のリン化合物の金属塩)
本発明の潤滑油組成物は、一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩以外に、式(2)および式(3)で示すリン化合物の金属塩を含有することができる。
【0031】
【化3】

【0032】
上記一般式(2)中、Rは炭素数1〜30のアルキル基を示し、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基を示し、mは0又は1を示す。]
【0033】
【化4】

【0034】
一般式(3)中、Rは炭素数1〜30のアルキル基を示し、R及びR10は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基を示し、nは0又は1を示す。
【0035】
上記一般式(2)および(3)中、R〜R10は炭素数1〜30のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0036】
上記金属塩としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属塩等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0037】
なお、上記一般式(2)および(3)のリン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、一般式(2)および(3)のリン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(4)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0038】
【化5】

【0039】
上記一般式(4)中、R11およびR12は、炭素数1〜30のアルキル基であり、nは0又は1である。
【0040】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記一般式(5)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0041】
【化6】

【0042】
上記一般式(5)中、R13は、炭素数1〜30のアルキル基であり、nは0又は1である。
【0043】
本発明において、上記一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物の金属塩は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物の金属塩の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で0.05質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の潤滑油組成物中の全リン濃度は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005質量%以上0.12質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.11質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上0.105質量%以下であることがより好ましい。潤滑油組成物中のリン濃度が前記上限値を超えると、排気ガス浄化触媒の被毒を起こすおそれがある。
【0046】
(金属系清浄剤)
本発明の潤滑油組成物は、その酸中和特性、高温清浄性及び摩耗防止性を更に向上させるために、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。
【0047】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属ホスホネート又はアルカリ土類金属ホスホネート、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0048】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
【0049】
石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0050】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0051】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0052】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートには、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。
【0053】
また、金属系清浄剤は通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。また金属系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gである。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0054】
本発明においては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等から選ばれる1種を単独で又は2種以上併用して使用することができる。金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートが低灰化による摩擦低減効果が大きい点、ロングドレイン性により優れる点で特に好ましい。
【0055】
金属系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常20以下のものが使用できるが、摩擦低減効果及びロングドレイン性をより向上させることができる点から、好ましくは金属比が1〜10の金属系清浄剤から選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、サリチル酸基等を意味する。
【0056】
本発明の潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量の上限値は特に制限はなく、通常、組成物全量を基準として、金属元素換算量で0.5質量%以下であるが、組成物全量を基準として、組成物の硫酸灰分が1.0質量%以下となるようにその他の添加剤と併せて調整することが好ましい。そのような観点から、金属系清浄剤の含有量は、組成物全量を基準として、金属元素換算量で、好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以下である。また、金属系清浄剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上である。金属系清浄剤の含有量が0.01質量%未満の場合、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能が得られにくくなるため好ましくない。
【0057】
(無灰分散剤)
また、本発明の潤滑油組成物は、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0058】
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0059】
無灰分散剤の具体的としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(I)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(II)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(III)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0060】
上記(I)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(6)又は(7)で示される化合物等が例示できる。
【0061】
【化7】

【0062】
一般式(6)中、R14は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0063】
【化8】

【0064】
上記一般式(7)中、R15及びR16は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、rは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0065】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した一般式(6)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した一般式(7)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。
【0066】
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルまたはアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0067】
上記(II)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(8)で表される化合物等が例示できる。
【0068】
【化9】

【0069】
上記一般式(8)中、R17は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、yは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0070】
上記(III)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(9)で表される化合物等が例示できる。
18−NH−(CHCHNH)−H (9)
上記一般式(9)中、R18は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、zは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0071】
また、無灰分散剤の一例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物;等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ素変性化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるために有効である。
【0072】
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、通常、潤滑油組成物全量基準で、0.01質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、高温下における塩基価維持性に対する効果が少なく、一方、20質量%を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するため、それぞれ好ましくない。
【0073】
(連鎖停止型酸化防止剤)
また、本発明の潤滑油組成物は、連鎖停止型酸化防止剤を更に含有することが好ましい。これにより、潤滑油組成物の酸化防止性がより高められるため、本発明における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めることができる。
【0074】
連鎖停止型酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、金属系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。
【0075】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4´−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4´−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4´−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4´−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2´−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N´−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4´−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4´−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2´−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2´−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
更に、上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて使用してもよい。
【0078】
本発明の潤滑油組成物において連鎖停止型酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。その含有量が5.0質量%を超える場合は、含有量に見合った十分な酸化防止性が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、潤滑油劣化過程における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるためには、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。
【0079】
(一般的な添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0080】
摩耗防止剤としては、例えば、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油脂、ジチオリン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオカルバミン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオリン酸エステル及びその誘導体(オレフィンシクロペンタジエン、(メチル)メタクリル酸、プロピオン酸等との反応物;プロピオン酸の場合はβ位に付加したものが好ましい。)、トリチオリン酸エステル、ジチオカルバミン酸エステル等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは通常、組成物全量基準で0.005質量%以上5質量以下の範囲において本発明の組成物の性能を大幅に損なわない限り含有させることが可能であるが、低硫黄化及びロングドレイン性の点から、その含有量は、組成物全量基準で、硫黄換算値で、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。
【0081】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。これら摩擦調整剤の含有量は、通常、組成物全量基準で、0.1質量%以上5質量%以下である。
【0082】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水素化物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0083】
これらの粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
【0084】
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常、組成物全量基準で、0.1質量%以上20質量%以下である。
【0085】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0086】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0087】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0088】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0089】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0090】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005質量%以上5質量%以下、金属不活性化剤では0.005質量%以上1質量%以下、消泡剤では0.0005質量%以上1質量%以下の範囲で通常選ばれる。
【0091】
(本発明の潤滑油組成物の動粘度)
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4.1mm/s以上21.9mm/s以下であり、好ましくは5.6mm/s以上16.3mm/s以下、更に好ましくは5.6mm/s以上12.5mm/s以下である。
【0092】
(本発明の潤滑油組成物の硫黄含有量)
本発明の潤滑油組成物における硫黄含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。硫黄含有量を前記上限値以下とすることによって、ロングドレイン性に優れた低硫黄潤滑油組成物を実現することができる。
【0093】
(本発明の潤滑油組成物の用途)
本発明の潤滑油組成物は、摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化と優れた摩擦低減性を両立させることができるため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができる。また、その他摩耗防止性能及びロングドレイン性能が要求される潤滑油、例えば自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(1)リン化合物金属塩の摩擦低減効果
(実施例1〜3、比較例1〜4)
実施例1〜3及び比較例1〜4においては、100℃動粘度2.0mm/sのポリα−オレフィンを基油として、表1に示すように各種リン化合物金属塩を、リン元素換算で0.10質量%添加した組成物について摩擦低減効果を評価した。結果を同じく表1に示した。摩擦係数の評価は下記ブロック−オン−リング試験(Block on ring試験)により行った。なお、表1における質量%は、組成物全量基準の値である。
【0095】
(ブロック−オン−リング試験)
ブロック−オン−リング試験は、ASTM D3701、D2714に準拠して行った。試験条件は、荷重:445N、油温:100℃とし、すべり速度は、表1中に記載した。
【0096】
【表1】

【0097】
(2)組成物の摩耗防止性評価
(実施例4、比較例5〜6)
鉱油系基油を用い、表2に示すようにリン化合物金属塩およびその他の添加剤を添加した組成物を調製し、摩耗防止性を評価した。結果を同じく表2に示す。摩耗防止性の評価は下記KA24E動弁系摩耗試験により行った。
【0098】
(KA24E動弁系摩耗試験)
KA24E動弁系摩耗試験は、JASO M328−95に準拠して行った。
【0099】
【表2】

【0100】
表1に示した結果から、直鎖ジアルキルモノチオリン酸亜鉛塩を用いた実施例1〜3の潤滑油組成物は、ジアルキルリン酸亜鉛を用いた比較例1、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いた比較例2〜3、分枝ジアルキルモノチオリン酸亜鉛塩を用いた比較例4に比べて、いずれの条件においても摩擦係数が低く、省燃費性に優れていることが分かった。
【0101】
表2に示した結果から、直鎖ジアルキルモノチオリン酸亜鉛塩を用いた実施例4の組成物は、ジアルキルリン酸亜鉛を用いた比較例5、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いた比較例6に比べて摩耗防止性に優れていることが分かった。
【0102】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う潤滑油組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の潤滑油組成物は、摩耗防止性を維持しながら、低硫黄化と優れた摩擦低減性を両立させることができるため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができる。またその他摩耗防止性能及びロングドレイン性能が要求される潤滑油、例えば自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油、および、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩を含有し、該リン化合物の金属塩が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.12質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】

[一般式(1)中、R〜Rは炭素数3〜30の直鎖型アルキル基であって、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、X〜Xは硫黄または酸素原子であって、X〜Xのうちの3個は酸素原子、1個は硫黄原子、Yは2価以上の金属原子である。]
【請求項2】
前記リン化合物の金属塩における前記直鎖型アルキル基の炭素数が6〜9であることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−202132(P2011−202132A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73475(P2010−73475)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】