説明

潤滑被膜形成方法及び潤滑処理方法

【課題】被加工材と潤滑被膜の密着性を向上させる。
【解決手段】被加工材1に潤滑剤溜まり2を形成する表面処理工程と、表面処理した被加工材1の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜5を形成する潤滑被膜形成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金等の冷間塑性加工用素材の表面に冷間塑性加工用の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成方法及び潤滑処理方法に関し、特に、被加工材との密着性に優れた水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成方法及び潤滑処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金等の金属材料を冷間塑性加工する場合には、加工される金属材料(以下、被加工材と称する)をそのまま、又は被加工材の表面の酸化膜をショットブラスト処理により取り除くことを行う。
【0003】
冷間塑性加工する場合には、被加工材に冷間塑性加工用の潤滑被膜を形成し、摩擦を低減させる。被加工材に潤滑被膜を形成する際には、まず、被加工材と潤滑被膜の密着性を良くするために下地被膜を形成し、次に下地被膜上に潤滑被膜を形成する。
【0004】
被加工材が鉄鋼の場合はリン酸塩被膜を下地膜として形成し、ステンレス鋼の場合はシュウ酸塩被膜を形成し、アルミニウム及びアルミニウム合金の場合はフッ化アルミニウム系被膜を形成し、銅及び銅合金の場合は亜酸化銅被膜を形成し、チタン及びチタン合金の場合はフッ化チタン系被膜を形成する。そして、この下地被膜上に加工度に応じて異なる種類の潤滑被膜を形成する。例えば、加工度が低い場合は、油や金属石けん等で潤滑被膜を形成し、加工度が高い場合は二硫化モリブデン等で潤滑被膜を形成する。
【0005】
しかしながら、下地被膜は、化学反応によって形成するため処理工程が多工程になり、管理が煩雑となる上、廃酸、反応副生成物、重金属含有廃水等が発生する。そのため、潤滑被膜の形成方法としては、処理工程が少なく管理が簡便であって、産業廃棄物の発生を低減できる環境対応型の形成方法が望まれている。
【0006】
このような問題点を解決するため、特許文献1には、ケイ酸ナトリウムとポリアミド樹脂粉末又は二硫化モリブデン粉末を水に分散させた第1潤滑剤と、ワックス又はワックスと金属石けんを水に分散させた第2潤滑剤とからなる水系2層塗布型の潤滑被膜が提案されている。特許文献1には、第1潤滑剤で被加工材の表面に密着性や耐焼付性等に優れた第1層潤滑被膜を形成し、その上に第2潤滑剤で優れた摩擦低減性能を有する第2層潤滑被膜を形成することが記載されている。
【0007】
しかしながら、この水系2層塗布型の潤滑被膜は、きびしい加工条件の場合には被加工材との密着性が十分ではなく、塑性加工の際に剥がれてしまったりするため、被加工材との密着性を向上させる必要がある。
【0008】
また、潤滑被膜の優れた摩擦低減性能を発揮させるためには、大量生産される被加工材の表面に第1層潤滑被膜と第2層潤滑被膜を複数の被加工材間でばらつくことなく且つ効率良く成膜する必要がある。このため、例えば複数の被加工材をかご状の容器に入れてクレーンで吊り下げ、各種処理液がそれぞれ貯留されている複数の槽に順に容器を搬送しては浸漬する作業が繰り返し行われている。しかしながら、かかる方法では、作業者によって品質にばらつきが生じることが依然としてある上、多大な手間と労力を要してしまう。
【0009】
そこで、潤滑被膜と被加工材との密着性が高く、複数の被加工材間でばらつくことなく且つ効率良く優れた摩擦低減性能を有する潤滑被膜を成膜できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−222890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上述した従来の事情に鑑みて提案されたものであり、大量生産される被加工材に対して、被加工材との密着性が高く、均一且つ効率良く、優れた摩擦低減性能を有する水系2層塗布型の潤滑被膜を形成できる潤滑被膜形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するために、本発明に係る潤滑被膜形成方法は、被加工材に潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程とを有することを特徴とする。
【0013】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る潤滑被膜形成方法は、被加工材にウェットブラスト、酸エッチング又はアルカリエッチングにより潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程とを有し、潤滑被膜形成工程は、表面処理後の被加工材を洗浄する洗浄工程と、潤滑剤溜まりを形成した被加工材の表面に第1潤滑剤を付着させ乾燥して第1潤滑剤層を形成する第1潤滑剤層形成工程と、第1潤滑剤層上に第2潤滑剤を付着させ乾燥して第2潤滑剤層を形成する第2潤滑剤層形成工程とを有することを特徴とする。
【0014】
更に、上述した目的を達成するために、本発明に係る潤滑処理方法は、被加工材に潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程と、被加工材の表面から潤滑被膜を除去する潤滑被膜除去工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、被加工材の表面に潤滑剤溜まりを形成することによって被加工材との密着性が高く、また複数の被加工材間でばらつくことなく且つ効率よく優れた摩擦低減性能を有する潤滑被膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した潤滑被膜形成方法により潤滑被膜が形成された被加工材の断面図である。
【図2】同潤滑被膜形成方法のフローチャートである。
【図3】潤滑被膜形成装置の処理ユニットを示す図である。
【図4】各処理ユニットの構成を示す図である。
【図5】同潤滑被膜形成装置の第1処理ユニットの動作を示す図である。
【図6】潤滑処理方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を適用した潤滑被膜形成方法及び潤滑処理方法について図面を参照しながら、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0018】
<1.潤滑被膜形成方法>
潤滑被膜形成方法は、図1に示すように、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料であって冷間塑性等の塑性加工用素材となる被加工材1に対して、この被加工材1の表面を粗くして潤滑剤溜まり2を形成した後、第1潤滑剤層3及び第2潤滑剤層4とからなる潤滑被膜5を形成する。
【0019】
具体的に、潤滑被膜形成方法は、図2に示すように、被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2を形成する表面処理工程S1と、表面処理した被加工材1を脱脂する脱脂工程S2と、脱脂後の被加工材1を洗浄する洗浄工程S3と、潤滑剤溜まり2を形成した被加工材1の表面に第1潤滑剤を付着させ乾燥して第1潤滑剤層3を形成する第1潤滑剤層形成工程S4と、第1潤滑剤層3上に第2潤滑剤を付着させ乾燥して第2潤滑剤層4を形成する第2潤滑剤層形成工程S5と有する。脱脂工程S2から第2潤滑剤層形成工程S5までが潤滑被膜形成工程に相当する。
【0020】
(表面処理工程S1)
潤滑被膜形成方法は、先ず、表面処理工程S1において被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2を形成する。表面処理工程S1は、潤滑被膜5を形成する被加工材1の表面を粗くする。
【0021】
表面処理は、ショットブラスト、ワイヤーブラシ、ドライアイスブラスト、ウェットブラスト等の物理的方法や酸エッチング、アルカリエッチング等の化学的方法によって、被加工材1の表面に凹凸を形成することで被加工材1の表面を粗くする。これらの中でもウェットブラストやアルカリエッチング、酸エッチングは、ショットブラスト等の他の方法と比べて、粗さを細かくすることができるため、潤滑被膜5との密着性をより高くすることができる。ウェットブラストは、アルカリエッチング、酸エッチングよりもより粗さを細かくすることができるため特に好ましい。また、ウェットブラストやアルカリエッチング、酸エッチングにより表面処理をした場合には、被加工材1を表面処理すると共に表面の油分や汚れ、酸化膜等も除去できるため、後の脱脂工程S2を省略できる場合がある。なお、物理的方法と化学的方法とを組み合わせて表面処理を行っても良く被加工材1に応じて最適な方法を選択する。なお、アルミニウム等の強度が低いものの場合には、物理的方法よりも化学的方法の方が好ましい。
【0022】
被加工材1の表面では、表面処理により形成された凹部分に潤滑剤が溜まるようになり、この凹部部分が潤滑剤溜まり2となる。被加工材1は、表面に潤滑剤溜まり2を形成することによって、凹部部分に第1潤滑剤が入り込むため、第1潤滑剤層3との密着力が高くなり、密着性が良く、表面が均一な潤滑被膜5が形成される。表面処理工程S1では、第1潤滑剤及び第2潤滑剤の潤滑性能を十分に発揮させることができる最適な潤滑剤溜まり2を形成する。
【0023】
最適な表面粗さは、被加工材1の塑性加工条件によって異なるが、一般的に、十点平均粗さ(Rz)が大きく、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が小さくなるように表面処理することが好ましい。具体的に、表面粗さは、十点平均粗さが3μm〜50μmの範囲内であり、粗さ曲線要素の平均長さが10μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。ショットブラスト、ワイヤーブラシ、ドライアイスブラストでは、深さが深い潤滑剤溜まり2を形成でき、ウェットブラスト、酸エッチング、アルカリエッチングでは、凹凸の間隔が狭く、被加工材1の表面をより緻密に粗くすることができる。十点平均粗さ及び粗さ曲線要素の平均長さをこのような範囲とすることによって、第1潤滑剤層3との密着性が高くなり、被加工材1と潤滑被膜5の密着性が高くなる。このような表面粗さは、被加工材1の表面に対してアルカリ脱脂や酸洗を行った場合に表面が粗くなるが、この表面粗さよりも十点平均粗さ(Rz)が大きく、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が小さいものである。十点平均粗さは、JIS B0601−1994に準じ、粗さ曲線要素の平均長さは、JIS B0601−2001に準じた値である。
【0024】
次に、被加工材1の油分、酸化膜や汚れ等を除去する脱脂洗浄を行うかどうかを判断する。表面処理工程S1においてショットブラスト、ワイヤーブラシ、ドライアイスブラストで表面処理を行った場合には、油分等を除去するために脱脂洗浄を行う必要がある。したがって、この場合には、脱脂工程S2へ進み、被加工材1を脱脂洗浄する。
【0025】
一方、表面処理工程S1においてウェットブラストやアルカリエッチング、酸エッチングで表面処理を行った場合には、被加工材1を表面処理すると共に表面の油分、酸化膜や汚れ等も除去できるため、脱脂工程S2が不要となる場合がある。脱脂工程S2が不要である場合には、洗浄工程S3へと進む。なお、ウェットブラストやアルカリエッチング、酸エッチングによっても十分に油分、酸化膜や汚れ等が除去できない場合には、脱脂工程S2が必要と判断し、脱脂工程S2へ進み、脱脂洗浄を行ってもよい。
【0026】
(脱脂工程S2)
脱脂工程S2では、例えばアルカリ脱脂液を用いたアルカリ脱脂洗浄を行う。アルカリ脱脂洗浄を行う場合には、アルカリ脱脂液が入ったアルカリ脱脂洗浄層の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃に加温した状態でアルカリ脱脂液に被加工材1を1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間浸漬させ、被加工材1の表面を洗浄する。
【0027】
アルカリ脱脂洗浄層の温度が40℃未満では、アルカリ脱脂の洗浄力が不足する上、被加工材1が十分に温まらないので、第1潤滑剤層3及び第2潤滑剤層4を形成する際に付着される第1潤滑剤及び第2潤滑剤の乾燥が非効率になる。一方、アルカリ脱脂洗浄槽を90℃を超えて加温しても、これらの洗浄効果及び乾燥効率はあまり上昇しないので経済的ではない。
【0028】
また、被加工材1の浸漬時間が1分間未満では、被加工材1の表面の洗浄が不十分となるので、品質上の問題が生じるおそれがある。また、被加工材1の加温も不十分となるので、上述したように第1層潤滑剤及び第2層潤滑剤の乾燥が不十分になる。一方、10分間を超えて浸漬しても洗浄効果及び乾燥効率はあまり上昇しない。
【0029】
したがって、アルカリ脱脂洗浄は、アルカリ脱脂洗浄槽の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間とすることにより、被加工材1に対して均一且つ効率良くアルカリ脱脂による洗浄を行うことができる。
【0030】
(洗浄工程S3)
次に、洗浄工程S3へ進み、アルカリ脱脂洗浄を行った被加工材1又は表面処理を行った被加工材1を洗浄する。この洗浄工程S3では、例えば温水で洗浄を行う。温水で洗浄する場合には、40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃の温水に、被加工材1を10秒間〜180秒間、好ましくは10秒間〜60秒間浸漬して被加工材1を洗浄する。
【0031】
温水の温度が40℃未満では、被加工材1が十分温まらず、後工程の第1潤滑剤層3及び第2潤滑剤層4を形成する際に付着される第1潤滑剤及び第2潤滑剤の乾燥が不十分になる。温水の温度が90℃程度あれば、十分に洗浄されるので、この温度を超えた加熱は不経済となる。
【0032】
また、被加工材1の浸漬時間が10秒間未満では、被加工材1の洗浄が不十分になり、180秒間程度で十分に洗浄されるので180秒間を超えた湯洗は不経済である。なお、被加工材1の素材等により60秒程度であっても十分に洗浄することができる場合がある。
【0033】
したがって、洗浄は、温水の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を10秒間〜180秒間、より好ましくは10秒間〜60秒間とすることにより、被加工材1に対して均一且つ効率良く洗浄を行うことができる。
【0034】
脱脂工程S2と洗浄工程S3は、被加工材1の浸漬から、アルカリ脱脂液や温水の液切り、被加工材1の排出までを一連の処理で行うため、十分な脱脂及び洗浄が行われる。
【0035】
(第1潤滑剤層形成工程S4)
次に、第1潤滑剤層形成工程S4へ進み、温水洗浄を行った被加工材1の潤滑剤溜まり2を形成した表面に水系の第1潤滑剤を浸漬又はスプレー等の方法により付着させ、乾燥することで第1潤滑剤層3を形成する。この第1潤滑剤層3は、被加工材1との密着性を良くし、耐焼付性、塑性変形に対する追随性能、カス溜まり防止性能等を有する。
【0036】
第1潤滑剤層形成工程S4では、脱脂工程S2において脱脂を行った場合、40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃の第1潤滑剤に被加工材1を5秒間〜600秒間、好ましくは10秒間〜60秒間浸漬する。そして、第1潤滑剤から被加工材1を取出して、第1潤滑剤を乾燥させて被加工材1の表面に第1潤滑剤層3を形成する。
【0037】
第1潤滑剤層形成工程S4において、第1潤滑剤の温度が40℃未満では被加工材1の乾燥が不十分になり、第1潤滑剤の温度が90℃を超えると第1潤滑剤の劣化が促進されるおそれがある。また、被加工材1の浸漬時間が5秒間未満では、被加工材1の表面全体が第1潤滑剤で濡れず、600秒間程度で被加工材1の表面全体が十分濡れるのでそれを超えた浸漬は不経済となる。
【0038】
一方、脱脂工程S2を省略した場合には、被加工材1自体を温めるため、第1潤滑剤への浸漬時間を1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間とする。1分間未満では、処理後の乾燥が不十分になり、10分間程度で十分温まっているので10分間を超えた浸漬は不経済となる。
【0039】
以上より、第1潤滑剤層形成工程S4では、第1潤滑剤の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、脱脂を行った被加工材1の浸漬時間を5秒間〜600秒間、好ましくは10秒間〜60秒間とし、脱脂を行っていない被加工材1の浸漬時間を1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間とすることにより、被加工材1の表面に対する密着性が高く、耐焼付性、塑性変形に対する追随性能、カス溜まり防止性能等に優れた第1潤滑剤層3を均一且つ効率良く形成することができる。
【0040】
また、この第1潤滑剤層形成工程S4では、第1潤滑剤が凹凸状に形成された凹部部分の潤滑剤溜まり2内に入り込むため、被加工材1と密着性が高い第1潤滑剤層3を形成することができる。第1潤滑剤層3の厚さは、0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmが更に好ましい。第1潤滑剤層3の厚さを0.1〜50μm、より好ましくは1〜20μmとすることによって、被加工材1との密着性が良く、耐焼付性、塑性変形に対する追随性能、カス溜まり防止性能等の優れた性能を発揮できる。
【0041】
ここで、第1潤滑剤は、固体潤滑剤と結合剤とを含有するものであり、これら又はこれらと他の任意成分とを水に溶解・分散した水系のものである。第1潤滑剤としては、例えば必須成分のケイ酸ナトリウムと、ポリアミド樹脂粉末又は二硫化モリブデン粉末とを水に溶解・分散させたものが挙げられる。第1潤滑剤は、第1潤滑剤層3の密着性が良く、耐焼付性、塑性変形に対する追随性能、カス溜まり防止性能等に優れた性能を有するように、固体潤滑剤と結合剤を適宜配合する。
【0042】
ケイ酸ナトリウムは、化学式NaO・nSiOで表され、且つnが2.8〜4.4のものが好ましく、3.2〜4.3の範囲が更に好ましい。nが2.8未満の場合は、吸湿性が強く、経時変化により密着性能が低下しやすくなり、nが4.4を超える場合には水溶液として不安定であるため好ましくない。nが2.8〜4.4のケイ酸ナトリウムを用いることで、被加工材1への密着性を有する第1潤滑剤層3が得られるだけでなく、吸湿性が弱いため経時変化による密着性能の低下が起こり難く、安定した被膜特性を発揮することができる。
【0043】
ポリアミド樹脂粉末は、水に分散してケイ酸ナトリウムと混合した場合、ケイ酸ナトリウムとの相性が良く、一体化した被膜を被加工材1の表面に形成すると強固に密着し、密着性能、耐焼付性能、材料流れへの追随性能、カス溜まり防止性能を持つ第1潤滑剤層3を形成することができる。
【0044】
また、二硫化モリブデン粉末は、単独で若しくは黒鉛粉末と併用し、水に分散してケイ酸ナトリウムと混合した場合、ケイ酸ナトリウムとの相性が良く、一体化した被膜を被加工材1の表面に形成して強固に密着し、密着性能、耐焼付性能、材料流れへの追随性能、カス溜まり防止性能を持つ第1潤滑剤層3を形成することができる。二硫化モリブデン粉末及び黒鉛粉末は、一般的に固体潤滑剤として用いられるグレードのものが好ましい。更に、上記したポリアミド樹脂粉末と二硫化モリブデン粉末とを併用し、あるいはポリアミド樹脂粉末と二硫化モリブデン粉末及び黒鉛粉末とを併用して、水に分散してケイ酸ナトリウムと混合することによって第1潤滑剤とすることもできる。なお、ポリアミド樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末、黒鉛粉末は、平均粒径が小さいものが好ましく、例えば平均粒径10μm以下が特に好ましい。また、第1潤滑剤には、必要に応じて、界面活性剤、沈降防止剤、増粘剤、防錆剤、消泡剤等を配合して調製することも可能である。
【0045】
以上のようにして形成した第1潤滑剤層3は、被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2が形成されていることによって、密着性が高く、耐焼付性等を有する。そして、次工程において、被加工材1の摩擦を低減させるために、第1潤滑剤層3上に第2潤滑剤層4を形成する。
【0046】
(第2潤滑剤層形成工程S5)
次に、第2潤滑剤層形成工程S5へ進み、被加工材1に形成した第1潤滑剤層3上に第2潤滑剤を付着させ、乾燥することで第2潤滑剤層4を形成する。第2潤滑剤層4は、被加工材1の摩擦を低減させる。第2潤滑剤層形成工程S5では、40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃の水系の第2潤滑剤に被加工材1を5秒間〜120秒間、より好ましくは10秒間〜60秒間浸漬する。そして、第2潤滑剤から被加工材1を取出して、第2潤滑剤を乾燥させて、被加工材1の表面に第2潤滑剤層4を形成する。この第2潤滑剤層形成工程S5により、被加工材1の表面に第1潤滑剤層3及び第2潤滑剤層4とからなる水系2層塗布型の潤滑被膜5を形成する。第2潤滑剤層4の厚さは、0.1〜30μmが好ましく、0.1〜10μmが更に好ましい。第2潤滑剤層4の厚さを0.1〜30μm、より好ましくは0.1〜10μmとすることによって、十分に摩擦低減性能、カス溜まり防止性能を発揮することができる。
【0047】
第2潤滑剤層形成工程S5において、第2潤滑剤の温度が40℃未満では、乾燥が不十分になり、90℃を超えると第2潤滑剤の劣化が促進されるおそれがある。また、被加工材1の浸漬時間が5秒間未満では、被加工材1の表面全体が第2潤滑剤で濡れず、120秒間を超えると第1潤滑剤層3が膨潤したり、その一部が溶解したりするおそれがある。
【0048】
したがって、第2潤滑剤層形成工程S5では、第2潤滑剤の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を5秒間〜120秒間、より好ましくは10秒間〜60秒間とすることにより、第1潤滑剤層3上に均一且つ効率良く摩擦低減性能を有する第2潤滑剤層4を形成することができる。
【0049】
第2潤滑剤層形成工程S5では、塑性加工すべき被加工材1の種類及び加工度に応じて第2潤滑剤の組成と付着させる膜厚を選定し、被加工材1の表面へ浸漬やスプレー等の方法で付着させて乾燥することにより第2潤滑剤層を形成し、従来のような下地被膜と潤滑被膜の組み合わせに匹敵する潤滑性能を有する2層潤滑被膜を形成することができる。
【0050】
第2潤滑剤は、ワックス又はワックスと金属石けんとを水に分散した水系のものである。ワックスとしては、天然ワックス又は合成ワックスを使用でき、融点80℃以上のものが好ましい。また、金属石けんは、一般的に被加工材1の塑性加工に用いられるものであれば、脂肪酸も金属の種類も限定されず、中でもステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が好ましい。第2潤滑剤は、ワックスと金属石けんとを混合する場合、摩擦低減性能が得られるように適宜配合する。
【0051】
第1潤滑剤層形成工程S4及び第2潤滑剤層形成工程S5は、被加工材1の第1潤滑剤や第2潤滑剤への浸漬から、第1潤滑剤や第2潤滑剤の液切り、乾燥及び被加工材1の排出までを一連の処理で行うため、十分な潤滑性能を持った水系2層型の潤滑被膜5を効率良く形成することができる。
【0052】
以上のように、潤滑被膜形成方法では、被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2を形成することによって、潤滑剤溜まり2の内部にまで第1潤滑剤が入り込むため、被加工材1と第1潤滑剤層3との密着性が高くなることで、被加工材1と潤滑被膜5との密着性が高くなり、塑性加工中に潤滑被膜5が剥離することを防止できる。この潤滑被膜形成方法では、潤滑被膜5の剥離を防止できることから、第2潤滑剤層4による被加工材1の摩擦低減効果を確実に発揮することができる。また、上述した潤滑被膜形成方法では、従来のように酸洗を行わず、また水系の潤滑剤を用いているため、廃液回数が非常に少なくなり、産業廃棄物の発生を低減できる。
【0053】
また、ウェットブラスト、アルカリエッチング、酸エッチング等で表面処理を行った場合には、脱脂工程S2を不要にできる場合があり、潤滑被膜5をより効率良く形成することができる。
【0054】
潤滑被膜5は、例えば、図3〜図5に示す成膜装置を用いて、脱脂工程S2〜第2潤滑剤層形成工程S5までを行うことによって形成することができる。
【0055】
この水系2層塗布型の潤滑被膜の形成装置は、ショットブラスト等によって表面に潤滑剤溜まり2を形成した被加工材1に対して例えばアルカリ脱脂処理を行う第1処理ユニット7Aと、湯洗処理を行う第2処理ユニット7Bと、第1潤滑剤層3を形成する第3処理ユニット7Cと、第2潤滑剤層を形成する第4処理ユニット7Dとを有する。
【0056】
これら第1処理ユニット7A〜第4処理ユニット7Dは、図3に示すように、この順序で一列に配置されており、第1処理ユニット7A及び第4処理ユニット7Dの近傍には被加工材1を搬送するベルトコンベアー等の搬送装置6A、6Bがそれぞれ配置されている。
【0057】
第1処理ユニット7A〜第4処理ユニット7Dは、図4及び図5に示すように、各々、例えばヒータ11により加熱された浸漬用液体を貯留する貯留槽10と、被加工材1を収容した状態で貯留槽10内の浸漬用液体に浸漬される通液自在に形成された容器20と、容器20を回転させる回転手段として回転軸30、枠状部材31、プーリ32、モータ33、プーリ34及びベルト35と、容器20を傾転させる傾転手段として回動軸40a、b、揺動部材41、プーリ42、モータ43、プーリ44及びベルト45と、容器20に収容されている被加工材1が貯留槽10内の浸漬用液体に浸漬される浸漬位置と浸漬されない非浸漬位置との間で容器20を移動させる移動手段として回動軸50a、b、支持部材51、プーリ52、モータ53、プーリ54及びベルト55とを有している。
【0058】
かかる構成により、第1処理ユニット7A〜第4処理ユニット7Dの各々では、被加工材1の受け入れ、浸漬、液切り、乾燥及び排出からなる一連の処理を行うことができる。
【0059】
各処理ユニットでは、先ず、空の容器20内に被加工材1を受け入れた後、被加工材1を入れた容器20を図5中の状態Aに示すようにアルカリ脱脂液等の浸漬用溶液に浸漬させ、モータ33を起動することでプーリ32、34及びベルト35を介して、枠状部材31に回転可能に取り付けられた回転軸30を回転させ、この回転軸30を中心に容器20を回転させながら所定時間浸漬させる。貯留槽10には、各処理ユニットで行う処理に必要なアルカリ脱脂液、温水、第1潤滑剤又は第2潤滑剤が貯留されている。容器20は、少なくとも貯留槽10の液面L以下に浸漬される部分が通液自在に形成されている。なお、容器20は、被加工材1の形状に応じて、バレル、籠、フック、被加工材専用保持器や、搬送用ロボットの手を代用することにより、様々な形状の被加工材1の表面に、均一で一定膜厚の十分な潤滑性能を持った水系2層塗布型の潤滑被膜5を形成することができる。
【0060】
次に、所定時間浸漬後、図5中の状態Bに示すように、モータ53を起動して、プーリ54を図5の紙面上時計回りに回転させて揺動部材41を回動軸50a、bを中心にして第2処理ユニット7B側に揺動させる。また、モータ43を起動してプーリ44を図5の紙面上反時計周りに回転させ、ベルト45を介してプーリ42を回転させることにより、一対の回動軸40a、bを中心に容器20をほぼ水平となるまで傾転させる。これにより、容器20は、浸漬用溶液の液面Lよりも高い非浸漬位置で維持され、液切り及び乾燥を行う。この際に、液切りによって滴下する浸漬用溶液は、そのまま貯留槽10に戻される。
【0061】
次に、乾燥後、図5中の状態Cに示すように、再びモータ53を起動して、プーリ54を図5の紙面上時計回りに回転させて揺動部材41を回動軸50a、bを中心にして第2処理ユニット7B側に更に揺動させ、容器20を第2処理ユニット7B側に移動させる。そして、この位置でモータ43を起動してプーリ44を図5の紙面上反時計回りに回転させて、ベルト45を介してプーリ42を回転させることによって、容器20がほぼ真下を向くように傾転させる。
【0062】
この時、隣接する第2処理ユニット7Bの貯留槽10内では、空の容器20が前述した状態Aの姿勢を保ったまま待機しており、第1処理ユニット7Aの状態Cの容器20と第2処理ユニット7Bの状態Aの容器20とは、互いに開口部21が上下でほぼ対向する位置関係になっている。よって、容器20に収容されている被加工材1を、隣接する第2処理ユニット7Bの空の容器20に直接投入することが可能となる。このように、容器20が保持している被加工材1のみを次工程へ排出することにより、各貯蓄槽10内の処理溶液が次工程の各貯蓄槽10へ混入することを極力低減し、十分な潤滑性能を持った2層潤滑被膜5を安定して形成することができる。
【0063】
以上により、第1処理ユニット7Aにおいて、被加工材1の受け入れ、アルカリ脱脂液への浸漬、アルカリ脱脂液の液切り、乾燥及び排出からなる一連の処理が完了する。なお、上記した種々の動作の開始時点や終了時点の判断は、例えば移動する部材の接触又は非接触によってそのタイミングを検出する図示しないセンサーを用いて行うことができる。また、所定の浸漬時間、液切り及び乾燥時間の経過の判断は例えばタイマを用いて行うことができる。被加工材1を排出した第1処理ユニット7Aの容器20は、その後、上記と逆の行程をたどって状態Aに戻される。そして、次に処理する被加工材1を搬送装置6Aから受け取り、以降は上記と同様の動作が繰り返される。
【0064】
一方、被加工材1が投入された第2処理ユニット7Bの容器20は、上記した第1処理ユニット7Aの容器20と同様に回転手段、移動手段及び傾転手段を用いて動かされる。これにより、第2処理ユニット7Bの貯留槽10に貯められている温水によって被加工材1を湯洗処理する第3処理ユニット7Cへと進む。以降、同様にして第3処理ユニット7C及び第4処理ユニット7Dにおいて被加工材1に第1潤滑剤層3の形成及び第2潤滑剤層4の形成が行われ、被加工材1の潤滑剤溜まり2が形成された表面上に第1潤滑剤層3と第2潤滑剤層4とからなる水系2層塗布型の潤滑被膜5が形成される。
【0065】
なお、第1処理ユニット7Aでは、上述したように、アルカリ脱脂洗浄槽の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間する。第2処理ユニット7Bでは、上述したように温水の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を10秒間〜180秒間、好ましくは10秒間〜60秒間とする。第3処理ユニット7Cでは、上述したように第1潤滑剤の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を5秒間〜600秒間、好ましくは10秒間〜60秒間とする。第4処理ユニット7Dでは、上述したように第2潤滑剤の温度を40℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃とし、被加工材1の浸漬時間を5秒間〜120秒間、より好ましくは10秒間〜60秒間とする。
【0066】
以上のように、水系2層塗布型の潤滑被膜の形成装置では、前もって被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2を形成し、そして第1処理ユニット7A〜第4処理ユニット7Dの各処理ユニットにおいて被加工材1の浸漬、液切り、乾燥、排出までを一連の処理で行い、更に、第1処理ユニット7Aから第4処理ユニット7Dまでを被加工材1が通過することによって、脱脂工程S2から第2潤滑剤層形成工程S5までを一連の処理で行うことができる。これにより、水系2層塗布型の潤滑被膜の形成装置では、大量生産される被加工材1の表面に、被加工材1との密着性が高く、優れた摩擦低減性能等を有する水系2層塗布型の潤滑被膜5を均一且つ効率良く形成することができる。
【0067】
また、上述した潤滑被膜の形成装置では、搬送装置6Aと第1処理ユニット7Aとの間に、被加工材1に対して潤滑剤溜まり2を形成する表面処理を行う表面処理ユニットを設けてもよい。上述した潤滑被膜の形成装置において、表面処理ユニットも設けることによって、表面処理工程S1から第2潤滑剤層形成工程S5までを一連の処理で行うことができるため、密着性が高く、優れた摩擦低源性能等を有する潤滑被膜5をより効率良く形成することができる。
【0068】
また、ウェットブラスト、アルカリエッチングや酸エッチングにより表面処理を行い、脱脂工程S2を省略して潤滑被膜5を形成する場合には、第2処理ユニット7Bから第4処理ユニット7Dまでを備える潤滑被膜の形成装置を用いてもよい。脱脂工程S2を省略した場合には、第1潤滑剤層3を形成する第3処理ユニット7Dでは、第1潤滑剤への被加工材1の浸漬時間は1分間〜10分間、より好ましくは5分間〜10分間とする。このように脱脂工程S2を省略することができる場合には、脱脂洗浄を行った場合よりも潤滑被膜5をより効率良く形成することができる。
【0069】
<潤滑処理方法>
次に、被加工材1に潤滑被膜5を形成し、被加工材1を塑性加工した後、必要に応じて、不要となった潤滑被膜5を除去することで、被加工材1に潤滑処理を行う潤滑処理方法について説明する。なお、上述した潤滑被膜形成方法と同様の工程について詳細な説明を省略する。
【0070】
潤滑処理方法は、図6に示すように、被加工材1に潤滑剤溜まり2を形成する表面処理工程S1から被加工材1に第2潤滑剤層4を形成する第2潤滑剤層形成工程S5までは上述した潤滑被膜形成方法と同様の方法により被加工材1に潤滑被膜5を形成する。次に、潤滑剤処理方法は、被加工材1を例えば冷間塑性加工等の塑性加工をする加工工程S6へと進み、塑性加工を行う。次に、潤滑被膜除去工程S7に進み、不要となった潤滑被膜5を被加工材1の表面から除去する。
【0071】
このような潤滑処理方法では、被加工材1の表面に潤滑被膜5が形成された状態で塑性加工を行うため、塑性加工の際には摩擦が低減され、耐焼付きも防止できており、塑性加工後、潤滑被膜5が不要であれば潤滑被膜5を除去することができる。
【0072】
この潤滑被膜除去工程S7は、アルカリエッチング、酸エッチング等の化学的方法や、ショットブラスト、ウェットブラスト、バフ研摩等の物理的方法から、適切な除去方法と除去条件を選定し、潤滑被膜5のみを除去する。
【0073】
アルカリエッチング、酸エッチング等の化学的方法の場合には、潤滑被膜5のみを溶解するアルカリ又は酸の種類、濃度、温度、時間を除去条件として選定し、潤滑被膜5のみを除去する。
【0074】
ショットブラスト、ウェットブラスト、バフ研摩等の物理的方法の場合には、適切な研磨剤(投射剤)の種類、圧力、時間を除去条件として選定し、潤滑被膜5のみを除去する。
【0075】
このような潤滑処理方法では、被加工材1の表面に潤滑剤溜まり2を形成しているため、被加工材1と潤滑被膜5との密着性が高く、被加工材1を塑性加工する際に剥離せず、摩擦低減及び耐焼付き性を発揮することができる。そして、この潤滑処理方法では、被加工材1と潤滑被膜5との密着性が良いものであるが、塑性加工後に潤滑被膜5を表面から除去する際には上述した化学的方法や物理的方法により、潤滑被膜5のみを十分に除去することができる。
【0076】
また、この潤滑処理方法では、第1処理ユニット7A〜第4処理ユニット7Dの各処理ユニットにおいて被加工材1の浸漬、液切り、乾燥、排出までを一連の処理で行い、更に、第1処理ユニット7Aから第4処理ユニット7Dまでを被加工材1が通過することによって、脱脂工程S2から第2潤滑剤層形成工程S5までを一連の処理で行うことができる。これにより、この潤滑処理方法においても、大量生産される被加工材1の表面に、被加工材1との密着性が高く、優れた摩擦低減性能を有する水系2層塗布型の潤滑被膜5を均一且つ効率良く形成することができる。
【0077】
更に、この潤滑処理方法において、表面処理をウェットブラスト、アルカリエッチング、酸エッチングで行った場合には、脱脂工程S2が不要となる場合があるため、被加工材1に対してより効率よく潤滑処理をすることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、表面処理方法に違いによる被加工材の表面粗さ、潤滑被膜の密着性について評価する。被加工材にはアルミニウム材(A−4032)を用い、このアルミニウム材に表面処理を行っていないもの(サンプル1)と、アルカリエッチング(サンプル2)、ショットブラスト(サンプル3、4)、ウェットブラスト(サンプル5)による表面処理を行ったものの十点平均粗さ、粗さ曲線要素の平均長さ、潤滑被膜の密着性を評価した。十点平均粗さ、粗さ曲線要素の平均長さは、表面粗さ計(テーラーホブソン株式会社製、フォームタリサーフ シリーズ2 S4F)を用いて算出した。
【0079】
各表面処理条件における表面粗さ及び潤滑被膜の密着性は、下記の表1に示すようになった。なお、潤滑被膜の密着性は、実機による鍛造評価により焼付きが生じたか否かにより密着性を評価した。潤滑被膜が剥がれ焼付きが生じた場合には、潤滑被膜の密着性が悪いとして表1中に×で示し、焼付きが生じなかった場合には、潤滑被膜の密着性が良いとして表1中に○で示した。
【0080】
アルカリエッチングは、エッチング液として水酸化ナトリウムの5%水溶液を用い、浸漬条件はエッチング液の温度70℃、60秒間浸漬させた。
【0081】
ショットブラストは、直径0.2mm、0.3mmのスチール研磨材を投射速度73m/secにて投射した。
【0082】
ウェットブラストは、直径0.2mmのSUS研磨材を水に15vol%の割合で分散させ、0.2MPaの圧力で噴射した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、被加工材を表面処理していないサンプル1は、十点平均粗さが小さいため、凹凸が小さく、粗さ曲線要素の平均長さが大きいので凹凸の間隔が広いことがわかる。サンプル1は、アルミニウム材の表面が粗くないため、潤滑剤溜まりが殆どなく、第1潤滑剤の密着性が悪いため、潤滑被膜の密着性が悪く剥がれやすくなり、焼付きが生じた。したがって、サンプル1は、被加工材であるアルミニウム材に対する潤滑被膜の密着性が悪いことがわかる。
【0085】
一方、サンプル2は、十点平均粗さがサンプル1よりも大きいが、他の処理方法と比べると小さいので、凹凸の深さ及び凹凸の間隔が小さく、細かい凹凸が形成されていることがわかる。
【0086】
サンプル3、4は、十点平均粗さが大きいので比較的大きな凹凸が形成されているが、粗さ曲線要素の平均長さが大きいので凹凸の間隔が広いことがわかる。
【0087】
サンプル5は、十点平均粗さが大きいが、粗さ曲線要素の平均長さが小さいので、比較的大きい凹凸であって、しかも凹凸の間隔が狭いことがわかる。
【0088】
したがって、アルミニウム材の表面をアルカリエッチング、ショットブラスト、ウェットブラストした場合には、アルミニウム材の表面が粗く、潤滑剤溜まりが形成されているため、第1潤滑剤の密着性が高く、潤滑被膜の密着性が高くなり、潤滑被膜の剥離が防止でき、焼付きが生じなかった。したがって、アルカリエッチング、ショットブラスト、ウェットブラストによる表面処理は、被加工材であるアルミニウム材に対する潤滑被膜の密着性が高いことがわかる。
【0089】
以上より、被加工材の表面をアルカリエッチング、ショットブラスト、ウェットブラスト等により粗くすることによって、表面処理をしていない場合よりも潤滑被膜との密着性を向上させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0090】
1 被加工材、2 潤滑剤溜まり、3 第1潤滑剤層、4 第2潤滑剤層、5 潤滑被膜、6A、6B 搬送装置、10 貯留層、11 ヒータ、20 容器、21 開口部、30 回転軸、31 枠状部材、32 プーリ、33 モータ、34 プーリ、35 ベルト、40a 回転軸、40b 回転軸、41 揺動部材、42 プーリ、43 モータ、44 プーリ、45 ベルト、50a、50b 回動軸、51 支持部材、52 プーリ、53 モータ、54 プーリ、55 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材に潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、
上記表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程とを有することを特徴とする潤滑被膜形成方法。
【請求項2】
上記表面処理工程は、十点平均粗さが3μm〜50μmの範囲内、粗さ曲線要素の平均長さが10μm〜300μmの範囲内である凹凸を上記被加工材の表面に形成することを特徴とする請求項1記載の潤滑被膜形成方法。
【請求項3】
上記表面処理工程では、ショットブラスト、ワイヤーブラシ、ドライアイスブラスト、ウェットブラスト、酸エッチング、アルカリエッチングのいずれか1以上の方法により、上記被加工材の表面に凹凸を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の潤滑被膜形成方法。
【請求項4】
上記潤滑被膜形成工程は、
上記被加工材の表面を脱脂する脱脂工程と、
上記脱脂後の被加工材を洗浄する洗浄工程と、
上記潤滑剤溜まりを形成した上記被加工材の表面に第1潤滑剤を付着させ乾燥して第1潤滑剤層を形成する第1潤滑剤層形成工程と、
上記第1潤滑剤層上に第2潤滑剤を付着させ乾燥して第2潤滑剤層を形成する第2潤滑剤層形成工程とを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の潤滑被膜形成方法。
【請求項5】
上記脱脂工程、上記洗浄工程、上記第1潤滑剤層形成工程及び上記第2潤滑剤層形成工程の各工程は、加熱された浸漬用液体を貯留する貯留槽と、上記被加工材を該貯留槽内の浸漬用液体に浸漬させる冶具と、上記被加工材を上記貯留槽内の浸漬用液体に浸漬させる浸漬位置と浸漬させない非浸漬位置との間で冶具を移動させる移動手段とを備える装置で行うことを特徴とする請求項4記載の潤滑被膜形成方法。
【請求項6】
被加工材にウェットブラスト、酸エッチング又はアルカリエッチングにより潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、
上記表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程とを有し、
上記潤滑被膜形成工程は、
上記表面処理後の被加工材を洗浄する洗浄工程と、
上記潤滑剤溜まりを形成した上記被加工材の表面に第1潤滑剤を付着させ乾燥して第1潤滑剤層を形成する第1潤滑剤層形成工程と、
上記第1潤滑剤層上に第2潤滑剤を付着させ乾燥して第2潤滑剤層を形成する第2潤滑剤層形成工程とを有することを特徴とする潤滑被膜形成方法。
【請求項7】
上記表面処理工程は、十点平均粗さが3μm〜50μmの範囲内、粗さ曲線要素の平均長さが10μm〜300μmの範囲内である凹凸を上記被加工材の表面に形成することを特徴とする請求項6記載の潤滑被膜形成方法。
【請求項8】
被加工材に潤滑剤溜まりを形成する表面処理工程と、
上記表面処理した被加工材の表面に水系2層塗布型の潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成工程と、
上記被加工材の表面から上記潤滑被膜を除去する潤滑被膜除去工程とを有することを特徴とする潤滑処理方法。
【請求項9】
上記潤滑被膜除去工程では、アルカリエッチング、酸エッチング、ショットブラスト、ウェットブラスト、バフ研摩のいずれかの方法により上記潤滑被膜を除去することを特徴とする請求項8記載の潤滑処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−66901(P2013−66901A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205816(P2011−205816)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】