説明

潮流・海流発電装置

【課題】海峡などで海中に強い流れを生じる水域を利用して、定位置に発電設備を設けるようにしながら、単一の発電機を作動させるように配設された前後一対の水車の相互間に生じる回転速度の差にも配慮して、効率よく低コストで、かつ安全に発電を行えるようにした潮流・海流発電装置を提供する。
【解決手段】海底1に立設されて海面2よりも上方の上部室3aまで延在するケーシング3の内部に、海中の流れにより同方向に回転する前後の第1翼車6および第2翼車8を支えるための水平軸系4が設けられる。第1翼車6および第2翼車8の回転トルクは、水平軸系4における差動歯車装置9を介してケーシング3内の鉛直回転軸10に伝達され、さらに上部室3a内でを介し発電機12に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海峡などで潮流や海流として生じる水平な水の流れを利用することにより、翼車を介して発電を行えるようにした装置に関し、特に串型(タンデム型)に配置された2個の翼車(水車)を用いて効率よく発電を行えるようにした潮流・海流発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海中において前後に設けられた複数の水車と、各水車に付設された発電機とを用いることにより潮流・海流のエネルギーを電気エネルギーに変換できるようにした潮流・海流発電装置が提案されている。
ところで、上述のような従来の潮流・海流発電装置では、各水車ごとに発電機が設けられるので、設備コストの増大を招くという不具合がある。
また、潮流・海流の方向が変化するのに伴い、潮流・海流に対する上記水車の向きを調整するため、移動可能の浮体に上記水車を設けることが提案されているが、上記浮体の移動調整のためには多大のコストが必要とされる。
【特許文献1】特開2004−068638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、海峡などで海中に強い流れを生じる水域を利用して、定位置に発電設備を設けるようにしながら、海中の流れの方向が逆向きに変化する状況にも対処できるようにし、かつ、単一の発電機を作動させるように配設された前後一対の水車の相互間に生じる回転速度の差にも配慮して、効率よく低コストで、かつ安全に発電を行えるようにした潮流・海流発電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述の課題を解決するため、本発明の潮流・海流発電装置は、水平な流れを生じる海中で海底に立設されて海面上方まで延在する柱状のケーシングを備えるとともに、海面下で上記ケーシングの内部に上記流れの方向に向けるべく水平に配置された水平軸系を備え、上記水平軸系において上記流れの上流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第1作動軸に、上記流れにより回転駆動される第1翼車を備えるとともに,上記水平軸系において上記流れの下流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第2作動軸に、上記流れにより上記第1翼車の回転方向と同方向に回転駆動される第2翼車を備え、上記の第1作動軸および第2作動軸により差動歯車装置を介し回転駆動されるように起立して上記ケーシングの内部を通り海面よりも上方における上記ケーシングの上部室内にまで延在する鉛直回転軸と、同鉛直回転軸の上端部に接続されて上記上部室内で作動する発電機とが設けられたことを特徴としている。
【0005】
また、本発明の潮流・海流発電装置は、上記の第1作動軸および第2作動軸に、それぞれ回転方向を変換しうる第1正逆転切替機構および第2正逆転切替機構が介装されていることを特徴としている。
【0006】
さらに、本発明の潮流・海流発電装置は、上記柱状のケーシングにおいて上記水平軸系よりも下方の部分にターンテーブルが介装されるとともに、同ターンテーブルよりも上方において上記ケーシングの外側に上記第1翼車を上記流れの上流側へ向けるための舵板が装着されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の潮流・海流発電装置は、上記上部室の内部に上記発電機で発電された電力を蓄えるためのバッテリーが、交換可能に設けられていることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の潮流・海流発電装置は、上記の第1翼車および第2翼車の上方と下方とをそれぞれ蔽うための上部遮蔽板と下部遮蔽板とが、いずれも上記ケーシングの外周部に装着されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上述の本発明の潮流・海流発電設備では、海底に立設された柱状のケーシングの内部で海中の流れの方向に向けられた水平軸系において、上記流れの上流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第1作動軸に、海中の流れにより回転駆動される第1翼車を備えるとともに、上記流れの下流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第2作動軸にも、上記海中の流れにより上記第1翼車の回転方向と同方向に回転駆動される第2翼車が設けられるが、これらの第1翼車および第2翼車の各回転速度が異なっていても、上記の第1作動軸および第2作動軸は差動歯車装置を介して上記鉛直回転軸に回転トルクを伝達するので、同鉛直回転軸の回転作動に支障を来たすことはなく、同鉛直回転軸の円滑な回転作動が期待される。
したがって、上記鉛直回転軸の上端部に接続された発電機の発電作用も、支障なく適切に行われるようになる。
【0010】
このようして、本装置では、海中の流れの方向における前後に第1翼車および第2翼車が配設されることにより、各翼車が左右に配設される場合に比べて、装置全体としての幅を狭くすることができ、海峡のような幅の狭い海域においても、船舶の航行に与える影響を極力軽減しながら、効率のよい発電作用を行うことが可能になる。
【0011】
また、上記柱状のケーシングは海面の上方まで延在しているので、付近を航行する船舶にとって視認性が高められるとともに、上記ケーシングの海面よりも上方におけるケーシング上部室に上記発電機が設けられることにより、同発電機のメンテナンスが容易になる利点も得られる。
【0012】
さらに、上記の第1作動軸および第2作動軸に、潮流や海流の流れの方向が逆向きに変化する場合に備えて、それぞれ回転方向を逆向きに変換しうる第1正逆転切替機構および第2正逆転切替機構が設けられると、潮流や海流の流れの方向が逆向きとなる変化にも適切に対応して、効率のよい発電作用が行われるようになる。
【0013】
また、上記柱状のケーシングにおいて、上記水平軸系よりも下方の部分にターンテーブルが介装されるとともに、同ターンテーブルよりも上方において上記ケーシングの外側に上記第1翼車を上記流れの上流側へ向けるための舵板が装着されていると、前記の第1および第2の正逆転切替機構は不要となり、上記の第1翼車および第2翼車は常に潮流や海流の上流側へ向けられて、効率のよい発電作用が行われるようになる。
【0014】
そして、上記ケーシングの上部室の内部に上記発電機で発電された電力を蓄えるためのバッテリーが、交換可能に設けられることにより、同バッテリーが十分に電力を蓄えた際に、同バッテリーの交換によって、フル充電したバッテリーの回収が、上記上部室へ接岸した船舶により容易に実施できるようになる。
【0015】
また、上記の第1翼車および第2翼車の上方と下方とをそれぞれ蔽うための上部遮蔽板と下部遮蔽板とが上記ケーシングの外周部に装着されていると、上記の第1翼車および第2翼車に対する波浪の影響が上記上部遮蔽板によって回避され、上記の第1翼車および第2翼車による海底の砂あるいはヘドロの巻上げが上記下部遮蔽板によって防止できるようになる。
【実施例】
【0016】
図1は本発明の一実施例としての潮流・海流発電装置を示す説明図、図2は図1の装置における差動歯車装置の一例を示す斜視図、図3は図1の装置における正逆転切替機構の一例を示す説明図であり、図4は図1の装置における一部の変形例を示す立面図である。
【0017】
図1に示すように、海峡などで潮流または海流としての水平な流れWを生じる海中に、海底1における基礎構造1aから起立して海面2よりも上方まで延在する柱状のケーシング3が設けられており、同ケーシング3の内部には、海面2よりも下方で海中における流れWの方向に向けられるように水平に配設された水平軸系4が、図示しない軸受により支持されるようにして設けられている。
【0018】
そして、水平軸系4において、海中の流れWの上流側へケーシング3を水密に貫通して突出した第1作動軸5に、流れWにより回転駆動される第1翼車6が装着されている。
また、水平軸系4において流れWの下流側へケーシング3を水密に貫通して突出した第2作動軸7にも、流れWにより第1翼車6と同方向に回転駆動される第2翼車8が装着されている。
【0019】
なお、第1翼車6および第2翼車8の上方と下方とをそれぞれ蔽うための上部遮蔽板Mと下部遮蔽板Nとがいずれもケーシング3の外周部に固着されている。
【0020】
さらに、第1作動軸5および第2作動軸7により差動歯車装置9(図2参照)を介して回転駆動されるように起立した鉛直回転軸10が、ケーシング3の内部を通り、クラッチ機構10aを介して上方へ延在している。このようにして、鉛直回転軸10は海面2よりも上方におけるケーシング3の上部室3aの内部にまで延在している。
【0021】
鉛直回転軸10の上端部は、傘歯車機構11を介して、上部室3a内の発電機12の水平な主軸12aに回転力を伝達するように接続され、発電機12で発生した電力は、配電盤13を介し、上部室3aに設置されたバッテリー14に蓄えられるように構成されている。
【0022】
海峡などで生じている海流や潮流は、流れの方向が全く逆になる場合もあるので、そのような海域に本装置が設置される場合は、図示しないセンサーで検知される流れの方向に応じて作動する第1正逆転切替機構15が第1作動軸5に介装されるとともに、第2作動軸7にも前記センサーからの検出情報に基づいて作動する第2正逆転切替機構16が介装される。
【0023】
なお、正逆転切替機構15,16としては、例えば図3に示すようなクラッチE,Fの切替により作動して出力軸Qの回転方向を一定とするものが採用される。すなわち、潮流・海流の方向に応じて入力軸Pが正転する場合は、クラッチEが閉じ、クラッチFが開くことにより、歯車軸A,Dが直結して出力軸Qも同方向に回転し、入力軸Pが逆転すると、クラッチEが開き、クラッチFが閉じことにより、歯車軸A,B,C,Dを介して出力軸Qは正転方向への回転を維持することができる。
【0024】
このようにして、図1に示す差動歯車装置9へ入力される各翼車6,8からの回転力の方向は常に同一とされ、また両翼車6,8の回転速度の差は、差動歯車装置9で吸収されて、鉛直回転軸10の回転は常に滑らかに同一方向に行われるようになる。
【0025】
さらに、本実施例では、発電機12で発電された電力を陸上の受電設備へ送電するための海底電線17が、配電盤13に接続されているほか、上部室3aには、付近を航行する船舶に警告を与えるため、照明灯18や、自動無線通信設備19が設けられている。
【0026】
上述の本実施例の潮流・海流発電装置では、海底1に立設された柱状のケーシング3の内部で海中の流れWの方向に向けられた水平軸系4において、流れWの上流側へケーシング3を貫通して突出した第1作動軸5に、海中の流れWにより回転駆動される第1翼車6を備えるとともに、流れWの下流側へケーシング3を貫通して突出した第2作動軸7にも、海中の流れWにより第1翼車6の回転方向と同方向に回転駆動される第2翼車8が設けられるが、これらの第1翼車6および第2翼車8の各回転速度が相互に異なっていても、第1作動軸5および第2作動軸7は差動歯車装置9を介して鉛直回転軸10に回転トルクを伝達するので、同鉛直回転軸10の回転作動に支障をきたすことはなく、同鉛直回転軸10の円滑な回転作動が期待される。
したがって、鉛直回転軸10の上端部に接続された発電機12の発電作用も支障なく適切に行われるようになる。
【0027】
このようして、本装置では、海中の流れWの方向における前後に第1翼車6および第2翼車8が配設されることにより、各翼車6,8が左右に配設される場合に比べて、装置全体としての幅を狭くすることができ、海峡のような幅の狭い海域においても、船舶の航行に与える影響を極力軽減しながら、効率のよい発電作用を行うことが可能になる。
【0028】
また、柱状のケーシング3は海面2の上方まで延在しているので、付近を航行する船舶にとって視認性が高められるとともに、ケーシング3の海面2よりも上方におけるケーシング上部室3aに発電機12が設けられることにより、同発電機12のメンテナンスが容易になる利点も得られる。
【0029】
さらに、第1作動軸5および第2作動軸7に、潮流や海流の流れWの方向が逆向きに変化する場合に備えて、それぞれ回転方向を逆向きに変換しうる第1正逆転切替機構15および第2正逆転切替機構16が設けられるので、潮流や海流の流れの方向が逆向きとなる変化にも適切に対応して、効率のよい発電作用が行われるようになる。
【0030】
そして、ケーシング3の上部室3aの内部に発電機12で発電された電力を蓄えるためのバッテリー14が、交換可能に設けられることにより、同バッテリー14が十分に電力を蓄えた際に、同バッテリー14の交換によって、フル充電したバッテリー14の回収が、上部室3aへ接岸した船舶により容易に実施できるようになる。
【0031】
なお、上記電力の送電は、海底電線17を通じて陸上の施設へ向け行われるようにしてもよい。
【0032】
また、第1翼車6および第2翼車8の上方と下方とをそれぞれ蔽うための上部遮蔽板Mと下部遮蔽板Nとがケーシング3の外周部に装着されているので、第1翼車6および第2翼車8に対する波浪の影響が上部遮蔽板Mによって回避され、第1翼車6および第2翼車8による海底の砂あるいはヘドロの巻上げが下部遮蔽板Nによって防止できるようになる。
【0033】
なお、図4に示す変形例では、前述の柱状のケーシング3において、水平軸系4よりも下方の部分にターンテーブル20が介装されるとともに、同ターンテーブル20よりも上方において、ケーシング3の外側には、前述の第1翼車6および第2翼車8を海流・潮流の上流側へ向けるための舵板21が装着されている。
【0034】
このような変形例では、各翼車6,8が常に海流・潮流の上流側へ向けられるため、第1正逆転切替機構15および第2正逆転切替機構16は、いずれも不要となる。そして、第1翼車6および第2翼車8は常に潮流や海流の上流側へ向けられて、効率のよい発電作用が行われるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例としての潮流・海流発電装置を示す説明図である。
【図2】図1の装置における差動歯車装置の一例を示す斜視図である。
【図3】図1の装置における正逆転切替機構の一例を示す説明図である。
【図4】図1の装置における一部の変形例を示す立面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 海底
1a 基礎構造
2 海面
3 ケーシング
3a 上部室
4 水平軸系
5 第1作動軸
6 第1翼車
7 第2作動軸
8 第2翼車
9 差動歯車装置
10 鉛直回転軸
11 傘歯車機構
12 発電機
12a 発電機主軸
13 配電盤
14 バッテリー
15 第1正逆転切替機構
16 第2正逆転切替機構
17 海底電線
18 照明灯
19 自動無線通信設備
20 ターンテーブル
21 舵板
A,B,C,D 歯車軸
E,F クラッチ
P 入力軸
Q 出力軸
M 上部遮蔽板
N 下部遮蔽板
W 海中の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な流れを生じる海中で海底に立設されて海面上方まで延在する柱状のケーシングを備えるとともに、海面下で上記ケーシングの内部に上記流れの方向に向けるべく水平に配置された水平軸系を備え、上記水平軸系において上記流れの上流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第1作動軸に、上記流れにより回転駆動される第1翼車を備えるとともに,上記水平軸系において上記流れの下流側へ上記ケーシングを貫通して突出した第2作動軸に、上記流れにより上記第1翼車の回転方向と同方向に回転駆動される第2翼車を備え、上記の第1作動軸および第2作動軸により差動歯車装置を介し回転駆動されるように起立して上記ケーシングの内部を通り海面よりも上方における上記ケーシングの上部室内にまで延在する鉛直回転軸と、同鉛直回転軸の上端部に接続されて上記上部室内で作動する発電機とが設けられたことを特徴とする、潮流・海流発電装置。
【請求項2】
上記の第1作動軸および第2作動軸に、それぞれ回転方向を変換しうる第1正逆転切替機構および第2正逆転切替機構が介装されていることを特徴とする、請求項1に記載の潮流・海流発電装置。
【請求項3】
上記柱状のケーシングにおいて上記水平軸系よりも下方の部分にターンテーブルが介装されるとともに、同ターンテーブルよりも上方において上記ケーシングの外側に上記第1翼車を上記流れの上流側へ向けるための舵板が装着されていることを特徴とする、請求項1に記載の潮流・海流発電装置。
【請求項4】
上記上部室の内部に上記発電機で発電された電力を蓄えるためのバッテリーが、交換可能に設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の潮流・海流発電装置。
【請求項5】
上記の第1翼車および第2翼車の上方と下方とをそれぞれ蔽うための上部遮蔽板と下部遮蔽板とが、いずれも上記ケーシングの外周部に装着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の潮流・海流発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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