説明

濃厚蛍光増白剤溶液

本発明は、尿素のような可溶化剤の不存在下で貯蔵安定性であるところの六スルホン化スチルベン蛍光増白剤の濃厚水溶液に関する。該蛍光増白剤の製造から生じる塩の除去により、貯蔵安定性を失うことなく0.350mol/kgまでの濃度を得ることができる。低減水含有率は、より少ない乾燥エネルギーしか要求されない且つ紙中へのより少ない水及びバインダーの移行を示すコーティング用組成物を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素のような可溶化剤の不存在下で貯蔵安定性であるところの六スルホン化スチルベン蛍光増白剤の濃厚水溶液に関する。
【0002】
先行技術
六スルホン化スチルベン蛍光増白剤(OBA)は、高度の白色度を備えたコーテッド紙を生成させるための十分に確立された手段である。かかる蛍光増白剤は、最も好都合には、水溶液の形態で市販されそして用いられる。
【0003】
特開昭62−106965号公報は、
【化1】

〔ここで、
1及びR2は各々独立して、
【化2】

から選択された基を表し、そして
Aは、水素原子、1から4個の炭素原子を有するアルキル基(側鎖を有していてもよい)、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メチルチオエチル基、ベンジル基、カルボキシメチル基及びカルボキシエチル基から選択された基を表す〕
である蛍光増白剤又はその塩を開示する。
【0004】
この公開公報によれば、該蛍光増白剤は水中における非常に高い溶解度を有し、そして反応において生成された塩化ナトリウムを除去しそして適切な方法によって水分を濃縮した後の濃い溶液の形態に商業化され得る。該蛍光増白剤は、表面処理での紙の増白に非常に有効であると主張されている。
【0005】
該公開公報の各例は蛍光増白剤の製造を記載し、しかして該蛍光増白剤は限外濾過により脱塩されて濃い溶液を生じる。例1において出発化合物の反応が100%収率の該蛍光増白剤を生じると仮定すると、かかる濃い溶液における最大濃度は0.214mol/kg(30〜32%)である。次いで、各溶液は10%尿素の添加により貯蔵安定性にされる。
【0006】
それ故、この文書は、該蛍光増白剤の水溶液が尿素の添加なしでは0.214mol/kg(30〜32%)に等しい濃度において不安定であることを教示する。
【0007】
しかしながら、蛍光増白剤の一層濃厚な水溶液に対する要求がある。該水溶液の濃度は、増白剤が顔料入りのコーティング用組成物にて施用される場合特に重要である。製紙業者は乾燥エネルギーを最小にするために並びに原紙中への水及びバインダーの移行を最小にするために、コーティング用組成物の水含有率を最小にすることを目指す、ということがよく知られている(たとえば、「The Essential Guide to Aqueous Coating of Paper and Board」,T.W.R.Dean編,PITA,1997参照)。
【0008】
発明の説明
驚くべきことに且つ上記の公開公報の教示とは対照的に、これらの六スルホン化スチルベンOBAの或るものが、0.350mol/kg(約54重量%)までの濃度において貯蔵安定性である高濃厚水溶液の形態で製造され得る、ということが今般見出された。顔料入りのコーティング用組成物にて又はサイズプレスにてのどちらかにて紙の表面に施用される場合、これらの水溶液は優れた蛍光増白効果を奏する。
【0009】
それ故、本発明の目的は、式(1)
【化3】

〔ここで、
Mは、水素、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、又はC2〜C3ヒドロキシアルキル基により一、二若しくは三置換されているアンモニウム、好ましくは水素又はナトリウムカチオンであり、そして
nは、1から4であり、好ましくは1又は2である〕
の蛍光増白剤を含む貯蔵安定性水溶液において、該蛍光増白剤の量が0.214mol/kgより多く、好ましくは0.215から0.350mol/kg一層特には0.250から0.340mol/kgであり、そして可溶化剤が該溶液中に含有されていないことを特徴とする貯蔵安定性水溶液である。
【0010】
蛍光増白剤の水溶液は、随意に、蛍光増白剤の製造中に形成された有機副生成物だけでなく、1種又はそれ以上の担体、凍結防止剤、保存剤、錯化剤、等を含有し得る。
【0011】
担体は改善増白特性を与えると知られており、そしてたとえばポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースであり得る。
【0012】
凍結防止剤は、たとえば、尿素、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールであり得る。
【0013】
式(1)の化合物は、シアヌル酸ハライドと
a)式(A)
【化4】

のジアミン
b)式(B)
【化5】

のアミン
及び
c)式(C)
【化6】

のアミン
との段階反応により製造される。
【0014】
シアヌル酸ハライドとして、ブロマイド又は好ましくはクロライドが用いられ得る。
【0015】
各反応は、水性媒質中で(シアヌル酸ハライドは水中に懸濁される)又は水性/有機媒質中で(シアヌル酸ハライドはアセトンのような溶媒中に溶解される)行われ得る。各アミンは、希釈なしに又は水溶液若しくは水性懸濁液の形態で導入され得る。アミン類はいかなる順序にても反応され得るけれども、芳香族アミンを最初に反応させることが好ましい。各アミンは、化学量論的に又は過剰にて反応され得る。典型的には、芳香族アミンは、化学量論的に又はわずかの過剰にて反応される。脂肪族アミンは、一般に、化学量論に対して5〜30%の過剰にて用いられる。
【0016】
シアヌル酸ハライドの第1ハロゲンの置換について、0から20℃の範囲の温度にて及び酸性から中性のpH条件下で(好ましくは2から7のpH範囲にて)操作することが好ましい。シアヌル酸ハライドの第2ハロゲンの置換について、20から60℃の範囲の温度にて及び弱酸性から弱アルカリ性の条件下で(好ましくは4から8の範囲のpHにて)操作することが好ましい。シアヌル酸ハライドの第3ハロゲンの置換について、60から102℃の範囲の温度にて及び弱酸性からアルカリ性の条件下で(好ましくは7から10の範囲のpHにて)操作することが好ましい。pHは、必要に応じて適当な酸又は塩基の添加により制御され得、しかして好ましい酸はたとえば塩酸、硫酸、ギ酸又は酢酸であり、好ましい塩基はたとえばアルカリ金属(たとえばリチウム、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、炭酸塩若しくは重炭酸塩又は脂肪族第3級アミン(トリエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミン)である。
【0017】
本発明の更なる目的は、該水溶液の製造方法であって、式(1)の化合物が上記に記載されたように製造され、しかもアミンとシアヌル酸ハライドの間の各反応の副生成物として発生されるアルカリ金属又はアミン塩が反応溶液から除去される方法である。
【0018】
エチレングリコール、尿素又はモノ−、ジ−若しくはトリ−(2−ヒドロキシエチル)−若しくは(2−ヒドロキシプロピル)−アミンのような可溶化助剤の添加なしに、0.214mol/kg(32〜33重量%)より多い好ましくは0.214から0.350mol/kg一層特には0.250から0.340mol/kgの式(1)の化合物の濃度を備えた安定な水溶液を製造するために、アミンとシアヌル酸ハライドの間の各反応の副生成物として発生されるアルカリ金属又はアミン塩の少なくとも50重量%好ましくは少なくとも80重量%を除去することが必要である。これは、好ましくは、上記に記載されたように形成された溶液の限外濾過又は膜濾過により行われる。その代わりに、式(1)の化合物は沈殿(たとえば、酸の添加により)により単離され、次いで再溶解され得る。
【0019】
本発明の更なる目的は、紙又は他のセルロース基材の増白のための、本貯蔵安定性水溶液の使用である。
【0020】
式(1)の化合物の濃厚溶液は、シート形成後の紙の増白のために特に適している。これは、蛍光増白剤溶液を顔料入りのコーティング用組成物に又はサイジング用溶液若しくは懸濁液に添加することにより遂行され得る。
【0021】
本発明の好ましい側面において、式(1)の化合物の濃厚溶液は、顔料入りのコーティング用組成物にて紙の表面に施用される。
【0022】
かかるコーティング用組成物は、本質的には、少なくとも1種のバインダー及び白色顔料特に不透明化性白色顔料を含有する水性組成物であり、そして追加的に更なる添加剤(分散剤及び脱泡剤のような)を含有し得る。
【0023】
白色顔料不含のコーティング用組成物を生成させることは可能であるけれども、印刷用の最良の白色基材は、重量により10〜70%の白色顔料を含有する不透明なコーティング用組成物を用いて作られる。かかる白色顔料は、一般に、無機顔料たとえばケイ酸アルミニウム(カオリン,チャイナクレーとしても知られている)、炭酸カルシウム(チョーク)、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム又は硫酸カルシウム(セッコウ)である。
【0024】
バインダーは製紙工業においてコーティング用組成物の生成のために普通に用いられるもののいずれかであり得、また単一バインダーから又は一次バインダーと二次バインダーの混合物から成り得る。単独又は一次バインダーは、好ましくは合成ラテックス、典型的にはスチレン−ブタジエン、ビニルアセテート、スチレンアクリル、ビニルアクリル又はエチレンビニルアセテートポリマーである。二次バインダーは、たとえば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、大豆ポリマー又はポリビニルアルコールであり得る。
【0025】
単独又は一次バインダーは、典型的には、白色顔料の5〜25重量%の範囲の量にて用いられる。二次バインダーは、典型的には、白色顔料の0.1〜2重量%の範囲の量にて用いられる。しかしながら、デンプンは、典型的には、白色顔料の5〜10重量%の範囲にて用いられる。
【0026】
式(1)の蛍光増白剤は、典型的には白色顔料の0.01〜1重量%の範囲好ましくは白色顔料の0.05〜0.5重量%の範囲の量にて用いられる。
【0027】
次の例は、本発明を一層詳細に説明する。「部」は、別段記載されていない場合、「重量部」を意味する。
【0028】
製造例1
30部の水中の21.3部のアニリン−2,5−ジスルホン酸及び6.7部の水酸化ナトリウムの溶液を、50部の氷水中の15.5部のシアヌル酸クロライドの撹拌懸濁液に添加する。30%水酸化ナトリウムの滴加により、pHを6に保つ。第1級芳香族アミン基がジアゾ反応によりもはや検出され得なくなるまで、この混合物を10℃未満にて撹拌する。次いで、20部の水中の14.8部の4,4′−ジアミノスチルベン−2,2′−ジスルホン酸及び3.2部の水酸化ナトリウムの溶液を添加し、pHを30%水酸化ナトリウムの添加により6.5と7.5の間に調整し、そして陰性ジアゾ反応が得られるまでこの混合物を30℃にて撹拌する。22.9部の16%水酸化ナトリウム中の12.2部のL−アスパラギン酸の溶液を添加し、そしてこの混合物を還流にて6時間加熱し、しかもpHを30%水酸化ナトリウムの添加により7.5〜8.5に保つ。濃度がおおよそ0.167mol/kgであるナトリウム塩の形態の(2)のそのようにして形成された水溶液を膜濾過により脱塩し、そして0.330mol/kg(50重量%)に濃縮する。塩化ナトリウムが2.0%である生じた溶液は20℃において0.23〜0.25Pa.sの粘度を有し、そして5℃において2週間後に沈殿の徴候を示さない。
【化7】

【0029】
製造例2
0.330mol/kg(51重量%)の濃度におけるナトリウム塩の形態の(3)の水溶液を、例1に記載されたようにしかし12.2部のL−アスパラギン酸の代わりに13.5部のL−グルタミン酸を用いて製造する。塩化ナトリウムが2.0%である生じた溶液は20℃において0.23〜0.25Pa.sの粘度を有し、そして5℃において2週間後に沈殿の徴候を示さない。
【化8】

【0030】
施用例1
500部のチョーク(OMYAから商品名ヒドロカーブ(Hydrocarb)90下で商業的に入手できる)、500部の粘土(IMERYSから商品名カオリン(Kaolin)SPS下で商業的に入手できる)、470部の水、6部の分散剤(BASFから商品名ポリサルズ(Polysalz)S下で商業的に入手できるポリアクリル酸のナトリウム塩)、200部のラテックス(BASFから商品名アクロナル(Acronal)S320D下で商業的に入手できるアクリル酸エステルコポリマー)及び30部の10%カルボキシメチルセルロース(Noviantから商品名フィンフィックス(Finnfix)5.0下で商業的に入手できる)水溶液を含有するコーティング用組成物を製造する。固形分含有率を水の添加により65%に調整し、そしてpHを水酸化ナトリウムで8〜9に調整する。
【0031】
製造例1に記載されたように作られたナトリウム塩の形態の増白剤(2)の溶液を、0.1から0.6%の濃度範囲にて、撹拌されている上記のコーティング用組成物に添加する。次いで、この増白されたコーティング用組成物を、商業用の75gsmの中性サイジングされた白色紙ベースシートに、自動式線巻バーアプリケーターを用いて、標準速度設定及び該バー上の標準荷重でもって施用する。次いで、このコーテッド紙を熱空気流中で5分間乾燥する。この乾燥紙を状態調整し、次いで較正エルレフォ(Elrepho)分光光度計にてCIE白色度について測定する。
【0032】
【表1】

【0033】
これらの結果はまた、図1においてグラフ形態で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
(原文記載なし)
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

〔ここで、
Mは、水素、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、又はC2〜C3ヒドロキシアルキル基により一、二若しくは三置換されているアンモニウムであり、そして
nは、1から4である〕
の蛍光増白剤を含む貯蔵安定性水溶液において、該蛍光増白剤の量が0.214mol/kgより多く、そして可溶化剤が該溶液中に含有されていないことを特徴とする貯蔵安定性水溶液。
【請求項2】
Mが水素又はナトリウムカチオンであり、そしてnが1又は2である、請求項1に記載の貯蔵安定性水溶液。
【請求項3】
蛍光増白剤の濃度が、0.215mol/kgから0.350mol/kgである、請求項1又は2に記載の貯蔵安定性水溶液。
【請求項4】
蛍光増白剤の濃度が、0.250mol/kgから0.340mol/kgである、請求項3に記載の貯蔵安定性水溶液。
【請求項5】
追加的に無機塩、担体、凍結防止剤、保存剤又は錯化剤が含有されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の貯蔵安定性水溶液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液の製造方法において、シアヌル酸ハライドと
a)式(A)
【化2】

のジアミン
b)式(B)
【化3】

のアミン
及び
c)式(C)
【化4】

のアミン
との段階反応により式(1)の化合物を製造し、しかもアミンとシアヌル酸ハライドの間の各反応の副生成物として発生されるアルカリ金属又はアミン塩の少なくとも50重量%好ましくは少なくとも80重量%を反応溶液から除去する方法。
【請求項7】
アルカリ金属又はアミン塩の除去を、反応溶液の限外濾過若しくは膜濾過により又は蛍光増白剤を単離しそして次いでそれを再び溶解することにより行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
除去を膜濾過により行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
紙又は他のセルロース基材の増白のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の貯蔵安定性水溶液の使用において、蛍光増白剤を白色顔料の0.05から0.5重量%の濃度にて用いる使用。
【請求項10】
紙の増白のための請求項9に記載の貯蔵安定性水溶液の使用であって、顔料入りのコーティング用組成物にての使用。

【公表番号】特表2007−526383(P2007−526383A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501362(P2007−501362)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【国際出願番号】PCT/IB2005/000407
【国際公開番号】WO2005/092868
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(596033657)クラリアント インターナショナル リミティド (48)
【Fターム(参考)】