説明

火工ガス発生物

本発明は、硝酸グアニジン、塩基性硝酸銅及び過塩素酸カリウムを含む組成物からなる火工ガス発生物に関する。特徴的には、過塩素酸カリウムが、火工ガス発生物の総重量における8%〜20%を占めており、前記組成物が金属酸化物、半金属酸化物及びその混合物から選択された少なくとも1つの酸化物をさらに含み、前記少なくとも1つの酸化物は、前記火工ガス発生物の燃焼温度よりも低い融点を有していると共に前記火工ガス発生物の総重量における1%〜5%を占めている。前記少なくとも1つの酸化物は、火工ガス発生物の低圧での燃焼を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車乗員保護システム、例えばエアバッグの膨張又はシートベルトのプリテンショナーに用いるのに適した、火工ガス発生物(pyrotechnic gas-generating products)に関する。
【背景技術】
【0002】
過去20年以上にわたって、自動車乗員保護に関する技術分野は、非常に大きな発展を成し遂げた。今後の最新世代の車両は、火工ガス発生物の爆発によって動作するエアバッグ型又はシートベルトのプリテンショナー型の幾つかの安全システムを乗員室内に統合させたものとなる。複数あるエアバッグ型システムの中で、前面衝突用エアバッグ(ドライバー又は乗員エアバッグ)及び側面衝突用エアバッグ(カーテン又は胸部保護エアバッグ)が際だっている。
【0003】
エアバッグ用ガス発生器のコスト削減という自動車メーカーの要請により、係る火薬(pyrotechnic charge)は以下の複数の要求を同時に満たさなければならない。
・火薬の爆発によって発生するガスに毒性がない、つまり一酸化炭素、窒素酸化物及び塩素化合物の含有量が低い。
・高い膨張力が得られるように組成物のガス発生量(爆発によって発生するガスの総量)が多くなければならない。これは、組成物のモルガス発生量(mol/kg)と燃焼温度(K)との積によって与えられる。
・これと関連して、エアバッグの壁に損傷を与えることがあるホットスポットを構成する可能性のある、爆発によって発生する固体粒子量が少なくなければならない。
・爆発温度が高すぎることがなく(理想的には2200K未満)、エアバッグ内のガス温度が乗員のフィジカル・インテグリティ(physical integrity)を損なわない程度に低い。爆発温度が低いことによって、エアバッグの厚みを小さくすること、及び、エアバッグ内の調節板及びフィルタの削減ができることでガス発生器のデザインを簡略化することが可能となる。最終的には、ガス発生器は低コストで重量削減及び体積削減されたものとなる。
・組成物が単位面積あたり高い膨張率を有していることが必要である。膨張率は、ρを火工材の密度(g/cm)、nを爆発のモルガス発生量(mol/g)、Tcを爆発温度(ケルビン温度)、Vcを燃焼速度(mm/s)として、ρ×n×Tc×Vcで推定される。すなわち、単位面積あたり膨張率は〔mol・K・mm−2・s−1〕で表される。
【0004】
側面用エアバッグシステムは、エアバッグの展開(deployment)に要する時間及び配置の点で前面用エアバッグシステムとは相違している。通常、この時間は、側面エアバッグの方が短い(側面が10〜20msであるのに対して、前面が40〜50ms)。側面エアバッグに関して、短時間でエアバッグが膨張するという機能的要求によって、十分な単位面積あたり膨張率(積ρ×n×Tc×Vc)を得るためには、火工組成物が、ガス発生器の燃焼室内での全動作圧力範囲(通常20〜80MPa程度)において高い燃焼速度(通常20MPaで35mm/sより大きく、50MPaで40mm/sより大きい)を持つことが要請されることになる。さらに、エアバッグシステムが始動することを保証するために、火工組成物は優れた点火性(ignitability characteristics)をもつことも必要である。最後に、使用される(ペレット型の)火薬の側面形状が通常テーパー状であることを考慮して、火工組成物は、理想的には、低圧(ここで低圧は大気圧と同じかそれよりも僅かに大きい圧力を意味している)において安定し且つ十分に高い燃焼速度を有しているべきである。
【0005】
さらに、側面用エアバッグシステムは、完全火工型(entirely pyrotechnic:火薬の爆発によってのみガス発生が行われる)と称されるものと、ハイブリッド型(火薬の爆発と、加圧状態で気密室に蓄えられた不活性ガス量とが共にガス由来となる)と称されるものとの2つのガス発生器技術を必要とすることがある。ハイブリッド型ガス発生器においては、爆発によって生じたガスが予圧縮された不活性ガスの体積膨張によって生じる温度低下を補償するのに十分高温となるように、火薬の爆発温度が低すぎてはならない。理想的には、爆発温度は2000Kよりも高いことが要求される。
【0006】
したがって、当業者は、2000〜2200K程度の適切な爆発温度と低圧を含む全動作圧力範囲における高い燃焼速度とを共に有する火工組成物であって、側面用エアバッグ用の完全火工型ガス発生器又はハイブリッド型ガス発生器に使用されるのに適した組成物を研究している。
【0007】
様々なタイプの火工組成物が今まで既に提案されてきている。最近では、酸化剤としての塩基性硝酸銅(BCN)と還元剤としての硝酸グアニジン(GN)との混合物から製造された、燃焼温度及び燃焼ガスの毒性の点で最適に調整された火工組成物が提案されているようである。BCN/GNを共に用いることで、燃焼温度を通常は1800K程度まで低下させることが可能となる。米国特許5608183号には、湿式製造工程で製造された係る複数の組成物について記載されている。しかしながら、これらの組成物には以下のような幾つかの大きな欠点がある。
・フィルタによる捕捉不可能な固体残渣が多く含まれる。これらの残渣は、ガス発生器の燃焼室内温度では液体銅の滴形状でありガス発生器を離れる際に固化するものであって、BCNの分解によって発生する。その結果として高温固体粒がエアバッグの壁に損傷を与える。
・点火しにくいために大量の点火剤を用いることが必要となり、ガス発生器のコストを増加させる。
・ガス発生量がそれほど多くない。
・燃焼温度が非常に低く、ハイブリッド型ガス発生器との共用が難しい。
・燃焼速度が小さく(20MPaで約20mm/s)、側面用エアバッグ用の完全火工型ガス発生器又はハイブリッド型ガス発生器には使用しにくい。
【0008】
上述した大きな欠点のうち最初のものを克服するために、BCNの液体燃焼残渣を凝集させるという目的で、酸化アルミニウム(アルミナ)又は酸化ケイ素のような耐火性酸化物を火工組成物内に含有させるという技術が提案されている。すなわち、米国特許6143102号には、やはり湿式製造工程で製造される、耐火性酸化物としての酸化ケイ素を最大5重量%含む、BCN及びGNをベースにした組成物について記載されている。この凝集効果が酸化ケイ素の融点(または軟化点)である1950Kが当該組成物の燃焼温度Tc=1800Kよりも高い又はこれと非常に近いことによって生じ、それゆえ軟化した固体酸化物が液体銅の液滴を凝集させることを当業者は知っている。そして、燃焼終了時に、火工ブロックのバックボーン(backbone)が得られる。しかしながら、少量であっても係る凝集酸化物の取り込みが燃焼速度にとって不利であることが直ぐに明らかとなった。燃焼中に(ペレットの)火工ブロックと接触し続け且つ未燃焼の表面への熱流(heat flow)を制限する粒子状物質母岩(particulate gangue)がこの凝集効果によって生成されるためである。したがって、このタイプの火工組成物は燃焼速度が小さく且つガス発生量が少ないという欠点を有している。当該組成物の燃焼速度の小ささを補うために、米国特許6143102号において、弾道触媒(ballistic catalyst)として金属酸化物型(アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛またはマグネシウムの酸化物)である第2の耐火添加剤(refractory additive)を加えることが提案されている。最後に、合計が10重量%程度の酸化ケイ素及び金属酸化物を加えることによって、組成物のガス発生量にとって非常に不利となる。
【0009】
BCN及びGNをベースとした組成物の点火性を改善するために、この組成物に過塩素酸カリウムを追加する技術が提案されている。すなわち、ヨーロッパ特許出願1526121号には、上記組成物の点火性を改善するために、少量(5重量%未満)の過塩素酸塩(具体的には過塩素酸カリウム)を追加することが記載されている。このような少量の過塩素酸塩を付加することによって、当該組成物の燃焼速度及びガス発生量を僅かに増大させることができるが、この改善を行っても側面用エアバッグのガス発生器には不十分である。
【0010】
米国特許出願2006/0016529号には、硝酸グアニジン(40〜60重量%)、塩基性硝酸銅(35〜50重量%)、アルカリ金属過塩素酸塩(ヨーロッパ特許出願1526121号での教示(1〜10重量%)よりも多いがやはり少量に限られている)、及び、弾道触媒及び凝集剤として機能する金属酸化物(1〜5重量%)をベースとした組成物が記載されている。この金属酸化物は、米国特許6143102号(上記参照)の教示に従ったのと同じく凝集を目的としたものである。
【0011】
大量(燃焼温度の予期せぬ上昇を引き起こさない、通常30%未満の限られた量)の過塩素酸カリウムを付加することによって、ガス発生量が顕著に増加し、さらに当該組成物を得るために特定の製法を用いたときには、燃焼速度も顕著に増加する。すなわち、フランス特許出願2892117号には、硝酸グアニジン(還元剤)、少量の塩基性硝酸銅(主酸化剤)、及び、30重量%以下の大量の過塩素酸カリウム(共酸化剤)をベースとした組成物が記載されている。塩基性硝酸銅が少量であるので組成物に凝集剤を付加する必要がなく(BCNによって生成される少量の銅粒子は当該明細書の記載範囲内において許容される)、当該組成物を得るための特定の製法を用いて得られた過塩素酸カリウムが大量であるので中圧及び高圧において弾道触媒を付加しなくても高い燃焼速度を達成することができる。これらの組成物は本発明に最も近い従来技術である。
【0012】
したがって、フランス特許出願2892117号は、過塩素酸カリウム(約14%)及び塩基性硝酸銅を適度に含有することと、乾式圧縮工程を用いることとを組み合わせば、下記の点において有利な調和の取れた火工組成物が得られることを教示するものである。
・2100K程度の燃焼温度
・高圧における高い燃焼速度
・高いガス発生量
・良好な点火性
・燃焼中に発生する固体(銅)粒子が少量であるために、凝集剤を無くすことが可能
【0013】
しかしながら、このタイプの組成物には、燃焼圧が大気圧より高いという制限がある。大気圧及び2MPa未満の大きな圧力指数(pressure exponent)下において自燃(self-sustaining combustion)できないと、動作圧力及び火薬形状によっては、燃焼終了時に消火(extinguishment)してしまうことになる。当業者であれば、過塩素酸塩を付加することによって引き起こされる効果、つまり高圧における燃焼速度にとって有利であるが低圧における燃焼速度にはあまり有利ではなく、過塩素酸塩が付加されるとその量は大量になることを知っている。低圧では、少量の固体粒子を伴う大量のガス発生によって発生する高膨張が、未燃焼領域への熱流の僅かな戻りを引き起こす。この場合、自燃の維持が困難となる。
【0014】
火工組成物において、低圧での安定した自燃ができないという事態は、主に以下の理由によって、当該組成物がエアバッグ用ガス発生器に用いられるときに大きな欠点である。
・圧力指数が大きいために、動作の初期又は終期における低圧で消火するというリスクがあるので、低圧での主火薬の燃焼を維持するための共火薬(co-charge)を必要とすることがある。したがって、ガス発生器は嵩張ったものとなって、小型にはならず高コストとなる。
・(ガス発生器の燃焼室内の圧力が火工組成物の下限自燃圧力未満に低下したときに)動作終了時に消火する、つまり目的とする機能的要求に従ってエアバッグを膨張させる燃焼ガスの発生に寄与しない未燃焼物が残ったまま消火するリスクがある。さらに、こういった未燃焼物は燃焼室内に残留した高温下において熱分解によって徐々に劣化し得る。この熱分解による緩慢な劣化は、制御困難なガスバーストの放出、そして時折フィルタによって捕捉できない小さなサイズの固体粒子の放出を引き起こす。このような現象は、当該分野(USCAR)において実施されている毒性及び呼吸可能な粒子放出に関する基準を遵守するには不利となるガス(fumes)を動作終了時に発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
かかる状況において、本発明者らは、以下の要求を同時に満たす、改良された火工ガス発生物を提案することを所望した。
・適度な燃焼温度(2100K程度)
・高いガス発生量(30mol/kgよりも大きい)
・燃焼中に発生する固体粒子が少量
・良好な点火性
・高圧における高い燃焼速度(20MPaで35mm/sよりも大きく、50MPaで40mm/sよりも大きい)
・燃焼(有利なことには燃焼速度も)が低圧、理想的には大気圧において安定して自燃して、ガス発生器の動作中に火薬が消火するリスクを回避することが可能
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明において、本発明者らは、過塩素酸カリウムを適量含む組成物において、少量(1重量%〜5重量%)の、金属酸化物、半金属酸化物(metalloid oxide)及びその混合物から選択された少なくとも1つの酸化物であって、この火工ガス発生物の燃焼温度よりも低い融点(melting point)を有している(高圧における十分に高い燃焼速度を維持するのに不利となる燃焼残渣のいかなる凝集効果をも回避するため)ものを付加することで、特に高圧での高い燃焼速度を維持しつつ低圧での燃焼を改善するという技術的課題に関して大きな利益があることを示した。上記少なくとも1つの酸化物は、乾式工程によって本発明の火工薬を製造するために用いられる均一粉末混合物(主にGN+BCN+KClO+上記少なくとも1つの酸化物(下記参照)を含む)を生成するためには、「粒子サイズがミクロンスケール(通常0.1〜100μm)である」及び/又は「比表面積が大きい(>20m/g)」粉末火薬の形態である。これらは本タイプを構成する通常の特性である。
【0017】
したがって、本発明者らは、側面用エアバッグシステムに用いるのに特に適したハイブリッド型又は完全火工型のガス発生器に用いられる新しい高品質火工物をここに提案する。
【0018】
本発明に係る(エアバッグ用として非常に好適な)火工ガス発生物の組成は、以下のものを含有している。
・硝酸グアニジン(窒素含有還元薬として)
・塩基性硝酸銅(主酸化薬として)
・過塩素酸カリウム(二次酸化薬として)
【0019】
特徴として:
上記過塩素酸カリウムは、火工ガス発生物の総重量における8%〜20%、有利には10.5重量%〜20重量%を占めている。
前記組成物は、金属酸化物、半金属酸化物(metalloid oxide)及びその混合物から選択された少なくとも1つの酸化物をさらに含み、前記少なくとも1つの酸化物は、前記火工ガス発生物の総重量における1%〜5%を占めており、前記火工ガス発生物の燃焼温度よりも低い融点を有している。
【0020】
上記4種類の成分(GN,BCN,KClO,及び、上記の酸化物)は、本発明の火工ガス発生物の通常90重量%を超え、より一般的には95重量%を超え、さらには98重量%を超え、或いは100重量%となっている。製造上の助剤(例えばステアリン酸カルシウム)のような任意的な付加剤が用いられることは明らかである。
【0021】
硝酸グアニジンは、熱力学的特性(特にガス発生量)のため、弾道特性(ballistic properties)を火工物に与えるための、そして、火工物を乾式工程で製造するのに適した流動プラスチック的な挙動(rheoplastic behavior)を与えるための還元剤として選択された。かかる硝酸グアニジンは、火工的な安全を確保するという理由、そして、加えられる圧縮応力を制限しつつ火工組成物に良好な緻密化が行われることを担保する、乾式工程における圧縮成型及び任意のペレット化段階を行うのに適した流動プラスチック的な挙動を得るという点で有利である。乾式工程による火工ガス発生物の製造方法は通常4つの工程を含んでおり、それは国際公開WO2006/134311号に記載されている。
【0022】
過塩素酸カリウムは、本発明の火工ガス発生物の組成物内に、燃焼温度、点火性、及び、目標となる高圧での燃焼速度を参照して、適切な量(8重量%〜20重量%)だけ含まれている。そして、それは有利には10.5重量%以上である。
【0023】
前記少なくとも1つの(金属及び/又は半金属の)酸化物の機能は、従来技術(特に米国特許6143102号及び米国特許出願2006/0016529号参照)とは異なり、高圧で高い燃焼速度を得るために不利となる粒子状物質母岩を当該燃焼中に形成する液体銅粒子を燃焼中に凝集させることがなく、前記少なくとも1つの(金属及び/又は半金属の)酸化物の融点よりも燃焼温度が高い組成物(KClOを適度に含有する)に、驚くべきことに、以下の特性があることを担保し、
・従来技術の組成物よりも低圧において安定に自燃すること、
・従来技術の組成物よりも低圧での燃焼速度が高いこと、
そして、当該組成物内の過塩素酸カリウムの機能は、
・従来技術の組成物の燃焼速度に近い、高圧での高い燃焼速度、
・全動作圧力範囲において従来技術の組成物と同じ又は小さい圧力指数、
に本質的に関与していると理解できる。
【0024】
このように、本発明の火工ガス発生物は、良好な点火性を有し且つ燃焼中に多くの固体粒子を発生させず、さらに以下の点を有利に調整するものである。
・適切な燃焼温度(2100K程度)
・高いガス発生量
・高圧での高い燃焼速度、及び、
・低圧及び大気圧における「ゼロではない」燃焼速度
【0025】
本発明では、低圧(上記参照)における燃焼改善のために、(弾道触媒及び/又は凝集剤として知られる)金属及び/又は半金属の酸化物の初めての使用が提案される。
【0026】
したがって、本発明の火工ガス発生物内に前記少なくとも1つの酸化物を1重量%以上含むことが、低圧での燃焼改善に関与する。その含有量は、特にガス発生量及び高圧での燃焼に鑑みて5重量%以下に制限される。
【0027】
本発明の火工ガス発生物を得るために、要求される特性(熱力学的計算から生じるものであって、燃焼温度、ガス発生量、固体残渣の量、酸素平衡(oxygen balance)及び理論密度など)をもらたすような上述した複数の成分(火工ガス発生物の構成要素)の必要比率は、前記少なくとも1つの金属及び/又は半金属の酸化物の融点に関する条件(融点が、前記少なくとも1つの酸化物を構成要素として含む火工ガス発生物の燃焼温度よりも低い)を満たすことを担保しつつ(本発明者らによって低圧での燃焼において良好な結果が確認された)、予め決定される。
【0028】
本発明に係る火工ガス発生物の組成物に存在する前記少なくとも1つの酸化物(存在する唯一の酸化物または複数の酸化物のそれぞれ)の融点は、有利なことには、当該火工ガス発生物の燃焼温度よりも50K以上低い。
【0029】
好ましくは、前記少なくとも1つの酸化物は、シリコン酸化物(SiO)、タングステン酸化物(WO)及びモリブデン酸化物(MoO)から選択される。このうち特にシリコン酸化物(SiO)が好ましい。
【0030】
有利には、本発明の火工ガス発生物の組成物は、
50重量%〜65重量%の硝酸グアニジン、
20重量%〜40重量%の塩基性硝酸銅、
8重量%〜20重量%、有利には10.5重量%〜20重量%の過塩素酸カリウム、及び、
1重量%〜5重量%、有利には1重量%〜3重量%の前記少なくとも1つの金属及び/又は半金属の酸化物を含んでいる。
【0031】
したがって、本発明の火工ガス発生物は、有利には、粉体状の複数の成分を乾式混合する第1ステップと、これによって得られた粉状混合物を圧縮する第2ステップとを含む乾式製造工程によって得られる。これら2つのステップの後に、粒状化を行う任意的な第3ステップと、さらに必要であればその後に圧縮された火工ガス発生物を得るために粒状物をペレット化により成形する第4ステップとが行われる。
【0032】
したがって、本発明の火工ガス発生物は、通常は、粒状、ペレット又はブロックとなっている。
【0033】
最終品の所望の機能的特性に影響することを可能な限り少なくしつつペレット化を容易にするために、粒状化後に添加剤が加えられてもよい。この添加剤は、有利には、ステアリン酸塩族であり、ステアリン酸塩カルシウム又はステアリン酸マグネシウムからなることが好ましい。その添加量は1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。
【0034】
本発明の火工ガス発生物は、エアバッグ用ガス発生器の火薬に組み入れられるのに非常に適したものである。当該火工ガス発生物が、当該火薬の全部又は一部であってよい。
【0035】
本発明は、その他の観点において、上記火工ガス発生物を少なくとも1つ含むガス発生器に関する。係るガス発生器は、エアバッグ用として好適である(上記参照)。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明及び従来技術の火工ガス発生物について、低圧での燃焼速度(伝播)曲線を示している。
【図2】本発明及び従来技術の火工ガス発生物について、広い圧力範囲での燃焼速度曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、非限定的なものである、本発明の実施の形態について説明する。本発明の幾つかの実施例に係る(本発明の火工ガス発生物の)組成物が以下に説明され、従来技術の(火工ガス発生物の)組成物の例と比較を行う。
【0038】
図1は、本発明及び従来技術の火工ガス発生物について、低圧での燃焼速度(伝播)曲線を示している。測定は、標準バーナー技術(下記参照)によって粒状体について行われた。
【0039】
図2は、本発明及び従来技術の火工ガス発生物について、広い圧力範囲での燃焼速度曲線を示している。測定は、圧力測定ボンベ(manometric bomb)内でペレットについて行われた。
【0040】
表1は、本発明の火工ガス発生物の組成物の実施例及びその特性を示している。これらの組成物(火工ガス発生物)は、粉体状の混合−圧縮−粒状化−任意のペレット化という乾式製造工程によって上記組成物から製造された粒状体又はペレットについて、熱力学的計算又は物理的測定によって評価された。
【0041】
酸化物の量の関数として、主成分(GN、BCN及びKClO)の量が、酸素平衡値が−3%近傍を維持するように調整され、これによって組成物の特性が表1から直接的に比較できるようになっている。
【0042】
表1に記載された組成物に用いられている主成分は、有利には、硝酸グアニジンに関して約12μm、BCNに関して約3μm、KClOに関して約10μmの中央値(median)径(D50)であることを特徴とする微粒子サイズである。
【0043】
実施例1〜4の組成物に用いられている金属又は半金属の酸化物は、約1950K(SiO)、約1070K(MoO)及び約1750K(WO)の融点によって特徴付けられる。シリコン酸化物は100〜200m/gの比表面積を有しており、モリブデン酸化物は約10μmの中央値径を有しており、タングステン酸化物は約100μmの中央値径を有している。
【0044】
実施例1〜4の組成物は、本発明による火工ガス発生物を構成しており、参考例(比較例A及びB)の組成物は、従来技術のフランス特許出願2892117号による火工ガス発生物を構成している。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示す各火工ガス発生物について、標準バーナー技術(加圧された容器内での点火)によって粒状体について燃焼圧力下限値が測定された。このために、不活性雰囲気(N)下で加圧された容量5リットルの容器内に配置された直径7.4mmのストロー内に、粒状体が導入される。熱線を用いて点火が行われ、それから100mm間隔でストロー内に収容された2本の可溶性ワイヤを用いて燃焼伝播速度の測定が行われる。点火は、各組成物の粒状体の非点火が観察されるまで、様々な容器加圧値について20℃で実行された。
【0047】
表1の各火工ガス発生物に関して、圧力測定ボンベ内で行われる点火によって、ペレットについての燃焼速度(Vc)が測定された。広い圧力範囲にわたるVc(P)曲線を得るために、様々な火薬濃度値(35kg/m〜175kg/m)について点火が行われた。
【0048】
表1の結果は、本発明による実施例1〜4の組成物が以下の事項を有していることを示している。
・有利なことに、比較例A及びBの組成物との比較において、密度、燃焼温度及びガス発生量に関して特性が維持されること。これら特性は、組成物の期待される機能(膨張力)において主たる部分を果たすために重要である。
・ペレットについて低い空隙率(porosity)の測定値を示すという、緻密化のための良好な適性。この緻密化適性は、想定される用途に応じて形状(geometry)、直径又は厚さが容易に調整される、圧縮粒状体の製造及びペレットの製造にとって重要である。また、ペレット化の際に加えられる圧縮応力を最小にすることができので、器具の摩耗及び圧縮期間中の火工的なリスクが削減される。
・十分な機械的強度を有するペレットが得られること。SiO、MoO又はWO型酸化物を適量含有することによって、圧環強度(radial crushing strength)値を示すためにペレットの機械的強度が低下することがない。
【0049】
表1に示された燃焼圧力下限値及び図1に示された低圧での燃焼速度曲線は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物又はタングステン酸化物型の酸化物を適量(実施例では1.5重量%〜3重量%)含有することによって、比較例A及びBにおけるよりも燃焼圧力下限値を大幅に低下させることができることを示している。実施例1〜4の組成物中で、シリコン酸化物が3重量%である実施例2の組成物において、最も顕著な改善が見られた。なぜなら、この実施例2は、大気圧において「ゼロではない」燃焼速度を有しており、さらに、概して、0.1〜1MPaの圧力範囲にわたって最も大きな燃焼速度を有しているからである。
【0050】
図2を参照すると、表1の複数の組成物からなるペレットについて得られた圧力測定ボンベ内における弾道特性(ballistic characterization)は、実施例1〜4の組成物が20〜50MPaの高圧力範囲にわたって十分に大きな燃焼速度を維持していることを示している。
【0051】
1.5重量%のシリコン酸化物を含有する実施例1の火工ガス発生物は、燃焼温度、ガス発生量、燃焼圧力下限値及び高圧での燃焼速度という複数の特性を最適解決するものである。特に、この火工ガス発生物は、大気圧において「ゼロではない」燃焼速度を保持するという大きな利点を有している。実施例2の組成物のように3重量%のシリコン酸化物を含有した場合には超低圧での燃焼の点でより利益があるが、逆に、高圧での燃焼速度が低下してしまう。これらの結果は、20〜50MPaの高圧力範囲での十分な弾道特性を維持するためには、シリコン酸化物の含有量を3重量%未満とすることが好ましいことを示している。
【0052】
テストした様々な酸化物の中で、シリコン酸化物を有する本発明によって製造された実施例1及び2の火工ガス発生物について、圧力指数を有益に低下させることが観測された。
【0053】
含有された酸化物(SiO、MoO又はWO)の融点が当該組成物の燃焼温度よりも低いことにより、酸化アルミニウムのような高融点耐火性酸化物を含有するBCNをベースとした組成物のようには、ペレットの初期形態である火工ブロックのバックボーンの形態で凝集した、燃焼残渣が観察されることがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸グアニジン、塩基性硝酸銅及び過塩素酸カリウムを含む組成物からなる火工ガス発生物であって、
前記過塩素酸カリウムが、前記火工ガス発生物の総重量における8%〜20%を占めており、
前記組成物が金属酸化物、半金属酸化物(metalloid oxide)及びその混合物から選択された少なくとも1つの酸化物をさらに含み、前記少なくとも1つの酸化物は、前記火工ガス発生物の総重量における1%〜5%を占めており、前記火工ガス発生物の燃焼温度よりも低い融点を有していることを特徴とする火工ガス発生物。
【請求項2】
前記過塩素酸カリウムが、前記火工ガス発生物の総重量における10.5%〜20%を占めていることを特徴とする請求項1に記載の火工ガス発生物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの酸化物の融点が、前記火工ガス発生物の燃焼温度よりも50K以上低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の火工ガス発生物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの酸化物が、シリコン酸化物(SiO)、タングステン酸化物(WO)及びモリブデン酸化物(MoO)から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の火工ガス発生物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの酸化物が、シリコン酸化物(SiO)からなることを特徴とする請求項4に記載の火工ガス発生物。
【請求項6】
50重量%〜65重量%の硝酸グアニジン、
20重量%〜40重量%の塩基性硝酸銅、
8重量%〜20重量%、有利には10.5重量%〜20重量%の過塩素酸カリウム、及び、
1重量%〜5重量%、有利には1重量%〜3重量%の前記少なくとも1つの酸化物を含む前記組成物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の火工ガス発生物。
【請求項7】
各成分を粉体として含む粉状混合物を圧縮するステップと、任意工程である粒状化(granulation)ステップと、さらに必要であればその後にペレット化ステップとを含む乾燥工程によって得られたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の火工ガス発生物。
【請求項8】
形状が粒状、ペレット又はブロックとなっていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の火工ガス発生物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の火工ガス発生物を少なくとも1つ含む、エアバッグに適したガス発生器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2013−504507(P2013−504507A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528432(P2012−528432)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051889
【国際公開番号】WO2011/030071
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(506100082)エスエムウー (24)
【氏名又は名称原語表記】SME
【住所又は居所原語表記】2,boulevard du General Martial,Valin 75015 Paris,FRANCE
【Fターム(参考)】