説明

炊飯油を用いる炊飯方法

【課題】本発明の課題は、炊飯油の効果を最大限に発揮させて、米飯の機械への付着を抑制し、ほぐし工程や成型工程における米飯の機械耐性を向上させることができる炊飯技術を開発することである。
【解決手段】本発明によって、平均粒子径が10〜120μmである食用油脂の水中懸濁液を調製することと、懸濁液を調製してから1時間以内に懸濁液を生米に添加して炊飯することと、を含む炊飯方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の炊飯技術に関し、特に、炊飯油を用いる米の炊飯技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炊飯時の米飯の機械耐性の向上、炊飯後の米飯の釜離れの向上、さらには米飯のほぐれ性や艶、食感、食味などを向上させるために、食用油脂を炊飯前に添加して炊飯する技術が知られている。このような食用油脂は炊飯油などと呼ばれ、比較的多量の米を炊飯する際に広く用いられている。
【0003】
例えば、量販店、コンビニエンスストアなどで販売される弁当やおにぎりなどを製造する際の炊飯では、大量に炊飯されることになるが、食用油脂を添加しない通常の炊飯方法では、大量に炊飯した後、炊飯釜からの釜離れが悪く、特に冷却工程で真空冷却等を行う方法を採用した場合、その後の成型加工時の計量、充填、成型の各工程で米飯が機械に付着しやすく、また、これは品質及び歩留りの低下や作業性の悪化などの原因となる。また、弁当やおにぎりなどの持ち帰り商品では、製造から喫食まで時間が経過することが多く、炊飯から時間が経過して冷えたご飯であっても美味しいことが求められる。
【0004】
このような課題に対応するため、炊飯油を添加して炊飯する方法が知られており、例えば、食用油脂を水中油型エマルションにして使用することが知られている(特許文献1)。また、特許文献2では、特に米飯の釜離れを改善するために乳化油脂の平均粒子径を1〜35μmにすることが提案されている。さらに、特許文献3では、油脂乳化物の平均粒子径を1μm以下まで微細乳化することによって米飯に油っぽさや油臭が残ることを抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−262762号公報
【特許文献2】特開2000−116344号公報
【特許文献3】特開平7−163306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、炊飯油を水中油型のエマルションにして使用することが行われてきたが、炊飯油が炊飯釜中で十分に分散せず、炊飯油の効果を十分に活かし切れていない場合があった。また、炊飯油をエマルションの形態にして使用する場合、一般に乳化剤や乳化安定剤などの添加剤が用いられるが、乳化剤などの添加剤によって炊飯後の米飯の食味に悪影響が生じることがある。このことから、食味向上の観点からはなるべく少ない添加量とするか、又は使用しないことが望まれるところであるが、通常、炊飯油のメーカーは市場に流通させる際に油脂の分散性を向上させてエマルションが長期間安定に維持されるよう乳化剤や乳化安定剤を添加しているのが実情である。
【0007】
このように、従来のように食用油脂組成物の組成や添加剤を検討するだけでは限界があり、別の観点から炊飯油を用いた効率的な炊飯方法を検討する必要がある。
このような状況に鑑み、本発明の課題は、食用油脂についてその組成や配合とは違った観点から検討を行い、炊飯油を米飯に効率的に分散させ、炊飯油の効果を最大限に引き出すような炊飯技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明者は、炊飯油の効果を最大限に発揮させるような炊飯技術を鋭意検討し、特に炊飯油の分散方法やその添加方法を詳細に研究したところ、食用油脂を水中に分散させて油脂の平均粒子径が10〜120μmとなるように懸濁液を調製し、その後1時間以内に該懸濁液を炊飯前に添加して炊飯することによって、炊飯油の効果が効率よく、かつ最大限に発揮されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
以下に限定されるものではないが、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 水と油脂とを含み、油脂の平均粒子径が10〜120μmとなるように食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製することと、該懸濁液を調製してから1時間以内に該懸濁液を炊飯前の米とともに添加して炊飯することと、を含む炊飯方法。
(2) 前記懸濁液中の油脂の平均粒子径が30〜80μmとなるようにした、(1)に記載の炊飯方法。
(3) 食用油脂に対して水を噴射して混合することによって食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製する、(1)または(2)に記載の炊飯方法。
(4)前記懸濁液を調整する場合、食用油脂の重量1に対して1.5〜10倍の水を噴射して混合するようにした、(1)乃至(3)に記載の炊飯方法。
(5)前記食用油脂の添加量が生米重量に対して0.3〜3.0重量%となるようにした、(1)乃至(4)に記載の炊飯方法。
(6)前記食用油脂中に、該食用油脂全体に対して0.1〜2.5重量%の乳化剤を添加するようにした、(1)乃至(5)に記載の炊飯方法。
(7) 食用油脂と水とを混合して食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を形成するテーパー構造を備えた混合容器と、該混合容器に食用油脂を供給するための供給機と、該混合容器内に供給された食用油脂に対して水を噴射して混合するための噴射装置と、該混合容器内で調製された前記懸濁液を炊飯釜へ供給する懸濁液供給機と、前記懸濁液と米、水等を入れて炊飯するための炊飯釜と、を備える炊飯装置。
(8)前記混合容器のテーパー構造部分における外側面が水平方向となす角度が45°以上となるようにした、(7)に記載の炊飯装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炊飯油の効果を最大限に発揮させることができる。具体的には、本発明によれば、米飯の機械への付着を抑制し、ほぐし工程や成型工程における米飯の機械耐性を向上させ、飯潰れをより効率的に抑制することができる。また、本発明によれば、米表面が炊飯油でコーティングされるため水分の蒸発を抑えて米飯の老化を抑制することができる。さらに、本発明によれば炊飯油をより効率的かつ均一に米表面に行き渡らせることができるため、炊飯油の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、色素で着色した炊飯油を用いて炊飯した際の炊飯油の分散状態を示す写真である。上段は従来どおり通常の乳化していない炊飯油をそのまま使用した場合、下段は本発明の食用油脂懸濁液を用いた場合の写真である。
【図2】図2は、割れや欠けのある米粒(砕粒)と割れや欠けのない米粒(整粒)とを示す写真である。
【図3】図3は、実験4で調製した食用油脂懸濁液(サンプルA〜C)の粒径分布を示すグラフである。
【図4】図4は、実験4で調製した食用油脂懸濁液(サンプルAおよびC)の顕微鏡写真である。左がサンプルA、右がサンプルCである。
【図5】図5は、本発明の炊飯装置の全体を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の炊飯装置を用いて食用油脂懸濁液を調製する際の様子を示す図である(図6a:食用油脂供給、図6b:水の噴射および混合、図6c:混合完了)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は炊飯方法であり、水と油脂とを含み、油脂の平均粒子径が10〜120μmとなるように食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製することと、該懸濁液を調製してから1時間以内に該懸濁液を炊飯前の米、水等に添加して炊飯することとを含む。一つの態様において本発明では、炊飯用の生米を洗浄後または無洗米では洗浄せずにそのまま水に浸漬して、必要に応じてその他の原料や制菌剤などとともに炊飯釜に入れ、そこに食用油脂の水中懸濁液を添加して炊飯を行う。
【0013】
本発明において炊飯法は特に制限されず、公知の方法を利用することができる。炊飯の際に用いる炊飯釜も特に制限されない。従来方法によれば小型の炊飯釜と比べて大型の業務用炊飯釜は容量が大きく食用油脂を米飯全体に行き渡らせることが困難であったのに対し、本発明を適用すると容量が10L以上の大型の炊飯釜を用いる場合にも食用油脂を米飯全体に行き渡らせることが容易となることから、大型の炊飯釜を用いる場合に、特に本発明の効果を大きく享受することができ、好適である。一般に、炊飯時において炊飯釜内部では熱により下から上へ水流が発生するところ、炊飯油である食用油脂は水よりも比重が軽いため浮上しやすく、炊飯釜の底部まで炊飯油を行き渡らせにくいが、本発明によれば、前記のような食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製して添加するため分散性に優れ、食用油脂を米飯全体により均一に行き渡らせることが可能である。
【0014】
一般に米飯を炊いておむすびやすしなどを製造する場合、洗米、浸漬、計量、加水、加熱(炊飯)、蒸らし、ほぐし、冷却、成型といった工程を経て生米から米飯が製造される。通常、炊飯油は計量工程や加水工程で添加されることが一般的であるが、本発明においては炊飯前に添加されていれば特にいずれの工程で添加してもよい。本発明によると、炊飯時に食用油脂が炊飯釜中で十分に分散されて米飯に行き渡るため、炊飯後のほぐし工程や成型工程さらにはその間の移動などの際に米粒が潰れにくく、成型性も向上する。
【0015】
本発明においては、まず、食用油脂の水中懸濁液を調製する。食用油脂の水中懸濁液の調製方法は、油脂の平均粒子径が10〜120μmとなるように懸濁液を調製することができれば特に制限されず、公知のエマルションの調製方法によることもできる。例えば、高圧ホモジナイザー、撹拌乳化機、超音波乳化機、コロイドミルなどを用いて、攪拌するときの回転数を少なくしたり、超音波の周波数を低くする等して懸濁液を調製する方法を挙げることができる。
【0016】
本発明の好ましい態様においては、食用油脂に対して水を噴射して混合することによって食用油脂の水中懸濁液を調製する。ホモジナイザーなどを用いて懸濁液を調製すると粒子径が5μm未満の小さな油滴が多く生じるのに対して、食用油脂に対して水を噴射して混合する方法によって食用油脂の水中懸濁液を調製すると油脂の粒子径が過度に小さくなることがなく、好適である。後述するように、食用油脂の油滴の粒子径が小さくなりすぎると、食用油脂による機械耐性や成型性の向上効果が低下する傾向がある。
【0017】
本発明において食用油脂に水を噴射して混合して懸濁液を調製する場合、食用油脂の重量1に対して1.5倍以上の重量の水を使用することが好ましく、2倍以上がより好ましい。しかし、噴射する水の量が多すぎると気泡が多く発生し、該気泡に油脂が付着してしまい、かえって油脂の分散性が損なわれるおそれがあることから食用油脂の重量1に対して10倍以下の重量の水を使用することが好ましい。また、水を噴射して混合して食用油脂の懸濁液を調製する場合、混合容器の形状は特に制限されないが、下に行くほど径が小さくなるテーパー構造を備えた混合容器を用いると食用油脂に水を噴射した際に両者が混合しやすく好適である。
【0018】
本発明で使用する食用油脂は、食用に供される油脂であれば特に制限されないが、例えば、ナタネ油、コーン油、大豆油、ヤシ油、綿実油、米油、ゴマ油、パーム油、サフラワー油などの植物油脂、豚油、牛脂、魚油などの動物性油脂、または、これらの水素添加油脂やエステル交換油脂などの加工油脂、さらにはこれらの組み合わせであってよい。
【0019】
本発明においては、油脂の平均粒子径が10〜120μmである食用油脂の水中懸濁液を調製するが、油脂の平均粒子径は30〜80μmであることがより好ましく、40〜70μmであることが最も好ましい。このような油脂の粒子径の食用油脂の水中懸濁液を用いると、米飯への分散性が良好で食用油脂の効果を最大限に引き出すことができる。特に粒子径が10μm未満の微細な油滴は米粒の表面に留まらず、米粒内部まで浸透しやすいため、食用油脂が有効に活用されないことがある。なお、従来市販されている乳化型の炊飯油は流通時の安定性などを考慮して油脂の平均粒子径が20μm未満となるまで乳化されることが一般的であるが、本発明においては食用油脂の懸濁液を後述するとおり、調整後1時間以内に使用するため特に問題は生じない。
【0020】
ここで、油脂の平均粒子径を測定する方法については様々あるが、市販の測定機を用いることが簡便である。そのような平均粒子径測定機としては、レーザ回折式、遠心沈降式、動的光散乱式やコールター法を用いるもの等、様々なものがあるが、その中でも、本発明により好適な平均粒子径測定機として、比較的、測定できる粒子径範囲が広く、サンプル調製が容易であり、またデータの再現性が高いことから普及しているレーザ回折式を用いるとよい。
【0021】
また、本発明において炊飯油である食用油脂として乳化剤その他の添加剤を添加し、及び又は乳化剤により乳化したものを用いて食用油脂の懸濁液の懸濁した状態の安定性を向上させてもよく、そのように乳化剤を使用する場合、使用する乳化剤の種類については特に制限されず、食品に使用される一般的な乳化剤を用いることができる。好適な乳化剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニンなどを挙げることができ、これらを組み合わせた物を使用することもできる。乳化剤の量も特に制限はされないが、食味の点からは少ない方がよく、食用油脂全体に対して5.0重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましい。逆に乳化剤の量が少なすぎると添加した効果が認められにくくなることから、食用油脂全体に対して0.1重量%以上が望ましく、0.2重量%以上がより望ましい。これらの添加量は乳化した状態で市場に流通している通常の乳化させた食用油脂としては、不十分なものであるが、本発明の方法によれば、これらの少なすぎるくらいの添加量であっても油脂の分散性や懸濁した状態の安定性を確保できる。本発明では食用油脂懸濁液を調整した後、比較的短時間で使用し、それ自体を流通させることはないため、懸濁液の懸濁した状態の安定性を必要以上に高める必要はないが、懸濁液を添加してから炊飯の時まで懸濁した状態が維持されるように、少なくとも15分以上は懸濁液が分離しない程度の安定性があることが好ましい。本発明においては、炊飯油にアルコールや糖類などの乳化安定剤を添加してもよく、また、防腐性や調味の改善のために有機酸やその塩、無機塩類などを適宜添加してもよい。
【0022】
本発明においては、上記のようにして調製した食用油脂の懸濁液を、調製してから1時間以内に添加して炊飯する。例えば、加水工程で添加する場合、炊飯釜に浸漬米、水その他の原料とともに添加する。添加した後、炊飯前に軽く攪拌してもよく、これによって、さらに分散性がよくなる。本発明において食用油脂の懸濁液を調製してから添加するまでの時間は1時間以内であるが、45分以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましく、15分以内であることがさらに好ましい。上述したように、本発明においては油脂の平均粒子径が比較的大きい食用油脂の懸濁液を使用するため、懸濁液の懸濁した状態の安定性が低下し、懸濁液を長期保存すると懸濁液の油脂の平均粒子径が経時的に大きくなり、大きくなりすぎると油脂が水と分離して懸濁した状態を維持できなくなるおそれがあるが、懸濁液の調製から1時間以内に使用すればそのようなおそれもない。また、本発明では、食用油脂の懸濁液を調製してから1時間以内に使用することから、乳化した状態で市場に流通している通常の乳化させた食用油脂に比べると、添加剤を、ほとんど使用せずにすむことから、例えば、乳化剤などの添加剤によって米飯の食味が低下することを避けることができる。
【0023】
本発明において炊飯油の添加量は特に制限されないが、生米重量に対して0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上であると離型性や米飯の機械耐性が大きく向上するためさらに好ましい。添加量の上限は特に制限されないが、5.0重量%以下であると炊飯油による米飯の食味への影響が少なく好適であり、3.0重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましい。
【0024】
また、別の観点からは本発明は、上記炊飯方法を行うための炊飯装置である。ある態様において本発明の炊飯装置は、食用油脂と水とを混合して食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を形成するテーパー構造を備えた混合容器と、該混合容器に食用油脂を供給するための油脂供給機と、該混合容器内に供給された食用油脂に対して水を噴射して混合するための噴射装置と、該混合容器内で調製された前記懸濁液を炊飯釜へ供給する懸濁液供給機と、前記懸濁液と米、水等を入れて炊飯するための炊飯釜と、を備える。
【0025】
本発明の炊飯装置の一態様を図5および図6に示す。具体的には、例えば、図5に示されるとおり、混合容器は、少なくとも下方部分にテーパー構造を備える。全体的にテーパー構造であってもよいし、図5のように上方部分が円筒構造で下方部分がテーパー構造となるように組み合わせてもよい。ここで、該テーパー構造部分における外側面が水平方向となす角度が45°以上となるようにすることが望ましく、これにより水の噴射による混合が十分に行われ、油脂が均一に分散して懸濁液の懸濁状態が良好に維持され、少なくとも20分間は分離しないようにできる。前記の角度が45°未満とした場合には、水の噴射による混合が不十分となり、油脂が均一に分散しにくくなり懸濁液の懸濁状態の維持が困難となり、油脂が分離しやすくなる場合がある。
【0026】
また、本発明の炊飯装置は、混合容器に食用油脂を供給するための油脂供給機を備えるが、油脂供給機は、例えば、図5のように、食用油脂タンク2、食用油脂送出管3、該食用油脂送出管3に設けられる食用油脂用ポンプ4及び食用油脂用逆止弁5で構成するとよい。
【0027】
そして、食用油脂に対して水を噴射するための上記噴射装置は、例えば、水タンク6、水送出管7、該水送出管7に設けられる水用ポンプ8、水用逆止弁9及び水噴射ノズル10で構成することができる。該水噴射ノズル10には、図示はしないが、エアを用いたシャッターノズル構造を設けても良く、これにより噴射する水量を安定させることができる。
【0028】
また、上記懸濁液供給機は、図5に示すように、混合容器1の最下端につなげて設ける懸濁液供給管11、該懸濁液供給管11と混合容器1との接合部に設ける混合容器下バルブ12、及び、該懸濁液供給管11の排出側端部に、炊飯釜上方にその供給口が位置するように設ける懸濁液供給バルブ13で構成させてもよい。
【0029】
例えば、上記の混合容器1、油脂供給機、噴射装置及び懸濁液供給機を用いて、以下のように、食用油脂の水中懸濁液を調製して、これを炊飯釜14へ供給することができる。
まず、図6aに示すように、油脂供給機の食用油脂タンク2から食用油脂用ポンプ4の作用により所定量の食用油脂を混合容器1へ供給し、その後、図6bに示すように、水タンク6から供給される所定量の水を水用ポンプ8の作用により水噴射ノズル10から混合容器1内の食用油脂に噴射させて混合する。所定量の水を噴射し終わると、図6cに示すように、食用油脂と水が混合されて懸濁した状態となり、白濁した懸濁液となる。
【0030】
このように調製された混合容器1内の懸濁液は、前記の混合容器下バルブ12及び懸濁液供給バルブ13を開いて炊飯釜14へ供給され、所定量供給されると両方のバルブが閉じられる。この懸濁液の供給方法としては、例えば、米、水その他の原料の入れられた多数の炊飯釜14を連続的に自動で順次に移動させ、この順次に移動する途中の炊飯釜14に、所定の位置で所定量が供給されるようになされる。この場合、この懸濁液の供給は、所定の複数の釜へ供給する量の懸濁液をまとめて混合容器1内で調製し、所定数の釜へ供給するごとに調製することを繰り返してもよいし、また、一釜分の量ずつ懸濁液を混合容器1内で調製して一釜ずつ供給することを繰り返してもよい。さらにまた、必要に応じて、懸濁液の供給の合間に混合容器1内を洗浄するようにしてもよい。例えば、上述の懸濁液調整工程における懸濁液の供給後、次の懸濁液調製の前に、食用油脂を供給しない空の混合容器1に、水噴射ノズル10による水噴射のみを行って洗浄し、洗浄後の水をすべて排出するようにすることで簡便に混合容器1内を洗浄できる。
【実施例】
【0031】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、本明細書において%などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0032】
実験1.食用油脂懸濁液の調製
植物油98重量%、乳化剤2重量%からなる食用油脂組成物(40g)に対してその2倍量の水(80g)を添加して、食用油脂の水中懸濁液を得た。具体的には、シリンジ中に入れた水をビーカーの中に入れた食用油脂組成物に対して噴射して、水流の圧力を利用して混合し、懸濁液を調製した。ここで、水の噴射は0.18MPaの圧力をかけて1.7mm径の噴射ノズルを介して行った。このように調製した懸濁液の油脂の平均粒子径をレーザ回折式の粒子径測定機(SALD−2000J、島津製作所製)で測定したところ、平均粒子径は48.6μmだった。
【0033】
実験2.食用油脂の分散性の検討
米飯への分散性を確認するための色素(ロシュ・ビタミン・ジャパン製、β-カロチン30%懸濁液)を添加し、かつ、食用油脂組成物及び水の量をそれぞれ65g及び130g
とし、それ以外は、実験1と同様にして食用油脂懸濁液を調製した(実施例1)。この食用油脂懸濁液195gを調製してから10分後に浸漬米8.2kgに添加し、水8.1L、炊飯米の塩濃度が約1%になるよう食塩を加え、炊飯釜(容量:31L)で炊飯を行った。また、比較例1として、上記色素を添加した実験1の食用油脂組成物65gを懸濁させずに単に浸漬米に添加して炊飯を行った。炊飯前の釜内部、炊飯後の米飯の釜底部分および飯断面の写真を撮影し、食用油脂の分散状態を確認した(図1)。
【0034】
図1から明らかなように、実施例1のように、本発明にしたがって食用油脂の水中懸濁液を調製し、それを添加して炊飯すると、食用油脂が米飯表面に効率的かつ均一に行き渡っていた。それに対して、比較例1のように、食用油脂組成物を単に浸漬米に添加して炊飯すると、食用油脂が偏ってしまい米飯全体に十分に行き渡らず、むらが生じ、食用油脂がまったく付着していない白い部分が散見される状態であった。すなわち、本発明によって調製した食用油脂懸濁液を添加した実施例1の場合の方が、炊飯液中に均一に広がり、釜底まで炊飯油が十分に拡散しやすいことが明らかになった。
【0035】
実験3.米飯の機械耐性および成型性の検討
本発明によって炊飯した米飯の機械耐性について検討した。実施例2及び比較例2として、色素を使用しない以外は実験2の実施例1及び比較例1とそれぞれ同様にして米飯を炊飯した。炊飯後の米飯を20〜30分間蒸らし、適宜ほぐしてから冷却し、おにぎり成型機で成型しておにぎりを製造した。
【0036】
その後、おにぎりの米飯10gをサンプリングし、欠けていたり割れていない米粒(以下、整粒とする)の数をカウントした(図2参照)。ここで、整粒数が大きい程、炊飯工程やその後の成型工程で米粒が割れにくいことを示し、製造工程における飯潰れが少なく、機械耐性が高いことを意味する。また、製造されたおにぎり130個中、ランダムに選択した50個のおにぎりについて重量を測定し、重量の標準偏差を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に評価結果を示す。表1から明らかなように、本発明によれば米飯の機械耐性や成型性が向上するため、成型の米飯について重量のばらつきが少なく、成型などによって米粒が割れたり欠けたりしにくいことが明らかになった。
【0039】
実験4.食用油脂懸濁液の粒子径の評価
実験1の食用油脂組成物を種々の方法で分散させて懸濁液を調製し、それぞれの懸濁液の効果を評価した。実験1の方法で調製した懸濁液をサンプルA(平均粒子径48.6μm)、実験1の食用油脂組成物をTKロボミックス(プライミクス製、攪拌部:TKホモミキサー)を用いて食用油脂組成物と同重量の水と10000rpm、5分間の条件で撹拌して得た懸濁液をサンプルB(平均粒子径22.6μm)、実験1の食用油脂組成物をTKロボミックス(プライミクス製、攪拌部:TKホモミキサー)を用いて食用油脂組成物と同重量の水と15000rpm、5分間の条件で撹拌して得た懸濁液をサンプルC(平均粒子径10.4μm)とした。
【0040】
これらの食用油脂懸濁液を用いて実験2と同様の手順で炊飯を行った。炊飯後の米飯について機械耐性を評価するため、卓上飯盛り機(鈴茂器工製)に3回通して米飯に過度の機械的負荷を与えた。そして、卓上飯盛り機に通す前の米粒と通した後の米粒について整粒数を測定し、飯盛り前の整粒数を100とした場合の飯盛り後の整粒数(整粒率)を算出した。
【0041】
結果を以下の表2に示すが、サンプルAが最も整粒率が高く、機械耐性が優れていた。ただし、撹拌力の強いホモミキサーを用いて調製した懸濁液を用いると整粒率が低下する傾向があった。
【0042】
【表2】

【0043】
また、サンプルA〜Cについてその粒度分布を測定した結果を図3、サンプルAおよびサンプルCの顕微鏡写真を図4に示す。図3から分かるように、撹拌力の強いホモミキサーを用いて分散条件を強くすると平均粒子径が小さくなるとともに、粒子径1μm付近にも粒度分布のピークが生じ、粒子径が10μm未満の微細な油滴が生じていた。微細な油滴は米飯の表面に留まらず、米飯内部に浸透しやすいため、飯表面のべとつきや付着性の抑制にあまり寄与しないことが考えられた。
【0044】
実験5.米飯の評価
食用油脂の添加量を半減し、図5および図6に示す装置によって懸濁液を調製した以外は、実施例2と同様にして炊飯を行った(実施例3)。実施例3においては、実験1の食用油脂組成物(65g)に対して水(130g)を噴射して食用油脂の水中懸濁液を得た(平均粒子径:48.6μm)。
【0045】
まず、実験3と同様にして実施例3の米飯について成型性を評価した。米飯の重量については製造されたおにぎり130個中、ランダムに選択した50個のおにぎりの重量を測定し、その標準偏差を算出した。また、整粒数については、米飯10g中の整粒数を測定した。表3に評価結果を示すが、実施例3では、食用油脂の添加量が実施例2及び比較例2の半分にもかかわらず、おにぎり重量の標準偏差および整粒数ともに比較例2より優れていた。実施例3と実施例2とでは、ほぼ同様の結果であった。この結果から、本発明によれば、食用油脂の添加量を大幅に低減できることも明らかになった。
【0046】
【表3】

【0047】
次に、米飯の噛み応えおよび粘り気を評価した。実施例3及び比較例2の米飯を炊飯後20℃で1日保存した後、テンシプレッサー(タケトモ電機製)を用いて噛み応え値(gw・cm/cm)および粘り値(gw・cm/cm)を測定した。以下の表4に示すように、実施例3では、食用油脂の添加量が半分であるにもかかわらず、噛み応え値および粘り値のいずれも比較例2と同等であった。
【0048】
【表4】

【0049】
さらに、実施例3及び比較例2の米飯を用いたおにぎりについて、製造後、20℃で1日保存した後に官能評価を行った。評価項目および評価基準は以下のとおりであり、4を普通として7段階で評価した。評価は、21人のパネラーによって行い、各評価項目について平均値を求めた。
・総合評価、食感:1が不良、7を良好とした。
・硬さ:1を柔らかい、7を硬いとした。
・粘り:1を弱い、7を強いとした。
【0050】
【表5】

【0051】
表5に官能評価の結果を示す。本発明によって炊飯した米飯を用いた実施例3のおにぎりは、比較例2と比べて食用油脂の添加量が半分であるにもかかわらず、総合評価および食感において比較例2のおにぎりよりも優れた評価だった。また、実施例3のおにぎりは、比較例2と比べて食用油脂の添加量が半分であるにもかかわらず、硬さ、粘りが比較例2と同等であり、実施例3によれば食用油脂の添加量を大幅に低減することができる。特に、実施例3のおにぎりは、比較例2のおにぎりと比較して硬さや粘りは同等にもかかわらず、総合評価や食感で評価が高く、飯全体としての食感の均一性やふっくら感が優れていた。
【符号の説明】
【0052】
1:混合容器
2:食用油脂タンク、3:食用油脂送出管、4:食用油脂用ポンプ、5:食用油脂用逆止弁
6:水タンク、7:水送出管、8:水用ポンプ、9:水用逆止弁、10:水噴射ノズル
11:懸濁液供給管、12:混合容器下バルブ、13:懸濁液供給バルブ
14:炊飯釜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油脂とを含み、油脂の平均粒子径が10〜120μmとなるように食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製することと、該懸濁液を調製してから1時間以内に該懸濁液を炊飯前の米に添加して炊飯することと、を含む炊飯方法。
【請求項2】
前記懸濁液中の油脂の平均粒子径が30〜80μmとなるようにした、請求項1に記載の炊飯方法。
【請求項3】
食用油脂に対して水を噴射して混合することによって食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を調製する、請求項1または2に記載の炊飯方法。
【請求項4】
前記懸濁液を調整する場合、食用油脂の重量1に対して1.5〜10倍の水を噴射して混合するようにした、請求項1〜3のいずれかに記載の炊飯方法。
【請求項5】
前記食用油脂の添加量が生米重量に対して0.3〜3.0重量%となるようにした、請求項1〜4のいずれかに記載の炊飯方法。
【請求項6】
前記食用油脂中に、該食用油脂全体に対して0.1〜2.5重量%の乳化剤を添加するようにした、請求項1〜5のいずれかに記載の炊飯方法。
【請求項7】
食用油脂と水とを混合して食用油脂を水中で懸濁させた懸濁液を形成するテーパー構造を備えた混合容器と、該混合容器に食用油脂を供給するための供給機と、該混合容器内に供給された食用油脂に対して水を噴射して混合するための噴射装置と、該混合容器内で調製された前記懸濁液を炊飯釜へ供給する懸濁液供給機と、前記懸濁液と米、水等を入れて炊飯するための炊飯釜と、を備える炊飯装置。
【請求項8】
前記混合容器のテーパー構造部分における外側面が水平方向となす角度が45°以上となるようにした、請求項7に記載の炊飯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130271(P2012−130271A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284022(P2010−284022)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000178594)山崎製パン株式会社 (42)
【出願人】(305049090)株式会社サンデリカ (2)
【Fターム(参考)】