説明

炎症性呼吸器疾患の治療

本発明は、CD114、CD116、及び、又はCDw131で作用する免疫調節因子の使用に関し、制限されずにARDS、IRDS、SARS、PRRS、PEARS及びSIRSを含む多様な形態の炎症性呼吸器疾患を首尾よく治療する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
呼吸器症候群は、多くの異なる病因を有す疾患状態を含む。例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)、急性(成人)呼吸器症候群(ARDS)、及び新生児呼吸器症候群(IRDS)である。動物において、同様の疾患が観察された。例えば豚における、豚繁殖・呼吸器症候群(porcine reproductive and respiratory syndrome:PRRS)、豚不妊症・呼吸器症候群(swine infertility and respiratory syndrome:SIRS)、及び豚伝染性流産・呼吸器症候群(porcine epidemic abortion and respiratory syndrome:PEARS)は、豚繁殖飼育場に重要な損失を引き起こすことが発表された。
【0002】
本発明の目的は、現在任意の治療が存在せず、又は現に利用され得る治療が小規模の範囲でのみ有用である、多くの呼吸器疾患のための治療を提供することである。
【0003】
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、アジア、米国、及びヨーロッパの多くの国々における患者で発表された疾患である。SARSは、新規コロナウィルス、SARS-CoV(Kziazek;N Engl J Med;Drosten,N Engl J Med)に病因学的に関連した。
【0004】
SARS潜伏期間は、典型的に2-7日間であるが;分離株での報告では、10日間の潜伏期間を示唆した(CDC Report, March 28,2003)。当該疾病は、一般的に発熱(>38.0℃)の前兆により始まる。発熱はしばしば高熱となり、ときには悪寒戦慄を伴い、そして頭痛、倦怠、及び筋肉痛を含む他の症状が同時に起こり得る。一部の患者での疾病の始まりは、穏やかな呼吸器症状を呈する。典型的に、発疹や神経症状又は消化器症状の研究成果はないが;一部の患者において発熱前兆期に下痢が報告されている。
【0005】
3-7日後、乾燥、乾性咳嗽、又は呼吸困難(低酸素血症を伴う、低酸素血症へ進行する)と共に下気道相(lower respiratory phase)が始まる。症例の10%-20%では呼吸器疾患が重篤であり、気管内挿管及び人工呼吸を必要とする。現行のWHO・SARS症例定義に合致する患者の死亡率は、およそ3%である。しかしながら、直近のSARS死亡率のWHO報告では、60歳以上の患者でおよそ50%であり、そして全死亡率は13-15%である。
【0006】
発熱前兆期と全経過を通して胸部X線検査は正常である。しかしながら、患者の実質的な比率において、当該気道相は、より一般的な、斑状の間質浸潤(interstitial infiltrates)へ進行する早期の局所間質浸潤により特徴づけられる。SARS後期段階にある患者の一部の胸部X線検査もまた浸潤影(consolidation)の領域を呈した。
【0007】
一連の疾患の初期には、しばしばリンパ球の絶対数が低下する。全白血球数は一般的に正常か、又は減少している。呼吸器疾病のピーク時には、およそ50%の患者は白血球が減少し、且つ血小板が減少し又は正常低値(50,000-150,000/uL)を有する。初期の当該気道相では、上昇したクレアチンホスホキナーゼレベル(3,000 IU/Lの高さ)、及び肝トランスアミナーゼ(正常の上限の2から6倍高い)が認められた。大部分の患者では、腎機能は正常のままだった。
【0008】
疾患の重症度は、軽症から死亡例まで、高度に変化し得るものである。SARS患者との緊密な接触者の一部は同様の疾病に罹ることがあるが、大部分は健康を維持した。密接な接触者の一部では、呼吸器のサイン又は症状を伴わない軽症発熱疾患が報告され、このことは当該疾患が当該気道相へ常に進行するわけではないことを示唆している。
【0009】
治療処方には、異型肺炎の既知の細菌病原体に対して推定的に投与する、いくつかの抗生物質を含んだ。いくつかの場所での治療法は、抗ウィルス剤、例えばオセルタミビル又はリバビリンも含んだ。ステロイド類もまたリバビリン及び他の抗微生物剤と併用して経口又は経静脈的に患者へ投与されてきた。現在、最も有効な治療処方はまだ公知でない。従ってSARS治療のための有効な方法は当業界において必要とされている。
【0010】
成人(急性)呼吸窮迫症候群は、多様な急性肺障害により引き起こされ、且つ非心原性肺浮腫、呼吸窮迫症、及び低酸素血症により特徴づけられる呼吸不全である。それは多様な急性プロセスにより突発的に起こり、直接的、又は間接的に(例えば、敗血症、主要なバクテリア性又はウィルス性肺炎、胃内容物の吸引、直接的胸部傷害、長期もしくは深いショック、熱傷、脂肪塞栓症、溺水、大量輸血、心肺バイパス、O2毒性、急性出血性膵炎、煙又は他の有毒ガスの吸入、及び特定薬剤の摂取(メルクインデックス))肺を損傷する。
【0011】
最初の肺損傷はよく理解されていない。動物実験では、活性化されたWBCs及び血小板は毛細血管、間質、及び空隙中に蓄積され;それらはプロスタグランジン、活性酸素種及び酸素のフリーラジカル、タンパク質分解酵素、及び他のメディエーター(例えば腫瘍壊死因子及びインターロイキン)を放出し、それは細胞を損傷し、炎症及び繊維形成を促進し、そして気管支運動の調子及び血管反応性を変化させることを示唆する。
【0012】
肺毛細管及び肺胞上皮が損傷した時、間質及び肺胞内スペースへ血漿及び血液が漏れ出す。肺胞冠水(Alveolar flooding)及び肺拡張不全は;肺拡張不全がある程度の界面活性を減少させることによる結果である。当該損傷は、均質でなく、且つ主に肺区域に依存して影響を受ける。2から3日以内に、間質及び気管支肺胞炎症が発達し、そして上皮及び間質細胞が増殖する。その後、コラーゲンが迅速に蓄積し、2から3週間以内に重篤な間質性繊維症をもたらす。これらの病理学的変化は、低い肺コンプライアンスを導き、機能的残留容量(residual capacity)、呼吸/還流不均衡を減少させ、生理学的死腔(physiologic dead space)、重篤な低酸素血症、及び肺高血圧症を増加させた。
【0013】
ARDSの予防及び管理への多くのアプローチは、不成功であるか、又は決定的なものでなかった。結果を改善させなかった、又はARDSを予防しなかった治療は、エンドトキシンに対するモノクローナル抗体、腫瘍壊死因子に対するモノクローナル抗体、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト、(初期)PEEP予防薬、体外の膜酸化、及びC02体外除去、IVアルブミン、容積膨張及び強心剤を含み、全身の02運搬、初期ARDSにおけるコルチコステロイド、非経口のイブプロフェンを増加させ、シクロオキシゲナーゼ、プロスタグランジンE1、及びペントキシフィリンを阻害する。
【0014】
豚繁殖・呼吸器症候群(PRRS)は、ヨーロッパ及び北アメリカにおける豚飼育場の経済的に最も重要な、強いウィルス性疾患と見なされている。当該疾患は、一部の獣医及び養豚業の専門家により豚不妊症・呼吸器症候群(SIRS)とも言及されている。
【0015】
豚群中の急性的なPRRS発生は、いくつかの劇的な症状を引き起こすことができる。繁殖群中の雌豚は、上昇した体温、食欲の減退、及び無気力を示す。更にヨーロッパでの報告では、あざができ、且つ青い耳の外観の白い雌豚の増加を示す(Done,Misset-PIGS,1995)。豚の早産児(流産(abortions))、死産、ミイラ化胎児、及び誕生時に弱った子豚の数の増加は、しばしば報告される。乳欠乏は泌乳豚の中でも発生し得る。死産は及びミイラは35%へ増加し、そして流産は10%を超え得る(Dee等.,Compendium of Continuing Education for Practicing Veterinarians,1994)。
【0016】
PRRSウィルスに関連した重要な特徴は免疫抑制効果であり、それは特に子豚及び離乳豚が有する。豚肺胞単球に感染させた雌豚由来のPRRSウィルスの親和性を実証し(Voicu等.,1994)、そして当該ウィルスは、肺の肺胞マクロファージの細胞死を引き起こす(Hill,1996)。この特徴は、特に離乳していない養育豚への2次的な病原性感染の高発生率と一致する。豚がPRRSウィルス感染部と接触した時、標準レベルの細菌病原体が病原性と成り得ることが明白である。
【0017】
米国における唯一のPRRSワクチンは、現在豚のラベル化に使用される。当該製品は改良した生ウィルスワクチンであり、商品名RespPRRSrでNobl Laboratoriesにより製造されている。当該ワクチンは3から18週齢の豚に使用するためだけに承認された。しかしながら、有意義な"FDA認可外"での使用は、PRRS症例を経験している大規模な家畜群を処理する豚の獣医により処方されている。獣医は、FDA認可外での使用を処方するにおいて、改良した生ワクチンがいくつかの豚の種類で疾患のリスクを増加させ得るという(McCaw, 1995)、いくつかのリスクを受け入れている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
多種多様な豚に安全且つ有効に予防接種をすることに関して、獣医の中で尚、議論がなされている。一つの懸案事項は、妊娠後期(50日以後)の雌豚に改良した生ウィルスの予防接種を行う場合、成長中の胎児における潜在的な問題である。豚健康専門家の中での普遍的な意見は、無差別なワクチンの使用は避けるべきであり、そして他の家畜群の管理戦略なしでPRRSを制御するために使用することは、有効性がないであろうということである。従って、豚呼吸器症候群における有効な治療が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
本発明の目的は、患者及び動物における呼吸器症候群を治療するための方法を提供することである。
【0020】
本発明の目的及び他の目的を、以下に発表した1つ以上の態様により提供する。
【0021】
1つの態様は、CD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストを、SARS患者へ投与することによる、SARS治療を提供する方法である。関連した態様では、本発明は炎症性呼吸器疾患治療のための医薬組成物の調製のためのCD114のアゴニストの使用を導く。本発明の他の態様はSARS治療を提供する方法であり、当該方法において、免疫刺激量のCD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストが、SARS患者へ投与される。
【0022】
本発明の他の態様は、SARS患者へ投与されるCD116(顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体)又はCDw131のアゴニストのアゴニストを投与することによるSARSの治療を提供する方法である。関連する態様では、本発明は、炎症性呼吸器疾患の治療のための医薬組成物を調製するため、CD116又はCDw131のアゴニストの使用を導く。本発明の他の態様は、免疫刺激量のCD116又はCDw131のアゴニストがSARS患者に投与される、SARS治療を提供する方法である。
【0023】
また本発明の更なる態様は、ARDS及びIRDSの治療を提供する方法である。CD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストは、ARDS又はIRDS患者へ投与される。より詳細には免疫刺激量のCD114のアゴニストが、ARDS又はIRDS患者へ投与される。
【0024】
また本発明の更なる態様では、CD116(顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体)又はCDw131のアゴニストは、ARDS又はIRDS患者へ投与される。好適な態様では、免疫刺激量のCD116又はCDw131のアゴニストが、ARDS又はIRDS患者へ投与される。
【0025】
本発明のより更なる態様は、豚繁殖・呼吸器症候群(PRRS)の治療を提供する方法である。CD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストは、PRRSの豚へ投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストが、PRRSの豚に投与される。
【0026】
また本発明の更なる態様はPRRSの治療を提供する方法である。CD116(顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体)又はCDw131のアゴニストは、PRRSの豚へ投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD116又はCDw131のアゴニストが、PRRSの豚に投与される。
【0027】
本発明の他の観点は、豚不妊症・呼吸器症候群(SIRS)の治療を提供する方法である。CD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストは、SIRSの豚に投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストは、SIRSの豚へ投与される。
【0028】
本発明の他の観点は、SIRSの治療を提供する方法である。CD116又はCDw131のアゴニストはSIRSの豚へ投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD116又はCDw131のアゴニストが、SIRSの豚へ投与される。
【0029】
本発明の他の観点は、豚伝染性流産・呼吸器症候群(PEARS)の治療方法である。CD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストは、PEARSの豚へ投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD114(顆粒球コロニー刺激因子受容体(G-CSFR))のアゴニストがPEARSの豚に投与される。
【0030】
本発明の他の観点は、PEARSの治療方法である。CD116又はCDw131のアゴニストはPEARSの豚へ投与される。より詳細には、免疫刺激量のCD116又はCDw131のアゴニストはPEARSの豚に投与される。
【0031】
従って、本発明は、患者及び動物における、炎症性呼吸器疾患症候群のための新規領域又は治療形態を開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明の発明者等は、CD114、CD116、及び、又はCDw131に作用する免疫調節因子を炎症性呼吸器疾患の多様な型を治療するために首尾よく使用できることを発見した。これらは制限されずに、ARDS、IRDS、SARS、PRRS、PEARS、及びSIRSを含む。
【0033】
免疫調節因子は、CD114、CDw131、又はCD116と結合する任意の因子(制限されずに、多様なシグナルタンパク質のチロシンリン酸化を誘導するG-CSF、GM-CSF、IL-3、IL-5、及びそれらの因子のペプチド様物質又は非ペプチド様物質を含む)であることができ、それはin vitroで顆粒球コロニーを形成するために一次骨髄細胞を刺激し、並びに/或いは末梢好中球数を上昇させる。特にナルトグラスチム、ミエロポイエチン(myelopoietins)、環状に順序を変えたG-CSF配列、SB247464は、G-CSFの公知の模倣物質である。McWherter等.,Biochemistry 14:4564-71,1999;Feng等.,Biochemistry 14:4553-63,1999;Tian等.,Science 281:257-59,1998;及びKuwabara等.,Am.J.Physiology 271:E73-84,1996参照。またM-CSFを本発明に従い使用してよい。
【0034】
免疫調節因子は、典型的に成長因子、又はコロニー刺激因子であり、多形核白血球、単球、及びマクロファージを含む造血細胞、特に骨髄性細胞の成長に影響を及ぼす。かかる因子は、制限されずに骨髄性細胞刺激因子、多形核白血球刺激因子、及び顆粒球細胞刺激因子を含む。特に有用な因子はG-CSF、GM-CSF、及びM-CSFである。
【0035】
当業界において公知のかかる因子の任意の形態を使用することができる。当該形態は、当該因子のアイソフォーム、又は別途、後翻訳的に修飾された形態であってよい。当該因子は、ヒトから単離されたもの、或いは他の霊長類又は哺乳類から単離されたものであってよい。当該因子は、細菌から酵母、そして羊にまで至る組換え生物の中で作製されるものであってよい。
【0036】
本発明の免疫調節因子の誘導体も利用することができる。誘導体は、因子への全ての修飾を含み、本明細書で開示した機能を実質的に保存し、且つ追加の構造及び付随する機能(例えば、より長い半減期を示し得る、PEG化因子)、標的特異性を与える融合ポリペプチド、又は追加の活性を含む。
【0037】
因子の誘導体を調製するための方法論は、当業界において周知である。
【0038】
免疫調節因子は、当業界において公知の手段により全身的及び局所的に投与され得る。典型的には皮下注射、又は静脈内注入によるだろうが、経口、腹腔内、皮下、及び筋肉内投与のような他の方法でも使用することができる。更に、当該因子は直接的噴霧運搬を含む噴霧運搬により投与され得る。
【0039】
また免疫調節因子はin vivoにおいて発現させてよく、しばしば”遺伝子治療”と言及される。従って、例えば細胞をex vivoでアゴニストをコードするポリヌクレオチド(DNA又はRNA)により操作してよく、当該操作した細胞を、その後当該アゴニストにより処理するために、患者に提供してよい。かかる方法は、当業界において周知である。例えば細胞は、免疫調節因子をコードするRNAを含むレトロウィルス粒子の使用により、当業界において公知の手段により操作され得る。
【0040】
遺伝子治療に用いる免疫調節因子の局所運搬は、標的領域(例えば呼吸管、より詳細には肺)へ当該因子を提供することができる。
【0041】
他の疾患の目的のために、ヒト中の免疫応答を刺激するために運搬される用量と同じ用量を運搬することができる。典型的に当該因子の用量は、1日当り体重の約0.1から100μg/kgであろう。より好適には、1日当り体重の約1.0から10μg/kgであろう。最適には、当該用量は、1日当り体重の約2から8μg/kgであろう。
【0042】
因子の免疫刺激量の決定は、当業者の技能においてうまく成される。因子の免疫刺激量は、制限されずに、樹状細胞及び/又はマクロファージの刺激を含む、後天的な免疫応答、又は後天的な宿主防御を活性化する因子の量を言う。後天的な免疫応答、又は後天的な宿主防御を活性化することを要求する典型的な投与量は、1日当りの総投与量が少なくとも25から350μgであり、より好適な典型的な投与量は、1日当りの総投与量が少なくとも50から300μgであり、更により好適な典型的な投与量は、1日当りの総投与量が100から250μgである。因子の投与量;即ち、50-350μgの総投与量は、より低い頻度で投与することもできる(例えば1日置き、又は週に2-3回)。
【0043】
また因子の免疫刺激量は、先天性の免疫細胞タイプを活性化する因子の量と言うことができる。先天的免疫細胞タイプを活性化するために要求される典型的な用量は、1日当りの総投与量が350μg超であり、より好適には1日当りの総投与量が500μg超であり、更により好適には1日当りの総投与量が700μg超であり、そして最適には1日当りの総投与量が1000μg超である。
【0044】
同一の活性を達成する、対応のペプチド様物質及び非ペプチド様物質の量を使用することができる。白血球数は、5Kから60K細胞/ulの範囲内での値を維持するためにモニターすることができる。またそれらの受容体を発現している他の細胞タイプは、樹状細胞、好中球、単球、マクロファージ、及び好酸球を含んで測定することができる。測定した増加はアッセイ及び個体に依存して変化するが、全ての細胞タイプは、受容体関与に対する応答において増加する。
【0045】
免疫調節因子は、単独、或いは炎症性呼吸器疾患及び関連疾患の治療において当業者に公知の更なる治療法及び/又は化合物と組合せて使用してよい。或いは、本明細書において発表した方法及び化合物を、部分的又は完全に組合せた治療法において使用してよい。
【0046】
また、免疫調節因子は、炎症性呼吸器疾患の治療のために、他の公知の生物学的分子、及び低分子治療法(制限されずに、例えばインフレキシマブ、IL-2、IFN-β-1、IFN-β-2、等を含む)と組合せて投与してよい。かかる治療法は、本明細書において発表された免疫調節因子の投与前投与、同時投与、又は後投与であってよい。
【0047】
本明細書において発表されたような治療に影響を受けやすい疾患は、包括的な炎症性呼吸器疾患の中にある全てを含む。本明細書において発表されたような炎症性呼吸器疾患の治療は、疾患の初期発生から発病開始の間の予防及び治療を言う。
【0048】
免疫調節因子の正確な投与量は、治療を必要とする対象に関連した因子の観点から当業者により決定されるだろう。正確な投与量及び投与は、免疫調節因子の十分なレベルを提供するため、或いは所望される効果を維持するため又は獲得するために調整される。考慮に入れることができる因子は、病状の重篤性、対象の一般的健康状態、対象の年齢、体重及び性別、食習慣、投与時間及び投与回数、薬物の組合せ、反応感受性、並びに治療法に対する耐性/応答を含む。
【0049】
治療の一つの目安は、患者の部分的又は完全、一時的又は永続的な症状(呼吸管の炎症の減少、例えば肺組織膨張の改善;特別な(extra)呼吸器疾患の症状;又は上皮損傷を含む)の改善である。改善は、研究室での分析を通して、又は臨床設定において(例えば、肺組織膨張のX線分析、使用耐性の検査、及び/又は患者の酸素要求もしくは呼吸支援の要求)、任意の方法により測定することができる。任意の改善は、成功した治療と見なされる。これは、患者に対してより有毒又は侵襲的になり得る他の医薬治療の軽減を許容し得る一部の重要な改善としての特別な事実である。
【0050】
本発明は、多くの異なる病因により引き起こされ得る呼吸器症候群が免疫欠如をもたらすという理論に基づく。この欠如は、炎症を増幅し、リンパ球を活性化し、そして肺障害を最悪にする、幅広い代償性応答を誘発する。
【0051】
2つのサブユニットで構成されるGM-CSF受容体:
1)Hs.182378コロニー刺激因子2受容体、α、低親和性(顆粒球-マクロファージ)CSF2RA(CD116)。CD116はGM-CSF受容体α鎖であり;GM-CSF受容体のサブユニットへ一次的に結合している。
【0052】
CD116は、約400個のアミノ酸を有するタイプI膜貫通タンパク質である。細胞外、膜貫通、及び細胞質ドメインは、それぞれ297、27、及び54アミノ酸残基から成る。細胞外ドメインにクラスIサイトカイン受容体モチーフの一つのユニットが存在し、そして細胞質ドメインにおいて内因性の酵素活性は存在しない。多くのアイソフォームは、いくつかの可溶性形態での選択的スプライシングにより産生する。全てのアイソフォームは、比較的マイナーな物質であり、且つそれらの生理学的機能はたとえあるとしても公知でない。一つは膜貫通ドメインが存在しない可溶性形態であり、そして第二の形態は、もとの受容体の最後の25個のアミノ酸が35個のアミノ酸セグメントにより置換されることを除き、もとのものと同一である。
【0053】
CD116は低い親和性でGM-CSFと結合し、且つ通常のβサブユニットCDw131(GM-CSFの通常のβサブユニット(CDw131)、IL-3、及びIL-5受容体)と共発現する場合、高い親和性で結合する。このサブユニットの発現は、マクロファージ、好中球、好酸球、樹状細胞、及びそれらの前駆物質を含む多様な骨髄性細胞において見出される。
【0054】
Tavernier等(1991)は、インターロイキン-5(IL5R;147851)の高親和性受容体、及び顆粒球-マクロファージCSF(CSF2R;306250)の受容体は、β鎖を共有することを実証した。当該発見は、IL5(147850)及びCSF2(138960)が互いの結合を部分的に干渉することができ、且つ好酸球へ高く重複した生物学的活性を有することを観察する基礎となる分子を提供する。Kitamura等(1991)は、インターロイキン-3(IL3RA;308385)の受容体は、同様にCSF2Rを有すβサブユニットを共有することを実証した。
【0055】
2)Hs.265262コロニー刺激因子2受容体、β、低親和性(顆粒球-マクロファージ)CSF2RB*(CDw131)。
【0056】
CDw131の代替名称は、通常βサブユニットインターロイキン5受容体、β;IL5RBインターロイキン3受容体、β;IL3RB*138981顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体、β;CSF2RBである。
【0057】
CDw131自体は任意のサイトカインと結合しない。しかしながら、IL-3、GM-CSF及びIL-5受容体への高親和性成分である。CDw131は、高親和性受容体へのそれらのサイトカインの結合においてチロシンがリン酸化される。JAK2チロシンキナーゼは、刺激におけるCDw131及びチロシンリン酸化に関与する。チロシンリン酸化CD131は、SH2ドメインを有する多様なシグナル分子と結合する。これらはShc、Grb2、SHP1、SHP2、P13キナーゼ及びSTAT5を含み、IL-3、GM-CSF及びIL-5受容体を主要なシグナル変換分子にする。
【0058】
本開示に引用した全ての特許及び特許出願、並びに全ての学術論文に対する参考文献等は、参考文献により本明細書中に明示的に組み入れられた。上記開示は、概ね本発明を発表する。本発明に関する更なる情報は、以下の実施例に対する参考文献から得ることができ、それは説明のみを目的として提供され、且つ本発明の範囲を制限する意図ではない。
【実施例1】
【0059】
本実施例は、SARS患者の治療のためにGM-CSFを使用する、本発明の方法の試験プロトコールを示す。
【0060】
試験デザイン:
フェーズII、オープンラベル、非コントロール多施設試験
【0061】
患者群:
・SARSが推定される、あり得る、又は診断により確定された患者
・人工呼吸を必要としている肺疾患合併症患者
・急性疾患が始まり以下を有す患者:
a)PaO2/FiO2≦300(ALI)又はPaO2/FiO2≦200(ARDS)
b)胸部X線写真正面像上の肺浮腫と一致する左右の浸潤(Bilateral infiltrates)。当該浸潤は斑点、拡散、均質、又は非対称であってよい。
c)気管内チューブを経由した積極的な加圧呼吸の要求。
d)左心房高圧の臨床エビデンスがない。測定されたとしても、肺性動脈ウェッジ圧は≦18mmHg。
e)規準a-cは、24時間間隔で一緒に発生する必要がある。
【0062】
排除規準
a)年齢<18歳
b)人工呼吸が設定された後、>7日経過
c)妊婦
d)慢性呼吸不全
e)左心室不全
f)好中球減少症(絶対的な好中球数<1000細胞/mm3)
g)血液悪性腫瘍又は骨髄移植歴
h)他の臨床試験に参加
i)既定の積極的治療に対する患者又は参加している医療従事者の決定
j)インフォームドコンセント
【0063】
エンドポイント:
・人工呼吸の持続時間
・臨床的回復
・病院内での時間;集中治療単位における時間
【0064】
治療スケジュール:
70kgの患者において、およそ6-7μg/kg/日と同等であるGM-CSF 250μg/m2/日を14日間、4-5時間に渡りゆっくり静脈注射する。
【0065】
GM-CSFは、中心静脈アクセス又は末梢静脈ラインのいずれかを通して投与してよい。
【実施例2】
【0066】
本実施例は、呼吸器疾患を有する豚の治療スケジュールを示す。GM-CSFを10μg/kg/日、14日間皮下に注入する。必要ならば、当該用量を調整する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD114のアゴニストを、炎症性呼吸器疾患を有する患者又は動物へ投与することを含んで成る、炎症性呼吸器疾患の治療方法。
【請求項2】
CD116及び/又はCDw131のアゴニストを、炎症性呼吸器疾患を有する患者又は動物へ投与することを含んで成る、炎症性呼吸器疾患の治療方法。
【請求項3】
前記患者が重症急性呼吸器症候群(SARS)を有する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記炎症性呼吸器疾患が、成人(急性)呼吸器疾患症候群(ARDS)から成る群から選定される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症性呼吸器疾患を有する動物を治療するための、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患が、豚繁殖・呼吸器症候群(porcine reproductive and respiratory syndrome:PRRS)から成る群から選定される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患が、豚不妊症・呼吸器症候群(swine infertility and respiratory syndrome:SIRS)である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、豚伝染性流産・呼吸器症候群(porcine epidemic abortion and respiratory syndrome:PEARS)である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記投与されるコロニー刺激因子の量が、前記症状を減少させる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記投与されるコロニー刺激因子の量が、病状の緩和をもたらす、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アゴニストがG-CSFである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アゴニストがGM-CSFである、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記アゴニストがサルグラモスチムである、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記アゴニストがPEG化G-CSFである、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記アゴニストがPEG化GM-CSFである、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記アゴニストがPEG化サルグラモスチムである、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記アゴニストが徐放製剤で投与される、請求項1又は2に記載の方法。

【公表番号】特表2006−526016(P2006−526016A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514316(P2006−514316)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014249
【国際公開番号】WO2005/025593
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(300049958)シエーリング アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】