説明

炎症性疾患の治療又は予防剤

【課題】本発明は、炎症性サイトカインによる炎症やその他の炎症を安全且つ効果的に予防・治療する薬品を提供することを目的としている。
【解決手段】
プロテインSを有効成分として含有する薬剤を投与し、体内でのIL-10の発現を誘発させ、その結果として炎症性疾患を治療又は予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインSを有効成分として含有する炎症性疾患の治療又は予防剤及びプロテインSを有効成分として含有するIL-10の発現誘発剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症時、エンドトキシンまたは他の炎症誘発性刺激に応答して、種々の細胞からサイトカインが放出される。これらのサイトカインの中で幾つかのサイトカイン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン−6(IL-6)等は強力な炎症性を有しており、多くの疾患、病状(例えば、敗血症、敗血症性ショック、慢性関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬等)の媒介または増悪に関与していることが最近明らかになってきた。そこで、これらの炎症性サイトカインが介在する炎症を如何に安全且つ効果的に抑制するかが、臨床上の課題として重要視されるに到った。
【0003】
一方、IL-10は炎症性サイトカイン等に応答し、炎症を抑制する働きがあることが知られている(特許文献1)。しかしIL-10は、一般のサイトカインの例に漏れず、その効果の半減期は非常に短く、生理活性を期待して生体内に投与するには頻回かつ大量に投与しなければならない。
【0004】
【特許文献1】特表2000−509715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

本発明は、これら炎症性サイトカインによる炎症を安全且つ効果的に予防・治療する薬品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、通常生体内に存在するプロテインSの生理活性の研究に長年従事してきたが、この程偶然にもプロテインSがIL-10の発現を強力に誘発する作用を有することを見つけた。その結果、プロテインSの投与により、IL-10の産生を介して、炎症性サイトカインによる炎症を抑制することができることを突き止め、更に鋭意研究を重ねた結果、炎症性サイトカインによる炎症のみならず、広く一般的な炎症に対してもプロテインSが安全且つ効果的な炎症性疾患の予防・治療剤として用いられること知り、本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、
(1)プロテインSを有効成分として含有する炎症性疾患治療又は予防剤、
(2)炎症性疾患の治療又は予防が、IL-10の発現を誘発することにより生じるものである(1)記載の炎症性疾患治療又は予防剤及び、
(3)プロテインSを有効成分として含有するIL-10の発現誘発剤、
である。
【0008】
本発明の炎症性疾患治療又は予防剤は、有効成分としてプロテインSを含有するものである。
本発明に用いるプロテインSは、ヒトの血漿あるいは遺伝子組み換え技術によって発現された産物を含む原液から、例えばゲル電気泳動で単一バンドを示す程度に精製されたものであればよく、精製法や原材料によって限定されるものではない。
【0009】
本発明に使用するプロテインSの好ましい製法を以下に述べる。
まずヒト血漿から本発明の原料となるプロテインS含有粗画分、たとえばコーンのSI、PIIIなどを常法により調製し、必要によりDEAEイオン交換体で処理して予備精製をする。得られたプロテインS溶液に2価金属の塩を添加してプロテインSを2価金属イオン存在下においてのみとる立体構造のものとする。一方、該立体構造のプロテインSのみを認識する抗体を担体に固定した吸着体をカラムに充填し、このカラムに2価金属イオンとプロテインSを含む溶液を負荷する。必要により洗浄した後、キレート化剤を含む溶出液で溶出する。つぎに溶出液を陰イオン交換体に負荷し、必要により洗浄した後、溶出液でプロテインSを溶出する。得られた溶液を適当な濃度に濃縮し、ウイルス不活化のために液状加熱処理を行ったり、また凍結乾燥後乾燥加熱を行い、さらに必要によりウイルス除去膜処理を行う。このような一連の操作によって得られたヒト・プロテインSは夾雑物を殆ど含まず、また活性化プロテインCコファクター活性を用いた比活性は、総蛋白質1mg当たり50国際単位以上の高比活性を示す。得られた高比活性ヒト・プロテインS調製物を有効成分とし、必要により塩、糖、糖アルコール、ポリオール、アミノ酸、アルブミンまたは蛋白質などの好適な安定化剤と共に保存することが可能である。
【0010】
本発明の薬剤の投与経路は、経口、非経口のいずれでもよいが、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、皮内注射等の非経口投与が好ましく、特に静脈注射が好ましい。注射剤とするには、常法に従い、精製されたプロテインSの一定量を無菌環境下注射用蒸留水に溶解すればよいが、その際、緩衝剤、等張化剤、安定剤などを適量配合するのが良い。具体例としては、緩衝剤にリン酸やクエン酸、等張化剤として食塩、安定化剤としてグリシンやグルタミン酸等があげられる。
【0011】
本発明の薬剤の投与量は、成人一人当たりプロテインSとして5〜1000IU/kg、好ましくは10〜200IU/kg、特に好ましくは20〜100IU/kgを1日から数日間連日静脈内投与することが標準であるが、症状、年齢、性別、体重等に応じて投与量を適宜増減すればよい。20IU/KgのプロテインSを投与することによって、通常血液中にIL-10が250pg/mL程産生される。
本発明により治療又は予防が可能な炎症性疾患として、炎症性腸疾患、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、ブドウ膜炎、乾癬などがあげられる。特に本発明の薬剤は慢性関節リウマチに使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプロテインS含有消炎剤を炎症性サイトカインが介在する炎症、例えばリウマチ性関節炎を有する患者に投与すると、副作用が少なく且つ効果的に炎症治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に実施例及び実験例をあげて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0014】
1)プロテインSの調製法
ヒト血漿5Lを予め20mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したDEAE-セファロースカラムに負荷した。平衡化緩衝液で洗浄した後、260mMの塩化ナトリウムを含む平衡化緩衝液を用いて、ヒト・プロテインSを含む画分を得た。その画分に終濃度が25mMになるように塩化カルシウムを加え、また終濃度が1〜10mMになるよう塩酸ベンズアミジンを添加し、予め2mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH7.3)で平衡化した前記の抗ヒト・プロテインS抗体カラムに負荷した。1M塩化ナトリウム及び150mM塩化ナトリウムを含む平衡化緩衝液にて順次洗浄した後、5mMEDTA及び150mM塩化ナトリウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH7.3)を用いてプロテインS画分を緩やかに溶出した。ついで、この画分を予め150mM塩化ナトリウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH7.3)で平衡化したPOROS50HQカラムに負荷した。350mM塩化ナトリウムを含む平衡化緩衝液で洗浄した後、500mM塩化ナトリウムを含む平衡化緩衝液で溶出し、ヒト・プロテインS画分を得た。さらに、この画分を限外濾過(PALL
FILTRON社製OMEGA 10K膜)により脱塩、濃縮を行った。タンパク質含量は、280nmの吸光度より、1%プロテインS溶液における分子吸光係数9.5を用いて算出した。得られたプロテインS調製物の性状は次の通りであった。

性状;無色透明
タンパク質含量;9.94(mg/mL)
プロテインS活性;1054(IU/mL)
比活性;106(IU/mg)
【0015】
2)プロテインSによる消炎効果の測定
動物実験
約9週齢の雌性DAラットに、0.1mol/L酢酸で溶解したウシ由来II型コラーゲンと当量のフロイント不完全アジュバントとを混合したII型コラーゲン懸濁液を1mg/mLの濃度になるよう調整し、本懸濁液を上記ラットの背部4箇所及び尾根部2箇所の計6箇所に50μLずつ皮内投与し、関節炎を誘発させ、関節炎モデルラットを20匹作成した。
上記の方法で得られたプロテインSを、20mMのクエン酸と0.12MのNaClと66.6mMのグリシンによって、76IU/mLに調整されたプロテインS注射液を上記関節炎モデルラット10匹に、II型コラーゲン懸濁液投与日から7日間10mL/kgで静脈内投与を行った。
また、プロテインSを投与しなかった関節炎モデルラット10匹を比較例とした。
【0016】
効果確認試験例
1)関節炎スコア
薬剤投与日から14日後に、ラット関節炎モデルの関節炎スコアにより評価を行った。
関節炎スコアは、四肢を観察し、一肢当たり0から4点で下記の通り評価法によりスコア化した。個々の動物につき四肢の合計(最高16点)により評価を行い、平均値を算出した。
[評価法]
0点:変化なし
1点:指部に腫脹と紅斑
2点:指部および足裏の腫脹
3点:足全体に明らかな腫脹
4点:足全体に重度の腫脹(浮腫性)

評価結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

表1に示されるとおり、関節炎誘発後、14日目において、プロテインS(PS)投与群で関節炎スコアや後肢の腫脹で抑制傾向が示された。

2)病理組織学的検査
薬剤投与日から28日後に、10%ホルマリン緩衝液にて固定した四肢の足根関節、中手指節及び指節間関節の3箇所について、常法により脱灰後、切り出し、包埋、薄切りし、H.E.染色を行い、下記の7箇所について組織所見を観察し、下記の評価法を用い評価を行った。

[観察項目]
滑膜及び繊維芽細胞の増殖
炎症性細胞の浸潤
血管新生
パンヌス形成
軟骨糜爛
骨糜爛
プロテオグリカンの減少

[評価法]
0点:変化なし
1点:軽度の異常がみられる
2点:中度の異常がみられる
3点:重度の異常がみられる

病理組織学的検査結果を表2として示した。
【0018】
【表2】

表2に示されるとおり、関節炎誘発後、28日目において、PS投与群では関節病変に特徴的な炎症が抑制される傾向が示された。
【実施例2】
【0019】
ヒト単核球を用いたIL-10産生実験
ヒトの末梢血を採取後、比重遠心法により単核球層を分離調整し、この分離した単核球をRPMI1640-10%FCS溶液で1X106個/mLに調整後、96穴プレートに200uLずつ分注し、4時間培養した。その後、各濃度のPSを添加し、さらに16時間培養後の培養上清に対し、ヒトIL-10測定キット(PIERCE ENDOGEN ELISA KIT)を用いIL-10産生量の定量を行った。
その結果を表3に示した。
【0020】
【表3】

表3から明らかなとおり、ヒト単核球からプロテインS濃度依存的に、IL-10が産生された。
【実施例3】
【0021】
正常ラットを用いたIL-10産生実験
7〜8週齢の雄性Wistar系ラットに、上記の方法で得られたプロテインSを、20mMのクエン酸ナトリウムと0.12MのNaClと66.6mMのグリシンによって、76IU/mLに調整されたプロテインSを760IU/kgとなるように尾静脈内より単回投与する。投与終了後1時間後に腹大動脈より採血を行い、血液中のラットIL-10量をラットIL-10測定キット(PIERCE ENDOGEN ELISA KIT)を用い測定を行った。
その結果を表4に示した。
【0022】
【表4】

表4から明らかなように、正常ラットにプロテインSを投与すると、ラットにおけるIL-10の発現が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
サイトカインの中でも幾つかのサイトカイン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン−6(IL-6)等は強力な炎症性を有しており、多くの疾患、病状(例えば、敗血症、敗血症性ショック、慢性関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、等)の媒介または悪化に関与している。本発明者らは、プロテインSの投与がIL-10の発現を強力に誘発し、その結果産生されたIL-10が炎症性サイトカインによる炎症を安全且つ効果的に抑制することができることが判明した。すなわち、プロテインSを含有する薬剤の投与は、炎症性サイトカインによる炎症の安全且つ効果的な予防・治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインSを有効成分として含有する炎症性疾患治療又は予防剤。
【請求項2】
炎症性疾患の治療又は予防が、IL-10の発現を誘発することにより生じるものである請求項1記載の炎症性疾患治療又は予防剤。
【請求項3】
プロテインSを有効成分として含有するIL-10の発現誘発剤。

【公開番号】特開2008−94746(P2008−94746A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277213(P2006−277213)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】