説明

炎症性疾患を治療するためのCD95インヒビターの使用

本発明は、炎症性疾患の予防及び/又は治療のため、或いはニューロン障害、特にCNS障害における炎症過程の予防及び/又は治療のための、CD95/CD95L系のインヒビターの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患の予防及び/又は治療或いはニューロン障害、特にCNS障害における炎症過程の予防及び/又は治療のためのCD95/CD95L系のインヒビターの使用に関する。
【0002】
ニューロン及び乏突起膠細胞の死は、脊髄損傷患者における損傷部位下の機能喪失の最大要因である。これらの細胞の一部は、それら自体の死滅のための死のプログラム、つまりアポトーシスを積極的に始動させる。CD95リガンド(CD95L;FasL/APO1−L)は、アポトーシスの最もよく特徴づけられた要因の1つであり、脊髄損傷マウスにおいてこれが中和されることにより、アポトーシスを受ける細胞の数が減少した。ニューロン及び乏突起膠細胞が救済された結果、それまで麻痺していた手足の自発運動の回復が進んだ。脊髄の挫傷性損傷を受けたラット及び脊髄損傷を受けたCD95欠損MRL/lprマウスにおいても、CD95Lの阻害による運動機能の改善が観察された(Ackeryら、Cashaら、Yoshinoら)。CD95Lは、投薬を受けていない成人脊髄においてあまり発現しないII型膜貫通タンパク質であり、損傷を受けると、内在する脊髄細胞及び浸潤白血球によって提示される。有害なCD95L源を同定することは、脊髄損傷を治療するためのCD95L中和剤の投与プロトコルを設計するために重要である。
【0003】
CD95Lがアポトーシス以外の過程に関与し得るという証拠が増えている。CNSにおいて、本発明者らは以前に、CD95Lが、発生中のニューロンにおける分岐の数及び悪性星状細胞の運動性を増大させることを報告した(Kleberら、2008;Zulianiら、2006)。同様に、後根神経節細胞において、CD95Lは軸索成長を増大させる(Desbaratsら、2003)。しかし、免疫系においても、CD95LはT細胞増殖を増大させることができる(Kennedyら、1999)。
【0004】
CD95(Fas、APO−1)は長年、死誘導受容体と見なされてきた。その同族リガンド(CD95L、FasL、Apo−1L)の結合によるCD95の誘発は、アダプタータンパク質FADDを同型相互作用によってそのデスドメイン(DD)へ動員する。その後、FADDのデスエフェクタードメイン(DED)とプロカスパーゼ−8及びプロカスパーゼ−10との相互作用によって、死誘導シグナル伝達複合体(DISC)内でのそれらの動員及び活性化が可能になる。これらの開始物質カスパーゼは、下流エフェクターカスパーゼを活性化することができ、最終的にミトコンドリア経路のさらなる関与の有無に関わらず細胞を死滅させることができる。しかし、CD95をアポトーシスの排他的メディエータとする仮説は沈静化してきている。CNSにおいて、CD95系は、発生中の細胞の分岐、後根神経節細胞(DRG)の軸索成長及び悪性グリオーマ細胞の増加した移動を増加させることが示されている(Desbaratsら、2003;Kleberら、2008;Zulianiら、2006)。一方、DRGにおいて、CD95系は、ERK活性化によって軸索成長を媒介し、悪性グリオーマ細胞において、CD95は、Src/PI3K/MMP経路の活性化により移動を媒介すると考えられる(Desbaratsら、2003;Kleberら、2008)。免疫系において、活性化誘導細胞死(AICD)は、活性化された周期のT細胞におけるCD95依存性過程として詳細に記載された(Dheinら、1995;Krammer、2000)。対照的に、静止T細胞は、CD95が関与するアポトーシスに対して耐性であると見られる(Klasら、1993)。しかし、さらなる研究によって、IL−2産生の誘発による、T細胞増殖におけるCD95L/CD95の役割も示された(Kennedyら、1999)。CD95Lがプロ炎症性メディエータとしても作用しうる確かな証拠は、CD95Lを過剰発現するよう操作された組織を好中球によってコロニー形成させた研究から得られた(Kangら、1997;Seinoら、1997)。しかし、CD95が炎症を誘発する分子機構は依然として不明である。
【0005】
脊髄損傷は、損傷後最初の数時間以内に炎症反応を引き起こし、数週間続く。この反応としては、内皮損傷、プロ炎症性メディエータの放出、血管透過性における変化、周辺炎症細胞の浸潤、並びに星状細胞及び小膠細胞の活性化が挙げられる。浸潤性炎症細胞は、創傷治癒を促進し得る一方、組織損傷を増幅する毒性因子を放出する(Jones及びTuszynski、2002;Rollsら、2009)。しかし、白血球浸潤につながる正確なシグナルは、未知である。
【0006】
いくつかの研究によって、損傷脊髄においてCD95の発現が増大することが明らかになった(Cashaら、2001;Liら、2000;Matsushitaら、2000;Sakuraiら、1998;Zuritaら、2001)。CD95シグナリングの阻害は、脊髄虚血及び顔面神経の軸索切断後の運動ニューロンの死を防止した(Ugoliniら、2003)。重要なことに、CD95Lの中和は、ニューロン及び乏突起膠細胞の死を著しく減少させ、脊髄損傷動物の機能回復を改善した(Demjenら、2004)。こうした結果は、CD95欠損突然変異マウス(lpr)(Cashaら、2005;Yoshinoら、2004)及びCD95−Fcで処置されたラット(Ackeryら、2006)でさらに確認された。しかし、CD95Lの実際の供給源及びCD95/CD95L系が損傷後に障害を誘発する機構はまだ取り組まれていない。
【0007】
本発明によれば、CD95/CD95L系が、免疫細胞、特に好中球及び/又はマクロファージの移動の増加に関与することが判明した。したがって、CD95/CD95L系の阻害は、炎症性疾患の予防及び/又は治療又はニューロン障害における炎症過程の予防及び/又は治療に有益であり得る。本発明は、ヒト用医薬における使用に特に適している。
【0008】
本発明の第1の態様は、炎症性疾患の治療に関する。炎症性疾患の具体例として、慢性炎症性腸疾患、たとえばクローン病又は潰瘍性大腸炎、マクロファージ活性の増大に関連する炎症性リウマチ様障害、たとえば関節リウマチ、慢性多発性関節炎、強直性脊椎炎(ベヒテレフ病)、乾癬性関節炎、若年性突発性関節炎並びに膠原病、すなわち結合組織障害及び血管炎、すなわち炎症性血管障害、たとえば紅斑性狼瘡、強皮症、シェーグレン症候群、多発性筋炎及び皮膚筋炎、混合膠原病及びヴェーゲナー肉芽腫症(ヴェーゲナー病)が挙げられる。
【0009】
本発明のこの実施形態において、CD95/CD95Lインヒビターは、治療有効量で前記障害の治療に適した経路により投与することができる。投与は、たとえば局所的又は全身的であってよく、好ましくは注射若しくは注入によっても、又は他の好適な経路によってもよい。
【0010】
本発明の第2の態様は、ニューロン障害における炎症過程の治療に関する。ニューロン障害の具体例として、脳損傷若しくは脊髄損傷などのCNS障害、たとえば脳病変又は部分的若しくは完全脊髄コア病変、たとえば卒中、特に対まひが挙げられる。CNS障害を治療するためのCD95/CD95Lインヒビターの使用は、すでにWO2004/071528で開示されているが、本発明はこのような障害の炎症過程の予防及び/又は治療に注目することにより、この特許とは異なる。CNS障害における炎症過程は、免疫細胞、たとえば好中球の移動と関連するため、インヒビターを治療有効量で、免疫細胞、たとえば好中球及び/又はマクロファージ移動を減少若しくは阻害する経路から投与する。好ましくは、インヒビターを、CNS障害の発生直後、たとえば障害の発生直後、たとえば障害発生後2時間まで、4時間まで6時間まで又は8時間までに投与する。さらに、組成物を全身投与し、これによって治療される生物全体における免疫細胞の活性を減少させるのが好適である。
【0011】
本発明の好適な実施形態において、該インヒビターはCD95リガンド(Fasリガンド;APO1リガンド)インヒビターである。たとえば、CD95リガンドインヒビターは、
(a)阻害性抗CD95リガンド抗体又はそのフラグメント;
(b)可溶性CD95受容体分子又はそのCD95リガンド結合部分;及び
(c)FLINT、DcR3又はそのフラグメントから選択されるFasリガンドインヒビター
から選択することができる。
【0012】
阻害性抗CD95L抗体及びその抗原結合フラグメント並びに可溶性CD95R分子又はそのCD95L結合部分が好ましい。好適な阻害性抗CD95L抗体の例は、EP−A−0842948、WO96/29350、WO95/13293に開示されており、又それらから得られるキメラ若しくはヒト化抗体のほか、たとえばWO98/10070を参照のこと。可溶性CD95受容体分子、たとえばEP−A−0595659及びEP−A−0965637に記載されているような膜貫通ドメインのない可溶性CD95受容体分子又はWO99/65935に記載されているようなCD95Rペプチドがさらに好ましい(これらの文献は参考として本明細書で援用される)。
【0013】
場合により異種ポリペプチドドメイン、特に、たとえばヒトIgG1分子由来のヒンジ領域を含むFc免疫グロブリン分子と融合したCD95R分子の細胞外ドメイン(特に、米国特許第5,891,434号の成熟CD95配列のアミノ酸1〜172(MLG...SRS))を含むCD95Lインヒビターが特に好適である。細胞外CD95ドメイン及びヒトFcドメインを含む特に好適な融合タンパク質は、参考として本明細書で援用される、WO95/27735及びPCT/EP2004/003239に記載されている。
【0014】
さらなる好適なインヒビターは、CD95R細胞外ドメイン又はそのフラグメント及びマルチマー化ドメイン、特に三量体化ドメインを含むマルチマーCD95R融合ポリペプチド、たとえば参考として本明細書で援用される、WO2008/025516に記載されているようなバクテリオファージT4又はRB69フォルドン融合ポリペプチドである。
【0015】
FasリガンドインヒビターFLINT若しくはDcR3又はフラグメント、たとえばその可溶性フラグメント、たとえば場合により異種ポリペプチド、特にFc免疫グロブリン分子と融合した細胞外ドメインは、参考として本明細書で援用される、WO99/14330、WO99/50413又はWroblewski et al., Biochem. Pharmacol. 65, 657−667(2003)に記載されている。FLINT及びDcR3は、CD95リガンド及びLIGHT(TNFファミリーの別のメンバー)と結合可能なタンパク質である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、該インヒビターは、
(a)阻害性抗CD95受容体抗体又はそのフラグメント;及び
(b)阻害性CD95リガンドフラグメント
から選択することができるCD95Rインヒビターである。
【0017】
好適な阻害性抗CD95R抗体及び阻害性CD95Lフラグメントの例は、参考として本明細書で援用される、EP−A−0842948及びEP−A−0862919に記載されている。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態において、該インヒビターは核酸エフェクター分子である。核酸エフェクター分子は、CD95R及び/又はCD95L遺伝子の発現を阻害することができるアンチセンス分子、RNAi分子及びリボザイムから選択することができる。
【0019】
さらに別の実施形態において、インヒビターを細胞内CD95Rシグナル変換に指向させることができる。このようなインヒビターの例として、WO95/27735に記載され、たとえばインターロイキン1β変換酵素(ICE)のインヒビター、特に3,4−ジクロロイソクマリン、YVAD−CHO、ICE−特異的テトラペプチド、CrmA又はウスルピン(WO00/03023)が挙げられる。さらに、ICEに対する核酸エフェクター分子を使用することができる。
【0020】
さらに別の実施形態において、インヒビターは、メタロプロテイナーゼ(MMP)、特にMMP−2及び/又はMMP−9に指向させることができる。
【0021】
インヒビター又は前記インヒビターの組み合わせを、これを必要とする対象、特にヒト患者に、好適な手段により特定の状態の治療に十分な用量で投与する。たとえば、インヒビターを、薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又はアジュバントとともに医薬組成物として処方することができる。治療効果及び毒性は、標準プロトコルにしたがって決定することができる。医薬組成物は、全身的に、たとえば腹腔内、若しくは静脈内、又は局所的に、たとえばくも膜下若しくは腰椎穿刺によって投与することができる。
【0022】
投与されるインヒビターの用量は、もちろん治療される対象、対象の体重、障害の種類及び重篤度、投与法及び処方医師の判断によって決まる。抗CD95R若しくはL抗体又は可溶性CD95Rタンパク質、たとえばCD95−Fc融合タンパク質の投与に関しては、一日量0,001〜100mg/kgが好適である。
【0023】
さらに、本発明を以下の図面及び実施例によりさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、T−4及びRB69−フォルドン配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、CD95−RB69融合タンパク質の配列を示す。
【図3】図3は、アフィニティー精製されたCD95−RB69融合タンパク質のSEC分析を示す。
【図4】図4は、アフィニティー精製されたCD95−RB69融合タンパク質から得られるSECフラクションのSDS−PAGE分析(銀染色)を示す。
【図5】図5は、ヒトジャーカット細胞上のヒト(A)又はマウス(B)CD95L−T4によるアポトーシスの誘発に対するCD95−RB69又はCD95(R87S)−RB69の影響を示す。
【図6】図6は、CD95Lが、PI3K/β−カテニン/MMPシグナリングの活性化によって好中球及びマクロファージの移動を誘発することを示している。
【図7】図7は、SCI後のマウス及びヒト骨髄細胞上のCD95Lの増大した細胞表面発現を示している。
【図8A】図8Aは、CD95L−T4(Kleberら、2008)が、好中球においてAKTのリン酸化を誘発したことを示している。
【図8B】図8Bは、CD95L−T4(Kleberら、2008)が、マクロファージにおいてAKTのリン酸化を誘発したことを示している。
【図8C】図8Cは、SH2アレイについての実験レイアウトを示している。
【図8D】図8Dは、dHL−60におけるペプチド受容体競合実験を示している。
【図8E】図8Eは、一次マクロファージにおけるペプチド受容体競合実験を示している。
【図8F】図8Fは、CD95刺激による一次マクロファージにおけるSykキナーゼのリン酸化を示している。
【図8G】図8Gは、Sykキナーゼのノックダウンが、一次マクロファージにおけるAKTのCD95L誘発性リン酸化を無効にしたことを示している。
【図8H】図8Hは、SrcのCD95L誘発性リン酸化を無効にしたことを示している。
【図9A】図9Aは、移動及びMMP活性の評価のための実験レイアウトを示している。
【図9B】図9Bは、移動及びMMP活性の評価のための実験レイアウトを示している。
【図9C】図9Cは、移動及びMMP活性の評価のための実験レイアウトを示している。
【図9D】図9Dは、2チャンバーin vitro移動分析において、CD95L−T4が、一次好中球の移動を誘発したことを示している。
【図9E】図9Eは、2チャンバーin vitro移動分析において、CD95L−T4が、dHL−60の移動を誘発したことを示している。
【図9F】図9Fは、2チャンバーin vitro移動分析において、CD95L−T4が、一次マクロファージの移動を誘発したことを示している。
【図9G】図9Gは、CD95L−T4が、好中球においてMMP−9活性化を誘発したことを示している。
【図9H】図9Hは、CD95L−T4が、dHL−60においてMMP−9活性化を誘発したことを示している。
【図9I】図9Iは、CD95L−T4が、一次マクロファージにおいてMMP−9活性化を誘発したことを示している。
【図9J】図9Jは、MMP−2/9インヒビターが、好中球のCD95L−T4誘発性移動をブロックしたことを示している。
【図9K】図9Kは、MMP−2/9インヒビターが、dHL−60のCD95L−T4誘発性移動をブロックしたことを示している。
【図9L】図9Lは、MMP−2/9インヒビターが、マクロファージのCD95L−T4誘発性移動をブロックしたことを示している。
【図9M】図9Mは、CD95Lに対する中和抗体(MFL3)は、マクロファージの基礎移動をブロックしたことを示している。
【図9N】図9Nは、Sykノックダウンが、dHL−60のCD95L誘発性移動を減少させたことを示している。
【図9O】図9Oは、Sykノックダウンが、マクロファージのCD95L誘発性移動を減少させたことを示している。
【図9P】図9Pは、dHL−60におけるSykの有効なノックダウンを示す。
【図9Q】図9Qは、マクロファージにおけるSykの有効なノックダウンを示す。
【図9R】図9Rは、Sykノックダウンが、マクロファージにおけるCD95L−T4誘発性MMP−9活性化を無効にしたことを示している。
【図9S】図9Sは、CD95L誘発性移動のシグナリング経路を表すスキームを示す。
【図10A】図10Aは、末梢血細胞におけるAKTのリン酸化をフローサイトメトリーによって評価したものを示している。
【図10B】図10Bは、SCI後の脊髄に対する免疫細胞の浸潤を評価するための実験レイアウトを示している。
【図10C】図10Cは、免疫細胞、特に好中球(CD45:GR−1high)の浸潤が、CD95Lf/f;LysMcreマウスの損傷脊髄においてSCI後6時間(n=4/群;*p<0.05;**p<0.01)及び24時間(n=4/群;*p<0.05;**p<0.01)で、又はCD95L中和CD95三量体(CD95−RB69)で急速に処置されたマウスにおいてSCI後24時間(n=3〜5/群;**p<0.01)で、それらの各対照と比較して減少したことを示している。
【図10D】図10Dは、SCI後7日のCD95Lf/f;LysMcreマウス(n=3/群;*p<0.05)の損傷脊髄におけるマクロファージ(CD45:CD11b+、F4/80+)の減少した浸潤を示す。
【図10E】図10Eは、チオグリコレート誘発性腹膜炎後の腹膜への免疫細胞の浸潤を評価するための実験レイアウトを示している。
【図10F】図10Fは、CD95Lf/f;LysMcreマウス(n=6/群;**p<0.01)又はCD95−RB69で急速に処置されたマウス(n=4/群;*p<0.05)におけるチオグリコレート誘発性腹膜炎モデルでの、それらの各対照と比較して減少した好中球の浸潤を示している。
【図10G】図10Gは、チオグリコレート注射後のCD95Lf/f;LysMcreマウス(n=3〜5/群;*p<0.05)の腹膜における減少したマクロファージの浸潤を示している。
【図10H】図10Hは、チオグリコレート注射後のlprマウスの腹膜におけるマクロファージの浸潤の減少(n=6/群;*p<0.05)を示している。
【図11】図11は、骨髄細胞におけるCD95Lの欠失が、脊髄損傷マウスの機能回復を早めることを示している。
【図12A】図12Aは、CD95Lf/f対照マウスと比較したCD95Lf/f;LysMcreにおいて、アポトーシス及び免疫反応に関与する遺伝子の下方調節を示す2つの転写産物クラスターを示している。
【図12B】図12Bは、SCI後24時間のビヒクル処置動物と比較したCD95−RB69において、アポトーシス及び免疫反応に関与する遺伝子の下方調節を示す2つの転写産物クラスターを示している。
【図12C】図12Cは、65.2%の遺伝子が、通常、CD95Lf/f同胞子と比較したCD95Lf/f;LysMcre及びSCI後24時間のビヒクル処置マウスと比較したCD95−RB69処置のデータセットに関して調節されたことを示している。
【図12D】図12Dは、qRT−PCRによるマイクロアレイデータの検証を示している。
【図12E】図12Eは、CD95L阻害の部位と無関係な損傷脊髄の共通遺伝子特性の同定を示している。
【図12F】図12Fは、CD95f/f;Nescre及びそれらの各同胞子対照CD95f/fにおけるSCIの7日後のカスパーゼ−3活性を示している。
【図13A】図13Aは、SCI後のCD95L mRNAレベルの時間動特性を示している。
【図13B】図13Bは、SCI後のカスパーゼ−3活性の時間動特性を示している。
【図14】図14は、FADDが、一次マクロファージにおいてCD95刺激によりCD95DISCへ動員されないことを示している。
【図15A】図15Aは、CD95刺激によるdHL−60におけるSrcリン酸化を示している。
【図15B】図15Bは、CD95L誘発性Syk活性化が、dHL−60(上側のパネル(CD95L、20ng/ml)及び下側のパネル(CD95L、40ng/ml))におけるPP2処置後に阻害されることを示している。
【図15C】図15Cは、CD95L誘発性Syk活性化が、一次マクロファージにおけるPP2処置後に阻害されることを示している。
【図16A】図16Aは、CD95Lf/f;LysMcreマウスにおけるcreの良好な組換えを示している。
【図16B】図16Bは、CD95L mRNAレベルを、CD95Lf/f;LysMcre及びそれらの各対照において注射の6時間後、チオグリコレート誘発性好中球において分析したものを示している。
【図16C】図16Cは、CD95L mRNAレベルを、CD95Lf/f;LysMcre及びそれらの各対照において注射の72時間後、チオグリコレート誘発性マクロファージにおいて分析したものを示している。
【図16D】図16Dは、血液CD11b+細胞、好中球、単球、B及びT細胞のパーセンテージをそれらの適切な細胞マーカーによって分析したものを示している。
【図16E】図16Eは、血液CD11b+細胞、好中球、単球、B及びT細胞のパーセンテージをそれらの適切な細胞マーカーによって分析したものを示している。
【図16F】図16Fは、血球の絶対数が、対照同胞子と比較してCD95Lf/f;LysMcreにおいて有意に変化しなかったことを示す。
【図16G】図16Gは、CD95L誘発性移動が、サイトカイン産生と無関係であることを示している。
【図17A】図17Aは、CD95−RB69又はCD95−(R87S)−RB69で処置された動物において損傷の24時間後の脊髄における好中球のアネキシンV染色を示している。
【図17B】図17Bは、CD95Lf/f;LysMcre及び各対照動物において注射の6時間後のチオグリコレート誘発性好中球におけるアネキシンV染色を示している。
【図17C】図17Cは、CD95−RB69又はCD95−(R87S)−RB69で処置された動物において注射の6時間後のチオグリコレート誘発性好中球におけるアネキシンV染色を示している。
【図18A】図18Aは、実験設定を示している。
【図18B】図18Bは、切断損傷の24時間後、BMT−CD95L-/-キメラは、BMT−wf対照と比較して低いレベルのCD95L mRNAを示している。
【図18C】図18Cは、切断損傷の24時間後、BMT−CD95L-/-キメラは、BMT−wf対照と比較して低いレベルのカスパーゼ−3活性を示している。
【図18D】図18Dは、圧挫損傷の10〜11週間後、BMT−CD95L-/-キメラが、BMT−wfキメラと比較してNeuN+細胞の数が増大したことを示している。
【図18E】図18Eは、圧挫損傷の10〜11週間後、BMT−CD95L-/-キメラが、BMT−wfキメラと比較してNeuN+細胞の数が増大したことを示している。
【図18F】図18Fは、脊髄の切断モデルにおいて、BMT−CD95L-/-マウスが、BMS並びに水泳試験において、BMT−wfキメラと比較して全体的な改善を達成したことを示している。
【図18G】図18Gは、圧挫損傷モデルにおいて、BMT−CD95L-/-マウスが、BMS並びに水泳試験において、BMT−wfキメラと比較して全体的な改善を達成したことを示している。
【図19A】図19Aは、CD95Lf/f;LCKcre動物におけるCre組換えを、血液T細胞におけるcre染色によって評価したものを示している。
【図19B】図19Bは、脊髄の圧挫損傷モデルにおいて、CD95Lf/f;LCKcre及びそれらの各対照同胞子であるCD95Lf/f及びCD95Lf/+;LCKcreにおいてBMS並びに水泳試験を用いることにより、機能回復を評価したものを示している。
【図20A】図20Aは、遺伝子発現プロファイリングをSCIの24時間後のCD95Lf/f;LysMcreマウス及びそれらの各同胞子対照において評価したものを示している。
【図20B】図20Bは、分析した3つのデータセット全てにおいて有意に差別的に調節された遺伝子の機能過剰提示を示している。
【図21】図21は、CD95f/及びCD95f/f;NescreマウスにおけるCD95mRNAレベルを示している。
【図22】図22は、分析した3つのデータセット全てにおいてSCIの24時間後の損傷脊髄において、一貫して有意に差別的に調節された612の遺伝子のリストを示している。
【0025】
図1:T−4及びRB69−フォルドン配列のアラインメント
バクテリオファージT4及びバクテリオファージRB69フィブリチン(受入番号CAA31379及びNP−861864)のC末端配列のアラインメント。同じアミノ酸残基に印をつける。
【0026】
図2:CD95−RB69融合タンパク質の配列
CD95−RB69融合タンパク質のアミノ酸配列を示す。内因性CD95シグナル−ペプチドに下線を引き、CD95−ECDを太字で印字し;一方、RB69フィブリチン−フォルドン配列は赤字で印字する。CD95−ECDと柔軟な配置のstrep−tag−II間のリンカーを青字で印字する。R17が分泌されるタンパク質の最初のアミノ酸(太字の数字1を添えて印をつける)であり、R87S突然変異とはこの列挙を意味することに注意されたい。アルギニン87を太字で印字し、下線を引く。
【0027】
図3:アフィニティー精製されたCD95−RB69融合タンパク質のSEC分析
アフィニティー精製後、約100μgのCD95−RB69(A)又はCD95(R87S)−RB69(B)(最終体積0.1ml)をSuperdex200 10−300GLカラム(GE Healthcare(独国))上、0.5ml/分の流速で、PBSをランニングバッファーとして用い、分離した。CD95−RB69融合タンパク質は、カラムから対称的な形のよいピーク内で溶出する。SEC−カラムの検定に基づいて、11.21(A)又は10.93ml(B)後に溶出するピークは、約240及び280kDaの見かけの分子量に対応する。
【0028】
図4:アフィニティー精製されたCD95−RB69融合タンパク質から得られるSECフラクションのSDS−PAGE分析(銀染色)
CD95−RB69(A)又はCD95(R87S)−RB69(B)のSECフラクションA1〜A14(レーン番号1〜14;M=マーカー)溶出プロフィールを、還元条件下で実施したSDS−PAGE(銀染色)によって分析した。30〜40kDaの主なタンパク質バンドがピークフラクションにおいて検出され;矢印の先で示す。
【0029】
図5:ヒトジャーカット細胞上のヒト(A)又はマウス(B)CD95L−T4によるアポトーシスの誘発に対するCD95−RB69又はCD95(R87S)−RB69 の影響
R87Sの突然変異は、CD95−RB69タンパク質の、CD95Lを介在したジャーカット細胞の殺傷を阻害する能力を無効にする。ジャーカット細胞を250ng/mlのヒト(A)又はマウス(B)CD95L−T4と野生型及び突然変異CD95−RB69の存在下、それぞれの濃度の融合タンパク質について二連でインキュベートした。細胞死の減少は、低いDEVD−AFC開裂速度によって示される。
【0030】
図6:CD95Lは、PI3K/β−カテニン/MMPシグナリングの活性化によって好中球及びマクロファージの移動を誘発する。
【0031】
A 2チャンバーin vitro移動分析において、CD95L−T4は好中球の移動を誘発した。データは少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。B CD95L−T4は好中球におけるMMP−9発現を誘発した。データは少なくとも2回の独立した実験を代表するものである。C MMP−2/9インヒビターは、CD95L−T4で誘発された好中球の移動をブロックした。D CD95L−T4はマクロファージのin vitro移動を誘発した。データは5回の独立した実験を代表するものである。E CD95Lに対する中和抗体(MFL3)はマクロファージの基礎移動をブロックした。2回の独立した実験から得られたデータをプールし、移動細胞の%として表した。
【0032】
図7.SCI後のマウス及びヒト骨髄細胞上のCD95Lの増大した細胞表面発現。(A)eGFP骨髄キメラに関する実験設定。(B)eGFP−ドナーマウス及び致死的な放射線を浴びたwtレシピエントマウス由来の骨髄キメラ(BMT−eGFP)におけるSCIの1〜14日後の、損傷脊髄中への免疫細胞の浸潤の時間動特性。(C)SCIの24時間後に損傷部位に存在する免疫細胞型。(D)末梢血好中球及び単球上のCD95Lの構成的発現及びSCI後のその増加。n=4/群;*p<0.05、**p<0.01。データは少なくとも2回の独立した実験を代表するものである(E)脊髄(SC)損傷患者(患者dの損傷後最初の時点及び最後の時点を提示する)又は健常対照からの好中球上のCD95L表面発現の代表的なヒストグラム。(F)各対照に対する、5人のSC損傷患者及び3人の脊椎円板ヘルニア患者から得た好中球レベルに関するCD95Lの定量化。A:損傷後2〜5時間まで変化する、損傷後の最初の入院時点。d:損傷後の日数。データは、平均±SEMとして表し;SC損傷患者の血液上のCD95L発現は、少なくとも3回の独立した染色を代表するものである。
【0033】
図8.骨髄細胞におけるSykキナーゼ活性化は、CD95刺激によってPI3K活性化をもたらす。(A、B)CD95L−T4(Kleberら、2008)は、好中球(A)及びマクロファージ(B)においてAKTのリン酸化を誘発した。(B)CD95L−T4は、CD95刺激により一次マクロファージにおいてSrcのリン酸化を誘発した。tAKT:全AKT、pAKT:リン酸化されたAKT、tSrc:全Src、pSrc:リン酸化されたSrc、(C)SH2アレイについての実験レイアウト:それ自体又はタンパク質複合体内のアダプターによって、CD95L刺激骨髄誘導好中球又はチオグリコレートを注射したマウスの腹膜から得たin vivo活性化好中球においてリン酸化されたチロシン(pY)によりSH2含有タンパク質と結合するCD95の検出。(D、E)dHL−60(D)及び一次マクロファージ(E)におけるペプチド受容体競合実験。SykキナーゼはCD95のリン酸化された配列と結合するが、CD95の非リン酸化配列とも、スクランブルリン酸化ペプチドとも結合しない。(F)CD95刺激による一次マクロファージにおけるSykキナーゼのリン酸化。pSyk:リン酸化されたSyk、tSyk:全Syk。(G、H)Sykキナーゼのノックダウンは、一次マクロファージにおけるAKT(G、右側のパネル:Sykの有効なノックダウン)及びSrc(H)のCD95L誘発性リン酸化を無効にした。全データは、少なくとも3回の独立した実験を代表するものである。
【0034】
図9.CD95L刺激は、SykキナーゼによるMMPの活性化によって骨髄細胞移動の引き金となる。(A〜C)移動及びMMP活性の評価のための実験レイアウト。(D〜F)2チャンバーin vitro移動分析において、CD95L−T4は、一次好中球(D)、dHL−60(E)及び一次マクロファージ(F)の移動を誘発した。(G〜I)CD95L−T4は、好中球(G)、dHL−60(H)及び一次マクロファージ(I)においてMMP−9活性化を誘発した。(J〜L)MMP−2/9インヒビターは、好中球(J)、dHL−60(K)及びマクロファージ(L)のCD95L−T4誘発性移動をブロックした。(M)CD95Lに対する中和抗体(MFL3)は、マクロファージの基礎移動をブロックした。(N、O)Sykノックダウンは、dHL−60(N)及びマクロファージ(O)のCD95L誘発性移動を減少させた。(P、Q)dHL−60(P)及びマクロファージ(Q)におけるSykの有効なノックダウン。(R)Sykノックダウンは、マクロファージにおけるCD95L−T4誘発性MMP−9活性化を無効にした。(S)CD95L誘発性移動のシグナリング経路を表すスキーム。全データは、少なくとも3回の独立した実験を代表するものであり、移動分析の条件につき少なくとも6回技術的再現を行った。データは平均±SEMとして表す;*p<0.05;**p<0.01。
【0035】
図10.骨髄細胞上のCD95Lは、in vivoの損傷部位への自己動員に関与する。(A)末梢血細胞におけるAKTのリン酸化をフローサイトメトリーによって評価した。脊髄損傷により、wtマウスにおけるpAKT陽性細胞の%は増大したが、CD95L-/-マウスでは増大しなかった。n=4〜5/群;*p<0.05。(B)SCI後の脊髄に対する免疫細胞の浸潤を評価するための実験レイアウト。(C)免疫細胞、特に好中球(CD45:GR−1high)の浸潤は、CD95Lf/f;LysMcreマウスの損傷脊髄においてSCI後6時間(n=4/群;*p<0.05;**p<0.01)及び24時間(n=4/群;*p<0.05;**p<0.01)で、又はCD95L中和CD95三量体(CD95−RB69)で急速に処置されたマウスにおいてSCI後24時間(n=3〜5/群;**p<0.01)で、それらの各対照と比較して減少した。(D)SCI後7日のCD95Lf/f;LysMcreマウス(n=3/群;*p<0.05)の損傷脊髄におけるマクロファージ(CD45:CD11b+、F4/80+)の減少した浸潤。(E)チオグリコレート誘発性腹膜炎後の腹膜への免疫細胞の浸潤を評価するための実験レイアウト。(F)CD95Lf/f;LysMcreマウス(n=6/群;**p<0.01)又はCD95−RB69で急速に処置されたマウス(n=4/群;*p<0.05)におけるチオグリコレート誘発性腹膜炎モデルでの、それらの各対照と比較して減少した好中球の浸潤。(G)チオグリコレート注射後のCD95Lf/f;LysMcreマウス(n=3〜5/群;*p<0.05)の腹膜における減少したマクロファージの浸潤。(G)チオグリコレート注射後のlprマウスの腹膜におけるマクロファージの浸潤の減少(n=6/群;*p<0.05)。
【0036】
図11.骨髄細胞におけるCD95Lの欠失は、脊髄損傷マウスの機能回復を早める。(A、B)切断損傷の24時間後に、CD95Lf/f;LysMcreマウスは、対照同胞子よりも低いレベルのCD95LmRNA(n=6/群;**p<0.01)(A)及びカスパーゼ−3活性(n=4/群;***p<0.001)(B)を示した。mRNAレベルを、投薬を受けていないwt動物に対して標準化した。(C)圧挫損傷の10〜11週後に、CD95Lf/f;LysMcreマウスは、CD95Lf/f対照同胞子(n=6/群;**p<0.01)と比較して、NeuN+細胞(NeuN:成熟ニューロンのマーカー)の数が増大した。(D)圧挫損傷の10〜11週後、脊髄の後索における損傷部位に対して先端側の失われたCNPaseシグナルと、後ろ側のCNPase染色の再出現との距離によって決定される、白質不足の改善が、CD95Lf/f;LysMcreマウスにおいて各対照同胞子と比較して観察された。(n=6/群;**p<0.01)(E)CD95Lf/f;LysMcreにおいて、脊髄の切断損傷後、BMS(CD95Lf/fに対して:p<0.05;CD95L+/f LysMcreに対して:p<0.01;Koziol試験、n=10〜12/群)並びに水泳試験(CD95Lf/fと比較:p<0.05;CD95L+/f LysMcreと比較:p<0.01;Koziol試験、n=10〜12/群)において、CD95L+/f LysMcre及びCD95Lf/f対照同胞子と比較して全体的な改善が達成された。同胞子対照(CD95Lf/f及びCD95Lf/+ LysMcre)は自発運動において有意な差を示さなかったため、結果を圧挫損傷モデルにおいてプールした。(F)脊髄の圧挫損傷モデルにおいて、CD95Lf/f;LysMcreマウスは、BMS(p<0.01;Koziol試験、n=10〜11/群)並びに水泳試験(p<0.01;Koziol試験、n=10〜11/群)において対照同胞子と比較して全体的な改善を達成した。データは平均±SEMとして表す。
【0037】
図12.骨髄細胞におけるCD95Lの欠失は、SCI後の炎症性環境を調節する。(A、B)遺伝子発現プロファイリングを、CD95Lf/f;LysMcreマウス及びCD95−RB69処置マウスならびにそれらの各対照においてSCIの24時間後に評価した(n=3/群)。CD95Lf/f;LysMcreマウス及びCD95−RB69処置マウスにおいて5%の過誤率(FDR)で有意に調節された遺伝子の機能的過剰提示。CD95Lf/f対照マウスと比較したCD95Lf/f;LysMcreにおいて(A)、及びSCI後24時間のビヒクル処置動物と比較したCD95−RB69において(B)、アポトーシス及び免疫反応に関与する遺伝子の下方調節を示す2つの転写産物クラスター。カラーコードは、損傷を受けた各対照と比較して、下方調節された遺伝子については緑色、上方調節された遺伝子については赤色、及び無変化については黒色である。(C)65.2%の遺伝子が、通常、CD95Lf/f同胞子と比較したCD95Lf/f;LysMcre及びSCI後24時間のビヒクル処置マウスと比較したCD95−RB69処置のデータセットに関して調節された。(D)qRT−PCRによるマイクロアレイデータの検証:SCIの24時間後のCXCL10、IL−1β、IL−6、CCL6及びStat−3のmRNAレベル。(n=4/群;*p<0.05;**p<0.01)(E)CD95L阻害の部位と無関係な損傷脊髄の共通遺伝子特性の同定。3つの異なるデータセットをSCIの24時間後の遺伝子発現プロファイリングについて分析した:(1)CD95Lf/f;LysMcre:骨髄細胞においてD95Lが欠失したマウス;(2)CD95−RB69処置:CD95Lを損傷後に薬理学的に阻害した;(3)CD95L-/-:偏在的なCD95Lの欠失を有するマウス、及びそれらの各カウンターパート。メタ分析によって、本発明者らは、5%の過誤率(FDR)で3つのデータセット全てに共通の612の遺伝子を見いだした。これら612の階層的クラスタリングは、3つのデータセット全てにおいてSCIにより遺伝子を差別的に調節した。カラーコードは、下方調節された遺伝子については緑色、上方調節された遺伝子については赤色、そして無変化については黒色である。(F)CD95f/f;Nescre及びそれらの各同胞子対照CD95f/fにおけるSCIの7日後のカスパーゼ−3活性。(n=4−5/群;*p<0.05;**p<0.01)。データは平均±SEMとして表す。ns:有意でない。
【0038】
図13.SCI後のCD95L発現レベル及びアポトーシスレベル
(A)SCI後のCD95L mRNAレベルの時間動特性。CD95L mRNAレベルはSCIの24時間後でピークに達した。(B)SCI後のカスパーゼ−3活性の時間動特性。カスパーゼ−3活性は損傷の7日後及び10日後で有意に増加し、14日後で対照動物のレベルに戻った。データは平均±SEMとして表す;*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001(n=3〜4/群)。
【0039】
図14.FADDは、一次マクロファージにおいてCD95刺激によりCD95DISCへ動員されない。陽性対照として使用したCD95L感受性マウス胸腺腫細胞(E20)と比較して、一次マクロファージにおいてCD95刺激によりCD95DISCへ動員されるFADDはない。データは少なくとも2回の独立した実験を代表するものである。
【0040】
図15.dHL−60におけるSrcの活性化並びにCD95刺激によるdHL−60及び一次マクロファージにおけるSrc阻害の効果。(A)CD95刺激によるdHL−60におけるSrcリン酸化。データは少なくとも4回の独立した実験を代表するものである。(B、C)CD95L誘発性Syk活性化は、dHL−60(B、上側のパネル(CD95L、20ng/ml)及び下側のパネル(CD95L、40ng/ml))並びに一次マクロファージ(C)におけるPP2処置後に阻害される。データは少なくとも2回の独立した実験を代表するものである。
【0041】
図16.CD95Lf/f;LysMcreマウスの特性化。(A)CD95Lf/f;LysMcreマウスにおけるcreの良好な組換え。骨髄CD11b+細胞をビーズによって陽性に分類し、CD95L mRNAレベルをCD95Lf/f;LysMcre及び各対照同胞子において分析した。CD95L mRNAは、対照動物と比較して、CD95Lf/f;LysMcreにおいて2.2倍減少した。(B)CD95L mRNAレベルを、CD95Lf/f;LysMcre及びそれらの各対照において注射の6時間後、チオグリコレート誘発性好中球において分析した。CD95LのmRNAレベルは、対照同胞子と比較してCD95Lf/f;LysMcreにおいて大幅に下方調節された。(C)CD95L mRNAレベルを、CD95Lf/f;LysMcre及びそれらの各対照において注射の72時間後、チオグリコレート誘発性マクロファージにおいて分析した。CD95LのmRNAレベルは、対照同胞子と比較してCD95Lf/f;LysMcreにおいて大幅に下方調節された。(D、E)血液CD11b+細胞、好中球、単球、B及びT細胞のパーセンテージをそれらの適切な細胞マーカーによって分析した。それぞれ非損傷又は損傷対照同胞子CD95Lf/f及びCD95Lf/+:LysMcreと比較して、非損傷又は損傷CD95Lf/f;LysMcre間で血球集団における差は観察されなかった。(F)血球の絶対数は、対照同胞子と比較してCD95Lf/f;LysMcreにおいて有意に変化しなかった。データは平均±SEMとして表す;*p<0.05;**p<0.01、***p<0.001。(G)CD95L誘発性移動は、サイトカイン産生と無関係である。サイトカインmRNAレベルを、チオグリコレート注射の6時間後にCD95Lf/f;LysMcreからのチオグリコレート誘発性細胞及びそれらの各対照において分析した。CXCL10、IL−1、IL−6及びCXCL2のmRNAレベルは対照動物と比較してCD95Lf/f;LysMcreにおいて変化しなかった。データは平均±SEMとして表す;*p<0.05;**p<0.01。
【0042】
図17.CD95L活性が欠損したマウス及びそれらの対照においてアポトーシスを受ける好中球の数(A)CD95−RB69又はCD95−(R87S)−RB69で処置された動物において損傷の24時間後の脊髄における好中球のアネキシンV染色。(B)CD95Lf/f;LysMcre及び各対照動物において注射の6時間後のチオグリコレート誘発性好中球におけるアネキシンV染色。(C)CD95−RB69又はCD95−(R87S)−RB69で処置された動物において注射の6時間後のチオグリコレート誘発性好中球におけるアネキシンV染色。データは平均±SEMとして表す。
【0043】
図18.免疫細胞におけるCD95Lの欠失は、機能回復を早め、脊髄に内在する細胞のアポトーシスを減少させる(A)実験設定。(B、C)切断損傷の24時間後、BMT−CD95L-/-キメラは、BMT−wf対照と比較して低いレベルのCD95L mRNA(B)及びカスパーゼ−3活性(C)を示した。mRNAレベルを、投薬を受けていないwt動物に対して標準化した。(D)圧挫損傷の10〜11週間後、BMT−CD95L-/-キメラは、BMT−wfキメラと比較してNeuN+細胞の数が増大した。(E)脊髄の後索の損傷部位に対して先端側の失われたCNPaseシグナルと、後側のCNPase染色の再出現との距離を測定することによって、乏突起膠細胞生存を分析した。圧挫損傷の10〜11週後、BMT−CD95L-/-キメラは、各対照よりも距離が短く、これは、BMT−CD95L-/-キメラにおいて白質不足が増大したことを示す。(F−G)脊髄の切断モデル(G)又は圧挫損傷モデル(F)において、BMT−CD95L-/-マウスは、BMS並びに水泳試験において、BMT−wfキメラと比較して全体的な改善を達成した(切断損傷:BMS p<0.01、n=12〜13/群;水泳試験p<0.001、n=12〜13/群)(圧挫損傷:BMS p<0.05、n=8/群;水泳試験p<0.05、n=8/群)。データは平均±SEMとして表す;*p<0.05;**p<0.01、***P<0.001。
【0044】
図19.T細胞上のCD95Lの欠失は、脊髄損傷マウスにおいて機能回復を促進しない。(A)CD95Lf/f;LCKcre動物におけるCre組換えを、血液T細胞におけるcre染色によって評価した。(B)脊髄の圧挫損傷モデルにおいて、CD95Lf/f;LCKcre及びそれらの各対照同胞子であるCD95Lf/f及びCD95Lf/+;LCKcreにおいてBMS並びに水泳試験を用いることにより、機能回復を評価した。両評価において、CD95Lf/f;LysMcreにおいてはそれらの対照同胞子と比較して機能改善における差は観察されなかった(n=10〜12/群)。データは平均±SEMとして表す。
【0045】
図20.CD95Lf/f;LysMcreマウスデータセット及び試験した全てのデータセットにおいて有意に差別的に調節された612の遺伝子のマイクロアレイ機能過剰提示。(A)遺伝子発現プロファイリングをSCIの24時間後のCD95Lf/f;LysMcreマウス及びそれらの各同胞子対照において評価した。CD95Lf/f;LysMcreマウスにおける5%過誤率(FDR)での有意な調節遺伝子の機能過剰提示。(B)分析した3つのデータセット全てにおいて有意に差別的に調節された遺伝子の機能過剰提示:(1)CD95Lf/f;LysMcre:骨髄細胞においてD95Lの欠失を有するマウス;(2)CD95−RB69処置:CD95Lを損傷後に薬理学的に阻害した;(3)CD95L-/-マウス:偏在的なCD95Lの欠失を有するマウス、及びそれらの各カウンターパート。
【0046】
図21.CD95f/及びCD95f/f;NescreマウスにおけるCD95mRNAレベル。Cre組換えにより、CD95f/f;Nescreマウスの脊髄においてCD95 mRNAレベルの量が減少するに至った。
【0047】
図22:分析した3つのデータセット全てにおいてSCIの24時間後の損傷脊髄において、一貫して有意に差別的に調節された612の遺伝子のリスト。
【0048】
実施例
1.好中球及びマクロファージのCD95L誘発性移動
1.1.物質及び方法
1.1.1.ネズミ好中球の細胞単離及び培養
骨をPBS/2mMのEDTAでフラッシュし、骨髄好中球をマウスの大腿骨から単離した。集めた骨髄細胞をACK緩衝液(150mMのNH4Cl、10mMのKHCO3、1mMのNa2EDTA、pH7.3)中に再懸濁させ、1分間インキュベートして、赤血球を溶解させた。製造業者のプロトコル(Miltenyi、#130−092−332)にしたがい、磁気ビーズによるMACS陽性選択を用いて、好中球選択を実施した。好中球の純度はFACSによって評価し、>96%に達した。
【0049】
3%チオグリコレート注射の6時間後、マウスの腹腔を洗浄し、in vivo活性化された好中球を単離した。
【0050】
1.1.2.CD11b+細胞の細胞単離
骨髄細胞をすでに記載したようにして単離した。CD11b選択を製造業者のプロトコル(Miltenyi#130−092−333)にしたがって実施した。
【0051】
1.1.3.一次細胞培養
骨髄由来のマクロファージ(BMDM)を得るために、大腿骨及び脛骨を左右対称に採取し、PBS/2mMのEDTAを充填したシリンジを用いて骨髄コアをフラッシュした。細胞を磨砕し、RBCを溶解させた(0.15mol/LのNH4Cl、10mmol/LのKHCO3、0.1mmol/LのNa2EDTA;pH7.4)。培地中で1回洗浄した後、細胞を播種し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.001%β−メルカプトエタノール、10%FBS、1%L−グルタミン、1%非必須アミノ酸、1%ピルビン酸ナトリウム及びマクロファージコロニー刺激因子分泌L929細胞から得られる20%上清を添加したRPMI1640中で培養した。sL929は骨髄細胞をマクロファージ表現型にする(7〜10日)。第1日に、非接着性細胞を集め、さらに培養した。4日後、新鮮な培地を添加して、細胞成長を増強した。収穫時に、95±0.7%の細胞がマクロファージであった(CD11b及びF480免疫染色により評価)。添加培地を刺激当日にRPMI/10%のFBSと置換し、刺激を同じ培地中、全ての細胞型に関して行った。
【0052】
1.1.4.免疫沈降
少なくとも1×107細胞を10(好中球)又は20(マクロファージ)ng/mlのmCD95L−T4で5分間37℃にて処理し、又は未処理で放置し、PBS+ホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β−グリセロホスフェート(それぞれ10mM)及び1mMオルトバナデート)中で2回洗浄し、続いて緩衝液A[(20mMのTris/HCl、pH7.5、150mMのNaCl、2mMのEDTA、1mMのフェニルメチルスルフォニルフルオリド、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)、1%のTriton X−100(Serva(独国ハイデルベルク))、10%グリセロール、及びホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β−グリセロホスフェート(それぞれ10mM)及び1mMのオルトバナデート)]中で溶解させた。タンパク質濃度は、BCAキット(Pierce)を用いて測定した。500μgのタンパク質を5μgの抗CD95Ab Jo2(BD#554255)及び40μlのタンパク質−A Sepharose又は対応するアイソタイプ対照(BD#554709)のいずれかとともに一夜免疫沈降させた。ビーズを20体積の溶解緩衝液で5回洗浄した。免疫沈降物を50μlの2×Laemmli緩衝液と混合し、15%SDS−PAGEで分析した。続いて、ゲルをHybondニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech(独国フライブルク))に移し、PBS/Tween(PBS+0.05%Tween20)中5%ミルクで1時間ブロックし、PBS/Tween中5%ミルク中4℃で一夜、一次抗体とともにインキュベートした。製造業者のプロトコル(PerkinElmer Life Sciences(独国ロートガウ))にしたがい化学発光法を用いてブロットを現像した。高度にCD95L感受性の胸腺腫細胞(E20)を、FADD動員(抗FADDマウスモノクローナルAb、クローン1F7、Millipore#05−486)を分析するために陽性対照として含めた。
【0053】
1.1.5.ウェスタンブロット
タンパク質抽出及び免疫ブロッティングをすでに記載されているようにして実施した。膜を、次の抗体:リン酸化されたAKT(P−Ser473−AKT、1:1000、細胞シグナリング#9271)、全AKT(T−AKT、1:1000、細胞シグナリング#9272)でプローブした。
【0054】
1.1.6.移動分析
骨髄由来の好中球又はマクロファージの移動を2チャンバー移動分析においてin vitroで評価した。トランスウェル挿入物[好中球又はマクロファージについてそれぞれ3μm(BD#353096)又は8μm(BD#353097)ポアサイズ]をマトリゲル(50μg/ml;BD#354234)でコーティングした。5×105好中球又はマクロファージを上側のチャンバー上、500μlの培地中に播種した。細胞を未反応のまま放置し、又は10、20及び40ng/mlを上側のチャンバーに添加することによってCD95L−T4で処理した。移動した細胞数を、処理後、好中球については3時間、マクロファージについては24時間で計数した。マクロファージのCD95L誘発性移動を、CD95Lに対する中和抗体(MFL3、10μg;BD#555290)又は適切なアイソタイプ対照に対する中和抗体(IgG、10μg;BD#554709)を用いることによりマクロファージの基礎移動をブロックし分析した。
【0055】
好中球動員に関するメタロプロテイナーゼの役割は、MMP−2/9の選択的インヒビターを用いて調べた。好中球を、MMP−2/9インヒビター(50μM;Calbiochem#444251)とともにCD95L−T4処理の30分前にプレインキュベートし、移動する細胞を計算した。
【0056】
1.1.7.活性化MMPについてのゼラチンザイモグラフィー
異なる量のCD95L−T4で処理した好中球由来の無細胞上清におけるMMP活性を、すでに記載されたゼラチナーゼザイモグラフィーによって測定した。手短に説明すると、好中球をCD95L−T4(10及び20ng/ml)で6時間処理した。電気泳動及びゲルをTriton X−100(2.5%v/v、30分間2回)で洗浄した後、ゲルをMMP反応緩衝液[50mmol/LのTris−HCl(pH7.8)、200mmol/LのNaCl、5mmol/LのCaCl2]中、37℃で16時間インキュベートした。ゼラチン分解活性は、Coomassie Brilliant Blue G−250溶液を用いた染色及び脱染溶液(10%酢酸、20%メタノール)中でのインキュベーションに際して透明なバンドとして検出された。
【0057】
1.1.8.三量体CD95−融合タンパク質CD95−RB69及びCD95(R87S)−RB69の操作及び特性化
CD95/CD95L相互作用の分析のため、CD95の細胞外ドメインを、通常、組換え二量体融合タンパク質の形態で使用する。現在、市販の全組換えCD95タンパク質は、たとえば参考として本明細書で援用される、WO2004/085478に記載されているようなヒト又はマウスIgG1のC末端融合Fc部分(CD95−Fc)を呈する。この実験の読み出し法を妨害する、Fcに基づくエフェクター機能を回避するため、本発明者らは、異なるタンパク質骨格に基づくCD95L−トラップを設計することにした。CD95L−三量体あたり3つの提案された受容体結合部位によって、三量体CD95−融合タンパク質は、理想的なCD95−リガンド−トラップであるはずである。本発明者らは、バクテリオファージRB69由来のT4−フォルドンの相同染色体を使用した(図1及び2)。この構造は、参考として本明細書で援用される、WO2008/025516に記載されている。その特異性を保証するために、CD95−ECD(Arg87Ser)において単一のアミノ酸交換を有する設計されたCD95L−トラップのムテインを発現させ、記載した実験内で対照として使用した。この単一のアミノ酸交換はヒトCD95のヒトCD95Lに対する結合を無効にすることが知られている(Starlingら、1997)。
【0058】
実際、CD95−又はCD95(R87S)−RB69−フォルドン融合タンパク質の分泌に基づく発現の結果、グリコシル化された安定なタンパク質種が形成される。(図3及び4)。
【0059】
本発明者らはマウスにおいてヒトCD95融合タンパク質を使用したため、実験の実施前に、ヒトCD95/ネズミCD95L−相互作用についてR87Sベースの対照タンパク質の結合を分析しなければならなかった。本発明者らは、CD95融合タンパク質がin vitroでジャーカット細胞上のヒト又はマウスCD95Lのいずれかのアポトーシス誘発能を中和する能力を調べることによって、この問題に取り組んだ。ヒトCD95−RB69タンパク質は、in vitroでヒト及びマウスリガンドのアポトーシス活性を有効に中和するが、R87S−対照タンパク質は保護効果を有さない(図5及び図17E)。
【0060】
1.1.9.タンパク質設計
RB69由来のフィブリチンフォルドンドメインをC末端でヒトCD95−ECD(M1−E168)と融合させた。CD95−ECDとRB69−フォルドンの間(Tyr181〜Ala205)に、柔軟性リンカーエレメント(Gly169〜Ser180)を配置した。精製及び分析法のために、柔軟なリンカーエレメント(Ser206〜Lys223)を含むstreptag−IIをC末端に添加した。融合タンパク質のアミノ酸配列を逆翻訳し、そのコドン使用を哺乳動物細胞における発現に関して最適化した。遺伝子合成をENTELECHON GmbH(独国レーゲンスブルク)によって行った。CD95(R87S)−RB69−タンパク質の場合、発現カセットにおいて必要なコドン交換をPCRに基づく突然変異誘発によって導入した。配列検証された発現カセットを、プラスミドの独特のHind−III−及びNot−I部位を用いてpCDNA4−HisMax−骨格中にサブクローン化した。
【0061】
1.2.結果
病変部位へのマクロファージ動員は、あらかじめ動員された好中球によって促進され得る。マクロファージ浸潤に対する好中球の起こり得る影響を除くため、本発明者らは、2チャンバー遊走分析においてin vitroの好中球及びマクロファージのCD95L誘発性移動を研究した。骨髄由来の好中球の移動は、CD95Lでの処理によって有意に増加した(図6A)。移動の増加は、マトリックス−メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)の活性増加を伴った(図6B)。したがって、MMP−9及びMMP−2の薬理学的阻害は、好中球のCD95L誘発性移動を無効にした(図6C)。さらに、外因性及び内因性CD95Lはin vitroでマクロファージ移動を増加させた(図6D)。こうした発見は、CD95Lが好中球及びマクロファージに直接作用し、損傷部位へのそれらの動員を増大させることを証明する。
【0062】
CD95Lはどのようにして移動を増加させるのか?本発明者らは、最近、悪性グリオーマ細胞における、CD95Lによる移動の増加を報告した(5)。これらの細胞において、SrcファミリーキナーゼYes及びホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)のp85サブユニットをCD95へ動員させ、CD95Lによって活性化した。その後、AKT/βカテニン経路は活性化され、MMP−9発現の最終的誘発に至る。PI3Kも骨髄細胞のCD95誘導移動に必要かするため、骨髄由来の好中球及びマクロファージをCD95Lで刺激し、PI3K標的AKTのリン酸化を評価した。AKTのリン酸化、ひいては活性化は、好中球及びマクロファージの両方においてCD95Lによって誘発された。グリア芽腫細胞についてすでに記載されているように、マクロファージにおけるCD95LによるAKT活性化は、用量−ベル型を呈していた。本発明者等は、CD95Lでの処理に際して、FADDの好中球のCD95又はマクロファージのCD95への動員を検出することができなかったが、胸腺腫細胞系E020のCD95Lでの処理は、FADDをCD95へと有効に動員した。チオグリコレート活性化及びSCI後の好中球欠失CD95活性とそれらの各対照とに自発的アポトーシスの速度において差がないことから、CD95へのFADD動員がなく、したがって、CD95誘発性アポトーシスの発生がさらに確認される。
【0063】
現在のところ、脊髄損傷患者において適度な治療効果を示す唯一の治療は、有効な抗炎症薬、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(MPSS)である。損傷後最初の8時間以内にMPSSで治療された患者は、後の時点でプラセボ、ナロキソン、又はMPSSを投与された患者と比べて、運動及び感覚機能が著しく改善された(9)。損傷後に必要な即時使用は、急性炎症反応の調節におけるその主な役割を示す。したがって、循環好中球の枯渇、好中球関連タンパク質分解酵素活性の阻害又は好中球接着の阻害の結果、脊髄損傷マウスの運動回復が改善された(10)。しかし、好中球が損傷部位の清浄化及び細菌感染の制限においても重要な役割を果たすことは注目に値する。したがって、療法は、依然として有用な効果を提供しつつ、バイスタンダー細胞のCD95L誘発性細胞死など破壊的影響のない炎症反応をもたらすことを目的とすべきである(Brown及びSavill、1999)。本発明者等は、従って、CD95L効果の制御修飾は、SCI後の有用な炎症反応を提供するはずであると考える。
【0064】
2.抗CD95L処置マウスの行動評価
2.1物質及び方法
2.1.1動物
下記表に記載の動物を使用する。CD95-/-はすでに記載され(Karrayら、2004)、C57BL/6JマウスはCharles River Laboratoriesから購入した。CD95L floxedマウス(Karrayら、2004)をLysM Creマウス(Jackson Laboratory)及びLCK Creマウス(Gunter Hammerlingからの寄付)とともに飼育して、それぞれ骨髄細胞又はT細胞におけるCD95Lを消耗させた。強い緑色蛍光タンパク質を偏在的に発現するマウスは、Bernd Arnoldの寄付であった。実験のため、動物の年齢をマッチさせ、2〜14週齢で使用した。全ての動物実験は、German Cancer Research Centerの機関ガイドラインにしたがって実施し、Regierungsprasidium(独国カールスルーエ)によって認可された。
【0065】
【表1】

【0066】
2.1.2脊髄損傷
SCIモデル:脊髄の切断損傷は、すでに記載されているようにして行った(Demjenら、2004)。圧挫損傷モデルに関して、鉗子を15秒間脊髄上で保持し、脊髄を側面圧縮した(Plemelら、2008)。損傷直後及びさらに1週間、マウスに抗生物質(ゲンタマイシン、5ml/kgの0.2mg/ml溶液)を投与して感染を予防した。術後処置として、動物を27℃で飼育し、食物及び水を自由に与え、膀胱を1日1回手で圧搾した。
【0067】
2.1.3ヒト血液試料の染色
ヒト血液に関する全ての実験は、German Cancer Research Centerの機関ガイドラインに従って実施され、Ethic Commission in Mainzによって認可された。患者及び各健常対照の血液を集めた時点で、赤血球溶解を実施し、続いて4%PFAで固定した。1人の患者並びに5〜6人の各対照試料に属する全ての時点をあわせて染色した。このために、NOK−2(BD、Pharmingen)又は各IgG2κアイソタイプ(Acris)を1時間氷上でインキュベートし、続いて30分間、二次抗体(抗マウスAPC、BD)とともにインキュベートした。その後、試料をフローサイトメトリーによりヒト好中球及びリンパ球表面上のCD95L発現について分析した。好中球は、CD66b陽性細胞、又はそれらのFSC/SSCにのいずれかで同定した。
【0068】
2.1.4抗CD95L治療
マウスをSCI又はチオグリコレート誘発性腹膜炎の5分後、50μg(200μlの滅菌PBS中に溶解)のCD95−RB69又は、CD95Lと結合不可能な突然変異型CD95−(R87S)−RB69のいずれかを用いて、静脈内処置した。
【0069】
2.1.5行動評価
全ての行動試験は、損傷後9〜11週間にわたり毎週、二重盲検方式で2人の独立した観察者によって実施した。動物の一般的運動能力は、すでに記載されているようにして、Bassoマウス運動評価尺度(BMS)及び水泳試験を用いて評価した(Demjenら、2004)。BMSに関して、動物を損傷の翌日、さらに試験した。第1日で0.5を越えるBMSスコアを示すマウスをさらなる実験から排除した。
【0070】
2.1.6統計的評価
試料サイズ及び統計的評価の結果を包含する統計的概要データの全てを下記表に記載する。行動実験に関して、対照群と比較したマウスにおける全体的な改善を、Koziol試験(Koziolら、1981)、長時間にわたって組み合わせたこれらのデータを分析することが可能な、時系列データに適切なノンパラメトリック試験を用いて、統計的に分析した。他の終点全ての統計的分析を、標準的な対応のないスチューデントのt検定を用いることによって実施した。スチューデントのt検定を適用した場合、小さな試料サイズを考慮して、正規性についての形式テストは適用しなかった。全データは、平均±平均の標準的偏差(SEM)として表した。統計的有意性を、統計試験法のp値として報告し、評価した:有意*p<0.05;強力に有意**p<0.01及び高度に有意***p<0.001。全ての統計分析は、German Cancer Research Center, DKFZのBiostatistics UnitのプログラムパッケージADAMを用いて実施した。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

【0076】
【表7】

【0077】
【表8】

【0078】
2.2結果
2.2.1CNS損傷は、齧歯類及びヒトにおいて末梢血細胞上のCD95L表面発現を増大させる。
【0079】
本発明者らは以前に、CD95Lの全身的中和が、アポトーシスを受けるニューロン及び乏突起膠細胞の数を減少させることによって、脊髄損傷マウスの機能回復を早めることを示した(Demjenら、2004)。けれども、実際のCD95L源は未知である。CD95Lは投薬を受けていない成人脊髄においてあまり発現せず、内在する脊髄細胞及び/又は浸潤白血球によって提示され得る。損傷脊髄へ動員される免疫細胞の様々な集団を特徴づけるために、本発明者らは、eGFP−骨髄(BM)キメラを生成させた(図7A)。これらのマウスにおいて、全ての免疫細胞はeGFP+である。フローサイトメトリーを用いて、本発明者らは、免疫細胞の浸潤をGFP+細胞上で規制し、異なる免疫細胞型について所定の細胞マーカーを使用して分析した。SCIの24時間後に損傷部位に浸潤するほぼ全ての免疫細胞は、骨髄細胞のマーカーであるCD11b+であった(図7B、C)。このCD11b+細胞では、好中球が65%超を占め(GR−1+/F4/80-又はGR−1high)、マクロファージ(CD11b+/F480+)が15%を占めた(図7C)。CD11b+集団は損傷後の最初の2週間は最多であるが、この集団内の好中球の割合は、マクロファージ数が増大する場合、最初の1週間で急速に減少した(図7B)。T細胞(CD3+)の浸潤は7日後に始まった(図7B)。要約すれば、白血球のうち、好中球及びマクロファージは、損傷脊髄において最初に浸潤するものである。骨髄浸潤の間、CD95L mRNA及びカスパーゼ−3活性のレベルはピークに達し(図13A、B)、これは、これらの細胞がCD95Lの主要な供給源であることを示唆する。実際、末梢血好中球及び単球の表面でのCD95L発現は、SCIの24時間後に有意に増大した(図7D)。最も重要なことであるが、末梢血好中球上のCD95Lの増大した表面レベルは、脊髄損傷患者において損傷後の早い時点でも観察され、このレベルは損傷後少なくとも1週間で対照レベルに戻った(図7E、F及び下記表)。損傷後17日間追跡した患者eにおいて、好中球の表面上のCD95L発現の第二波が損傷後の第2週で観察された(図7F)。興味深いことに、好中球上のCD95Lの同様の上方調節が、脊椎円板ヘルニア後の急性疼痛発作を有する患者において観察された。
【0080】
【表9】

【0081】
2.2.2CD95Lは、SykキナーゼによるPI3K及びメタロプロテイナーゼの活性化によって好中球及びマクロファージの移動を誘発する。
【0082】
骨髄細胞上のCD95Lの役割に関する機構的洞察を得るために、本発明者らは、CD95Lに対する骨髄細胞の応答を研究した。CD95受容体はアポトーシス誘導剤として十分に確立されている(Krammer、2000)。CD95によるアポトーシスの誘発は、アダプタータンパク質FADDの、CD95のDDへの動員によって起こり、さらにカスパーゼの活性化につながる。したがって、本発明者らはまず、一次マクロファージ上のCD95に対するFADD結合を調べた。それでも、一次マクロファージのCD95処理は、FADDのCD95への検出可能な動員を誘発せず、一方、同じ処理は、CD95−アポトーシス感受性胸腺腫細胞系E20においてFADDのCD95への有効な動員を誘発した(図14)。一貫して、マクロファージはCD95誘発性細胞死に耐性がある(Altemeierら、2007;Parkら、2003;Shimizuら、2005)。CD95Lがアポトーシス以外の過程に関与するという証拠が増えている。悪性グリオーマ細胞において、本発明者らは最近、CD95L刺激により移動が増加することを報告した(Kleberら、2008)。これらの細胞において、SrcファミリーキナーゼYes及びホスファチジルイノシトール−3−キナーゼのp85サブユニット(PI3K)は、CD95へ動員され、CD95L結合によって活性化される。その後、AKT/β−カテニン経路は活性化され、MMP−9発現の最終的誘発に至る。CD95のDDにおける推定YXXLモチーフは、実際には、SH2含有タンパク質のドッキング部位として一次好中球において最初に記載された(Daigleら、2002)。加えて、PI3Kの活性化は、好中球の生存及び移動の両方においてもきわめて重要な役割を果たす(Boulvenら、2006;Zhuら、2006)。PI3Kが本発明者らの系においても関与するか検討するため、骨髄由来の好中球及び成熟マクロファージをCD95Lで刺激し、PI3K標的AKTのリン酸化を評価した。AKTのリン酸化、ひいては活性化は、好中球及びマクロファージの両方におけるCD95L処理によって誘発された(図8A、B)。さらに、Srcファミリーキナーゼ(SFK)のリン酸化も、一次マクロファージにおけるCD95刺激によって増大した(図8B)。好中球におけるさらなる機構的情報を得るために、本発明者らは、DMSO分化HL−60細胞(dHL−60)、つまりヒト好中球様細胞系においてさらなる生化学的研究を実施することにした。一次マクロファージの場合におけるように、CD95の刺激は、SFKのリン酸化の増大をもたらした(図15)。
【0083】
本発明者らは、次いで免疫細胞におけるPI3K及びSFK活性化の分子決定因子に取り組んだ。CD95におけるYXXLモチーフは一次好中球において最初に記載されたため、本発明者らは、SH2アレイを用いることによって潜在的なCD95インタラクターを調べることにした(図8C、上図)。図示するように、CD95、又はCD95含有多タンパク質複合体は、非受容体型チロシンキナーゼZap70/SykのSH2ドメインと相互作用できる(図8C、下図)。タンパク質アレイから得られた結果を検証するために、本発明者らはペプチド結合実験を実施し、この実験では、YXXLモチーフを含有するCD95の対応する配列を、CD95L刺激又は非刺激溶解物とともにインキュベートした。dHL−60細胞において、リン酸化されたCD95陰性ペプチドのインキュベーションの結果、非リン酸化CD95ペプチド及び配列特異性の陰性対照として使用したスクランブルリン酸化ペプチドと比べてSykの結合が増大した(図8D)。CD95Lでの処理は、リン酸化されたCD95ペプチドに対するSykの結合をさらに強化させた(図8D)。こうした結果は、アダプタータンパク質の存在及び/又は翻訳後修飾の必要性を示唆し、これらはペプチド自体によって模倣することはできない。Sykのリン酸化されたCD95ペプチドに対する結合は、一次マクロファージにおいても観察された(図8E)。しかし、dHL−60で得られた結果に反して、本発明者らは、CD95Lでの処理時、結合に差を観察しなかった(図8E)。さらに、CD95の刺激により、dHL−60及び一次マクロファージの両方でSykのリン酸化が増大した(図8F及び図15B)。B細胞において、SFKはB細胞受容体(BCR)の刺激によって活性化され、Sykの活性化につながり、活性化ループのリン酸化によってSFKがさらに活性化され、こうして両分子間で正のフィードバック・ループが形成され得る。CD95とBCRとの予想される類似性を分析するため、本発明者らは、Sykリン酸化に対するSFKの影響をまず調べた。特異的インヒビターPP2でのSFKの阻害は、dHL−60及び一次マクロファージにおいてSyKのCD95L誘発性リン酸化をブロックした(図15B、C)。一次マクロファージにおけるSykのノックダウンも、SFK及びAKTのCD95誘発性リン酸化を無効にした(図8G、H)。合わせると、これらの結果から、SykキナーゼはCD95刺激に際して骨髄細胞におけるPI3Kの上流活性化因子であることが明らかになる。
【0084】
本発明者らは、次に、2チャンバー遊走分析においてin vitroの好中球及びマクロファージのCD95L誘発性移動を研究した(図9A−C)。骨髄由来のネズミ好中球及びマクロファージならびにdHL−60細胞の移動は、CD95Lでの処理によって有意に増加した(図9D−F)。移動の増加は、マトリックス−メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)の活性化の増大を伴った(図9G−I)。したがって、MMP−9及びMMP−2の薬理学的阻害は、CD95L誘発性移動を無効にした(図9J〜L)。さらに、一次マクロファージの基礎移動は、CD95Lの中和後に減少した(図9M)。したがって、外因性及び内因性CD95Lは、in vitroでマクロファージ移動を増加させた。CD95L誘発性移動におけるSykの役割を検討するために、本発明者らは、dHL−60細胞及び一次マクロファージ中のSykをノックダウンした。Sykの発現の減少は、dHL−60(図9N、P)及びマクロファージ(図9O、Q)におけるCD95L誘発性移動を減少させた。したがって、一次マクロファージにおけるSykのノックダウンは、CD95L誘発性MMP−9活性化を無効にした(図9R)。こうしたデータは、CD95Lが好中球及びマクロファージに作用し、Sykによるそれらの移動を増加させることを示す(図9S)。
【0085】
2.2.3骨髄細胞上のCD95Lは、in vivo損傷部位へのそれらの動員に関与する。
【0086】
CD95Lもin vivo末梢骨髄細胞におけるAKT活性化に関与するか検討するために、本発明者らはまず、wt及びCD95L欠損マウスにおけるSCI後のAKTの活性化状態を分析した。脊髄損傷は、wtにおいてAKTリン酸化を誘発したが、CD95L欠損PBCにおいては誘発しなかった(図10A)。in vivoの骨髄細胞におけるCD95Lの役割をさらに分析するために、本発明者らは、好中球及びマクロファージにおけるCD95Lを特に除いた(CD95Lf/f;LysMcre)。骨髄細胞において確認されたCD95Lの欠失は、投薬を受けていない動物又は損傷を受けた動物における血液白血球のパーセンテージ又は絶対数に影響を及ぼさなかった(図16)。これらのマウスにおいて、本発明者らは、Stirling及び共同研究者らによってすでに記載されているように、脊髄の切断損傷後の脊髄中に存在する免疫細胞(CD45+)の数を分析した(図10B)。CD95Lf/f;LysMcreマウスにおいて、主として好中球(CD45:GR−1high)として同定される浸潤性CD45+細胞における有意な減少が観察された(図10C)。好中球の浸潤の減少は、アポトーシス開始のかなり前、損傷6時間後にすでに観察された(図10C)。浸潤性単球/マクロファージ(CD45:CD11b+、F4/80+)もCD95Lf/f;LysMcreマウスにおいて損傷後7日に著しく減少した(図10D)。これらのデータは、SCI後に、CD95Lがパラクリン/オートクリン方式で好中球及びマクロファージに作用し、損傷脊髄へのそれらの動員を可能にすることを示す。損傷部位中への浸潤速度が遅い理由となる好中球成熟におけるCD95Lの考えられる発生上の役割を排除するために、本発明者らはCD95Lを急速に阻害した。以前の研究で、本発明者らはCD95Lに対する中和抗体を使用した(Demjenら、2004)。しかし、これらの抗体のCD95Lを中和する能力は大幅に変動した。したがって、本発明者らは、安定なCD95L中和CD95三量体であるCD95−RB69、ならびに突然変異型であるCD95−(R87S)−RB69(CD95Lと結合不可能)を生成した。突然変異型ではなく、CD95−RB69を全身投与することによって、損傷の24時間後の損傷部位中への好中球の浸潤が減少した(図10C)。したがって、骨髄細胞上のCD95Lはin vivoでの損傷部位への自己動員を誘発する。
【0087】
2.2.4CD95Lの炎症誘発効果は、損傷CNSによって誘発される炎症反応に限定されるのか?
この問題に取り組むために、本発明者らは、自己免疫疾患の機構モデルとしてしばしば使用されるモデルである、チオグリコレートの腹腔内注射により誘発された腹膜炎の動物モデルにおいて免疫細胞の浸潤を調べた(図10E)。CD95Lf/f;LysMcreマウスの腹膜中への好中球浸潤の減少が、チオグリコレート注射2時間後ですでに観察できた(図10F)。好中球の浸潤は、CD95Lf/f;LysMcre及びCD95−RB69処置動物において、それらの各対照と比較して、チオグリコレート注射6時間後で有意に減少した(図10F)。本発明者らは、チオグリコレート注射72時間後の腹膜におけるマクロファージの浸潤をさらに評価した。この時点で、CD95Lf/f;LysMcreマウスは、対照同胞子より浸潤性マクロファージは少なかったが、内在するマクロファージの数に変化はなかった(図10G)。様々な炎症性サイトカインのmRNAレベルは、対照同胞子及びCD95Lf/f;LysMcreマウスのチオグリコレート誘発細胞において同程度であり(図16G)、これは、CD95Lの移動効果がサイトカイン産生と無関係であることを示唆する。加えて、チオグリコレート活性化又はSCI後、アポトーシスを受ける好中球の数は、CD95L活性が欠失したマウス及びそれらの各対照において類似していた(図17)。これらの結果と一致して、CD95欠損lpr(リンパ増殖)又はCD95L欠損gld(全身性リンパ増殖性疾患)マウスから得られる好中球の自然死は、wtマウスにおけるレベルと異ならず(Fecho及びCohen、1998)、特異的拮抗物質でのCD95/CD95L機能のブロックは、好中球の自然死に対して影響を及ぼさなかった(Brown及びSavill、1999)。したがって、先天性免疫応答のCD95L活性化は、サイトカイン産生及びCD95L誘導アポトーシスと無関係であると思われる。チオグリコレート注射後の炎症を起こした腹膜へのマクロファージ動員を、lprマウスにおいても評価した。これらのマウスにおいて、内在するマクロファージの基本数は変化しなかった(図10H)。しかし、チオグリコレート注射72時間後、CD95Lf/f:LysMcreにおいてすでに観察されているように、本発明者らはlprマウスにおいて、それらのwtカウンターパートと比較してマクロファージの浸潤が減少することを観察できた(図10H)。したがって、チオグリコレート誘発性好中球反応は、lpr又はgldマウスと比較してwtマウスにおいて延長されることが示された(Fecho及びCohen、1998)。
【0088】
2.2.5CD95Lは先天性炎症反応に作用して、SCI後の組織損傷を誘発する
本発明者らは、末梢骨髄細胞上のCD95Lが損傷/炎症部位へのその動員を促進するために用いられることを証明した。しかし、CD95L誘発性炎症の排除的中和の長期的結果は何であろうか?この問題に取り組むために、本発明者らは、免疫細胞区画一般又は骨髄区画におけるCD95L発現を有する又は有さない脊髄損傷動物の長期臨床転帰及び病状を調べた。まず、本発明者らは、CD95L欠損(CD95-/-)又は対照として野生型(wt)ドナーマウスから骨髄移植マウス(BMTマウス)、及び致死的な放射線を浴びたwtレシピエントマウス(それぞれBMT−CD95L-/-又はBMT−wtマウス)(図18A)を得た。CD95L-/-マウスは、SCI後の著しい機能回復を不可能にする神経発達における欠陥のために、レシピエントとして使用することができなかった(Demjenら、2004;Zulianiら、2006)。BMT−CD95L-/-マウスは、損傷誘発レベルが最大の時点で、CD95L mRNAレベルが4倍減少し、脊髄組織におけるカスパーゼ活性が有意に減少した(図18B、C)。BMT−CD95L-/-マウスにおいて、損傷11週後のNeuN及びCNPase免疫反応性は、BMT−wtマウスよりも高く、これは、BMT−CD95L-/-マウスにおいてニューロン及び乏突起膠細胞が救済されることを示す(図18D、E)。こうした結果は、免疫細胞がSCI後のCD95Lの主な供給源であり、免疫細胞区画中にCD95Lが存在しないことにより、ニューロン及び乏突起膠細胞が保護されることをはっきりと示している。CD95L誘発性炎症の長期結果を評価するために、BMT−CD95L-/-マウス及びそれらの各対照を、従来使用された背面80%切断又は臨床的により関連性のある脊髄圧挫損傷のいずれかに付した(Demjenら、2004;Plemelら、2008)。マウス運動能力を、水泳試験において(Demjenら、2004)及びBasso Mouse Scale(BMS)スコアを用いてオープンフィールドにおいて(Bassoら、2006)、10〜11週間、毎週1回評価した。脊髄の圧挫損傷又は切断後、神経学的欠損の程度は、BMT−wtマウスと比較して、BMT−CD95L-/-マウスにおいて有意に減少した(図18F、G)。
【0089】
次いで、本発明者らは、好中球及びマクロファージにおいてCD95Lの排他的欠失を有するマウス(CD95Lf/f;LysMcre)及びそれらの対照同胞子でSCIを実施した。重要なことには、切断損傷後、脊髄CD95L mRNAレベルは、損傷の24時間後のCD95Lf/f;LysMcreマウスで大きく減少し、これは、浸潤性骨髄細胞がCD95Lの主な供給源であることをさらに証明する(図11A)。加えて、損傷の3日後、CD95Lf/f;LysMcreマウスの脊髄におけるカスパーゼ3活性は、対照同胞子よりも低く、第7日で有意性に達した(図11B)。一貫して、損傷の11週間後、CD95Lf/f;LysMcreマウスは、それらの各対照と比較して、生存するニューロン及び乏突起膠細胞の数が増大した(図11C、D)。さらに、骨髄区画におけるCD95Lの欠失によって、BMS並びに水泳試験において脊髄に対する圧壊又は切断損傷のいずれかの後の機能回復が高くなった(図11E、F)。T細胞由来のCD95Lの起こり得る作用を分析するために、CD95Lf/f;LCKcreマウス及び対照同胞子は脊髄に圧挫損傷を受けた。CD95Lf/f:LysMcreマウスとは異なり、SCI誘発性神経学的欠損は、CD95Lf/f;LCKcre及びそれらの各対照において匹敵していた(図19)。したがって、本発明者らは、ニューロン及び乏突起膠細胞の死を誘発し、ひいてはSCIの発病に関与する好中球及びマクロファージを、CD95Lの主な供給源として明確に同定した。
【0090】
2.2.6CD95Lの中和後の炎症性環境の特性化
CD95Lの中和は、好中球及びマクロファージの損傷脊髄への浸潤を減少させ、運動機能の長期回復に至る。したがって、骨髄細胞上のCD95Lの中和による炎症の調節は、脊髄損傷動物の機能回復を早める、制御された炎症反応を引き起こす。骨髄細胞上のCD95Lの中和によって調節される分子事象を特徴づけるため、本発明者らは、切断損傷の24時間後の脊髄において、CD95Lf/f;LysMcreマウス及びそれらの同胞子カウンターパートの遺伝子特性を調べた。この早い時点ですでに、CD95Lf/f;LysMcreマウスにおいて器官形成、発生及び神経発生をはじめとする再生過程が始動する(図20A)。同様に、アポトーシスに関与する遺伝子の発現は、CD95Lf/f;LysMcreマウス又はCD95−RB69処置マウスにおいて、それらの各対照と比較して減少した(図12A、B)。これ以外に、骨髄細胞におけるCD95Lの欠失又はCD95−RB69処置マウスにおけるCD95Lの中和の結果、免疫反応に関与する遺伝子が下方調節された(図12A、B)。観察される炎症遺伝子の下方調節を、qRT−PCRによってさらに検証した(図12C及びデータ不掲載)。重要なことには、これらの下方調節された炎症性サイトカインのうち、IL−6、IL−1又はCXCL10の中和は、SCI後の機能回復を早めることが報告されている(Akuzawaら、2008;Gonzalezら、2007;Okadaら、2004)。興味深いことに、SCIの24時間後、65.2%の遺伝子が、骨髄細胞上に遺伝子のCD95Lの欠失を有する群(CD95Lf/f;LysMcre対CD95Lf/f同胞子)と、CD95Lの薬理学的阻害を有する群(CD95−RB69処置マウス対ビヒクル処置マウス)とで共通して調節され、これは、この時点で、遺伝子特性が免疫細胞区画におけるCD95Lの排他的欠失によることを意味する(図12D)。さらに、本発明者らは、SCIの24時間後の以下の動物とそれらの各対照カウンターパートとのデータセットを比較した:CD95Lf/f;LysMcre、CD95L-/-及びCD95−RB69処置マウス。CD95Lf/f;LysMcre動物に対し、後者の2群において、内在する脊髄細胞から誘導されるCD95Lも標的とされる。本発明者らの3つのマイクロアレイデータセットの複合マイクロアレイの統計的メタ分析に関して、Bioconductor(http://bioconductor.org)から得た遺伝子Metaパッケージを適用した。この分析により、各遺伝子についての差次的発現の程度が推定され、同時に各実験と動物のバックグラウンドとの差の検出についての根拠も得られる。これらの3つのデータセットの比較によって、損傷の24時間後の脊髄において、一貫して有意に差別的に調節された612の遺伝子の検出が可能になった(図12E及び図20B)。CD95L阻害の部位に関係ない共通遺伝子特性の同定は、CD95L誘発性損傷の一次的原因が先天的炎症反応の活性化であることを意味する。
CD95L誘発性炎症の組織損傷対直接的CD95L誘発性アポトーシスに対する寄与を最終的に評価するため、本発明者らは、内在する神経系細胞でCD95が欠失したマウス(CD95f/f:NesCre)及びそれらの同胞子対照(CD95f/f)におけるカスパーゼ活性を調べた。カスパーゼ−3活性の程度に関して、2群間で差異はなかった(図12F及び図21)。このデータは、SCI後のCD95Lの有害な機能は、CD95を有する内在する神経脊髄細胞の直接的アポトーシスではなく、先天的炎症反応に対するその影響によるものであることを示す。
【0091】
2.2.7考察
本発明者等の実験結果から、骨髄細胞上のCD95L/CD95のSyk/AKT/MMP経路による炎症部位へのその動員を媒介する新規機構が明らかになる。本発明者らは、CNS損傷が、齧歯類及びヒトにおける骨髄細胞上のCD95L/CD95系の発現を増大させることを示す。この系は、チオグリコレート注射後の炎症を起こした腹膜への骨髄細胞の動員にも関与する。さらに、本発明者等は、CD95Lの中和が、SCI後の運動機能の回復を促進する炎症反応を生じさせる炎症細胞の初期浸潤を減少させることを示す。
【0092】
CD95L:炎症のメディエータ
90年代中頃まで、アポトーシスは炎症を誘発しないという定説が科学界では根強かった。CD95Lは、T細胞の活性化誘導細胞死(AICD)を誘発することによって炎症を消散させると一般的に考えられていた。(Griffithら、1995;Griffithら、1996;Nagata、1999)。この考えに沿って、眼及び睾丸中の細胞によるCD95Lの構成的発現は、これらの器官の免疫特権状態の一因となると考えられた(Griffithら、1995;Griffithら、1996)。様々な腫瘍集団による構成的CD95L発現が免疫回避につながることがさらに示唆された(Hahneら、1996;O’Connellら、1996;Strandら、1996)。これらの発見に関して、研究者らはCD95Lの強制発現が同種移植片を拒絶反応から効果的に保護し得ると主張した。意外にも、CD95Lを発現するように遺伝子操作されたほとんどの細胞型及び組織は、好中球により破壊される(Allisonら、1997;Kangら、1997;Seinoら、1997)。このデータは、CD95Lの化学誘因物質としての役割を意味する。あるいは、CD95Lはメタロプロテイナーゼにより細胞の表面から速やかに除去され、血液へ放出されたCD95Lは末梢骨髄細胞上のCD95と結合することができ、操作された組織の場合にはその動員の引き金となることが知られている。自己免疫疾患におけるCD95Lの類似した役割についての間接的証拠は、lpr突然変異が実験的自己免疫脳脊髄炎及びコラーゲン誘発性関節炎のマウスにおいて疾患の徴候を改善するという事実により得られる(Hoangら、2004;Maら、2004;Sabelkoら、1997)。したがって、炎症を起こした腹膜におけるマクロファージの動員は、lpr動物では、それらの対照カウンターパートよりも低かった。しかし、lpr突然変異の結果生じる基礎リンパ球増殖性疾患は、この種に関する炎症の研究を妨害し、炎症細胞の特定のサブセット上のCD95/CD95Lの条件付き除去によってのみ対処されうる。ここで、本発明者らは骨髄細胞上のCD95Lの排他的欠失が、腹膜炎及び脊髄損傷の動物モデルにおける先天性炎症反応を改善することを証明した。したがって、炎症性サイトカイン及びケモカイン、たとえばIL−1β、IL−6、CXCL10及びCCL6は、骨髄細胞においては、それらの対照カウンターパートと比較すると、CD95Lが欠失したマウスの損傷脊髄において下方調節された。大半の炎症性サイトカインは、軸索伝導を損ない、損傷後の炎症反応を増幅させ、かくしてさらに組織損傷を誘発することが報告されている(Schnellら、1999;Yangら、2004)。一貫して、IL−6、IL−1又はCXCL10の中和は、SCI後の機能回復を改善することが報告されている(Akuzawaら、2008;Gonzalezら、2007;Okadaら、2004)。
循環好中球の役割を研究するために、それらの消耗、好中球関連タンパク質分解酵素活性の阻害又は好中球接着の阻害をテーマにする従来の方法は、好中球機能の完全な排除に至らず、結果として、脊髄損傷マウスの完全な運動回復をもたらした(Trivediら、2006)。SCI前のLy6/Gr1抗体による好中球の完全な消耗を示す最近の研究は、IL−6を含むいくつかの炎症性サイトカインのレベルの上昇及び消耗動物のSCI後の臨床転帰の悪化を報告している(Stirlingら、2009)。したがって、好中球の完全な抑止は、炎症反応を増幅すると思われる。好中球及びマクロファージが、組織損傷に寄与するだけでなく、損傷部位の清浄化、細菌感染の制限及び創傷治癒の促進においても重要な役割を果たすことは注目に値する。本発明者らの研究において、CD95Lの中和は、浸潤性好中球及びマクロファージを完全に抑止することなく減少させた。結果として生じた炎症を経験することは有用であり、むしろCD95Lのない炎症細胞を有するという事実は、今後の研究課題として残っている。少なくとも、神経系細胞においてCD95の排他的欠失を有するマウスはアポトーシスから保護されなかったことから、浸潤性炎症細胞上のCD95Lは、CD95を有する細胞のアポトーシスの直接的誘発に対してさらなる役割を有さないと考えられる。
【0093】
SYK/PI3K/MMP経路によるCD95シグナル炎症
本発明者らは以前に、CD95Lが、PI3K/β−カテニン/MMP経路によってグリア芽腫モデルにおける浸潤を誘発することを示した(Kleberら、2008)。一次好中球及びマクロファージにおいて、CD95刺激は、AKTのリン酸化、MMP−9の活性化、及び最終的には移動の増加につながる。MMP−2及びMMP−9の薬理学的阻害は、CD95Lによって誘発される移動をブロックし、このことは、MMPがCD95L誘発性移動にきわめて重要であることを証明する。一次マクロファージにおいて、中和抗体によるCD95Lのブロックは、基礎移動の減少につながり、CD95Lがこれらの細胞の移動に必要であることを指摘する。しかし、CD95はどのようにしてPI3K活性化を誘発するのであろうか?1996年に、Atkinson及び共同研究者らは、CD95と、T細胞におけるSrcファミリーメンバーFynである非受容体型チロシンキナーゼとの物理的相互作用を初めて報告した(Atkinsonら、1996)。彼らはさらに、免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)に似たCD95のデスドメインに位置する高度に保存されたチロシン含有YXXLモチーフの存在を記載した。6年後、Daigle及び共同研究者ら(Daigleら、2002)は、一次好中球におけるCD95の刺激は、このモチーフのリン酸化をもたらし、ひいてはSH2ドメイン含有タンパク質のドッキング部位として働くことを示した。受容体のリン酸化は、非受容体型チロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバー(SFK:Src、Fyn、Yes、Lck、Hck及びLyn)によって決定されると考えられる(Atkinsonら、1996)。YXXLモチーフがリン酸化されると、他のSH2含有タンパク質キナーゼ又はホスファターゼは、潜在的に結合し、下流シグナリング経路の活性化を開始することができる。ここで、本発明者らは、骨髄細胞上のCD95のCD95L刺激はSykを活性化し、さらにPI3K/MMPシグナリングにつながることを示す。したがって、PI3K又はSykをブロックすることは、免疫細胞の移動を阻害することが証明された(AIiら、2004;Boulvenら、2006;Frommholdら、2007;Schymeinskyら、2007)。この発見による、さらに大きな影響が考えられる。Sykは、ITAMとカップリングした活性化受容体による炎症反応、プロ炎症性結晶に媒介される炎症反応及びインフラマソームの活性化の重要な活性化因子として知られている(Grossら、2009;Schymeinskyら、2006)。最近、Sykインヒビターは、炎症性疾患において有用な臨床的効果を示し、これは少なくとも部分的にCD95受容体を含み得る(Pineら、2007;Weinblattら、2008)。
【0094】
CD95誘発性アポトーシス対CD95誘発性炎症
細胞死の調節は、CD95の最もよく知られている機能の1つであるが、これはシグナル変換経路を活性化することもでき、プロ炎症反応の誘発に至る(Baud及びKarin、2001)。アポトーシス前マクロファージ及び好中球は、炎症反応の誘発に関与する、MCP−1及びIL−8などの炎症性サイトカインを放出することができる。Hohlbaum及び共同研究者らは、アポトーシス前腹膜マクロファージはMIP−2、IL−1β、MIP−1α、MIP−1βを産生し、続いて、好中球溢出が起こることを示した(Hohlbaumら、2001)。しかし、チオグリコレート活性化又はSCIの後、アポトーシスを受ける好中球の数は、CD95L活性が欠失したマウス及びそれらの各対照において類似していた。さらに、内在する腹膜マクロファージの数は、骨髄細胞においてCD95Lが欠失したマウスとそれらの対照とで差異が無かった。したがって、先天性免疫応答のCD95L活性化は、CD95L誘発性アポトーシスと無関係と思われる。
損傷骨髄におけるニューロン及び乏突起膠細胞の死は、直接的CD95誘発性死によるか、又はむしろCD95惹起性炎症によるのか?好中球は、CD95系によって同時培養系においてバイスタンダー細胞を死滅させられることが示されている(Brown及びSavill、1999;Serraoら、2001)。さらに、食作用は、CD95Lのマクロファージ放出の引き金となり、バイスタンダー細胞の細胞死を誘発することができる。加えて、Michael Fehlingsのグループの最近の研究によって、CD95Lは、CD95が媒介するアポトーシスシグナリングの内因性経路及び外因性経路の両方によって乏突起膠細胞の細胞死を直接誘発することができることが示された(Austin及びFehlings、2008)。しかし、これらのデータは全てin vitro研究によって提供された。この問題にin vivoで正しく取り組むため、本発明者らは、胚発生中のCNS内在神経系細胞におけるCD95受容体を特異的に欠失させ、SCI後のカスパーゼ−3活性を評価した。興味深いことに、CNS区画におけるCD95発現は、損傷脊髄におけるアポトーシスレベルに影響を及ぼさないように思われる。加えて、脊髄損傷動物の遺伝子特性を、骨髄区画におけるCD95Lの薬理学的、偏在的又は排他的阻害のいずれかと比較すると、高い類似性が明らかになり、これは、少なくともSCI後の急性期内での、CD95Lの主な役割が炎症の誘発であることを示す。合わせると、これらのデータは、CD95Lが従来考えられた直接的アポトーシス機構によるのではなく、炎症誘発性機構によってニューロン及び乏突起膠細胞を死滅させることを示唆する。結果、CD95Lに対する中和剤は、CNS中に局所投与する必要はないが、診療補助者により損傷直後に全身適用することができる。さらに、CD95/CD95L系の中和は、炎症性疾患一般の候補療法と考えられる。
【0095】
3.メタ分析による重要な遺伝子の同定
異なる作用モードを使用した研究でCD95L阻害を有する又は有さない動物間の遺伝子の有意な差次的発現を検出するために、本発明者らはChoi及び共同研究者らによって記載されるようなメタ分析法を適用した(Choiら、2003)。全ての研究iにおける各遺伝子について、CD95L阻害を有する動物と対照群の動物との標準化された平均差を、エフェクトサイズとして計算したdi=(Xai−Xci)/Spi(式中、Xai及びXciは、それぞれCD95L阻害を有する動物群と対照群の平均を表し、Spiはプールした標準偏差である。検定統計量Qを使用して、固定効果モデル(FEM)又は変量効果モデル(REM)が異なる研究の有効サイズを組み合わせるためにより適切であるか判断した。FEMは、異なる研究で観察されるエフェクトサイズ(ここでは、標準化平均差)は同じ分布の試料であると仮定する。REMは、各エフェクトサイズが研究に特異的なパラメータを有する分布から得られると仮定することによって、研究間の差を説明する。研究間のエフェクトサイズの差がサンプリング誤差のみによると仮定すると、Qの値は、χ2分布にしたがって分配される。Qの分布を調べ、REMの方が適切であると判断した(データは不掲載)。
【0096】
Choi及び共同研究者らによって記載されているように平均エフェクトサイズを推定するために、研究に特異的なエフェクトサイズを次に組み合わせた(Choiら、2003)。エフェクトサイズ推定値を所与の閾値と比較し、ランダム置換によって得られる実験的ゼロ分配に基づく過誤率(FDR)の概念を用いて統計的有意性を推定することにより、遺伝子を選択した。(Choiら、2003).
4.物質及び方法に関するさらなる資料
4.1試薬及び抗体
本発明者等は、RPMI1640培地(#21875−091)、ペニシリン/ストレプトマイシン(#15140−163)、L−グルタミン(#25030024)及び55μMのβ−メルカプトエタノール(#31350)をInvitrogen(独国カールスルーエ)から購入した。ウシ胎仔血清(FCS、#S0115)をBiochrom(独国ベルリン)から購入した。
以下の抗体をフローサイトメトリー実験に使用した:Fitc接合抗マウスLy6G mAb(BD#551460)、PE接合抗マウスF4/80 mAb(Caltag#MF48004)、PE接合ラットIgG2a mAB(アイソタイプ対照、BD#553930)、PercP−Cy5接合抗マウスCD45.2mAb(BD#552950)、Fitc接合抗マウスCD45.1mAb(BD#553775)、PeCy7−又はAPC接合抗マウスCD3 mAb(BD、APC#553066、PeCy7#552774)、Alexa−680−又はAPC接合抗マウスCD11b mAb(BD、Alexa680#RM2829、APC#553312)、APC接合抗マウスGR−1 mAb(BD#553129)、APC−Cy7接合抗マウスCD19 mAb(BD#557655)、ビオチン接合抗マウスCD95L mAb(BD#555292)、ビオチン接合ハムスターIgG mAb(アイソタイプ対照、BD#553970)、ストレプトアビジン−APC(BD#349024、1:50)、マウス抗ヒトCD95L(NOK−2、BD#556375)、抗マウスAPC(BD#550826)、マウスlgG2κ(Acris#AM03096PU−N)、Fitc接合抗ヒトCD66b(BD#555724)、PE接合pAKT(BD#560378)及びPE接合IgG(BD#554680)。特に別段の記載がない限り、BDからの抗体全ては、1:100の希釈度で使用した。
【0097】
4.2骨髄移植
共通遺伝子型マーカーCD45.1を有するレシピエントマウス(4〜6週齢)に、450radで2回、3時間間隔で致死的な放射線を照射して、それら自身の骨髄(BM)を枯渇させた。増強した緑色蛍光タンパク質を偏在的に発現するオスマウス又は共通遺伝子型マーカーCD45.2を有するwt及びCD95L-/-メスマウスいずれかの大腿骨及び脛骨から骨髄細胞(BMC)を単離した。最終照射の3時間後、レシピエントマウスの尾静脈中に4〜6×106細胞を注射した。マウスを特別の病原体のない施設に入れて、感染を防止するためにアモキシシリン(1mg/ml)を含む飲料水を与えた。移植の8週間後、CD45.1及び2に対する抗体並びに異なる免疫細胞集団の抗体を用いて、フローサイトメトリーにより骨髄再構成をチェックした。再構成が90%より低いマウスをさらなる研究から除いた。
【0098】
4.3フローサイトメトリー
骨髄、腹膜、血液又は脊髄組織由来の細胞を染色した。脊髄組織由来のマウス細胞を準備するために、動物をHBSSで灌流し、器官から血液を除去した。次いで、脊髄(損傷部位周辺1cm)を単離し、37℃でシェーカー上サーモリシン(0.5mg/ml、Sigma#T−7902)中に3時間溶解させた。組織をさらに10分間トリプシン0.5%EDTA(Invitrogen#25300096)中でインキュベートし、Pasteurピペット及び40μm細胞ストレイナー(BD#352340)を10回通過させることによって最終的に均質化した。
【0099】
この均質化フラクションに関して染色を実施した。
全染色について、細胞をFACS緩衝液(PBS、0.2%NaN3)中に再懸濁させ、Fcブロック中で10分間プレインキュベートした後、各抗体を用いて30分間氷上で染色した。細胞内染色のために、血液試料をEry Lysis後に4%PFAで固定し、メタノールで透過処理した後、染色した。試料をFACSCantollフローサイトメーター(BD)にかけ、FACSDiva(BD)ソフトウェア又はFlowJoソフトウェアを用いて分析した。脊髄組織由来の細胞に関して行われた全FACS分析について、1,000,000例が数えられた。
【0100】
4.4免疫細胞型同定
全組織分析に関して、好中球は、CD45陽性、GR−1高陽性及びそれらに特徴的な前方向(FSC)及び側方散乱(SSC)特性と認定された。マクロファージは、CD45高陽性、CD11b陽性及びF4/80陽性と認定された。時間動特性分析において、全ての免疫細胞型は、この段落に記載するのと同じマーカーによって同定された。しかし、eGFP BMTマウス中の造血細胞はGFP陽性であり、したがってC造血細胞がD45陽性によって追跡される全ての他の研究に対して、事前に抗体染色をすることなくFITCチャンネル中に出現した。T細胞はCD3陽性と認定された。内在する小膠細胞もCD45を低レベルで発現することが知られている。しかし、本発明者らは、LysMcre系の小膠細胞集団においてcre組換えの徴候を見いだすことができず(データは不掲載)、これは、この細胞集団が一時的に影響を受けないことを示す。加えて、フローサイトメトリーによるCD45の検出は、CNSに内在する小膠細胞(CD45低)と浸潤性マクロファージ(CD45高)との識別を可能にした。
骨髄又はチオグリコレート誘発性腹膜炎から誘導される細胞に関して、本発明者らはLy6G mAbを用いて好中球を特徴づけた。
【0101】
4.5脊髄組織のプロセッシング
手術後の記載された時点で、動物を、過量のRompun及びKetanestを腹腔内(i.p.)使用して深く麻酔し、HBSS(RNA及びタンパク質ならびに組織摘出のため)又はHBSS及び4%PFA(免疫組織化学及び蛍光のため)で経心的灌流によって屠殺した。実験に応じて、損傷部位周辺の0.5cm切片(カスパーゼ−3活性分析)、1cm切片(浸潤分析)又は2.5cm切片(マイクロアレイ)を摘出した。
【0102】
4.6チオグリコレート誘発性腹膜炎
チオグリコレート誘発性腹膜炎に関して、1mlの3%チオグリコレートブロス(Fluka#70157)を、CD95Lf/f;LysMcre+及びCD95Lf/fマウス又はCD95−RB69で急速に処置されたwtマウス又はその各対照に腹腔内注射した。このモデルにおいて、好中球は最初の数時間以内に腹膜の浸潤を開始し、一方、マクロファージ浸潤は72時間でピークに達することが知られている。表示された時間で、マウスを屠殺し、血液試料を集め、腹腔を、0.25%ウシ血清アルブミン(Roche#10735094001)を含む滅菌Hanks液(HBSS;Invitrogen#14170−138)10mlで洗浄した。全細胞計数をNeubauer血球計数器(Brand)で実施し、鑑別細胞計数をフローサイトメトリーにより実施した。結果を、好中球又はマクロファージの絶対数×105/腔として表す。実施した全ての実験に関して、血液免疫細胞集団を適切な細胞マーカーにより分析した。
【0103】
4.7活性化MMPについてのゼラチンザイモグラフィー
異なる量のCD95L−T4で処理された好中球、dHL−60又はマクロファージからの無細胞上清におけるMMP活性を、すでに記載されているように、ゼラチナーゼザイモグラフィーによって測定した。手短に説明すると、好中球をCD95L−T4(10及び20ng/ml)で6時間処理し、dHL−60をCD95L−T4(10、20及び40ng/ml)で6時間処理し、マクロファージをCD95L−T4(10、20及び40ng/ml)で24時間処理した。電気泳動及びゲルのTriton X−100(2.5%v/v、30分間2回)(Sigma#X−100)による洗浄後、ゲルをMMP反応緩衝液[50mmol/LのTris−HCl(pH7.8)、200mmol/LのNaCl、5mmol/LのCaCl2]中、37℃で16時間インキュベートした。Coomassie Brilliant Blue G−250溶液で染色し、脱染溶液(10%酢酸、20%メタノール)中でインキュベートして、ゼラチン分解活性を透明バンドとして検出した。データは少なくとも2回の独立した実験を代表するものである。
【0104】
4.8アネキシン−V染色によるアポトーシス細胞の分析
アネキシン−V染色を、腹腔滲出液又は損傷脊髄のいずれかに由来する好中球集団に関して実施した。適切なマーカー並びに特徴的なFSC及びSSCを使用した好中球集団上での通門後、アネキシン−V陽性細胞のパーセンテージを、製造業者のプロトコル(Calbiochem#CBA060)にしたがってフィコエリトリン接合アネキシン−Vを用い、決定した。
【0105】
4.9ネズミ好中球の単離及び培養
骨髄好中球は、マウスの大腿骨から、骨をPBS/2mMのEDTAでフラッシュすることによって単離した。集めた骨髄細胞をACK緩衝液(150mMのNH4Cl、10mMのKHCO3、1mMのNa2EDTA、pH7.3)中に再懸濁させ、1分間インキュベートして、赤血球を溶解させた。製造業者のプロトコル(Miltenyi、#130−092−332)にしたがい磁気ビーズによってMACS陽性選択を用いて好中球選択を実施した。好中球を培地中に加え、さらなる実験に使用するまで2時間放置した(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1%55μMのβ−メルカプトエタノール、10%FCS、1%のL−グルタミン、10mMのHepes、1%非必須アミノ酸、1%ピルビン酸ナトリウムを添加したRPMI1640)。FACSによって評価した好中球の純度は、>96%に達した。in vivo活性化好中球を、マウスの腹腔を3%チオグリコレート注射の6時間後に洗浄することによって単離した。
【0106】
4.10CD11b+細胞の細胞単離
骨髄細胞をすでに記載したようにして単離した。CD11b選択を製造業者のプロトコル(Miltenyi#130−092−333)にしたがって実施した。
【0107】
4.11マクロファージの一次細胞培養及びトランスフェクション
骨髄由来のマクロファージ(BMDM)を得るために、大腿骨及び脛骨を左右対称に集め、PBS/2mMのEDTAを充填したシリンジを用いて骨髄コアをフラッシュした。細胞を磨砕し、ACK緩衝液を用いて赤血球を溶解させた。培地中で1回洗浄した後、細胞を播種し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1%55μMのβ−メルカプトエタノール、10%FCS、1%L−グルタミン、1%非必須アミノ酸、1%ピルビン酸ナトリウム及びマクロファージコロニー刺激因子分泌L929細胞の20%上清(sL929;Tobias Haas博士から寄贈)を添加したRPMI1640中で培養した。sL929は骨髄細胞をマクロファージ表現型にする(7〜10日)。第1日に非接着性細胞を集め、さらに培養した。4日後、新鮮な培地を添加して、細胞成長を増強した。収穫時に、95±0.7%の細胞はマクロファージであった(CD11b及びF4/80免疫染色によって評価)。添加培地を刺激当日にRPMI/10%FCSと置換し、細胞型全てについて同じ培地中で刺激を実施した。
一次マクロファージのトランスフェクションは、リポフェクタミン(Invitrogen#11668019)を含む培地中、製造業者のプロトコルにしたがって第8日に実施した。手短に説明すると、リポフェクタミン2000を用いてマクロファージをマウス600pmolのSyk siRNA ON−TARGET+SMARTpool siRNA又は非標的SMARTpool siRNAでトランスフェクトした。48時間後、Sykノックダウンをウェスタンブロットによって評価した。同時に、細胞をCD95L−T4で刺激し、移動、MMP−活性又はウェスタンブロットについて24時間後に分析した。
【0108】
4.12dHL−60細胞の細胞培養及びトランスフェクション
ヒト骨髄HL−60細胞系(ACC3)はLucie Doerner博士から寄贈された。HL−60細胞のPMN様分化及びエレクトロポレーションプロトコルについてはすでに記載されている。簡単に説明すると、HL−60細胞を1,3%のDMSOの存在下で6日間分化させた後、タンパク質分析に使用した。dHL−60細胞のエレクトロポレーションを第4日に実施した。エレクトロポレーションのために、RPMI中dHL−60(1×107細胞/mL)の400μLアリコートを、0.4cm電極を有するGene Pulserキュベット(Bio−Rad(カリフォルニア州ハーキュリーズ))に移し、600pmolのSyk siRNA ON−TARGET+SMARTpool siRNA又は非標的SMARTpool siRNAと混合した。細胞を10分間、室温(RT)にてインキュベートし、310V及び1175μFFのエレクトロポレーションパルスに付した(Gene Pulser Biorad(独国ミュンヘン))。エレクトロポレーションの48〜72時間後、Sykノックダウンをウェスタンブロットによって評価した。同時に、細胞をCD95L−T4で刺激し、移動について4時間後に分析した。
【0109】
4.13SH2アレイ
Transsignal SH2 Domain Array(Panomics)を製造業者の指示に従って実施した。全細胞溶解物のハイブリダイゼーションのために、細胞を前記のようにして集めた。次いで溶解物を5μgの抗CD95抗体Jo2−ビオチンとともにインキュベートし、続いてSH2アレイ膜にハイブリダイズした。洗浄後、アレイをストレプトアビジン−HRPとともにインキュベートし、現像した。
【0110】
4.14ウェスタンブロット
タンパク質抽出及び免疫ブロッティングをすでに記載されているようにして実施した。膜を次の抗体:リン酸化AKT(p−Ser473−AKT、1:1000、細胞シグナリング#9271)、全AKT(t−AKT、1:1000、細胞シグナリング#9272)、リン酸化Src(p−Src Tyr416、1:1000、細胞シグナリング#2101)、全Src(1:1000、細胞シグナリング#2108)、リン酸化されたSyk(pSyk Tyr319/352、1:1000、細胞シグナリング#2701)、全Syk(1:1000、細胞シグナリング#2712)でプローブした。
【0111】
4.15免疫沈降
少なくとも1×107細胞を10ng/ml(好中球)又は20ng/ml(マクロファージ)のmCD95L−T4で5分間、37℃で処理し、又は未処理で放置し、PBS+ホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β−グリセロールホスフェート(それぞれ10mM)及び1mMのオルトバナデート)中で2回洗浄し、続いて緩衝液A[(20mMのTris/HCl、pH7.5、150mMのNaCl、2mMのEDTA、1mMフェニルメチルスルフォニルフルオリド、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche#11836145001)、1%Triton X−100(Sigma、X−100)、10%グリセロール、及びホスファターゼインヒビター(NaF、NaN3、pNPP、NaPPi、β−グリセロールホスフェート(それぞれ10mM)及び1mMオルトバナデート)]中で溶解させた。タンパク質濃度は、BCAキット(Pierce#23225)を用いて測定した。500μgのタンパク質を、5μgの抗CD95Ab Jo2(BD#554255)及40μlのタンパク質A Sepharose(Sigma#P3391)又は対応するアイソタイプ対照(BD#554709)のいずれかを用いて一夜免疫沈降させた。ビーズを20体積の溶解緩衝液で5回洗浄した。免疫沈降物を50μlの2×Laemmli緩衝液と混合し、15%SDS−PAGE上で分析した。続いて、ゲルをHybondニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech#RPN203D)に移し、5%PBS/Tween(PBS+0.05%Tween20)中ミルクで1時間ブロックし、一次抗体とともに5%PBS/Tween中ミルク中、4℃で一夜インキュベートした。製造業者のプロトコルにしたがって化学発光法を用いてブロットを現像した(PerkinElmer Life Sciences(独国ロートガウ))。Mareike Becker博士の好意により提供された、CD95L感受性の高いマウス胸腺腫細胞(E20)を、FADD動員を分析するための陽性対照として含めた(抗FADDマウスモノクローナルAb、クローン1F7、Millipore#05−486)。
【0112】
4.16ペプチド競合実験
CD95−チロシン283をそのリン酸化形態及び非リン酸化形態で含むビオチニル化ペプチド並びにスクランブルペプチドを、DKFZペプチド合成施設によって製造した。簡単に説明すると、50μMのペプチドを500μgの全タンパク質溶解物と一夜4℃でインキュベートし、置換し、内因性タンパク質複合体とのモル濃度競合によって結合させた。形成されたペプチド−タンパク質複合体を、40μlのモノマーアビジンビーズ(Thermo Scientific、#20228)で1〜2時間、4℃にて沈殿させ、1mlのIP溶解緩衝液で5回洗浄した。洗浄後、ビーズを40μlの2×Laemmli緩衝液中に再懸濁し、沈殿物をSDS−PAGE及びウェスタンブロッティングによって分析した。
【0113】
4.17カスパーゼ−3様活性分析
SCI後のカスパーゼ−3活性を測定するために、脊髄(損傷部位付近0.5cm)を切開し、10倍量の溶解緩衝液(250mMのHEPES、50mMのMgCl2、10mMのEGTA、5%のTriton−X−100、100mMのDTT、10mMのAEBSF、pH7.5)中で均質化した。試料を10分間12,000gで遠心分離した。アポトーシスは、カスパーゼ−3の増大した活性と平行して起こる。したがって、特異的カスパーゼ基質Ac−DEVD−AFC(Biomol)の切断を用いて、アポトーシスの程度を判定した。Ac−DEVD−AFCは、いくつかのカスパーゼによって切断することができるが、カスパーゼ−3、カスパーゼ−7及びカスパーゼ−8は、この基質に関して圧倒的に強力な特異性を示す。
カスパーゼ活性分析のために、20μlの細胞溶解物を黒色96穴マイクロタイタープレートに移した。50mMのHEPES、1%スクロース、0.1%CHAPS、50μMのAc−DEVD−AFC、及び25mMのDTTを含有する緩衝液(pH7.5)80μlを添加した後、プレートをTecan Infinite F500マイクロタイタープレートリーダーに移し、蛍光強度の増大をモニタリングした(励起波長400nm、発光波長505nm)。AFC検量曲線を用いて試料の基質切断を定量的に測定する。結果をpmol/分/μgタンパク質で表す。
【0114】
4.18移動分析
骨髄由来の好中球又はマクロファージの移動を、2チャンバー移動分析においてin vitroで評価した。トランスウェル挿入物[好中球又はマクロファージについて、それぞれ3μM(BD#353096)又は8μM(BD#353097)孔サイズ]をマトリゲル(50μg/ml;BD#354234)でコーティングした。5×105の好中球、1×106のdHL60又は2×105のマクロファージを上側のチャンバー上500μlの培地中で播種した。細胞を未処理のまま放置し、又は10、20及び40ng/mlを上側のチャンバーに添加することにより、CD95L−T4(操作されたMus musculus CD95L(Kleberら、2008))で処理した。移動した細胞の数を、好中球については治療後3時間、dHL−60については治療後4時間、マクロファージについては治療後24時間に、血球計を用いて計数した。マクロファージのCD95L誘発性移動を、CD95Lに対する中和抗体(MFL3、10μg;BD#555290)又は適切なアイソタイプ対照(IgG、10μg;BD#554709)を用いることにより、マクロファージの基礎移動をブロックすることによって分析した。移動分析のデータは、少なくとも4回の独立した実験で、条件ごとに6回の技術的再現を行ったものを代表するものである。
メタロプロテイナーゼの好中球及びマクロファージ動員に対する役割を、MMP−2/9の選択的インヒビターを用いて調べた。好中球、dHL−60及びマクロファージをMMP−2/9インヒビター(50μM;Calbiochem#444251)とともにCD95L−T4処置の30分前にプレインキュベートし、移動した細胞の数をすでに表示した時間で計数した。
【0115】
4.19組織プロセッシング、免疫組織化学及び定量化
実験に応じて、SCI後9〜11週に、HBSS及び4%パラホルムアルデヒド(PFA)を使用して、マウスを経心的に灌流した。脊髄を切開し、4%のPFA中、4℃で一夜後固定し、パラフィン包埋のために処理した。パラフィンブロックをミクロトーム上にマウントし、8〜10μMの横断切片に切り出した。免疫組織化学に関して、切片を0.2%のTriton−X 100でRTにて透過処理し、血清を用いて非特異的結合のブロックを実施した。染色後、スライドをMowiolとともにカバースリップで覆い、RTにて一夜乾燥し、4℃で保存した後、Olympus顕微鏡を用いて分析した。全ての免疫組織化学染色において、非特異的結合を評価するための陰性対照としてスライドの1つを使用した。ニューロン及び乏突起膠細胞標識のために、スライドを一次抗体と4℃で一夜インキュベートし、続いて蛍光標識された二次抗体とともにインキュベートした(RTで1時間)。使用した一次抗体は、それぞれ抗NeuN(マウス、1:200;Chemicon#MAB377)及び抗CNPase(マウス、1:200;Sigma#C5922)であった。使用した二次抗体は、ロバ抗マウスローダミンX(1:200;Dianova#715−296−150)であった。核を標識するために、Dapi(Sigma#D9564)1:3000を使用した。ニューロンを定量化するために、損傷の中心点及び中心点の先端側及び後側1500μMまで350μMごとに画像を撮影し、NeuN陽性細胞をSCIの10〜11週後のマウスにて計数した。スライドあたりのNeuN陽性細胞の平均を示す。乏突起膠細胞を定量化するために、損傷部位の先端側及び後側350μMごとに採取した組織切片のCNPase染色を分析した。脊髄の後索における損傷部位に対して先端側の失われたCNPaseシグナルと、後側のCNPase染色の再出現との距離を測定することによって分析を実施した。この距離は、脊髄における白質不足のレベルを示す。距離が短いことは、白質が大幅に不足していることに相関する。
【0116】
4.20RNAの単離、リアルタイム定量的PCR及びマイクロアレイ
組織に関して、脊髄を切開し、基本的にはmirVana microRNA Extraction Kitを製造業者のプロトコル(Ambion#AM1560)にしたがって用い、RNAを抽出した。損傷マウスのmRNAを各非損傷動物に対して標準化して表した。腹腔滲出液又は骨髄誘導細胞からの細胞をPBSで洗浄し、β−メルカプトエタノールを含むRTL緩衝液中に溶かした。RNeasy Mini Kit(Qiagen、#74104)を用いてRNAを抽出した。
【0117】
全ての場合において、Sybr Green coreキット(Eurogentec)及びウラシル−N−グリコシラーゼ(Eurogentec)を用いてリアルタイム定量的PCRを実施した。定量的リアルタイムPCRに使用したプライマーは、Primer3ソフトウェア(http://fokker.wi.mit.edu/cgi−bin/primer3/primer3_www.cgi)を用いて設計した。2ΔCt法を用いてデータを分析した。
【0118】
【表10】

【0119】
4.21マイクロアレイ分析
Affymetrixソフトウェアを用いてCelファイルを作成し、ChipInspectorに取り込んだ。製造業者のガイドライン(Genomatix GmbH(独国ミュンヘン)、http://www.genomatix.de)に指定されるようにGenomatix Chiplnspectorによってデータを分析した。dChipソフトウェアをデータセットの階層的クラスタリングに使用した(http://biosun1.harvard.edu/complab/dchip/)。5%p値をカットオフとして適用した。
【0120】
遺伝子発現プロファイリングを3つの異なるデータセットについて実施した:(1)骨髄細胞系(CD95Lf/f;LysMcre)及び対照同胞子(CD95Lf/f)におけるCD95Lの遺伝子欠失、(2)CD95L(CD95−RB69)及びビヒクル処置動物に対する中和剤で処置したマウス並びに(3)CD95Lの完全な欠失(CD95Lf/f)及びwt対照マウス。データセット1に関して、遺伝子−オントロジーカテゴリーからのアポトーシス及び免疫反応の選択された遺伝子を、階層的クラスタリングを用いてクラスター化し、類似の遺伝子発現パターンを示すサブツリーを選択し、図2bに示す。EASEを用いて遺伝子オントロジー研究を実施した。各遺伝子オントロジーカテゴリーについて、フィッシャーの正確なp値を、ボンフェローニの方法を用いて計算し調整した。5%p値をカットオフとして適用した。
【0121】

【0122】

【0123】

【0124】

【0125】

【0126】

【0127】

【0128】

【0129】

【0130】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患の予防及び/又は治療のためのCD95/CD95L系のインヒビターの使用。
【請求項2】
ニューロン障害、特にCNS障害における炎症過程の予防及び/又は治療のためのCD95/CD95L系のインヒビターの使用。
【請求項3】
前記インヒビターがCD95Lに対する抗体又はその抗原結合フラグメントである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記インヒビターが、場合により異種ポリペプチドドメインと融合した可溶性CD95分子である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記炎症性疾患が、慢性炎症性腸疾患、リウマチ性疾患、炎症性膠原病又は炎症性血管炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記インヒビターを全身投与する、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
ヒト用医薬における請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図9J】
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【図9K】
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【図9L】
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【図9M】
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【図9N】
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【図9O】
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【図9P】
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【図9Q】
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【図9R】
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【図9S】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図10G】
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【図10H】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図16F】
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【図16G】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図18F】
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【図18G】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図22−3】
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【図22−4】
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【図22−5】
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【図22−6】
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【図22−7】
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【図22−8】
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【図22−9】
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【図22−10】
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【図22−11】
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【図22−12】
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【図22−13】
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【図22−14】
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【図22−15】
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【図22−16】
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【公表番号】特表2011−527997(P2011−527997A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517805(P2011−517805)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005127
【国際公開番号】WO2010/006772
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(500349247)
【氏名又は名称原語表記】Deutsches Krebsforschungszentrum
【住所又は居所原語表記】Im Neuenheimer Feld 280,D−69120 Heidelberg,Germany
【Fターム(参考)】