説明

炭化けい素質多孔体の製造方法

【課題】 所望の導電特性に制御することができる炭化けい素質多孔体の製造方法を実現する。
【解決手段】 骨材としての炭化けい素粉末に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末を所定量混合して成形し、得られた成形体を窒素雰囲気で焼成することにより、けい素源の窒化けい素と炭素源の炭素質固体とが反応して炭化けい素が生成して骨材をつなぐネックが形成された炭化けい素質多孔体を製造する製造方法であって、炭化けい素粉末に対する窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比により導電特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電特性を有する炭化けい素質多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気炉などに用いられるセラミックス抵抗発熱体として、炭化けい素質焼結体が広く用いられている(例えば、特許文献1)。炭化けい素は半導体であり、温度上昇に伴って抵抗値が急激に低下するという温度依存性がある。抵抗値は、通電特性及び発熱量に関係するため、加熱制御において、抵抗値を所望の範囲内に収めることは重要な技術課題である。抵抗値の温度依存性が大きいと温度制御が困難となるため、抵抗値とその温度依存性の両方を制御できることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−506530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、このような半導体特性を有する材料の抵抗値を制御するためは、不純物のドープが行われる。しかし、この方法では微量なドープ量のコントロールが難しく、原料の配合時に微量の不純物を添加し抵抗値を調整しようとする場合、秤量の微小な誤差、焼成中の揮発などにより、最終的に得られる焼結体の抵抗値が目標値から大きくずれるおそれがあるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、所望の導電特性に制御することができる炭化けい素質多孔体の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、骨材としての炭化けい素粉末50〜95重量%に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末を50〜5重量%混合した混合粉末を成形し、得られた成形体を窒素雰囲気で焼成する炭化けい素質多孔体の製造方法であって、炭化けい素粉末に対する窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比により、炭化けい素質多孔体の導電特性を制御する、という技術的手段を用いる。
【0007】
請求項1に記載する発明によれば、骨材としての炭化けい素粉末に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末を所定量混合して成形し、得られた成形体を窒素雰囲気で焼成することにより、けい素源の窒化けい素と炭素源の炭素質固体とが反応して炭化けい素が生成して骨材をつなぐネックが形成された炭化けい素質多孔体を製造することができる。
ここで、窒素雰囲気で焼成することにより、窒化けい素の分解によって生成した窒素が、ネックの炭化けい素、骨材としての炭化けい素に不純物として含有される。これにより、炭化けい素中に含有量を容易に制御して不純物を導入することができ、炭化けい素質多孔体がn型半導体となるため、導電性が向上する。そして、炭化けい素粉末に対する窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比により、窒素の含有量やネック形状、気孔率などの多孔体構造などを制御することができるので、導電特性を制御することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の炭化けい素質多孔体の製造方法において、前記窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗を低減させる、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項2に記載の発明のように、窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗を低減させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の炭化けい素質多孔体の製造方法において、前記窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗の温度依存性を小さくさせる、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗の温度依存性を小さくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法により製造された炭化けい素質多孔体の比抵抗及びその温度依存性と、窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る炭化けい素質多孔体の製造方法について説明する。
【0014】
出発原料として、骨材としての炭化けい素粉末50〜95重量%に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合物(以下、ネック原料、という)を50〜5重量%を配合する。
【0015】
炭化けい素粉末は、平均粒径が50μm以下が好ましく、粒度分布が異なる複数の粉末を混合することもできる。
窒化けい素粉末は、ネックを形成する炭素質固体粉末との反応を促進するために平均粒径が100μm以下が好ましい。
炭素質固体粉末として、カーボンブラック、アセチレンブラックなどを用いることができる。窒化けい素粉末との反応を促進させるために平均粒径が10μm以下であることが好ましい。炭素質固体粉末として、フェノール、フラン、ポリイミドなどの熱分解し炭素源となる有機系樹脂などを使用することもできる。
【0016】
上述の原料粉末を所定の割合で配合し、メチルセルロース等の有機バインダーや水分等の添加剤を添加し、混合・混錬した混錬物を押出成形、鋳込成形、プレス成形、射出成形などにより所望の形状に成形する。
【0017】
作製された成形体を窒素雰囲気において1600〜2300℃で焼成する。焼成工程では、窒化けい素と炭素質固体とが反応して炭化けい素が生成し、骨材としての炭化けい素をつなぐネックを形成して反応焼結するとともに、気孔が形成され、炭化けい素質多孔体が形成される。
【0018】
ここで、窒素雰囲気で焼成することにより、窒化けい素の分解によって生成した窒素が、ネックの炭化けい素、骨材としての炭化けい素に不純物として含有される。これにより、炭化けい素中に含有量を容易に制御して不純物を導入することができ、炭化けい素質多孔体がn型半導体となるため、導電性が向上する。なお、窒素は、炭化けい素に固溶するのみならず、炭化けい素との反応によって化合物として存在することもある。
【0019】
焼成温度が1600℃より低いと、窒化けい素の炭化反応が十分でなく、骨材の炭化けい素をつなぐネックに窒化けい素が残存するため比抵抗が高くなる。また、焼成温度が2300℃を越えると昇華が始まり、ネック部が細くなり、同様に比抵抗が高くなる。
【0020】
骨材としての炭化けい素粉末が50重量%より少ない場合は、炭化けい素質多孔体の機械的強度が低下する。95重量%より多い場合は、ネック原料が少ないためネックの量が不足して焼結が不充分となる。
【0021】
ネック原料のSi/Cが0.5より小さい場合は、窒化けい素の炭化反応に寄与せずに残存する炭素分が多くなり、粗大気孔が生じる原因となるとともに、ネックとして生成した炭化けい素の粒成長が阻害される。Si/Cが1.5より大きい場合は、ネックの炭化けい素の生成量が少なくなるため、焼結が不充分となる。
【0022】
本製造方法によれば、ネック原料の混合比により、窒素の含有量や炭化けい素質多孔体のネック形状、気孔率などの多孔体構造などを制御することができる。
ネック原料の混合比が増大すると、炭化けい素に含有される窒素量は増大するため、比抵抗が低減すると考えられる。また、炭化けい素質多孔体の気孔率は高くなり、ネック形状は太くなる傾向が認められる。
以下の実施例にも示すように、ネック原料の混合比が増大するほど、比抵抗が低下するとともにその温度依存性が小さくなる。これにより、ネック原料の混合比により、所望の比抵抗及びその温度依存性に制御することができる。
【0023】
また、導電特性が異なる炭化けい素粉末を用いる、例えば、粒径、結晶相を適宜選択することにより、更にワイドレンジで比抵抗を制御することが可能である。
【0024】
本製造方法により製造された炭化けい素質多孔体は、比抵抗及びその温度依存性を所望の特性に制御することができるので、加熱制御が容易となり、ディーゼルエンジンから排出される微粒子を捕集し燃焼焼却するヒーター性能を有する通電加熱型ディーゼルパティキュレートフィルタや加熱ガス分解用途(自動車用排ガス、VOC)として、好適に用いることができる。また、発熱面積が大きく熱効率を高められるので、ダクトヒーター、大型ドライヤーの熱源に使用される熱風発生機用ヒーターとして好適に用いることができる。更に、暖房機器、調理機器、乾燥機器、焼成炉等に使用されるヒーターとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
骨材原料として平均粒径11μmの粗粒原料と平均粒径1μmの微粒原料とを65:35の割合で混合してなる炭化けい素粉末と、ネック原料としてカーボンに対する金属けい素のモル比を1.0:1.1に調整した窒化けい素粉末及びカーボンブラックの混合粉末を表1に示す割合で配合した原料100重量部に対して、有機バインダーを10重量部、水を20重量部添加し、混合・混練した後、押出成形により、外径6mm、内径4mmの円管状に成形し、窒素雰囲気中で2200℃、5時間焼成した。
【0026】
【表1】

【0027】
得られた焼結体について、比抵抗及び気孔率を測定した。比抵抗は、測定温度50℃から350℃以下の範囲で、交流を用いて、4端子法により測定した。気孔率はアルキメデス法により測定した。
【0028】
図1に、ネック原料の混合比毎に比抵抗及びその温度依存性を示す。図1に示すように、ネック原料の混合比が増大すると比抵抗が低下した。特に、低温側においてその傾向が顕著であり、例えば、50℃における比抵抗は、ネック原料の混合比5%での68Ω・cmに対し、混合比50%では28Ω・cmであり半分以下の値であった。
また、ネック原料の混合比が増大すると、温度上昇に伴う比抵抗の低下割合が小さくなり、温度依存性が小さくなった。
これにより、ネック原料の混合比により、炭化けい素質多孔体の比抵抗及びその温度依存性を制御できることが確認された。
【0029】
また、炭化けい素質多孔体の気孔率は、ネック原料の混合比15%では47%、混合比50%では58%であり、ネック原料の混合比が高い方が気孔率は大きくなる傾向が認められた。
【0030】
[実施形態の効果]
本発明の炭化けい素質多孔体の製造方法によれば、骨材としての炭化けい素粉末に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末を所定量混合して成形し、得られた成形体を窒素雰囲気で焼成することにより、けい素源の窒化けい素と炭素源の炭素質固体とが反応して炭化けい素が生成して骨材をつなぐネックが形成された炭化けい素質多孔体を製造することができる。
ここで、窒素雰囲気で焼成することにより、窒化けい素の分解によって生成した窒素が、ネックの炭化けい素、骨材としての炭化けい素に不純物として含有される。これにより、炭化けい素中に含有量を容易に制御して不純物を導入することができ、炭化けい素質多孔体がn型半導体となるため、導電性が向上する。そして、炭化けい素粉末に対する窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比により、窒素の含有量やネック形状、気孔率などの多孔体構造などを制御することができるので、導電特性を制御することができる。
窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗を低減させることができるとともに、温度依存性を小さくさせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材としての炭化けい素粉末50〜95重量%に、窒化けい素中のけい素成分とカーボンのモル比(Si/C)が0.5〜1.5である窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末を50〜5重量%混合した混合粉末を成形し、得られた成形体を窒素雰囲気で焼成する炭化けい素質多孔体の製造方法であって、
炭化けい素粉末に対する窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比により、炭化けい素質多孔体の導電特性を制御することを特徴とする炭化けい素質多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗を低減させることを特徴とする請求項1に記載の炭化けい素質多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記窒化けい素粉末及び炭素質固体粉末の混合比を増大させることにより比抵抗の温度依存性を小さくさせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭化けい素質多孔体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46380(P2012−46380A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190497(P2010−190497)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】