説明

炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体とその製造方法

【課題】カーボンナノチューブの高強度、高ヤング率の特性を活かし、耐摩耗性と耐酸化性能を向上させた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体とその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカルボシラン8重量%乃至80重量%とカーボンナノチューブ92重量%乃至20重量%とを混合して被覆カーボンナノチューブを作る被覆工程と、ポリカルボシラン被膜の表面を架橋反応する架橋反応工程と、架橋された被覆カーボンナノチューブを800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する焼成工程とを有する。これにより、カーボンナノチューブC1乃至CNが96重量%乃至30重量%と炭化ケイ素S1乃至S(N-1)が4重量%乃至70重量%からなる固化体であって、かさ密度1.3g/cm3以上である炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量構造材料、軽量耐熱材料、人工骨、人工歯根、人工関節、電波吸収材料、ガス吸着材料、触媒担体、電子情報機器用材料等として好適な炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは1991年にその構造が発表された新しい材料である。(例えば、非特許文献1参照)この材料の特徴は黒鉛のシートが円筒状を形成し、その積層する数の異なるものを生成できることである。積層が1枚の単層カーボンナノチューブ、2枚の2層カーボンナノチューブ、それ以上の多層カーボンナノチューブ、更に、明確な層状構造を示さない非晶質カーボンナノチューブに分類され、それぞれの性質に多くの違いが見られ、その用途も異なってくる。
カーボンナノチューブは、電気的、機械的、熱的性質において特徴があり、従来の材料にはない応用に期待が集まっている。電気的性質に関しては、単層カーボンナノチューブおよび2層カーボンナノチューブでは半導体効果が確認され、シリコンに代わる次世代の半導体としての応用が期待されている。また、電子放出の電界電圧が低く、電力消費の少ない電界放出ディスプレイへの応用開発が活発に行われている。
機械的性質の特徴としては、強度とヤング率とが大きいことであり、これを利用すれば軽くて強度の大きな材料の創出が可能である。カーボンナノチューブの大きな機械強度の活用法として、高分子基、金属基、セラミックス基複合材料の合成に関する研究がされている。特に、高分子の強化は実験の容易さから多くの報告があり、複合による効果も報告されているが、まだ実用化されてはいない。セラミックスや金属の強化に関しては、最適な均一分散のための混合方法、熱膨張差による残留応力などの多くの解決すべき問題がある。カーボンナノチューブの大きな強度を利用して優れた材料を創成する方法としては、それ自体を固める方法がある。カーボンナノチューブの化学的性質は黒鉛と類似し、化学薬品に対しては安定で反応性に乏しい。高温での酸化性雰囲気では、黒鉛同様に徐々に酸化されて燃え尽きてしまう。更に、固めるための基本である焼結性が悪く、添加物を加えないと機械的性質を評価できる材料にすることはできない。
カーボンナノチューブを固化して材料に利用する方法の研究は、本発明者等も行っている。(例えば、特許文献1)この方法では、出発の結合用炭素原料としてフェノール樹脂を溶媒に溶解してカーボンナノチューブと混合し、フェノール樹脂を非酸化雰囲気で熱処理すると、均一な非晶質炭素の被膜がカーボンナノチューブ上に出来る。この非晶質炭素によって結合されたカーボンナノチューブは、この固化体全体の組成が炭素であり、軽くて軟らかいことを特徴とする材料になっている。しかし、全体が炭素であるカーボンナノチューブ固化体は、軟らかいために強度もさほど大きくなく磨耗し易く、大きな応力下環境あるいは磨耗環境下では使用できない。更に、耐酸化性に優れた材料が含まれていないため、酸化性雰囲気の高温では簡単に酸化されてしまう。このように、非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体は、問題を抱え、材料としての使用範囲が限られたものになっている。
【非特許文献1】S. Iijima, 「Helical microtubules of graphite carbon」, Nature, 354, 56-58 (1991).
【特許文献1】特開2005-8446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のように従来技術による非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体は、柔らかいために強度もさほど大きくなく磨耗し易く、更に、酸化に弱いという欠点があった。そのため、材料としての使用範囲が限られたものになっていた。そこで、本発明の目的は、非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体の強度、耐磨耗、耐酸化性を改善して、カーボンナノチューブの強度特性を発揮したカーボンナノチューブ固化体を提供するとともにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、カーボンナノチューブが96重量%乃至30重量%と炭化ケイ素が4重量%乃至70重量%からなる固化体であって、かさ密度1.3g/cm3以上であることを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体が得られる。
また本発明によれば、ポリカルボシラン8重量%乃至80重量%とカーボンナノチューブ92重量%乃至20重量%とを混合して被覆カーボンナノチューブを作る被覆工程と、該被覆工程にて作られたポリカルボシラン被膜の表面を架橋反応する架橋反応工程と、該架橋反応工程にて架橋された被覆カーボンナノチューブを800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する焼成工程とを有することを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
更に、本発明によれば、前記被覆工程における混合が、非酸化性雰囲気中で、200℃乃至350℃の温度範囲で前記ポリカルボシランを溶融して行われることを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
また本発明によれば、前記被覆工程における混合が、溶媒に前記ポリカルボシランを溶解して行われることを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
更に、本発明によれば、前記架橋反応工程が、前記被覆カーボンナノチューブを50℃乃至250℃の温度範囲にて加熱成型し、該加熱成型により得られた成型体を用いて行われること特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
また本発明によれば、前記架橋反応工程が、酸化性雰囲気中において200℃乃至300℃の温度にて行われること特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
更に、本発明によれば、前記焼成工程が、ホットプレス(HP)を用いて行われること特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
また本発明によれば、前記焼成工程が、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて行われること特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
更に、本発明によれば、前記焼成工程の後に、該焼成工程にて得られた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の開孔にポリカルボシランを充填し、該ポリカルボシランの表面を架橋反応し、次いで800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する開孔処理工程を有することを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法が得られる。
本発明によれば、カーボンナノチューブが96重量%乃至30重量%と炭化ケイ素が4重量%乃至70重量%からなる炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体は、カーボンナノチューブ同士がその表面に形成された炭化ケイ素被膜によって結合されているので、非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体より、硬くて耐摩耗性に優れ、強度が大きく、かつ耐酸化性に優れたものとなる。
かさ密度が1.3g/cm3以上であると、カーボンナノチューブは強固に結合され、カーボンナノチューブの本来の強度が固化体全体の強度に反映されるようになる。かさ密度が1.3g/cm3未満の場合は、カーボンナノチューブの炭化ケイ素による結合が不十分で、耐摩耗性および強度の改善が十分出ない。かさ密度は、重量/体積で定義され、物質のつまり具合を示している。つまり、かさ密度が小さいと、空隙が多くなり結合していない部分が増えるために、強度は小さくなる。
また本発明によれば、ポリカルボシラン8重量%乃至80重量%とカーボンナノチューブ92重量%乃至20重量%とを混合して被覆カーボンナノチューブを作り、ポリカルボシラン被膜の表面を架橋反応したので、カーボンナノチューブ表面の被覆は、架橋反応により作られた溶融しない鞘によって揮発や移動が抑制され、安定に保たれる。次いで、被覆カーボンナノチューブを800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理したので、ポリカルボシランが分解してSiCを生成し、このSiCがカーボンナノチューブを結合する。その結果、カーボンナノチューブが96乃至30重量%と炭化ケイ素が4乃至70重量%からなる固化体であって、かさ密度1.3g/cm3以上である炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体が得られる。
カーボンナノチューブとは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、非晶質カーボンナノチューブの総称であり、原料としてはこれらのカーボンナノチューブを単独であるいは2種以上の混合物にしてもよい。更に、カーボンナノチューブに不純物の非晶質炭素やフラーレンなどが混合したままのものを原料としても、その割合が50重量%以下であれば、カーボンナノチューブの効果は維持される。
ポリカルボシランの添加量が8重量%未満では、結合剤としての炭化ケイ素が十分ではなく、かさ密度を1.3g/cm3となるほどに密度を上げることはできない。一方、ポリカルボシランの量が80重量%を超えると、焼成工程の際にガスの発生が多くなり、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体のかさ密度は1.3g/cm3未満となるので好ましくない。
焼成温度が800℃未満では、ポリカルボシランが分解してSiCが生成する反応が十分ではない。1600℃を超えると、生成したSiCの結晶成長が進み、カーボンナノチューブとの結合が部分的に欠けて炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の強度が弱くなる。
被覆工程における混合を、非酸化性雰囲気中で、200℃乃至350℃の温度範囲でポリカルボシランを溶融して行うと、ポリカルボシランの酸化が抑制され、均一なポリカルボシラン被膜がカーボンナノチューブ表面に形成できる。溶融温度が200℃未満では混合に必要なポリカルボシランの流動性が十分でなく、350℃を超えるとポリカルボシランの分解が始まる。
被覆工程における混合を、溶媒にポリカルボシランを溶解し、これにカーボンナノチューブを加えて行うと、溶媒の揮発によって被覆カーボンナノチューブが得られ、被覆工程が簡単になる。溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ガソリン、軽油、灯油などの炭化水素系溶媒が利用できる。架橋反応工程を、被覆カーボンナノチューブを50℃乃至250℃の温度範囲にて加熱成型して得られる成型体を用いて行うと、鞘によって安定化された被覆カーボンナノチューブ成型体が得られる。成型体であれば、焼成工程を無加圧下で行うことができる。成型温度が50℃未満では、成型のための流動性が十分ではなく、250℃を超えるとポリカルボシランが分離して型からはみ出る可能性がある。
酸化性雰囲気中での部分酸化による架橋反応であれば、架橋反応工程は、簡単な電気炉を用いることが可能となり、コストの低減ができる。200℃乃至300℃の温度であれば、カーボンナノチューブ表面に形成されたポリカルボシラン被膜の表面のみが架橋反応し、有効な鞘ができる。200℃未満では、酸化による被膜の架橋反応が十分でなく、有効な鞘を作ることができない。300℃を超えると酸化が進み、固化後に含まれるSiO2の量が多くなり結合強度が小さくなる。200℃乃至300℃の温度は、1分乃至120分間保持するのが望ましい。1分未満では架橋反応が十分に起きず、120分を越して長くすると、取り込まれる酸素の量が多くなるため好ましくない。
ホットプレス(HP)を用いる加圧下の焼成工程であれば、炭化ケイ素カーボンナノチューブ固化体の緻密化が容易であり、焼成工程の生産性が高い。5MPa乃至200MPaの加圧下で、800℃乃至1600℃の温度範囲で焼成すると、良好な固化体が得られる。加圧力が5MPa未満であると、結合が十分でなく、かさ密度が1.3g/cm3以上にはならない。加圧力が200MPaを超えると、黒鉛型は破壊する。
放電プラズマ焼結機(SPS)を用いる焼成工程であれば、炭化ケイ素カーボンナノチューブ固化体の緻密化が容易であり、焼結や固化が短時間で効果的に行われる。5MPa乃至200MPaの加圧下で、800℃乃至1600℃の温度範囲で焼成すると、良好な固化体が得られる。加圧力を5MPa未満とすると、結合が十分でなく、かさ密度が1.3g/cm3以上にはならない。200MPaを超えると、黒鉛型は破壊する。
焼成工程の後に開孔処理工程を行うと、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の開孔が炭化ケイ素で埋められる。その結果、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体は、かさ密度が高くなり、曲げ強度とヤング率が大きくなる。この開孔処理工程は、1回以上行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体の強度、耐磨耗、耐酸化性を改善して、カーボンナノチューブの強度特性を発揮したカーボンナノチューブ固化体とその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施するための最良の形態について、詳細に説明する。本発明者等は、非晶質炭素を結合材とするカーボンナノチューブ固化体の強度、耐磨耗、耐酸化性を改善するため、カーボンナノチューブを結合するのに非晶質炭素より硬くて強い材料、そして、耐酸化性に優れた材料等の条件を十分に考え研究した。その結果、結合材には硬く、耐酸化性に優れた炭化ケイ素を選択した。炭化ケイ素は、比較的密度が小さく、硬くて耐摩耗性に優れ、室温と高温での強度が大きい、耐酸化性に優れている材料である。また、カーボンナノチューブを炭化ケイ素で効果的に結合する方法を、次のように考えた。炭化ケイ素の基になり、溶媒に可溶な化合物を使い、溶液にしてカーボンナノチューブを混合すれば、カーボンナノチューブの一本、一本の上に被膜を作ることができる。この被覆を熱処理して炭化ケイ素を生成すれば、カーボンナノチューブの結合が可能になる。このような化合物には有機シリコン高分子化合物の1種であるポリカルボシランがある。このポリカルボシランは、(CH3)SiHCH2を単位組成とする高分子であり、一個のSiに対し炭素二個が結合しており、ポリカルボシランを熱処理して得られるものは炭化ケイ素と炭素のとの混合物である。ポリカルボシランを紡糸して得られた生繊維を非酸化性雰囲気中の高温で熱処理すると、炭化ケイ素繊維となることが知られている。このポリカルボシランを炭化ケイ素生成用原料とすることにより本発明を完成するに至った。
本発明の実施するための最良の形態の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体は、炭化ケイ素を4重量%乃至70重量%含み、かさ密度が1.3g/cm3以上であることが必要である。かさ密度が1.3g/cm3未満の場合は、カーボンナノチューブの炭化ケイ素による結合が不十分で、耐摩耗性および強度の改善効果が十分出ない。かさ密度が1.3g/cm3以上の固化体を破壊すると、強固に結合されているカーボンナノチューブは、引き抜かれるよりは切断するようになり、カーボンナノチューブの本来の強度が固化体全体の強度に反映されるようになる。しかし、一部のカーボンナノチューブは引き抜かれ、それが固化体の靭性と信頼性とを高める効果を果たしている。単層カーボンナノチューブのかさ密度は約1.36g/cm3である。
図1は、本発明の実施の形態の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の基本構成を説明するための模式的断面図である。図1において、C1乃至CNは各々カーボンナノチューブを、S1乃至S(N-1)は各々炭化ケイ素被膜を示している。カーボンナノチューブC1乃至カーボンナノチューブCNは、その表面全体に炭化ケイ素被膜が形成されており、各々炭化ケイ素被膜S1乃至炭化ケイ素被膜SS(N-1)により互いに結合されたものである。それにより結合強度は大きくなる。更に、カーボンナノチューブが耐酸化性に優れた炭化ケイ素により被覆されているので、固化体全体の耐酸化性は格段に向上する。
次に、本発明の実施の形態の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法について、工程毎に説明する。
(被覆工程)
ポリカルボシラン8重量%乃至80重量%とカーボンナノチューブ92重量%乃至20重量%とを混合し、被覆カーボンナノチューブを作る。使用するカーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザー蒸発法、プラズマ合成、炭化水素触媒分解法等によって主に製造されている。これらの製造方法では触媒にFe、Co、Ni、Ceなどの金属が触媒として用いることもあり、それらは生成物のカーボンナノチューブに混入してくる。しかし、これら金属は酸の水溶液で洗浄することにより容易に除くことができる。また、非晶質炭素やフラーレンなどの炭素系不純物が混入してくることが多い。これらの炭素系材料は部分的な酸化法により除くことが可能である。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、および非晶質カーボンナノチューブを単独であるいは2種以上の混合物にしてもよい。また、不純物の非晶質炭素やフラーレンなどが混合したままのものでも、その割合が50重量%以下であれば、原料とし使うことができる。
使用するポリカルボシランは、ジメチルジクロロシランからポリシランを合成し、それを熱分解することで製造され、炭化ケイ素繊維の製造原料として使用されている。このポリカルボシランの組成は、シリコン、炭素、水素が主であるが、製造の過程でわずかに酸素が混入してくる。更に、B、Al、Ti、Zrなどの金属元素を少量含有するものも作られているが、これらも使用するポリカルボシランに含まれる。すなわち、これを使ってカーボンナノチューブを固化しても、得られた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の機械的あるいは耐酸化性能にはほとんど違いは現れない。これらポリカルボシランの平均分子量は2000以下であり、高分子としては小さいほうで、そのために低分子の化合物も含まれている。このようなポリカルボシランは、炭化水素系の溶媒には容易に溶解する。また、加熱によって180℃以上から軟化し、250℃以上では液体状態になり、溶融できる。
ポリカルボシランとカーボンナノチューブと混合は、酸素を除外した窒素ガスやアルゴンガス中で、200℃乃至350℃の温度範囲でポリカルボシランを溶融しながら行う。この混合により、カーボンナノチューブ表面にポリカルボシランの均一な被膜が形成され、被覆カーボンナノチューブができる。更に、ポリカルボシランをペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ガソリン、軽油、灯油などの溶媒に溶解してカーボンナノチューブと混合し、次いで溶媒を蒸発することで、ポリカルボシランが均一に被膜となっている被覆カーボンナノチューブを作ることが出来る。
(架橋反応工程)
次に、ポリカルボシランの表面を架橋反応して鞘を作る。ポリカルボシランは、平均分子量が2000以下で二次元的な構造を基本とするために、加熱時に分解して揮発する部分も少なくない。ポリカルボシランは加熱により溶融するので、膜となっていたものが移動して塊となり、カーボンナノチューブの全表面上に形成されていた被覆が一部で無くなり、結合材として効果が減少する。これらを防止するために、ポリカルボシラン被膜の表面のみを架橋反応して、溶融しない鞘を作る。鞘を作る方法には、空気中や酸素中での部分酸化による架橋反応、電子線照射による架橋反応、ガンマー線照射による架橋反応などがある。ここでは、電気炉を用いた部分酸化による架橋反応について説明する。被覆工程にて得られた被覆カーボンナノチューブを、電気炉に入れ、空気中あるいは酸素ガス中で、200℃乃至300℃の温度範囲で1分乃至120分間所定の温度に保持する。これにより、カーボンナノチューブ表面に形成されたポリカルボシラン被膜の表面のみが架橋反応し、有効な鞘が作られる。
架橋反応は、被覆カーボンナノチューブの成型体に対しても適用できる。この場合の成型は、被覆カーボンナノチューブを50℃乃至250℃の温度範囲において、従来の成型法である押し出し成型、モールド成型等を応用して行う。鞘によって安定化された被覆カーボンナノチューブ成型体であれば、次の焼成工程を無加圧下で行うことができる。
(焼成工程)
続いて、鞘によって安定化された被覆カーボンナノチューブを800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する。この熱処理により、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体が合成される。熱処理は、無加圧下で非酸化性の雰囲気中での焼成によって行うことができる。無加圧下での焼成は、表面を架橋反応した被覆カーボンナノチューブ成型体を、真空中あるいは窒素、アルゴンガスなどの非酸化性雰囲気中で、800℃乃至1600℃の温度範囲で加熱炉を使って行う。この熱処理によりポリカルボシランは分解してSiCを生成し、それがカーボンナノチューブを結合する。この焼成の課程で、ポリカルボシランは熱によって重合して収縮し、それに伴って成型体全体も収縮し緻密化が起こる。この緻密化によって強度の大きな、かさ密度1.3g/cm3以上の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体ができる。焼成温度が800℃未満では、ポリカルボシランが分解してSiCが生成する反応が十分ではない。1600℃を超えると、生成したSiCの結晶成長が起き、カーボンナノチューブとの結合が部分的に欠けて強度が弱くなる。焼成温度に保持する時間は10分から3時間が適当である。10分未満ではSiCが均一に生成しない。3時間を越えて保持するとSiCの結晶成長が顕著になる。また熱処理は、加圧焼結法によっても可能である。加圧焼結法によれば、炭化ケイ素カーボンナノチューブ固化体の緻密化を容易に行うことができる。この加圧焼結には、ホットプレスあるいは放電プラズマ焼結機が使われる。
最初に、ホットプレス(以下、「HP」と言う)を使った加圧焼結について説明する。HPは、試料を入れた黒鉛型を装置にセットし、雰囲気を非酸化性にして、発熱体に電気を流して温度を上げて加圧下で固化する装置である。HPを使った加圧焼結では、まず表面を架橋反応した被覆カーボンナノチューブを黒鉛型に詰め、黒鉛型をHPにセットする。続いて、真空あるいは窒素、アルゴンガスなどの非酸化性ガスに置換し、圧力を5 MPa乃至200MPaとする加圧下で、800℃乃至1600℃の温度範囲で固化する。この熱処理によりポリカルボシランは分解してSiCを生成し、それがカーボンナノチューブを結合する。加圧力を5MPa未満とすると、結合が十分でなく、かさ密度が1.3g/cm3以上にはならない。また200MPaを超えると、黒鉛型は破壊するのでこれ以上に圧力を上げることはできない。固化の温度を800℃未満にすると、ポリカルボシランから生成する炭化ケイ素の結合力が弱くなる。1600℃を超えると、ポリカルボシランから生成した炭化ケイ素の結晶が大きくなりすぎ、カーボンナノチューブを炭化ケイ素で結合できない部分が多くなり、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の強度は弱くなる。固化する所定の温度に保持する時間は、1分乃至180分の範囲が好ましい。1分未満では炭化ケイ素とカーボンナノチューブとの結合を十分に行わせることができず、180分を超えて長くしても結合強度には変化がなく、長くすることで生産性は悪くなる。
一方、放電プラズマ焼結機(以下、「SPS」と言う)は、プラズマ活性化焼結機あるいは放電プラズマシステムとも言われ、金属やセラミックスを焼結するために開発された装置である。この装置の構成は、HPと同じで、電源と真空容器とからなっている。HPとの違いは、試料を詰めた導電性の型に直接にパルスの直流を流して加熱することである。この加熱方法により、試料はパルスの電場の影響を受ける。パルスの電場の効果は、物質の拡散と塑性変形の促進にある。更に、導電性の試料中を電気が流れ原子の拡散が促進される。半導体あるいは絶縁体の試料では、その表面を電気が流れ分子等の移動を促進し、単結晶が成長しやすくなる。パルス直流は粉末試料中に放電プラズマを発生させるが、そのエネルギーは弱い。しかし、有機化合物の結合を励起するのに適当で、結合の切断や再結合が起こすことができる。このようなSPSは、HPや単なる加熱にはない数種類の効果が持っており、その効果により難焼結性物質を焼結でき、短時間で大きな結晶を得ることもでき、有機化学反応を行うことができる。SPSを使った加圧焼結は、その条件がHPのそれとほぼ同じで、表面を架橋反応した被覆カーボンナノチューブを黒鉛型に詰め、黒鉛型をSPSにセットする。続いて、真空あるいは窒素、アルゴンガスなどの非酸化性ガスに置換し、圧力を5 MPa乃至200MPaとする加圧下で、800℃乃至1600℃の温度範囲で固化する。この熱処理によりポリカルボシランは分解してSiCを生成し、それがカーボンナノチューブを結合する。加圧力を5MPa未満とすると、結合が十分でなく、かさ密度が1.3g/cm3以上にはならない。また200MPaを超えると、黒鉛型は破壊するのでこれ以上に圧力を上げることはできない。固化の温度を800℃未満にすると、ポリカルボシランから生成する炭化ケイ素の結合力が弱く、1600℃を超えと、ポリカルボシランから生成した炭化ケイ素の結晶が大きくなりすぎ、カーボンナノチューブを炭化ケイ素で結合できない部分が多くなり、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の強度は弱くなる。固化する所定の温度における保持時間は1分乃至60分である。1分未満では炭化ケイ素の生成反応が十分でなく、60分を超えて保持しても固化の効果は変わらない。
固化する雰囲気は、非酸化性が好ましい。酸化性雰囲気では、カーボンナノチューブとポリカルボシランとが酸化される。非酸化性雰囲気とは、真空やアルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガスなどの雰囲気である。
【実施例1】
【0007】
ポリカルボシラン4gを10mlのヘキサンに溶解し、そこへ16gの多層カーボンナノチューブを入れて、十分に撹拌してからヘキサンを蒸発させた。得られた被覆カーボンナノチューブを、電気炉を用い空気中で240℃まで2時間で昇温し、その温度に15分間保持して、ポリカルボシランの表面架橋反応を行った。これを固化用の原料とし、黒鉛型に詰めて放電プラズマ焼結機を使い、150MPaの加圧のもと真空中で、40℃/分の昇温速度で1000℃の温度まで昇温し、その温度に30分間保持して熱処理を行って、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体を合成した。この固化体のかさ密度は1.75g/cm3であり、その曲げ強度は120MPaであり、ヤング率は17GPaであった。
【実施例2】
【0008】
ポリカルボシラン粉14gと、多層カーボンナノチューブ6gとを、窒素ガス中で250℃の温度に加熱して混合した。この混合粉を100℃に加熱してモールド成型を行った。この成型体を空気中で、電気炉を用い250℃まで3時間で昇温し、その温度に30分間保持して表面の架橋反応を行った。この成型体を真空中で、1300℃まで400℃/時間の昇温速度で加熱し、その温度に1時間保持して炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体を得た。この固化体のかさ密度は1.45g/cm3であり、曲げ強度は110MPaで、ヤング率は12GPaである。
【実施例3】
【0009】
実施例2で得られた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の開孔を炭化ケイ素で埋めるため、これをポリカルボシランと一緒に坩堝に入れて真空中で320℃に1時間加熱して開孔にポリカルボシランを含侵させた。この含侵固化体を電気炉中で、雰囲気を空気の大気圧とし、270℃まで2時間で昇温し、この温度に10分間保持して表面の架橋反応を行い、ついで真空中で1300℃まで400℃/時間の昇温速度で昇温し、その温度に30分間保持して熱処理を行った。この含侵、架橋反応、1200℃までの熱処理を3回行い、炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体を得た。この固化体のかさ密度は2.1g/cm3であり、曲げ強度は250MPaで、ヤング率は25GPaであった。
【実施例4】
【0010】
ポリカルボシラン8gを15mlのヘキサンに溶解し、そこへ単層カーボンナノチューブを12g添加して混合した。混合を十分した後乾燥してヘキサンを蒸発して被覆単層カーボンナノチューブを得た。この粉体を空気中で250℃まで3時間で昇温し、その温度に5分間保持してポリカルボシラン被膜の表面部分の架橋反応を行ってから、これを黒鉛型に詰め、ホットプレスを使い、120MPaの加圧下で、40℃/分の昇温速度で1000℃まで温度を上げ、その温度に1時間間保持して炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体を得た。このかさ密度は1.55g/cm3であり、曲げ教祖は150MPaであり、ヤング率は12GPaであった。
【実施例5】
【0011】
実施例4で得られた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブの開孔に炭化ケイ素を充填するために、これをポリカルボシランの中に埋め、真空中で320℃に加熱し、その温度に30分間保持してポリカルボシランを開孔に充填した。この充填体を空気中で235℃まで3時間で昇温し、その温度に30分間保持してポリカルボシランの表面架橋反応を行い、続いて窒素ガス雰囲気中で1250℃まで4時間かけて昇温し、その温度に1.5時間保持して炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体を得た。この固化体のかさ密度は1.8g/cm3であり、曲げ強度は240MPaであり、ヤング率は21GPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明による炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体は、硬さ、強度、耐酸化性、耐摩耗性が炭素原子のみから構成されている材料より大きく、緻密ではあるが軽量であり、電気伝導性と熱伝導性に優れている。そのため、軽量構造材料、軽量機械材料、半導体製造材料、半導体部品、電磁波吸収材料、触媒担体、人工骨、人工歯根、ロケットや航空機用材料、ミクロカプセル、ガス精製装置、蒸着用基盤などに広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが96重量%乃至30重量%と炭化ケイ素が4乃重量%至70重量%からなる固化体であって、かさ密度1.3g/cm3以上であることを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体。
【請求項2】
ポリカルボシラン8重量%乃至80重量%とカーボンナノチューブ92重量%乃至20重量%とを混合して被覆カーボンナノチューブを作る被覆工程と、該被覆工程にて作られたポリカルボシラン被膜の表面を架橋反応する架橋反応工程と、該架橋反応工程にて架橋された被覆カーボンナノチューブを800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する焼成工程とを有することを特徴とする炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項3】
前記被覆工程における混合が、非酸化性雰囲気中で、200℃乃至350℃の温度範囲で前記ポリカルボシランを溶融して行われることを特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項4】
前記被覆工程における混合が、溶媒に前記ポリカルボシランを溶解して行われることを特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項5】
前記架橋反応工程が、前記被覆カーボンナノチューブを50℃乃至250℃の温度範囲にて加熱成型し、該加熱成型により得られた成型体を用いて行われること特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項6】
前記架橋反応工程が、酸化性雰囲気中において200℃乃至300℃の温度にて行われること特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程が、ホットプレス(HP)を用いて行われること特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程が、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて行われること特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程の後に、該焼成工程にて得られた炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の開孔にポリカルボシランを充填し、該ポリカルボシランの表面を架橋反応し、次いで800℃乃至1600℃の温度範囲で、非酸化性雰囲気中で熱処理する開孔処理工程を有することを特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の製造方法。




【図1】本発明の実施の形態の炭化ケイ素結合カーボンナノチューブ固化体の基本構成を説明するための模式的断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1乃至CN カーボンナノチューブ
1乃至S(N-1) 炭化ケイ素被膜

【図1】
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【公開番号】特開2006−312569(P2006−312569A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135995(P2005−135995)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】