説明

炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料及びその製造方法

【課題】優れた加工性と、耐衝撃性を有する炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金1のマトリックス中に炭化ホウ素粒子2が2〜10体積%均一分散してなり、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物3の膜が形成されており、引張り破壊伸びが10%以上であることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。炭化ホウ素粒子2に対して、Mgを0.1〜10質量%含み、アルミニウム合金1に含まれるSiは1.0質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再臨界防止作用や中性子吸収作用を有し、中性子を放射する使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の素材として有用な炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ホウ素を含有させたアルミニウム基合金や複合材料が中性子吸収用材料として使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の構成材料として用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、中性子吸収能を備えた炭化ホウ素粉末と、粒径と添加量を調整したアルミニウム粉末の混合粉末にアルミニウム合金を非加圧で浸透させたインゴットを作製し、これに希釈用のアルミニウム合金を加えて、再度加熱することにより懸濁物を形成し、これにより、炭化ホウ素の濃度を制御してコストや加工性を向上させた金属基複合材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、加工性が不十分とされる場合があり、より加工が容易な中性子吸収能を備えたアルミニウム複合材料が望まれていた。
【0006】
また、優れた加工性を持ちつつ、より衝撃に強い材料が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような問題を解決し、優れた加工性と、耐衝撃性を有する炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するため、以下に示す(1)〜(4)の発明を提供する。
【0009】
(1)アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子が2〜10体積%分散してなり、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜が形成されており、引張り破壊伸びが10%以上であることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。炭化ホウ素粒子の表面に形成されたアルミニウムホウ化物の膜によって、炭化ホウ素粒子を2〜10体積%均一分散でき、引張り破壊伸び10%以上とすることができる。これにより加工性及び耐衝撃性を高めることが可能となる。
【0010】
(2)前記炭化ホウ素粒子に対して、Mgを0.1〜10質量%含む(1)記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。Mgを所定量含むことによりアルミニウム合金と炭化ホウ素粒子との濡れが高まり、分散性を向上させることができる。
【0011】
(3)前記アルミニウム合金に含まれるSiは1.0質量%以下である(1)または(2)記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。アルミニウム合金のSi量を調整することにより加工性及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0012】
(4)Mgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子およびアルミニウム合金、または、炭化ホウ素粒子およびMgを含むアルミニウム合金からなる原料を用意し、
前記原料を窒素雰囲気中700〜1000℃で加熱溶解処理後に攪拌混合することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。このような製造方法により、優れた加工性と、耐衝撃性を有する炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を得ることができる。
【0013】
(5)窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したアルミニウム合金の中にMgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子を投入し、または窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したMgを含むアルミニウム合金の中に炭化ホウ素粒子を投入して、攪拌混合しながら700〜1000℃で加熱処理することにより、攪拌混合しながら700〜1000℃で加熱処理することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。上記(5)によっても、本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を得ることができる。
【0014】
(6)前記アルミニウム合金に含まれるSiは1.0質量%以下である(4)または(5)記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
優れた加工性と、耐衝撃性を有する炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照してより詳細に説明する。本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の概略断面図を図1に示した。アルミニウム合金1のマトリックス中に炭化ホウ素粒子2が分散してなり、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜3が形成されている。
【0018】
炭化ホウ素粒子2の表面に形成されたアルミニウムホウ化物の膜3は、炭化ホウ素粒子の分散性を向上させる役割を有する。本発明では、Mgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子およびアルミニウム合金、もしくは、炭化ホウ素粒子およびMgを含むアルミニウム合金からなる原料を窒素雰囲気中700〜1000℃で加熱溶解処理後に攪拌混合することにより、または、窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したアルミニウム合金の中にMgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子を投入し、もしくは窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したMgを含むアルミニウム合金の中に炭化ホウ素粒子を投入して攪拌混合しながら700〜1000℃で加熱処理することによりアルミニウムホウ化物の膜を形成している。これは攪拌混合することで、炭化ホウ素粒子間がアルミニウムホウ化物によって連結されるのを防ぎ、粒子の分散を向上させるためである。また、攪拌することによって、アルミニウムホウ化物の膜を炭化ホウ素粒子表面に均一に形成できるので、分散性が向上するものと考えられる。
【0019】
さらに、炭化ホウ素粒子間がアルミニウムホウ化物によって連結された凝集体が多く存在すると、炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の耐衝撃性が低下する。これは、凝集体の多い箇所で破壊が起き易くなるためである。具体的には、引張り破壊伸びが大幅に低下する。一方、本発明の炭化ホウ素含有複合材料では、炭化ホウ素粒子間がアルミニウムホウ化物によって連結されるのを防ぎ、粒子の分散を高めているので、引張り破壊伸びを10%以上とすることができる。
【0020】
アルミニウム合金1のマトリックス中には、2〜10体積%の炭化ホウ素粒子が均一に分散している。このような範囲であれば、十分な中性子吸収能を有し、かつ機械的特性、特に加工性及び耐衝撃性に優れた材料とすることができる。
【0021】
炭化ホウ素粒子に対して、Mgを0.1〜10質量%含むことが好ましい。これは、Mgを所定量含むことによりアルミニウム合金と炭化ホウ素粒子との濡れが高まり、分散性を向上させることができるためである。
【0022】
使用するアルミニウム合金は特に限定しないが、高い破壊伸びを得るためにJIS1000シリーズ等の引張特性の高いアルミニウム合金が望ましい。ただし、アルミニウム合金に含まれるSiは1.0質量%以下であることが好ましい。アルミニウム合金のSi量を所定範囲に調整することにより、マトリックス合金自体の高い破壊伸びが得られる。また、アルミニウムホウ化物の生成を阻害することがなく、炭化ホウ素粒子の分散性及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0023】
炭化ホウ素粒子は、平均粒子径で10〜30μmのものが好ましい。平均粒子径で10μmより小さいと上記の浸透しない領域が多くなる。また、30μmよりも大きい粒子を用いると左記の問題は少なくなるがアルミニウム合金溶解中に沈降する。平均粒子径のより好ましい範囲は、10〜20μmである。なお、本発明では、レーザー回折式粒度分布測定によるD50をもって平均粒子径とする。
【0024】
本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料は、炭化ホウ素粒子が均一分散してなる。具体的には、1mm以上の炭化ホウ素粒子の凝集体を含まず、偏析や表面への浮上がなく含有量にばらつきがない。
【0025】
炭化ホウ素粒子の表面に形成されたアルミニウムホウ化物は、AlB12のほかAlB等が含まれていても良い。膜の厚さは、1〜3μmとすることができ、加熱処理温度、時間を調整することにより、厚さを制御できる。膜は、表面に均一な厚さで形成されることが好ましく、加熱処理中または加熱処理後に攪拌混合することで均一化することが可能である。
【0026】
次に、本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法について説明する。
【0027】
第一の製造方法として、Mgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子およびアルミニウム合金、または、炭化ホウ素粒子およびMgを含むアルミニウム合金からなる原料を用意し、前記原料を窒素雰囲気中700〜1000℃で加熱溶解処理後に攪拌混合することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%均一分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法を提供する。
【0028】
はじめに、原料を用意する。例えば、アルミニウム溶解用の坩堝の中に、炭化ホウ素粒子とMgを含む粉末とを混合した粉末とマトリックスとなるアルミニウム合金を入れる。または、炭化ホウ素粒子およびMgを含むアルミニウム合金を坩堝のなかに入れても良い。炭化ホウ素粒子は、アルミニウム合金に対して2〜10体積%となるように調整する。
【0029】
アルミニウム合金の形態は問わない。これらの原料を窒素雰囲気中700〜1000℃で加熱溶解処理するので、粉末状、塊状等、種々の異なる形態であっても同様の溶解処理物が得られる。
【0030】
Mgを含む粉末としては、Mg粉末、AlMg粉末等、Mgが単体で散在する粉末に限られ、酸化物、窒化物等の化合物は使用できない。Mgは加熱中に蒸発し雰囲気にある窒素と反応しセラミックス粒子の周囲にMgを生成する。この窒化物がアルミニウム合金と反応し炭化ホウ素粒子間に溶解したアルミニウム合金が浸透する。
【0031】
ただし、Mgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子、または、炭化ホウ素粒子を坩堝に入れたときの厚さは100mm以下が良い。厚さが100mmを超えると炭化ホウ素へのアルミニウム合金の浸透が難しくなりアルミニウム合金が浸透しない部分が発生するからである。アルミニウム合金の浸透がなされていない部分は溶解中に混入するかカスとして溶解中に表層に浮き上がり、後に問題となり、鋳造する際の湯流れ性低下等の品質低下となる場合が多い。
【0032】
上記原料を雰囲気の保持できる真空溶解炉の坩堝の中に入れ、室温で一度真空引きした後に窒素をフローし、窒素雰囲気を保持しながら700〜1000℃で非加圧浸透させることにより、アルミニウム合金と炭化ホウ素粒子を化学的に反応させ馴染ませる。特に750〜850℃程度の温度で馴染ませたほうが良い。750℃より低いと浸透しない領域が発生しやすい。また700℃より低温では浸透しない。850℃を超えると、温度が高めでありアルミニウムの酸化が進みドロスと呼ばれるカスの発生量が多くなる場合がある。
【0033】
上記のような非加圧浸透の工程において、700〜1000℃加熱される時間は、30〜60分とすることが好ましい。炭化ホウ素粒子表面のアルミニウムホウ化物の膜の均一性、厚さを調整するためである。
【0034】
炭化ホウ素粒子とアルミニウム合金が馴染んだら、炭化ホウ素粒子を分散させるために機械的に攪拌子により攪拌することにより、アルミニウム合金中に炭化ホウ素粒子が10体積%以下で均一に分散した鋳造用アルミニウム複合材料からなる溶湯が得られる。攪拌の際の雰囲気は問わず、空気中でも可能である。攪拌子はアルミニウム溶湯中への溶解を防ぐためにカーボンを用いることが好ましい。
【0035】
炭化ホウ素が分散した溶融アルミニウム合金は、好ましくは、最終形状に実質的に対応する型に注入し、冷却する。これにより所望の最終形状を有する炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料を容易に形成することができる。本発明の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料は機械加工を行うことが比較的容易であるので、前記炭化ホウ素が分散した溶融アルミニウム合金を注入する型は所望の最終形状と厳密に等しい形状である必要はない。機械加工により微調整が可能な程度の形状の型であれば足りる。
【0036】
第二の製造方法として、窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したアルミニウム合金の中にMgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子を投入し、または窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したMgを含むアルミニウム合金の中に炭化ホウ素粒子を投入して、攪拌混合しながら700〜1000℃で加熱処理することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%均一分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法を提供する。
【0037】
はじめに、雰囲気を保持できる溶解炉中で予めアルミニウム合金またはMgを含むアルミニウム合金を700〜1000℃で溶解する。第一の製造方法と同様に750〜850℃の温度が好ましい。
【0038】
次に溶解したアルミニウム合金またはMgを含むアルミニウム合金のなかに、炭化ホウ素粒子とMgを含む粉末の混合粉末、または炭化ホウ素粒子を投入する。この際、アルミニウム合金の表面に酸化皮膜が生成するが、その上に炭化ホウ素粒子が乗るとバリヤとなるためにアルミニウム合金が浸透しなくなる。これを防ぐために、攪拌しながら混合粉末または炭化ホウ素粒子を投入する。炭化ホウ素粒子とMgを含む混合粉末、または炭化ホウ素粒子は予め窒素中でアルミニウム合金の溶湯温度に近い温度で予熱していたほうがより浸透しやすい。窒素雰囲気は炭化ホウ素粒子がアルミに生む合金溶湯の中に沈むまで保持する必要がある。途中で空気が入ると、加熱されたMgを含む粉末が酸化し燃える。酸化したら、アルミニウムと炭化ホウ素粒子の濡れ促進が止まり、未浸透領域として残存し品質低下となる。このようにして、アルミニウム合金中に炭化ホウ素粒子が均一に分散した鋳造用アルミニウム複合材料からなる溶湯が得られる。
【0039】
第一の製造方法、第二の製造方法ともに、充填材としての炭化ホウ素粒子がアルミニウム合金溶湯に分散した後に真空脱泡することが好ましい。攪拌工程が入るためにマトリックスのアルミニウム合金や炭化ホウ素粒子表面に気泡が残り易い。この気泡は残存すると物性低下および流動性低下の諸問題を発生するために真空脱泡することが好ましい。また、真空処理は、アルミニウム合金と炭化ホウ素粒子とを馴染ませる効果もある。真空処理は、10−1〜10Paで5〜10分行うのが好ましい。
【0040】
また、第一の製造方法、第二の製造方法ともに、アルミニウム合金に含まれるSiは1質量%以下とすることが好ましい。上述のように、アルミニウム合金のSi量を所定範囲に調整することにより、マトリックス合金自体の高い破壊伸びが得られ、また、アルミニウムホウ化物の生成を阻害することがなく、炭化ホウ素粒子の分散性及び耐衝撃性を向上させることができるためである。
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明を説明する。
【0042】
[実施例1]
溶解坩堝設備としては、600Kg処理用の真空溶解炉を用いた。坩堝中に約5Kg塊のアルミニウム合金(JIS1050)インゴットを総量で500Kg入れ、その空きスペースにMg粉末2.5質量%混合した炭化ホウ素粒子(平均粒径20μm:レーザー回折式粒度分布測定によるD50)を40Kg投入した。この状態で、投入した炭化ホウ素粒子の厚さが100mmを超える場所は無かった。
【0043】
次に、室温下で真空引きし雰囲気を窒素と置換し、その後10L/minの流量で窒素をフローした。坩堝内を800℃まで加熱し、800℃で30分キープした。このようにして、得られたアルミニウム合金溶湯は充填材としての炭化ホウ素粒子が偏析することなく粉末がきれいに分散していた。
【0044】
次に高速でカーボン製の攪拌子で攪拌を行った後、炭化ホウ素粒子を含有したアルミニウム合金溶湯を真空脱泡(10−1Pa、5分)した。この炭化ホウ素粒子を含有したアルミニウム合金溶湯を砂型に流し込んで、アルミニウム合金鋳物のJIS H 5202に準じて炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の4号試験片(JISZ2201)5本を得た。
【0045】
試験片の密度をアルキメデス法により測定し、炭化ホウ素の含有率を算出した。その結果、炭化ホウ素粒子の含有率の平均は8体積%であった。含有率の最大値は10体積%、最小値は7体積%であり、ばらつきは小さく、均一に炭化ホウ素粒子が分散されていることを確認した。さらに、炭化ホウ素粒子表面にはAlB12等のアルミニウムホウ化物(厚さ2μm)の膜が均一に形成されていた。また、この鋳造品の引っ張り破壊伸び(測定機器:インストロン社製万能材料試験機)は21%であった。得られた試験片の切断面を顕微鏡で確認したところ、炭化ホウ素粒子の分散は均一であり、炭化ホウ素粒子断面の面積から算出した等価円直径で1mm以上の炭化ホウ素粒子の凝集体は見られなかった。
【0046】
[実施例2]
溶解坩堝設備として600Kg処理用の真空溶解炉を用いて行った。溶解坩堝中でアルミニウム合金(JIS1060)500Kgを800℃で溶解した。アルミニウム合金溶湯を窒素雰囲気に維持し、その中にMg粉末2質量%を混合した炭化ホウ素粒子を25Kg用意した。
【0047】
この炭化ホウ素粒子を500g程度の量で粉末が飛散しないようにアルミ箔に包みアルミニウム合金溶湯中に投下した。一度に全部を投入できないので、炭化ホウ素粒子は8回に分けて投入した。この間、アルミニウム合金溶湯はカーボン製の攪拌子で攪拌した。 すべての炭化ホウ素粒子を投入し終わったら、60分保持後、高速で攪拌し炭化ホウ素粒子とアルミニウム合金の馴染みを良くした。分散終了後、溶湯中の気泡を抜くために真空脱泡(1Pa、10分)を行った。この炭化ホウ素粒子を含有したアルミニウム合金溶湯を砂型に流し込んで、アルミニウム合金鋳物のJISH5202に準じて炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の4号試験片(JISZ2201)5本を得た。
【0048】
試験片の密度をアルキメデス法により測定し、炭化ホウ素の含有率を算出した。その結果、炭化ホウ素粒子の含有率の平均は5体積%であった。含有率の最大値は6体積%、最小値は4体積%であり、ばらつきは小さく、均一に炭化ホウ素粒子が分散されていることを確認した。さらに、炭化ホウ素粒子表面にはAlB12等のアルミニウムホウ化物(厚さ2μm)の膜が均一に形成されていた。また、この鋳造品の引っ張り破壊伸び(測定機器:インストロン社製万能材料試験機)は25%であった。得られた試験片の切断面を顕微鏡で確認したところ、炭化ホウ素粒子の分散は均一であり、炭化ホウ素粒子断面の面積から算出した等価円直径で1mm以上の炭化ホウ素粒子の凝集体は見られなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 アルミニウム合金
2 炭化ホウ素粒子
3 アルミニウムホウ化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子が2〜10体積%分散してなり、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜が形成されており、引張り破壊伸びが10%以上であることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。
【請求項2】
前記炭化ホウ素粒子に対して、Mgを0.1〜10質量%含む請求項1記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。
【請求項3】
前記アルミニウム合金に含まれるSiは1.0質量%以下である請求項1または2記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料。
【請求項4】
Mgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子およびアルミニウム合金、または、炭化ホウ素粒子およびMgを含むアルミニウム合金からなる原料を用意し、
前記原料を窒素雰囲気中700〜1000℃で加熱溶解処理後に攪拌混合することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。
【請求項5】
窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したアルミニウム合金の中にMgを含む粉末を混合した炭化ホウ素粒子を投入し、または窒素雰囲気中700〜1000℃に加熱溶解したMgを含むアルミニウム合金の中に炭化ホウ素粒子を投入して、攪拌混合しながら700〜1000℃で加熱処理することにより、前記炭化ホウ素粒子の表面にアルミニウムホウ化物の膜を形成し、アルミニウム合金のマトリックス中に炭化ホウ素粒子を2〜10体積%分散させることを特徴とする炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金に含まれるSiは1.0質量%以下である請求項4または5記載の炭化ホウ素含有アルミニウム複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−74444(P2011−74444A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226825(P2009−226825)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】