説明

炭化水素の製造方法

【課題】高い一酸化炭素転化率および高い連鎖成長率で、一酸化炭素から炭化水素を製造する方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物にジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが担持された触媒であって、ジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが触媒外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に総量の75%以上が担持された触媒の存在下に、一酸化炭素と水素を反応させて炭化水素を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウムと、コバルトおよび/またはルテニウムとが金属酸化物の外表面近傍に選択的に担持された触媒を用いて、一酸化炭素から炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素を水素で還元して炭化水素を製造する、いわゆるフィッシャー・トロプシュ(FT)合成法は、硫黄分を含まないクリーンな燃料基材の製造方法として知られている。FT合成では、鉄、ルテニウム、コバルトなどの活性金属をシリカやアルミナなどの担体上に担持して得られる触媒を用いて実施されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、上記活性金属に加えて第2金属を組み合わせて使用することにより、触媒性能が向上することが報告されている(例えば、特許文献2および3参照。)。かかる第2金属としては、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられ、触媒性能である一酸化炭素の転化率(活性)または連鎖成長確率(選択性)の向上を目的に適宜使用されている
【特許文献1】特開平4−227847号公報
【特許文献2】特開昭59−102440号公報
【特許文献3】国際公開第2004/085055号パンフレット
【0003】
クリーンな中間留分(燃料基材)を収率良く製造する為には、一酸化炭素の転化率が高いことはもちろん、ワックス生成の指標である連鎖成長確率が高いことが必要である。後者は、通常、FT合成よりもその後段プロセスであるワックス水素化分解の方が高収率で中間留分を製造することができるからである。
従って、FT合成触媒としては、高い一酸化炭素転化率および高い連鎖成長確率を与えるような触媒開発が進められてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの触媒は、ある程度その性能が向上されてきてはいるものの、必ずしも十分なものとはいえない。更なる触媒性能の向上は、プロセス全体の経済性を向上させるためにも不可欠である。
本発明は、特定の方法により調製された高性能な触媒を用いて一酸化炭素から炭化水素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、活性金属および第2金属が担体の外表面近傍に選択的に担持された触媒を用いることにより、一酸化炭素から炭化水素を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、金属酸化物にジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが担持された触媒であって、ジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが触媒外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に総量の75%以上が担持された触媒の存在下に、一酸化炭素と水素を反応させて炭化水素を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高い一酸化炭素転化率および高い連鎖成長率で、一酸化炭素から炭化水素を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において用いる触媒は、金属酸化物にジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが担持された触媒である。より具体的には、金属酸化物にジルコニウムを担持して得られる担体に、コバルトおよび/またはルテニウムが担持されたものであり、ジルコニウムと、コバルトおよび/またはルテニウムとが、触媒の外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に、総量の75%以上が担持されたものである。
【0008】
本発明において用いる金属酸化物としては特に制限は無いが、シリカ、チタニア、アルミナ、マグネシアなどを挙げることができ、好ましくはシリカまたはアルミナである。
上記金属酸化物の性状については特に制限は無いが、窒素吸着法で測定される比表面積が50〜800m/gであることが好ましく、150〜500m/gがより好ましい。
また、金属酸化物の平均細孔径としては6〜30nmが好ましく、10〜20nmがより好ましい。平均細孔径が6nm未満ではジルコニウムの担持時間が長くなる傾向があり、好ましくない。一方、平均細孔径が30nmを超えるとジルコニウムが金属酸化物の内部にまで入りやすくなる傾向があるので好ましくない。
上記金属酸化物の形状に制限は無いが、実用性を考慮すると、一般に石油精製や石油化学の実装置で使用されている球状、円柱状および三つ葉型などが良い。また、その粒子径についても制限は無く、実用性から10μm〜10mmが良い。
【0009】
本発明で用いる触媒は以下のようにして調製される。
本発明で用いる触媒の調製に際しては、まず金属酸化物を前処理する。この前処理は不可欠であり、重要な工程である。以下に前処理について説明する。
まず、金属酸化物をpH7以下の水溶液に浸す。このとき使用する水溶液として硝酸水溶液、酢酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸水溶液、イオン交換水、蒸留水、アンモニウム水溶液を挙げることができる。またpHは5〜7が好ましく、6〜7がより好ましい。pHが5未満の場合、前処理後に担持するジルコニウム濃度を濃くする必要があり、経済的に良くない。
金属酸化物をpH7以下の水溶液に浸す時間は、そのまま放置の場合は好ましくは10〜72時間、振動させる場合は好ましくは1〜12時間、超音波をかける場合は好ましくは1〜30分である。いずれの場合も、金属酸化物を必要時間以上浸しておいても影響は無い。上記時間は水溶液の温度が室温の場合であり、水溶液を加熱することで浸す時間を節約することもできる。ただし50℃を超えると水の蒸発が起こりやすくなり、pHが変化するので好ましくない。
【0010】
前処理を所定時間行った後、過剰のジルコニウムを含む溶液を注ぎ込み、ジルコニウムを金属酸化物に担持する。このとき、前処理後の水溶液の上澄み液を除去すると必要な容器が小さくなるので好ましい。ここでいう過剰とは、金属酸化物の体積に対して2倍以上の体積量を意味する。
ジルコニウム源としては硫酸ジルコニ−ル、酢酸ジルコニ−ル、炭酸ジルコニ−ルアンモニウム、三塩化ジルコニウムを用いることができ、炭酸ジルコニ−ルアンモニウムおよび酢酸ジルコニ−ルが好ましい。
担持するジルコニウム量としては、金属酸化物に対して10質量%以下が好ましい。10質量%を超えると金属酸化物の外表面近傍に選択的に担持できなくなるとともに、一酸化炭素の転化率が減少する傾向にある。
ジルコニウムの担持時間は目的とする担持量に依存し、通常3〜72時間である。
【0011】
ジルコニウム担持終了後、溶液と担体(ジルコニウムを担持した金属酸化物)とを分離し、その後、担体を乾燥処理する。乾燥処理は特に制限されるものではなく、例えば、空気中での自然乾燥や減圧下での脱気乾燥を挙げることができる。通常、100〜200℃、好ましくは110〜130℃で、2〜24時間、好ましくは5〜12時間行う。
乾燥後、焼成処理してジルコニウムを酸化物へと変換する。焼成処理も特に制限されるものではなく、通常、空気雰囲気下に340〜600℃、好ましくは400〜450℃で、1〜5時間行うことができる。
【0012】
ジルコニウムは、担体の外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に、全ジルコニウム量の75%以上、好ましくは80%以上が担持される。75%未満では、反応活性が低下するため好ましくない。
【0013】
次に、上記で得られた担体に、活性金属を担持する。
FT合成における活性金属としては、通常、ルテニウム、コバルト、鉄が用いられるが、本発明において用いる活性金属は、ジルコニウムの特性を生かすため、ルテニウム若しくはコバルトまたは両者の組合わせに限定される。
ルテニウムおよび/またはコバルトの担持量については特に制限は無いが、担体に対して好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜15質量%である。この担持量が3質量%未満では活性が不十分であり、50質量%を超えると活性金属の凝集が起こりやすくなり、一酸化炭素の転化率が減少する傾向にある。
【0014】
活性金属(ルテニウムおよび/またはコバルト)を、金属酸化物にジルコニウムが担持された担体の外表面近傍に選択的に担持する為の方法としては、スプレー担持法を挙げることができる。従来のIncipient Wetness法に代表される含浸法では、本発明の効果が得られない。
具体的には、上記担体を攪拌しながら50〜350℃、好ましくは100〜250℃において活性金属の前駆体化合物を含んだ水溶液またはアルコール溶液を担体にスプレー含浸する。温度が50℃未満の場合、活性金属は担体粒子の中央まで入り込む傾向があり、一方、350℃を越えると外表面のみに活性金属が担持され、一酸化炭素の転化率が減少する傾向にあるので、実用上好ましくない。
ルテニウムおよび/またはコバルトを含む前駆体化合物としては特に限定されることは無く、その金属の塩または錯体を使用することができる。例えば、硝酸塩、塩酸塩、蟻酸塩、プロピオンサン塩、酢酸塩などを挙げることができる。
【0015】
活性金属担持後、温度100〜200℃、好ましくは110〜130℃で、2〜24時間、好ましくは5〜10時間乾燥し、次いで、空気雰囲気下に340〜600℃、好ましくは400〜450℃で、1〜5時間焼成処理を行い、活性金属を酸化物へと変換する。
【0016】
かくして調製された本発明の触媒は、ジルコニウムと、コバルトおよび/またはルテニウムとが、触媒の外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)、好ましくは1/6以内(外表面側)に、総量の75%以上、好ましくは80%以上が担持されている。75%未満では、反応活性が低下するため好ましくない。
【0017】
本発明は、上記の如くして調製された触媒を用いて一酸化炭素の還元反応を行う。反応温度は好ましくは170〜320℃、より好ましくは180〜250℃である。反応温度が170℃未満では一酸化炭素がほとんど反応せず、炭化水素収率が低い傾向にある。また、反応温度が320℃を超えると、メタンなどのガス生成量が増加する傾向にあるので好ましくない。
【0018】
触媒に対するガス空間速度に特に制限は無いが、通常、500〜4000h−1であり、好ましくは1000〜3000h−1である。ガス空間速度が500h−1未満では液体燃料の生産性が低下する傾向にあり、また4000h−1を超えると反応温度が高くなることに伴いガス生成が大きくなる傾向にあるので好ましくない。
【0019】
反応圧力(一酸化炭素と水素からなる合成ガスの分圧)は特に制限が無いが、好ましくは0.5〜7MPaの範囲であり、より好ましくは2〜4MPaの範囲で反応を行うことができる。反応圧力が0.5MPa未満では一酸化炭素の転化率が低下する傾向にあり、また7MPaを超えると設備投資額が大きくなる傾向にあり、好ましくない。
【0020】
原料としては一酸化炭素と水素を主成分とする合成ガスであれば特に制限は無いが、通常、水素/一酸化炭素のモル比が1.2〜3.0であり、1.8〜2.2の範囲であることが望ましい。上記モル比が1.2未満の場合、一酸化炭素転化率が減少する傾向にあり、一方3.0を超えると連鎖成長確率が減少する傾向にある。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
(触媒A)
球状のシリカ(平均細孔径15nm、平均粒子径1.75mm)30gを250mlのガラス瓶に秤量し、そこへpH6.5の硝酸水溶液100mlを加え、超音波を40℃で10分照射した。その後、約50mlの上澄み液をパスツールピペットで吸出し、濃度0.2mol/Lの炭酸ジルコニ−ルアンモニウム水溶液150mlを加えて24時間室温で放置した。その後、ろ紙でろ過した後、120℃で6時間真空乾燥を行い、次いで空気雰囲気下、430℃で3時間焼成した。
得られた担体に対して金属コバルトとして10質量%に相当する量の硝酸コバルトの水溶液を200℃で担体にスプレー含浸させた。含浸後、120℃で12時間乾燥し、その後420℃で3時間焼成し、目的の触媒を得た。
この触媒中のジルコニウムおよびコバルト量を蛍光X線を用いて定量化した。また、電子走査マイクロ分析(EPMA)により、触媒粒子の半径方向に対するジルコニウムおよびコバルトの分布および定量を行った。表1に、上記測定結果として、触媒中の全ジルコニウム量に対する外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に存在するジルコニウム量の割合を示す。また、触媒中の全コバルト量に対する外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に存在するコバルト量の割合を示す。
【0023】
(触媒B)
円柱状のアルミナ(平均細孔径11.5nm、φ1/16インチ、長さ約3mm)30gを250mlのガラス瓶に秤量し、そこへイオン交換水(pH7.0)100mlを加え、超音波を40℃で10分照射した。その後、約50mlの上澄み液をパスツールピペットで吸出し、濃度0.15mol/Lの炭酸ジルコニ−ルアンモニウム水溶液150mlを加えて36時間室温で放置した。その後、ろ紙でろ過した後、120℃で6時間真空乾燥を行い、次いで空気雰囲気下、430℃で3時間焼成した。
得られた担体に対して金属コバルトとして10質量%に相当する量の酢酸コバルトの水溶液を200℃で担体にスプレー含浸させた。含浸後、120℃で12時間乾燥し、その後420℃で3時間焼成し、目的の触媒を得た。
この触媒中のジルコニウムおよびコバルト量を蛍光X線を用いて定量化した。また、電子走査マイクロ分析(EPMA)により、触媒粒子の半径方向に対するジルコニウムおよびコバルトの分布および定量を行った。表1に、上記測定結果として、触媒中の全ジルコニウム量に対する外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に存在するジルコニウム量の割合を示す。また、触媒中の全コバルト量に対する外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に存在するコバルト量の割合を示す。
【0024】
(触媒C)
スプレー含浸に代えてIncipient Wetness法でコバルトを含浸させたこと以外は、触媒Aと同じ触媒調製および分析を行った。得られた分析結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例1)
固定床流通式反応装置に触媒Aを20g充填した。反応前に水素気流下において400℃で2時間、触媒の還元処理を行った。次に、水素/一酸化炭素が2/1(モル比)の原料混合ガスをガス空間速度2500h−1で供給し、反応温度215℃、反応塔内圧力3.0MPaの条件で反応を行った。反応部出口のガス組成および生成油をガスクロマトグラフィーで分析し、一酸化炭素転化率および連鎖成長確率を常法に従い算出した。その結果を表2に示す。
【0027】
(実施例2)
触媒Aの代わりに触媒Bを使用したこと以外は、実施例1と同じ反応条件下で反応および分析を行った。その結果を表2に示す。
【0028】
(比較例1)
触媒Aの代わりに触媒Cを使用したこと以外は、実施例1と同じ反応条件下で反応および分析を行った。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表1および表2から、外表面近傍に活性金属および第2金属(ジルコニア)が選択的に担持された触媒を用いることにより、一酸化炭素転化率および連鎖成長確率が高い、すなわち、炭化水素を効率良く製造することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物にジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが担持された触媒であって、ジルコニウムとコバルトおよび/またはルテニウムが触媒外表面から中心に向けた半径の1/5以内(外表面側)に総量の75%以上が担持された触媒の存在下に、一酸化炭素と水素を反応させて炭化水素を製造する方法。
【請求項2】
金属酸化物がアルミナまたはシリカであることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素を製造する方法。
【請求項3】
コバルトおよび/またはルテニウムの担持量が、金属酸化物にジルコニウムを担持してなる担体に対して5〜15質量%である触媒を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素を製造する方法。
【請求項4】
反応温度が180〜250℃であることを特徴とする請求項1〜3に記載の炭化水素を製造する方法。

【公開番号】特開2008−239878(P2008−239878A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84602(P2007−84602)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】