説明

炭化水素ポリマー添加剤を含むエラストマー組成物

少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物とが含まれるエラストマー組成物に関する。また、少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、炭化水素ポリマー添加剤の分子量が520g/モルから650g/モルであり、Tgが48℃から53℃であるエラストマー組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<優先権の主張>
本願は2008年1月18日出願のUSSN 61/022,122に基づく優先権を主張する。
【0002】
本願は炭化水素ポリマー添加剤と、エラストマー組成物におけるこの添加剤の使用に関する。特に、本願は硬化エラストマー組成物における炭化水素ポリマー添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
エラストマー組成物は、トレッドやサイドウォール等のタイヤ部材、ホース、ベルト、履物、防振部材等の多くの用途に用いられている。エラストマー組成物の配合処方に用いる原材料の選択は、目標とする物性、用途及び最終製品のバランスに依存する。
【0004】
例えばタイヤ業界では、タイヤ製造工場におけるグリーン(未硬化)組成物の加工特性と、硬化ゴムタイヤ複合材料の使用時の物性とのバランスが重要である。また、未硬化のエラストマー組成物の加工容易性を維持しながら、農業用タイヤ、航空機用タイヤ、土木機械用タイヤ、大型トラック用タイヤ、鉱業用タイヤ、オートバイ用タイヤ、小型トラック用タイヤ、及び乗用車用タイヤ等の様々な条件下で用いられるタイヤの耐久性を改善することも非常に重要である。
さらに、未硬化エラストマー組成物の加工性を損なうことなく、あるいは、硬化エラストマー組成物の物性を維持または改善しながら、空気遮断性の改善、曲げ疲労の改善、及びエラストマー組成物の他のタイヤ構成部材への接着性の改善を達成する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、エラストマー組成物の加工性を高めるために、ナフテン系、パラフィン系、及び芳香族系オイル等の種々のプロセスオイルがタイヤ用コンパウンドに添加されてきた。芳香族オイルは、加工性改良効果と、例えば接着性等のその他の改良効果があることから、広く用いられてきた。
しかし、このようなプロセスオイル、特に芳香族系抽出油(distillate aromatic extract)を含む芳香族オイルは、健康、安全、及び環境への影響を考慮して次第に他のオイルに置き換えられている。例えば、European Union Directive 2005/69/ECは、2010年1月1日までに乗用車用タイヤ、小型及び大型トラック用タイヤ、農業用タイヤ、及びオートバイ用タイヤ中の多環芳香族炭化水素(PAH)を削減することを要求している。
したがってゴム製造者は、油展(OE)ゴム中に含まれる芳香族オイルを代替オイル、または別の加工助剤で置き換える必要がある。
【0006】
芳香族系抽出処理油(TDAE)及び軽度抽出溶媒和物(MES)等の現在のPAH代替オイルは供給量が限られており、また力学的特性の低下、湿潤タイヤ・トランクション(tire wet traction)性能の低下、引き裂き強度の低下、タイヤの耐久性の低下(例えばTDAE及びMESを用いたときのタイヤの構成部材間の接着性は、従来の芳香族オイルより低い)等の欠点がある。
したがって、PAH等のタイヤ及びタイヤトレッド用コンパウンドに用いられるプロセスオイルの代替物であって、タイヤの性能を低下させず、加工上の有利な特性が維持される代替物が求められている。
【0007】
従来、オイル状加工助剤は多くのタイヤ部材に用いられてきた。トレッド用コンパウンドには、ポリブタジエンゴム(BR)、油展ポリブタジエンゴム(OE-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、油展スチレン-ブタジエンゴム(OE-SBR)、イソプレン-ブタジエンゴム(IBR)、及びスチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)が含まれている。サイドウォール及び層コート部材には、ブチルゴム及びSBRが含まれ、加工助剤として芳香族オイルが用いられている。スチールベルト被覆材、ゴム・ストリップ材、クッション材、バリヤ材、ベース材、ウェッジ材等の内部部材には主として天然ゴムと芳香族オイルが含まれている。
タイヤ用コンパウンドに用いられる原材料はタイヤの全ての性能に影響する。したがって、従来のプロセスオイルの代替物は、ゴムと相溶性があり、ゴムの硬化を阻害せず、全てのタイヤ組成物中に容易に分散し、安価であり、タイヤの性能を低下させないことが必要である。
【0008】
大部分のタイヤは特定の性能が得られるように設計されコンパウンド化されるため、従来の芳香族オイルの代替物は、回転抵抗、トラクション、及び耐摩耗性等のタイヤの性能を維持できることが望ましい。
タイヤ用及びタイヤトレッド用コンパウンドに用いられる芳香族オイルの代替物が求められている。特に、加工上の有利な特性が維持され、タイヤの性能を低下させない代替物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は、少なくとも1の炭化水素ポリマー添加剤を含むエラストマー組成物に関する。本願のエラストマー組成物は、空気タイヤ部材、ホース、ベルト、ソリッドタイヤ、履物部材、グラフィックアート用ローラー、防振部材、医薬品用部材、接着剤、シーラント、保護コーティング膜、燃料タンク用ブラダー及び硬化用途等の様々な用途において有用である。
【0010】
特に、少なくとも1のエラストマーと炭化水素ポリマー添加剤から成るエラストマー組成物であって、炭化水素ポリマー添加剤が60から90重量%のピペリレンと、5から15重量%の環状化合物と、5から20重量%のスチレン系化合物とを含むエラストマー組成物に関する。あるいは、エラストマー組成物にはさらに、最大5重量%のイソプレンと、最大10重量%のアミレン(amylene)と、最大5重量%のインデン系化合物とが含まれる。
【0011】
また本願は、少なくとも1のエラストマーと炭化水素ポリマー添加剤から成るエラストマー組成物であって、炭化水素ポリマー添加剤が520から650g/モルの分子量と、45から55℃のガラス転移温度(Tg)とを有するエラストマー組成物に関する。このエラストマー組成物はタイヤ及びその他の硬化ゴム物品の製造において有用である。
【0012】
本願の炭化水素ポリマー添加剤により、現行のタイヤの性能を維持しながら、タイヤの製造に用いられる芳香族プロセスオイルの一部または全部を置き換えることができる。
さらに、芳香族プロセスオイルに代えて本願の炭化水素ポリマー添加剤を用いることにより、タイヤのトラクション等級(traction rating)を維持しながらタイヤ−車両トラクション性能(tire-vehicle traction performance)、耐摩耗性(トレッドの磨耗)、及びタイヤの耐久性を改善することができる。
あるいは、芳香族オイルを含むタイヤ用ゴム組成物の性能を維持するために、炭化水素ポリマー添加剤にナフテン系オイルまたはパラフィン系オイルをブレンドして用いることができる。
【0013】
以下、本願の実施形態について詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明の理解を助けるため、本願の種々の実施形態とその変形例について実施例及び定義を含め説明する。以下、特定の実施形態に基づき説明するが、これらの実施形態は例示であり、本願発明を他の形態で実施することもできる。本願発明の範囲は特許請求の範囲の記載、及びその均等な範囲に基づき定められる。「発明」とは、請求項に記載された1以上の発明を意味するが、その全部を意味するとは限らない。
【0015】
「phr」とは、ゴム100部に対する部を意味し、組成物中の全エラストマー(ゴム)成分の総量に対する各成分の量を表す、この技術分野で一般的な計量基準である。所与の処方中に1,2,3またはそれ以上の種類のゴム成分が含まれている場合でも、ゴム成分のphrまたは全ゴム成分の部を常に100phrとする。他のゴム以外の成分の量を、ゴム100部に対する比率に基づいてphrで表す。
【0016】
本願に示す炭化水素ポリマー添加剤成分のパーセンテージは、特に断りの無い限り重量%である。
実質的に炭化水素ポリマー添加剤成分が無い成分というときは、その成分中に炭化水素ポリマー添加剤が0.5重量%未満含まれることを意味し、好ましくはその成分中に炭化水素ポリマー添加剤が0.25重量%未満含まれることを意味し、最も好ましくはその成分中に炭化水素ポリマー添加剤が0.1重量%未満含まれることを意味する。
【0017】
本願で「エラストマー」というときは、本願に参照として組み込まれるASTM D 1566の定義に適合するポリマーまたはポリマーの混合物を意味する。本願では「エラストマー」と「ゴム」を同義で用いることがある。
【0018】
本願のエラストマー組成物には、種々のエラストマー、炭化水素ポリマー添加剤、及びフィラーが含まれる。ひとつの実施形態では、種々のエラストマーはエラストマー組成物中に単独または混合物として100phr存在し、炭化水素ポリマー添加剤5から50phr存在する。
【0019】
炭化水素ポリマー添加剤は、好ましくは60から90%のピペリレンと、5 から15%の環状化合物と、5から20%のスチレン系化合物とから成る。炭化水素ポリマー添加剤には、任意成分として最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれる。
ひとつの実施形態では、炭化水素ポリマー添加剤を1種類だけ用いる。別の実施形態では、2種類以上の炭化水素ポリマー添加剤をブレンドする。
2種類以上の炭化水素ポリマー添加剤を用いる場合、炭化水素ポリマー添加剤のブレンド物中には60から90%のピペリレンと、5 から15%の環状化合物と、5から20%のスチレン系化合物とが含まれる。
炭化水素ポリマー添加剤のブレンド物中には、任意成分として最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれる。
好ましくは、エラストマー組成物中には炭化水素ポリマー添加剤、または炭化水素ポリマー添加剤が5から50phr含まれる。
【0020】
ひとつの実施形態では、本願のエラストマー組成物は、トレッドや他のタイヤ用部材等、タイヤにおいて用いられる。タイヤ用処方及び典型的トレッド用処方では、エラストマー組成物には:エラストマーが100phr;例えばカーボンブラックおよび/またはシリカ等のフィラーが50から90phr;炭化水素ポリマー添加剤が5から50phr;任意成分のZnOが約3phr;任意成分のステアリン酸が約1phr;任意成分の促進剤が約2phr;任意成分の硫黄が約1phr;任意成分の加工助剤が約5phr;及び、用途に応じて任意成分の劣化防止剤が約4phr含まれる。
【0021】
いくつかの実施形態では、炭化水素ポリマー添加剤は他の加工助剤及びオイルとともに用いられ、あるいは、他の加工助剤及びオイルに代えて用いられる。好ましくは、エラストマー組成物には芳香族オイルが実質的に含まれていない。芳香族オイルが実質的に含まれていないとは、エラストマー組成物に含有される芳香族オイルの量が0.5phr未満、好ましくは0.25phr未満、最も好ましくは0.1phr未満であることを意味する。芳香族オイルとは、1または複数の芳香族環化合物を少なくとも35重量%含む物質である。一般に、芳香族オイルには不飽和多環化合物が含まれている。
【0022】
いくつかの実施形態では、芳香族オイルを炭化水素ポリマー添加剤で置き換えることにより、コンパウンドのタック性、接着性、及び引裂強度が改善され、また経時劣化における引張強度保持性、耐摩耗性、貯蔵弾性率G'が改善され、タイヤのトラクションの予想に用いられている0℃でのタンジェントデルタが増大する。
【0023】
<エラストマー>
エラストマー組成物には少なくとも1のエラストマーが含まれる。エラストマー組成物に含まれる典型的エラストマーは、ブチルゴム、分岐(星状分岐)ブチルゴム、星状分岐ポリイソブチレンゴム、イソブチレンのランダムコポリマー,パラ-メチルスチレン(ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン))、ポリブタジエンゴム(BR)、高シス-ポリブタジエン、ポリイソプレンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム(IBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、溶液法-スチレン-ブタジエンゴム(sSBR)、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EP)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、合成-ポリイソプレン、汎用ゴム、天然ゴム、及びこれらのエラストマーのハロゲン化物,及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。
本願で有用なエラストマーは、公知の方法で製造することができる。本願発明はエラストマーの製造方法により限定されるものではない。
【0024】
エラストマーはハロゲン化されていても、ハロゲン化されていなくてもよい。好ましいハロゲン化エラストマーは、ハロゲン化ブチルゴム、ブロモブチルゴム、クロロブチルゴム、ハロゲン化分岐(星状分岐)ブチルゴム、及びハロゲン化イソブチレン/パラ-メチルスチレンランダムコポリマーから成る群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、エラストマー組成物は2以上のエラストマーのブレンド物から成る。エラストマーのブレンド物はリアクターブレンド物、および/または溶融混合物である。各エラストマー成分の比率は様々であり、エラストマー組成物中のエラストマー含有量は、配合処方において100phrと表される。
【0026】
有用なエラストマーには、イソブチレンベースのホモポリマーまたはコポリマーが含まれる。イソブチレンベースのエラストマーとは、イソブチレン由来の単位を少なくとも70モル%含むエラストマーまたはポリマーを意味する。このようなポリマーは、イソブチレン由来ユニット等のC4からC7イソモノオレフィン由来ユニットと、少なくとも1の他の重合性ユニットとのランダムコポリマーである。イソブチレンベースのエラストマーは、ハロゲン化されていても、ハロゲン化されていなくてもよい。、
【0027】
また、エラストマーはブチル型ゴムまたは分岐ブチル型ゴム、及びこれらゴムのハロゲン化物でもよい。本願で有用なエラストマーは不飽和ブチルゴムであり、例えばホモポリマーブチルゴム、あるいはオレフィン、イソオレフィン、及びマルチオレフィンとのコポリマー等である。
種々の有用なブチルゴムが公知であり、本願に参照として組み込まれるRUBBER TECHNOLOGY, p.209-581 (Morton, ed., Chapman & Hall 1995)、THE VANDERBILT RUBBER HANDBOOK, p.105-122 (Ohm ed., R.T. Vanderbilt CoL, Inc. 1990)、及びKresge, Wang,8 KJRK-OTHMER ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY, p.9340955 (John Wiley & Sons, Inc. 4th ed. 1993)に記載されている。
他の有用な不飽和エラストマーの非限定的例示として、ポリ(イソブチレン-イソプレン)共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン-ブタジエン)共重合体、天然ゴム、及び星状分岐ブチルゴムがが挙げられる。
【0028】
ひとつの実施形態では、エラストマーは従来タイヤ用ゴムのコンパウンドに用いられている少なくとも1の非イソブチレンベースゴムであり、このようなエラストマーを本願では「汎用ゴム」と呼ぶ。汎用ゴムは、高強度、高耐磨耗性で、さらに低ヒステリシスで、高弾性を有するゴムである。このようなエラストマーの熱及びオゾンに対する耐久性が低い場合、エラストマーのコンパウンドに劣化防止剤を添加する必要がある。
【0029】
汎用ゴムの例として天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリ(スチレン-ブタジエン)ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリ(イソプレン-ブタジエン)ゴム(IBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
またエラストマー組成物は、エチレン-プロピレンゴム(EP)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)及びこれらの組み合わせ等のエチレン及びプロピレン由来のユニットから成るゴムを含む。EP及びEPDMも汎用ゴムである。EPDMの製造に用いる第3モノマーの例として、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、等が挙げられる。
【0031】
ひとつの実施形態では、エラストマーにはポリブタジエンゴム(BR)が含まれる。ポリブタジエンゴムの100℃(ML 1+4, ASTM D1646)で測定したムーニー粘度の範囲は、35から70、または40から約65、また別の実施形態では45から60である。
【0032】
別の有用な合成ゴムは高シス-ポリブタジエン(シス-BR)である。「シス-ポリブタジエン」または「高シス-ポリブタジエン」とは、シス構造の含有率が少なくとも95%の1,4-シスポリブタジエンを意味する。
【0033】
また、エラストマー組成物にポリイソプレン(IR)ゴムが含まれていてもよい。ポリイソプレンゴムの100℃(ML 1+4, ASTM D1646)で測定したムーニー粘度の範囲は、35から70、または40から約65、また別の実施形態では45から60である。
【0034】
別の実施形態では、エラストマー組成物に天然ゴムが含まれていてもよい。天然ゴムに関しては、本願に参照として組み込まれるSubramaniam in RUBBER TECHNOLOGY, p 179-208 (Morton, ed., Chapman & Hall, 1995)に詳しく説明されている。好ましい天然ゴムは、SMR CV, SMR 5, SMR 10, SMR 20, SMR 50及びこれらの混合物が含まれるマレーシアゴム等の技術的格付けゴム(TSR)から選択されるが、これらに限定されない。好ましい天然ゴムの100℃(ML 1+4, ASTM D1646)で測定したムーニー粘度の範囲は30から120、より好ましくは40から80である。
【0035】
本願で有用なエラストマーは、他の様々なゴムやプラスチックとブレンドして用いることができ、特に例えばナイロン、またはポリプロピレンまたはポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン等の熱可塑性樹脂とブレンドして用いることができる。
このようなエラストマー組成物は、ブラダー、タイヤのインナーチューブ、タイヤのインナーライナー、エアースリーブ(例えば空気バネ)、ダイヤフラムや、その他の空気または酸素保持能力が要求される用途に用いられる空気バリア材として有用である。
【0036】
<炭化水素ポリマー添加剤(HPA)>
エラストマー組成物にはさらに炭化水素ポリマー添加剤(HPA)が含まれる。本願で有用なHPAには、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族で修飾された脂肪族炭化水素樹脂、水素化ポリシクロペンタジエン樹脂、ポリシクロペンタジエン樹脂、ガムロジン、ガムロジンエステル、ウッドロジン、ウッドロジンエステル、トールオイルロジン、トールオイルロジンエステル、ポリテルペン、芳香族修飾ポリテルペン、テルペンフェノール、芳香族修飾水素化ポリシクロペンタジエン樹脂、水素化脂肪族樹脂、水素化脂肪族芳香族樹脂、水素化テルペン、改質されたテルペン、及び水素化ロジンエステル等が挙げられるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、HPAは水素化されている。別の実施形態では、HPAは非極性である。(非極性とは、HPAに極性基を有するモノマーが実質的に含まれていないことを意味する。
【0037】
HPAをエラストマーコンパウンドの材料として用いることができる。ゴム及びタイヤの耐久性、トラクション、及び耐磨耗性の最適化が得られる条件は、HPAをコンパウンド化する方法に依存する。HPAの高分子構造(分子量、分子量分布、及び分岐)により、炭化水素ポリマー添加剤に優れた特性が付与される。
【0038】
好ましいHPAには、芳香族及び非芳香族成分の両者が含まれる。複数のHPA間の相違は、炭化水素ポリマー添加剤の製造に用いられる原料中のオレフィンに起因する。HPAには「脂肪族」炭化水素成分が含まれる。この炭化水素成分は、様々な量のピペリレン、イソプレン、モノオレフィン、及び非重合性パラフィン系化合物が含まれるC4〜C6留分から成る炭化水素鎖を有する。このようなHPAには主にペンテン、ブタン、イソプレン、ピペリレンが含まれ、少量のシクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンが含まれる。HPAには、スチレン、キシレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びインデン等の芳香族ユニットから成るポリマー鎖を有する「芳香族」炭化水素構造が含まれる。
本願発明によれば、ゴムのコンパウンドに用いられるHPAにはピペリレン、イソプレン、アミレン、及び環状化合物等のオレフィンが含まれる。また、HPAにはスチレン系化合物やインデン系化合物等の芳香族オレフィンも含まれる。
【0039】
通常、ピペリレンはシス-l,3-ペンタジエン、トランス-1,3-ペンタジエン、及び混合1,3-ペンタジエン等が含まれる留分またはC5ジオレフィンの合成混合物である。通常、ピペリレンにはイソプレン等の分岐C5ジオレフィンは含まれていない。ひとつの実施形態では、HPAにはピペリレンが40から90%含まれ、または50から90%含まれ、より好ましくは60から90%含まれる。特に好ましい実施形態では、HPAにピペリレンが70から90%含まれている。
【0040】
ひとつの実施形態では、HPAには実質的にイソプレンが含まれていない。別の実施形態では、HPAにイソプレンが最大15%、または10%未満含まれている。また別の実施形態では、HPAにイソプレンが5%未満含まれている。
【0041】
ひとつの実施形態では、HPAには実質的にアミレンが含まれていない。別の実施形態では、HPAにアミレンが最大40% 含まれ、または30%未満含まれ、または25%未満含まれている。また別の実施形態では、HPAにアミレンが10%未満含まれている。
【0042】
環状化合物はC5及びC6環状オレフィン、ジオレフィン、及びこれらの二量体の留分または合成混合物である。環状化合物の非限定的例示として、シクロペンテン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサン、1,3-シクロヘキサジエン、及び1,4-シクロヘキサジエンが挙げられる。ジシクロペンタジエンは、エンドまたはエクソ型である。環状化合物は置換されていても、置換されていなくてもよい。好ましい置換された環状化合物は、C1からC40の直鎖分岐または環状アルキル基、好ましくは1以上のメチル基で置換されたシクロペンタジエン及びジシクロペンタジエン等である。
ひとつの実施形態では、HPAには環状化合物が最大60%、または最大50%含まれる。含有される環状化合物の下限値は、少なくとも約0.1%、または少なくとも約0.5%、または少なくとも約1.0%である。
ひとつの実施形態では、HPAには環状化合物が最大20%、またはゆり好ましくは最大30%含まれる。特に好ましい実施形態ではHPAには環状化合物が約1.0から約15%含まれ、または約5から約15%含まれる。
【0043】
HPAに含まれる好ましい芳香族は、スチレン、インデン、スチレン誘導体、インデン誘導体のいずれか1以上である。特に好ましい芳香族オレフィンは、スチレン、アルファ-メチルスチレン、ベ−タ-メチルスチレン、インデン、及びメチルインデン、及びビニルトルエンである。芳香族オレフィンはHPA中に5から45%含まれ、好ましくは5から30%含まれる。特に好ましい実施形態では、芳香族オレフィンはHPA中に10から20%含まれる。
【0044】
スチレン系化合物には、スチレン、スチレン誘導体、及び置換されたスチレンが含まれる。通常、スチレン系化合物にはインデン系等の融合環は含まれない。ひとつの実施形態では、HPAにはスチレン系化合物が最大60%、または最大50%含まれる。ひとつの実施形態では、HPAにはスチレン系化合物が5から30%含まれ、または5から20%含まれる。好ましい実施形態では、HPAにはスチレン系化合物が10から15%含まれる。
【0045】
HPAにはインデン系化合物が15%未満含まれ、または10%未満含まれる。インデン系化合物には、インデン及びインデン誘導体が含まれる。ひとつの実施形態では、HPAにはインデン系化合物が5%未満含まれる。別の実施形態では、HPAにはインデン系化合物が実質的に含まれない。
【0046】
好ましいHPAの160℃における溶融粘度は300から800センチポアズ(cPs)であり、より好ましくは350から650 cPsである。特に好ましい実施形態では、HPAの160℃における溶融粘度は375から615 cPsであり、または475から600cPsである。溶融粘度はASTM D6267の「J」型スピンドルを備えるブルックフィールド粘度計により測定する。
【0047】
通常、HPAの重量平均分子量(Mw)は約600g/モルより大きく、または約1000g/モルより大きい。ひとつの実施形態では、HPAの重量平均分子量(Mw)は1650から1950g/モルであり、または1700から1900g/モルである。好ましくは、HPAの重量平均分子量は1725から1890g/モルである。
通常、HPAの数平均分子量(Mn)は450から700g/モルであり、または500から675g/モル、またはより好ましくは520から650g/モルである。
HPAのz-平均分子量(Mz)は5850から8150g/モルであり、またはより好ましくは6000から8000g/モルである。Mw, Mn, 及びMzはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求められる。
【0048】
ひとつの実施形態では、HPAの多分散指数(「PDI」, PDI = Mw/Mn)は4以下である。特に好ましい実施形態では、HPAのPDIは2.6から3.1である。
【0049】
好ましいHPAのガラス転移温度(Tg)は約-30℃から約100℃、または約0℃から約80℃、または約40-60℃から約45-55℃、またはより好ましくは約48℃から約℃53である。HPAのTgは、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。
【0050】
上記の樹脂は公知のHPA製造方法により製造することができる。本願発明は、HPAの製造方法により制限されるものではない。
好ましくは、HPAは重合反応器中で、オレフィン原料ストリームと、フリーデルクラフツ触媒またはルイス酸触媒とを、0℃から200℃の温度において接触させることにより製造することができる。通常、フリーデルクラフツ重合は、重合溶媒中の公知の触媒を用いて行われ、溶媒と触媒は洗浄及び蒸留によって除去される。この発明で用いられる重合プロセスは、バッチ式または連続式である。連続重合は、一段重合または多段重合により行うことができる。
【0051】
別の実施形態では、HPAを水素化する。HPAの水素化は公知の方法で行うことができる。本願発明は水素化の方法により限定されるものではない。HPAの水素化は例えばバッチ式または連続式で行うことができる。好ましくは、HPAを触媒を用いて水素化する。HPAの水素化に用いられる触媒は通常、周期律表の6, 8, 9, 10, または11族の元素を用いた、単一金属元素または二種金属元素から成る担持された触媒である。
【0052】
有用な炭化水素ポリマー添加剤の一例は、ExxonMobil Chemical Companyから市販されているOpperaTMシリーズのポリマー性添加剤である。
【0053】
<フィラー及び添加剤>
本願により製造されたエラストマー組成物には、有効量の他の加工助剤、顔料、促進剤、架橋及び硬化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、フィラー、および/またはクレイ等の、ゴムのコンパウンドに通例用いられる他の成分や添加剤が含まれている。
エラストマー組成物にはHPAの他に、例えばプラストマーやポリブテン、またはこれらの混合物等の有用な加工助剤が含まれていてもよい。
【0054】
少なくとも1のエラストマー及び少なくとも1の炭化水素ポリマー添加剤の他に、エラストマー組成物に任意成分として少なくとも1のフィラーが含まれていてもよい。このようなフィラーは、例えば炭酸カルシウム、クレイ、マイカ、シリカ、ケイ酸塩、タルク、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、澱粉、木粉、カーボンブラック、またはこれらの混合物である。フィラーはどのようなサイズでもよく、例えばタイヤの分野では約0.0001μmから約100μmである。
【0055】
本願では、シリカとは溶液法または焼成法等の方法で製造された、あらゆるタイプ及びサイズのシリカまたはその他のケイ酸誘導体またはケイ酸を意味する。シリカには、未処理、沈殿シリカ、結晶性シリカ、コロイドシリカ、ケイ酸アルミニウムまたはケイ酸カルシウム、フュームドシリカ等が含まれる。沈殿シリカは、従来のシリカ、セミ多分散シリカ、または多分散シリカである。
【0056】
また、エラストマー組成物にはクレイが含まれている。クレイの例は、モンモリロナイト(montmorillonite)、ノントロナイト(nontronite)、ベイデライト(beidellite)、ボコスコイト(vokoskoite)、ラポナイト(laponite)、ヘクトライト(hectorite)、サポナイト(saponite)、ソーコナイト(sauconite)、マガダイト(magadite)、ケニヤイト(kenyaite)、ステベンサイト(stevensite)、バーミキュライト(vermiculite)、ハロイサイト(halloysite)、アルミン酸塩酸化物、ハイドロタルサイト、またはこれらの混合物であり、任意に改質剤で処理されていてもよい。
クレイには少なくとも1のケイ酸塩が含まれる。または、フィラーは層状クレイでもよく、任意に有機分子等の改質剤で処理されていてもよい。層状クレイには少なくとも1のケイ酸塩が含まれる。
【0057】
ケイ酸塩に少なくとも1の「スメクタイト」または「スメクタイト型クレイ」が含まれていてもよい。「スメクタイト」または「スメクタイト型クレイ」は膨張結晶格子を有するクレイミネラルの一般分類である。
これには例えば、モンモリロナイト、ベイデライト、及びノントロナイトから成るジオクタヘドラル(dioctahedral)スメクタイト、あるいはサポナイト、ヘクトライト、及びソーコナイトが含まれるトリオクタヘドラル(trioctahedral)スメクタイトが含まれる。また、合成スメクタイトクレイも含まれる。
【0058】
また、ケイ酸塩には天然または合成フィロシリケートが含まれ、例えばモンモリロナイト、ノントロナイト、ベイデライト、ベントナイト、ボルコスコイト(volkonskoite)、ラポナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、マガダイト、ケニヤイト、ステベンサイト等、あるいはバーミキュライト、ハロイサイト、アルミン酸塩酸化物、ハイドロタルサイト等が含まれる。また、これらの混合物も含まれる。
【0059】
上記の層状クレイ等の層状フィラーは、少なくとも1の改質剤で処理することにより、インターカレートまたは層剥離されている。改質剤は、膨潤剤または剥離剤とも呼ばれる。一般に、改質剤は層状フィラーの層間表面に存在するカチオンとイオン交換反応することができる添加剤である。改質剤は任意の工程においてエラストマー組成物に添加剤として添加される。例えばこの添加剤をエラストマーに添加した後、層状フィラーを添加することができる。またはこの添加剤をエラストマーと層状フィラーとの混合物に添加することができる。また別の実施形態では、この添加剤をまず層状フィラーとブレンドした後、エラストマーに添加することができる。
【0060】
ひとつの実施形態では、エラストマー組成物にシランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤はシリカをエラストマーに結合させることができるので、シリカが主要なフィラーである場合や、シリカを他のフィラーと併用する場合に添加することが好ましい。
シランカップリング剤は二官能性のオルガノシロキサン架橋剤である。「オルガノシロキサン架橋剤」には公知のシラン架橋されたフィラーおよび/または架橋活性剤および/またはシラン補強剤が含まれ、ビリルトリエトキシシラン、 ビリル-トリス-(ベータ-メトキシエトキシ)シラン、メタクリロイルプロピルメトキシシラン、ガンマ-アミノ-プロピルトリエトキシシラン、ガンマ-メルカプト-プロピルトリメトキシシラン等、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
フィラーはカーボンブラックまたは修飾されたカーボンブラックである。フィラーは、カーボンブラックとシリカの混合物であってもよい。ひとつの実施形態では、エラストマー組成物はタイヤトレッドまたはサイドウォールに用いられ、補強グレードのカーボンブラックを10から100phr含み、別の実施形態では30から80phr含み、またの実施形態では50から80phr含む。有用なカーボンブラックのグレードは、N110からN990の範囲のものである。
【0062】
<架橋剤、硬化剤、硬化剤パッケージ、及び硬化プロセス>
エラストマー組成物及びこのエラストマー組成物から製造された物品は、少なくとも1の硬化剤パッケージ、少なくとも1の硬化剤、および/または少なくとも1の架橋剤を用いて、および/または、エラストマー組成物を硬化させるプロセスを経て製造される。少なくとも1の硬化剤パッケージとは、ゴムの技術分野で公知の硬化特性をゴムに賦与することができる物質または方法を意味する。
【0063】
一般に、ポリマーブレンドを硬化することにより機械物性を向上させることができる。加硫されたゴムの物性、性能及び耐久性は、加硫反応によって生じた架橋の数(架橋密度)及び架橋のタイプとの間に相関があることが知られている。硬化剤を添加することにより、ポリマーブレンドを架橋することができる。硬化剤の例として、硫黄、金属、酸化亜鉛等の金属酸化物、過酸化物、有機金属化合物、ラジカル開始剤、脂肪酸、及びこの技術分野で公知の他の架橋剤が挙げられる。
他の公知の硬化方法は、過酸化物硬化システム、樹脂硬化システム、及びポリマーの熱または放射線架橋である。硬化プロセスにおいて促進剤、活性剤、及び遅延剤を用いることもできる。
【0064】
エラストマー組成物は、熱または放射線に曝す等の公知の加硫プロセスに従って、適切な方法で加硫(硬化)することができる。必要とされる熱または放射線の量は、エラストマー組成物に硬化を生じさせるために必要な量である。この発明は、エラストマー組成物を硬化させる方法、及び必要とされる熱量によって限定されるものではない。通常、ひとつの実施形態では加硫を約100℃から約250℃の温度範囲で行い、別の実施形態では約150℃から約200℃の温度範囲で行い、約1から150分間行う。
【0065】
ハロゲン含有エラストマーは、金属酸化物との反応により硬化させることができる。有用な金属酸化物の非限定的例示としてZnO、CaO、及びPbOが挙げられる。金属酸化物は、単独または脂肪酸塩(例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等)と組み合わせて用いることができ、あるいはステアリン酸等の有機脂肪酸と金属酸化物とを組み合わせて用いることができる。また、任意成分として硫黄または硫黄化合物、アルキル化酸化物、ジアミン、またはこれらの誘導体等の、他の硬化剤を用いることができる。
【0066】
硫黄は、ジエン含有エラストマーの加硫剤として最も一般的である。硫黄加硫システムには、硫黄を活性化する活性剤、促進剤、及び加硫速度を調整するための遅延剤が含まれている。
【0067】
活性剤は加硫速度を増加させる化合物であり、先ず促進剤と反応してゴムに可溶な複合体を形成し、この複合体が硫黄と反応して硫化剤を形成する。一般的な促進剤は、アミン、ジアミン、グアニジン、チオ尿素、チアゾール、チウラム、スルフェンアミド、スルフェンイミド、チオカーバメート、キサントゲン酸塩等である。
【0068】
促進剤は、加硫の開始及び加硫速度を制御し、さらに形成される架橋のタイプ及び数を制御するために用いることができる。遅延剤は、硬化の開始を遅らせて未加硫ゴムの加工を行うための時間を確保するために用いることができる。
【0069】
加硫工程の促進は、通常は有機化合物である促進剤の量を調整することによって制御することができる。
天然ゴム、BR、及びSBRの加硫促進メカニズムには、硬化剤、促進剤、活性剤、及びポリマー間の複雑な相互作用が関与している。硬化剤の全てが、2つのポリマー鎖を結合してポリマーマトリックスの強度を向上させる架橋形成において消費されることが望ましい。
様々な促進剤が公知であり、非限定的例示としてステアリン酸、ジフェニルグアニジン(DPG)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド (TMTD)、ベンゾチアジル・ジスルフィド(MBTS)、N-ターシャリブチル-2-ベンゾチアゾール・スルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾール・スルフェンアミド(CBS)、及びチオ尿素が挙げられる。
【0070】
ひとつの実施形態では、少なくとも1の硬化剤を0.2から10phr、または0.5から5phr用い、別の実施形態では0.75phrから2phr用いる。
【0071】
<加工>
本願のエラストマー組成物は、公知の方法によりコンパウンド化(混合)することができる。混合は一段階または多段階で行うことができる。例えば、原材料は通常少なくとも2段階、すなわち非生産段階と、その次の生産混合段階の2段階で混合される。通常、最終硬化剤は「生産」混合段階と呼ばれる最終段階において混合する。
生産混合段階では、前段階の非生産混合段階での混合温度より低い温度、または最終温度で混合を行う。エラストマー、炭化水素ポリマー添加剤、シリカおよびシリカカップリング剤、及びカーボンブラック(使用する場合)を、1以上の非生産混合段階において混合する。「非生産混合段階」及び「生産混合段階」という用語は、当業者にとって周知である。
【0072】
ひとつの実施形態では、酸化亜鉛及びその他の硬化活性剤及び促進剤を添加する段階とは別の段階において、カーボンブラックを添加する。別の実施形態では、コンパウンドの弾性を最大にするために、カーボンブラックをエラストマーに添加した後、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、及び加工助剤を添加し、酸化亜鉛を最終段階で添加する。また別の実施形態では、クレイとの混合は公知の方法で行い、この場合クレイをカーボンブラックと同時にエラストマーに添加する。別の実施形態では、さらに1以上のフィラーを添加するための追加の段階を行なう。
【0073】
別の実施形態では、原材料の混合を適切な混合装置中で公知の方法により行う。適切な混合装置の例として二本ロール、ブラベンダーTM密閉型二軸混合機、接線式ロータを備えるバンバリーTM密閉型二軸混合機、噛合い式ロータを備えるクラップ密閉型二軸混合機、または好ましくは混練機/押出機が挙げられる。
ひとつの実施形態では、混合はエラストマー組成物中のエラストマーの融点までの温度で行い、別の実施形態では40℃から250℃で行い、また別の実施形態では100℃から200℃の範囲で行う。混合は、クレイを剥離させてエラストマー中に均一に分散させることができる剪断条件下で行う。
【0074】
通常、先ずエラストマーの70%から100%を20から90秒間、または温度が40℃から75℃になるまで混練する。次に、フィラーの約75%と残りのエラストマー(残っている場合)を混合機に投入し、温度が90℃から150℃になるまで混練を続ける。
次に、残りのフィラーと加工助剤とを投入し、温度が140℃から190℃になるまで混練を続ける。得られたマスターバッチ混合物をオープンロールでシート形状にして、60℃から100℃になるまで放冷し、硬化剤を添加する。
【0075】
ひとつの実施形態では、エラストマーと少なくとも1の炭化水素ポリマー添加剤とを混練し、ここで、炭化水素ポリマー添加剤には60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、 5%から20%のスチレン系化合物とが含まれる。
別の実施形態では、エラストマーと、第1の炭化水素ポリマー添加剤とは異なるの第2の炭化水素ポリマー添加剤とを混練し、ここで全炭化水素ポリマー添加剤には60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、 5%から20%のスチレン系化合物と、最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれる。
【0076】
<産業上の利用>
この発明のエラストマー組成物は、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出成形、または積層されて、繊維、フィルム、積層体、層、自動車部品等の工業用部品、電化製品の筐体、日用品、包材等の様々な成形品に加工される。
【0077】
特のこの発明のエラストマー組成物はタイヤ用途において有用であり、トラックのタイヤ、バスのタイヤ、自動車のタイヤ、オートバイのタイヤ、オフロード用タイヤ、航空機用タイヤ等に用いることができる。
当業者であれば、公知の方法を用いてこのようなタイヤを容易に賦形、成形、硬化、製造することができる。エラストマー組成物を、最終製品またはタイヤ用インナーライナー等の最終製品用の部品に加工することができる。このような製品は、エアーバリア、エアーメンブラン、フィルム、層(ミクロレイヤーおよび/または多層)、インナーライナー、インナーチューブ、エアースリーブ、サイドウォール、トレッド、タイヤ硬化ブラダー等から選択される。この発明のエラストマー組成物は、特にタイヤトッレド用途に適している。
【0078】
この発明のエラストマー組成物は様々な用途において有用であり、特に空気タイヤ用部材、ホース、コンベアベルトや自動車用ベルト等のベルト、中実タイヤ、履物用部材、グラフィックアート用のローラー、制振材、医薬用部材、接着剤、コーキング材、シーラント材、グレイジング材、保護皮膜、エアークッション、空気バネ、空気ベローズ、アキュームレータ用の袋、及び燃料保持用ブラダー及び硬化プロセスにおいて有用である。
また、この発明のエラストマー組成物はゴムに処方する可塑剤、ストレッチ包装フィルムに加工される組成物用の成分、潤滑油の分散剤、及び電線の絶縁材や被覆材としても有用である。
【0079】
この発明のエラストマー組成物は成形されたゴム製品にも有用であり、自動車のバンパー、排気管のハンガー、及び車体用部材にも有用である。
また別の実施形態では、この発明のエラストマーまたはエラストマー組成物は、医薬品のゴム栓や封止部材、及び医療装置のコーティング材等の医療用途にも好適に用いることができる。
【0080】
別の実施形態は、以下に関する。
A. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、
炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、0.1%から15%の環状化合物と、0.1%から20%のスチレン系化合物とが含まれるエラストマー組成物。
B. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、
炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物とが含まれるエラストマー組成物。
C. 少なくとも1のエラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、分岐(星状分岐)ブチルゴム、ハロゲン化星状分岐ブチルゴム、ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン)、ハロゲン化ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン)、汎用ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、高シス-ポリブタジエン、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、星状分岐ポリイソブチレンゴム、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、実施形態AまたはBに記載のエラストマー組成物。
D. 炭化水素ポリマー添加剤が5から50 phr含まれる、実施形態A-Cのいずれかに記載のエラストマー組成物。
E. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大5%のイソプレンが含まれる、実施形態A-Dのいずれかに記載のエラストマー組成物。
F. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大5%のインデン系化合物が含まれる、実施形態A-Eのいずれかに記載のエラストマー組成物。
G. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大10%のアミレンが含まれる、実施形態A-Fのいずれかに記載のエラストマー組成物。
H. さらに、炭酸カルシウム、クレイ、マイカ、シリカ、ケイ酸塩、タルク、酸化チタン、澱粉、及び木粉等の他の有機フィラー、カーボンブラック及びこれらの混合物からなる群から選択される1以上のフィラーを含む、実施形態A- G のいずれかに記載のエラストマー組成物。
I. エラストマー組成物が硬化されている、実施形態A- H のいずれかに記載のエラストマー組成物。
J. 実質的に芳香族オイルを含まない、実施形態A- I のいずれかに記載のエラストマー組成物。
K. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれる硬化エラストマー物品であって、
炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、0.1%から15%の環状化合物と、0.1%から20%のスチレン系化合物とが含まれる硬化エラストマー物品。
L. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれる硬化エラストマー物品であって、
炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物とが含まれる硬化エラストマー物品。
M. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大5%のイソプレンが含まれる、実施形態KまたはLに記載の硬化エラストマー物品。
N. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大10%のアミレンが含まれる、実施形態KまたはMに記載の硬化エラストマー物品。
O. 炭化水素ポリマー添加剤に、さらに最大5%のインデン系化合物が含まれる、実施形態KまたはNに記載の硬化エラストマー物品。
P. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、
炭化水素ポリマー添加剤の分子量が少なくとも約600g/モルであり、Tgが少なくとも約0℃である、エラストマー組成物。
Q. 少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、
炭化水素ポリマー添加剤の分子量が520g/モルから650g/モルであり、Tgが48℃から53℃である、エラストマー組成物。
R. 少なくとも1のエラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、分岐(星状分岐)ブチルゴム、ハロゲン化星状分岐ブチルゴム、ポリ(イソブチレン-p-メチルスチレン)、ハロゲン化ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン)、汎用ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、高シス-ポリブタジエン、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、星状分岐ポリイソブチレンゴム、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、実施形態PまたはQに記載の組成物。
S. エラストマー組成物が硬化されている、実施形態P - Rのいずれかに記載のエラストマー組成物。
T. 硬化されたエラストマー組成物がタイヤ、またはタイヤ用部材である、実施形態P - Sのいずれかに記載のエラストマー組成物。
U. エラストマーと炭化水素ポリマー添加剤とをブレンドするプロセスであって、全炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、0.1%から15%の環状化合物と、0.1%から20%のスチレン系化合物と、最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれるプロセス。
V. エラストマーと炭化水素ポリマー添加剤とをブレンドするプロセスであって、全炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物と、最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれるプロセス。
W. エラストマーに第1の炭化水素ポリマー添加剤とは異なる第2の炭化水素ポリマー添加剤がブレンドされている、実施形態UまたはVに記載のプロセス。
【実施例】
【0081】
以下の非限定的実施例に基づき、少なくとも1のエラストマーと、炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物について詳しく説明する。
【0082】
硬化特性は、ASTM D-2084に準拠して、Alpha Technologies, Inc社のMDR 2000を用い、指定された温度においてアーク0.5度で測定した。試験片の硬化は、指定された温度、通常は150℃から160℃において、t90 +成形型固有の遅延時間に相当する時間だけ行った。
硬化したコンパウンドの物性測定は、標準ASTM試験法に従って行った。応力/歪特性(引張強さ、破断点伸び、弾性率、破断エネルギー)の測定は、Instron 4202またはInstron Series IX Automated Materials Testing System 6.03.08を用いて、室温で行った。
引張強さの測定は室温で行った。試験片(ダンベル形)の幅は0.25インチ(0.62 cm)で、長さは1.0インチ(2.5 cm)であった(2つのつまみ部の間)。試験片の厚みは公称2.00mmであるが、実際の試験片の厚みは一定ではないため、システムのコンピュータに接続されたMitutoyo Digimatic Indicatorを用いて手動で厚みを測定した。
試験片をクロスヘッドスピード20インチ/分 (51cm/分)で引っ張り、応力/歪特性を測定・記録した。少なくとも3つの試験片の平均値から応力/歪特性を求めた。引張試験における誤差(2σ)は±0.47 Mpaである。100%モジュラス測定時の誤差(2σ)は± 0.11 Mpaである。伸び測定における誤差(2σ)は±13%である。
【0083】
ショアA表面硬度はZwick Duromaticを用いて室温で測定した。磨耗量は室温で測定し、回転サンプルホルダー(5Nのカウンターバランス)と回転ドラムを備えるAPH-40 Abrasion Testerを用いて、試験前後の重量損失から求めた。重量損失は、高耐磨耗性の指標となる低重量損失の標準DINコンパウンドを指標として評価した。
【0084】
本願に示す「MH」及び「ML」の値は、それぞれ「最大トルク」及び「最小トルク」を意味する。
本願に示す「MS」の値は、ムーニースコーチの値であり、「ML(l+4)」の値は、ムーニー粘度の値である。
ムーニー粘度の測定における誤差(2σ)は± 0.65である。
本願に示す「Tc 」の値は硬化時間(単位は分)で、「Ts」はスコーチ時間(単位は分)である。
【0085】
動力学的特性(G*, G', G", 及びtanδ(タンデルタ))は、純粋剪断試験片用MTS 831機械的分光計(二重剪断形状)を用いて、2%歪において温度0℃及び60℃、周波数1 Hz及び10 Hzで測定した。長方形の剪断試験サンプルを、所定の変形において1 Hzで試験した。
0℃での実験室での動力学的特性試験におけるG"またはタンデルタの測定値を、カーボンブラック充填BR/SBR(スチレン-ブタジエンゴム)コンパウンドのタイヤのトラクション(トレッド用コンパウンドの湿潤タイヤ・トランクション)の予測に用いることができる。
60℃の動力学的タンデルタの値を、タイヤトレッド用コンパウンドの回転抵抗の指標として用いることができる。60℃で測定した複素剛性率(G*)の値は、タイヤのトレッド用コンパウンドの乾燥路面での性能またはコーナーリングの特性の予測に用いることができる。高速用タイヤ(すなわちH-, V-, Z-クラス)の場合、値が高いことが必要である。
【0086】
剪断速度100秒-1における剪断応力は、低温トレッド押出機条件の指標として用いることができ、特定の製造条件の加工特性の最適化を図ることができる。
【0087】
炭化水素ポリマー添加剤の分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより求めることができる。分子量(Mn, Mw, 及びMz)と分子量分布(MWD)を求める方法は、本願に参照として組み込まれるU.S. Pat. No. 4,540,753に開示されている。多分散指数(PDI)はMw/Mnを計算することにより求められる。
炭化水素ポリマー添加剤の溶融粘度は、ASTM D-6267に準拠し「J」型スピンドルを備えるブルックフィールド粘度計を用いて求めることができる。
【0088】
天然ゴムへの接着性試験、または「SBRへの接着性」試験または「接着性T-剥離」試験は、ASTM D-413に準拠して行う。この試験は、硬化後の2種のゴム成分の接着強度を測定するために用いられる。通常、3本ロールを用いてゴムのコンパウンドの厚みを2.5mmに調整する。
接着性の裏当布を各ゴムコンパウンドの裏面に当てる。通常、ブレンドされたエラストマー組成物約500グラムからサンプルを16調製することができ、一組2サンプルの接着性試験を8回行なうことができる。ここで、カレンダーロールを2.5mmに設定し、両ガイドの間隔を11cmにする。
【0089】
2種のゴムコンパウンドの表面同士を押し付けて接着させる。MylarTMの小片を2種のゴムコンパウンド(SBRと被験エラストマー組成物)の層の間に入れて層間の接着を一部妨げ、約2.5インチ(6.35 cm)の掴み部を形成する。サンプルを所定の条件下にある硬化用プレス機で硬化し、接着させる。加硫し成形した各サンプルから1インチ(2.54 cm)×6インチ(15.24 cm)の試験片を切り出す。各試験片の掴み部を引張試験機(Instron 4104, 4202, または1101)に掴ませ、各試験片の掴み部の成す角度が180度になるようにして2種のゴム組成物の剥離が生じるまで引っ張る。剥離が生じるときの力と、剥離状態観察結果を記録する。
【0090】
他の試験方法をTable1にまとめて示す。
【表1】

【0091】
実施例で用いた炭化水素ポリマー添加剤はコポリマーであり、コポリマーの特性は含まれるモノマーの種類と量、すなわちコポリマーのミクロ構造により制御することができる。ポリマー鎖中のモノマーの配置はランダムであり、これによりポリマーのミクロ構造が複雑になる。Table 2に、実施例で用いた炭化水素ポリマー添加剤中のモノマーの種類と量の一覧を示す。Table 2に示す構造式は一例であり、これらに限定されない。Table 3に、実施例に用いた炭化水素ポリマー添加剤の物理的及び化学的特性を示す。
【表2】

【表3】

【0092】
Table 4に、実施例のエラストマー組成物に用いた原材料を示す。
【表4】

【実施例1】
【0093】
実施例1では、シリカ充填トレッド用コンパウンドモデルを調製した。これらのコンパウンドは、噛合いロータを備え容積1.0リットルのクラップ実験用混合機を用いて調製した。
非生産混合段階は次のようにして行った。
1) 混合機のロータ回転速度を80 RPM、ラム圧力を60psiに設定した;
2) エラストマー、シリカ全量、シランカップリング剤、オイルまたは炭化水素ポリマー添加剤、及び添加剤を投入し、ラムを下げた;
3) 温度が160℃に達するまで、または最大5分間混練した後、混合機から内容物を排出した。
生産段階または第2段階は、混合機に加硫系原料を投入して行った。コンパウンドを混合機中で100℃から105℃に達するまで、または90秒間混練した後排出し、2本ロールでシート形状にした。
【0094】
実施例1のシリカ充填トレッド用コンパウンドモデルの配合処方をTable 5に示す。配合量の単位は全てphrである。コンパウンド2及び3では、芳香族オイルに代えて炭化水素ポリマー添加剤(HPA A及びHPA B)を用いた。コンパウンド中の炭化水素ポリマー添加剤及び芳香族オイルの添加量は40phrであった。これらは高添加量の例であり、芳香族オイルに代えて炭化水素ポリマー添加剤を用いたときに得られる特性を例示することを目的とする。これらのコンパウンドについて、加工性、硬化特性、及び引張強さや引裂強さ等の物性を評価した。結果をTable 6に示す。
【表5】

【表6】

【0095】
芳香族オイルをHPAで置き換えても、引張強さ、300%モジュラス、表面硬度、及び引裂強さはほとんど変わらない。HPAで置き換えたとき反発弾性が低下したことから、トラクション性能が向上することが示唆される。HPAで置き換えたとき、貯蔵弾性率G' (測定条件は0℃、歪2%、10 Hz) が増加した。G'の値が高いことは、タイヤの実際の使用条件下において不均一な磨耗が生じにくいことを示唆する。不均一な磨耗が生じにくいことは、タイヤの総合的耐磨耗特性が優れ、振動が生じる条件下でもタイヤが取り付けられた車両が影響を受けにくいことを意味する。
【実施例2】
【0096】
実施例2では、カーボンブラック充填トレッド用コンパウンドモデルを調製した。コンパウンド3と4では、ナフテン系オイルまたは芳香族オイルに代えて、2種の炭化水素ポリマー添加剤のHPA AとHPA Bを用いた。Table 7にカーボンブラック充填トレッド用コンパウンドモデルの配合処方を示す。配合量の単位は全てphrである。
【表7】

【0097】
これらのコンパウンドは、Farrel BRサイズの実験用密閉型混合機を用い、実施例1のシリカ充填トレッド用コンパウンドモデルの非生産混合段階と同様の手順で調製した。但し、非生産混合後の排出温度は170℃に設定した。
【0098】
これらのコンパウンドを評価した結果をTable 8に示す。
HPAを含有するコンパウンドの表面硬度、引張強さ、300%モジュラス等の機械的物性は、芳香族オイル及びナフテン系オイルを含有するコンパウンドと同等であった。引裂強さに関しては、HPAを含有するコンパウンドの方が高強度であった。
【表8】

【実施例3】
【0099】
実施例3では、シリカの添加量を30phrに減らしたシリカ充填トレッド用コンパウンドモデルを用いて、HPA AとHPA Bの評価を行った。これらのコンパウンドはFarrell BR実験用密閉型混合機を用いて調製した。混合はクラップ密閉型混合機の場合と同様にして行い、非生産混合後の排出温度を160℃に設定するか、混合時間を5分間として行った。実施例3で用いたシリカ充填トレッド用コンパウンドモデルの配合処方をTable 9に示す。配合量の単位は全てphrである。
【表9】

【0100】
コンパウンドの評価結果をTable 10に示す。この表から明らかなように、芳香族オイルまたはナフテン系オイルに代えてHPAを用いたとき、コンパウンドのムーニー粘度の数値が6から9の範囲で増加する。この程度のムーニー粘度の増加では、タイヤの製造時において加工性が悪化することは無い。ムーニー粘度の数値が75から80に達したならば、加工性低下の問題が生じるであろう。ムーニー粘度の試験は、100℃において剪断速度1から2秒-1で行った。
工業的に用いられている低温供給タイヤトレッド押出機における剪断速度は約100秒-1である。Dynisco ARC2000キャピラリーレオメータを用いて、100℃で剪断速度100秒-1の条件下におけるコンパウンドの剪断応力を測定した。Table 10に示すように、剪断応力は400 KPaより低く(各々366及び362 Kpa)、このことからも、この発明のコンパウンドをトレッドの押出加工において問題なく使用できることが示唆される。
【表10】

【0101】
芳香族オイルを含むコンパウンドと、HPAを含むコンパウンドとを比較した結果、引張強度等の基本的な機械的物性は同等であった。実施例3のナフテン系オイルを含むコンパウンド2の引張強さと引裂強さは、炭化水素ポリマー添加剤または芳香族オイルを含むコンパウンドよりも低強度であった。
【0102】
芳香族オイルに代えて炭化水素ポリマー添加剤を用いることにより、引裂強さが向上し、天然ゴムタイヤケーシングコンパウンドモデルへの接着性は同等であった。また、0℃におけるG'とタンデルタも増加した。
【0103】
芳香族オイルに代えてナフテン系オイルを用いた場合、コンパウンドの剛性(すなわちG')が低下し、疲労に対する耐久性が悪化し、引裂強さが低下し、室温での反発弾性が増加した。
芳香族オイルに代えて炭化水素ポリマー添加剤を用いた場合には、これらの特性は維持され、実際の製造条件下での加工性に僅かに影響するのみであった。
【実施例4】
【0104】
実施例4では、軽トラックラジアルタイヤトレッド用コンパウンドモデル(Model RLT)を用いて、HPA AとHPA Bの評価を行った。配合処方をTable 11に示す。芳香族オイル、ナフテン系オイル、HPA AまたはHPA Bを10phr含むコンパウンドを用いて試験を行なった。
【表11】

【0105】
試験結果をTable 12に示す。芳香族オイルまたはナフテン系オイルに代えてHPAを用いた場合でも、コンパウンドの加工特性にほとんど影響しなかった。HPAを含むコンパウンドは、十分な引裂強さ、耐磨耗性、及び300%モジュラスを備えていた。
【0106】
芳香族オイルに代えてナフテン系オイルを用いた場合、0℃におけるG'とタンデルタが低下した。このことは、湿潤タイヤ・トランクション及びタイヤの磨耗の均一性が悪化し、この結果タイヤ交換が必要となる走行距離が短くなることを示している。
芳香族オイルに代えて炭化水素ポリマー添加剤を用いた場合には、G'またはタンデルタが低下することは無いので、タイヤの性能は維持される。
【表12】

【実施例5】
【0107】
中型トラックラジアルタイヤは、トラクター、貨物輸送用トレーラー、バス、平地及びオフロード用車両、様々な用途のトラック等の車両に用いられている。このような車両の操舵用車軸と従動車軸のタイヤには、天然ゴムベースのトレッドコンパウンドが用いられる。このようなコンパウンドのモデルをTable 13に示す。このようなコンパウンドには、技術的格付けゴムグレード20、またはリブド・スモーク・シート(ribbed smoke sheet) (RSS) グレード2または3等の天然ゴムが含まれている。使用されるカーボンブラックはN110等のN100シリーズ、またはN220やN234等のN200シリーズである。カーボンブラックの添加量はグレードにより異なるが、通常45 phrから55 phrの範囲である。さらに、酸化防止剤(TMQ)、オゾン劣化防止剤(6PPD)、ワックス、及び酸化亜鉛、ステアリン酸、スルフェンアミド(TBBS)等の促進剤、必要により第2促進剤、必要により遅延剤、加硫剤としての硫黄を含む硬化システムが添加される。
【表13】

【0108】
ナフテン系オイル、芳香族オイル、HPA A, またはHPA Bを含むモデルコンパウンドの試験結果をTable 14に示す。
【表14】

【0109】
芳香族オイルに代えてHPAを用いた場合は、コンパウンドの加工特性が維持される。さらに、300%モジュラスや耐磨耗性等の機械的物性も十分である。HPAを含むコンパウンドの耐疲労性は、芳香族オイルを含むコンパウンドよりはるかに良好である。コンパウンドの動力学的特性は同等である。また、コンパウンド中のHPAの量が10phrを超えると、G'及びタンデルタが増加すると考えられる。
【実施例6】
【0110】
芳香族オイルをナフテン系オイルに切り替えたときの性能の低下を回復させることが可能か検討するために、ナフテン系オイルとHPA Aのブレンド物を評価した。Table 5に示したモデルコンパウンドを用いた。結果をTable 15に示す。
【0111】
Table 15に示したデータから、ナフテン系オイルとHPA Aのブレンド物を含むコンパウンドのタンデルタは、芳香族オイルのみを含むコンパウンドと同等であることが分かる(実施例3、Table10)。
【表15】

【0112】
実施例1から6のデータから、芳香族オイルに代えてナフテン系オイルを用いた場合、コンパウンドの引裂強さや耐疲労性等の物性が低下することは明らかである。
さらに、芳香族オイルに代えてナフテン系オイルを用いた場合、コンパウンドの動力学的特性が変化する。0℃の貯蔵弾性率が、タンデルタとともに低下する。これらの特性は、湿潤タイヤ・トランクション(タンデルタ)、タイヤ操縦性能、タイヤの磨耗特性に及ぼす影響の予測に用いることができる。例えば、G'値の低下により、コーナーリング特性の変化が示唆される。
【0113】
HPAを用いることにより、コンパウンドの特性の低下を是正することができる。特に、HPA Bを用いることにより貯蔵弾性率を増加させることができる。HPA Aをナフテン系オイルとブレンドした場合、芳香族オイルを含むコンパウンドとほぼ同等の特性を有するコンパウンドが得られた。HPA Bとナフテン系オイルとのブレンド物を含むコンパウンドは、HPA Aとナフテン系オイルとのブレンド物を含むコンパウンドと同等の挙動を示すと考えられる。
【0114】
すなわち、芳香族オイルをゴムのコンパウンドの添加剤として用いると、タイヤの性能特性にとって有益な効果が得られる。芳香族プロセスオイルに代えて、ナフテン系オイル等の多環式芳香族(PCA)成分量が少ないオイルを用いると、良好なタイヤ性能が低下する。低下する性能はタンデルタ(トラクションの予測に用いられる)、引裂強さ、及びコンパウンドの剛性(G')等である。HPA AまたはHPA Bを用いることにより、コンパウンドの剛性、タンデルタ、引裂強さ、耐疲労特性、及びその他の特性が向上し、タイヤのトラクション特性やタイヤの耐久性が改善される。
【0115】
本願に引用した特許、特許出願、試験方法(ASTM試験法、UL規格等)、及びその他の文献は、それが許される法域において、本願の開示内容と抵触しない範囲で、本願に参照として組み込まれる。
【0116】
数値範囲について複数の上限値と複数の下限値が記載されているときは、いずれかの上限値といずれかの下限値の範囲が考慮される。
この発明について実施形態に基づいて説明したが、本願発明の要旨から逸脱することなくこれらの実施形態を種々変更して実施できることは、当業者にとって明らかである。従って、本願発明は実施形態及び実施例によって限定されるものではなく、この発明の範囲は特許請求の範囲の記載、及び当業者にとってこれと均等と認められる範囲により定められる。
【0117】
この発明について実施形態及び実施例に基づいて説明した。当業者であれば、明細書の記載に基づいてこれらを種々変形して実施することができるであろう。このような変形例も、本願発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1のエラストマーと、b)炭化水素ポリマー添加剤とが含まれるエラストマー組成物であって、
炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物とが含まれるエラストマー組成物。
【請求項2】
少なくとも1のエラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、分岐(星状分岐)ブチルゴム、ハロゲン化星状分岐ブチルゴム、ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン)、ハロゲン化ポリ(イソブチレン-パラ-メチルスチレン)、汎用ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、高シス−ポリブタジエン、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、星状分岐ポリイソブチレンゴム、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
炭化水素ポリマー添加剤が5から50phr含まれる、請求項1または2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
炭化水素ポリマー添加剤に、さらに5%未満のイソプレンが含まれる、請求項1から3のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
炭化水素ポリマー添加剤に、さらに5%未満のインデン系化合物が含まれる、請求項1から4のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
炭化水素ポリマー添加剤に、さらに10%未満のアミレンが含まれる、請求項1から5のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
さらに、炭酸カルシウム、クレイ、マイカ、シリカ、ケイ酸塩、タルク、酸化チタン、澱粉、及び木粉等の他の有機フィラー、カーボンブラック及びこれらの混合物からなる群から選択される1以上のフィラーを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
エラストマー組成物が硬化されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
実質的に芳香族オイルを含まない、請求項1から8のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項10】
炭化水素ポリマー添加剤の分子量が520g/モルから650g/モルであり、Tgが48℃から53℃である、請求項1から9のいずれか1項に記載のエラストマー組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のエラストマー組成物を含むタイヤ、またはタイヤ部材。
【請求項12】
エラストマーと少なくとも1の炭化水素ポリマー添加剤とをブレンドするプロセスであって、全炭化水素ポリマー添加剤に60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物と、最大5%のイソプレンと、最大10%のアミレンと、最大5%のインデン系化合物とが含まれるプロセス。
【請求項13】
エラストマーに第1の炭化水素ポリマー添加剤とは異なる第2の炭化水素ポリマー添加剤がブレンドされている、請求項12に記載のプロセス。

【公表番号】特表2011−508815(P2011−508815A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540925(P2010−540925)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/088445
【国際公開番号】WO2009/091490
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】