説明

炭化水素回収システム及びそれに用いる脱気装置、並びに炭化水素回収方法。

【課題】炭化水素化合物の回収率が向上された炭化水素回収システムを提供すること。
【解決手段】運搬用槽10からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システム100であって、排出ガスを加圧して炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮機12と、圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収装置14と、吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと、吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置16とを備える炭化水素回収システム100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素回収システム及びそれに用いる脱気装置、並びに炭化水素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油や各種石油製品、半製品を槽内に積み込んで運搬するタンカーやタンクローリーは、通常、安全上の対策のため、原油や各種石油製品、半製品を荷揚げした後、窒素や二酸化炭素などを主成分とするガスを導入することによって、槽内の酸素濃度を爆発範囲外となる濃度に調整している。この槽に、再び原油や各種石油製品、半製品を積み込むと、槽内のガスは槽外に排出される。
【0003】
このような槽内から排出される排出ガスは、通常、直前に運搬した原油、各種石油製品又は半製品の残存物から発生する炭化水素化合物を通常数%〜数十%(体積基準)含有している。このような排出ガスを大気中に放出すると、大気汚染などの環境問題を引き起こし、また、安全上の問題にもなりうる。また、これらの排出ガスを燃焼させて大気中に排出することは、エネルギー資源の浪費につながるだけでなく、窒素酸化物などの大気汚染物質等の排出を増大させることとなる。
【0004】
そこで、炭化水素化合物を含有する排出ガスと吸収用液との接触により炭化水素化合物を回収することが知られており、例えば、排出ガスとタンク内に貯蔵された原油とを接触させることによって、炭化水素化合物を原油中に回収するシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−099817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の炭化水素化合物の回収システムでは、吸収用液に炭化水素化合物を吸収させた場合、直ぐに飽和に達してしまうため、炭化水素化合物を吸収した回収液を頻繁に新しい吸収用液に交換したり、回収液を別途再処理したりする必要があった。また、特許文献1のように、原油を用いた場合、灯油などに比べて回収率が低いうえに、炭化水素化合物を吸収させた回収液を原油タンクに戻すと、吸収された軽質な炭化水素化合物や無機ガスなどの軽質留分の割合が増加し、原油タンクのブリーザーバルブ等から再蒸発した炭化水素ガスや無機ガスなどの軽質ガスが排出されてしまうことが懸念されていた。
【0006】
このため、大気中への大気汚染物質の放出量を低減するとともに、運搬用槽内から排出される排出ガスに含まれる炭化水素化合物を高い回収率で容易に回収できる回収システムが求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、炭化水素化合物の回収率の向上を図った炭化水素回収システム、及びそれに用いる脱気装置、並びに炭化水素回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムであって、排出ガスを加圧して炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮機と、圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収装置と、吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置と、を備える炭化水素回収システムを提供する。
【0009】
このような炭化水素回収システムは、排出ガスを圧縮機によって加圧し、得られる圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させているため、排出ガスに含まれる炭化水素化合物の吸収用炭化水素油への吸収を促進することができる。このため、十分に高い回収率で炭化水素化合物を回収することができる。また、脱気装置では、炭化水素化合物を吸収した吸収液を減圧することによって、軽質留分を含有する分離ガスと、吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離しているため、回収液に含まれる軽質留分を十分に低減することができる。これによって、回収液からの軽質留分の再蒸発を十分に抑制することができる。また、回収液を再び吸収用炭化水素油として利用できるため、容易に炭化水素化合物の回収をすることができる。
【0010】
また、本発明では、原油タンカーに設けられた運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムであって、排出ガスを加圧して炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮機と、圧縮物を加圧状態で吸収用原油と接触させることにより、炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用原油に吸収させて吸収液を得る吸収装置と、吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと吸収用原油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置と、を備える炭化水素回収システムを提供する。
【0011】
このような炭化水素回収システムは、原油タンカーに設けられた運搬用槽内からの排出ガスを圧縮機によって加圧し、得られる圧縮物を加圧状態で吸収用原油と接触させているため、排出ガスに含まれる炭化水素化合物の吸収用原油への吸収を促進することができる。このため、十分に高い回収率で炭化水素化合物を回収することができる。また、脱気装置では、炭化水素化合物を吸収した吸収液を減圧することによって、軽質留分を含有する分離ガスと、吸収用原油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離しているため、回収液中の軽質留分を十分に低減することができる。これによって、回収液からの軽質留分の再蒸発を十分に抑制することができる。また、回収液を再び吸収用原油として利用できるため、容易に炭化水素化合物の回収をすることができる。さらに、原油を炭化水素化合物の吸収用液として使用しているため、精製された石油製品又は半製品を容易に手配できない原油備蓄基地や原油中継基地において特に有用である。
【0012】
また、本発明の炭化水素回収システムは、圧縮機と吸収装置との間に、圧縮物を冷却する冷却器をさらに備えることが好ましい。
【0013】
このような冷却器を備えることによって、圧縮物を冷却して炭化水素化合物をより多く液化させることができる。これによって、より多くの炭化水素化合物が液化炭化水素に吸収されて、炭化水素化合物の回収率を一層向上させることができる。また、炭化水素化合物やその燃焼ガスの大気中への放出量をより十分に低減することができる。
【0014】
本発明ではまた、運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムに用いられ、排出ガスの圧縮物を吸収用炭化水素油に吸収させた吸収液を減圧することによって、軽質留分を含む分離ガスと吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置であって、吸収液が供給され、分離ガスと回収液とに分離する容器本体を備え、容器本体の内部に、吸収液から分離された回収液を滞留させるトレイと、トレイに滞留する回収液を下方に移送するダウンパイプと、を有する炭化水素回収システム用の脱気装置を提供する。
【0015】
このような脱気装置は、吸収液を減圧することによって、吸収液から炭化水素化合物や無機ガスなどの軽質留分を分離ガスとして分離しているため、軽質留分が十分に低減された回収液を得ることができる。これによって、回収液からの軽質留分の再蒸発を十分に抑制することができ、十分に高い回収率で炭化水素化合物を回収することができる。また、回収液を再び吸収用炭化水素油として利用できるため、容易に炭化水素化合物の回収をすることができる。さらに、この脱気装置は、トレイとダウンパイプとによって回収液が容器本体内の下方に移送されるため、容器本体内で静電気の発生を抑制することができ、安全性にも優れるものである。
【0016】
本発明ではまた、運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収方法であって、排出ガスを加圧して炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮工程と、圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収工程と、吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気工程と、を備える炭化水素回収方法を提供する。
【0017】
このような炭化水素回収方法は、排出ガスを圧縮機で加圧して得られる圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させているため、排出ガスに含まれる炭化水素化合物の吸収用炭化水素油への吸収を促進することができる。このため、十分に高い回収率で炭化水素化合物を回収することができる。また、脱気工程では、炭化水素化合物を吸収した吸収液を減圧することによって、軽質留分を含有する分離ガスと、吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離しているため、回収液に含まれる軽質留分を十分に低減することができる。これによって、回収液からの軽質留分の再蒸発を十分に抑制することができる。また、回収液を再び吸収工程で吸収用炭化水素油として利用できるため、容易に炭化水素化合物の回収をすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭化水素化合物の回収が容易で且つその回収率が十分に高く、炭化水素化合物やその燃焼ガス、大気汚染物質の大気中への放出量を十分に低減できる炭化水素回収システム、及びそれに用いられる脱気装置、並びに炭化水素回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の炭化水素回収システムの好適な実施形態を示す概略構成図である。本実施形態に係る炭化水素回収システム100は、運搬用槽10からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収するものであり、圧縮機12、吸収塔14、脱気塔16、回収タンク18、燃焼装置20、ボイラー22を備えている。
【0021】
運搬用槽10は、原油や各種石油製品、半製品を運搬するタンカーやタンクローリー、タンク車などに設置されている。各種石油製品としては、LPG,ガソリン、灯油、軽油、重油、ナフサ、キシレンやベンゼンなどの化学品等を、半製品としてはこれらの製品のブレンド基材などを例示することができる。
【0022】
上述の原油や各種石油製品、半製品を降ろした後、安全確保のため、運搬用槽10には、窒素等の無機ガスが導入される。例えば酸素濃度を6体積%以下に調整することで、安全性が確保される。無機ガスとしては、窒素、二酸化炭素、低濃度の酸素を含有するボイラー排ガスなどを用いることができる。
【0023】
このような無機ガスが封入された運搬用槽10の内部は、運搬した原油や各種石油製品、半製品に由来する炭化水素ガスと、窒素、二酸化炭素、酸素などの無機ガスとを含有するガスによって満たされている。炭化水素ガスとしては、揮発性の炭化水素ガス、例えば炭素数1〜7のガス、より具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、ヘキサンなどを例示することができる。なお、運搬用槽10の温度は常温、圧力は大気圧と同等とすることができる。
【0024】
圧縮機12としては、通常のガスコンプレッサーを用いることができる。この圧縮機12は、運搬槽10と配管L10で接続されている。配管L10としては、タンカーとコンプレッサーを接続するローディングアーム、通常の配管、及びこれらの組み合わせを用いることができる。
【0025】
圧縮機12は、運搬用槽10内の排出ガスを吸引して、所定の圧力P1に加圧された圧縮物を排出する。圧力P1としては、100〜1000kPaGが好ましく、200〜500kPaGがより好ましい。圧力P1が100kPaG未満の場合、炭化水素化合物の十分な回収率が得られない傾向があり、1000kPaGを超える場合、耐圧性を確保する観点から、炭化水素回収設備の建設コストが増大する傾向がある。また、圧縮物の温度は0〜50℃とすることができる。この圧縮物は、排出ガスに含まれる炭化水素化合物及び無機ガスなどを含有することができる。なお、圧縮物はガス、液体又はこれらの混合物である。そして、圧縮機12は、配管L12により吸収塔14と接続されている。なお、配管L12としては、通常の配管を用いることができる。
【0026】
吸収塔14は、圧縮機12から配管L12を経由して導入される圧縮物と、回収タンク18から配管L18を経由して導入される吸収用炭化水素油とを気液接触させるものである。これによって、吸収塔14は、圧縮物に含まれる炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用炭化水素油に吸収させた吸収液と、圧縮物から少なくとも一部の炭化水素化合物が除去された未吸収ガスとを排出する。なお、配管L18としては通常の配管を用いることができる。
【0027】
圧縮物と吸収用炭化水素油との接触方法としては、吸収用炭化水素油による炭化水素化合物の吸収量を向上させる観点から、向流接触とすることが好ましい。なお、通常圧縮物には無機ガスが含まれており、大部分の無機ガスは未吸収ガスとして排出されるが、一部の無機ガスは飽和濃度で吸収液に含まれる場合がある。
【0028】
吸収用炭化水素油としては、原油、各種石油製品、半製品等、炭化水素化合物を吸収する各種炭化水素油を用いることができるが、本実施形態では、原油を用いている。原油は、入手・調達の容易性、及びエネルギー効率に優れるため、好ましく用いることができる。つまり、原油の輸出基地、備蓄基地、中継基地などでは、石油製品、半製品を手配することが困難であるが、原油は容易に手配することが可能である。また、吸収用炭化水素油は炭化水素化合物を吸収した後、製品化又は半製品化するために精製処理が必要であるが、吸収用炭化水素油として精製された石油製品、半製品を用いると、再び精製処理が必要となるため、エネルギー効率上好ましくない。本実施形態では、吸収用炭化水素油として原油を用いて重複した精製処理を回避しているため、エネルギー効率に優れている。
【0029】
吸収塔14は、その内部に充填物14aを収容している。充填物14aとしては、例えばガラス製、セラミック製又はステンレス製のラシヒリング等を例示することができる。ガラス製又はセラミック製のラシヒリングは、耐腐食性に優れ、ステンレス製のラシヒリングは、破損し難く機械的強度に優れる。吸収塔14の内部に、このような充填物14aを収容することにより、圧縮物と吸収用炭化水素油との接触を効率よく行い、未吸収ガスとして排出される炭化水素化合物を低減することができる。
【0030】
吸収塔14における吸収用炭化水素油と圧縮物との接触時間は、10秒間〜10分間であることが好ましい。接触時間が10秒間未満であると、吸収用炭化水素油による炭化水素化合物の吸収量が低下する傾向がある。一方、接触時間が10分間を越えると、吸収塔14の建設費が上昇する傾向がある。
【0031】
気液比(吸収用炭化水素油の15℃での体積/圧縮物の標準状態(0℃、1atm)での体積)は、10〜200L/Nmであることが好ましく、12〜180L/Nmであることがより好ましく、15〜150L/Nmであることが特に好ましい。気液比が10L/Nm未満であると、吸収用炭化水素油による炭化水素化合物の吸収量が低下する傾向にある。一方、気液比が200L/Nmを超えると、吸収塔14の建設費が上昇する傾向にある。
【0032】
吸収塔14内の温度は、40℃以下であることが好ましく、38℃以下であることがより好ましく、35℃以下であることが特に好ましい。吸収塔14内の温度が40℃を超えると、吸収用炭化水素油の蒸発量が増加して吸収量が低下する傾向がある。
【0033】
吸収塔14内の圧力P2は、圧縮物の圧力P1と同等であることが好ましい。具体的には、圧力P2は100〜1000kPaGであることが好ましく、200〜500kPaGであることがより好ましい。吸収塔14内の圧力P2が100kPaG未満の場合、吸収用炭化水素油による炭化水素化合物の吸収量が低下する傾向があり、1000kPaGを超える場合、耐圧性を確保する観点から、炭化水素回収設備の建設コストが増大する傾向がある。
【0034】
吸収塔14の下部は、配管L15により脱気塔16と接続されている。また、吸収塔14の上部は、配管L14により燃焼装置20と接続されている。配管L14,L15としては通常の配管を用いることができる。
【0035】
吸収塔14の下部に接続された配管L15により排出される吸収液は、吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の他に、少量の無機ガスを含有していてもよい。吸収塔14の上部に接続された配管L14により排出される未吸収ガスは、無機ガスの他に、メタンやエタンなどの軽質の炭化水素化合物を含有していてもよい。
【0036】
燃焼装置20は、通常の燃料ガス処理用の燃焼装置を用いることができる。これによって、吸収塔14から配管L14を経由して移送されてくる炭化水素化合物を含有する未吸収ガスを、燃焼して安全に大気中に放出することができる。なお、本実施形態では、未吸収ガスの処理装置として燃焼装置20を用いたが、未吸収ガスは他の方法によって処理することも可能である。例えば、ボイラーや他の装置の加熱炉用の燃料として用いることも可能である。
【0037】
脱気塔16は、配管L15により吸収装置14と接続されている。吸収装置14下部から排出される吸収液は、配管L15を経由して脱気塔16の導入部16aより導入される。
【0038】
図2は、本発明の脱気塔の好適な実施形態を示す概略断面図である。脱気塔16は、脱気塔16本体の上部にトレイ40と、トレイ40から脱気塔16本体内下方に伸びるダウンパイプ42とを有する。
【0039】
脱気塔16内の圧力P3は、吸収塔内の圧力P2よりも低くなっている。このため、導入部16aより吸収液を脱気塔16内に導入すると、圧力の低下に伴って吸収液に含まれる軽質な炭化水素化合物や無機ガスなどの軽質留分を分離することができる。すなわち、吸収液は、脱気塔16によって、軽質留分を含む分離ガスと回収液とに分離することができる。
【0040】
脱気塔16のトレイ40は、吸収液から軽質な炭化水素化合物及び無機ガス等を分離することにより得られる回収液を一旦滞留させる。これによって、回収液に残存する軽質炭化水素及び無機ガスの含有量を一層低減することができる。また、トレイ40に回収液を一旦滞留させることにより、滞留した回収液をダウンパイプ42によって脱気塔16本体内の下方に移送することができる。
【0041】
ダウンパイプ42によって、下方に移送される回収液は、脱気塔16の下部に一旦滞留させることが好ましい。これによって、ダウンパイプ42の下端の開口部を脱気塔16下部に溜められた回収液中(回収液液面46より下方)に配置することができ、回収液落下に伴う飛沫の発生等による静電気の発生を防止することができる。なお、脱気塔16の下部における回収液の滞留量は、通常のレベルコントロールによって調整することができる。
【0042】
脱気塔16の塔頂部に接続された配管L16には圧力調整弁44が設けられている。この圧力調整弁44により、脱気塔16内の圧力P3を調整することができる。脱気塔16内の圧力P3としては、−500〜500kPaGとすることが好ましく、0〜300kPaGとすることがより好ましい。脱気塔16内の圧力P3が、0kPaG未満の場合、分離ガス中の炭化水素化合物の濃度が上昇する傾向がある。一方、脱気塔16の圧力P3が500kPaGを超える場合、回収液中の軽質な炭化水素化合物の濃度が上昇し、回収タンク18の圧力が上昇する傾向がある。なお、脱気塔16内の圧力P3を変更することによって、炭化水素化合物の回収率及び分離ガス中の炭化水素ガス濃度を任意に調整することができる。
【0043】
脱気塔16の塔頂部にある排出部16bに接続された配管L16は、配管L20と配管L22に分岐して、それぞれ燃焼装置20とボイラー22とに接続されている(図1)。これによって、軽質な炭化水素化合物や無機ガスなどの軽質留分を含有している分離ガスを処理することができる。燃焼装置20に送られる分離ガスは、燃焼させて大気中に排出され、ボイラー22に送られる分離ガスは、ボイラー22の燃料に用いられる。なお、本実施形態では、分離ガスの処理装置として燃焼装置20及びボイラー22を用いたが、分離ガスは他の方法によって処理してもよい。例えば、他の装置の加熱炉用の燃料として用いることも可能である。
【0044】
一方、脱気塔16の底部にある排出部16cに接続された配管L17は、回収タンク18に接続されている。配管L16及びL17としては通常の配管を用いることができる。回収タンク18としては、地上に設置される通常の原油タンクを用いることができる。なお、原油タンク以外のタンクとしては、回収システム専用のタンク、石油製品タンク、又は半製品タンクを用いることができる。脱気塔16の下部に溜められた回収液は、配管L17を経由してポンプ等により回収タンク18に送ることができる。本実施形態においては、吸収用炭化水素油の送り元のタンクと回収液の排出先のタンクを同一タンク(回収タンク18)としたが、これらのタンクは別々のものを用いてもよい。
【0045】
回収タンク18として中東原油が保管されたタンクを用いる場合、その回収タンク18の内圧は原油の蒸気圧により、通常40〜80kPaGである。このような回収タンク18に蒸気圧の高い軽質な炭化水素化合物が多量混入すると、回収タンク18の内圧が上昇し、ブリーザーバルブによって炭化水素ガスが回収タンク18外に排出される場合がある。しかし、本実施形態の炭化水素回収システムによれば、回収液中の軽質な炭化水素化合物の含有量が十分に低減されているため、回収液を導入した後における回収タンク18の内圧の上昇を防止することができる。また、このような回収液は、無機ガスの含有量が十分に低減されたものである。したがって、回収タンク18から吸収塔14に送られる吸収用炭化水素油の吸収性能の低下を十分に抑制することができる。
【0046】
なお、上記実施形態に係る炭化水素回収システムによる炭化水素回収方法は、原油タンカーなどに設置された運搬用槽10内からの排出ガスを加圧して炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮工程と、圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、炭化水素化合物の少なくとも一部を吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収工程、並びに吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと、吸収用炭化水素油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気工程とを有する。
【0047】
圧縮工程では、運搬用槽10内からの排出ガスを所定の圧力P1に加圧して圧縮物を得ることによって、吸収工程において、加圧状態にある圧縮物から炭化水素化合物を容易に吸収用炭化水素油に吸収させることができる。したがって、十分に高い回収率で回収液中に炭化水素化合物を回収することができる。例えば、圧縮機のない炭化水素回収システムによる回収方法に比べて、回収率を10〜30%(標準状態換算)高くすることができる。なお、回収率は、排出ガスに含まれる炭化水素化合物全体に対する、回収液中に回収された該炭化水素化合物の比率として算出することができる。
【0048】
脱気工程では、加圧状態にある吸収液を所定の圧力P3に減圧することによって、吸収液を、軽質な炭化水素化合物及び無機ガスなどの軽質留分を含有する分離ガスと、この軽質留分が低減された回収液とに分離することができる。この回収液は、軽質な炭化水素化合物及び無機ガスの含有量が十分に低減されたものであるため、排出先の回収タンク18において軽質な炭化水素化合物の再蒸発を十分に低減することができる。また、この回収液は吸収工程で、十分な吸収効率を有する吸収用炭化水素油として吸収塔14に導入することができる。このように、吸収塔14の吸収用炭化水素油を、連続的に導入することができるので、容易に排出ガス中の炭化水素化合物を回収することができる。
【0049】
本実施形態における回収液は、吸収工程で用いた吸収用炭化水素油と運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物の少なくとも一部とを含有する。したがって、脱気工程によって得られた回収液の量から吸収工程で用いた吸収用炭化水素油の量を減じることによって、回収できた炭化水素化合物の量を測定することができる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、圧縮機12と吸収塔14との間に冷却器を設けてもよい。この冷却器によって、加圧された圧縮物が冷却されるため、吸収塔14における吸収用炭化水素油による炭化水素化合物の吸収量を一層向上することができる。なお、冷却器としては、通常の熱交換器を用いることができる。冷却用の媒体としては水やアンモニアを用いることができる。なお、冷却器を設ける場合、冷却器の出口における圧縮物の温度は0〜20℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
図1に示す炭化水素回収システム100によって、炭化水素化合物の回収を行った。具体的には、ボイラー排ガス(窒素、二酸化炭素、酸素の混合ガス)でシールされた原油タンカーの槽内から、炭化水素化合物の回収を行った。なお、本実施例における各ガスの成分分析は、ガスクロマトグラフィーにより行ったものである。
【0053】
まず、原油タンカーの槽10に原油供給用のローディングアームと排出ガス排出用のローディングアームとを接続した。次に、原油タンカーの槽10内に原油の積み込みを開始すると同時に、原油タンカーの槽から排出される排出ガスのガス圧縮機12による圧縮を開始した。ガス圧縮機12出口における圧縮ガスの圧力は348kPaGであった。圧縮ガスのガス流量を測定し、ガス圧縮機12出口における圧縮ガスをサンプリングして成分分析を行った。
【0054】
次に、炭化水素化合物の吸収のため、回収タンク18に保管されている原油(アラビアンライト原油)を吸収塔14に導入した。この原油と圧縮ガスとを吸収塔14で向流接触させて、炭化水素化合物を吸収させた吸収液を得た。吸収塔14の塔頂より排出される未吸収ガスの流量を測定し、未吸収ガスの成分分析を行った。
【0055】
次に、吸収塔14の下部より排出される吸収液を脱気塔16に導入して脱気を行った。脱気塔16の塔頂部の出口圧力は圧力調整弁44(図2)により80kPaGに調整した。これにより、吸収液を原油及び炭化水素化合物の少なくとも一部を含有する回収液と軽質な炭化水素化合物及び無機ガスを含有する分離ガスとに分離した。脱気塔16の塔頂より排出される分離ガスのガス流量を測定し、分離ガスの成分分析を行った。
【0056】
圧縮ガス、未吸収ガス、分離ガスの成分分析結果は表1に示す通りであった。なお、圧縮ガスの成分は、槽10からの排出ガスの成分と同一である。各ガスともに、表1に記載された以外の成分として、酸素及び窒素を含んでいる。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すとおり、炭化水素ガス流量で比較すると、炭化水素回収システム100により、1554Nm/hの炭化水素化合物を回収することができた。(回収率:62.9%)また、炭素数1〜3の成分の割合は、圧縮ガスよりも、未吸収ガス及び分離ガスの方が高くなっている。このデータから、より付加価値の高い、炭素数の多い炭化水素化合物(炭素数4以上)を選択的に回収できることが確認された。また、炭化水素化合物の回収を開始してから終了するまでの間、回収タンク18の内圧は約40〜50kPaGで推移した。回収タンク18の大きな圧力上昇は認められなかった。
【0059】
(実施例2)
脱気塔16の塔頂部の出口圧力を、圧力調整弁44により100kPaGに調整したこと以外は、実施例1と同様にして炭化水素回収システム100による炭化水素化合物の回収を行った。この場合、脱気塔16の塔頂より排出される分離ガスのガス流量が、実施例1よりも15.6%減少して、176Nm/hとなった。また、炭化水素化合物の回収率は、63.3%であった。また、炭化水素化合物の回収を開始してから終了するまでの間、回収タンク18の内圧は約40〜50kPaGで推移した。回収タンク18の大きな圧力上昇は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の炭化水素回収システムの好適な実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の脱気塔の好適な実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…運搬用槽(槽)、12…圧縮機、14…吸収塔、14a…充填物、16…脱気塔、16a…導入部、16b,16c…排出部、18…回収タンク、20…燃焼装置、22…ボイラー、40…トレイ、42…ダウンパイプ、44…圧力調整弁、46…回収液液面、L10,L12,L14.L15,L16,L17,L18,L20,L22…配管、100…炭化水素回収システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムであって、
前記排出ガスを加圧して前記炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮機と、
前記圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、前記炭化水素化合物の少なくとも一部を前記吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収装置と、
前記吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと前記吸収用炭化水素油及び前記炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置と、
を備える炭化水素回収システム。
【請求項2】
原油タンカーに設けられた運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムであって、
前記排出ガスを加圧して前記炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮機と、
前記圧縮物を加圧状態で吸収用原油と接触させることにより、前記炭化水素化合物の少なくとも一部を前記吸収用原油に吸収させて吸収液を得る吸収装置と、
前記吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと前記吸収用原油及び前記炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置と、
を備える炭化水素回収システム。
【請求項3】
前記圧縮機と前記吸収装置との間に、前記圧縮物を冷却する冷却器をさらに備える、請求項1又は2記載の炭化水素回収システム。
【請求項4】
運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収システムに用いられ、前記排出ガスの圧縮物を吸収用炭化水素油に吸収させた吸収液を減圧することによって、軽質留分を含む分離ガスと前記吸収用炭化水素油及び前記炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気装置であって、
前記吸収液が供給され、前記分離ガスと前記回収液とに分離する容器本体を備え、
前記容器本体の内部に、
前記吸収液から分離された前記回収液を滞留させるトレイと、
前記トレイに滞留する前記回収液を下方に移送するダウンパイプと、
を有する炭化水素回収システム用の脱気装置。
【請求項5】
運搬用槽からの排出ガスに含まれる炭化水素化合物を回収する炭化水素回収方法であって、
前記排出ガスを加圧して前記炭化水素化合物を含有する圧縮物を排出する圧縮工程と、
前記圧縮物を加圧状態で吸収用炭化水素油と接触させることにより、前記炭化水素化合物の少なくとも一部を前記吸収用炭化水素油に吸収させて吸収液を得る吸収工程と、
前記吸収液を減圧して、軽質留分を含む分離ガスと前記吸収用炭化水素油及び前記炭化水素化合物の少なくとも一部を含む回収液とに分離する脱気工程と、
を備える炭化水素回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−67851(P2009−67851A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235783(P2007−235783)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(503213279)新日本石油基地株式会社 (3)
【Fターム(参考)】