説明

炭化水素油の製造方法

【課題】反応による発熱量の抑制、エネルギー損失の抑制、希釈媒の使用量の低減、ならびに装置機器の腐食の抑制の全てを達成可能な炭化水素油の製造方法の提供。
【解決手段】特定の触媒が充填された反応帯域8a、8b、8cを複数直列に配置し、反応帯域8a、8b、8cのそれぞれにおいて、水素圧力1MPa以上10MPa未満の条件下、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含有する、特定量の得られた炭化水素油のリサイクル油および特定量の含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を供給して水素化処理し、得られた被処理物からガス及び水を除去して炭化水素油を得る。上記複数の反応帯域のうち、最も上流側に配置された反応帯域8aの入口温度は150℃以上250℃以下、上流側から2番目以降の反応帯域8bの入口温度は水の凝縮温度以上、最も下流側に配置された反応帯域8cの出口温度は260℃以上360℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の防止対策としてバイオマスのもつエネルギーの有効利用に注目が集まっている。その中でも植物由来のバイオマスエネルギーは、植物の成長過程で光合成により大気中の二酸化炭素から固定化された炭素を有効利用できるため、ライフサイクルの観点からすると大気中の二酸化炭素の増加につながらない、所謂カーボンニュートラルという性質を持つ。
【0003】
このようなバイオマスエネルギーの利用は輸送用燃料の分野においても種々検討がなされている。例えば、ディーゼル燃料として動植物油由来の燃料を使用できれば、ディーゼルエンジンの高いエネルギー効率との相乗効果により、二酸化炭素の排出量削減において有効な役割を果たすと期待されている。動植物油を利用したディーゼル燃料としては、一般的には脂肪酸メチルエステル油(Fatty Acid Methyl Ester の頭文字から「FAME」と略称される。)が知られている。FAMEは動植物油の一般的な構造であるトリグリセリドを、アルカリ触媒等の作用によりメタノールとエステル交換反応に供することで製造される。
【0004】
しかしながら、FAMEを製造するプロセスにおいては、下記特許文献1に記載されている通り、副生するグリセリンの処理が必要であり、また生成油の洗浄などにコストやエネルギーを要する等の問題が指摘されている。
【0005】
また、FAMEは1分子中に2つの酸素原子を有することから、燃料としては極めて高い酸素含有量となり、従来の石油由来のディーゼル燃料に配合して使用する場合においてもなお、この酸素分がエンジン材質に与える悪影響が懸念されるとの問題もある。
【0006】
そこで、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含む原料油を水素化触媒の存在下に水素化脱酸素処理して、実質的に酸素を含まない炭化水素からなる燃料油を製造する方法が検討されている(例えば下記特許文献2および3を参照。)。
【特許文献1】特開2005−154647号公報
【特許文献2】特開2003−171670号公報
【特許文献3】特開2007−308563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の製造方法の場合、以下の点で改善の余地がある。
【0008】
すなわち、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含む原料油を水素化触媒の存在下に水素化脱酸素する反応は発熱反応であり、反応温度の上昇に対して反応器の耐熱性向上の必要性、高温副反応の増加および高温における暴走反応の発生など問題があり、温度上昇を抑制する必要がある。なお、一般的な発熱反応においては、反応熱の除去のために反応器に冷却装置を設置する方法や不活性な物質(希釈媒)で原料を希釈する方法が採用されている。しかし、前者の方法は反応器が非常に高価となる。一方、後者の方法では十分な発熱抑制効果を得るためには不活性な物質を大量に用いる必要があり、装置の過度の大型化が必要などの制限がある。
【0009】
また、二酸化炭素の排出量削減を目的として動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含む原料油を水素化触媒の存在下に水素化脱酸素してする炭化水素油を製造するには、除去された反応熱をエネルギーとして有効に回収することができなければ、そのエネルギーに相当する二酸化炭素の排出を削減できない。
【0010】
その一方で、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含む原料油を用いると、水素化処理の際にギ酸、プロピオン酸のような水溶性の低級脂肪酸が生成し得るため、装置機器の腐食保護の観点から好ましくない。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、反応による発熱量の抑制およびエネルギー損失の抑制、希釈媒の使用量の低減、ならびに装置機器の腐食の抑制の全てを達成可能な炭化水素油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族および第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒が充填された反応帯域を複数直列に配置し、反応帯域のそれぞれにおいて、水素圧力1MPa以上10MPa未満の条件下、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含有する原料油を供給して水素化処理する第1の工程と、第1の工程で得られた被処理物から水素、硫化水素、二酸化炭素および水を除去して炭化水素油を得る第2の工程と、を備え、複数の反応帯域のうち、最も上流側に配置された反応帯域の入口温度が150℃以上250℃以下であり、上流側から2番目以降の反応帯域の入口温度が水の凝縮温度以上であり、最も下流側に配置された反応帯域の出口温度が260℃以上360℃以下であり、第1の工程に供される原料油は、第2の工程で得られた炭化水素油の一部を原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物に対して0.5〜5質量倍となるようにリサイクル供給されたリサイクル油と、原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物に対して硫黄原子換算で1〜50質量ppmの含硫黄炭化水素化合物と、を含有することを特徴とする、炭化水素油の製造方法を提供する。
【0013】
すなわち、本発明の炭化水素油の製造方法は、上記第1及び第2の工程を備えるものであり、第1の工程における反応帯域の数をn(nは2以上の整数を示す。)、上流側からk番目の反応帯域の入口温度をt、出口温度をT(kは2〜nの範囲の整数)で表すとき、最も上流側に配置された反応帯域の入口温度tを150℃以上250℃以下、2番目以降の反応帯域の入口温度t2、、・・・tをそれぞれ水の凝縮温度以上、最も下流側に配置された反応帯域の出口温度T(=Tlast)を260℃以上360℃以下とするものである。そして、第1の工程に供される原料油には、第2の工程で得られた炭化水素油の一部を原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物に対して0.5〜5質量倍となるようにリサイクル供給されたリサイクル油と、原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物に対して硫黄原子換算で1〜50質量ppmの含硫黄炭化水素化合物と、が加えられる。
【0014】
ここで、上記原料油を水素化処理すると、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物の水素化脱酸素反応が進行し、炭化水素が生成する。本発明でいう「水素化脱酸素反応」とは、含酸素炭化水素化合物を構成する酸素原子を除去し、開裂した部分に水素を付加する反応を意味する。例えば脂肪酸トリグリセライドや脂肪酸は、それぞれエステル基、カルボキシル基等の含酸素基を有しているが、水素化脱酸素反応によって、これらの含酸素基に含まれる酸素原子が取り除かれ、含酸素炭化水素化合物は炭化水素に転換される。脂肪酸トリグリセライド等が有する含酸素基の水素化脱酸素には、主として二つの反応経路がある。第1の反応経路は、脂肪酸トリグリセライド等の含酸素基がそのまま二酸化炭素として脱離する脱炭酸経路であり、酸素原子は二酸化炭素として取り除かれる。第2の反応経路は、脂肪酸トリグリセライド等の炭素数を維持しながらアルデヒド、アルコールを経由して還元される水素化経路である。この場合、酸素原子は水に転換される。これらの反応が並列に進行した場合、炭化水素と水、二酸化炭素が生成する。
【0015】
ステアリン酸のアルキルエステルの場合を例とした水素化脱酸素の反応スキームを下記式(1)、(2)に示す。式(1)で表される反応スキームは上記第1の反応経路に相当するものであり、また、式(2)で示される反応スキームは上記第2の反応経路に相当するものである。また、式(1)、(2)中のRはアルキル基を示す。
1735COOR+H→C1736+CO+RH (1)
1735COOR+4H→C1838+2HO+RH (2)
【0016】
本発明の炭化水素油の製造方法においては、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含有する原料油を水素化処理するに際し、原料油に、上記工程で得られる被処理物および/または炭化水素油の一部であるリサイクル油と、含硫黄炭化水素化合物とをそれぞれ特定量含有せしめるとともに、上記特定の触媒および反応条件を採用することによって、水素化脱酸素反応2つの経路のうち、反応熱がより低い上記第1の反応経路の占める割合を大きくすることができる。その結果、反応による発熱量自体を抑制するとともに、希釈媒の使用量を低減することが可能となる。
【0017】
上記第1の工程にかかる複数の反応帯域のそれぞれにおいては、出口温度と入口温度の差が80℃以下であり、各反応帯域における出口温度と入口温度の差の総和が200℃以下であることが好ましい。つまり、k番目の反応帯域の出口温度Tと入口温度tの差ΔTが80℃以下であり、反応帯域全体についてのΔTの総和である総温度上昇量(ΣΔT;k=1〜nの整数)が200℃以下で水素化処理することが好ましい。
【0018】
さらに本発明の炭化水素の製造法においては、複数の反応帯域のうち隣接する反応帯域間に、炭化水素油の一部をクエンチ油として供給することによって、該クエンチ油の供給位置よりも下流側の反応帯域の入口温度を制御することが好ましい。つまり、上流側からk−1番目の反応帯域とk番目の反応帯域との間に、炭化水素油の一部をクエンチ油として供給することによって、k番目の反応帯域の入口温度tを制御することが好ましい。クエンチ油の供給位置は適宜選択することができ、一部の反応帯域間としてもよく、また、全部の反応帯域間としてもよい。
【0019】
本発明においては、上記第2の工程で得られた炭化水素油を、軽質留分、中間留分および重質留分に分留し、軽質留分と中間留分とのカット温度を100〜200℃、中間留分と重質留分とのカット温度を300〜400℃とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明の炭化水素油の製造方法は、上記第2の工程で得られた炭化水素油または該炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理する第3の工程をさらに備えることが好ましい。さらに、第3の工程で得られた異性化処理油を軽質留分、中間留分および重質留分に分留し、軽質留分と中間留分とのカット温度を100〜200℃、中間留分と重質留分とのカット温度を300〜400℃とすることが好ましい
【0021】
また、リサイクル油および/またはクエンチ油は、上記第2の工程で得られた炭化水素油の一部を含有することが好ましい。さらに、炭化水素油から分留された中間留分の一部、炭化水素油または炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理したものの一部、あるいは、炭化水素油または炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理したものから分留された中間留分の一部を含有することが好ましい。
【0022】
また、原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物は、脂肪酸類および脂肪酸エステル類から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましく、脂肪酸のトリグリセライドであることがより好ましい。
【0023】
また、水素化処理に使用される触媒は、その窒素吸着BET法による細孔容積が0.30〜0.85ml/gであり、平均細孔直径が5〜11nmであり、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることが好ましい。
【0024】
さらに、触媒に含まれる多孔性無機酸化物はリン元素を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
以上の通り、本発明によれば、反応による発熱量の抑制およびエネルギー損失の抑制、希釈媒の使用量の低減、ならびに装置機器の腐食の抑制の全てを達成可能な炭化水素油の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は本実施形態にかかる炭化水素油の製造方法に使用される製造設備の一例を示すフロー図である。図1に示す製造設備においては、上流側から、前処理装置1、ポンプ2、熱交換器3、ヒータ4、水素化処理装置5、セパレータ6aがこの順で連結された流路L1が設けられている。
【0028】
前処理装置1には吸着剤が充填されており、供給される原料油中の夾雑物等の不純物を除去することが可能となっている。不純物が除去された原料油は、ポンプ2によって流路L1に引き出され、流路L2からの水素と混合された後、熱交換器3及びヒータ4における加熱を経て、水素化処理装置5に移送される。なお、流路L2にはPSAガス分離装置7が設けられており、高純度の水素を供給可能となっている。また、水素の一部をクエンチ水素として水素化処理装置5に供給することもできる。
【0029】
水素化処理装置5は3つの反応帯域8a、8b、8cを含んで構成されており、各反応帯域には後述する触媒が充填されている。反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は原料油に対して向流または並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独または複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。反応帯域8a、8b、8cは、単一の触媒床から構成されても良いし、複数の触媒床から構成されても良い。また、図1には反応帯域が3つの場合の例を示したが、反応帯域の数は特に制限されず、2又は4以上であってもよい。さらに、反応帯域は単一の反応器内に離隔して直列に設置してもよい。さらに、直列配置された2以上の反応帯域を有する水素化処理装置を直列または並列に配置して水素化処理を行ってもよい。
【0030】
水素化処理装置5に移送された原料油は、水素化処理が施された後、セパレータ6aに移送される。セパレータ6aにおいては、水素化処理後の被処理物が、水素、硫化水素、二酸化炭素を含む気相成分と、水素化処理により得られる炭化水素油を含む液相成分とに分離され、また、液相成分から水が分離除去される。セパレータ6aの下流側には、熱交換器3を経て精留塔9aに導かれた流路L3、並びに、精留塔9bおよび異性化処理装置10をこの順序で有する流路L4が設けられている。
【0031】
セパレータ6aで分離された気相成分は、熱交換器3で冷却されて液化した後、精留塔9aで気相成分と液相成分(軽質留分)とに分離される。気相成分には未反応の水素が含まれるが、この水素は流路L5を通って流路L2に戻され、PSAガス分離装置9で不純物が除去された後、再利用される。一方、液相成分(実質的には炭化水素油)は精留塔9aから流路L6を通って精留塔9bに移送される。また、セパレータ6で水が分離除去された液相成分(実質的には炭化水素油)は、流路L4を通って精留塔9bに移送される。
なお、図1には熱交換器3がセパレータ6aの下流側に配置された例を示したが、熱交換器3はセパレータ6aの上流側に配置されてもよいし、あるいは熱交換器3自体を設置しなくてもよい。
【0032】
精留塔9bでは、精留塔9aから流路L6を通って移送される液相成分及びセパレータ6aからの液相成分が、気相成分、軽質留分、中間留分及び重質留分に分離される。このうち、中間留分については、異性化処理装置10にて異性化処理が施される。また、気相成分は、流路L7を通ってセパレータ6bに移送され、気相及び液相(水相)に分離される。
【0033】
また、流路L4は、セパレータ6aと精留塔9bとの間、および、精留塔9bと異性化処理装置10との間でそれぞれ分岐しており、この分岐流路L8の他端はさらに2つに分岐し、1つはポンプ2と熱交換器3との間で流路L1と、もう1つは水素化処理装置5の反応帯域8aと8bの間及び8bと8cの間の所定位置と、それぞれ連結している。これにより、セパレータ6a及び精留塔9bで分離された炭化水素油をリサイクル油又はクエンチ油として利用することができる。
【0034】
なお、図1には上流側に精留塔9b、下流側に異性化装置10が配置された例を示したが、精留塔9bおよび異性化装置10の配置は逆でもよい。
【0035】
以下、図1に示す製造設備を用いた炭化水素油の製造方法について詳述する。
【0036】
(原料油)
本発明においては、動植物油に由来する含酸素化合物と、特定のリサイクル油およびクエンチ油と、含硫黄炭化水素化合物とを含有する原料油が用いられる。なお、水素化処理のスタートアップ時には、リサイクル油およびクエンチ油に相当する脂肪族炭化水素化合物を予め用意し、該炭化水素化合物を原料油に含有させたものを水素化処理に供してもよい。
【0037】
動植物油に由来する含酸素化合物としては、動植物油由来の油脂成分やその誘導品が、脱炭酸反応が起きやすいことから好適である。ここで油脂成分には、天然もしくは人工的に生産、製造される動植物油脂および動植物油成分および/またはこれらの油脂を由来して生産、製造される成分およびこれらの油脂製品の性能を維持、向上させる目的で添加される成分が包含される。また油脂成分の誘導体には、上記油脂製品を製造する過程で副生される成分や、意図的に誘導品へ加工された成分が包含される。
【0038】
動植物油に由来する油脂成分としては、例えば、牛脂、トウモロコシ油、菜種油、大豆油、パーム油などが挙げられる。本発明においては動植物油に由来する油脂成分として、いかなる油脂を用いてもよく、これら油脂を使用した後の廃油でもよい。ただし、カーボンニュートラルの観点からは植物油脂が好ましく、脂肪酸アルキル鎖炭素数およびその反応性の観点から、菜種油、大豆油およびパーム油がより好ましい。なお、上記の油脂は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
動植物油に由来する油脂成分の誘導体としては、上記油脂成分の脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸やそれらのメチルエステルなどのエステル体に加工されている成分を含んでいてもよい。これらの脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸の代表的例としては、飽和脂肪酸と称する分子構造中に不飽和結合を有しない脂肪酸である酪酸(CCOOH)、カプロン酸(C11COOH)、カプリル酸(C15COOH)、カプリン酸(C19COOH)、ラウリン酸(C1123COOH)、ミリスチン酸(C1327COOH)、パルミチン酸(C1531COOH)、ステアリン酸(C1735COOH)、および不飽和結合を1つもしくは複数有する不飽和脂肪酸であるオレイン酸(C1733COOH)、リノール酸(C1731COOH)、リノレン酸(C1729COOH)、リシノレン酸(C1732(OH)COOH)等が挙げられる
【0040】
リサイクル油およびクエンチ油は、水素化処理における反応熱による温度上昇を抑制する役割を担っている。本発明においては、上記の通り、該リサイクル油およびクエンチ油として、水素化処理により得られる該被処理物から水素、硫化水素、二酸化炭素および水を除去した炭化水素油(留出油)の一部が、原料油にリサイクル供給される。
【0041】
リサイクル油およびクエンチ油は、上記炭化水素油の一部を含有することが好ましい。さらに、炭化水素油から分留された中間留分の一部、炭化水素油または炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理したものの一部、あるいは、炭化水素油または炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理したものから分留された中間留分の一部を含有することが好ましい。これらの成分を原料油にリサイクル供給する際には、当該成分を冷却しておくことが好ましい。
【0042】
原料油におけるリサイクル油の含有量は、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物に対して0.5〜5質量倍であり、反応器の最高使用温度に応じて前記の範囲内で比率が定められる。これは、両者の比熱が同じであると仮定した場合に、両者を1対1で混合すると温度上昇は動植物油に由来する物質を単独で反応させる場合の半分となることから、上記範囲内であれば反応熱を十分に低下させることができるとの理由による。なお、リサイクル油の含有量が含酸素炭化水素化合物の5質量倍より大きいと、含酸素炭化水素化合物の濃度が低下して反応性が低下し、また、配管等の流量が増加して負荷が増大する。他方、リサイクル油の含有量が含酸素炭化水素化合物の0.5質量倍より低い場合は温度上昇を十分に抑制できない。
【0043】
原料油とリサイクル油の混合方法は特に限定されないが、例えば予め混合してその混合物を水素化処理装置5の反応器に導入してもよく、あるいは原料油を反応器に導入する際に、反応器の前段において供給してもよい。さらに、反応器を複数直列に繋げて反応器間に導入する、あるいは単独の反応器内で触媒層を分割して触媒層間に導入することも可能である。
【0044】
また、含硫黄炭化水素化合物は、水素化処理における脱酸素活性を向上させる役割を担っている。含硫黄炭化水素化合物としては、特に制限されないが、具体的には、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、チオール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。原料油に含まれる含硫黄炭化水素化合物は単一の化合物であってもよく、あるいは2種以上の混合物であってもよい。さらに、硫黄分を含有する石油系炭化水素留分を原料油に添加してもよい。
【0045】
硫黄分を含有する石油系炭化水素留分としては、一般的な石油精製工程で得られる留分を用いることができる。例えば、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置から得られる所定の沸点範囲に相当する留分、あるいは、水素化脱硫装置、水素化分解装置、残油直接脱硫装置、流動接触分解装置などから得られる、所定の沸点範囲に相当する留分を使用してもよい。なお、上記の各装置から得られる留分は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
含硫黄炭化水素化合物の含有量は、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物に対して硫黄原子換算として1〜50質量ppmが必要であり、好ましくは5〜30質量ppm、より好ましくは10〜20質量ppmである。硫黄原子換算として含有量が1質量ppm未満であると、脱酸素活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、50質量ppmを超えると、水素化処理工程で排出される軽質ガス中の硫黄濃度が増加するのに加え、被処理油または炭化水素油に含まれる硫黄分含有量が増加する傾向にあり、ディーゼルエンジン等の燃料として用いる場合にエンジン排ガス浄化装置への悪影響が懸念される。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」またはASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。
【0047】
本発明において、リサイクル油および含硫黄炭化水素化合物の原料油への添加は同時に行っても別々に行ってもよいが、リサイクル油を原料油に添加した後、含硫黄化合物をさらに添加することが好ましい。また、含硫黄炭化水素化合物は、原料油とリサイクル油の混合油に予め混合してその混合物を水素化処理装置の反応器に導入してもよく、あるいは原料油とリサイクル油の混合油を反応器に導入する際に、反応器の前段において供給してもよい。
【0048】
(水素化処理)
水素化処理装置5において、反応帯域8a、8b、8cのそれぞれには、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族および第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒が充填される。
【0049】
本発明で用いられる触媒の担体としては、上述のようにアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上を含んで構成される多孔性無機酸化物が用いられる。かかる多孔性無機酸化物としては、脱酸素活性および脱硫活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましく、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)がさらに好ましい。
【0050】
多孔性無機酸化物が構成元素としてアルミニウムを含有する場合、アルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ換算で、好ましくは1〜97質量%、より好ましくは10〜97質量%、さらに好ましくは20〜95質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な脱酸素活性および脱硫活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で97質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0051】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素については、ケイ素、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについては、リン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0052】
さらに、多孔性無機酸化物は、構成元素としてリンを含有することが好ましい。リンの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは2〜6質量%である。リンの含有量が0.1質量%未満の場合には十分な脱酸素活性および脱硫活性が発揮されない傾向にあり、また、10質量%を超えると過度の分解が進行して目的とする炭化水素油の収率が低下する恐れがある。
【0053】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、アルミニウム水溶液に予め上記原料を添加した後、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを調製してもよく、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0054】
担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期律表第6A族および第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。これらの金属の中でも、コバルト、モリブデン、ニッケルおよびタングステンから選ばれる2種以上の金属を組み合わせて用いることが好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステンが挙げられる。これらのうち、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデンおよびニッケル−タングステンの組み合せがより好ましい。水素化処理に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0055】
触媒質量を基準とする活性金属の含有量としては、タングステンおよびモリブデンの合計担持量の範囲は、酸化物換算で12〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。タングステンおよびモリブデンの合計担持量が12質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、35質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。コバルトおよびニッケルの合計担持量の範囲は、酸化物換算で1.0〜15質量%が好ましく、1.5〜12質量%がより好ましい。コバルトおよびニッケルの合計担持量が1.0質量%未満であると、十分な助触媒効果が得られず、活性が低下する傾向がある。他方、15質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0056】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0057】
本発明において、使用する水素化処理触媒の種類数は特に限定されない。例えば、一種類の触媒を単独で使用してもよく、活性金属種や担体構成成分の異なる触媒を複数使用してもよい。異なる触媒を複数使用する場合の好適な組み合せとしては、例えば、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−タングステンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒を用いることが挙げられる。これらの組み合せの前段および/または後段にニッケル−モリブデン触媒をさらに組み合せてもよい。
【0058】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として酸化アルミニウムの含有量が30質量%以上であり且つ80質量%未満の触媒の後段に、酸化アルミニウムの含有量が80〜99質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
【0059】
本発明において用いられる各触媒は一般的な水素化脱硫触媒と同様の方法で予備硫化した後に用いることができる。例えば、本発明の工程で得られた炭化水素油や石油系炭化水素油に含硫黄炭化水素化合物を添加したものを用いて、水素加圧条件下、200℃以上の熱を所定の手順に従って与える。これにより、触媒上の活性金属が硫化された状態となり活性を発揮する。含硫黄炭化水素化合物としては、特に制限されないが、具体的には、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、チオール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。これらの含硫黄炭化水素化合物は単一の化合物であってもよく、あるいは2種以上の混合物であってもよい。さらに、硫黄分を含有する石油系炭化水素留分を直接用いてもよい。
【0060】
予備硫化は水素化脱酸素反応と同一の反応器で行ってもかまわないし、また予め硫化処理を施された触媒や、含硫黄、含酸素あるいは含窒素有機溶剤による活性化処理を施された触媒を使用することもできる。
【0061】
さらに、水素化処理触媒以外に、必要に応じて原料油に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化処理触媒を支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独または組み合せて用いることができる。
【0062】
本発明で用いられる上記触媒の窒素吸着BET法による細孔容積は、0.30〜0.85ml/gであることが好ましく、0.45〜0.80ml/gであることがより好ましい。当該細孔容積が0.30ml/gに満たない場合は担持される金属の分散性が不十分となり、活性点が検証する懸念がある。また、当該細孔容積が0.85ml/gを超えると、触媒強度が不十分となり、使用中に触媒が粉化、破砕するおそれがある。
【0063】
また、上記測定方法によって求められる触媒の平均細孔直径は、5〜11nmであることが好ましく、6〜9nmであることがより好ましい。平均細孔直径が5nm未満であると、反応基質が細孔内に十分に拡散せず、反応性が低下するおそれがある。また、平均細孔直径が11nmを超えると、細孔表面積が低下し、活性が不十分となるおそれがある。
【0064】
さらに、上記触媒においては、有効な触媒細孔を維持し、十分な活性を発揮させるために、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることが好ましい。
【0065】
上記触媒が充填された反応帯域8a、8b、8cのそれぞれにおいては、水素の存在下、水素圧力1MPa以上10MPa未満の条件下、原料油の水素化処理が行われる。
【0066】
水素圧力は、上記の通り1MPa以上10MPa未満が必要であり、好ましくは2〜8MPaであり、さらに好ましくは3〜6MPaである。水素圧力が10MPa以上であると脱炭酸反応と脱水反応の比率が一定であるが、10MPa未満の場合は圧力の低下に応じて脱炭酸比率が増加し、反応による発熱量を抑制する効果が出現する。ただし、水素圧力1MPa未満では、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。また脱炭酸反応の比率を過度に上げるこことは、副生した二酸化炭素の量に相当する分の炭化水素油の収率を損なうことになるので、上記下限を下回ってまで脱炭酸比率を増加させることは適切ではない。
【0067】
また、水素化処理における水素油比(水素/油比)は100〜1500NL/Lの範囲であることが好ましく、200〜1200NL/Lの範囲であることがより好ましく、250〜1000NL/Lの範囲であることが特に好ましい。水素油比が上記上限を超える場合には上記水素圧力における脱炭酸反応の比率の増加効果を阻害し、また上記下限を下回る場合には十分な水素化反応が進行しないおそれがある。
【0068】
また、最も上流側に配置された反応帯域8aの入口温度tは、150℃以上250℃以下(好ましくは170℃以上240℃以下)であり、2番目以降の反応帯域8b、8cの入口温度t、tは水の凝縮温度以上であり、最も下流側に配置された反応帯域8cの出口温度Tは260℃以上360℃以下(好ましくは260℃以上350℃以下)である。
【0069】
なお、入口温度tが150℃より低い場合には、十分な水素化反応が進行せず、他方、250℃を超えると、リサイクル油やクエンチ油の量を増やす必要があり、エネルギー効率が低下してしまう。
【0070】
また、入口温度t、tを水の凝集温度以上とすることは、反応帯域8aと8bの間および8bと8cの間において、水素化処理により副生する水を水蒸気の状態に保つことを意味する。つまり、入口温度t、tが水の凝縮温度を下回ると、反応で副生した水が水相を形成し、ギ酸、プロピオン酸のような水溶性の低級脂肪酸、あるいはさらに水溶性の含塩素化合物等を含み得るため、装置機器の腐食の原因となる。これに対して、入口温度t、tを水の凝集温度以上とすることによって、上記のような装置機器の腐食を十分に抑制することができる。
【0071】
なお、副生水を水蒸気状態に保つためには生成した水の分圧PW(MPa)とその際の温度T(℃)の関係を、Tetensの式に基づき、下記式(3):
PW<6.11×10^{7.5×T÷(T+237.3)}×10−4 (3)
で表される条件を満たすように温度をコントロールすればよい。すなわち、2番目以降の反応帯域の入口温度(t(nはn≧2の整数))を式(1)の関係を満たすようにコントロールすれば水の凝縮温度以上とすることができる。
【0072】
ここで、PWは、仮に原料油および生成水素化処理油が全く気化せず分圧が0MPaであり、脱炭酸反応が起こらないとすると(副生水が最大量発生するケースを想定)、反応圧力をP(MPa)、水のモル濃度をMW(mol/l)、水素のモル濃度をMH(mol/l)、およびプロパンのモル濃度をMP(mol/l)とすると、下記式(4):
PW=P×MW÷(MW+MH+MP) (4)
で表される。
【0073】
例えば、脂肪酸炭素数が18であるステアリン酸のトリグリセリドに対して、水素量500NL/L、反応圧力5MPaで理想的な水素化脱酸素反応が起こったと仮定した場合、ステアリン酸のトリグリセリドの分子量890、密度0.865g/cmとして、ステアリン酸のトリグリセリド1L(865g(0.97モル))あたりの水素量は500L(22.3モル)であることから、初期の反応系に存在する水素はステアリン酸のトリグリセリド1モルあたり、23.0モルとなる。式(2)から100%の反応でステアリン酸のトリグリセリド1モルあたり水素が12モル消費され水が6モル、プロパンが1モル生成するので、反応率をC(%)とすると、PWは下記式(5):
PW=5×(6×C)÷{6×C+(23.0×100−12×C)+1×C} (5)
で表される。従って、原料の性状、水素油比および反応圧力に応じて式(5)の反応率に応じた温度制御をすることで生成した副生水の凝縮を防止することができる。
【0074】
また、出口温度Tが260℃より低い場合には十分な水素化反応が進行せず、他方、360℃より高い場合には、過度の分解や原料油の重合、その他の副反応が進行するおそれがある。
【0075】
反応帯域8a、8b、8cのそれぞれにおいて、出口温度と入口温度の差ΔT(=T−t)、ΔT(=T−t)、ΔT(=T−t)が80℃以下であり、各反応帯域における出口温度と入口温度の差の総和である総温度上昇量ΣΔT(=ΔT+ΔT+ΔT)が200℃以下であることが好ましい。ΔT、ΔT、ΔTが80℃を超えると反応器の上部と下部との熱膨張率の差が大きくなることにより金属疲労が起こりやすくなるため好ましくない。さらに、総温度上昇量ΣΔTが200℃を超えると反応器の上部と下部との熱膨張率の差が大きくなり、また、反応温度制御が困難になるため好ましくない。
【0076】
反応帯域の温度制御方法に関し、tについては熱交換器3およびヒータ4による原料油の加熱温度を調整する方法が挙げられる。また、t、tについては、反応帯域間8aと8bとの間および/または8bと8cとの間に、セパレータ6a又は精留塔9bで分離された炭化水素油の一部をクエンチ油として供給することによって、該クエンチ油の供給位置よりも下流側の反応帯域8bおよび/または8cの入口温度t2、を制御することが好ましい。また、流路L2からの水素をクエンチ水素として用いることもできる。
【0077】
水素化処理装置5で水素化処理された被処理物は、セパレータ6での気液分離工程や精留塔9a、9bでの精留工程等を経て、所定の留分を含有する水素化処理油に分画される。
【0078】
なお、原料油に含まれている酸素分や硫黄分の反応に伴って、水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素など副生物が発生する可能性があるため、複数の反応器の間や生成物回収工程に気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置して、これらの副生物を除去することが必要である。副生物を除去する装置としては、高圧セパレータ等を好ましく挙げることができる。
【0079】
副生物を除去した後の炭化水素油(流出油)について精留塔で分留する際には、必要に応じて複数留分に分留してもよい。例えば、ガス、ナフサ留分等の軽質留分、灯油、軽油留分等の中間留分、残さ留分等の重質留分に分留してもよい。この場合、軽質留分と中間留分とのカット温度は100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましい。また、中間留分と重質留分とのカット温度は300〜400℃が好ましく、300〜380℃がより好ましく、300〜360℃がさらに好ましい。また、生成するこのような軽質炭化水素留分の一部を水蒸気改質装置において改質することにより水素を製造することができる。このようにして製造された水素は、水蒸気改質に用いた原料がバイオマス由来炭化水素であることから、カーボンニュートラルという特徴を有しており、環境への負荷を低減することができる。
【0080】
水素ガスはヒータ4(加熱炉)を通過前もしくは通過後の原料油に随伴させて最初の反応器の入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応器内の温度を制御するとともに、反応器内全体にわたって水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい。このようにして導入される水素を一般にクエンチ水素と呼ぶ。原料油に随伴して導入する水素ガスに対するクエンチ水素の割合は、10〜60容量%であることが好ましく、15〜50容量%であることがより好ましい。クエンチ水素の割合が10容量未満であると後段の反応部位での反応が十分に進行しない傾向があり、クエンチ水素の割合が60容積%を超えると反応器入口付近での反応が十分に進行しない傾向がある。
【0081】
本発明によって製造される炭化水素油を軽油留分基材として用いる場合は、少なくとも260〜300℃の沸点を有する留分を含有し、硫黄分の含有量が15質量ppm以下であり且つ酸素分の含有量0.5質量%以下であることが好ましく、硫黄分の含有量が12質量ppm以下であり且つ酸素分の含有量0.3質量%以下であることがより好ましい。硫黄分および酸素分が上記の上限値を超える場合、ディーゼルエンジンの排出ガス処理装置で使用されるフィルターや触媒、さらにエンジンその他の材質に影響を及ぼす恐れがある。
【0082】
(異性化処理方法)
異性化処理装置10では、精留塔9bで分離された中間留分を異性化触媒と接触させることにより、異性化処理が行われる。これにより、本発明によって製造される炭化水素油を軽油留分基材として用いる場合に、分岐炭化水素化合物の含有量を増加させることができ、軽油留分基材としての低温流動性を向上させることができる。なお、精留塔9bと異性化触媒10の配置を逆にし、セパレータ6aにて水素、硫化水素、二酸化炭素および水を分離した後の炭化水素油について異性化処理を行い、次いで異性化処理油を精留塔9bにて分留することもできる。
【0083】
異性化の反応帯域は単一の触媒床から構成されていてもよいし、また複数の触媒床から構成されていてもよい。また、反応帯域が複数の触媒床から構成される場合、それらの触媒床は単一の反応器内に離隔して設置してもよいし、あるいは複数の反応器を直列または並列に配置し、各反応器内に触媒床を設置してもよい。
【0084】
異性化の反応帯域における反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流または並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独または複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0085】
異性化触媒は、水素化異性化活性を有するものであれば特に制限されないが、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物、並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第VIII族の元素から選ばれる1種以上の金属元素を含有する触媒が好ましく用いられる。
【0086】
異性化触媒の担体としては、水素化異性化活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましく、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)がさらに好ましい。
【0087】
多孔性無機酸化物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタンのうち少なくとも二種類以上の元素を含んで構成されていることがより好ましい。多孔性無機酸化物は、非結晶性、結晶性のいずれの形態でもよく、ゼオライトを用いることもできる。ゼオライトを用いる場合には、国際ゼオライト学会が定める構造コードのうち、FAU、BEA、MOR、MFI、MEL、MWW、TON、AEL、MTTなどの結晶構造を有するゼオライトを用いることが好ましい。
【0088】
異性化触媒に担持する金属としては、周期律表第VIII族の元素から選ばれる1種以上の金属であることが好ましく、このうち、Pt、Pd、Ru、Rh、Au、Ir、Ni、Coから選ばれる1種以上の金属であることがより好ましく、Pt、Rd、Ru、Niであることが特に好ましい。なお、これらの活性金属は、2種類以上の金属を組み合わせてもよく、たとえば、Pt−Pd、Pt−Ru、Pt−Rh、Pt−Au、Pt−Irなどの例が挙げられる。
【0089】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の水素化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。これらの金属は、硝酸塩、硫酸塩、あるいは錯塩の形態の金属源を水溶液あるいは適当な有機溶剤に溶解し、含浸溶液として使用することができる。
【0090】
また、異性化の反応帯域入口においては、異性化の原料油に含まれる硫黄分含有量が1質量ppm以下であることが好ましく、0.5質量ppmであることがより好ましい。硫黄分含有量が1質量ppmを超えると第1の工程における水素化異性化の進行が妨げられる恐れがある。加えて、同様の理由で、異性化の原料油と共に導入される水素を含む反応ガスについても硫黄分濃度が十分に低いことが必要であり、1容量ppm以下であることが好ましく、0.5容量ppm以下であることがより好ましい。
【0091】
異性化工程における反応条件としては、好ましくは、水素圧力1〜10MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)100〜1500NL/Lであり;より好ましくは、水素圧力2〜8MPa、液空間速度0.2〜2.5h−1、水素油比200〜1200NL/Lであり;さらに好ましくは、水素圧力2.5〜8MPa、空間速度0.2〜2.0h−1、水素油比250〜1000NL/Lである。これらの条件はいずれも触媒の反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力および水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり触媒活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力および水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向にある。
【0092】
異性化工程における反応温度は220〜390℃の範囲であることが好ましく、240〜380℃の範囲であることがより好ましく、250〜365℃の範囲であることが特に好ましい。反応温度が220℃より低い場合には、十分な水素化異性化反応が進行せず、390℃より高い場合には、過度の分解あるいは他の副反応が進行するおそれがある。
【0093】
異性化工程において、異性化の原料油と共に反応帯域に導入される水素ガスは、所定の反応温度まで昇温するための加熱炉の上流もしくは下流において原料油に随伴させて反応帯域入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応帯域内の温度を制御するとともに、反応帯域全体にわたって水素圧力を維持する目的で、触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい(クエンチ水素)。または、生成油、未反応油、反応中間油などのいずれかまたは複数組み合わせて、一部を反応帯域入口や触媒床の間、複数の反応器の間などから導入してもよい。これにより反応温度を制御し、反応温度上昇による過度の分解反応や反応暴走を回避することができる。
【0094】
異性化処理後の生成油は、必要に応じて精留塔で複数留分に分留してもよい。例えば、ガス、ナフサ留分等の軽質留分、灯油、軽油留分等の中間留分、残さ留分等の重質留分に分留してもよい。この場合、軽質留分と中間留分とのカット温度は100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましい。また、中間留分と重質留分とのカット温度は300〜400℃が好ましく、300〜380℃がより好ましく、300〜360℃がさらに好ましい。また、生成するこのような軽質炭化水素留分の一部を水蒸気改質装置において改質することにより水素を製造することができる。このようにして製造された水素は、水蒸気改質に用いた原料がバイオマス由来炭化水素であることから、カーボンニュートラルという特徴を有しており、環境への負荷を低減することができる。
【0095】
水素化精製油の異性化処理を実施する場合、異性化工程で得られる生成油は、分岐炭化水素化合物を含有する。この場合、分岐炭化水素化合物の含有量は、全生成油に対して重量比で5〜90%であることが好ましく、10〜80%であることがより好ましく、20〜60%であることが特に好ましい。分岐炭化水素化合物の含有量が上記下限より低い場合は低温流動性向上の効果が低く、上記上限より高い場合は、副反応である分解反応が過度に進行し、目的とする軽油留分収率が低下する。
【0096】
本発明によって製造される炭化水素油およびその異性化油は、特にディーゼル軽油や重油基材として好適に用いることができる。本発明にかかる炭化水素油は単独でディーゼル軽油や重油基材として用いてもよいが、他の基材などの成分を混合したディーゼル軽油または重質基材として用いることができる。他の基材としては、一般的な石油精製工程で得られる軽油留分および/または灯油留分、本発明の製造方法で得られる残さ留分を混合することもできる。さらに、水素と一酸化炭素から構成される、いわゆる合成ガスを原料とし、フィッシャートロプシュ反応などを経由して得られる合成軽油もしくは合成灯油を混合することができる。これらの合成軽油や合成灯油は芳香族分をほとんど含有せず、飽和炭化水素を主成分とし、セタン価が高いことが特徴である。なお、合成ガスの製造方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0097】
本発明の製造方法で得られる残さ留分は、硫黄分の含有量が0.1質量%以下であり、酸素分の含有量が1質量%以下であり、低硫黄重質基材として使用することができる。また、当該残さ留分は、接触分解用原料油として好適である。このように低硫黄レベルの残さ留分を接触分解装置に供することにより、硫黄分の少ないガソリン基材やその他燃料油基材を製造することができる。さらに、当該残さ留分は、水素化分解用原料油として用いることもできる。このような残さ留分を水素化分解装置に供することにより、分解活性の向上や生成油各留分性状の高品質化を達成することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0099】
(触媒の調製)
<触媒A>
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液3000gに水ガラス3号18.0gを加え、65℃に保温した容器に入れた。他方、65℃に保温した別の容器において濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液3000gにリン酸(濃度85%)6.0gを加えた溶液を調製し、これに前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を滴下した。混合溶液のpHが7.0になる時点を終点とし、得られたスラリー状の生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
ケーキ状のスラリーを還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水150mlと27%アンモニア水溶液10gを加え、75℃で20時間加熱攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmシリンダーの形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、成形担体を得た。
得られた成形担体50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ−で脱気しながら三酸化モリブデン17.3g、硝酸ニッケル(II)6水和物13.2g、リン酸(濃度85%)3.9gおよびリンゴ酸4.0gを含む含浸溶液をフラスコ内に注入した。含浸した試料は120℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒Aを得た。調製した触媒Aの物性を表1に示す。
【0100】
<触媒B>
市販のシリカアルミナ担体(日揮化学社製N632HN)50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらテトラアンミン白金(II)クロライド水溶液をフラスコ内に注入した。含浸した試料は110℃で乾燥した後、350℃で焼成し、触媒Bを得た。触媒Bにおける白金の担持量は、触媒全量を基準として0.5質量%であった。
【0101】
【表1】

【0102】
(実施例1)
触媒A(100ml)を充填した反応管(内径20mm)3器を固定床流通式反応装置に向流に取り付けた。その後、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて触媒層平均温度300℃、水素圧力6MPa、液空間速度1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で、4時間触媒の予備硫化を行った。
予備硫化後、表2に示す性状を有するパーム油(含酸素炭化水素化合物に占めるトリグリセリド構造を有する化合物の割合:98モル%)に後述の精留塔にて分留した中間留分の一部をパーム油(原料油)に対して1質量倍となる量をリサイクルし、パーム油に対する硫黄分含有量(硫黄原子換算)が10質量ppmになるようにジメチルサルファイドを添加して被処理油の調整を行った。その後、被処理油を用いて、水素化精製を行った。被処理油の15℃密度は0.916g/ml、酸素分含有量は11.4質量%であった。また、水素化精製の条件は、第一反応管入口温度(t)を180℃、水素圧力を6MPa、液空間速度を0.5h−1、水素/油比を500NL/Lとした。さらに、第二反応管と第三反応管の入口温度をそれぞれt=190℃、t=230℃となるように精留塔にて分留した中間留分の一部をクエンチとして導入した。水素化精製後の処理油を高圧セパレータに導入し、処理油から水素、硫化水素、二酸化炭素および水の除去を行った。高圧セパレータ導入後の流出油は精留塔に導かれ、沸点範囲150℃未満の軽質留分、150〜350℃の中間留分、350℃を超える重質留分に分留した。中間留分の一部は、冷却水で40℃まで冷却して、前述の通り原料油であるパーム油にリサイクルし、残りは軽油基材として採取した。水素化精製条件を表3に、各反応管出口と入口の温度差(ΔT)、各反応管の入口温度(t)および出口温度(T)、得られた結果を表4に示す。なお、表4および表6中、「セパレータ後の炭化水素油中のC15〜18量」とは、水素化精製後の流出油中の炭素数15から18の炭化水素化合物(中間留分)割合を、実施例1の値を100とした場合の相対値で示しており、この値が小さくなると中間留分の収率が悪く水素化精製で過分解が進んでいることを意味する。また、ΔTの値は大きいほど、水素化精製処理における発熱が大きいことを意味する。
【0103】
(実施例2)
水素圧力を3MPaとした以外は実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表3に、得られた結果を表4に示す。
【0104】
(実施例3)
分留後の中間留分をリサイクルする代わりに、高圧セパレータで副生物を除去した処理油の一部を冷却水で40℃まで冷却した後パーム油に対して1質量倍となる量をリサイクルする以外は、実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表3に、得られた結果を表4に示す。
【0105】
(実施例4)
実施例1の固定床流通式反応装置の後段に、触媒B(150mL)を充填した第四の反応管(内径20mm)を接続した。触媒Bに対して、触媒層平均温度320℃、水素圧力5MPa、水素ガス量83ml/minの条件化で6時間、還元処理を行った。
中間留分を得るまでの工程は実施例1と同様にし、リサイクルした残りの中間留分を、触媒B(150ml)を充填した反応管(内径20mm)を固定床流通式反応装置(異性化装置)に導入し、異性化処理を行った。まず、触媒Bに対して、触媒層平均温度320℃、水素圧力5MPa、水素ガス量83ml/minの条件化で6時間、還元処理を行い、次に、触媒層平均温度を330℃、水素圧力を3MPa、液空間速度を1h−1、水素/油比を500NL/Lの条件で異性化処理を行った。異性化処理後の油は、さらに第2の精留塔に導かれ、沸点範囲150℃未満の軽質留分、150〜350℃の中間留分、350℃を超える重質留分に分留した。この第2の中間留分は軽油基材に用いる。水素化精製条件を表3に、得られた結果を表4に示す。
【0106】
(比較例1)
第1反応管入口温度(t)を200℃にし、高圧セパレータで副生物を除去した処理油の一部を反応器間でクエンチしない以外は、実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表5に、得られた結果を表6に示す。
【0107】
(比較例2)
パーム油にジメチルサルファイドを添加しない以外は実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表5に、得られた結果を表6に示す。ここで、実施例1を100として触媒寿命を比較すると、比較例2の触媒寿命は80となり、含硫黄炭化水素化合物を添加しないことによる触媒寿命の悪化がみられた。ここでの触媒寿命とは、炭化水素油中のC15−C18の炭化水素量が、実施例1の初期状態を100として90に低下するまでの時間と定義する。
【0108】
(比較例3)
クエンチの量を調整して第三反応管の入口温度をt=210℃とし、水素圧力を11MPaとした以外は実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表5に、実験中止までに得られた結果を表6に示す。
反応開始より1000時間経過したところで、流出液が着色していたため実験を中止した。反応管の下流の配管(材質SUS316)を詳しく調べた結果、腐食が確認された。
【0109】
(比較例4)
高圧セパレータで副生物を除去した処理油の一部をパーム油にリサイクルしない以外は、実施例1と同様にして水素化精製を行った。水素化精製条件を表5に、得られた結果を表6に示す。
【0110】
(比較例5)
中間留分のリサイクルをパーム油に対して7質量倍とし、高圧セパレータで副生物を除去した処理油の一部を反応器間でクエンチしない以外は、実施例1と同様にして水素化精製を行った。生成油には未反応原料が含まれており、水素化脱酸素反応が十分に進行していなかった。水素化精製条件を表5に、得られた結果を表6に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
【表4】

【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
上記表4に示したように、実施例1〜4は、水素圧力、リサイクル量、反応帯域の入口温度、出口温度を適正な範囲に制御することにより、反応熱の抑制、副生水の凝縮防止を行うことができ、目的とする中間留分を収率よく得られる、原料油の水素化精製方法を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】炭化水素油の製造方法に使用される製造設備の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0118】
1…前処理装置、2…ポンプ、3…熱交換器、4…ヒータ、5…水素化処理装置、6a、6b…セパレータ、7…PSAガス分離装置、8a、8b、8c…反応帯域、9a、9b…精留塔、10…異性化処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタンおよびマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族および第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒が充填された反応帯域を複数直列に配置し、前記反応帯域のそれぞれにおいて、水素圧力1MPa以上10MPa未満の条件下、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物を含有する原料油を供給して水素化処理する第1の工程と、
前記第1の工程で得られた被処理物から水素、硫化水素、二酸化炭素および水を除去して炭化水素油を得る第2の工程と、
を備え、
前記複数の反応帯域のうち、最も上流側に配置された反応帯域の入口温度が150℃以上250℃以下であり、上流側から2番目以降の反応帯域の入口温度が水の凝縮温度以上であり、最も下流側に配置された反応帯域の出口温度が260℃以上360℃以下であり、
前記原料油は、前記第2の工程で得られた炭化水素油の一部を前記原料油に含まれる前記含酸素炭化水素化合物に対して0.5〜5質量倍となるようにリサイクル供給されたリサイクル油と、前記原料油に含まれる前記含酸素炭化水素化合物に対して硫黄原子換算で1〜50質量ppmの含硫黄炭化水素化合物と、を含有することを特徴とする、炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
前記複数の反応帯域のそれぞれにおいて、出口温度と入口温度の差が80℃以下であり、各反応帯域における出口温度と入口温度の差の総和が200℃以下であることを特徴とする水素化処理することを特徴とする、請求項1に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
前記複数の反応帯域のうち隣接する反応帯域間に、前記炭化水素油の一部をクエンチ油として供給することによって、該クエンチ油の供給位置よりも下流側の反応帯域の入口温度を制御することを特徴とする、請求項1または2に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素油を軽質留分、中間留分および重質留分に分留し、軽質留分と中間留分とのカット温度を100〜200℃、中間留分と重質留分とのカット温度を300〜400℃とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素油または前記炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理する第3の工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項6】
前記第3の工程で得られた異性化処理油を軽質留分、中間留分および重質留分に分留し、軽質留分と中間留分とのカット温度を100〜200℃、中間留分と重質留分とのカット温度を300〜400℃とすることを特徴とする、請求項5に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項7】
前記リサイクル油および/またはクエンチ油が前記炭化水素油の一部を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項8】
前記リサイクル油および/またはクエンチ油が前記炭化水素油または前記炭化水素油から分留された中間留分について異性化処理したものの一部を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項9】
前記含酸素炭化水素化合物が、脂肪酸類および脂肪酸エステル類から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項10】
前記触媒の窒素吸着BET法による細孔容積が0.30〜0.85ml/gであり、平均細孔直径が5〜11nmであり、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項11】
前記多孔性無機酸化物がリン元素を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2010−70651(P2010−70651A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239821(P2008−239821)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】