説明

炭化水素油の製造方法

【課題】ワックス留分の水素化分解の効率を低下させることなく、水素化分解触媒の経時的劣化を抑制し、連続使用時間を延長することが可能な炭化水素油の製造方法を提供する。
【解決手段】被処理ワックスを下記式(1)で定義される分解率が下記式(2)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、前記分解率が下記式(3)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、を交互に設ける。分解率(%)=[(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)−(水素化分解生成物1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)]×100/(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)…(1)30≦X≦90…(2)0.1≦X/X≦0.9…(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識の高まりから、硫黄分および芳香族炭化水素等の環境負荷物質の含有量が低い液体燃料が求められている。このような観点から、硫黄分および芳香族炭化水素を実質的に含まず、脂肪族炭化水素に富む燃料油基材、特に灯油・軽油基材を製造できる技術として、一酸化炭素ガスと水素ガスを原料としたフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という場合もある。)を利用する方法が検討されている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
FT合成反応によって得られる合成油(粗油)(以下、「FT合成油」という場合もある。)は、広い炭素数分布を有する脂肪族炭化水素類を主成分とする混合物である。このFT合成油からは、沸点が約150℃よりも低い成分を多く含むナフサ留分と、沸点が約150〜約360℃の成分を多く含む中間留分と、中間留分よりも重質な(沸点が約360℃を超える。)炭化水素成分を多く含むワックス留分(以下、「FTワックス留分」という場合もある。)とを得ることができる。そして、これら各留分のうち中間留分は、灯油・軽油基材に相当する最も有用な留分であり、これを高い収率で得ることが望まれる。そのため、FT合成油から水素化処理(hydroprocessing)および分留により燃料油基材を得るアップグレーディング工程においては、FT合成反応工程において中間留分とともに相当量併産されるFTワックス留分を水素化分解により低分子量化して中間留分に相当する成分へと転換し、全体としての中間留分の収率を高めることが行われている。
【0004】
FT合成油から分留により得られるFTワックス留分は、水素化分解触媒が充填されたワックス留分水素化分解反応器において水素化分解された後、気液分離装置において気液分離される。そして、ここで得られた液体成分(炭化水素油)は、FT合成油から予め分留され別途水素化精製された中間留分とともに後段の精留塔へと送られ、分留により中間留分(灯油・軽油留分)が得られる。この際、精留塔の塔底からは、ワックス留分水素化分解反応器において十分に水素化分解が進行しなかった未分解ワックスからなる重質な成分(ボトム油)が回収される。前記ボトム油は全量リサイクルされ、FT合成反応工程からのFTワックス留分とともにワックス留分水素化分解反応器に再度供給され、水素化分解される(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
ワックス留分水素化分解反応器においては、中間留分の収率が最大となるように、後述する分解率を設定して運転を行うが、運転時間の経過とともに該反応器に充填された水素化分解触媒が劣化して活性が低下し、分解率の低下とともに中間留分の収率が低下する。そこで通常は、触媒の活性低下に見合う分、経時的に反応温度を高めることにより、一定の分解率が維持されるように調整が行われている。この反応温度は運転時間の経過とともに上昇し、触媒あるいは装置の上限温度に到達したところで装置が停止され、触媒の交換あるいは再生が行われる。従って、炭化水素油の生産効率を高めるためには、水素化分解触媒の経時的な劣化を抑制し、より長い時間にわたり該触媒を連続的に使用できるようにすることが求められる。
【0006】
水素化分解触媒の経時的な劣化を抑制し、前記触媒の連続使用時間を延長する手段として、前記触媒の経時的な劣化が生じた段階で、原料をワックス留分から一時的に軽質パラフィン炭化水素に切り替え、前記触媒の活性を回復させた後、原料をワックス留分に戻す方法が提案されている(例えば特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【特許文献2】特開2007−204506号公報
【特許文献3】特開2007−211057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3に記載の方法の場合、軽質パラフィン炭化水素をワックス留分水素化分解反応器に供給している期間は、本来のワックス留分の水素化分解が実施されず、ワックス留分の水素化分解の効率が低下するとの問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ワックス留分の水素化分解の効率を低下させることなく、水素化分解触媒の経時的劣化を抑制し、連続使用時間を延長することが可能な炭化水素油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、水素化分解触媒を収容する水素化分解反応器に、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する原料ワックスと、前記反応器から流出する水素化分解生成物から分離され、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する未分解ワックスと、を含む被処理ワックスを、連続的に供給して水素化分解することにより、沸点が360℃以下の炭化水素が含まれる炭化水素油を得る方法であって、前記被処理ワックスを下記式(1)で定義される分解率が下記式(2)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、前記分解率が下記式(3)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、を交互に設けることを特徴とする炭化水素油の製造方法を提供する。
分解率(%)=[(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)−(水素化分解生成物1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)]×100/(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量) …(1)
30≦X≦90 …(2)
0.1≦X/X≦0.9 …(3)
【0011】
本発明の炭化水素油の製造方法によれば、ワックス留分の水素化分解において、特定の分解率及び該分解率よりも低い特定の分解率でのブロック・オペレーションを行うことにより、水素化分解触媒の経時的劣化を抑制し、連続使用時間を延長することができる。これにより、ワックス留分水素化分解反応器の連続運転期間を延長することができ、炭化水素油の生産効率を高めることができる。なお、ここで「ブロック・オペレーション」とは、所定の運転条件での運転を一定時間行い、続いて条件変更を行った上で更に一定時間の運転を行う、あるいはこれらを繰り返す形態の運転を意味する。
【0012】
本発明の炭化水素油の製造方法においては、上記原料ワックスがフィッシャー・トロプシュ合成反応により得られるワックスを含むことが好ましい。
【0013】
原料ワックスがフィッシャー・トロプシュ合成反応により得られるワックスを含むことにより、前記ブロック・オペレーションを行うことによる水素化分解触媒の連続運転時間の延長効果が顕著に発現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ワックス留分の水素化分解の効率を低下させることなく、水素化分解触媒の経時的劣化を抑制し、連続使用時間を延長することができる炭化水素油の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の炭化水素油の製造方法の一実施形態が実施される炭化水素油の製造装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る水素化分解の条件(分解率)について説明するための図である。
【図3】本発明に係る水素化分解における水素化分解触媒の活性の経時変化について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の炭化水素油の製造方法の一実施形態が実施される炭化水素油の製造装置を示す概略構成図である。
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態である、原料ワックスがFT合成油から得られるワックス留分(FTワックス留分)を含む例に沿って、本発明の炭化水素油の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
図1に示される炭化水素油の製造装置100は、FT合成反応装置(図示省略。)からライン1を経て供給されるFT合成油をナフサ留分、中間留分およびワックス留分(FTワックス留分)に分留する第1精留塔10と、第1精留塔10の中央部からライン3により供給される中間留分を水素化精製および水素化異性化する中間留分水素化精製反応器20と、第1精留塔10の底部からライン4により供給されるFTワックス留分を水素化分解するワックス留分水素化分解反応器30とを備えている。ナフサ留分は、第1精留塔10の頂部からライン2によりナフサ留分を水素化精製するナフサ留分水素化精製反応器(図示省略。)などに供給される。中間留分水素化精製反応器20には、好ましくは固定床として、水素化精製触媒が充填されている。中間留分は、水素ガス供給ライン(図示省略。)により供給される水素ガスと混合され、ライン3上に配設された熱交換器等の加熱手段(図示省略。)により反応温度まで加熱された後、中間留分水素化精製反応器20に供給され、水素化精製および水素化異性化される。ワックス留分水素化分解反応器30には、好ましくは固定床として、水素化分解触媒が充填されている。FTワックス留分は、ライン9により返送される未分解ワックス(詳細は後述)と混合されて被処理ワックスを形成し、この被処理ワックスは水素ガス供給ライン(図示省略。)により供給される水素ガスと混合され、ライン4上に配設される熱交換器等の加熱手段(図示省略。)により反応温度まで加熱された後、ワックス留分水素化分解反応器30に供給されて、水素化分解される。
【0019】
炭化水素油の製造装置100は、中間留分水素化精製反応器20およびワックス留分水素化分解反応器30の下流に、それぞれ気液分離器50および60を備え、更にライン5を介して気液分離器50から送出される液体炭化水素と、ライン6を介して気液分離器60から送出される液体炭化水素とが供給され、これらの混合物を分留する第2精留塔40を備えている。第2精留塔40には分留された各留分を取り出すためのライン7,8,9が設けられている。本実施形態においては、例えば、ライン7によりナフサ留分を含む軽質留分を取り出し、ライン8により所望の中間留分を取り出し、ライン9により未分解ワックスであるボトム油を取り出すことができる。このボトム油はライン9によりワックス留分水素化分解反応器30の上流のライン4へ返送され、ワックス留分水素化分解反応器30に供給されて再び水素化分解を受ける。
【0020】
なお、ここで「未分解ワックス」とは、ワックス留分水素化反応器30において、被処理ワックス中の沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素の一部が、沸点が中間留分の沸点の上限(概ね360℃)以下となるまで水素化分解されずにワックス留分水素化分解反応器30から流出することに由来して、第2精留塔40の塔底から抜き出される、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する成分をいう。また、「水素化分解生成物」とは、特に断らない限り、ワックス留分水素化分解反応器30から流出する未分解ワックスを含む全ての生成物を意味する。
【0021】
第2精留塔40に供給される中間留分水素化精製反応器20の流出物から分離された液体炭化水素と、ワックス留分水素化分解反応器30から流出する水素化分解生成物から分離された液体炭化水素とは、ラインブレンドで混合されてもタンクブレンドで混合されてもよい。
【0022】
本実施形態においては、第2精留塔40のボトム油である未分解ワックスがライン9によりワックス留分水素化分解反応器30の上流のライン4へ全量返送され、第1精留塔10から供給されるFTワックス留分と、未分解ワックスとの混合物が被処理ワックスとしてワックス留分水素化分解反応器30において本発明に係る条件にて水素化分解される。
【0023】
本実施形態で原料ワックスとして用いられるFTワックス留分を含むFT合成油としては、FT合成法により合成されるものであれば特に限定されないが、中間留分の収率を高めるとの観点から、沸点約150℃以上の炭化水素をFT合成油全体の質量を基準として80質量%以上含むことが好ましい。また、FT合成油は、通常、公知のFT合成反応方法により製造され、広い炭素数分布を有する脂肪族炭化水素を主成分とする混合物であるが、これを予め適宜分留することにより得られる留分であってもよい。
【0024】
FT合成油を構成する脂肪族炭化水素には不純物として不飽和炭化水素(オレフィン類)が含まれる。また、FT合成油は脂肪族炭化水素以外の不純物として、一酸化炭素由来の酸素原子を有するアルコール類等の含酸素化合物を含む。
【0025】
なお、FT合成法の原料として使用される一酸化炭素ガスおよび水素ガスの製造方法は特に限定されないが、天然ガス等の気体炭化水素から改質反応により一酸化炭素ガスおよび水素ガスを主成分として含む合成ガスを製造し、この合成ガスを使用する方法が好ましく採用される。
【0026】
ナフサ留分は、例えば、第1精留塔10において約150℃より低い温度で留出する成分であり、中間留分は、例えば、第1精留塔10において約150℃以上約360℃以下の温度で留出する成分であり、FTワックス留分は、例えば、第1精留塔10において約360℃で留出せず、塔底から抜き出される成分である。なお、ここでは、好ましい形態として、第1精留塔10において2つのカット・ポイント(すなわち、約150℃および約360℃)を設定して、3つの留分に分留する例を示しているが、例えば1つのカット・ポイントを設定して、そのカット・ポイント以下の留分を中間留分としてライン13から中間留分水素化精製反応器20に導入し、そのカット・ポイントを超える留分をFTワックス留分としてライン4から抜き出してもよい。
【0027】
ナフサ留分水素化精製反応器においては、ナフサ留分は公知の方法によって水素化精製され、ナフサ留分に含まれるオレフィン類は水素化により飽和炭化水素に変換され、またアルコール類などの含酸素化合物は水素化脱酸素により炭化水素と水とに変換される。
【0028】
中間留分水素化精製反応器20においては、公知の方法により、ナフサ留分水素化精製反応器と同様に、中間留分に含まれるオレフィン類および含酸素化合物が飽和炭化水素に変換される(水素化精製反応)。また同時に、生成油として燃料油基材を得る場合には、その低温特性(低温流動性)を向上する目的で、中間留分に含まれるノルマルパラフィンの少なくとも一部がイソパラフィンに転換される(水素化異性化反応)。
【0029】
ワックス留分水素化分解反応器30には、沸点360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する原料ワックスであるFTワックス留分と、第2精留塔40のボトム油であり、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する未分解ワックスとの混合物である被処理ワックスが連続的に供給され、水素化分解される。この水素化分解においては、下記式(1)で定義される被処理ワックスの分解率が下記式(2)を満たすX(%)となる条件での水素化分解(以下、「高分解率での水素化分解」という場合もある。)を行なう期間と、前記分解率が下記式(3)を満たすX(%)となる条件での水素化分解(以下、「低分解率での水素化分解」という場合もある。)を行なう期間とを交互に設けることを特徴とする本発明に係る水素化分解が実施される。
分解率(%)=[(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)−(水素化分解生成物1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)]×100/(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量) …(1)
30≦X≦90 …(2)
0.1≦X/X≦0.9 …(3)
【0030】
ワックス留分水素化分解反応器30では、被処理ワックスに含まれるFTワックス留分および未分解ワックスが水素化分解されて、中間留分に相当する成分へと転換される。この際、FTワックス留分に含まれるオレフィン類は水素化されてパラフィン炭化水素に転換される。また、FTワックス留分に含まれるアルコール類などの含酸素化合物は水素化脱酸素されてパラフィン炭化水素と水とに転換されて除去される。また、同時に、生成油として燃料油基材を得る場合には、その低温特性(低温流動性)の向上に寄与するノルマルパラフィンの水素化異性化によるイソパラフィンの生成も進行する。一方、被処理ワックスの一部は過度に水素化分解を受け、目的とする中間留分に相当する沸点範囲の炭化水素よりもさらに低沸点のナフサ留分に相当する炭化水素に転換される。また、被処理ワックスの一部は水素化分解が更に進行し、ブタン類、プロパン、エタン、メタンなどの炭素数4以下のガス状炭化水素へと転換される。
【0031】
本実施形態における被処理ワックスを構成するFTワックス留分および未分解ワックスにおいては、沸点360℃を超える直鎖状炭化水素の含有量は、中間留分を効率的に生産するとの観点から、それぞれ、FTワックス留分の質量および未分解ワックスの質量を基準として70質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
ワックス留分水素化分解反応器30において使用される水素化分解触媒としては、例えば、固体酸を含んで構成される担体に、水素化活性を有する金属として周期表第8〜10族に属する金属を担持した触媒が挙げられる。なおここで、周期表とは、国際純正応用化学連合(IUPAC)の規定する長周期型の元素の周期表を意味する。好適な前記担体としては、超安定Y(USY)型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイトおよびβゼオライトなどの結晶性ゼオライト、ならびに、シリカアルミナ、シリカジルコニア、およびアルミナボリアなどの耐火性を有する無定形複合金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の固体酸を含んで構成されるものが挙げられる。さらに、前記担体は、USY型ゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリアおよびシリカジルコニアの中から選ばれる1種以上の固体酸とを含んで構成されるものがより好ましく、USY型ゼオライトと、アルミナボリアおよび/またはシリカアルミナとを含んで構成されるものがさらに好ましい。
【0033】
USY型ゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理および/または酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する細孔径が2nm以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、2〜10nmの範囲に細孔径を有する新たな細孔が形成されている。USY型ゼオライトの平均粒子径に特に制限はないが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USY型ゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比(アルミナに対するシリカのモル比)は10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。
【0034】
また、前記担体は、結晶性ゼオライト0.1〜80質量%と、耐熱性を有する無定形複合金属酸化物0.1〜60質量%とを含んで構成されるものであることが好ましい。
【0035】
前記担体は、上記固体酸とバインダーとを含む担体組成物を成形した後、焼成することにより製造できる。固体酸の配合割合は、担体全体の質量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、前記担体がUSY型ゼオライトを含んで構成される場合、USY型ゼオライトの配合割合は、担体全体の質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。さらに、前記担体がUSY型ゼオライトおよびアルミナボリアを含んで構成される場合、USY型ゼオライトとアルミナボリアの配合比(US型Yゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、前記担体がUSY型ゼオライトおよびシリカアルミナを含んで構成される場合、USY型ゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USY型ゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0036】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全体の質量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記担体組成物の焼成温度は、400〜550℃の範囲内にあることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
前記水素化活性を有する周期表第8〜10族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウムおよび白金、好ましくはパラジウムおよび白金の中から選ばれる金属を1種単独または2種以上組み合わせて用いることが好ましい。これらの金属は、含浸やイオン交換などの常法によって上述の担体に担持することができる。担持する金属量には特に制限はないが、当該金属がコバルト、ニッケル等の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。また、当該金属が白金、パラジウムロジウム、インジウム等の貴金属である場合には、金属の合計量が担体全体の質量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。水素化活性を有する金属の含有量が前記下限値未満の場合には、水素化分解が充分に進行しない傾向にある。一方、水素化活性を有する金属の含有量が前記上限値を超える場合には、水素化活性を有する金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0039】
ワックス留分水素化分解反応器30における水素分圧としては、例えば0.5〜12MPaであり、1.0〜5.0MPaが好ましい。
【0040】
液空間速度(LHSV)としては、例えば0.1〜10.0h−1であり、0.3〜3.5h−1が好ましい。水素ガスとワックス留分との比(水素ガス/油比)は、特に制限はないが、例えば50〜1000NL/Lであり、70〜800NL/Lが好ましい。
なお、ここで「LHSV(liquid hourly space velocity;液空間速度)」とは、固定床流通式反応器に充填された触媒からなる層(触媒層)の容量当たりの、標準状態(25℃、101325Pa)におけるワックス留分の体積流量のことであり、単位「h−1」は時間の逆数である。また、水素ガス/油比における水素容量の単位である「NL」は、標準状態(0℃、101325Pa)における水素容量(L)を示す。
【0041】
また、ワックス留分水素化分解反応器30における反応温度(触媒床重量平均温度)としては、180〜400℃が例示でき、好ましくは200〜370℃、より好ましくは250〜350℃、さらに好ましくは280〜350℃である。反応温度が400℃を超えると、水素化分解が過度に進行して、目的とする中間留分の収率が低下する傾向にある。また、水素化分解生成物が着色して、燃料基材としての使用が制限される場合もある。一方、反応温度が180℃より低い場合は、ワックス留分の水素化分解が十分に進行せず、中間留分の収率が低下する傾向にある。また、ワックス留分中のオレフィン類やアルコール類等の含酸素化合物が十分に除去されない傾向にある。なお、反応温度は、例えば、ライン4に設けられた熱交換器(図示省略。)出口の設定温度を調整することにより制御される。
【0042】
本発明においては、上記式(1)で定義される分解率が上記式(2)を満たすX(%)となる条件で被処理ワックスの水素化分解を行なう期間と、前記分解率が上記式(3)を満たすXとなる条件で被処理ワックスの水素化分解を行なう期間とを交互に設けることを特徴とする水素化分解が行われる。本発明に係る水素化分解の条件について図面を参照しながら説明する。
【0043】
図2は、本発明に係る水素化分解の条件について説明する図であり、ワックス留分水素化分解反応器30における運転時間と分解率との関係を示すグラフである。図2中のaは、本発明に係る水素化分解における運転時間に対する分解率の変化の一例を示すグラフであり、上記式(1)で定義される分解率が上記式(2)を満たすX(%)となる条件での水素化分解と、前記分解率が上記式(3)を満たすX(%)となる条件での水素化分解とが交互に実施されていることを示す。図2中のbは、従来の(ブロック・オペレーションを行なわない)水素化分解における運転時間に対する分解率の変化の一例を示すグラフであり、上記式(1)で定義される分解率がY(%)で一定となる条件での水素化分解が実施されていることを示す。
【0044】
図3は、本発明に係る水素化分解における水素化分解触媒の活性の経時変化について説明する図であり、図2に示される分解率の変化を与えるように水素化分解を行うときの運転時間と補正反応温度との関係を示すグラフである。図3中のaは、図2中のaで示される高分解率および低分解率でのブロック・オペレーションを実施したときの補正反応温度の運転時間に対する変化を示すグラフである。図3中のbは、図2中のbで示される従来の、分解率を一定に保つ運転を実施したときの補正反応温度の運転時間に対する変化を示すグラフである。ここで、補正反応温度とは、基準となるLHSV(2.0h−1)において基準となる分解率(70%)を得るための反応温度であり、実際の運転結果からアレニウス式により換算して求める。補正反応温度は水素化分解触媒の活性の指標であり、補正反応温度が相対的に高いことは水素化分解触媒の活性が相対的に低いことを意味する。また、高分解率での水素化分解の期間(t1)において補正反応温度が経時的に上昇することは、一定の分解率を保つために反応温度を経時的に高めていく必要がある、すなわち、水素化分解触媒の活性がt1において経時的に低下していることを意味する。更に、低分解率での水素化分解の期間(t)において補正反応温度が経時的に低下することは、t1において一旦低下した水素化分解触媒の活性が、tにおいて回復していることを意味する。
【0045】
本実施形態においては、図3のaに示されるように、高分解率での水素化分解の期間(t1)には水素化分解触媒の活性が経時的に低下するが、低分解率での水素化分解の期間(t)には水素化分解触媒の活性が回復する。その結果、ブロック・オペレーションを行わず一定の分解率を維持する従来の運転方法を採用する場合(図3中のb)に比較して、同一の運転時間において、補正反応温度を低くする、すなわち水素化分解触媒の活性低下を抑制することができる。そして、本実施形態に係るブロック・オペレーションにおいては、従来の水素化分解を行った場合に比較して、補正反応温度の上限(図3では350℃)に到達するまでの時間を延長することができる。
【0046】
本実施形態においては、中間留分の収率を高め、効率的に中間留分を得るとの点で、Xは30〜90%の範囲であり、40〜80%の範囲にあることが好ましく、50〜75%の範囲にあることがより好ましい。また、高分解率での水素化分解の期間に低下した触媒の活性を効率的に回復させるとの点、および高分解率での水素化分解の期間および低分解率での水素化分解の期間を通じて中間留分を効率的に生産する点で、X/Xは0.1〜0.9の範囲であり、0.2〜0.75の範囲にあることが好ましく、0.25〜0.6の範囲にあることがより好ましい。なお、図2のaで示される本実施形態に係るブロック・オペレーションの例においては、同一の高分解率(X)での水素化分解と、同一の低分解率(X)での水素化分解とがそれぞれ繰り返されているが、上記式(2)および式(3)を満たす範囲内であれば、異なるサイクルにおけるXおよび異なるサイクルにおけるXは、それぞれ互いに異なっていてもよい。なお、この場合、上記式(3)によりXを決定する際には、Xとしてはその直前のサイクルにおける値を採用し、また、Xを決定する際には、Xとしてはその直前のサイクルにおける値を採用することが好ましい。
【0047】
高分解率での水素化分解の期間(t)に低下した触媒の活性を効率的に回復させるとの点、および高分解率での水素化分解の期間(t)および低分解率での水素化分解の期間(t)を通じて中間留分を効率的に生産する点で、高分解率での水素化分解の期間(t)と低分解率での水素化分解の期間(t)との割合t/tは、0.5〜2程度であることが好ましい。また、図2のaで示される本実施形態に係るブロック・オペレーションの例においては、異なるサイクル間で、tおよびtはそれぞれ互いに一定としているが、これらはそれぞれ互いに異なっていてもよい。
【0048】
本実施形態においては、ワックス留分水素化分解反応器の運転を開始してから、運転を停止し、反応器に充填された水素化分解触媒を交換または再生するまでの期間に行なわれる高分解率での水素化分解および低分解率での水素化分解の回数は、これらを交互に行なう限りにおいて限定されないが、当該ブロック・オペレーションを行なう意義の点から、高分解率での水素化分解は2回以上、低分解率での水素化分解は1回以上行う。また、運転が停止した状態にあるワックス留分水素化分解反応器30の運転を開始する際には、高分解率の水素化分解を行う条件で運転を開始してもよいし、また、低分解率での水素化分解を行う条件で運転を開始してもよい。一般的には、通常の運転における反応温度よりも低い反応温度、すなわち比較的に分解率が低くなる条件において、反応器の運転を開始し、その後徐々に反応温度(分解率)を高める運転を行うことが多く、この運転開始の期間を低分解率での水素化分解と見なす場合は、少なくとも更に1回の低分解率での水素化分解を行うことが好ましい。
【0049】
ワックス留分水素化分解反応器30における分解率は、例えば、反応温度、LHSV、水素圧力、水素油比などの反応条件を調整することにより上記範囲に制御することができる。これらのうち、制御の容易さおよび効果の大きさの点で、反応温度を制御して分解率を調整することが好ましい。
【0050】
本実施形態において、FTワックス留分は、FT合成油を第1精留塔10においてカット・ポイント約360℃にて分留して得られるボトム油であることが好ましく、FTワックスと混合されて被処理ワックスを形成し、ワックス留分水素化分解反応器30に返送される未分解ワックスは、第2精留塔40においてカット・ポイントが約360℃で分留されたボトム油であることが好ましい。
【0051】
本実施形態において、第1精留塔10および第2精留塔40における中間留分とワックス留分とのカット・ポイントを360℃とする場合には、高分解率での水素化分解、低分解率での水素化分解のいずれの期間であっても、水素化分解に供される被処理ワックスにおける、第1精留塔10から供給されるFTワックス留分と、第2精留塔40からリサイクルされる未分解ワックスとの比率は、概ね被処理ワックスの分解率によって決定される。すなわち、分解率がX(%)である場合に、ワックス留分水素化分解反応器30へのFTワックス留分の単位時間当たりの質量供給量を100とすると、第2精留塔40のボトム油である未分解ワックスの単位時間当りの抜き出し量は概ね100−Xとなり、被処理ワックス中の比率(リサイクルされる未分解ワックス/FTワックス留分)は概ね(100−X)/100となる。
【0052】
ワックス留分水素化分解反応器30から流出する水素化分解生成物は、好ましくは多段に設けられた気液分離装置60(図1においては単段で表示。)へ導入され、気体成分から分離された液体成分はライン6を経て、第2精留40に供給される。一方、気液分離装置60において分離された気体成分は、気体状炭化水素を含んだ水素ガスを主成分とし、中間留分水素化精製反応器20あるいはナフサ留分水素化精製反応器(図示省略。)に供給されて、水素化処理用水素ガスとして再利用される。
【0053】
ワックス留分水素化分解反応器30から流出する水素化分解生成物を気液分離するための気液分離装置は多段に設けることが好ましい。この場合、段階的に冷却する手法を採用することにより、ワックス留分水素化分解反応器30から流出する水素化分解生成物中に含まれる凝固点の高い成分(特に未分解ワックス)が急冷により固化して、装置閉塞を起こすなどのトラブルを防止することができる。
【0054】
本実施形態の炭化水素油の製造方法にあっては、水素化分解反応器30における高分解率での水素化分解の期間と、低分解率での水素化分解の期間とを設けるブロック・オペレーションにおいて、高分解率での水素化分解の期間に低下した水素化分解触媒の活性が、低分解率での水素化分解の期間に回復する。この作用機構は定かではないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、FT合成油およびFT合成油由来のワックス留分(FTワックス留分)には、飽和脂肪族炭化水素以外の不純物である含酸素化合物、オレフィン類等が含有される。これらの不純物が水素化分解触媒に吸着されることが、該触媒の経時的な活性低下の一因となっている可能性がある。一方、FTワックス留分中に含まれる前記不純物は、ワックス留分水素化分解反応器30において除去される。したがって、水素化分解生成物を分留して得られる第2精留塔のボトム油(未分解ワックス)中には前記不純物は実質的に含有されない。低分解率での水素化分解の期間においては、水素化分解生成物中に占める未分解ワックスの割合が増加し、第2精留塔40のボトム油の流出量が増加する。このボトム油の全量がワックス留分水素化分解反応器30にリサイクルされるので、被処理ワックスに占めるリサイクルされる未分解ワックスの割合が増加し、前記不純物を含むFTワックス留分の割合が相対的に低下するので、被処理ワックス中の不純物含有量が低下する。このような被処理ワックスが触媒層に流通することにより、不純物の触媒への吸着が減少し、更には該被処理ワックスによる洗浄効果により、触媒に吸着された不純物の一部が除去されることが考えられる。前記作用により、高分解率での水素化分解の期間に低下した触媒の活性が低分解率での水素化分解の期間に回復し、ひいては触媒の連続使用時間が延長されるものと、本発明者らは推定している。
【0055】
中間留分水素化精製反応器20において使用される水素化精製触媒としては、石油精製等において水素化精製および/または水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化活性を有する金属が担持された触媒を用いることができる。
【0056】
水素化精製触媒を構成する水素化活性を有する金属としては、元素の周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0057】
水素化精製触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。前記無機担体は、水素化精製と同時にノルマルパラフィンの水素化異性化を効率的に進行させるとの観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物であることが好ましい。また、前記無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。さらに前記無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0058】
水素化精製触媒における水素化活性を有する金属の含有量としては、当該金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、当該金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。水素化活性を有する金属の含有量が前記下限値未満の場合には、水素化精製及び水素化異性化が充分に進行しない傾向にある。一方、水素化活性を有する金属の含有量が前記上限値を超える場合には、水素化活性を有する金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0059】
中間留分水素化精製反応器20においては、中間留分(概ねC11〜C20であるノルマルパラフィンを主成分とする)を水素化精製する。この水素化精製では、中間留分に含まれるFT合成反応の副生成物であるオレフィン類を水素化してパラフィン炭化水素に転換する。また、アルコール類等の含酸素化合物を水素化脱水素反応によりパラフィン炭化水素と水とに転換する。また、水素化精製反応と並行して、中間留分を構成するノルマルパラフィンの水素化異性化反応が進行し、イソパラフィンが生成する。水素化精製された中間留分を燃料油基材として使用する場合には、水素化異性化反応により生成するイソパラフィンは、その低温流動性の向上に寄与する成分であり、その生成率が高いことが好ましい。
【0060】
中間留分水素精製反応器20における反応条件は限定されないが、次のような反応条件を選択することができる。すなわち、反応温度(触媒層重量平均反応温度)としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質分への分解が進行して中間留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、アルコール類等の含酸素化合物が十分に除去されずに残存し、また、水素化異性化反応によるイソパラフィンの生成が抑制される傾向にある。水素分圧としては0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。水素分圧が0.5MPa未満の場合には水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にあり、一方、12MPaを超える場合には装置に高い耐圧性が要求され、設備コストが上昇する傾向にある。粗中間留分の液空間速度(LHSV)としては0.1〜10.0h−1が挙げられるが、0.3〜3.5h−1が好ましい。LHSVが0.1h−1未満の場合には軽質分への分解が進行して中間留分の収率が減少し、また生産性が低下する傾向にあり、一方、10.0h−1を超える場合には、水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にある。水素/油比としては50〜1000NL/Lが挙げられるが、70〜800NL/Lが好ましい。水素/油比が50NL/L未満の場合には水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にあり、一方、1000NL/Lを超える場合には、大規模な水素供給装置等が必要となる傾向にある。
【0061】
中間留分水素化精製反応器20からの流出物は、ライン5の中途に配設される気液分離器50において未反応の水素ガスを主として含むガス分が分離された後、ライン5を通じて移送され、ライン6により移送された液状のワックス留分の水素化分解生成物と合流して、第2精留塔40に供給される。また、前記気液分離器50において分離された水素ガスを主として含むガス分は、ワックス留分水素化分解装置30へ供給され、再利用される。
【0062】
このような中間留分水素化精製反応器20においては、水素化精製された中間留分が燃料油基材として十分な低温特性(低温流動性)をもつように、水素化精製前の中間留分を構成するノルマルパラフィンが高い転換率をもってイソパラフィンに転換されるように、水素化異性化が進行し、また、水素化精製前の中間留分に含まれるアルコール類等の含酸素化合物およびオレフィン類が十分に除去されるように、水素化精製反応器20を運転することが好ましい。
【0063】
第2精留塔40では、取り出す炭化水素油に応じてカット・ポイントを複数設定し、中間留分水素化精製反応器20の流出物中の液体成分と、ワックス留分水素化分解反応器30から流出する水素化分解生成物中の液体成分とからなる混合油の分留が行われる。
【0064】
本実施形態においては、例えば、カット・ポイントを約150℃、約360℃に設定することで、ライン7によりナフサ留分を取り出し、ライン8により中間留分を取り出し、ライン8により未分解ワックスを主成分とするボトム油を取り出すことができる。また、カット・ポイント約150℃と約360℃の間に更に約250℃のカット・ポイントを設け、中間留分を更に灯油留分および軽油留分に分留してもよい。
【0065】
本発明は上記の実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更、置換、追加等を行なうことができる。例えば、本発明の炭化水素油の製造方法における原料ワックスは、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有していればFTワックス留分に限定されることはなく、石油由来のワックス、例えばスラックワックスなどであってもよいし、FTワックス留分とこれらのワックスの混合物であってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
<水素化分解触媒の調製>
粉末状の平均粒子径0.4μmのUSYゼオライト(シリカ/アルミナのモル比:37)を3.0質量%、粉末状のアルミナボリア(アルミナ/ボリアの質量比:5.6)を57.0質量%、および粉末状のアルミナを40.0質量%含有する組成物を、常法により直径約1.5mm、長さ約3mmの円柱状に押出成型し、得られた成型体を空気中500℃で1時間焼成して担体を得た。この担体に、白金原子として担体の質量を基準として0.8質量%となる量のジクロロテトラアンミン白金(II)の水溶液を含浸した後、これを120℃で3時間乾燥し、その後500℃にて1時間、空気中で焼成することにより、水素化分解触媒を得た。
【0068】
<原料ワックス(FTワックス留分)>
FT合成反応により製造された合成油(FT合成油)を360℃をカット・ポイントとして精留塔において分留し、得られたボトム油をFTワックス留分として使用した。このFTワックス留分の組成を分析したところ、炭素数が20〜80である直鎖状炭化水素を主成分とし、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素の含有量が、FTワックス留分全体の質量を基準として95質量%であった。
【0069】
<水素化分解>
先ず、上記水素化分解触媒を固定床流通式反応器に充填し、水素気流下、345℃で4時間の還元処理を行って触媒を活性化した。次に、上記FTワックス留分、水素ガスおよび後述する水素化分解生成物から分留により回収、リサイクルした未分解ワックスを連続的に前記反応器に供給し、高分解率での水素化分解の期間と、低分解率での水素化分解の期間とを交互に設けるブロック・オペレーションにより、水素化分解を行った。
【0070】
まず、高分解率での水素化分解の運転を行った。反応温度約310℃、FTワックス留分供給量を1221L/h、水素/油比(標準状態の水素ガスの体積流量/被処理油の体積流量)を700NL/Lとし、反応器から流出した水素化分解生成物を2段階に設置された気液分離器に供給し、水素ガスおよびガス状炭化水素を主成分とするガス分と液体炭化水素とに分離し、この液体炭化水素を精留塔に供給した。精留塔においては、前記液体炭化水素を、150℃および360℃をカット・ポイントとし、沸点が約150℃より低い軽質留分と、沸点が約150〜約360℃である中間留分と、沸点が約360℃を超える未分解ワックスとに分留した。精留塔の塔頂から軽質留分を、精留塔中央部から中間留分を、精留塔塔底から未分解ワックスをそれぞれ抜き出した。そして、未分解ワックスの全量を前記反応器の上流に返送し、FTワックス留分と混合して被処理ワックスとし、反応器に供給した。
【0071】
反応を定常状態へ安定化させると共に、水素化分解生成物の分析により得られる、前記(1)式で定義される分解率の測定値が67%となるように反応温度を調整した結果、反応温度は前述の補正反応温度として311℃となった。この時、反応器に返送される未分解ワックスの流量は600L/hであり、目的とする中間留分の収量は916L/hであり、中間留分の質量収量のFTワックス留分の質量供給量に対する割合で表される中間留分収率は75%であった。
【0072】
その後、運転時間の経過に伴う水素化分解触媒の劣化による分解率の低下を、反応温度を経時的に高めることにより補償し、分解率を67%に保った。そして、運転開始から1600時間が経過したところで、低分解率での水素化分解の運転に切り替えるための反応条件の変更を行った。
【0073】
FTワックス留分の供給量を257L/hとし、定常状態における分解率が30%となるように調整したところ補正反応温度が307℃となった以外は、前記高分解率での水素化分解と同様の条件で低分解率での水素化分解の運転を行った。この運転において、未分解ワックスの供給量は600L/hを維持し、目的とする中間留分の収量は193L/h、中間留分収率は75%であった。
【0074】
その後、運転時間の経過に伴い、水素化分解触媒の補正反応温度は下降(高分解率での水素化分解の期間に低下した触媒の活性が回復)し、これに応じて、分解率を30%に維持するために、反応温度を経時的に低下させた。そして、800時間低分解率での水素化分解を行ったところで、再び高分解率での水素化分解を行うための反応条件の変更を行った。
【0075】
2回目の高分解率での水素化分解の運転は、1回目の高分解率での水素化分解の運転と同様の条件で行った。但し、反応温度は、当該運転期間の開始の時点で分解率を67%となるように調整した温度であり、その後、当該運転における経時的な触媒活性の低下に応じて、分解率を67%に維持するために、経時的に反応温度を高めた。2回目の高分解率での水素化分解の運転も、1600時間行った。
【0076】
以下、上記と同様に、低分解率(30%)での水素化分解の運転および高分解率(67%)での水素化分解の運転を交互に繰り返した。
【0077】
各高分解率での水素化分解の運転および低分解率での水素化分解の運転において、目的とする中間留分のFTワックス留分を基準とする中間留分の収率は75%を維持した。
【0078】
運転開始から、補正反応温度が上限値として設定した350℃に到達するまでの時間は、38400時間であった。運転条件および結果を表1に示す。また、図3のaはこの実施例1における、運転時間と補正反応温度の関係を表したものある。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同一の反応器、水素化分解触媒およびFTワックス留分を用いて、全運転期間を通じて一定の分解率および一定のFTワックス留分供給量とする水素化分解を行った。運転条件を表1に示す。
【0080】
ここで分解率は、中間留分収率が実施例1における中間留分収率(75%)と同一となるように調整した結果、60%に設定した。運転開始時に分解率を60%とするための補正反応温度は310℃であった。そして、反応温度はこの分解率を維持するように、経時的に低下する触媒活性を補償するように、経時的に高めていった。
【0081】
また、原料ワックスであるFTワクックス留分の供給量は、実施例1における高分解率での水素化分解の期間と低分解率での水素化分解の期間のFTワックス留分の供給量の、運転時間の比率による加重平均値と等しくなるように一定に設定した。これらの条件設定により、単位時間当たりの中間留分の生産効率(中間留分収量)は、実施例1における高分解率での水素化分解を行う運転と、低分解率の水素化分解を行う運転との平均値と同一となる。
【0082】
運転開始から、補正反応温度が上限値として設定した350℃に到達するまでの時間は、28000時間であった。結果を表1に示す。また、図3のbはこの比較例1における、運転時間と補正反応温度の関係を表したものある。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同一の反応器、水素化分解触媒およびFTワックス留分を用いて、実施例1と同様の手順、表2に記載の運転条件により、高分解率(78%)/低分解率(20%)のブロック・オペレーションによる水素化分解を行った。最初の高分解率での水素化分解の運転において、運転開始時に分解率を78%とするための補正反応温度は314℃であった。また、最初の低分解率での水素化分解の運転の運転開始時に分解率を20%とするための補正反応温度は309℃であった。中間留分の収率は全期間を通じて75%であった。
【0084】
運転開始から、補正反応温度が上限値として設定した350℃に到達するまでの時間は40000時間であった。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例2に対して、前述の実施例1と比較例1との関係と同様の関係、すなわち、FTワックス留分供給量を、実施例2におけるFTワックス留分の時間加重平均供給量と等しくなるように一定に設定し、また、表2に示す条件により、全運転期間を通じて、中間留分の収率が実施例2の中間留分収率(75%)と同一となるように調整することにより、一定の分解率(70%)とする水素化分解を行った。運転開始時に分解率を70%とするための補正反応温度は313℃であった。
【0086】
運転開始から、補正反応温度が上限値として設定した350℃に到達するまでの時間は30400時間であった。結果を表2に示す。
【0087】
【表1】



【0088】
【表2】



【0089】
表1および表2の結果から、本発明の炭化水素の製造方法に係る高分解率/低分解率ブロック・オペレーションによる水素化分解を行うことで、全期間を通じて一定の分解率で水素化分解を行う場合に比較して、同一の単位時間当りの中間留分生産効率を維持しながら、水素化分解触媒の経時的な劣化を抑制し、連続運転が可能な時間を大幅に延長することが可能であることが明確となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化分解触媒を収容する水素化分解反応器に、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する原料ワックスと、前記反応器から流出する水素化分解生成物から分離され、沸点が360℃を超える直鎖状炭化水素を70質量%以上含有する未分解ワックスと、を含む被処理ワックスを、連続的に供給して水素化分解することにより、沸点が360℃以下の炭化水素が含まれる炭化水素油を得る方法であって、
前記被処理ワックスを下記式(1)で定義される分解率が下記式(2)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、前記分解率が下記式(3)を満たすX(%)となる条件で水素化分解を行う期間と、を交互に設けることを特徴とする炭化水素油の製造方法。
分解率(%)=[(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)−(水素化分解生成物1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量)]×100/(被処理ワックス1g中の沸点が360℃を超える炭化水素の含有量) …(1)
30≦X≦90 …(2)
0.1≦X/X≦0.9 …(3)
【請求項2】
前記原料ワックスがフィッシャー・トロプシュ合成反応により得られるワックスを含むことを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−162618(P2012−162618A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22916(P2011−22916)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】