説明

炭化水素組成物

【課題】高い熱安定性を供える新規炭化水素組成物を提供すること。
【解決手段】イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素100重量部と、ニトロエタン0.5重量部〜5重量部と、1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部〜5重量部とを含有する炭化水素組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素を含有する、炭化水素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子部品をはんだ付けした際に電気・電子部品に残存するハンダフラックスや、機械部品を金属加工する際に使用する加工油などを除去するために、従来、塩素系溶剤やフッ素系溶剤が用いられてきた。しかしながら、塩素系溶剤は地下水汚染の原因物質であり、また、フッ素系溶剤はオゾン層破壊の原因物質であるという環境上の問題から、これらの使用は制限されつつある。
【0003】
このため、塩素系溶剤やフッ素系溶剤に替わる環境汚染の少ない代替溶剤として、炭化水素組成物からなる炭化水素系溶剤が注目されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【特許文献1】特開平10−036893
【特許文献2】特開平09−169997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、炭化水素組成物を溶剤として使用した場合に、蒸気洗浄で長時間使用したり、その使用済みの汚れた溶剤を蒸留することによって溶剤を再生する、いわゆる蒸留再生を繰り返し行ったりすると、炭化水素組成物の粘度が上昇してしまうという問題があった。この結果、炭化水素組成物を繰り返し使用すると取り扱いが難しくなり、さらに、炭化水素組成物の組成が変わることによって、溶剤としての洗浄能力が低下してしまうことがしばしば生じた。
そこで、本発明は、高い熱安定性を供える新規炭化水素組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素に、特定の化合物を加えることによって、これらの炭化水素の熱安定性が向上することを見出した。
【0006】
即ち、本発明は下記の通りである。
イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素100重量部に対して、ニトロエタン0.5重量部〜5重量部と、1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部〜5重量部とを含有させることによって、熱を加えても分解や反応を起こしにくい、即ち、高い熱安定性を備える炭化水素組成物を提供することができる。
【0007】
前記炭化水素組成物に、さらにノルマルプロピルブロマイドを含有させることが好ましい。この際、組成物全体における前記ノルマルプロピルブロマイドの割合を10重量%〜80重量%とすることによって、高い熱安定性を備えながら、引火性がない安全な炭化水素組成物を提供することができる。
【0008】
炭化水素組成物の取り扱いやすさを考慮に入れれば、前記炭化水素の炭素数が8〜12であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、高い熱安定性を供える新規炭化水素組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==炭化水素組成物==
本発明の炭化水素組成物は、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素100重量部と、ニトロエタン0.5重量部〜5重量部と、1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部〜5重量部とを含有する。
ニトロエタンと1,2−ブチレンオキサイドとを組み合わせ、上記特定の割合で、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、または、ナフテンに加えることによって、熱を加えても分解や反応を起こしにくい、即ち、高い熱安定性を備える、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンとすることができる。なお、炭化水素は2種以上を含有してもよく、例えば、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの混合物であってもよい。
【0012】
ここで、イソパラフィンとは、飽和炭化水素のうち、炭素骨格が環式構造を含まず鎖式構造のみであって、その炭素骨格が枝分かれして側鎖のあるものをいう。ノルマルパラフィンとは、飽和炭化水素のうち、分子内の全ての炭素原子が直鎖構造のものをいう。ナフテンとは、脂環式炭化水素のうち、炭素環が飽和構造のものをいう。
イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンの種類は、特に限定されないが、取り扱いやすさを考慮に入れれば、第2石油類(1気圧において引火点が20℃以上70℃未満のもの)に分類されるものであることが好ましい。より具体的には、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンの炭素数が、それぞれ、8〜12であることが特に好ましい。第3石油類の場合には沸点が高く、例えば、炭化水素組成物をハンダフラックスや加工油などを除去するための溶剤として使用した場合に、乾燥性が悪くなってしまうからである。
【0013】
炭化水素組成物は、さらに、ノルマルプロピルブロマイドを含有しても良い。ノルマルプロピルブロマイドを加えることによって、高い熱安定性を備えながら、引火性を有さない、非常に安定かつ安全な炭化水素組成物とすることができる。この際、炭化水素組成物全体におけるノルマルプロピルブロマイドの割合が10重量%〜80重量%であることが好ましい。
【0014】
これらのイソパラフィン、ノルマルパラフィン、及び、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素に対して、ニトロエタン及び1,2−ブチレンオキサイドを含有させる方法や、さらにノルマルプロピルブロマイドを含有させる方法は、特に限定されないが、炭化水素組成物中に各化合物が均一に分散していることが好ましいことを考慮に入れれば、攪拌混合などが好ましい。
例えば、イソパラフィン100重量部に対して、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部とを加えた後、得られた混合物を攪拌混合することによって、本発明の炭化水素組成物を製造することができる。
【0015】
==炭化水素組成物の使用方法==
このようにして得られた炭化水素組成物の使用方法は、特に限定されないが、例えば、電気・電子部品をはんだ付けした際に電気・電子部品に残存するハンダフラックスや、機械部品を金属加工する際に用いる加工油などを除去するための、溶剤として使用することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0017】
[実施例1]熱安定性試験
イソパラフィン、ノルマルパラフィン、または、ナフテンに、ニトロエタンと1,2−ブチレンオキサイドとを分量を変えて加えた後、得られた混合物を攪拌混合することによって炭化水素組成物を調製し、この場合における各炭化水素組成物の熱安定性を比較した。具体的な方法は、次の通りである。
【0018】
(1)炭化水素組成物の調製
炭素数が8〜12であるイソパラフィン100重量部に対して、1,2−ブチレンオキサイドを0重量部〜5重量部加え、得られた混合物を攪拌混合することによって炭化水素組成物(サンプルNo.1〜6)を調製した。同様の方法で、炭素数が8〜12であるイソパラフィン100重量部に対して、ニトロエタン0.1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.7〜12)、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.13〜18)、ニトロエタン1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.19〜24)、ニトロエタン3重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.25〜30)、及び、ニトロエタン5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.31〜36)を調製した。
【0019】
炭素数が8〜12であるノルマルパラフィン100重量部に対して、1,2−ブチレンオキサイドを0重量部〜5重量部加え、得られた混合物を攪拌混合することによって炭化水素組成物(サンプルNo.37〜42)を調製した。同様の方法で、炭素数が8〜12であるノルマルパラフィン100重量部に対して、ニトロエタン0.1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.43〜48)、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.49〜54)、ニトロエタン1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.55〜60)、ニトロエタン3重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.61〜66)、及び、ニトロエタン5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.67〜72)を調製した。
【0020】
そして、炭素数が8〜12であるナフテン100重量部に対して、1,2−ブチレンオキサイドを0重量部〜5重量部加え、得られた混合物を攪拌混合することによって炭化水素組成物(サンプルNo.73〜78)を調製した。同様の方法で、炭素数が8〜12であるナフテン100重量部に対して、ニトロエタン0.1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.79〜84)、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.85〜90)、ニトロエタン1重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.91〜96)、ニトロエタン3重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.97〜102)、及び、ニトロエタン5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0重量部〜5重量部とを加えた炭化水素組成物(サンプルNo.103〜108)を調製した。
【0021】
(2)熱安定性の測定
このようにして得られた各炭化水素組成物を、480時間煮沸した。煮沸を終えた各炭化水素組成物を室温にまで冷却した後、ガラス板上に滴下した。滴下したガラス板を徐々に斜めに傾けていき、ガラス板上の炭化水素組成物が、どの角度で流れ落ち始めるのかを調べた。
一方、未煮沸で、かつ、ニトロエタン及び1,2−ブチレンオキサイドを加えていない、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及び、ナフテンのそれぞれの炭化水素についても、同様にガラス板状に滴下し、このガラス板を傾けた際にどの角度で流れ落ちるのかを測定した。
【0022】
未煮沸で、ニトロエタン及び1,2−ブチレンオキサイドを加えていない各炭化水素が流れ落ちた角度を基準角とし、煮沸後の各炭化水素組成物が流れ落ちた角度と、この基準角とを比較した。基準角に対して角度増加率が10%以上の液を不合格品として「×」で示し、また、基準角に対して角度増加率が10%未満の液を合格品として「○」で示した。結果を、表1〜3に示す。
【0023】
【表1】

【表2】

【表3】

【0024】
表1〜3から明らかなように、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及び、ナフテンのいずれに対しても、ニトロエタン0.5重量部以上と1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部以上とを加えた場合には、炭化水素組成物の粘度は過熱後もほとんど上昇していなかった。即ち、これらの炭化水素組成物は、480時間という長時間に渡って熱を加えられても分解や反応を起こしにくく、高い熱安定性を備えていた。
これに対し、ニトロエタンのみを加えた場合には、ニトロエタンの添加量を5.0重量部にまで増やしても、炭化水素組成物の粘度の上昇を抑えることはできなかった(サンプルNo.31、67、及び、103)。また、1,2−ブチレンオキサイドのみを加えた場合にも、1,2−ブチレンオキサイドの添加量を5.0重量部にまで増やしても、炭化水素組成物の粘度の上昇を抑えることはできなかった(サンプルNo.6、42、及び、78)。
【0025】
以上より、ニトロエタンと1,2−ブチレンオキサイドとを組み合わせ、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、または、ナフテンに、炭化水素100重量部に対してそれぞれ0.5重量部以上の割合で加えることによって、熱を加えても分解や反応を起こしにくい、高い熱安定性を備える、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンが得られることが示された。
【0026】
[実施例2]引火性試験
ニトロエタンと1,2−ブチレンオキサイドとを含有する、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、そして、ナフテンに、さらにノルマルプロピルブロマイドを、分量を変えて加えることによって炭化水素組成物を調製し、この場合における各組成物の引火性の有無を比較した。具体的な方法は、次の通りである。
【0027】
炭素数が8〜12であるイソパラフィン100重量部に対して、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部とを加えることによって、イソパラフィン組成物Aを得た。このイソパラフィン組成物Aとノルマルプロピルブロマイドとを、所定の各割合で混合することによってイソパラフィン組成物Bを調製し、このイソパラフィン組成物Bの引火性の有無を、タグ密閉方式により調べた。
【0028】
同様に、炭素数が8〜12であるノルマルパラフィン100重量部に対して、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部とを加えることによって、ノルマルパラフィン組成物Aを得た。このノルマルパラフィン組成物Aとノルマルプロピルブロマイドとを、所定の各割合で混合することによってノルマルパラフィン組成物Bを調製し、このノルマルパラフィン組成物Bの引火性の有無を、タグ密閉方式により調べた。
【0029】
そして、炭素数が8〜12であるナフテン100重量部に対して、ニトロエタン0.5重量部と1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部とを加えることによって、ナフテン組成物Aを得た。このナフテン組成物Aとノルマルプロピルブロマイドとを、所定の各割合で混合することによってナフテン組成物Bを調製し、このナフテン組成物Bの引火性の有無を、タグ密閉方式により調べた。
【0030】
結果を表4〜6に示す。
【0031】
【表4】

【表5】

【表6】

【0032】
表4〜6から明らかなように、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及び、ナフテンのいずれについても、ノルマルプロピルブロマイドを、組成物全体に対して10重量%以上加えた場合には、引火性を有さず、非常に安全な炭化水素組成物であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソパラフィン、ノルマルパラフィン、および、ナフテンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素100重量部と、
ニトロエタン0.5重量部〜5重量部と、
1,2−ブチレンオキサイド0.5重量部〜5重量部とを
含有する炭化水素組成物。
【請求項2】
さらにノルマルプロピルブロマイドを含有し、組成物全体における前記ノルマルプロピルブロマイドの割合が10重量%〜80重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記炭化水素の炭素数が8〜12であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。

【公開番号】特開2010−84020(P2010−84020A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254713(P2008−254713)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(597115750)株式会社カネコ化学 (12)
【Fターム(参考)】