説明

炭素含有繊維を安定させるための方法、及び炭素繊維を生成するための方法

本発明群は、主として有機出発原料(プリカーサ)から製造できる高強度炭素繊維の製造の分野に関する。繊維が、ガス状媒体内部に置かれ、かつ、ガス状媒体の加熱を伴うマイクロ波照射で処理される炭素含有繊維(プリカーサ)の安定化方法を請求する。より詳細には、繊維はガス状媒体で満たされた処理室に置かれ、そのガス状媒体は、繊維がマイクロ波照射で処理される間、その室(例えばその壁)を暖めることによって加熱される。本発明の第2の態様によれば、少なくとも、繊維が浸漬されている媒体を加熱しながら繊維をマイクロ波照射に晒して上記方法でプリカーサを安定化させる繊維安定化及び炭化のステージを含む。繊維の炭化後、代替として、繊維は更に黒鉛で被覆され得る。必要に応じて、安定化された繊維は、炭化/黒鉛による被覆のために繊維が置かれた媒体の加熱を伴うマイクロ波照射で、それらの複合処理により、炭化及び/又は黒鉛により被覆され得る。その結果、プリカーサ繊維の安定化に要する時間が短縮され、エネルギ消費の低減、及び炭素繊維の生産プロセスの生産性向上がもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い引張強度を有する炭素繊維の製造に関する。この種の繊維は、プロセスステージの仕様によって決まる異なる温度での有機出発原料(プリカーサ)を伴う一連の工程によって主として生成される。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維製造のための一般的な方法は、概して、3ステージにおける出発原料(プリカーサ)の処理を含む。すなわち、120−280°Cへの加熱による安定化(酸化);繊維が一端安定化(酸化)した後の、窒素又はアルゴンのようなガスのブランケッティング雰囲気中での400−1500°Cへの過熱による炭化;及び、繊維の仕様によって決まる、不活性雰囲気中での1,600−3,000°Cへの過熱による黒鉛化である。これらの工程の中で、安定化は、時間とエネルギを最も消費し、最終製品の仕様によって決まるのであるが、炭素繊維製造プロセスの80%にまで及び、また、1〜2時間から24時間継続する。
【0003】
周知の炭素繊維製造プロセスの1つは、マイクロ波照射を用いた酸化繊維の炭化及び黒鉛化を含む。酸化繊維は、導波管処理ゾーンを通って送られ、その中で高周波電磁波に晒される(欧州特許番号1845179,国際特許分類D01F 9/22、2006年)。この方法では、マイクロ波照射は、酸化繊維に対して適用される。一旦酸化すると、繊維はマイクロ波を吸収することができる。この特性により、マイクロ波による更なる処理が可能とされている。繊維の酸化が繊維製造プロセスの最も時間を要するステップであることが周知である中で、ここで用いられる技術は、上述した通り、先に酸化された繊維に対するマイクロ波の照射を含んでいる。高周波電磁波を使用するおかげで、繊維の炭化及び黒鉛プロセスによるコーティングが著しく加速されたにも関わらず、上記の酸化ステージと共に、炭素繊維製造プロセスはむしろ時間とエネルギを消費するものである。
【0004】
他の周知の炭素繊維製造方法はプリカーサの酸化を含み、繊維の炭化及び黒鉛化のための熱処理がこれに続く(ロシア特許2343235,国際特許分類D01F 9/22、2009年)。この方法は、140−290°Cでのマイクロ波照射による出発繊維(プリカーサ)の酸化を含む。その酸化を可能にするためには、非平衡低温プラズマ媒体が必要とされる。一旦酸化されると、繊維は、2つのステップで、すなわち、不活性雰囲気又は真空において400−650°Cで、また、不活性雰囲気において1,100−4,500°Cで、熱処理される。酸化繊維は、また、プラズマ内でのマイクロ波照射、又は、その繊維によるマイクロ波照射の吸収によっても熱処理され得る。マイクロ波照射の使用は、全ての繊維処理ステージの速度を著しく高める。装置内部に安定したプラズマを生成して格納することが、この方法の弱点である。それらは、繊維製造のために必要な複数プロセスを実行するためにプラズマ媒体がその内部で生成されるべきプロセス及びシステムを複雑にする。更に、上記周知の方法は、真空処理ゾーン、圧力抑制、及び不安定なプラズマの使用を必要とし、それらは全て、この周知方法を、技術的に多くを要求するものとし、また、その価格を上昇させる。
【0005】
上記に最も近い炭素繊維製造方法は、酸素、空気又はオゾン内での、1分当たり0.1−0.5°の温度上昇率を伴う100−250°Cでの出発繊維の安定化を含み、これには、300−1,500°C(炭化)での、及び/又は400−2,800°C(黒鉛化)での、不活性媒体内での段階的な熱処理が続く。繊維の炭化、及び/又は黒鉛によるコーティングは、900−30,000MHzのマイクロ波による繊維の照射によって実行される(米国特許番号4197282、分類423−447.4,1978年)。この方法の弱点は、マイクロ波照射での高速処理に先立って繊維を酸化(安定化)させる必要があることである。ここで再び、繊維は、長期間、空気又は他の酸化雰囲気中で一般的な周知の方法による酸化される。これは、相当量のエネルギを消費する生産性の低い炉を含む。その炉の内部に規定の温度を生成して維持するためには、高速で移動する大容量の空気が必要とされる。これにより、酸化行程が複雑化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
技術的な目的は、繊維安定化の効率を、その処理時間と、これに結びつくエネルギ消費量とを低下させることにより向上させ、その一方で、炭素繊維製造のプロセス速度を高めることである。第2の目的は、炭化及び安定化プロセスの効率を高めることにより、炭素繊維製造の成果及び効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ガス状媒体が加熱され、かつ、繊維がそのガス状媒体内に置かれてマイクロ波照射に晒される炭素含有繊維の安定化方法が提供される。
【0008】
本発明の発明者は、安定化の間に繊維が浸漬されるガスを加熱すると、マイクロ波照射(MWI)に晒されたプリカーサ繊維に活発にマイクロ波照射を吸収させ得ることを図らずも発見した。その結果、安定化プロセスの速度が実質的に増加し、その一方で、MWI生成のための入力が小さいことと相まってこの段階で消費されるエネルギ量が減少することにより、そのプロセスのエネルギ強度は低減され得る。
【0009】
先行する知識は、安定化プロセスのための如何なるマイクロ波照射をも含んでおらず(通常の条件ではMWIが、本質的に繊維に吸収されず、また、繊維に対する自己持続的な安定化(酸化)効果を生成しないため)、或いは、イオン化媒体との組み合わせにおけるMWI(二原子の酸素分子(O)に代えた一原子からなる酸素(O)内での繊維処理を伴うようなもの、例えば米国特許番号7534854、2009年5月19日発行)を含んでいるだけである。しかしながら、後者のケースは、プリカーサ繊維の安定化プロセスの基本的かつ本質的条件として、プラズマの使用を特定している。安定化(酸化)プロセスの高速化のための主要因として認められたものは、従来の酸化雰囲気(分子状の酸素や空気)と比較して、より高い拡散速度を示す化学的に活発なイオン(一原子からなる酸素を含む)のプラズマ内における存在であった。
【0010】
しかしながら、上記と対照的に、本発明者は、安定化プロセスが、繊維を包囲している媒体をイオン化することなく、分子状の酸素や空気等のような一般的媒体を用いても実質的に高速化することができ、また、これは、その媒体を、浸漬されている繊維をマイクロ波照射に晒しながら(プラズマを生成することなく)加熱することで達成されることを観察した。新しく、かつ当業者にとって自明でないこの技術によれば、従来技術(マイクロ波の照射を伴わない直接熱による安定化)と比較して、最低でも1/3又は半分は繊維安定化のための時間を削減することができる。これは、マイクロ波プラズマ内で繊維を安定化させる周知方法の速度を越えるものである。同時に、その新規な技術によれば、特に、閉じ込められた体積内にプラズマを生成して収納するような、高価で、出力消費が激しく、技術的にも高度な方法を用いることなく、繊維安定化の速度を上げることができる。
【0011】
本願明細書において請求する安定化技術が、様々な出力のパルス的又は安定状態的なMWIへの露出と共に用いられると、広い領域のプロセス温度において炭素含有繊維の加速された安定化が観測され、このことから、本発明が開示されるに従って、ここに、また、これ以後に開示される知見に基づいて、当業者が必要な繊維安定化モードを実験的に選択し得ることが推測できる。
【0012】
好ましい例において、繊維はガス状媒体で満たされた装置に浸漬され、また、その装置は、繊維がマイクロ波照射に晒されるに連れて加熱される。
【0013】
装置内の上記ガス状媒体は、装置の壁を加熱する手段によって温度Tまで加熱される。但し、50°C≦T≦500°C、好ましくは、100°C≦T≦300°Cとする。
【0014】
一般的な損失を生ずることなく、周知の酸化用酸素含有媒体(例えば分子状酸素や空気等)は、プロセス媒体として使用することができる。
【0015】
最小限10ワット(10Wt min)のマイクロ波照射は、繊維安定化のために好適である。
【0016】
本発明の第二の態様によれば、上述した課題は、最低でも、炭素含有繊維の安定化ステージと、これに続く炭化のステージを含み、炭素含有繊維のプリカーサが上記の方法の何れかを用いて安定化される炭素繊維製造技術にも組み入れられる。
【0017】
加えて、安定化された繊維は、炭化及び/又は黒鉛化(繊維に黒鉛による被覆が求められる場合)のステージにて、加熱された媒体内でのマイクロ波照射という複合作用に晒すことができる。炭化及び黒鉛化の過程における媒体の加熱は、未だ十分な電気伝導性を有していない安定化済み繊維の、より高い電気伝導性と、より優れたマイクロ波照射吸収特性とを備える、従って、より高い炭化及び黒鉛化速度を備える材質への変化を高速化させる。従って、本願明細書において請求される技術を使用する繊維製造の全てのステージは、マイクロ波照射を用いて実行することができる。これにより連続的なプロセスの実行が可能となり、従って、繊維処理の回数が押し上げられ、かつ、出力消費が削減される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特許請求に記載の発明の実施形態は以下の通りであり得る。ポリアクリロニトリルやレーヨン等のような天然又は合成の炭素含有繊維は、プリカーサ繊維として機能することができる。第1の処理ステップ(安定化)では、ガス状プロセス媒体で満たされた装置内に出発繊維(プリカーサ)が置かれる。例えば分子状の酸素、空気、オゾン等のプロセスガスが媒体として機能し得ることは、この分野において広く知られている。その装置には、マイクロ波が、それらが繊維処理ゾーンに導かれるような手法で導入される。この目的のためには、例えば導波管、アプリケータ、共鳴又は非共鳴容器等、被処理材料にマイクロ波が影響を与える如何なる周知の組立体も、装置として機能することができる。
【0019】
同時に、その装置は何らかの熱源を用いて加熱され、ヒータコイル又は誘導コイルや、セラミック赤外線放射器等のような電気ヒータは、そのために用いることができる。放たれた熱が装置上に向けられるような手法により、一つ以上のヒーター(熱源)を装置の外部に配置することができる。この手法において、装置の加熱は、収納されているガス状媒体の加熱となる。しかしながら、当業者であれば、本発明の他の実施形態において、その加熱が、装置の壁を通してではなく、その代わりに(例えば、赤外線放射器を装置内部に据え付けることにより、或いは、外部熱源によって予備加熱されたガスで装置を満たすことにより)装置の内部で直接的にガス状媒体に供給され得ることは自明であると思われる。繊維を取り囲んでいる媒体を加熱することにより、処理ゾーンの内部に位置する部分において処理下にある繊維によってその供給熱が部分的に吸収されることになる。
【0020】
繊維を安定化させるために要求される装置内部での処理時間を提供する特定の速度で、装置を通して繊維を移動させ、かつ、確保するために、引き回し(Drawtwisting)装置(例えば、張り車又は引取ロール)を、装置の入口及び出口に配置することができる。装置の設計、並びに熱及びマイクロ波照射の発生源の位置及び容量に応じて、引き出し速度、熱入力及び照射出力は当業者によって実験的に設定することができ、また、出力周波数は300から30,000MHzの周知範囲に入れることができる。
【0021】
本発明は、特に、実験の目的で、50から5,000°Cの温度範囲内で、標準工業周波数である2,400MHzにて10から1,000ワット(Wt)のマイクロ波照射を繊維処理ゾーンに供給する装置(1.5m長のシリンダ導波管)を記述する。装置の内部にマイクロ波が存在する場合(特に比較的高い温度を伴う場合)、装置の内部では、また、繊維の近傍ではなお更、精密な温度測定のために特定の課題が提示されることから、簡単のために、導波管壁の平均温度を測定することとした。実験によれば、10から500ワット(Wt)のマイクロ波照射に伴って装置壁面が100°C〜300°Cに加熱された場合に最良の結果が達成されることが証明された。100°Cを下回る装置の加熱温度、及び10ワット(Wt)に満たない照射出力では、完全に停止してしまうことはないが、安定化プロセスが著しく遅くなり、また、所望の繊維酸化状態を得るために引っ張り速度を低下させざるを得ず、従って、露出間隔が増加してしまう。300°Cを上回って装置を加熱することは、500ワット(Wt)を越えて照射出力を増加することと同様に、大きな改善を示さなかった。
【0022】
一旦安定化されると、繊維は、高温の炭化、及び必要な場合には黒鉛化のプロセスを通過し、それらは一般に如何なる周知技術をも含むことができる。繊維は、例えば、同時発生のマイクロ波を伴う、或いは伴わないブランケッティング雰囲気中(例えば窒素)で、400−1,500°Cにて炭化され得る。炭素繊維の仕様や適用の目的等に従い、その製造プロセスは、炭化で終了することができる。より高度な機械的性質を持つ繊維は、黒鉛化ステージでの仕上げコーティングによって生成され、そこでは、繊維が、1,600−3,000°Cの温度範囲の中で不活性雰囲気中での熱処理を受ける。そのプロセスは、必要であれば、炭化された繊維をマイクロ波照射に露出させることにより強めることができる。
【0023】
上記に対する熟慮を与えると、繊維は(炭化されていても黒鉛化されていても)、如何なる製造プロセスステージにおいても、対応するプロセス媒体の加熱を伴うマイクロ波照射への露出によって、同様に処理することが可能である。従って、繊維の炭化及び/又は黒鉛化は、安定化として類似の装置内で実行することができ、また、露出パラメータは、処理プロセス及び完成品の仕様や工程能力等を考慮して実験的に選択することができる。全ての処理プロセスは、プリカーサ繊維を入口に供給し、出口で炭素繊維を受領しながら、単一の連続製造サイクルにおいて結合させることができる。このことは、特許請求に係る方法の更なる利点と考えることができる。
【0024】
このように、プロセス媒体の加熱、特に、内部で繊維を処理する装置の加熱を介した加熱は、炭化及び黒鉛化のステージにおける繊維処理時間を高速化する一方で、繊維安定化ステージでのマイクロ波照射の効率的な使用を可能とし、炭素繊維製造プロセスを十分に高速化し、出力消費を削減し、かつ、嵩の張る金属集型の器材の廃棄を可能とする。この点に関しては、上記で指摘した通り、当業者は、最適製造パラメータを、特定の炭素繊維製造作業要求、並びに装置のタイプ及び設計に基づいて、容易に選択することができる。
【0025】
最後に、発明者によって実験的に獲得された特定の繊維処理パラメータを含めて、上記全ての実施形態は、単に、例示のため、及び本発明の概念のより良好な理解のために挙げられたものであり、本願において請求され、添付の特許請求の範囲のみから完全に決定されるべき法的保護の範囲を制限するものとして把握されるべきものでない点に留意する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、化学及び織物の産業において、強度の高い炭素繊維を生成するために成功裏に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有繊維を安定化させるための方法であって、前記繊維が、ガス状媒体内部に置かれ、かつ、前期ガス状媒体が加熱される一方でマイクロ波照射の処理を受ける方法。
【請求項2】
前記繊維がガス状媒体で満たされた装置内部に浸漬され、かつ、前記繊維がマイクロ波照射に晒されながら前記装置が加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記装置の壁が温度Tまで加熱され、但し、50°C≦T≦500°Cである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
装置の壁を加熱する温度Tが、100°C≦T≦300°Cの範囲内で選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維が酸素を含有する酸化媒体に浸漬される請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維を安定化させるために、最小限10ワット(Wt)のマイクロ波照射が使用される請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維を安定化させるために、最小限10ワット(Wt)のマイクロ波照射が使用される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
炭素繊維を生成するための方法であって、最小限として、炭素含有繊維安定化のステージと、これに続く炭化のステージとを含み、前記炭素含有繊維は、請求項1乃至7の何れかに従って安定化される方法。
【請求項9】
炭化のために、安定化された繊維が、ガス状のブランケッティング媒体の内部に置かれ、かつ、前記ガス状のブランケッティング媒体が加熱されている一方でマイクロ波照射の処理を受ける請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一旦炭化された後、前記繊維が黒鉛化される請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
黒鉛化の過程において、前記炭化された繊維が、加熱された不活性雰囲気中でマイクロ波照射に露出される請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2013−500406(P2013−500406A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522777(P2012−522777)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/RU2010/000421
【国際公開番号】WO2011/014105
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512023041)
【出願人】(512023052)
【Fターム(参考)】