説明

炭素材及びその製造方法、二次電池用負極材並びに非水電解質二次電池

【課題】 充放電特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材を製造することができる炭素材の製造方法と、この製造方法により得られた炭素材を用いた二次電池用負極材、及び、非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 樹脂組成物を炭化処理してなる、温度40℃、湿度90%RHの条件下7日後の吸湿率が4.0%以下であり、炭素材の密度が1.1〜2.2g/cm3である炭
素材であり、
また該炭素材の製造方法であって、
樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調製する工程、或いは樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成することにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程、と
前記酸含有炭素材前駆体を炭化処理する工程、とを含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材及びその製造方法、二次電池用負極材並びに非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材は、リチウムイオン二次電池用負極、コンデンサー用電極、電解用電極、活性炭など多様な範囲の用途に用いられており、今後更なる開発が期待されている分野である。
これらの炭素材は、従来、椰子殻、石炭コークス、石炭又は石油ピッチ、フラン樹脂、フェノール樹脂などを原料としている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、これらの原料から得られた従来の炭素材は、表面に形成される細孔径のバラツキが大きく、また各々の細孔容積が大きいため、特に非水電解質二次電池用の負極材として用いた場合に、充放電容量やサイクル性などにおいてその特性が充分ではない場合があった。また黒鉛材と比較して、難黒鉛材は吸湿性が高く、取り扱い性に問題が生じる可能性があった。
【0003】
【特許文献1】特開平05−043345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、充放電特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材を製造することができる炭素材及びその製造方法、この製造方法により得られた炭素材を用いた二次電池用負極材、及び、非水電解質二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、以下の本発明[1]〜[10]によって達成される。
[1] 樹脂又は樹脂組成物を炭化処理してなる炭素材であって、温度40℃、湿度90%RHの条件下7日後の吸湿率が4.0%以下であり、炭素材の密度が1.1〜2.2g/cm3であることを特徴とする炭素材。
[2] [1]項記載の炭素材の製造方法であって、下記(a1)、(a2)、(a3)又は(a4)並びに(b)工程を有することを特徴とする炭素材の製造方法。
(a1)樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調製する工程。
(a2)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成することにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a3)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成し、該樹脂に他の樹脂を加えて樹脂組成物とすることにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a4)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて合成された樹脂を含む樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(b)前記酸含有炭素材前駆体を炭化処理する工程。
[3] 前記樹脂又は樹脂組成物は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂及びアニリン樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含有するものである[2]項に記載の炭素材の製造方法。
[4] 前記酸化合物は、カルボン酸、スルホン酸又は無機酸である[3]項に記載の炭素材の製造方法。
[5] 前記酸化合物は、フェノールスルホン酸である[4]項に記載の炭素材の製造方法。
[6] 前記酸化合物は、前記樹脂又は樹脂組成物中に0.1〜50重量%混合されるものである[2]〜[5]項のいずれか1項に記載の炭素材の製造方法。
[7] [2]〜[6]項のいずれか1項に記載の炭素材の製造方法により得られる炭素材。
[8] [1]又は[7]項に記載の炭素材を含有することを特徴とする二次電池用負極材。
[9] [8]項に記載の二次電池用負極材を用いることを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、難黒鉛材でありながら低吸湿性の炭素材を得ることができる。このような炭素材は、例えば樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合して酸含有炭素材前駆体を調製し、これを炭化処理することにより得ることができる。
そして、本発明の製造方法により得られた炭素材を用いることにより、充放電特性に優れた非水電解質二次電池用負極材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の炭素材、その製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)、この製造方法により得られた炭素材を用いた二次電池用負極材、及び、非水電解質二次電池について詳細に説明する。
【0008】
本発明の炭素材は、樹脂又は樹脂組成物を炭化処理してなる炭素材であって、温度40℃、湿度90%RHの条件下7日後の吸湿率が4.0%以下であり、密度が1.1〜2.2g/cm3である炭素材である。
本発明の炭素材は、密度が1.1〜2.2g/cm3である一般的な難黒鉛材でありな
がら、前記条件下での吸湿率が4.0%以下であることにより、ハンドリング時に吸湿することにより電池特性が劣化することを防止出来るという優れた特徴を有するものである。
【0009】
本発明の炭素材の製造方法は、下記(a1)、(a2)、(a3)又は(a4)並びに(b)工程を有するものである。
(a1)樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調製する工程。
(a2)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成することにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a3)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成し、該樹脂に他の樹脂を加えて樹脂組成物とすることにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a4)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて合成された樹脂を含む樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(b)前記酸含有炭素材前駆体を炭化処理する工程。
【0010】
本発明の製造方法の第1工程について説明する。
本発明の製造方法の第1工程の第1の態様は次の(a1)の工程である。
(a1)樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調製する工程。
【0011】
まず、本発明の製造方法の第1工程の第1の態様において用いられる樹脂又は樹脂組成物について説明する。
本発明に用いる樹脂又は樹脂組成物としては特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、あるいは、その他の高分子材料から選ばれるもの(以下、これらを単に「主成分樹脂類」ということがある)を含有することができる。上記主成分樹脂類は、単独あるいは2種類以上を併用することができる。
また、上記主成分樹脂類とともに、硬化剤、添加剤などを併せて含有することができる。
【0012】
なお、本発明において上記の樹脂又は樹脂組成物は、主成分樹脂類として1種類の樹脂のみを含有する場合もあるため、これを総称して樹脂又は樹脂組成物と呼称するが、明らかに樹脂組成物である場合には単に樹脂組成物と呼称することとする。
【0013】
ここで熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シアネート樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。また、これらが種々の成分で変性された変性樹脂を用いることもできる。
【0014】
また、熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリプロピレン、塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、などが挙げられる。
【0015】
また、その他の高分子化合物としては特に限定されないが、例えば、石油ピッチ、石炭ピッチ、紡糸用ピッチ等の重合性高分子化合物などが挙げられる。
【0016】
上記の主成分樹脂類として熱硬化性樹脂を用いる場合には、その硬化剤を併用することができる。
ここで用いられる硬化剤としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂の場合はヘキサメチレンテトラミン、パラホルムなどを用いることができる。また、エポキシ樹脂の場合は、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物、酸無水物、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、ノボラック型フェノール樹脂などを用いることができる。
なお、通常は所定量の硬化剤を併用する熱硬化性樹脂であっても、本発明で用いられる樹脂組成物においては、通常よりも少ない量を用いたり、あるいは硬化剤を併用しないで用いたりすることもできる。
【0017】
上記の樹脂又は樹脂組成物に用いられる上記主成分樹脂類としては、熱硬化性樹脂が好ましい。これにより、炭素材の残炭率をより高めることができる。
そして、熱硬化性樹脂の中でも、ノボラック型フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、及び、アニリン樹脂から選ばれるものであることが好ましい。これにより、炭素材を低価格で製造することができる。
【0018】
上記の樹脂又は樹脂組成物においては、このほか、添加剤を配合することができる。
ここで用いられる添加剤としては特に限定されないが、例えば、200〜800℃にて炭化処理した炭素材前駆体、黒鉛及び黒鉛変性剤、含窒素化合物、含酸素化合物、芳香族化合物、及び、非鉄金属元素などを挙げることができる。
上記添加剤は、用いる主成分樹脂類の種類や性状などにより、単独あるいは2種類以上を併用することができる。
【0019】
上記の樹脂組成物の調製方法としては特に限定されないが、例えば、上記主成分樹脂類
と、これ以外の成分とを所定の比率で配合し、これらを溶融混合する方法、これらの成分を溶媒に溶解して混合する方法、あるいは、これらの成分を粉砕して混合する方法などにより調製することができる。
【0020】
樹脂組成物の調製のための装置としては特に限定されないが、例えば、溶融混合を行う場合には、混練ロール、単軸あるいは二軸ニーダーなどの混練装置を用いることができる。また、溶解混合を行う場合は、例えば、ヘンシェルミキサー、ディスパーザなどの混合装置を用いることができる。そして、粉砕混合を行う場合には、例えば、ハンマーミル、ジェットミルなどの装置を用いることができる。
このようにして得られた樹脂組成物は、複数種類の成分を物理的に混合しただけのものであってもよいし、樹脂組成物の調製段階で付与されるエネルギーによりその一部を化学的に反応させたものであってもよい。
【0021】
本発明の製造方法においては、以上に説明した樹脂又は樹脂組成物に酸化合物を混合し、酸含有炭素材前駆体とすることができる。
本発明において、酸化合物の添加量は特に限定されないが、通常は0.1〜50重量部であり、好ましくは0.5〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部である。
また、酸化合物は、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、シュウ酸、酢酸等の有機酸などであり、これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
酸含有炭素材前駆体の調製方法としては特に限定されないが、例えば、樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを、粉砕混合する方法、溶融混合する方法、粉砕混合した後に溶融混合する方法、あるいは、溶液状態で混合する方法、などを挙げることができる。
また、後述するように、樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合した後、これを硬化処理、あるいは、予備炭化処理する段階で、熱により溶融混合する方法により行うこともできる。
本発明で用いられる酸含有炭素材前駆体としては、上記に挙げた方法などにより、樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを、実質的に均一混合したものを好適に用いることができる。
【0023】
本発明の製造方法の第1工程の第2の態様は、樹脂の合成時に酸化合物を用いることにより合成した樹脂を用いるものであって、次の3つのパターンを含むものである。
(a2)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成することにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a3)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて樹脂を合成し、該樹脂に他の樹脂を加えて樹脂組成物とすることにより、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
(a4)樹脂の合成時に酸化合物を触媒に用いて合成された樹脂を含む樹脂又は樹脂組成物と酸化合物とを混合し、酸含有炭素材前駆体を調整する工程。
本発明の第1工程の第2の態様においては、樹脂組成物を合成するときに、酸化合物を触媒に用いて反応させることにより、第1工程の第1の態様の効果と同様の結果を得ることができる。
【0024】
本発明の第1工程の第2の態様において、触媒として用いられる酸化合物の量としては特に限定されないが、樹脂に対して、酸化合物を0.1〜50重量%とすることが好ましい。さらに好ましくは0.5〜10.0重量%である。これにより、(b)工程において炭素材表面に細孔を好適量形成させることができる。
酸化合物の量が上記上限値を超えると、(b)工程における縮合反応時に、酸化合物の触媒としての効果が過大となるために細孔容積が小さくなる傾向がある。一方、上記下限値未満では、酸化合物の触媒としての効果が過小となるために、細孔容積の適度な減少が起こりにくくなり、細孔容積が大きくなる傾向がある。このように、樹脂組成物に対する
酸化合物の量を調整することにより、炭素材表面に形成される細孔容積を制御することができる。
【0025】
次に、本発明の製造方法の第1工程の第2の態様において合成される樹脂について説明する。
第1工程の第2の態様において合成される樹脂は、酸化合物により合成できるものであれば特に限定されるものではないが、特に熱硬化性樹脂であることが好ましい。
ここで熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シアネート樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。また、これらが種々の成分で変性された変性樹脂を用いることもできる。
そして、熱硬化性樹脂の中でも、ノボラック型フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、及び、アニリン樹脂から選ばれるものであることが好ましい。これにより、炭素材を低価格で製造することができる。
【0026】
本発明の第1工程の第2の態様においても、熱硬化性樹脂に併用される硬化剤、添加剤等は第1の態様と同様のものを用いることができる。
また、第2の態様において合成して得られた樹脂を樹脂組成物とする調整方法についても、第1の態様と同様に行うことができる。
また、第2の態様において更に酸化合物を混合し、酸含有炭素材前駆体とすることができる(a4)。
本発明において、酸化合物の添加量は特に限定されないが、通常は0.1〜50重量部であり、好ましくは0.5〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部である。
また、酸化合物は、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、シュウ酸、酢酸等の有機酸などであり、これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、以上に説明した第1工程の方法で酸含有炭素材前駆体を調製することができる。本発明の製造方法においては、このようにして得られた酸含有炭素材前駆体をそのまま用いることもできるし、樹脂組成物と酸化合物とを混合した後、これを硬化処理したもの、予備炭化処理したもの、あるいは、硬化処理した後に予備炭化処理してもの、などを用いることができる。
【0028】
上記硬化処理は、樹脂組成物の主成分樹脂類として熱硬化性樹脂や重合性高分子化合物を用いた場合に行うことができる。硬化処理の方法としては特に限定されないが、例えば、樹脂組成物に硬化反応が可能な熱量を与えて熱硬化する方法、あるいは、主成分樹脂類と硬化剤とを併用する方法などにより行うことができる。
また、上記予備炭化処理の方法としては特に限定されないが、酸含有炭素材前駆体、あるいは、酸含有炭素材前駆体を硬化処理したものを、例えば、1〜200℃/時で400〜600℃まで昇温して、これを0.1〜50時間、好ましくは0.5〜10時間処理することができる。
【0029】
このような硬化処理及び/又は予備炭化処理を行うことにより、酸含有炭素前駆体を実質的に不融化することができ、本発明の第2工程である(b)工程以降の取り扱い性を向上させることができる。
上記硬化処理及び/又は炭化処理を行ったものは、常温まで冷却後、これを適度な粒度に粉砕して用いることができる。
この粒度は特に限定されないが、平均粒径1〜30μmとすることが好ましく、さらに好ましくは5〜20μmである。
これにより、酸含有炭素材前駆体の表面積を増大させ、後述する(b)工程において炭化処理する際に、熱履歴や表面状態の均一性を高め、より好適な細孔を多く形成させることができる。
【0030】
本発明の製造方法において、第2工程は、第1工程で得られた酸含有炭素材前駆体を炭化処理する次の(b)工程である。
(b)上記酸含有炭素材前駆体を、炭化処理する。
上記(b)工程における炭化処理の条件としては特に限定されないが、例えば、常温から1〜200℃/時間で昇温して、800〜3000℃で0.1〜50時間、好ましくは0.5〜10時間保持して行うことができる。炭化処理時の雰囲気としては例えば、窒素、ヘリウムガスなどの不活性雰囲気下、もしくは不活性ガス中に微量の酸素が存在するような、実質的に不活性な雰囲気下で行うことができる。
このような炭化処理時の温度、時間等の条件は、炭素材の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0031】
本発明の製造方法により、二次電池用負極材に好適に用いることができる炭素材が得られる理由は、明確ではないが、以下のように推測される。
通常、熱硬化性樹脂あるいはその硬化物を炭化する過程においては、三次元架橋反応、熱分解反応、及び、環縮合反応により炭素材骨格の架橋度が変化するが、通常は炭素材全体に対して一定に架橋度が保たれない為、細孔径のばらつきが大きい炭素材表面が形成され、細孔容積自体も大きくなり吸湿性が高くなる要因となる。
【0032】
これに対して、本発明の製造方法においては、樹脂組成物に酸化合物を混合して酸含有炭素材前駆体として、これを、必要に応じて硬化処理及び/又は予備炭化処理を行った後、炭化処理する。これにより、酸含有炭素材前駆体の表面部位において、特に熱分解反応や環縮合反応が起こる段階で、酸が触媒として機能し、炭素材を形成する炭素環の縮合が促進され、細孔容積が小さくなると考えられ、よって吸湿性が抑えられるものと考えられる。
また、必要に応じて、樹脂組成物に混合する酸化合物の量を調整することにより、炭素材表面に形成される細孔容積の大きさを制御することができ、目的とする電池特性に応じた炭素材を得ることが可能となる。
【0033】
本発明の製造方法によれば、例えば、炭化温度を高くするなどの手段により炭素材の吸湿性を制御する方法などに比べると、より低温で炭化処理を行って所望とする炭素材を低コストで得ることができる。
そして、このようにして得られた炭素材は、少なくともその表面部位において実質的に不純物を含有しないため、副反応などにより充放電時にリチウムイオンの挿入・脱離反応が阻害されることが少ない。このような炭素材を用いることにより、充放電特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材を製造することができる。
【0034】
次に、本発明の二次電池用負極材について説明する。
本発明の二次電池用負極材は、上記本発明の製造方法により得られた炭素材を含有することを特徴とするものである。
本発明の二次電池用負極材は特に限定されないが、例えば、本発明の炭素材100重量部に対し、ポリエチレン、ポリプロピレン等を含むフッ素系高分子、ブチルゴム,ブタジエンゴム等のゴム状高分子等の有機高分子結着剤1〜30重量部、及びN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド等の粘度調整用溶剤を適量添加して混練し、ペースト状にした混合物を圧縮成形、ロール成形等によりシート状、ペレット状等に成形して得ることができる。また、粘度調整用溶剤にてスラリー状にした混合物を銅箔、ニッケル箔等の集電体に塗布成形して得ることもできる。
【0035】
次に、本発明の非水電解質二次電池について説明する。
本発明の非水電解質二次電池は、上記本発明の二次電池負極材を用いることを特徴とするものである。
本発明の非水電解質二次電池に上記二次電池用負極材を適用する場合は特に限定されないが、例えば、二次電池用負極材を、セパレータを介して正極材と対向して配置し、電解液を用いることにより非水電解質二次電池が得られる。
【0036】
正極材としては特に限定されないが、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等の複合酸化物やポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子等を用いることができる。セパレータとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の微多孔質フィルム、不織布等を用いることができる。電解液としては特に限定されないが、例えば、非水系溶媒に電解質となるリチウム塩を溶解したものを用いることができる。電解質としては特に限定されないが、例えば、LiClO4,LiPF6等のリチウム金属塩、テトラアルキルアンモニウム塩等を用いることができる。非水系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状エステル類、ジメトキシエタン等のエーテル類等の混合物等を用いることができる。また、上記塩類をポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル等に混合された固体電解質を用いることもできるが特に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。又、実施例、比較例で示される「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0038】
実施例及び比較例で用いた原材料は以下のとおりである。
(1)ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト社製・「PR−53195」、重量平均分子量約3000
(2)フェノールスルホン酸を触媒として合成したノボラック型フェノール樹脂:フェノール1000重量部、50%ホルムアルデヒド水溶液510重量部、フェノールスルホン酸10重量部を100℃3時間反応後、180℃まで昇温させることにより樹脂を得た。
(3)レゾール型フェノール樹脂:フェノール1000重量部、50%ホルムアルデヒド水溶液1267重量部、トリエチルアミン10重量部を100℃3時間反応させることにより樹脂を得た。
【0039】
1.炭素材の製造
<実施例1>
(1)酸含有炭素材前駆体の調製
ノボラック型フェノール樹脂100部、ヘキサメチレンテトラミン10部、フェノールスルホン酸1部を粉砕混合して樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を、100℃から5時間かけて昇温して、200℃に到達後、さらに1時間保持して硬化処理した後、振動ボールミルで平均粒径20μmに粉砕して、酸含有炭素材前駆体を得た。
(2)炭素材の製造
上記で得られた酸含有炭素材前駆体を、室温から100℃/時間で昇温して、1200℃に到達後、さらに10時間保持して炭化処理を行った。この後、常温まで冷却し、炭素材1重量部に対して水10重量部を用いて、約10分間攪拌、洗浄した後に、ろ過、乾燥を行って炭素材を得た。
【0040】
<実施例2>
実施例1(1)酸含有炭素材前駆体の調製、において、フェノールスルホン酸10部を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸含有炭素材前駆体、及び、炭素材を得た。
【0041】
<実施例3>
実施例1(1)酸含有炭素材前駆体の調製、において、フェノールスルホン酸30部を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸含有炭素材前駆体、及び、炭素材を得た。
【0042】
<実施例4>
フェノールスルホン酸を触媒として合成したノボラック型フェノール樹脂100部、ヘキサメチレンテトラミン10部を粉砕混合して樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を、100℃から5時間かけて昇温して、200℃に到達後、さらに1時間保持して硬化処理した後、振動ボールミルで平均粒径20μmに粉砕して、酸含有炭素材前駆体を得た。
得られた炭素材前駆体を用いて、以下は実施例1と同様にして炭素材を得た。
<実施例5>
フェノールスルホン酸を触媒として合成したノボラック型フェノール樹脂100部、ヘキサメチレンテトラミン10部、レゾール型フェノール樹脂100部を溶解混合して樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて、以下は実施例1と同様にして、酸含有炭素材前駆体、及び、炭素材を得た。
<実施例6>
実施例1(1)酸含有炭素材前駆体の調製、において、フェノールスルホン酸を触媒として合成したノボラック型フェノール樹脂を用いて、フェノールスルホン酸10部を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸含有炭素材前駆体、及び、炭素材を得た。
【0043】
<比較例1>
(1)組成物の調製
ノボラック型フェノール樹脂100部、ヘキサメチレンテトラミン10部を粉砕混合して樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、100℃から5時間かけて昇温して、200℃に到達後、さらに1時間保持して硬化処理した後、振動ボールミルで平均粒径20μmに粉砕して、樹脂組成物の硬化物を得た。
(2)炭素材の製造
上記で得られた樹脂組成物の硬化物を、室温から10℃/時間で昇温して、1200℃に到達後、さらに10時間保持して炭化処理を行い、炭素材を得た。
【0044】
2.樹脂組成物及び炭素材の評価
実施例及び比較例で得られた酸含有炭素材前駆体及び炭素材について下記の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0045】
(1)樹脂組成物の配合
実施例、比較例で用いた樹脂組成物の配合を示した。
(2)酸含有炭素材前駆体の酸化合物の添加量
酸含有炭素材前駆体を調製する際に用いた樹脂組成物、及び、酸化合物の配合量から算出した。
(3)炭素材の密度の評価
炭素材の密度は、以下の方法で測定した。
ブタノール密度を測定する為の一定の容器に対して、炭素材を10g加えた後、液密度(25℃)0.81ml/gのブタノールに浸漬させたあと、25℃にて2時間浸した。その後、以下の計算式により、炭素材の密度(ブタノール密度)を測定した。
密度(g/cm3)=試料量(g)/[容器体積(ml)−(ブタノール量(g)/液密
度)]
【0046】
3.二次電池用負極材としての評価
(1)二次電池評価用二極式コインセルの製造
実施例及び比較例で得られた炭素材100部に対して、結合剤としてポリフッ化ビニリデン10部、希釈溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを適量加え混合し、スラリー状の負極混合物を調製した。調製した負極スラリー状混合物を18μmの銅箔の両面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、ロールプレスによって電極を加圧成形した。これを直径16.156mmの円形として切り出し負極を作製した。
正極はリチウム金属を用いて二極式コインセルにて評価を行った。電解液として体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液に過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させたものを用いた。
【0047】
(2)充電容量、放電容量の評価
充電条件は、電流25mA/gの定電流で1mVになるまで充電した後、1mV保持で1.25mA/g以下まで電流が減衰したところを充電終止とした。放電条件は 1.25mAh/g以下に電流が減衰するまでとした。また、放電条件のカットオフ電位は、2.5Vとした。
【0048】
(3)充放電効率の評価
上記(2)で得られた値をもとに、下記式により算出した。
充放電効率(%)=[放電容量/充電容量]×100
【0049】
4.吸湿性の評価
(1)炭素材の乾燥条件
真空条件下にて、130℃にて5時間乾燥を行った。
(2)吸湿条件
温度40℃、湿度90%の条件にて、7日後の質量の増加分を計算した。
吸湿率(%)=(吸湿後の重量−吸湿前の重量)/(吸湿前の重量)×100
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1〜4はいずれも、本発明の製造方法により得られた炭素材であり、これを用いた炭素材を二次電池の負極材として用いた評価では、放電容量、充放電効率とも、従来の製造法である比較例1と比べて同等であり、尚且つ低吸湿性を示す結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の炭素材の製造方法により得られる炭素材は、リチウムイオン二次電池用負極、
コンデンサー用電極、電解用電極、活性炭など多様な範囲の用途に合わせて好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂又は樹脂組成物を炭化処理してなる炭素材であって、温度40℃、湿度90%RHの条件下7日後の吸湿率が4.0%以下であり、炭素材の密度が1.1〜2.2g/cm3
であることを特徴とする炭素材。


【公開番号】特開2013−51213(P2013−51213A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−258301(P2012−258301)
【出願日】平成24年11月27日(2012.11.27)
【分割の表示】特願2006−223008(P2006−223008)の分割
【原出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】