説明

炭素材料及び炭素材料の加工方法

【課題】 加工される炭素材料自体から、粉塵が出にくいようにした炭素材料及びその加工方法を提供する。
【解決手段】 加工される炭素材料の組織内部に、パラフィン、ワックス、油脂のような防塵剤を含浸させる。この防塵剤を含浸した炭素材料を工作機械で加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工用電極などの種々の炭素製品に加工される被加工用炭素材料および被加工用炭素材料の加工方法であって、特に加工時の粉塵の発生を防止できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば放電加工用電極には、炭素材料である黒鉛材料が用いられる。この黒鉛材料は、コークスをフィラとしピッチをバインダとして成形し、焼成し、黒鉛化することにより、例えば1メートル立法という比較的大型の被加工用炭素材料に形成される。
【0003】
この大型の炭素材料を、放電加工用電極が備える所定形状へと削り出すための機械加工を行う。この機械加工時に、組織を構成する微細なフィラ等の骨材が分離分散され、粉塵となって周囲に舞い立つ。この炭素の粉塵は、作業環境を悪化させ、作業者には防塵マスクの使用を余儀なくさせる。
【0004】
そこで、この黒鉛材料から粉塵を出さずに機械加工するために、従来は、(1)工作機械を囲いで覆って密閉して粉塵が外部に出ないようにする機械密閉式か、(2)液体の中で加工する液中加工式か、(3)実開平7−633号全文に開示のように、噴流液を工作物に掛け流し、噴流液とともに粉塵を流し、噴流液を濾過して粉塵を回収する噴流式のような、粉塵対策が行われていた。
【特許文献1】実開平7−633号全文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したような機械密閉式、液中加工式、噴流式のいずれも、大掛りな装置を必要とし、大型の炭素材料の機械加工に適用することは非現実的なものであった。
【0006】
そこで、本発明は、加工される炭素材料自体から、粉塵が出にくいようにした炭素材料及びその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を加えた結果、炭素材料の組織内部にパラフィン等の防塵剤を含浸させると、組織を構成する単位毎の分離が阻止され、粉塵の発生を大幅に抑制できることを発見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明1は、加工される炭素材料であって、少なくとも加工部分の組織内部に防塵剤を含浸させたことを特徴とする炭素材料である。本発明1の防塵剤は、パラフィン、ワックス、油脂のいずれか一つ又はそれらの組み合わせであるものが好ましい(本発明2)。本発明1,2の炭素材料は、等方性黒鉛材料であるものが好ましい(本発明3)。
【0009】
また、本発明4は、加工される炭素材料の少なくとも加工部分の組織内部に防塵剤を含浸させてから加工することを特徴とする炭素材料の加工方法である。本発明4の炭素材料は、放電加工用電極に加工されるものが好ましい(本発明5)。
【0010】
本発明をさらに詳しく説明すると以下のようになる。本発明において使用する炭素材料は、炭素のみから実質的に成る材料であり、所謂炭素化品や黒鉛化品などの各種炭素材料を包含する。具体的には、冷間等方圧加圧成形工程を経た高密度等方性黒鉛材料や熱間加圧法を用いた高密度黒鉛等の黒鉛材料、焼成炭素材料などがある。また、そのほかに、炭素繊維強化炭素材料や膨張黒鉛材料などがある。
【0011】
本発明においては、特に加工の均一性を確保する上で、異方比が1.2以下の等方性の高い材料を用いることが好ましい。どのような向きに機械加工しても、均質な部品を作製できるからである。ここで、異方比が1.2以下であるとは、炭素材料における任意に直角をなす方向に測った固有電気抵抗の比の平均値が1.2以下であることを意味する。さらに均質な部品を作製することができるため、炭素材料の異方比が1.1以下であることが好ましく、特に炭素材料の異方比が1.05以下であることが好ましい。
【0012】
前記炭素材料は、開気孔率5乃至20%、平均気孔半径0.3乃至2.5μmの炭素材料であることが好ましい。炭素材料の気孔中に後述する防塵剤を含浸させることにより、少なくとも加工部分を含む組織内部まで防塵剤を過不足なく含浸させることができる。さらに少なくとも加工部分を含む組織内部まで防塵剤を十分に含浸させることができ、防塵剤を十分に保持させることができるため、炭素材料の開気孔率は10乃至20%、平均気孔半径は0.5乃至2.0μmであることが特に好ましい。
【0013】
前記炭素材料の平均気孔半径は、試料寸法:φ10×20mm、水銀と炭素との接触角:141.3°、水銀の表面張力:0.480N/mとし、測定装置:FISONS社製ポロシメーター2000を用いて、水銀圧入法により測定される累積気孔容積(cm3/g)の1/2に相当する半径値(μm)として決定することができ、開気孔率は(かさ密度)×(全気孔容積)×100で計算することができる。ここで、全気孔容積(cm3/g)は圧力が予め定めた最高圧力、例えば100MPaまで達したときの累積気孔容積をいう。
【0014】
この炭素材料の気孔中に含浸される防塵剤には、下記の(1)〜(4)観点から、パラフィン、ワックス、油脂のいずれか一つ又はそれらの組み合わせが用いられる。
(1)融点が高くなく、常温又は少しの加熱によって液状となり、炭素材料の全部又は一部を漬けて行う含浸作業性が容易にできる。
(2)液状で含浸できるため、炭素材料の気孔の奥深くまで防塵剤を含有させることができる。
(3)パラフィン、ワックス、油脂は、いずれも有害ではなく、機械加工時の作業員が安全に作業できる。部品になった後の使用時でも、残っていても有害となることが少ない。
(4)パラフィン、ワックス、油脂は、潤滑機能も有しており、炭素材料の加工が容易にできる。例えば、金属、セラミックや熱硬化性樹脂を含浸させると機械加工性が悪化するが、パラフィン、ワックス、油脂は逆に機械加工性を向上させる。
【0015】
前記炭素材料に含浸させる防塵剤の量としては、含浸率45%以上であるものが好ましい。炭素材料への含浸率は、式:I=100G/PDのI(%)で示される数値である。但し、Pは炭素材料の開気孔の体積の実測値(cm3)、Dは防塵剤の真密度(g/cm3)、Gは実際に含浸した防塵剤の重量(g)を表わす。つまり、I値は開気孔に占める防塵剤の体積割合を示す。
【0016】
パラフィンは、Cn2n+2で表される脂肪族飽和炭化水素であるが、常温で液体のC5以上、常温で固体状のC16以上のもの、或いは液体混合物となった流動パラフィン或いはパラフィン油が用いられる。
ワックスは、脂肪酸と一価又は二価の高級アルコールのエステルを主成分とするものであって、常温で滑らかな感じを与える脂肪状固体あるいは液体のものが用いられる。例えば、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、モンタン酸エステル、セバシン酸エステル等の脂肪酸エステル、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ジャパンワックス等の天然ワックスなどがあげられる。
油脂は、脂肪酸のグリセリンエステルを主成分とするものであり、通常常温で固体状のものが用いられる。例えば、大豆油、あまに油、ひまし油、やし油、桐油、サフラワー油等の植物性油脂、魚油等の動物性油脂といった天然由来の油脂、脂肪酸のグリセリンエステルを主成分とする人造の油脂などがあげられる。
これらのパラフィン、ワックス、油脂は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0017】
これら防塵剤の炭素材料への含浸は、必要による加熱により所定粘度の液状となった防塵剤を容器に満たし、この防塵剤に炭素材料の全体又は一部を浸すことにより行われる。上記した防塵剤は炭素材料への浸透性に優れ、時間とともに開気孔を通じて組織内部へと浸透していく。なお、必要に応じて、容器内の防塵剤を加圧可能にして浸透性を上げたり、また、炭素材料の一面を真空引きして組織内部まで防塵剤を吸引させるようにしてもよい。また、炭素材料への加工部分が限られている場合、その部分だけの含浸であってもよい。
【0018】
防塵剤を浸透させた後の炭素材料は、所定時間だけ放置させることにより、余分な防塵剤を排出させる。また、表面に残った防塵剤はこれを拭き取る。すると、炭素材料は、工作機械での加工において取り扱い易い状態を保つことができる。
【0019】
このように防塵剤が内部組織まで含浸された炭素材料は、その後に各種の工作機械で加工される。工作機械での加工には、フライス盤等の切削加工、研磨機等の表面加工を含む種々の機械加工が含まれる。
【発明の効果】
【0020】
上記構成にすることによって、炭素材料は内部組織まで防塵剤を含んだ状態になる。機械加工により組織の微粉が発生しても、この防塵剤が粘結剤として機能し、微粉の集合が起こり、周囲に飛散しない程度の粒又は粉になって、工作機械の中に落ちる。これにより、粉塵の飛散が防止できる。また、炭素材料は機械加工後に超音波洗浄により表面の微粉を除去するが、その際にも微粉の防塵剤による凝縮等で表面洗浄が簡単にできる。更に、用途によっては、加工後の製品になっても、防塵機能を発揮する。例えば、炭素材料が放電加工用電極に加工されるものである場合、液中放電加工時における電極の消耗で発生する炭素粉末も防塵剤により液中で凝縮し、液中への微粉分散を抑えることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
(例1)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率17%、平均気孔半径0.5μm)に、パラフィン(デンソー製カタメルチャックS55)を含浸率60%まで含浸させた。この含浸済の等方性黒鉛を、フライス盤で加工し、放電加工用電極を作製した。
【0023】
加工時に発生する粉塵は大幅に抑制され、加工粉はフライス盤において、ほぼ100%回収できた。加工精度は良好のままであった。表面の超音波洗浄は不要であった。
【0024】
(例2)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率10%、平均気孔半径1.0μm)に、パラフィンを含浸率60%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0025】
(例3)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率15%、平均気孔半径1.6μm)に、パラフィンを含浸率70%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0026】
(例4)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率20%、平均気孔半径1.7μm)に、パラフィンを含浸率70%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0027】
(例5)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率13%、平均気孔半径2.0μm)に、パラフィンを含浸率70%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0028】
(例6)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率16%、平均気孔半径2.4μm)に、パラフィンを含浸率60%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0029】
(例7)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率12%、平均気孔半径0.2μm)に、パラフィンを含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。
【0030】
加工時に発生する粉塵は大幅に抑制され、加工粉はフライス盤において、ほぼ100%回収できた。加工精度は良好のままであった。目視にて確認した粉塵発生の抑制効果は、例1乃至例6の場合に比較するとやや劣るものの、表面の超音波洗浄は不要であった。
【0031】
(例8)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率26%、平均気孔半径3.0μm)に、パラフィンを含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。
【0032】
加工時に発生する粉塵は大幅に抑制され、加工粉はフライス盤において、ほぼ100%回収できた。加工精度は良好のままであった。目視にて確認した粉塵発生の抑制効果は、例1乃至例6の場合に比較するとやや劣るものの、表面の超音波洗浄は不要であった。
【0033】
(例9)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率10%、平均気孔半径1.0μm)に、ワックス(花王製エキセパール)を含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0034】
(例10)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率10%、平均気孔半径1.0μm)に、油脂(花王製エキセル)を含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例1と同様の結果であった。
【0035】
(例11)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率22%、平均気孔半径2.4μm)に、パラフィンを含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。
【0036】
加工時に発生する粉塵が目立ち、加工粉の機械での回収率は70%であった。また、加工後の製品表面は微粉が付着した状態であり、超音波洗浄を実施した。
【0037】
(例12)
東洋炭素(株)製炭素焼成材(異方比1.05、開気孔率4%、平均気孔半径1.0μm)に、パラフィンを含浸率45%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例2と同様の結果であった。
【0038】
(例13)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率18%、平均気孔半径2.7μm)に、パラフィンを含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例2と同様の結果であった。
【0039】
(例14)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率11%、平均気孔半径0.2μm)に、パラフィンを含浸率50%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。例2と同様の結果であった。
【0040】
(例15)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率10%、平均気孔半径1.0μm)に、パラフィンを含浸率35%まで含浸させた。以後、例1と同様の手順によって、放電加工用電極を作製した。
【0041】
加工時に発生する粉塵が目立ち、加工粉の機械での回収率は60%であった。また、加工後の製品表面は微粉が付着した状態であり、超音波洗浄を実施した。
【0042】
(例16)
東洋炭素(株)製等方性黒鉛(異方比1.05、開気孔率10%、平均気孔半径1.0μm)を、比較の為、防塵剤を含浸させることなくそのままフライス盤で加工し、放電加工用電極を作成した。
【0043】
加工時に発生する粉塵は大量であり、加工粉の機械での回収率は50%であった。また、加工後の製品表面は微粉が付着した状態であり、超音波洗浄を実施した。
【0044】
また、例1の放電加工用電極を、放電加工液中で金属(材質:S55C)の加工に使った場合、1時間後の液中の汚れは認められなかったが、例16の放電加工用電極は、放電加工液中での加工に使った場合、1時間後に液が黒くなった。
【0045】
以上の例1〜16の結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
以上の結果によれば、加工される炭素材料の組織内部に防塵剤を含浸させるという簡単な手法により、放電加工用電極などの種々の炭素製品に加工される炭素材料自体から、粉塵が出にくいようにした炭素材料及びその加工方法を提供できることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工される炭素材料であって、少なくとも加工部分の組織内部に防塵剤を含浸させたことを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
前記防塵剤は、パラフィン、ワックス、油脂のいずれか一つ又はそれらの組み合わせである請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料は、等方性黒鉛材料である請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
加工される炭素材料の少なくとも加工部分の組織内部に防塵剤を含浸させてから加工することを特徴とする炭素材料の加工方法。
【請求項5】
前記炭素材料は、放電加工用電極に加工されるものである請求項4に記載の炭素材料の加工方法。


【公開番号】特開2007−15889(P2007−15889A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198728(P2005−198728)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】