説明

炭素繊維樹脂組成物の製造方法

【課題】導電性と力学的性質に優れた、炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂の組成物、及び、それを用いて成形した繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】炭素繊維ストランドの体積抵抗率Sbの平均値が1.4×10-3〜1.6×10-3(Ω・cm)の範囲にあり、そのバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドと、熱可塑性樹脂を混合し、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)が、5.0×10以下で、そのバラツキが±50%の範囲にあり、且つ、引張強度が80MPa以上である樹脂組成物によって課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化材、特に、炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物の製造方法と、それを成形して得られた炭素繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維チョップドストランドは、サイズ剤で集束した炭素繊維束を所定の長さで切断した束状の補強材繊維である。炭素繊維チョップドストランドは、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料に汎用され、例えば、シート・モールディング・コンパウンド(SMC)、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)、ハンドレイアップ等により製造される。
【0003】
炭素繊維チョップドストランドは、また、熱可塑性樹脂、特に、エンジニアリングプラスチックをマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の製造にも多用される。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化複合材料は、非強化樹脂に比べ、強度、剛性、電気特性、寸法安定性等に優れており、OA機器、自動車等に利用されている。
【0004】
通常、炭素繊維チョップドストランドは、長さ1〜10mm、フィラメント数3,000本(3K)〜80,000本(80K)程度の束状に形成される。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の一般的な製造方法は、この炭素繊維チョップドストランドを、熱可塑性樹脂ペレット或いはパウダーと共に、例えば、押出機で溶融混練してペレット化し、射出成形することにより行われる。そして、炭素繊維強化熱可塑性樹脂は、射出成形時の溶融流動性に優れており、成形性は良いものの、条件によっては繊維長が短くなり、満足のいく導電性及び力学特性を得ることが出来ないという問題がある。
【0005】
かかる問題を解決するため、特開平6−97695号公報(特許文献1)には、ある範囲の繊維長の導電繊維の含有量を制御することで、所定の導電性を発揮できる成形品が開示されている。また、特開平9−286036号公報(特許文献2)には、繊維長分布を規定することにより、上記問題を解決する成形品が開示されている。これらの解決方法としては、成形条件或いは装置を改良することで、成形時の繊維の破損を低減させ、導電性及び力学特性を維持する試みが一般的に検討されている。しかしながら、この場合は、ペレット及び成形品を作製する上での、成形条件及び装置の改良に共に限界があり、ある特定の繊維含有率の中で、より導電性を求められる分野においては、必ずしも満足する性能が得られず、根本的な問題解決には至っていない。
【特許文献1】特開平6−97695号公報(請求項1及び2)
【特許文献2】特開平9−286036号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決するために種々検討している中で、炭素繊維自身の電気抵抗と樹脂組成物としたときの表面電気抵抗をある一定範囲に規定する必要があること、また、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着性をある程度に維持するため、炭素繊維表面処理量をある一定範囲に規定することで、より導電性に優れた成形品が得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、その目的とするところは、炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂とからなる、導電性と力学特性に優れた樹脂組成物の製造方法と、それを成形して得られた炭素繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキが±50%の範囲にある、炭素繊維強化材と熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物を製造するに際し、ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドと、熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする炭素繊維樹脂組成物の製造方法である。
【0008】
本発明のもう一つの態様は、炭素繊維ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂を混合して得られた樹脂組成物であって、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキが±50%の範囲にある樹脂組成物を、成形して得られた炭素繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、導電性と力学的特性に優れた炭素繊維強化複合材料が得られる。また、そのための樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の炭素繊維樹脂組成物は、後述の「電気特性試験」の項で説明する方法で、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキが、±50%の範囲にあるものでなければならない。バラツキがそれより大きい場合には、本発明の目的にかなうものが得られない。好ましいのは、このバラツキの範囲で、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)が、5.0×10以下のものであり、力学的特性の点では、後述の「力学特性試験」の項で説明する方法で測定した引張強度が80MPa以上のものである。
【0011】
また、本発明の炭素繊維樹脂組成物は、炭素繊維のストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドを用いたものでなければならない。バラツキがこの範囲外の場合は、本発明の目的にかなうものが得られない。好ましいのは、このバラツキの範囲で、後述の「炭素繊維ストランドの体積抵抗率」の項で説明する方法で測定した、炭素繊維ストランドの体積抵抗率の平均値が、1.4×10-3〜1.6×10-3(Ω・cm)の範囲にあるものである。
【0012】
炭素繊維ストランドの体積抵抗率が1.4×10-3Ω・cm未満の場合は、好ましい組成物が得られない。一般的に、炭素繊維ストランドの体積抵抗率と弾性率との間には相関があり、炭素繊維ストランドの体積抵抗率を下げると、炭素繊維の弾性率が上がる傾向にある。つまりこの場合、繊維強化複合材料としての導電性を向上させる方法として、ストランドの体積抵抗率を下げることが考えられるが、一方で弾性率が向上し、炭素繊維ストランドの靱性が低下する。そのため、コンパウンド時の炭素繊維チョップストランドへの剪断力により、繊維が折れやすくなり、結果的に、繊維強化複合材料における優れた導電性及び力学特性を得ることが難しい。
【0013】
炭素繊維ストランドの体積抵抗率が1.6×10-3Ω・cmを越える場合は、炭素繊維ストランド自身の導電性が十分に得られていないため、結果的に、繊維強化複合材料に於ける優れた導電性を得ることが難しい。なお、本発明において、炭素繊維ストランドの特に好ましい体積抵抗率は、1.45×10-3〜1.55×10-3(Ω・cm)である。
【0014】
本発明においてマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリブチレンテレフタレート等の汎用エンジニアリングプラスチック;ABS、ポリプロピレン等の汎用プラスチック;ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン等のスーパーエンジニアリングプラスチックス等を挙げることができる。好ましいのは、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン又はポリカーボネートである。
【0015】
本発明において、炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂を混合する方法、そして更に、得られた樹脂組成物を炭素繊維強化複合材料に成形する方法ついては、特に制限はなく、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、炭素繊維チョップドストランドを、熱可塑性樹脂ペレット或いはパウダーと共に押出機で溶融混練してペレット化(樹脂組成物)しても良く、あるいは、引き続いて射出成形することによって炭素繊維強化複合材料としても良い。
【0016】
炭素繊維チョップドストランドの配合量は、特に制限がないが、樹脂組成物又は繊維強化複合材料の全質量に対して1〜40質量%とすることが好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0017】
本発明の炭素繊維チョップドストランドは、サイズ剤で集束した炭素繊維束を所定の長さで切断した束状の補強材繊維であるが、用いるサイズ剤としては、使用するマトリックス樹脂との相溶性が良いものを、マトリックス樹脂の種類に応じて選択することが好ましい。サイズ剤としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂を2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として、繊維強化複合材料を成形する場合、サイズ剤には、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、熱可塑性樹脂になじみが良く、特にポリオキシメチレン樹脂との相溶性に優れる。このため、ポリオキシメチレン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いた場合には、電気特性及び力学特性に優れる繊維強化複合材料を得ることができる。
【0019】
本発明のチョップドストランドに用いる炭素繊維は、公知の炭素繊維、例えばレーヨン、ポリアクリロニトリル、ピッチ、リグニン、炭化水素ガスを用いて製造した炭素繊維や黒鉛質繊維の中から任意に選んで用いることができる。特に、汎用性、強度及び弾性率、価格のバランスを考慮して、ポリアクリロニトリル系重合体繊維をプリカーサーとする炭素繊維が好ましい。
【0020】
炭素繊維ストランドのフィラメント(単繊維)の本数は、特に限定されないが、成形加工性等を考慮して3,000本(3K)〜80,000本(80K)であることが好ましい。また、単繊維直径は5〜10μmであることが好ましい。
【0021】
また、炭素繊維ストランドを構成する炭素繊維表面は、マトリックス樹脂との接着性の改良を目的として表面処理を施すことが好ましい。表面処理方法としては、公知の方法として液相及び気相処理等があるが、生産性、安定性、価格面等の点から液相電解表面処理が好ましい。この表面処理を行う程度の目安の指標として、X線光電子分光法(ESCA)により測定される炭素繊維の表面酸素濃度比O/C、あるいは、表面窒素濃度比N/Cによって管理することが好ましい。本発明においては、炭素繊維の表面酸素濃度比O/C(ピーク強度比)を用いることがより好ましい。
【0022】
炭素繊維の表面酸素濃度比O/Cの測定は、例えば、日本電子(株)製X線光電子分光器ESCA JPS-9000MX等を用いて以下のように行う。サイズ剤付与前の、あるいは、予めサイズ剤を除いた炭素繊維に、Mgを対極として電子線加速電圧10kV、電流10mAの条件にて発生したX線を照射し、炭素原子、酸素原子より発生する光電子のスペクトルを測定し、ピーク強度(面積)比を算出する。そして、炭素繊維の表面処理の程度としては、表面酸素濃度比O/Cが0.03〜0.23となるように行うことが好ましい。
【0023】
表面酸素濃度比O/Cが0.23を越えた場合、マトリックス樹脂と炭素繊維の接着強度が増加し、結果的に、繊維強化複合材料に於ける優れた導電性を発揮し得ない傾向がある。一方、表面酸素濃度比O/Cが0.03未満の場合、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不足し、繊維強化複合材料における導電性への影響は軽減されるものの、機械特性が充分に発揮されないため、繊維強化複合材料としての総合的な性能発現としては十分ではない。
【0024】
本発明において、得られた炭素繊維ストランドは、切断することによりチョップドストランドとされる。本発明のチョップドストランドとしては、引張強度3000MPa以上、引張弾性率200GPa以上のものを用いることが好ましい。炭素繊維チョップドストランドの繊維長は、0.1〜10mm程度、好ましくは3〜8mmに切断するのが良い。なお、炭素繊維チョップドストランドの、熱可塑性樹脂と成形した際の平均繊維長としては、100〜800μm程度、更に200〜600μm程度を維持することが好ましい。また、炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は、300g/l以上が好ましく、350g/l以上がより好ましく、400以上g/lが更に好ましい。
【0025】
本発明の炭素繊維チョップドストランドは、公知の方法により熱可塑性樹脂と溶融混練してペレット化し樹脂組成物とすることができ、また、これを公知の方法で成形することにより繊維強化複合材料を製造できる。樹脂組成物を製造するに際しては、あるいは、樹脂組成物から繊維強化複合材料を成形するに際しては、目的に応じて、色々な添加剤、着色剤等を配合することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。実施例における各測定値は下記の方法で求めた。
[炭素繊維ストランドの体積抵抗率]
横河M&C社
753102 DIGITAL MULTIMETER により、500mm離して設置した電極間に、炭素繊維ストランドを固定し、通電開始後10秒経過した後、電極間の抵抗値を読み取った。そして、次式(1)によって、体積抵抗率を求めた。
Sb = Rb / L × m /(l×ρ)
Sb:体積抵抗率(Ω・cm)
Rb:試料長さLのときの抵抗値(Ω)
L :抵抗測定時の試料の長さ(cm)
l :質量測定時の試料の長さ(cm)
m :試料長さlのときの質量(g)
ρ:試料の密度(g/cm3
【0027】
[炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)]
日本電子社製X線光電子分光器ESCA JPS-9000MXにより、予めサイズ剤を除いた炭素繊維に、Mgを対極として電子線加速電圧10kV、電流10mAの条件にて発生したX線を照射した。そして、炭素原子、酸素原子より発生する光電子のスペクトルを測定し、ピーク強度(面積)からO/C比を算出した。
【0028】
[嵩密度]
2000mlのメスシリンダーに300gの炭素繊維チョップドストランドを充填し、軽く衝撃を与えて体積に変化が無くなった時の体積を求め、この体積と炭素繊維チョップドストランドの質量とから嵩密度を算出した。
【0029】
[電気特性試験]
熱可塑性繊維強化樹脂の電気特性として、三菱油化社製ロレスタAP MCP-T400を用い、測定条件がピン間隔5mmの4探針法、温度23℃、相対湿度40〜50%、試験片サイズ50mm×90mm×3mm(厚み)のほぼ中央面の抵抗を測定し、表面電気抵抗値Rを算出した。
【0030】
[力学特性試験]
力学特性試験は、ISO規格に準拠して測定を行った。即ち、引張試験測定は、ISO
527-1,2の方法で測定した。
【0031】
[実施例1〜3]
24000フィラメントのポリアクリロニトリル(PAN)系プリカーサーを用いて、炭素繊維ストランド(24000フィラメント、引張強度4800MPa、引張弾性率240GPa、単繊維径7μm)を製造した。即ち、PAN系プリカーサーを、酸化性雰囲気中、240〜270℃の範囲内で温度勾配を有する耐炎化炉にて処理し、耐炎繊維比重1.3〜1.45のPAN系耐炎繊維を得た。次いで、得られた耐炎繊維を、不活性雰囲気中、300〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉にて処理し、比重1.7〜1.85の炭素繊維を得た。得られた炭素繊維を、電解表面処理した後、水洗して電解物質を取り除いた。その後、乾燥させた炭素繊維ストランドに、エポキシ当量が約800程度のエポキシ樹脂を約5質量%付着させた。次いで、150℃の乾燥機にて乾燥した後、繊維長6mmにカットした。得られた炭素繊維チョップドストランドは品質良好であった。また、ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキは、±6%の範囲にあることが確認された。
【0032】
この炭素繊維チョップドストランドと、ポリアセタール樹脂ペレット(″ユピタール″F20-02、三菱エンジニアリングプラスチックス製)を、炭素繊維含有量が20質量%となるように、30mmφの2軸押出機にて溶融混練(約200℃)してストランド状に押出し、水冷後切断してコンパウンドペレットを得た。このペレットを100℃にて十分乾燥した後、射出成形機にて電気特性試験用の試験片を作製し、電気特性及び力学特性について測定した。その結果を表1に示した。表1に示した様に、いずれのコンパウンドペレットも、繊維強化樹脂成形板として良好な電気特性と引っ張り強度を示すものであった。また、表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキも±50%の範囲にあることが確認された。かかるコンポウンドは、良好な電気特性と力学特性を有する、各種の炭素繊維樹強化複合材料に成形することができた。
【0033】
【表1】

【0034】
[比較例1]
炭素繊維ストランド体積抵抗率が1.70×10-3Ω・cmの炭素繊維チョップドストランドを用いた以外は、実施例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示した。比較例1のものは、繊維強化樹脂成形板としたときに表面抵抗値が高くなり、電気特性面で満足する結果が得られなかった。これを炭素繊維樹強化複合材料に成形した場合にも同様であった。
【0035】
[比較例2]
炭素繊維ストランド体積抵抗率が1.38×10-3Ω・cmの炭素繊維チョップドストランドを用いた以外は、実施例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示した。比較例2のものは、炭素繊維ストランド体積抵抗率が低いので、繊維強化樹脂成形板としたときの表面抵抗値も下がると考えられたが、炭素繊維ストランドの体積抵抗率を低下させることに伴い、炭素繊維自身の弾性率が増加することで、コンパウンドとしたときの剪断力による繊維破断が多くなり、繊維強化樹脂成形板における表面抵抗値は、むしろ比較的高くなった。従って、電気特性面で満足する結果が得られなかった。
【0036】
[実施例4]
炭素繊維チョップドストランドの中の表面酸化濃度比O/C(ピーク強度比)を、0.26とした以外は実施例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示した。実施例4のものは、引張強度は向上するものの、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力が強くなったことから、結果的に、繊維強化樹脂成形板における表面抵抗値がやや高くなった。しかし、実用的には使用可能の範囲であった。
【0037】
[実施例5]
炭素繊維チョップドストランドの中の表面酸化濃度比O/C(ピーク強度比)を、0.01とした以外は実施例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示した。実施例5のものは、繊維強化樹脂成形板における引張強度がやや低くなったが、実用的には使用可能の範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によると、導電性と力学的特性に優れた炭素繊維強化複合材料が得られる。また、そのための樹脂組成物が提供される。そして、かかる樹脂組成物を用いると、繊維強化複合材料としての導電性用途への対応が容易である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキが±50%の範囲にある、炭素繊維強化材と熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物を製造するに際し、ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドと、熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
炭素繊維ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)の平均値が、1.4×10-3〜1.6×10-3(Ω・cm)の範囲にある請求項1記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)が、5.0×10以下で、且つ、引張強度が80MPa以上である請求項1又は2記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
炭素繊維ストランドが、X線光電子分光法(ESCA法)により測定される表面酸素濃度比O/C(ピーク強度比)が0.03〜0.23の範囲にあるものである請求項1〜3記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維チョップドストランドの平均繊維長が、0.1〜10mmである請求項1〜4に記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
炭素繊維チョップドストランドの嵩密度が、300g/l以上である請求項1〜5記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン又はポリカーボネートである請求項1〜6記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
炭素繊維の含有量が、1〜40質量%である請求項1〜7記載の炭素繊維樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
炭素繊維ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)のバラツキが±6%の範囲にある炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂を混合して得られた樹脂組成物であって、繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)のバラツキが±50%の範囲にある樹脂組成物を、成形して得られた炭素繊維強化複合材料。
【請求項10】
炭素繊維ストランドの体積抵抗率Sb(Ω・cm)の平均値が、1.4×10-3〜1.6×10-3(Ω・cm)の範囲にある請求項9記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項11】
繊維強化樹脂成形板としたときの表面電気抵抗R(Ω/□)が、5.0×10以下で、且つ、引張強度が80MPa以上である請求項9又は10記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項12】
炭素繊維ドストランドが、X線光電子分光法(ESCA法)により測定される表面酸素濃度比O/C(ピーク強度比)が0.03〜0.23の範囲にあるものである請求項9〜11記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項13】
炭素繊維チョップドストランドの平均繊維長が、0.1〜10mmである請求項9〜12に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項14】
炭素繊維チョップドストランドの嵩密度が、300g/l以上である請求項9〜13記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項15】
熱可塑性樹脂が、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン又はポリカーボネートである請求項9〜14記載の炭素繊維樹強化複合材料。
【請求項16】
炭素繊維の含有量が、1〜40質量%である請求項9〜15記載の炭素繊維強化複合材料。


【公開番号】特開2006−152023(P2006−152023A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340530(P2004−340530)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】