説明

炭素繊維焼成炉

【課題】炭素繊維焼成炉内を走行する耐炎化繊維ストランドを炭素化する際、発生ガスに起因する固液混合異物のストランドへの落下を防止し、且つ、ストランドの汚染、切断、劣化を防止して安定した炭素化を行うことができる炭素繊維焼成炉を提供する。
【解決手段】炭素繊維焼成炉内を走行する耐炎化繊維ストランドを不活性ガスの雰囲気下で炭素化する炭素繊維焼成炉において、ストランド入口端から炭素繊維焼成炉長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分(A)と、(A)に続けて形成され、その天井高さがストランド走行方向に向けて一定の主体部分(B)と、(B)の天井に設けた排気ポート(C)とを有する炭素繊維焼成炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の製造に際し、耐炎化繊維を炭素化する炭素繊維焼成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ピッチ系やポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を製造する方法においては、通常まず上記繊維を装置内温度300℃以下の熱処理装置により耐炎化処理を施して耐炎化繊維を得る。
【0003】
次いで、耐炎化繊維を不活性ガスの雰囲気下で400℃以上の焼成炉に導いて、必要に応じ400〜800℃で第一炭素化処理した後、1000℃以上で第二炭素化処理して焼成することにより炭素化を行う。
【0004】
上記炭素繊維焼成炉においては、炭素化に伴い大量のガス(発生ガス)が発生し、炭素繊維焼成炉に供給した耐炎化繊維ストランドの10〜40質量%がガス化される。このガスは不活性ガスと共に排気ポートを通過して焼成炉外へ排出される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図6は従来の焼成炉の一例を示す概略図であり、(I)は、焼成炉運転中に発生するガスの動き(発生ガス流の状態)及び不活性ガスの動きを示し、(II)は、パウダー、ケバ及びタールなどの異物が焼成炉のストランド入口側や出口側の内壁や天井部及びその近傍へ付着する状態やこれらの異物がストランド上に脱落する状態等を示している。
【0006】
図6に示すように従来の炭素繊維焼成炉32において、炭素繊維焼成炉内32aを水平にパス34aを形成して走行するストランド34を炭素化する際、発生ガス52は炭素繊維焼成炉32の天井44に沿って広がる。この発生ガス52は通常、炭素繊維焼成炉32の天井44に設けられた排気ポート40から系外へ排出される。
【0007】
炭素繊維焼成炉32の天井44に沿って広がった発生ガス52は、比較的低温で且つガスの流動が殆ど生じない領域(所謂デッドスペース)であるストランド入口側の天井62やストランド入口側の内壁64の近傍に滞留ガス52aとなって長時間滞留する。或は、ストランド出口側の天井66やストランド出口側の内壁68の近傍に滞留ガス52cとなって長時間滞留する。
【0008】
発生ガス52の一部が滞留ガス52a或は滞留ガス52cとなって滞留する間に、ストランド入口側の天井62やストランド入口側の内壁64、或は、ストランド出口側の天井66やストランド出口側の内壁68に触れて、その一部は凝縮したタール等の液状異物として壁面に付着する。
【0009】
ストランドがシリコーンオイル等のサイズ剤でオイル処理されている場合は、熱分解で生成するシリカパウダーやケバが発生する。これらのパウダーやケバの一部は、前記液状異物の表面に付着し、固液混合異物62a、64a、66a、68aとしてストランド入口側や出口側の内壁や天井に堆積する。
【0010】
これらの堆積した固液混合異物は、堆積量が増えると高密度となってストランド上に落下し、ストランドを汚染する固液混合異物72、74となる。これらの固液混合異物72、74は、ストランドの品質を低下させるばかりでなく、ストランドの切断の原因にもなる。
【特許文献1】特開昭62−85029号公報(第2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、上記問題について鋭意検討した結果、炭素繊維焼成炉内を走行する耐炎化繊維を炭素化して炭素繊維を製造する炭素繊維焼成炉において、炭素繊維焼成炉のストランド導入部分を特定の形状とすることにより異物脱落による耐炎化繊維や炭素繊維の汚染、切断、劣化を防止できることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0012】
従って、本発明の目的とするところは、上述した問題点を解決した、炭素繊維焼成炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 炭素繊維焼成炉内を水平に且つ炭素繊維焼成炉の長さ方向に平行に走行する耐炎化繊維ストランドを不活性ガスの雰囲気下で炭素化する炭素繊維焼成炉において、該炭素繊維焼成炉が
(A)該炭素繊維焼成炉のストランド入口端から炭素繊維焼成炉長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分、
(B)該ストランド導入部分(A)に続けて形成された、その天井高さがストランド走行方向に向けて一定の主体部分及び
(C)該炭素化主体部分(B)の天井に設けた排気ポート
とを有する炭素繊維焼成炉。
【0015】
〔2〕 炭素繊維焼成炉内を水平に且つ炭素繊維焼成炉の長さ方向に平行に走行する耐炎化繊維ストランドを不活性ガスの雰囲気下で炭素化する炭素繊維焼成炉において、該炭素繊維焼成炉が
(A)該炭素繊維焼成炉のストランド入口端から炭素繊維焼成炉長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分、
(B)該ストランド導入部分(A)に続けて形成された、その天井高さがストランド走行方向に向けて一定の主体部分、
(C)該炭素化主体部分(B)の天井に設けた排気ポート及び
(D)前記主体部分(B)に続けて形成され、主体部分後端からストランド出口端にかけて形成された、炭素繊維焼成炉全長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸減するストランド取出部分
とを有する炭素繊維焼成炉。
【0016】
〔3〕 ストランド導入部分(A)の下方に不活性ガス導入部分(E)を設けた〔1〕又は〔2〕に記載の炭素繊維焼成炉。
【0017】
〔4〕 排気ポート(C)を炭素化主体部分(B)のストランド出口側端部の天井に設けた〔1〕又は〔2〕に記載の炭素繊維焼成炉。
【0018】
〔5〕 ストランド導入部分(A)の天井高さの漸増が直線的である〔1〕又は〔2〕に記載の炭素繊維焼成炉。
【0019】
〔6〕 ストランド取出部分(D)の天井高さの漸減が直線的である〔2〕に記載の炭素繊維焼成炉。
【発明の効果】
【0020】
本発明の炭素繊維焼成炉を用いて、炭素繊維焼成炉内を走行する耐炎化繊維ストランド、特にオイル処理を施したストランドを炭素化する場合、本発明の炭素繊維焼成炉は、ストランド入口端にその天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分(A)を設けているので、炭素繊維焼成炉内に発生するガス流が長期間滞留する部分が少ない。ストランド出口端にその天井高さがストランド走行方向に向けて漸減するストランド取出部分(D)を設けると、炭素繊維焼成炉内に発生するガス流が長期間滞留する部分が更に少なくなる。
【0021】
その結果、炭素繊維焼成炉の天井や内壁面に固液混合異物が殆ど付着しないので、走行するストランドへの固液混合異物の落下を防止でき、耐炎化繊維ストランド及び炭素化ストランドの汚染、切断、劣化が防止できる。従って、ストランドの安定した炭素化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図1を参照して本発明を詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の炭素繊維焼成炉の一例を示す概略図である。図1において2は炭素繊維焼成炉で、内部は細長い中空の焼成室2aになっている。この焼成室2a内にはストランド4が炭素繊維焼成炉2の長さ方向に平行かつ水平にストランドのパス4aに沿って走行しながら焼成される。
【0024】
6は炭素繊維焼成炉2の一端に形成したストランド導入口で、このストランド導入口6から焼成室2a内に導入されたストランド4は、焼成室2a内を長さ方向に平行且つ水平に走行しながら、加熱焼成され、炭素繊維焼成炉2の他端に形成されたストランド取出口8から外部に取出される。
【0025】
前記焼成室2a内の天井は、ストランド導入口6からストランド取出口8に向って漸次高くなるストランド導入部分Aが形成されている。ストランド導入部分Aは、炭素繊維焼成炉2の長さ方向長さ(全長)の1/50以上であることが必要であり、1/20〜1/10がより好ましい。
【0026】
前記ストランド導入部分Aに続いて、天井14の高さが同一の炭素化主体部分Bがストランド取出口8方向に形成されている。10は前記炭素化主体部分Bの天井に形成された排気ポートである。
【0027】
次に、上記炭素繊維焼成炉を用いて耐炎化繊維を炭素化する場合について説明する。
【0028】
図1において、ストランド導入口6から導入されたストランド4は、先ずストランド導入部分Aで予熱され、焼成室2a内を通過してストランド取出口8から取出されるまでに熱処理される。
【0029】
この際に発生するガス22は、ストランド導入部分Aの空間が狭いためこの部分に滞留すること無く例えば発生ガスのパス26に沿ってストランド取出口8方向に移動し、排気ポート10から外部に排出される。
【0030】
炭素繊維焼成炉に供給されたストランド(耐炎化繊維ストランド)は、400℃以上に昇温された焼成室2a内で、水平に且つ炭素繊維焼成炉2の側壁に平行にストランドパス4aを形成して走行し、加熱処理(炭素化)されて炭素繊維となる。この炭素繊維焼成炉2は、必要に応じ、パス4aの入口側から出口側に向かうに従って400〜800℃に昇温された前段の第一炭素化炉で炭素化(第一炭素化処理)し、更に後段の第二炭素化炉で炭素化(第二炭素化処理)する二段の炭素化炉で構成しても良い。二段の炭素化炉とする場合は、炭素繊維焼成炉2は、前段の第一炭素化炉として用いることが好ましい。
【0031】
ストランド導入部分(A)の天井12は、ストランド走行方向に向けて直線的に高さを増していることが好ましい。この結果、炭素繊維焼成炉内の発生ガスの滞留が特に少なくなり、固液混合異物の炭素繊維焼成炉内の天井や壁面への堆積が特に少なくなる。
【0032】
以上説明したように、本発明の炭素繊維焼成炉2では焼成室2a内の発生ガス22が長期間部分的に滞留を起こすことなく、排気ポート10に向かい系外へ排出される。そのため、発生ガス22に起因する固液混合異物の発生が少なくなり、ストランドの汚染、切断、劣化を防止できる。
【0033】
また、図3に示すように上記炭素繊維焼成炉2には不活性ガス入口18を設けることができ、ここから炭素繊維焼成炉内に供給された不活性ガスは24で例示されるパスを経て排気ポート10から外部に排出される。尚、不活性ガス(例えば窒素ガス)を供給することの効果は、ストランドの酸化を防止するだけでなく、ストランドからの発生ガスの強制的排出に対して有効である。図3中のその他の符号は、図1と同様である。
【0034】
図2は本発明の炭素繊維焼成炉の別の一例を示す概略図である。図2において2は炭素繊維焼成炉で、内部は細長い中空の焼成室2aになっている。この焼成室2a内にはストランド4が炭素繊維焼成炉2の長さ方向に平行かつ水平にストランドのパス4aに沿って走行しながら焼成される。
【0035】
6は炭素繊維焼成炉2の一端に形成したストランド導入口で、このストランド導入口6から焼成室2a内に導入されたストランド4は、焼成室2a内を長さ方向に平行且つ水平に走行しながら、加熱焼成され、炭素繊維焼成炉2の他端に形成されたストランド取出口8から外部に取出される。
【0036】
前記焼成室2a内の天井は、ストランド導入口6からストランド取出口8に向って漸次高くなるストランド導入部分Aが形成されている。ストランド導入部分Aは、炭素繊維焼成炉2の長さ方向長さ(全長)の1/50以上であることが必要であり、1/20〜1/10がより好ましい。
【0037】
前記ストランド導入部分Aに続いて、天井14の高さが同一の炭素化主体部分Bがストランド取出口8方向に形成されている。
【0038】
炭素化主体部分Bに続いて、天井16の高さがストランド取出口8に向うに従って漸次小さくなるストランド取出部分Dが形成されている。ストランド取出部分Dは、炭素繊維焼成炉2の長さ方向長さ(全長)の1/50以上であることが必要であり、1/20〜1/10がより好ましい。
【0039】
18はストランド導入口6の近傍に形成した不活性ガス入口で、ここから炭素繊維焼成炉2内に不活性ガスが導入される。10は前記炭素化主体部分Bの天井に形成された排気ポートである。
【0040】
次に、上記炭素繊維焼成炉を用いて耐炎化繊維を炭素化する場合について説明する。
【0041】
図2において、ストランド導入口6から導入されたストランド4は、先ずストランド導入部分Aで予熱され、焼成室2a内を通過してストランド取出口8から取出されるまでに炭素化される。
【0042】
この際に発生するガス22は、ストランド導入部分Aの空間が狭いためこの部分に滞留すること無く、18から導入される不活性ガスに同搬されてストランド取出口8方向に移動し、例えば発生ガスのパス26に沿ってストランド取出口8方向に移動し、排気ポート10から外部に排出される。また、発生ガス22は、ストランド取出部分Dの空間が狭いためこの部分にも滞留すること無く、排気ポート10から外部に排出される。
【0043】
炭素繊維焼成炉に供給されたストランド(耐炎化繊維ストランド)は、400℃以上に昇温された焼成室2a内で、水平に且つ炭素繊維焼成炉2の側壁に平行にストランドパス4aを形成して走行し、加熱処理(炭素化)されて炭素繊維となる。この炭素繊維焼成炉2は、必要に応じ、パス4aの入口側から出口側に向かうに従って400〜800℃に昇温された前段の第一炭素化炉で炭素化(第一炭素化処理)し、更に後段の第二炭素化炉で炭素化(第二炭素化処理)する二段の炭素化炉で構成しても良い。二段の炭素化炉とする場合は、炭素繊維焼成炉2は、前段の第一炭素化炉として用いることが好ましい。
【0044】
ストランド導入部分(A)の天井12は、ストランド走行方向に向けて直線的に高さを増し、ストランド取出部分(D)の天井16は、ストランド走行方向に向けて直線的に高さを減じていることが好ましい。この結果、炭素繊維焼成炉内の発生ガスの滞留が特に少なくなり、固液混合異物の炭素繊維焼成炉内の天井や壁面への堆積が特に少なくなる。
【0045】
また、上記炭素繊維焼成炉2には不活性ガス入口18が設けられていて、ここから炭素繊維焼成炉内に供給された不活性ガスは24で例示されるパスを経て排気ポート10から外部に排出される。尚、不活性ガス(例えば窒素ガス)を供給することの効果は、ストランドの酸化を防止するだけでなく、ストランドからの発生ガスの強制的排出に対して有効である。
【0046】
以上説明したように、本発明の炭素繊維焼成炉2では焼成室2a内の発生ガス22が長期間部分的に滞留を起こすことなく、排気ポート10に向かい系外へ排出される。そのため、発生ガス22に起因する固液混合異物の発生が少なくなり、ストランドの汚染、切断、劣化を防止できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の炭素繊維焼成炉を実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図4に示す炭素繊維焼成炉において、オイル処理(サイジング剤としてシリコーンオイルをストランドに対し2質量%添加)を施したアクリル繊維系ストランド4を供給速度1.5kg/分で供給し炭素化を行った。
【0049】
炭素繊維焼成炉の諸元は、炭素繊維焼成炉の全長(Lt)12m、炭素繊維焼成炉の全高(Ht)0.4m、炭素繊維焼成炉の全幅(Wt)1.6m、ストランド導入部分の長さ(La)1m、炭素化主体部分の長さ(Lb)11m、排気ポート端から炭素繊維焼成炉端までの長さ(Lc)1m、導入部分のストランドの走行位置から天井までの垂直距離(Ha)がストランドの走行方向に向けて0.1mから0.3mまで直線的に漸増するものであり、ストランド導入部分(A)の長手方向の長さは炭素繊維焼成炉全長の1/12のものを用いた。炭素化温度は800℃とした。炭素繊維焼成炉2内では発生ガスは、炭素繊維焼成炉内で長期間部分的に滞留を起こすことなく、排気ポート10に向かい、この排気ポート10を通って系外へ排出された。
【0050】
この条件で二ヶ月間連続して炭素化を行った結果、ストランドの汚染、切断、劣化が発生せず安定した炭素化を行うことができた。二ヶ月間連続運転後、運転を停止し、炭素繊維焼成炉2内を点検した。その結果、炭素繊維焼成炉内のストランド導入部分(A)の天井12及び炭素化主体部分(B)の天井14への固液混合異物の堆積は極めて軽微であった。
【0051】
(実施例2)
図5に示す炭素繊維焼成炉において、オイル処理サイジング剤としてシリコーンオイルをストランドに対し1質量%添加)を施したアクリル繊維系ストランド4を供給速度1.5kg/分で供給し炭素化を行った。
【0052】
炭素繊維焼成炉の諸元は、炭素繊維焼成炉の全長(Lt)15m、炭素繊維焼成炉の全高(Ht)0.4m、炭素繊維焼成炉の全幅(Wt)1.6m、ストランド導入部分(A)の長さ(La)1m、炭素化主体部分(B)の長さ(Lb)13m、ストランド取出部分(D)の長さ(Ld)1m、排気ポート端から炭素繊維焼成炉端までの長さ(Lc)2m、排気ポート部分の長さ(Le)1m、導入部分のストランドの走行位置から天井12までの垂直距離(Ha)がストランドの走行方向に向けて0.1mから0.3mまで直線的に漸増、取出部分のストランドの走行位置から天井16までの垂直距離(Hd)がストランドの走行方向に向けて0.3mから0.1mまで直線的に漸減したものであり、ストランド導入部分(A)及びストランド取出部分(D)の長手方向の長さは炭素繊維焼成炉全長の1/15のものを用いた。不活性ガスとして窒素ガスを不活性ガス入口18から供給し、炭素化温度を800℃とした。炭素繊維焼成炉2内では発生ガスは、炭素繊維焼成炉内で長期間部分的に滞留を起こすことなく、排気ポート10に向かい、この排気ポート10を通って系外へ排出された。
【0053】
この条件で二ヶ月間連続して炭素化を行った結果、ストランドの汚染、切断、劣化が発生せず安定した炭素化を行うことができた。二ヶ月間連続運転後、運転を停止し、炭素繊維焼成炉2内を点検した。その結果、炭素繊維焼成炉内のストランド導入部分(A)の天井12、炭素化主体部分(B)の天井14及びストランド取出部分(D)の天井16への固液混合異物の堆積は極めて軽微であった。
【0054】
(比較例1)
図6に示す炭素繊維焼成炉を用いた以外は実施例2と同様に炭素化を行った。炭素繊維焼成炉の全長、全高、全幅は実施例2と同様のものを用いた。ストランド導入口36からストランド34を導入し、炭素繊維焼成炉内部32aにて熱処理した後、ストランド34をストランド取出口38から取出した。この間、不活性ガスとして窒素ガスを不活性ガス入口48から供給し、不活性ガスのパス54に示したような経路を経て排気ポート40から排出した。発生ガス52は発生ガスのパス56に示したような経路を経て排気ポート40から排出された。炭素繊維焼成炉の運転開始から1週間経過した時点で固液混合異物(72、74)のストランド34上への落下トラブルが生じた。更に1週間経過した時点でストランドの汚染、切断、劣化が頻発し、安定した炭素化を行うことはできなかった。この時点で運転を停止し、炭素繊維焼成炉32内を点検した結果、ストランド入口側の天井62、内壁64及びストランド出口側の天井66、内壁68に固液混合異物の堆積(62a、64a、66a、68a)が多量に認められ、各々の箇所で堆積物の一部が剥離した痕跡が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の炭素繊維焼成炉の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の炭素繊維焼成炉の別の一例を示す概略図である。
【図3】不活性ガス入口を設けた本発明の炭素繊維焼成炉の別の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例1に用いた炭素繊維焼成炉の一例を示す概略図であり、(I)は、正面図を示し、(II)は平面図を示す。
【図5】本発明の実施例2に用いた炭素繊維焼成炉の一例を示す概略図であり、(I)は、正面図を示し、(II)は平面図を示す。
【図6】従来の炭素繊維焼成炉の一例を示す概略図であり、(I)は、発生ガス流の状態を示し、(II)は、パウダー、ケバ及びタールなど異物の付着状態や脱落状態等を示す。
【符号の説明】
【0056】
2 炭素繊維焼成炉
2a 焼成室
4 ストランド
4a ストランドのパス
6 ストランド導入口
8 ストランド取出口
10 排気ポート
12 ストランド導入部分(A)の天井
14 主体部分(B)の天井
16 ストランド取出部分(D)の天井
18 不活性ガス入口
22 発生ガス
24 不活性ガスのパス
26 発生ガスのパス
32 炭素繊維焼成炉
32a 炭素繊維焼成炉内部
34 ストランド
34a ストランドのパス
36 ストランド導入口
38 ストランド取出口
40 排気ポート
44 炭素繊維焼成炉の天井
48 不活性ガス入口
52 発生ガス
52a ストランド入口側の滞留ガス
52c ストランド出口側の滞留ガス
54 不活性ガスのパス
56 発生ガスのパス
62 ストランド入口側の天井
62a ストランド入口側の天井に堆積した固液混合異物
64 ストランド入口側の内壁
64a ストランド入口側の内壁に堆積した固液混合異物
66 ストランド出口側の天井
66a ストランド出口側の天井に堆積した固液混合異物
68 ストランド出口側の内壁
68a ストランド出口側の内壁に堆積した固液混合異物
72 ストランド上に落下した固液混合異物
74 ストランド上に落下した固液混合異物
A ストランド導入部分
B 炭素化主体部分
D ストランド取出部分
La ストランド導入部分の長さ
Lb 炭素化主体部分の長さ
Ld ストランド取出部分の長さ
Lc 排気ポート端から炭素繊維焼成炉端までの長さ
Le 排気ポート部分の長さ
Lt 炭素繊維焼成炉の全長
Wt 炭素繊維焼成炉の全幅
Ha 導入部分のストランドの走行位置から天井までの垂直距離
Hb 炭素化主体部分のストランドの走行位置から天井までの垂直距離
Hd 取出部分のストランドの走行位置から天井までの垂直距離
Ht 炭素繊維焼成炉の全高

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維焼成炉内を水平に且つ炭素繊維焼成炉の長さ方向に平行に走行する耐炎化繊維ストランドを不活性ガスの雰囲気下で炭素化する炭素繊維焼成炉において、該炭素繊維焼成炉が
(A)該炭素繊維焼成炉のストランド入口端から炭素繊維焼成炉長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分、
(B)該ストランド導入部分(A)に続けて形成された、その天井高さがストランド走行方向に向けて一定の主体部分及び
(C)該炭素化主体部分(B)の天井に設けた排気ポート
とを有する炭素繊維焼成炉。
【請求項2】
炭素繊維焼成炉内を水平に且つ炭素繊維焼成炉の長さ方向に平行に走行する耐炎化繊維ストランドを不活性ガスの雰囲気下で炭素化する炭素繊維焼成炉において、該炭素繊維焼成炉が
(A)該炭素繊維焼成炉のストランド入口端から炭素繊維焼成炉長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸増するストランド導入部分、
(B)該ストランド導入部分(A)に続けて形成された、その天井高さがストランド走行方向に向けて一定の主体部分、
(C)該炭素化主体部分(B)の天井に設けた排気ポート及び
(D)前記主体部分(B)に続けて形成され、主体部分後端からストランド出口端にかけて形成された、炭素繊維焼成炉全長さの1/50以上の長さで天井高さがストランド走行方向に向けて漸減するストランド取出部分
とを有する炭素繊維焼成炉。
【請求項3】
ストランド導入部分(A)の下方に不活性ガス導入部分(E)を設けた請求項1又は2に記載の炭素繊維焼成炉。
【請求項4】
排気ポート(C)を炭素化主体部分(B)のストランド出口側端部の天井に設けた請求項1又は2に記載の炭素繊維焼成炉。
【請求項5】
ストランド導入部分(A)の天井高さの漸増が直線的である請求項1又は2に記載の炭素繊維焼成炉。
【請求項6】
ストランド取出部分(D)の天井高さの漸減が直線的である請求項2に記載の炭素繊維焼成炉。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate