説明

炭素繊維織物の製造方法

【課題】通常では織機を通過することが不能な太い繊度の炭素繊維糸条からなるたて糸による従来の通常の織機によって製織が可能であり、また仮に織物目付が大きくてもドレープ性、マトリックス樹脂の含浸性に優れ、安価で高い強度特性を発揮し、織物目付等の設計の自由度の高い炭素繊維織物の製造方法を提供する。
【解決手段】多数本の炭素繊維糸条1 を、1本ずつたて糸供給装置の綜絖5 及び筬6 を含む各糸条通過部材に通し、隣接する2以上の綜絖を1組として、複数の組を織物組織に従って昇降させ、2以上の炭素繊維糸条1 を合糸状態のたて合糸9 として用い、熱溶着性樹脂を含む糸をよこ糸8として用い製織する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックの強化用繊維基材である炭素繊維織物の製造方法に関する。
【従来技術】
【0002】
炭素繊維は比弾性率や比強度等の機械的性質に優れることから、織物、織物プリプレグや一方向プリプレグ等の中間材料に加工され、これらは積層されて、マトリックス樹脂が含浸した炭素繊維強化プラスチックからなる多様な複合成形体となり、或いはコンクリート構造物の補修、補強用材料として使用されている。
【0003】
こうした用途に供されるために積層作業の工程数を減らそうとして、繊度の高い炭素繊維糸条で目付の大きい織物を作ろうとすると、たて糸に対するよこ糸の交錯による拘束が強くなり、織物のドレープ性(柔らかさ)やマトリックス樹脂の含浸が乏しくなり、ボイドが多く含まれるようになるため、用途に応じた機能が発揮されなくなる。この機能を確保するには、例えばたて糸となる炭素繊維糸条の構成フィラメント数や、その糸条繊度、織物の通気度、目付などを的確なものとしなければならない。
【0004】
コンクリート構造物の補修・補強の施工性及び樹脂含浸性に優れ、ボイドが残りにくい炭素繊維織物が、例えば特開平10−102792号公報(特許文献1)により提案されている。同特許文献1の実施例によれば、たて糸としてフィラメント数が12,000本の炭素繊維糸条を使い、よこ糸として断面が0.009m2 のガラス繊維を織り密度5本/cmで織り込み、目付が306g/m2 、通気量45cc/cm2 /secの、経方向に炭素繊維糸条を多数本並行に配列した一方向性の炭素繊維織物を開示している。前記よこ糸には共重合ナイロンを線状に2.7g/m2 付着させて、たて糸とよこ糸との交錯部で接着させている。このときのたて糸の織り密度に関しては格別に記載されていないが、このたて糸の織り密度を選定することにより上記目付を得るものと推察できる。
【0005】
また、例えば特開2002−138344号公報(特許文献2)には、織物目付が大きくてもドレープ性、マトリックス樹脂含浸性に優れ、安価で高い強度特性を発揮し、縦糸の仕様や織物目付等の設計の自由度の大きな一方向性炭素繊維織物の製造方法が記載されている。その実施例1と2によれば、開繊した12,000本と24,000本の炭素繊維からなる撚りのないたて糸をそれぞれに4本使い、目板の各目孔に1本ずつ通したのち、同じく1本ずつ綜絖を通して、隣接するたて糸2本を1組として同じ筬羽間を通して合糸し、綜絖を昇降させることにより隣接する各組ごとの2本のたて合糸を互い違いとなるよう昇降させて、隣接するたて合糸間に形成される開口によこ糸を挿入して、一方向性炭素繊維織物を製造している。織物を製織したのち、加熱加圧装置に通してたて合糸を扁平にしかつよこ糸に含まれる熱可塑性樹脂を溶融して、よこ糸とたて合糸とを固着する。得られた第1実施例による織物は、合糸密度2.5本/cm、よこ糸密度1.25本/cm、織物目付400g/m2 であり、第2実施例では合糸密度1.8本/cm、よこ糸密度1本/cm、織物目付600g/m2 とされている。
【特許文献1】特開平10−102792号公報
【特許文献2】特開2002−138344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで注目すべきは、上記特許文献1の実施例及び特許文献2の第1実施例に開示された一方向性炭素繊維織物は、双方ともに1本のたて糸の構成フィラメント数が同じ12000本であるにも関わらず、得られた織物の目付は特許文献1では306g/m2 であるのに対して、特許文献2では目付400g/m2 であって、略1.3倍も目付が大きくなっている。特許文献2には、得られた一方向性炭素繊維織物の通気度に関する記載はないものの、特許文献1と同様にコンクリートの補強シートとしての機能を十分に発揮することが記載されていることから、目付が大きいにも関わらず必要とする通気度は確保されているものと思われる。
【0007】
これは、特許文献1による炭素繊維織物のたて糸が12,000本のフィラメントからなるのに対して、特許文献2による炭素繊維織物のたて糸は、12,000本のフィラメントを合糸した結果として2倍の24,000本のフィラメントから構成されることになるにも関わらず、よこ糸との交錯部間におけるよこ糸によるたて合糸への拘束力が弱まり、フィラメント間の動きにある程度の自由度が与えられ、十分な開繊がなされて偏平化することを可能にすることにより、大きな目付を得ると同時に所要の通気度が確保されることによる。一方で、特許文献1に記載された一方向性炭素繊維織物の目付は、たて糸の繊度や構成フィラメント数、通気度などを勘案しても、せいぜい400g/m2 が上限であるとされている。
【0008】
ところで、上述のような一方向性炭素繊維織物の製織に適用される従来の織機にあっては、目板の目孔の大きさ、綜絖のメールの大きさ、筬羽間の筬目の大きさは、それぞれ15,000本、好ましくは12,000本以下の炭素繊維フィラメントが通過するに支障を来さないように製作されている。すなわち、従来の織機の各構成部材は、たて糸1本当たり12,000本以下のフィラメント数が通過することを予定して作られてきており、フィラメント数が12,000本を越えると特別仕様として目板の目孔の大きさ、綜絖のメールの大きさ、筬目の大きさなどを改めて設計する必要があった。
【0009】
従って、上記特許文献1の実施例であれば通常の織機を使って上述のような一方向性炭素繊維織物を織成することも可能ではあるが、特許文献2の第1実施例では特許文献1と同じ12,000本のフィラメントから構成されるたて糸を使い、その2本のたて糸を合糸して24,000本のフィラメントからなるたて合糸とした上て筬羽間の筬目を通している。この場合、筬羽が従来と同じ仕様の筬羽であれば、たて合糸が太すぎて各フィラメント間で擦れ合い、或いは筬羽に摺接し擦られ、フィラメント切れが多発し、多数の毛羽立ちが生じて、工程安定性を確保することは難しくなるし、高品質の織物が得にくくなる。
【0010】
本発明は、こうした課題を解消して、たて糸が高繊度の炭素繊維糸条であっても、炭素繊維強化プラスチックの強化基材として、織物目付が大きく、ドレープ性、マトリックス樹脂の含浸性に優れ、かつ、安価で高い強度特性を発揮し得る高品質の炭素繊維織物を経済的に安定して製造できる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的は、本発明の基本構成である、多数本の炭素繊維からなる撚りのない炭素繊維糸をたて糸として用い、熱溶着性樹脂を含む糸をよこ糸として用いて炭素繊維織物を製造する方法であって、複数本の前記炭素繊維糸を各々開繊し、これら開繊した各炭素繊維糸を目板の各目孔、各綜絖、及び各筬羽間の筬目に順次通すこと、隣り合う2以上の綜絖を1組として各組ごとに上下動させ、前記筬と織前との間で隣り合う2以上の炭素繊維糸を合糸状態として開口させること、及び前記開口に前記よこ糸を挿入したのち筬打ちを行い、2以上の撚りのないたて合糸による前駆織物を製織することを含んでなる炭素繊維織物の製造方法により達成される。
【0012】
また好ましい態様によれば、前記製織後、前記よこ糸に含まれる熱溶着性樹脂を溶融させてよこ糸とたて合糸とを交錯部にて固着する。また、前記たて糸は60,00〜15,000本の単糸からなることが望ましい。更に、前記よこ糸は有機繊維からなることが好ましく、前記前駆織物の目付を600〜1,000g/cm2 と従来よりも大きく設定することが可能である。
【発明の作用効果】
【0013】
本発明の基本構成によれば、多数本の炭素繊維からなる撚りのない炭素繊維糸をたて糸として、それぞれ開繊した状態でボビンから引き出し、通常の製織時と同様に、その1本ずつを目板の各目孔、各綜絖、及び筬の各筬羽間に通して織前へと導いている。ここで本発明にあっては、合糸しようとする前記たて糸の本数に見合った数の隣接する複数本の綜絖を1組として、各組ごとの複数本の綜絖に対する上下動作を一致させる。しかも、隣接する組の綜絖についての上下動作を逆にする。すなわち、隣接する組の複数の綜絖を、例えば一方の組の綜絖を上動させるときは、他方の組の綜絖を下動させる。これにより、隣接する組ごとのたて合糸間で開口が形成され、その開口によこ糸が挿入されたのち筬打ちがなされる。その結果、複数本のたて糸が合糸された状態で織製がなされる。この製織後、通常は例えば加熱押圧ロールにより織物を押圧偏平化するとともに、たて合糸とよこ糸との交錯部にてよこ糸に含まれる熱溶着性樹脂を溶融させてたて合糸とよこ糸とを固着させる。
【0014】
前記織製時、単糸である各たて糸は通常の仕様の目孔、綜絖のメール、筬羽間の筬目を通されることになるため、たて糸を構成する多数本のフィラメントは目孔やメール、筬羽での摺接によるフィラメント切れが殆ど発生しない。しかも、よこ糸は合糸状態にある複数本のたて糸を跨いで交錯するため、よこ糸のクリンプも小さくなり、その交錯部間には複数本のたて糸が合糸状態で並列して配されているため、よこ糸による拘束が少なくなり、各たて糸の構成フィラメント間にある程度の自由な動きが許されており、フィラメント間にも間隙が形成しやすくなる。その結果、織り上がった一方向性炭素繊維織物(前駆織物)には毛羽立ちが殆どなく、しかも目付は合糸のたて糸本数を選定することにより、例えば600〜1,000g/m2 の範囲において任意に決めることができるばかりでなく、その目付の大きさに関わらず有効な通気度が得られる。
【0015】
前記たて糸は通常織機にて安定して織製が可能である6,000〜15,000本の単糸であることが望ましく、本発明にあっては筬打ち時に初めて合糸されるため、筬打ち前の工程では構成フィラメントを傷めることがなく、合糸となったときの構成フィラメント数は炭素繊維糸のフィラメント数の合糸本数倍、例えば40,000本、あるいはそれ以上の本数を任意に決めることが可能である。更に、前記よこ糸が有機繊維である場合には、以降に炭化工程を通す場合に、容易に炭化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
ここで、本明細書における「一方向性炭素繊維織物」とは、例えばたて方向に配列した糸が炭素繊維糸からなり、よこ方向に配列した糸がたて方向に配列した炭素繊維糸の形状を保持するための繊維糸からなる織物を意味する。よこ糸は補助糸とも呼ばれ、たて糸がほぐれないようにするものであればいずれの繊維からなってもよい。一方向性炭素繊維織物においては、たて糸はよこ糸よりも密に配置されており、すなわちたて糸の織り密度はよこ糸の織り密度よりも小さく、よこ糸の繊度はたて糸の繊度より小さい。しかるに、本発明の炭素繊維織物は一方向性炭素繊維織物に限定されるものではなく、通常の織物と同様にたて糸及びよこ糸の繊度(太さ)、織り密度、織り組織などを適宜に決めることができる。また、よこ糸の材質は必ずしも有機繊維である必要はなく、例えばガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維なども適宜採用できる。
【0017】
本発明で使用するたて糸を構成する炭素繊維糸条のトータル繊度は、3960〜9900dtexであり、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維等を使用できる。本発明で用いる好ましいたて糸は、炭素繊維フィラメントを6,000〜15,000本並行に配列したトウ状の糸条であり、引張強度が好ましくは3〜5GPa、より好ましくは2〜4GPa、引張弾性率が好ましくは100〜1,000GPa、より好ましくは200〜500GPaである。たて糸は、製織後にも撚りが発生しないようにするため実質的に無撚りである。
【0018】
本発明で言うたて合糸は、通常2〜5本の無撚りのたて糸となる炭素繊維糸条を合糸して得られ、得られた合糸の繊度は7920〜19800dtexであることが好ましい。
本発明にあっては、ボビンごとに引き出される炭素繊維糸条が筬を通り終わるまでは独立している点に特徴があり、筬羽の筬目を通ったのち隣接する任意の本数の炭素繊維糸条が合糸状態とされた組間でよこ糸が挿入される開口を形成する。一本のたて合糸の構成糸条である複数の炭素繊維糸条は、通常サイジング剤によって形状が保持される。この合糸をサイジング剤の融点以上の温度に加熱すると、各糸を構成する繊維がほぐれて隣接する他の糸との境界がなくなり、これを冷却すると一本の糸が形成される。通常、たて糸に付与されるサイジング剤は0.5〜2.5質量%程度であり、硬化剤を含有しないエポキシ樹脂系のサイジング剤が多く使われている。
【0019】
サイジング剤が0.5質量%より少ないと、製織工程においてたて糸の毛羽立ちが多くなり、同時に製織後のたて糸の扁平形状を維持することが困難になる。一方、2.5質量%を越えると、織物へのマトリックス樹脂の含浸が阻害され、或いは成形体の物性を低下させることがあるので好ましくない。
【0020】
よこ糸となる補助糸は、たて糸をほぐれないようにできるものであればいずれの繊維から構成されてもよい。よこ糸の繊度はたて合糸のトータル繊度より小さく、220〜660dtexの範囲にあることが好ましい。よこ糸の繊維としては無機繊維、有機繊維のいずれも使用でき、具体的にはガラス繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、絹糸、アクリル繊維、ビニロン繊維、綿糸、麻糸が使用できるが、よこ糸は熱ロール等の加熱加圧装置を通したときに熱収縮しない材質であることが好ましく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維が好ましく使用される。よこ糸のピッチは通常0.5〜1cmである。
【0021】
たて合糸とよこ糸とを固着するには、たて合糸に熱溶着性樹脂を含ませてもよいし、よこ糸に熱溶着性樹脂を含むませてもよく、或いはその両方が熱溶着性樹脂を含むようにしてもよいが、好ましくはよこ糸に熱溶着性樹脂を含ませて、たて合糸との交錯部でよこ糸と溶着させるとよい。熱溶着性樹脂の含ませ方は問わないが、例えばよこ糸に熱溶着性樹脂を含浸させる、若しくは被覆する又はよこ糸に粉末状の熱溶着性樹脂を付着させる、或いはよこ糸に熱溶着性樹脂繊維を混繊する、絡ませる若しくは平行に沿わせる等の多様な手段が採用できる。熱溶着性樹脂の含有量は、よこ糸と樹脂との総量の20〜33質量%であることが好ましい。よこ糸に含ませる熱溶着性樹脂は、その融点はよこ糸の融点以下であり、例えば、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂などが使用できる。
【0022】
本発明の一方向性炭素繊維織物の製造方法では、たて糸である炭素繊維糸条を織前にて任意の本数ずつ合糸される撚りのないたて合糸を複数本形成する。任意の本数の炭素繊維糸条を合糸するので、得られるたて糸の繊度、幅、ピッチ/幅比、織物の目付等の設定が容易であり、織物の設計の自由度が高い。
【0023】
図1は、本発明の炭素繊維織物の製造方法が適用される従来のレピア織機の概略構成を示している。この織機は、クリール上に架けられた図示せぬ多数のボビンに、それぞれ炭素繊維糸条1が巻かれている。炭素繊維糸条1は各ボビンからは引出しロール2により積極的に引き出されて、テンション調整装置3を介して目板4に形成された多数の目孔に1本ずつ通される。目孔を通った各炭素繊維糸条1は前方に配された多数の綜絖5の各メール5aに1本ずつ通され、続く筬6の筬羽間の筬目に同じく1本ずつ挿通されたのち織前7へと導かれる。
【0024】
筬6は、多数の筬羽が矩形フレームに上下方向に並列固定されて構成される。図2に示す例では、6本の炭素繊維糸条1を所定の密度に配列させ、7枚の筬羽間の各筬目6aに、それぞれ1本ずつ通して織前7へと案内している。このときの炭素繊維糸条1の本数は6本に限定されるものではなく、6本以上であって6の倍数本を並列して配することができる。また合糸9の本数も3本とは限らず、2本であっても5本であっても、或いはそれ以上であってもよい。しかし、作業の煩雑性や生産効率を勘案すると、単一糸条である炭素繊維糸条の構成フィラメント数及びトータル繊維の繊度に応じて2〜5本を合糸するのが好ましい。本実施形態にあって、筬6の筬目6aに1本ずつ通された6本の炭素繊維糸条1のうち隣接する3本の炭素繊維糸条1の組と、この組に隣接する3本の炭素繊維糸条1の組とが、それぞれ前記綜絖4の逆方向の上下動により、一方の組の3本の炭素繊維糸条1が引き揃えられてよこ糸8の上方に位置し、他方の組の3本の炭素繊維糸条1が引き揃えられた状態でよこ糸8の下方に位置し、その状態で筬打ちがなされて織前を形成する。すなわち、前記筬目を通ったのち初めて隣接する3本2組の炭素繊維糸条1がそれぞれ合糸状態となって単一のたて合糸9を構成して、炭素繊維織物が製造される。
【0025】
従来の織機にあって、織機のたて糸供給装置が12,000本の炭素繊維糸条を円滑に通過させることができると仮定する。本発明にあっては、この従来の織機に12,000本の炭素繊維糸条からなるたて糸を使って、その2本を上述のように合糸することにより24,000本のたて合糸が得られることになる。また仮に、8,000本の炭素繊維糸条を4本合糸すれば32,000本のたて合糸が得られる。このような多数のフィラメントからなるたて糸では、通常の織機を通すことは難しいが、本発明によれば従来の通常の織機を使って、所望のフィラメント数のたて糸による高品質の炭素繊維織物が安定して製造できるようになる。
【0026】
ここで、本発明にあっては綜絖5の駆動を制御する点に大きな特徴点を有している。すなわち多数の綜絖5にあって、例えば図2に示すように、3本の隣接する綜絖5を1組として、それぞれに隣接する複数の綜絖5が、織物組織に基づいて、例えば平織組織に基づき隣接する2組の綜絖のうち1組の3本の綜絖5を上昇させると同時に、他の隣接する1組の3本の綜絖5を下降させる。この動作により、綜絖5と織前7との間の3本ずつ2組の炭素繊維糸条1間に、よこ糸8が挿入される開口(杼道)が形成される。次いで、上昇している3本の綜絖5を下降させると同時に、下降している他の3本の綜絖5を上昇させることにより、先に挿入されたよこ糸8が、3本の炭素繊維糸条1を合糸して得られる各たて合糸9間の開口に織り込まれることになる。これが繰り返されることによって、所望の特性をもつ高品質な炭素繊維織物が得られる。このとき合糸する炭素繊維糸条1の本数は任意に決めることが可能ではあるが、炭素繊維糸条1の繊度や織物目付などから2〜5本とすることが合理的である。
【0027】
本発明の製造方法においては、たて合糸と熱溶着性樹脂を含むよこ糸とを製織した後に熱ロール等の加熱加圧装置を通過させて両糸を固着する。その加熱温度は、熱溶着性樹脂が溶融する温度でなければならず、かつ、たて合糸にサイジング剤が含まれる場合には、サイジング剤の粘度が低下して合糸した炭素繊維糸条同士が一体になりたて合糸が容易に扁平な形状になるような温度であることが好ましく、通常90〜120℃、好ましくは100〜110℃である。
【0028】
更に、たて合糸9がよこ糸8と製織された後、加熱加圧装置を通過して撚りのない扁平となったときのたて合糸は、幅が3.5〜9.0mm、厚みが0.6〜1.0mmであることが好ましい。
【0029】
本発明の炭素繊維織物は、たて合糸同士のピッチのたて合糸幅に対する比が1.0〜1.1、織物目付が600〜1000g/m2 、繊維密度が1.0〜1.3g/cm3 、織物厚さが0.6〜1.0mmの範囲であることが好ましい。ここで、織物の繊維密度とは、次式で定義される値をいう。
織物の繊維密度(g/cm3 )=[織物目付(g/m2 )]/[織物厚さ(mm)]
なお、織物目付(g/m2 )及び織物厚さ(mm)は、JIS R 7602に準拠して測定する値である。本発明の好ましい形態の一方向性炭素繊維織物は、たて合糸ピッチがたて合糸幅とほぼ同じであるので、織物の繊維密度は大きく、通常の一方向性炭素繊維織物の繊維密度が0.8g/cm3 であるのに対し、1.0〜1.3g/cm3 とすることができる。
【0030】
繊維密度が上記範囲内の織物を用いれば、ハンドレイアップ成形法や真空バッグ成形法等の簡易成形法であっても、繊維体積含有率の大きな、すなわち機械的特性に優れたCFRPを成形することができる。
【0031】
本発明の一方向性炭素繊維織物は、たて糸である複数の炭素繊維糸条条からなるたて合糸と、よこ糸とが交錯した織物で、織り組織は綾組織や繻子組織等特に限定はない。しかし、通常の織物に比べ本発明の織物はよこ糸間の間隔が大きく、目ずれしやすいので、形態安定性の点から平織組織が好ましい。
【0032】
また、本発明の一方向性炭素繊維織物は、扁平なたて糸を任意の密度で製織することが可能であり、織糸特によこ糸のクリンプが小さいので、よこ糸によるたて合糸の拘束力を小さくできる。すなわち、本発明の織物は、たて合糸の幅を合糸するたて糸である炭素繊維糸条条の本数を任意に決めて織製することが可能であるため、織物を剪断変形させたときにたて合糸の幅並びに間隔を狭めながら皺を発生させることなく大きく変形させることができる。また本発明では、たて糸(たて合糸)の繊度を大きく且つ通気度を適正な値に設計だきるため、マトリックス樹脂が容易に含浸し、ボイドのない繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0033】
本発明の一方向性炭素繊維織物には、公知の方法によりマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造することもできる。本発明において使用することができるマトリックス樹脂としては、熱溶着性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられ、熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等がある。
【0034】
マトリックスとして使用できる熱溶着性樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。なお、本発明の織物に占める熱硬化性樹脂又は熱溶着性樹脂の量は、プリプレグの質量基準で好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の一方向性炭素繊維織物の製造方法の代表的な実施例を図面参照しながら具体的に説明するが、本発明は図示例に限るものではない。
本実施例による炭素繊維織物は図1に示す織機を使って製造する。織機は通常のレピア織機であり、たて糸供給装置として、多数のボビンを備えたクリール、目板、テンションガイド、綜絖及び筬を備えている。本実施例では、1本のたて合糸を構成する炭素繊維糸条を2本とし、クリールには2の倍数個のボビンが設けられている。
【0036】
まず、よこ糸供給装置について説明すると、ボビンには、440dtexの炭素繊維糸からなるよこ糸が巻回されており、該よこ糸にはたて糸に溶着するため共重合ナイロン糸が20質量%添設されている。このよこ糸は図示せぬガイドローラを経て、同じく図示せぬ引取りローラの回転により一定速度で開繊される。引取りローラにより引き出されたよこ糸は、図示せぬテンション調整装置のガイドを経てレピアに導かれ、たて合糸の開口に挿入される。
【0037】
たて糸供給装置は図1に示し既述した構成を備えている。その構成もまた、従来のレピア織機と実質的に変わるところがない。たて糸となる炭素繊維糸条は、実質的に無撚りで、引張強度が約5000MPa、引張弾性率が242GPa、引張破断伸度が2.0%で、エポキシ系サイジング剤が1.06質量%付着した炭素繊維糸条(三菱レイヨン株式会社製パイロフィル15K(炭素繊維の数15,000本、繊度9,900dtex))であり、4つのボビン2に1本ずつ巻かれている。
【0038】
よこ糸として共重合ナイロンからなる糸条20質量%を繊維方向に沿わせてたて糸と
同一材質からなる炭素繊維フィラメント15000本(トータル繊度9900dtex)の炭素繊維糸条を用いた。製織にあたって、クリール上の多数のボビンからたて糸となる炭素繊維糸条を実質的に無撚りの状態で引き出し、1本ごとに目板の目孔、綜絖のメール、筬羽間の筬目へとそれぞれ1本ずつ通して、隣接する2本の炭素繊維糸条が合糸を作るように、各綜絖の上下駆動を平織組織に基づいて制御し、2本の合糸をたて糸とする目付が600g/m2 である平織の炭素繊維織物を製織した。
【0039】
この一方向性炭素繊維織物を製織した後、ロール温度120℃の加熱ロールをもって押圧加熱して織物の構成糸条を偏平化するとともに、前記ナイロン糸条を溶融してたて糸とよこ糸との交錯部を溶着一体化した。このとき、経糸についてはヘルドの上下運動やメール、筬の擦過に対し、充分に耐えられるだけの集束性を有しており、製織時に毛羽や粉塵の発生などもなく製織性は良好で、且つ水分も充分に除去されていた。
【0040】
得られた織物は、たて合糸密度が3.15本/cm、よこ糸密度1.96本/cm、たて合糸の幅3.5mm、織物の開口率3.3%、織物厚さ0.6mm、通気度5.8cc/mm2 /secであった。
【0041】
この織物に常温硬化性エポキシ樹脂を含浸、硬化させてCFRP板を作製した。このとき樹脂は十分に含浸していた。得られたCFRP板は引張強度2610MPaであり、機械的性能に優れていた。
【比較例】
【0042】
上記実施例で用いた撚りのない炭素繊維糸条からなるたて糸を合糸せずにそのまま用いて、織物目付が実施例1と同じ600g/m2 となるようたて糸密度を6.7本/cm、かつよこ糸密度1.96本/cm、たて糸の幅1.9mmとした以外は、実施例と同様
に撚りのないたて糸からなる平織組織の一方向性炭素繊維織物を製造した。この織物は、たて糸及びよこ糸の織糸ピッチが小さいために扁平なたて糸とならず、表面が波打ち不
均一であった。また、その織物の開口率0.8%、織物厚さ0.61mm、通気度1.9cc/mm2 /secであった。
この織物を使用して、実施例と同様にしCFRP板を作製した。織物に対する樹脂の含浸性は良好でなく、ボイドが多く品質的に満足のいくものとはならなかった。
【0043】
以上の実施例と比較例との説明からも明らかなように、本発明に係る炭酸繊維織物の製造方法によれば、従来の織機では製織工程における円滑な通過が不可能なフィラメント数が極めて多く太い繊度の炭素繊維糸条をたて糸としているにも関わらず、従来の通常の織機を使って安定した製織を可能にする。その結果、得られる炭素繊維織物の目付も任意に決めることができる。しかも、仮に高目付の織物であっても樹脂含浸性は良好であり、且つ柔軟性に富んだものとなる。また、たて糸となる2本以上の上記炭素繊維糸条を合糸状態で1本のたて糸として製織するため、たて糸を跨いで交差するよこ糸のクリンプが小さく、よこ糸によるたて糸の拘束がなくなり開繊が容易となり、製織時にも繊維束が拡幅され織物厚みが薄い薄物が得やすい。更に、従来では15,000本以上の高繊度のたて糸を使うと設定目付けによっては隣接繊維間に目開きが生じるが、本発明によれば、そのような不具合も生ぜず、隣接繊維が均質に分散される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明が適用可能な従来の織機のたて糸供給装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明に係る炭素繊維織物製造時のたて糸供給機構の一例を部分的に拡大して示す、扁平な炭素繊維糸条を3本ずつ合糸したたて合糸による製織状態説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 炭素繊維糸条
2 引出しロール
3 テンション調整装置
4 目板
5 綜絖
5a メール
6 筬
6a 筬目
7 織前
8 よこ糸
9 合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の炭素繊維からなる撚りのない炭素繊維糸をたて糸として用い、熱溶着性樹脂を含む糸をよこ糸として用いて炭素繊維織物を製造する方法であって、
複数本の前記炭素繊維糸を各々開繊し、これら開繊した各炭素繊維糸を目板の各目孔、各綜絖、及び各筬羽間の筬目に順次通すこと、
2以上の綜絖を1組として各組ごとに織物組織に基づく動きをするように上下動させ、前記筬と織前との間に2以上の炭素繊維糸を合糸状態として開口を形成すること、及び
前記開口に前記よこ糸を挿入したのち筬打ちを行い、2以上の撚りのないたて合糸による炭素繊維織物を製織すること、を含んでなる炭素繊維織物の製造方法。
【請求項2】
前記製織後、前記よこ糸に含まれる熱溶着性樹脂を溶融させてよこ糸とたて合糸とを交錯部にて固着する請求項1記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項3】
前記たて糸が6,000〜15,000本の単糸からなる請求項1又は2に記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項4】
前記よこ糸が炭素繊維からなる請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項5】
前記前駆織物の目付が600〜1,000g/cm2 である請求項1〜4のいずれかに記載の一方向性炭素繊維織物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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