説明

炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置

【課題】炭素化炉内への外気の混入を防ぎ、炭素化炉内ガスの流出を防ぎ、繊維束に与えられるダメージを抑え、シール装置内、炭素化炉内のメンテナンス性が良好な炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置を提供する。
【解決手段】閉塞箱体の前後壁部に繊維束入口および繊維束出口が形成され、繊維束入口と繊維束出口とを連結する空間内に繊維束が通され、空間を形成する繊維束とそれぞれ対向する一対の内壁面には、繊維束の走行方向と直交する方向に間隙をもって複数の絞り片が突設され、絞り片間に膨張室が形成されたラビリンスシール装置であって、炭素繊維製造用炭素化炉の繊維束導入口及び/又は繊維束導出口に接続され、一対の内壁面には、溝形の断面を有する耐熱部材が繊維束の走行方向に対して垂直方向に複数並べて配置されることで絞り片及び膨張室が形成されている炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の製造において、炭素化炉内の不活性雰囲気を維持するために炭素化炉の繊維束導入口又は繊維束導出口に配置されるシール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維はポリアクリロニトリル系やレーヨン系等の有機繊維を酸化性雰囲気中において200℃以上で耐炎化処理して耐炎化繊維とした後、該耐炎化繊維を不活性雰囲気中において300℃以上で炭素化処理することによって得られる。前記炭素化処理において、炭素化炉内が外気の混入等により酸化性雰囲気になると炭素繊維の性能や品質が低下する。そのため、炭素化炉内の不活性雰囲気を維持すべく、通常、炭素化炉の繊維束導入口及び繊維束導出口には、外気の混入を防ぎ、且つ炭素化炉内のガスの流出を防ぐため、シール装置が備えられている。
【0003】
例えば特許文献1には、ハニカム材で構成された多数のセルを設けたシール室を用いて、幅方向へのラビリンス効果と軽量化とを達成したシール装置が開示されている。また、特許文献2には、雰囲気ガス流の乱れによる耐炎化繊維に与えるダメージを極力抑えることができるシール装置が開示されている。特許文献3、4には、繊維束の走行方向と直交する方向に複数の絞り片が突設され、該絞り片間に膨張室が形成され、該膨張室に繊維束に対し面状に不活性気体を吐出できる気体吐出部が備えられているシール装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−97461号公報
【特許文献2】特開昭62−243831号公報
【特許文献3】特開2001−98428号公報
【特許文献4】特開2010−7209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されたシール装置では、シール室が複雑な構造であり、シール機構や炭素化炉内の掃除を含めたメンテナンスが困難な問題があった。さらに、特許文献3、4に開示されたシール装置においても、繊維束に与えられるダメージの抑制、メンテナンス性が不十分であり、更なる改善が望まれている。
【0006】
本発明では、炭素化炉内への外気の混入を防ぎ、且つ炭素化炉内ガスの流出を防ぐことができ、繊維束に与えられるダメージを極力抑え、シール装置内、炭素化炉内の掃除等のメンテナンス性が良好な、炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置は、閉塞箱体の前後壁部に繊維束入口および繊維束出口が形成され、前記繊維束入口と前記繊維束出口とを連結する空間内に繊維束が通され、前記空間を形成する前記繊維束とそれぞれ対向する一対の内壁面には、該繊維束の走行方向と直交する方向に、間隙をもって複数の絞り片が突設され、前記絞り片間に膨張室が形成されたラビリンスシール装置であって、炭素繊維製造用炭素化炉の繊維束導入口および/又は繊維束導出口に接続され、前記一対の内壁面には、溝形の断面を有する耐熱部材が前記繊維束の走行方向に対して垂直方向に複数並べて配置されることで前記絞り片および前記膨張室が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素化炉内への外気の混入を防ぎ、且つ炭素化炉内ガスの流出を防ぐことができ、繊維束に与えられるダメージを極力抑え、シール装置内、炭素化炉内の掃除等のメンテナンス性が良好な、炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るシール装置と炭素化炉の一例の垂直方向断面を示した概略図である。
【図2】図1の繊維束1からシール装置を見た場合の概略平面図である。
【図3】本発明に係るシール装置と炭素化炉の一例の垂直方向断面を示した概略図である。
【図4】本発明に係るシール装置と炭素化炉の一例の垂直方向断面を示した概略図である。
【図5】図4の繊維束1からシール装置を見た場合の概略平面図である。
【図6】従来のシール装置と炭素化炉の一例の垂直方向断面を示した概略図である。
【図7】図6の繊維束1からシール装置を見た場合の概略平面図である。
【図8】実施例1で用いた耐熱部材の断面図である。
【図9】実施例5で用いた耐熱部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明に係るシール装置と炭素化炉の一例の垂直方向断面を示した概略図である。図2は、図1の繊維束1からシール装置を見た場合の概略平面図である。
【0011】
(シール装置)
ラビリンスシール装置は、一般的に流体の漏れを減少させることを目的とした接触部分のない装置と定義される。ラビリンスシール技術は非接触シール技術として、蒸気タービンや圧縮機の軸シール技術として広く用いられる。ラビリンスシール装置の原理は、流路中に絞り片と呼ばれる間隙(膨張室)を作るための障害物を複数設け、流体の縮小と拡大および渦流を発生させることでエネルギー消費、圧力損失を増大させ、流体の漏れ量を減少させるものである。なお、絞り片の形状について特に制限はないが、絞り片の高さ、厚みおよび設置間隔によってシール性能に影響を及ぼすので適宜設定する必要がある。なお、絞り片の材質としては、絞り片の熱変形を抑制し、寸法安定性を確保するため、黒鉛材又はチタン材からなることが好ましい。
【0012】
図1において、繊維束1は、炭素化炉9の繊維束導入口側に接続されたシール装置のシール装置上部2Aとシール装置下部2Bとの間隙を通過して、炭素化炉内10に導入される。繊維束1には耐炎化繊維束を用いることができる。耐炎化繊維としては例えば前記耐炎化繊維を用いることができ、繊維束一本あたりの総繊度は300から10000テックスが好ましい。また、耐炎化繊維束の繊維束数は炭素化炉幅1mあたり30から500本が好ましい。繊維束1は炭素化炉内10を通過することで炭素化処理され、炭素繊維束に転換される。その後、炭素化炉9の繊維束導出口側に接続された図1同様のシール装置のシール装置上部とシール装置下部(いずれも不図示)との間隙を通過して外部へ導出される。なお、炭素化炉幅とは、炭素繊維製造用炭素化炉の繊維束導入口での幅方向の長さのことを指す。
【0013】
炭素化炉9の繊維束導入口および/又は繊維束導出口に接続されるシール装置は、対向する一対のシール装置上部2Aとシール装置下部2Bからなるラビリンスシール装置である。シール装置は閉塞箱体であり、前後壁部には繊維束入口と繊維束出口とが形成されている。繊維束入口と繊維束出口とを連結する空間は、シール装置上部2Aとシール装置下部2Bの間隙により形成され、該空間内に繊維束が通される。繊維束1とそれぞれ対向するシール装置上部2Aとシール装置下部2Bの各内壁面には、溝形の断面を有する耐熱部材3が繊維束1の走行方向に対して垂直方向(以下、シール装置幅方向と示す場合有り)に複数並べて配置されている。これにより、繊維束の走行方向と直交する方向に、間隙をもって複数の絞り片16が突設され、絞り片16の間に膨張室8が形成されている。なお、図1では、4つの耐熱部材3がシール装置上部2Aとシール装置下部2Bとにそれぞれ並べて配置されているが、並べる耐熱部材3の数は特に限定されず、例えば2から30個を並べて配置することができる。
【0014】
本発明に係るシール装置においては、このような構成であることにより、以下の効果を得ることができる。
1)シール装置を低コストで製作することができる。
2)炭素化炉内10への外気の混入を防ぎ、且つ炭素化炉内10のガスの流出を防ぐことができる。
3)繊維束1に与えるダメージを極力抑え、炭素繊維の強度及び品位を向上させることができる。
4)シール装置及び炭素化炉9のメンテナンスが容易となる。
5)炭素繊維の製造におけるユーティリティー費を低減することができ、製造コスト低減が可能となる。
【0015】
耐熱部材3の材質としては、耐熱部材3の熱変形を抑制し、寸法安定性を確保するため、黒鉛材又はチタン材からなることが好ましい。なお、耐熱部材3の大きさは、繊維束1が通過するシール装置の開口部の高さであるシール装置間隔D、繊維束1の厚み、炭素化処理時に発生する繊維束1の揺れ等に応じて適宜設定する必要がある。
【0016】
(止め具)
複数並べられた溝形の断面を有する耐熱部材3は、接着剤の使用、溶接等の公知の方法で互いに連結されていてもよい。しかしながら、耐熱部材3は、耐熱部材3交換の際の作業性を考慮して、止め具4によって互いに連結されていることが好ましい。
【0017】
(断熱材)
耐熱部材3同士が連結されている部分に、一定間隔の隙間を設けるか、該隙間に断熱材7を配置することが、シール装置の加熱による変形を抑制することができるため好ましい。図1では、各耐熱部材3はシール装置幅方向に4箇所、止め具4で互いに連結されており、連結部の隙間には断熱材7が配置されている。断熱材7の材質としては、アルミナシリカ、グラスウール等を用いることができる。なお、断熱材7は耐熱部材3と同じ材質を用いることもできるが、断熱材7の材質と比較して断熱性の高い、即ち熱伝導率が低く、耐熱性の高い材質を用いることが好ましい。
【0018】
(取り付け枠固定具)
耐熱部材3は、接着剤の使用、溶接等の公知の方法で取り付け枠上部6A又は取り付け枠下部6Bに取り付けられてもよい。しかしながら、耐熱部材3は、耐熱部材3交換の際の作業性を考慮して、取り付け枠固定具5によって取り付け枠上部6A又は取り付け枠下部6Bに取り付けられていることが好ましい。
【0019】
なお、図1には示されていないが、耐熱部材3の熱変形を抑制するため、取り付け枠固定具5の取り付け穴形状を長穴にすることが好ましい。例えば、シール装置幅方向中央部の取り付け枠固定具5は完全固定とし、その他の取り付け枠固定具5の取り付け穴を、取り付け枠固定具5がシール装置幅方向に動けるように長穴とすることにより、熱伸びによる変形を抑制できる。
【0020】
(不活性気体供給口)
炭素化炉内10への不活性気体の導入方法は特に限定されないが、例えば図1に示すように、炭素化炉9とシール装置との接続部に設けられた部屋に備えられた不活性気体供給口12から不活性気体を導入することができる。また、不図示の排気口から不活性気体を排出することができる。なお、不活性気体の種類としては特に限定されず、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができる。
【0021】
(シール装置の上下方向への移動)
図3は、本発明に係るシール装置と炭素化炉の他の一例の垂直方向断面を示した概略図である。
【0022】
図3に示すシール装置は、シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとにそれぞれ高さ調節機13A、13Bが設置されているため、シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとはそれぞれ独立して上下方向に移動することができる。これにより、導入する繊維束1の厚みや炭素化処理時に発生する繊維束1の揺れに応じて、シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとの間に形成される間隙の大きさ及び高さ方向の位置を任意に調整できる。この調整により、不活性気体の流出を抑制し、且つ繊維束1とシール装置との接触を回避し、繊維束1のダメージを最小限とすることができる。
【0023】
また、シール装置内部や炭素化炉9内部の清掃を行う際に、シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとを大きく上げ下げして間隙を大きくすることができるため、内部の清掃が容易となり、掃除頻度を低下させることが可能となる。
【0024】
(気体吐出部(多孔板))
図4は、本発明に係るシール装置と炭素化炉の他の一例の垂直方向断面を示した概略図である。図5は、図4の繊維束1からシール装置を見た場合の概略平面図である。
【0025】
図4に示すシール装置には、対向する2つの膨張室8に、気体が吐出される気体吐出部がそれぞれ設けられている。具体的には、図5に示すように対向する1段目の膨張室8に、不活性気体を導入する気体供給口12及び多孔板17が設けられている。多孔板17を通して、気体供給口12から導入された不活性気体を略垂直方向に面状に吐出することができる。
【0026】
図4に示すように、気体吐出部は膨張室8に設けられた多孔板17と気体供給口12とにより形成されることが好ましい。多孔板17が有する多数の気体吐出孔を介して不活性気体を吐出することにより、不活性気体を均一に面状に吐出させることができる。また、多孔板17を採用した機構は簡易でありメンテナンスもし易い。
【0027】
なお、多孔板17に限定されるものではなく、不活性気体を面状に吐出できれば他の形態も採用し得る。また、図4においては、対向する1段目の膨張室8にのみ気体吐出部を設けているが、炭素化炉9から数えて2段目以降の膨張室8に2段以上の気体吐出部を設けることもできる。更に、図4では1枚の多孔板17を採用しているが、多孔板17の枚数は1枚に限定されるものではなく、不活性気体を均一に面状に吐出できる限り、気体吐出孔の孔数や気体吐出速度に応じて2枚積層することもでき、或いは3枚以上を積層することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0029】
(実施例1)
図1に示すシール装置及び炭素化炉9を用い、以下の条件で耐炎化繊維束1の炭素化を行った。なお、シール装置間隙Dは10mmとした。
耐炎化繊維 : 総繊度1000テックスの耐炎化繊維
投入繊維束数 : 200本
炭素化炉9幅 : 1.3m
処理時間 : 1.5分
炭素化炉9内温度 : 1000℃
炭素化炉9内圧力 : 5Pa
不活性気体 : 窒素
不活性気体供給流量 : 200Nm3/時間
耐熱部材3 : 3T×40×20、ニチアス(株)製、溝形鋼、厚さ3mm、幅40mm、高さ20mm、装置幅方向長さ:1300mm、材質:チタン材
断熱材7 : 商品名:ファインフレックス1300ペーパー−3t、ニチアス(株)製、厚さ3mm、材質:アルミナシリカ。
【0030】
なお、耐炎化繊維は以下の方法により作製した。アクリロニトリル(AN)、メチルアクリレート(MA)、およびメタクリル酸(MAA)をモル比AN/MA/MAA=96/2/2で共重合させたポリアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミド(DMAc)溶液(ポリマー濃度20質量%、粘度50Pa・s、温度60℃)に溶解させて紡糸原液を調製した。該紡糸原液をホール数10000の紡糸口金を通して、濃度が70質量%、液温が35℃のDMAc水溶液中に吐出して水洗後、熱水浴中で3倍に延伸し、135℃で乾燥した。得られた糸条を240℃〜270℃の酸化雰囲気中で熱処理することにより、耐炎化繊維を作製した。
【0031】
図8に本実施例で用いた耐熱部材3の断面図を示す。各耐熱部材3は、断熱材7を介して互いに装置幅方向に、止め具4(ボルト・ナット、4箇所)で連結されている。また、各耐熱部材3は、取り付け枠上部6A又は取り付け枠下部6Bに、取り付け枠固定具5(12箇所)により固定されている。
【0032】
炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は63Nm3/時間であった。炭素化炉9内幅方向の風速斑は5%以内と小さく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に良好であった。なお、シール装置間隙からの吹出し風量はアネモマスターによるシール装置間隙からの平均吹出し風速と開口面積から算出した。また、炭素化炉9内幅方向の風速斑とはシール装置間隙からの平均吹出し風速との関係における振れ幅のことを示し、装置幅方向に均等に5点測定した吹出し風速より算出した。
【0033】
(実施例2)
図3に示すシール装置及び炭素化炉9を用い、シール装置間隙Dを8mmとし、耐炎化繊維束1とシール装置との接触が極力生じないように開口高さの位置を調整した以外は実施例1と同様の条件で耐炎化繊維束1の炭素化を行った。炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は50Nm3/時間であった。炭素化炉9内幅方向の風速斑は4%以内と小さく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に良好であった。
【0034】
(実施例3)
図4に示すシール装置及び炭素化炉9を用いた以外は実施例1と同様の条件で耐炎化繊維束1の炭素化を行った。なお、多孔板17にはφ3mmの孔をピッチ10mm、千鳥配列で加工したものを用いた。また、不活性気体供給流量は、2箇所の多孔板17から吐出される不活性気体の合計の流量を示し、各多孔板17から吐出される不活性気体の流量は、該不活性気体供給流量の半分の流量である。炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は92Nm3/時間であった。炭素化炉9内幅方向の風速斑は3%以内と小さく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に良好であった。
【0035】
(実施例4)
シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとに耐熱部材3をそれぞれ6個ずつ並べて連結し、シール装置間隙Dを15mmとした以外は実施例1と同様の条件で耐炎化繊維束1の炭素化を行った。炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は87Nm3/時間であった。炭素化炉9内幅方向の風速斑は5%以内と小さく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に良好であった。
【0036】
(実施例5)
シール装置上部2Aとシール装置下部2Bとに耐熱部材3をそれぞれ10個ずつ並べて連結した以外は、図1に示すシール装置と同様のシール装置及び炭素化炉9を用い、以下の条件で耐炎化繊維束1の炭素化を行った。なお、シール装置間隙Dは25mmとした。
耐炎化繊維 : 総繊度1000テックスの耐炎化繊維(実施例1と同様に作製)
投入繊維束数 : 300本
炭素化炉9幅 : 2.0m
処理時間 : 1.5分
炭素化炉9内温度 : 1000℃
炭素化炉9内圧力 : 5Pa
不活性気体 : 窒素
不活性気体供給流量 : 100Nm3/時間
耐熱部材3 : 厚さ10mm、幅150mm、高さ120mm、装置幅方向長さ:2000mm、材質:黒鉛材
断熱材7 : 商品名:ファインフレックス1300ペーパー−3t、ニチアス(株)製、厚さ3mm、材質:アルミナシリカ。
【0037】
図9に本実施例で用いた耐熱部材3の断面図を示す。耐熱部材3の連結、固定方法は実施例1と同様である。炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は40Nm3/時間であった。炭素化炉9内幅方向の風速斑は5%以内と小さく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に良好であった。
【0038】
(比較例1)
図6に示すシール装置及び炭素化炉9を用い、耐炎化繊維束1の炭素化を行った。図6に示すシール装置では、複数の耐熱部材3を用いる代わりに、4段に形成されている膨張室8及び絞り片16が実施例1と同等の寸法となるように、ステンレス製の鋼材が一体に加工された一体加工部材15を用いた。それ以外の条件は実施例1と同様とし、耐炎化繊維束1の炭素化を行った。炭素化処理において、シール装置間隙からの吹出し風量は120Nm3/時間であった。熱変形によりシール装置幅方向のシール装置間隔Dの斑が大きくなり、炭素化炉9内幅方向の風速斑は10%と大きく、得られた炭素繊維は強度及び品位共に実施例に比べ劣った。
【符号の説明】
【0039】
1 繊維束(耐炎化繊維束)
2A シール装置上部
2B シール装置下部
3 耐熱部材
4 止め具
5 取り付け枠固定具
6A 取り付け枠上部
6B 取り付け枠下部
7 断熱材
8 膨張室
9 炭素化炉
10 炭素化炉内
11 ヒータ
12 不活性気体供給口
13A 高さ調節機
13B 高さ調節機
14 気体吐出部
15 一体加工部材
16 絞り片
17 多孔板
D シール装置間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞箱体の前後壁部に繊維束入口および繊維束出口が形成され、
前記繊維束入口と前記繊維束出口とを連結する空間内に繊維束が通され、
前記空間を形成する前記繊維束とそれぞれ対向する一対の内壁面には、該繊維束の走行方向と直交する方向に、間隙をもって複数の絞り片が突設され、
前記絞り片間に膨張室が形成されたラビリンスシール装置であって、
炭素繊維製造用炭素化炉の繊維束導入口および/又は繊維束導出口に接続され、
前記一対の内壁面には、溝形の断面を有する耐熱部材が前記繊維束の走行方向に対して垂直方向に複数並べて配置されることで前記絞り片および前記膨張室が形成されている炭素繊維製造用炭素化炉のシール装置。
【請求項2】
前記耐熱部材が黒鉛材又はチタン材からなる請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記耐熱部材が止め具によって複数連結されている請求項1又は2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記一対の内壁面がそれぞれ独立して上下方向に移動できる請求項1から3のいずれか一項に記載のシール装置。
【請求項5】
対向する2つの膨張室に、気体が吐出される気体吐出部がそれぞれ設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載のシール装置。
【請求項6】
前記気体吐出部が、膨張室に設けられた不活性気体供給口と多孔板とにより形成されている請求項5に記載のシール装置。
【請求項7】
複数の耐熱部材の各間隙に、断熱材が配置されている請求項1から6のいずれか一項に記載のシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188771(P2012−188771A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51682(P2011−51682)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】