説明

炭素質フィルムの製造方法

【課題】高分子熱分解法による長尺(巻物状)のグラファイトフィルムの製造において、中間段階である長尺の炭化フィルムの融着、割れ、波打ちを抑制する。
【解決手段】高分子フィルムを巻芯に巻きつける行程において、巻き張力30N/m以上で行うものである。巻き速度1m/min以上をし、フィルムの除電を行えば、更に上記課題の抑制に効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子熱分解法による長尺(巻物状)の炭素質フィルムを製造する方法に関する。詳しくは、該炭素質フィルム製造方法の中間段階である長尺の炭化フィルムを生じる工程に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトフィルムは高熱伝導性等の優れた特性を有する素材であり、電子部品をはじめ、広く使用されている。
一般に入手できる高熱伝導性の炭素質フィルムの製造法としては、膨張黒鉛を圧延してシート状にするエキスパンド法や高分子熱分解法による製造方法がある。
【0003】
例えば、高分子フィルムを円筒状グラファイト質炭素に巻き付け、不活性ガス中あるいは真空中で、1800℃以上で加熱するグラファイトフィルムの製造方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−256508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では高分子熱分解法に係る炭素質フィルムにおける前段階である炭化工程で(ガス抜けなどの)不具合を生じた場合には、出来上がった巻物状の炭素質フィルムに融着など(割れ、波うち)の不具合を生じてしまうという問題があった。
本発明は、長尺の炭素質フィルムを製造するに際して、融着などが抑制された炭素質フィルムを得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、巻芯に巻いた高分子フィルムを熱処理して炭素質フィルムを製造する方法であって、30N/m以上の張力で高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程を含むことを特徴とする炭素質フィルムの製造方法である。
【0007】
本発明の第二は、高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程での巻きつける速度が1m/min以上であることを特徴とする第1に記載の炭素質フィルムの製造方法である。
本発明の第三は、高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で70N/m以下の圧力でニップローラーを用いて高分子フィルムを抑えながら巻きつけることを特徴とする第1〜第2のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0008】
本発明の第四は、高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、ニップ圧力をかけることなく高分子フィルムを巻きつけることを特徴とする第1〜第2のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【0009】
本発明の第五は、高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、高分子フィルムを除電することを特徴とする第1〜第4のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、炭化工程において、巻芯に巻かれた高分子フィルムのフィルム間に適度な隙間を設けることができるため、炭化分解ガスをフィルム間から容易に排出することができ、融着を抑制することができる。また、本発明の製造方法によれば、高分子フィルムの緩み過ぎを防止することで、炭化フィルムの波打ち、割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】昇温過程でのフィルムの緩みと炭化を示す図である。
【図2】フィルムが緩み過ぎた場合の炭化の様子を示す図である。
【図3】実施例1の巻き替えの様子を示す図である。
【図4】実施例26の巻き替えの様子を示す図である。
【図5】実施例18巻き替えの様子を示す図である。
【図6】実施例8の巻き替えの様子を示す図である。
【図7】容器の構造を示す図である。
【図8】実施例1を示す図である。
【図9】炭化フィルムの波打ちを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の炭素質フィルムの製造方法は、巻芯に巻いた高分子フィルムを熱処理して炭素質フィルムを製造する方法であって、30N/m以上の張力で高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程を含むものである。高分子フィルムを巻芯に巻きつける張力としては、好ましくは40N/m以上、より好ましくは80N/m以上、更に好ましくは100N/m以上、特に好ましくは160N/m以上である。
【0013】
本願発明の課題である融着は、炭化分解時に発生する分解ガスが、フィルム間に滞留し、冷却した際に固着し、接着剤のような作用をすることで起こる。
高分子フィルムを巻芯に巻きつける張力が30N/m以上であれば、フィルムの巻き戻ろうとする反発力が大きくなり、熱処理過程での巻き戻りを促進し、フィルムが緩むので、効果的にフィルム間に空間ができ、この隙間から分解ガスを容易に排出し、融着を抑制する傾向を示す。
【0014】
また、高分子フィルムを巻芯に巻き付ける張力が400N/m以下であれば、フィルム間に効果的に空気を巻き込むことができ、巻き込み空気の膨張でフィルムが緩み、フィルム間に空間ができるので、融着を抑制する傾向がある。
【0015】
炭化フィルムの波打ちは、炭化分解時の収縮力によりフィルムが変形するために起こるものである。よって、炭化分解時のフィルムの自由度を抑制することで、変形を抑えることができ、炭化フィルムの波打ちを抑制することができる。具体的には、巻芯に巻かれた高分子フィルムの場合、図2の21のようにフィルム間に大きく隙間があるような状態であると、自由度が大きくなり、図2の31のように波打った炭化フィルムになりやすい。また、本発明の高分子フィルムは巻芯に巻かれた状態で使用するが、該高分子フィルムを巻芯に巻き付ける際、フィルム間に空気が巻き込まれる。この巻芯に巻かれた高分子フィルムを熱処理すると、フィルム間の空気が膨張し、フィルムを押し上げるため、図1の20のようにフィルムの巻きが緩み、フィルムの自由度は、図1の10に比べ大きくなる。
【0016】
本発明のように30N/m以上の張力で高分子フィルムを巻芯に巻きつけることで、巻きつける際にフィルム間に巻き込まれる空気の巻き込み過ぎによるフィルムの緩み過ぎを防止でき、図1の30のように炭化フィルムの波打ちが抑制することができる。また、100N/m以上の張力で高分子フィルムを巻芯にまくことで、ロール状のフィルムの半径方向や接線方向へかかる応力分布を均一化できるため、緩む際もフィルム全体が均一に緩み、炭化分解時の収縮力もフィルム内で均一に進行し、炭化フィルムの波打ちが抑制される。本発明の炭素質フィルムは、炭化工程と黒鉛化工程を経て得られる。炭化工程とは、高分子フィルムを1000℃程度の温度まで予備加熱する工程であり、高分子フィルムを加熱分解し、炭化フィルムを得る行程である。得られる炭化フィルムは、高分子フィルムの6割程度の重さとなり、ガラス状のフィルムである。黒鉛化工程とは、炭化工程で作成された炭化フィルムを2400℃以上の温度まで加熱し、グラファイト化する工程である。炭化工程と黒鉛化工程は連続しておこなっても、炭化工程を終了させて、その後黒鉛化工程のみを単独で行っても構わない。
【0017】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程での巻きつける速度は、1m/min以上であることが好ましく、10m/min以上であることがより好ましく、20m/min以上であることが更に好ましく、30m/min以上であることが特に好ましい。1m/min以上の速度で高分子フィルムを巻芯に巻き付けることで、フィルム間に空気を巻き込みやすく、巻き速度を上げることで、空気巻き込み量を増やすことができるため、フィルムを緩ませやすくなり、融着を抑制できる傾向がある。
【0018】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける際の張力は、巻きはじめから3mの張力Psと巻き終わりから3mの張力Peの張力比Pe/Psが、1.1以上であると良い。芯に巻かれた高分子フィルムは外周から緩む。そのため、外周側では、張力を大きくし、フィルムの巻き戻ろうとする反発力を大きくすることで、緩み易さが大きく向上する。一方、内周付近では、外側のフィルムからの抵抗が増え、外周付近に比べて、反発力が低下する傾向がある。よって、内周側は、より多く空気を巻き込ませるように、張力を低めに設定することで、炭化フィルムの融着をより抑制できる傾向がある。
【0019】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程でニップローラにかける圧力は、70N/m以下、好ましくは50N/m以下、より好ましくは20N/m以下である。70N/m以下で高分子フィルムを巻芯に巻き付けることで、フィルム間に空気を効果的に巻き込むことができるため、融着を抑制することができる。
【0020】
また、高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、ニップ圧力をかけることなく高分子フィルムを巻きつけることで、より効果的にフィルム間に空気を巻き込むことができる。
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、高分子フィルムを除電すると良い。高分子フィルムの除電を行うことで、フィルム表面の滑り性を向上させることができるため、フィルムをより緩み易くすることができ、融着を緩和することができる。
【0021】
巻芯に巻き付けられる高分子フィルムの帯電量は、20kV以下が好ましく、より好ましくは、15kV以下がより好ましく、8kV以下が更に好ましく、3kV以下が特に好ましい。また、高分子フィルムの片面だけを除電するなどして、高分子フィルムの一方の面と他方の面との帯電量の差を持たせることで、フィルムの緩み過ぎを抑制し、波打ちを抑制することもできる。
【0022】
また、高分子フィルムは拘束されていないほうが好ましい。拘束とは、フィルムの動きを阻害する作用のことを言い、例えば、高分子フィルム端部を粘着テープで固定したり、高分子フィルムに重しをかけることなどが挙げられる。高分子フィルムが拘束されていなければ、高分子フィルムは容易に緩むことができ、融着を防ぐことができる。
本発明に用いられる高分子フィルムの幅は特に制限されないが、250mm以上が好ましく、500mm以上がより好ましい。高分子フィルムの幅が250mm以上であると、フィルム中心部分で発生する分解ガスは、フィルム外へより排出されにくくなり、融着しやすくなるが、本発明の方法を用いることで、融着を効果的に抑制することができる。また、本発明に用いられる高分子フィルムの厚みは特に制限されないが、50μm以上が好ましい。50μm以上の高分子フィルムになると、単位時間あたりの分解ガスの発生量が増大し、融着しやすくなるが、本発明の製造方法を用いることで、融着を効果的に抑制することができる。更に、本発明に用いられる高分子フィルムの長さは特に制限されないが、30m以上であることが好ましく、50m以上であることがより好ましく、100m以上でることが更に好ましい。高分子フィルムの長さが30m以上であると、巻数が多くなるため、加熱をしただけでは、内周付近のフィルムまでは緩みにくく、分解ガスがフィルム間に滞留しやすく融着が起こりやすい。しかし、本発明のように炭化分解温度未満の温度において減圧することで、巻き込み空気の膨張を促進し、フィルムの内周付近までフィルムを緩めることで、融着を効果的に抑制することができる。
【0023】
炭化処理中の雰囲気は、炭化分解温度未満を減圧で行うことで、効果的に融着を抑制することができる。融着抑制のためには、炭化分解温度以上で発生する分解ガスを効果的にフィルム間から排出するためには、炭化分解温度未満でフィルムを緩めておくことが効果的である。よって、炭化分解温度未満で減圧を行うことで、フィルム間に巻き込まれた空気の膨張を促進し、フィルムを効果的に緩ませることができるので、融着を抑制できる傾向がある。
【実施例】
【0024】
(容器)
図7を参照して、容器は内径130mm×高さ570mm、厚み5mmの円柱210の両端に直径130mm×厚さ10mmの円板220が接続した外筒200と直径100mm×高さ550mm、厚み5mmの巻芯100から構成されている。なお、外筒には円板220部分に通気のため直径7mmの穴が8個ほど空けられている。外筒200および巻芯100は全て等方性黒鉛で作製した。
【0025】
(帯電量の検出)
図3の帯電量検出部450を参照して、巻き取られる直前の高分子フィルムの帯電量を(株)キーエンス製 高精度静電気センサSKを用いて測定を行った。
【0026】
(巻き張力の検出)
巻き張力の検出は、図3のピックアップローラ300にひずみエイコー測器(株)製ゲージ式張力検出器をつけて検出を行った。
なお、巻き始めの張力Psとは、所定の速度にて巻き取りを開始してから3mの張力のことを言い、巻き終わりの張力Peとは、巻き終わりから3mの張力のことを言う。
【0027】
<評価>
(融着)
ロール状の炭化フィルムに融着が15周以下の場合を「A」、16周〜20周の融着が存在した場合を「B」、21周〜25周の融着が存在した場合を「C」、26周〜40周の融着が存在した場合を「D」、41周以上の融着が存在した場合を「E」とした。
【0028】
(波打ち)
図9において、3.1mm以上の振幅の波打ちが存在せず、且つ、1.0mm〜3.0mmの振幅の波打ち部分が15周以下で存在する場合を「A」、1.0mm〜3.0mmの振幅の波打ちが16周〜30周存在する場合、もしくは3.1mm以上の振幅の波打ちが1周〜10周存在する場合を「B」、1.0mm〜3.0mmの振幅の波打ちが31周以上存在する場合、もしくは3.1mm以上の振幅の波打ちが10周以上存在する場合を「C」とした。
【0029】
(割れ)
割れた炭化フィルムに割れがなかった場合を「A」、割れが1周〜5周存在する場合を「B」とした。
【0030】
(実施例1)
高分子フィルムとして、幅500mm、長さ50mのカネカ社製ポリイミドフィルム(商品名:アピカル200AVフィルム、厚み50μm)を準備し、巻芯の中央部に巻き替えを行い、フィルムを巻いた巻芯を外筒に入れた。巻き取りは、図5のようにフィルムの両面を除電しながら行い、巻き取られた高分子フィルムの両面の帯電量が1kVとなるようにし、巻き速度10m/minで行った。巻き張力は、巻き始めの張力(Ps)を30N/mとし、Pe/Ps=1となるように巻き終わりの張力(Pe)を調節した。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで30N/mの張力で巻いたことになる。フィルムをセットした容器は、図8のように、電気炉内に横向きに置き、室温で一旦0.04kPa(絶対圧力)まで減圧を行った後、窒素を導入して、窒素置換を行った。次に、容器外側に設置されたヒーター500に通電加熱を行い、窒素ガスを5L/minの流量で流入しながら1000℃まで1℃/minの昇温速度で昇温し、炭化処理を行なった。ここで、窒素ガスは、導入孔65から導入するので、排気は排気口75に向かって行われることになる。結果を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
巻き始めの張力(Ps)を40N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで100N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例3)
巻き始めの張力(Ps)を100N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで100N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0033】
(実施例4)
巻き始めの張力(Ps)を200N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで200N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0034】
(実施例5)
巻き始めの張力(Ps)を400N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで400N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
巻き張力をかけず、フィルム間に隙間が開くように巻いたこと以外は実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0036】
(比較例2)
巻き始めの張力(Ps)を10N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで10N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例3)
巻き始めの張力(Ps)を20N/mとしたこと以外は、実施例1と同様である。つまり、本実施例においては、巻き始めから巻き終わりまで10N/mの張力で巻いたことになる。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
原料フィルムを巻芯に巻く際に30N/m以上の張力をかけることで融着および割れ、波打ちを大きく抑制できていることがわかる。波打ちの抑制について述べる。これは、張力をかけて巻くことで、ロール状のフィルムの半径方向や接線方向への応力分布を均一化できるため、緩む際もフィルム全体が均一に緩み、炭化分解時の収縮力もフィルム内で均一に進行したことで炭化フィルムの波打ちが抑制されている。次に、融着が抑制された理由について述べる。融着発生は、炭化分解時に発生する分解ガスが、フィルム間に滞留し、冷却した際に固着し、接着剤のような作用をすることで起こる。よって、炭化分解が始まる前までにフィルムを緩めておくことで、フィルム間にできた隙間から分解ガスを排出でき、融着を抑制することができる。実施例1のように原料フィルムに張力をかけて巻いた場合は、フィルムにかかっている張力を戻そうとするフィルムの反発力が発生するので、フィルムは緩み易くなり、融着を抑制できたと考えられえる。比較例1、2、3の場合、融着数が多くなり過ぎたために、フィルムの割れも誘発してしまっていた。
【0040】
実施例1〜4の比較から巻き張力の大きさを大きくすることで、融着をより抑制できている。これは、フィルムの巻き戻ろうとする反発力が大きくなったためである。ただし、実施例5のように張力を400N/mと強くした場合は、巻き込み空気量が減りすぎ、フィルムの反発力だけでは内周付近まで緩みきれず、融着数が若干増加した。また、張力を30N/mから100N/mにした場合、波打ちをさらに抑制することができることがわかった。これは、フィルム全体の張力からくる応力の分布がより均一になったためである。
【0041】
(実施例6)
巻き速度を1m/minにしたこと以外は実施例3と同様に行った。結果を表2に示す。
【0042】
(実施例7)
巻き速度を20m/minにしたこと以外は実施例3と同様に行った。結果を表2に示す。
【0043】
(実施例8)
巻き速度を30m/minにしたこと以外は実施例3と同様に行った。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例9)
巻き速度を20m/minにしたことと、巻き始めの張力(Ps)を200N/mとしたこと以外は、実施例3と同様である。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例3、6〜8の結果から巻き速度を速くすることで、融着をより抑制できることがわかる。これは、巻き速度を速くすることで、巻き取りのときの巻き込み空気量が多くなるためで、この空気が加熱中に膨張し、フィルムを押し上げることで、フィルムが緩むためである。
【0047】
また、実施例9のように巻き速度を速くし、巻き張力も200N/mと強くすることで、更なる融着の改善がみられた。
【0048】
(実施例10)
巻き張力を、巻き始めの張力(Ps)を100N/mとし、Pe/Ps=0.8となるように一定の変化率で変化させるように張力を調節して巻き替えを行った。その他の条件については、実施例3と同様である。結果を表3に示す。
【0049】
(実施例11)
巻き張力を、巻き始めの張力(Ps)を100N/mとし、Pe/Ps=1.3となるように一定の変化率で変化させるように張力を調節して巻き替えを行った。その他の条件については、実施例3と同様である。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例3、10、11の比較から、巻き終わりの張力Peは巻き始めの張力Psよりも大きいほうが融着を抑制できることがわかった。芯に巻かれた高分子フィルムは外周から緩む。そのため、外周側では、フィルムの反発力を大きくすることで、緩み易さが大きく向上するが、内周付近では、外側のフィルムからの抵抗が増え、反発力が低下し、フィルムの反発力では、緩みにくい性質をもっている。よって、内周側は、より多く空気を巻き込ませるように、張力を低めに設定することで、融着をより抑制することができたと考えられる。
【0052】
(実施例12)
図6を参照して、巻き取りロールにニップローラ350を50N/mの圧力で接触させて巻いたこと以外は、実施例3と同様である。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
実施例3、12の結果から、巻き替え時の巻き取りロールにかけるニップ圧力が小さい方が、巻き込み空気量を増加させることができ、融着を抑制できることがわかる。
【0055】
(実施例13)
図3を参照して、除電を行わず巻いたこと以外は、実施例3と同様である。結果を表5に示す。
【0056】
(実施例14)
巻き取られた高分子フィルムの両面の帯電量が15kVとなるように除電を行ったこと以外は実施例3と同様である。結果を表5に示す。
【0057】
(実施例15)
図4のようにフィルムの片面を除電しながら巻き替えを行い、巻き取られた高分子フィルムの内側の帯電量が1kV、外側の帯電量が25kVとなるように除電を行ったこと以外は実施例3と同様である。結果を表5に示す。
【0058】
(実施例16)
図4のようにフィルムの片面を除電しながら巻き替えを行い、巻き取られた高分子フィルムの外側の帯電量が1kV、内側の帯電量が25kVとなるように除電を行ったこと以外は実施例3と同様である。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
実施例3、13、14の比較から原料フィルムの帯電量を低下させることで、フィルムの滑り性が向上し、緩み易くなるために融着を抑制できることがわかる。また、実施例15や実施例16のように帯電量は片面毎に違っていても良く、同様に融着を抑制できていることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 振幅
10 熱処理前の高分子フィルム
20 適度に緩んだ高分子フィルム
21 緩み過ぎた高分子フィルム
30 波打ちのない炭化フィルム
31 波打ちの発生した高分子フィルム
50 ポリイミドフィルム
55 インナーケース
60 台
65 導入孔
70 排気口
80 炭化フィルム
100 巻芯
150 通気孔
200 外筒
210 外筒における円柱形状部材
220 外筒における円板形状部材
300 ピックアップローラ
310 ガイドローラ
350 ニップローラ
400 除電気
450 帯電量測定箇所
500 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯に巻いた高分子フィルムを熱処理して炭素質フィルムを製造する方法であって、30N/m以上の張力で高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程を含むことを特徴とする炭素質フィルムの製造方法。
【請求項2】
高分子フィルムを巻芯を巻きつける工程での巻きつける速度が1m/min以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項3】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で70N/m以下の圧力でニップローラーを用いて高分子フィルムを抑えながら巻きつけることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項4】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、ニップ圧力をかけることなく高分子フィルムを巻きつけることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。
【請求項5】
高分子フィルムを巻芯に巻きつける工程で、高分子フィルムを除電することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の炭素質フィルムの製造方法。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246186(P2012−246186A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119645(P2011−119645)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】