説明

炭素質材料およびその製造方法、塩基触媒ならびにアニオン交換材料

【課題】塩基触媒やアニオン交換材料などの用途に好適な窒素原子含有官能基を含有する炭素質材料およびその製造方法、ならびに該炭素質材料を用いた塩基触媒およびアニオン交換材料を提供すること。
【解決手段】本発明の炭素質材料は、所定の構成炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する、窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素を、ルイス酸の存在下で加熱処理する得る工程を経て製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒素原子含有官能基を含有する炭素質材料およびその製造方法、ならびに該炭素質材料を用いた塩基触媒およびアニオン交換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素原子を導入した炭素質材料はその製造方法も含めて従来から知られており、例えば、キノリンあるいはイソキノリンを塩化アルミニウムの存在下で加熱して、窒素含有ピッチを製造する方法が開示されている(非特許文献1)。しかしながら、この方法で得られたものは、ピッチを構成する炭素骨格の中に窒素原子が取り込まれた構造をしており、その用途も炭素繊維の原料であったり、或いは蓄電材料であったりして、本願の目的である固体塩基触媒等として用いられるものではない。
【0003】
一方、芳香族化合物や糖類などの有機物を比較的低温で炭化処理およびスルホン化処理して得られるスルホン酸基を含有する炭素質材料が近年開発され、触媒として種々の反応に高活性であること、耐熱性に優れていること、低コストであること等から最近注目を集めており、脂肪酸のエステル化反応、エステルの加水分解反応、アルキル化反応、オレフィンの水和反応等の触媒としての評価が試みられている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、特許文献1、特許文献2)。これらスルホン酸基を有する炭素質材料については前記有機物を予め炭化してアモルファスな炭化物を得てそれをさらに硫酸でスルホン化処理して得る方法や、前記有機物を直接硫酸で処理して一段階で炭化−スルホン化を行う方法などが提案されている。
【0004】
いずれにしても得られたものはアモルファスな炭素にスルホン酸基が付加したものであって、その用途は固体酸触媒やプロトン伝導材料としての用途に限定される。アモルファスな炭素に、例えばアミノ基やピリジル基などの窒素含有塩基性官能基を任意に導入することが出来れば、当該アモルファス炭素の工業的な応用範囲は格段に広がることが期待できるが、これに関する研究は現在までなされておらず知見も公表されてない。
【0005】
したがって、これら低コストで入手が容易なアモルファスな炭素質材料に触媒活性を発揮できる官能基を導入した材料についてはその開発が期待されるところである。
【非特許文献1】Mochida I.,et al. Carbon, 33,No.8, 1069(1995)
【非特許文献2】堂免他,「カーボン系固体強酸の合成条件と触媒作用」,日本化学 会第85回春季年会(2005),2B5−43
【非特許文献3】Hara,M. et al. Nature,438(10),178,November (2005)
【非特許文献4】原他,PETROTECH,29(6),411(2006)
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【特許文献2】国際公開WO 2005/029508 A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩基触媒やアニオン交換材料などの用途に好適な窒素原子含有官能基を含有する炭素質材料およびその製造方法、ならびに該炭素質材料を用いた塩基触媒およびアニオン交換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、窒素原子含有官能基が特定の結合形態で結合した芳香族炭化水素を、ルイス酸の存在下に加熱処理することにより、塩基触媒やアニオン交換材料などの用途に好適な炭素質材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)に記載の炭素質材料の製造方法、下記(6)に記載の炭素質材料、下記(7)に記載の塩基触媒、および、下記(8)に記載のアニオン交換材料を提供する。
(1)所定の構成炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する、窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素を、ルイス酸の存在下で加熱処理し、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料を得る工程を備える、炭素質材料の製造方法。
(2)窒素原子含有官能基がアミノ基である、(1)に記載の炭素質材料の製造方法。
(3)窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素がベンジルアミンである、(1)または(2)に記載の炭素質材料の製造方法。
(4)ルイス酸が塩化アルミニウムおよび/または塩化亜鉛である、(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
(5)上記工程における加熱処理の温度が200〜900℃である、(1)〜(4)のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法により製造された、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料。
(7)(6)に記載の炭素質材料を備える塩基触媒。
(8)(6)に記載の炭素質材料を備えるアニオン交換材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、塩基触媒やアニオン交換材料などの用途に好適な窒素原子含有官能基を含有する炭素質材料およびその製造方法、ならびに該炭素質材料を用いた塩基触媒およびアニオン交換材料が提供される。本発明の炭素質材料は、従来知られていた窒素原子が炭素骨格の中に取り込まれた炭素材料と異なり、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有するため、塩基触媒やアニオン交換材料の用途において優れた活性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明の炭素質材料は、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料であり、所定の構成炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する、窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素(以下、「本発明に係る芳香族炭化水素」という。)を、ルイス酸の存在下で加熱処理する工程を経て製造される。
【0011】
ここで、「縮合型の共有結合」とは、官能基と芳香族炭化水素が2箇所以上の結合点でもって縮合環を形成している場合の当該官能基と当該芳香族炭化水素の間の共有結合を意味する。一方、「非縮合型の共有結合」とは、官能基と芳香族炭化水素とが上記のような縮合環を形成しない形態で結合している場合の当該官能基と当該芳香族炭化水素の間の共有結合を意味する。
【0012】
窒素原子含有官能基としては、特に制限は無いが、アミノ基やアルキルアミノ基、ピリジル基などが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る芳香族炭化水素は、所定の構成炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有するものであれば特に制限されないが、ベンジルアミンやナフチルアミンなどが好ましく用いられる。
【0014】
本発明に係る芳香族炭化水素は、一分子中に1の窒素原子含有官能基を有するものであってもよく、あるいは、一分子中に2以上の窒素原子含有官能基を有するものであってもよい。さらに、本発明に係る芳香族炭化水素が一分子中に2以上の窒素原子含有官能基を有する場合、窒素原子官能基同士は同一でも異なっていてもよい。
【0015】
また、加熱処理に際しては、本発明に係る芳香族炭化水素の1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る芳香族炭化水素と、窒素原子官能基を有さない芳香族炭化水素とを混合して加熱処理に供することも可能である。窒素原子含有官能基を有さない芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどの多環縮合炭化水素が好ましく用いられる。本発明に係る芳香族炭化水素と、窒素原子官能基を有さない芳香族炭化水素とを混合して用いる場合は、後者1重量部に対して前者を0.8重量部以上用いることが好ましい。
【0017】
加熱処理に使用するルイス酸としては特に制限は無いが、塩化アルミニウム、塩化亜鉛などが好ましく用いられる。ルイス酸は、1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
加熱処理は、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気下で行う。加熱処理温度は、通常150〜1000℃、好ましくは200〜900℃であり、加熱処理時間は好ましくは2時間から24時間である。
【0019】
加熱処理後に得られる炭素質材料については、洗浄処理を施すことが好ましい。洗浄方法としては、好ましくは塩酸水溶液で行いその後水洗する方法が挙げられ、これにより表面に付着した塩酸を除去することができる。
【0020】
また、洗浄後の炭素質材料について、イオン交換処理を施すことが好ましい。これにより、炭素質材料の塩基点に付着した塩化アルミニウムなどのルイス酸成分を除去することができる。イオン交換処理は、好ましくはアンモニア水などのアルカリ水で行う。イオン交換処理後、好ましくは水洗して残った水溶性のアルカリ成分を除くことが好ましい。
【0021】
上記工程を経て得られる本発明の炭素質材料は、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有するものである。ここで、ルイス酸として塩化アルミニウムおよび塩化亜鉛を用い、本発明に係る芳香族炭化水素としてのベンジルアミンと、窒素原子含有官能基を有さない芳香族炭化水素としてのナフタレンとを加熱処理したときの反応例を下記式(1)に示す。なお、下記式(1)の右辺は炭化して無定型炭素となる前の中間の状態を示している。この反応例からも分かるように、本発明に係る芳香族炭化水素における炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造は、加熱処理によって、得られる炭素質材料の炭素骨格に取り込まれることなく、また、非縮合型の共有結合(本反応例においては単結合)の開裂により炭素質材料から脱離することなく、得られる炭素質材料においても維持されている。
【化1】

【0022】
すなわち、本発明の炭素質材料は、従来知られていた窒素原子が炭素骨格の中に取り込まれた炭素材料と異なり、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有するため、塩基触媒やアニオン交換材料の用途において優れた活性を示す。従って、この炭素材料を用いて各種の塩基触媒反応を効率良く実施することが可能である。また、この炭素質材料は塩基性の官能基を有するがゆえに、アニオン交換剤としての利用も可能である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
(アミノ基が結合した炭素質材料Aの製造)
本発明に係る芳香族炭化水素としてベンジルアミン8.36g(0.078mol)、窒素原子含有官能基を有さない芳香族炭化水素としてナフタレン9.45g(0.078mmol)、ルイス酸として塩化アルミニウム15.27g(0.156mmol)および塩化亜鉛26.79g(0.156mmol)をフラスコに取り、窒素気流下、400℃で5時間加熱処理した。得られた生成物を6M塩酸200mlに入れて撹拌することで洗浄し、遠心分離で分液後、デカンテーションして同様の洗浄操作を2度繰り返し、蒸留水で表面に付着した塩酸を洗浄した。その後、アンモニア水中で撹拌して塩基点についた塩化アルミニウムを除去し、蒸留水で再度洗浄し、黒色の炭素質材料(以下、「炭素質材料A」という。)を得た。
(分析)
炭素質材料Aについて元素分析およびBET法による表面積の測定を行った。得られた結果を表1に示す。また、炭素質材料AについてXRD測定を行い、炭素質材料Aが無定型炭素であることを確認した。さらに、炭素質材料についてIR測定を行い、1級および2級アミンに由来するピークを確認した。これらの結果から、炭素質材料Aは、炭素原子とアミノ基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料であることがわかる。
(Knoevenagel反応)
炭素質材料Aを用いてKnoevenagel反応を行い、炭素質材料Aの塩基触媒としての活性を評価した。具体的には、炭素質材料Aからなる塩基触媒0.1g、ベンズアルデヒド0.138g(1.30mmol)およびシアノ酢酸エチル0.141g(1.25mmol)をフラスコに取り、50℃で6時間Knoevenagel反応を行い、主生成物であるα−シアノけい皮酸エチルの生成量をFID−GCにより定量した。その結果、α−シアノけい皮酸エチルの収率は36.2%であった(収率(%)=生成したα−シアノけい皮酸エチル(mol)/仕込みのシアノ酢酸エチル(mol)×100)。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例2〜4]
(アミノ基が結合した炭素質材料B、C、Dの製造)
実施例2〜4においてはそれぞれ加熱処理温度を250℃、300℃、350℃とした以外は実施例1と同様にして、炭素質材料B、CおよびDを製造した。
(分析)
炭素質材料B、CおよびDについて、実施例1と同様に各種分析を行なった。元素分析およびBET法による表面積の測定の結果を表1に示す。また、XRD測定においては、炭素質材料B、CおよびDのそれぞれについて無定型炭素であることを確認した。さらに、IR測定においては、炭素質材料B、CおよびDのそれぞれについて1級および2級アミンに由来するピークを確認した。これらの結果から、炭素質材料B、CおよびDは、炭素原子とアミノ基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料であることがわかる。
(Knoevenagel反応)
塩基触媒として炭素質材料B、CまたはDを用いた以外は実施例1と同様にしてKnoevenagel反応を行なった。収率を表1に示す。
【0026】
[実施例5]
(アミノ基が結合した炭素質材料Eの製造)
塩化亜鉛を用いないこと以外は実施例3と同様にして、炭素質材料Eを製造した。
(分析)
炭素質材料Eについて、実施例1と同様に各種分析を行なった。元素分析およびBET法による表面積の測定の結果を表1に示す。また、XRD測定においては、炭素質材料Eについて無定型炭素であることを確認した。さらに、IR測定においては、炭素質材料Eについて1級および2級アミンに由来するピークを確認した。これらの結果から、炭素質材料Eは、炭素原子とアミノ基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料であることがわかる。
(Knoevenagel反応)
塩基触媒として炭素質材料Eを用いた以外は実施例1と同様にしてKnoevenagel反応を行なった。収率を表1に示す。
【0027】
[実施例6]
(アミノ基が結合した炭素質材料Fの製造)
ナフタレンを用いない他は実施例3と同様にして、炭素質材料Fを製造した。
(分析)
炭素質材料Fについて、実施例1と同様に各種分析を行なった。元素分析およびBET法による表面積の測定の結果を表1に示す。また、XRD測定においては、炭素質材料Fについて無定型炭素であることを確認した。さらに、IR測定においては、炭素質材料Fについて1級および2級アミンに由来するピークを確認した。これらの結果から、炭素質材料Fは、炭素原子とアミノ基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料であることがわかる。
(Knoevenagel反応)
塩基触媒として炭素質材料Fを用いた以外は実施例1と同様にしてKnoevenagel反応を行なった。収率を表1に示す。
【0028】
[比較例1、2]
(Knoevenagel反応)
触媒として、アンバーライトIRA−67またはベンジルアミンを用いた以外は実施例1と同様にしてKnoevenagel反応を行なった。収率を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1からも分かるように、本発明による窒素原子を含む官能基が非縮合型の共有結合を介して結合した炭素質材料は塩基触媒としての活性を示す。比較例2はベンジルアミンを触媒として用いた均一系反応であるが、単位アミン量あたりの活性で比較すると、比較例2に比べ本発明の炭素質材料の活性はきわめて高い。また、市販の塩基性固体触媒であるアンバーライトIRA−67に比べても単位アミン量あたりの活性はきわめて高いことが分かる。
以上の実施例から明らかなように、本発明の、窒素原子を含む官能基が非縮合型の共有結合を介して結合した炭素質材料は塩基触媒としてきわめて高い活性を示し、新しい固体塩基触媒としての可能性が高いことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の構成炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する、窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素を、ルイス酸の存在下で加熱処理し、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料を得る工程を備える、炭素質材料の製造方法。
【請求項2】
前記窒素原子含有官能基がアミノ基である、請求項1に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項3】
前記窒素原子含有官能基を有する芳香族炭化水素がベンジルアミンである、請求項1または2に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項4】
前記ルイス酸が塩化アルミニウムおよび/または塩化亜鉛である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項5】
前記工程における加熱処理の温度が200〜900℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素質材料の製造方法により製造された、炭素原子と窒素原子含有官能基とが非縮合型の共有結合を介して結合した構造を有する炭素質材料。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素質材料を備える塩基触媒。
【請求項8】
請求項6に記載の炭素質材料を備えるアニオン交換材料。



【公開番号】特開2010−70419(P2010−70419A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239817(P2008−239817)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】