説明

炭素鋼材の腐食防止方法。

【課題】 メタンスルホン酸やブタンスルホン酸などの有機スルホン酸を含有する水溶液が接する炭素鋼材の腐食を容易に防止する方法を提供する。
【解決手段】 有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を防止する方法であって、有機スルホン酸含有水溶液のpHを12.5以上、好ましくは13以上とすることを特徴とし、有機スルホン酸含有水溶液の温度が50℃以上、更には80℃以上であっても、炭素鋼材の腐食を完全に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室温では、炭素鋼は、通常、酸性で腐食し、アルカリ性では腐食しない。塩化物水溶液中でも炭素鋼はpH6以上にすると腐食されない(例えば、非特許文献1参照。)。従って、有機スルホン酸含有水溶液も、通常、中和された状態、すなわちpHが約7〜9の水溶液として、炭素鋼材を使用して扱われることが多い。
しかしながら、室温程度では殆ど炭素鋼材の腐食は許容できる程度であるが、使用中に有機スルホン酸含有水溶液のpHがよりアルカリ側に振れたり、温度が高くなったりしたためか、錆びこぶを伴う孔食が発生することがあった。
【非特許文献1】日根文男著 「腐食工学の概要」(株)化学同人 1977年 第82〜83頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を容易に防止する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はかかる課題を解決するために、有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を容易に防止する方法について鋭意検討した結果、有機スルホン酸含有水溶液のpHが約10〜12になると、むしろ腐食が激しくなり、更に約12.5以上とすることによって、高温でも腐食が防止できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を防止する方法であって、有機スルホン酸含有水溶液のpHを12.5以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の方法によれば、有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を容易に、かつ完全に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、炭素鋼材が構成する機器は特に限定されるものではなく、配管、容器、攪拌翼、保護管等が挙げられる。
有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
有機スルホン酸の濃度は、約20ppm以上である。上限は特に限定されるものではないが、通常、約10重量%である。
【0007】
有機スルホン酸含有水溶液のpHは、アルカリを添加して約12.5以上、好ましくは約13とする。約12.5よりも低くなると腐食が大きくなり好ましくない。
pHが7〜9では、高温でも腐食は比較的少ないが、完全に耐食性であると言えるものではなく、また10〜12ではむしろ腐食が大きくなる。
アルカリとして、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられるが、これに限定させるものではない。
【0008】
有機スルホン酸含有水溶液の温度は、約50℃以上、更には約80℃以上でも、pHを約12.5以上とすることによって、完全に腐食を防止することができる。上限は特に限定されるものではないが、通常、約120℃である。
【実施例】
【0009】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるもので
はない。
【0010】
実験例1
メタンスルホン酸120ppmとブタンスルホン酸1800ppmを含有する水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8、10.5、13の水溶液を準備した。
各水溶液300mlに炭素鋼の試験片(45mm×40mm×2mmt)を浸漬し、攪拌しながら90℃で168時間、腐食試験を行った。結果を表1に示す。
腐食速度は、*印のあるものは、表面粗さ計を用いて表面のプロファイルを測定して求めた孔食深さを腐食速度に換算した値であり、それ以外は重量測定法により算出した値である(以下、同様である。)。
【0011】
【表1】

【0012】
実験例2
有機スルホン酸を含有しない水溶液、メタンスルホン酸を2000ppm含有する水溶液、1−ブタンスルホン酸を2000ppm含有する水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、それぞれpH10.5の水溶液を準備した。
この水溶液について、実験例1と同様にして腐食試験を行った。結果を表2に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
実験例3
メタンスルホン酸を含有する水溶液について、種々の濃度で行った以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に示す。
【0015】
【表3】

【0016】
実験例4
メタンスルホン酸を含有する水溶液について、種々にpHで行った以外は実験例2と同様に行った。結果を表4に示す。
【0017】
【表4】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機スルホン酸含有水溶液が接する炭素鋼材の腐食を防止する方法であって、有機スルホン酸含有水溶液のpHを12.5以上とすることを特徴とする炭素鋼材の腐食防止方法。
【請求項2】
有機スルホン酸含有水溶液のpHを13以上とすることを特徴とする請求項1記載の炭素鋼材の腐食防止方法。
【請求項3】
有機スルホン酸含有水溶液の温度が50℃以上である請求項1または2記載の炭素鋼材の腐食防止方法。
【請求項4】
有機スルホン酸がメタンスルホン酸および/またはブタンスルホン酸である請求項1または2記載の炭素鋼材の腐食防止方法。
【請求項5】
水酸化ナトリウムを添加してpHを調整する請求項1または2記載の炭素鋼材の腐食防止方法。