説明

炭酸エステル化合物の製造方法

【課題】4級炭素原子を有する炭酸エステル化合物を含む種々の構造の炭酸エステル化合物を穏和な条件で簡便に製造することができる炭酸エステル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を用いて炭酸エステル化合物を製造する方法であって、該製造方法は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程を含むことを特徴とする炭酸エステル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸エステル化合物の製造方法及び炭酸エステル化合物に関する。より詳しくは、電気化学デバイスの材料等として有用な炭酸エステル化合物の製造方法及び炭酸エステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステル化合物は、電解液等の溶媒や高分子材料の前駆体、添加剤等として有用な化合物である。このような炭酸エステル化合物の中でも、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートはリチウムイオン電池の電解液の溶媒として用いられており、例えば、エチレンカーボネートは、高誘電率を示すことが知られている。リチウムイオン電池の利用の拡大に伴い、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の炭酸エステル化合物も利用の増大が期待され、より効率的に炭酸エステル化合物を製造することができる方法が求められている。
【0003】
従来の炭酸エステル化合物の製造方法として、オキシメチレン基とグリシジル基とを有する化合物を合成した後、この化合物と二酸化炭素とを触媒及び溶媒存在下で反応させてオキシメチレン基を有する環状カーボネートを製造する方法(例えば、特許文献1参照。)や、活性金属触媒の存在下、グリコールあるいはグリセリンを炭酸ガスと反応させる直接反応によって環状カーボネートを生成する工程を含む製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、特定の構造を有するジオールを炭酸エステル、ホスゲン、クロロ蟻酸エステルから選ばれる炭酸エステル化剤と反応させて環状カーボネートを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。更に、二酸化炭素にエチレンオキサイドやオキセタンを反応させて環状カーボネートを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−98897号公報
【特許文献2】特開2008−1659号公報
【特許文献3】特開2011−84512号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】トシヤス サカクラ(Toshiyasu Sakakura)他2名、ケミカルレビューズ(Chemical Reviews) 2007,Vol. 107,No.6,2365−2387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように炭酸エステル化合物の製造方法として様々な方法が開示されている。しかしながら、環状カーボネートの一般的な製造方法であるグリコールやグリセリンと二酸化炭素とを反応させる方法の場合、高い収率で環状カーボネートを得るために一般に100℃以上の温度で反応が行われるため、より穏和な条件で炭酸エステル化合物が製造できることが好ましい。また、環状カーボネートの環構造を形成する炭素原子が置換基を有する化合物、特に、環状カーボネートの環構造を形成する1つの炭素原子に2つの置換基が結合した4級炭素原子を有する炭酸エステル化合物として様々な置換基を有する化合物を簡便に製造することができれば、用途に応じた特性を発揮する化合物の設計の自由度が高くなり好ましいが、従来の製造方法は、この点において充分であるとはいえるものではなかった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、4級炭素原子を有する炭酸エステル化合物を含む種々の構造の炭酸エステル化合物を穏和な条件で簡便に製造することができる炭酸エステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、炭酸エステル化合物を穏和な条件で簡便に製造することができる方法について種々検討し、構造中に3員環や4員環を有し、高い歪みエネルギーを有する環状化合物に着目した。そして、この環状化合物と二酸化炭素と反応させることで、熱力学的に安定で反応性の乏しい二酸化炭素を用いた場合でも、グリコールやグリセリンと二酸化炭素とを反応させる場合に比べてより低い反応温度でも充分に反応をすすめることができ、炭酸エステル化合物をより簡便に製造することが可能となることを見出した。この方法によると、構造中に3員環や4員環を有する環状化合物の原料となる化合物を適宜選択することで、4級炭素原子を有する炭酸エステル化合物のような、環状構造を形成する1つの炭素原子に2つの置換基を有する炭酸エステル化合物を簡便に合成できることも見出し、上記課題を解決できることに想到した。更に本発明者は、構造中に3員環や4員環を有する環状化合物を得る方法として光反応を用いると、安価な原料から構造中に3員環や4員環を有する環状化合物を容易に製造できること、及び、構造中に3員環や4員環を有する環状化合物を得るための原料から炭酸エステル化合物を得るまでの反応をワンポットで行うことができ、炭酸エステル化合物を更に簡便に製造することが可能となることも見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、二酸化炭素を用いて炭酸エステル化合物を製造する方法であって、前記製造方法は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程を含むことを特徴とする炭酸エステル化合物の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
本発明の炭酸エステル化合物の製造方法は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程を含むものである限り、その他の工程を含んでいてもよい。また、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物として1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を用いてもよい。
【0011】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物としては、このような構造に該当する化合物であれば特に制限されず、環構造は炭素原子のみによって形成されるものであってもよく、炭素原子以外の原子を含む複素環であってもよい。炭素原子以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等が挙げられる。環状化合物を原料として炭酸エステル化合物を製造する従来の方法は、環状エーテル化合物を原料とするものであるのに対し、本発明の方法は、炭素原子のみによって形成される環構造を有する環状化合物や、窒素原子、硫黄原子等の酸素以外の原子を含む環構造を有する複素環化合物を原料として炭酸エステル化合物を製造することができる方法である点に特徴を有している。このような、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物が炭素原子のみによって形成された環構造を有する化合物、又は、炭素原子と窒素原子、硫黄原子のいずれかの原子とから形成される複素環構造を有する化合物であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0012】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物は、環構造に水酸基以外の置換基を有するものであってもよく、水酸基以外の置換基を有する環状化合物を用いることで置換基を有する炭酸エステル化合物を製造することができる。
置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基又は該反応性基で置換された炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;アリール基又は該反応性基で置換されたアリール基;オリゴアリール基又は該反応性基で置換されたオリゴアリール基;1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基又は該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基;アルキルチオ基又は該反応性基で置換されたアルキルチオ基;アリールオキシ基又は該反応性基で置換されたアリールオキシ基;アリールチオ基又は該反応性基で置換されたアリールチオ基;アリールアルキル基又は該反応性基で置換されたアリールアルキル基;アリールアルコキシ基又は該反応性基で置換されたアリールアルコキシ基;アリールアルキルチオ基又は該反応性基で置換されたアリールアルキルチオ基;アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基;アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基; トシル基(p−トルエンスルホニル基)が挙げられる。
これらの中でも、アリール基又は該反応性基で置換されたアリール基;1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基;アリールアルキル基又は該反応性基で置換されたアリールアルキル基;アリールアルコキシ基又は該反応性基で置換されたアリールアルコキシ基;トシル基が好ましい。
置換基が付加する位置は特に制限されないが、水酸基付加した炭素原子に付加していることが好ましい。このような位置に置換基が付加していると、得られる炭酸エステル化合物が4級炭素原子を有するものとなる。
【0013】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる方法としては、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とが接触して反応することとなる限り特に制限されないが、二酸化炭素雰囲気下にした容器中に環状化合物を入れて、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物に対して二酸化炭素が当量以上の過剰量存在する条件で反応させることが好ましい。
【0014】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素との反応は、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、クロロホルム等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程における反応温度は、0〜80℃が好ましい。3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物は、高い歪みエネルギーを有する反応性の高い化合物であることから、このような反応温度でも高い歪みエネルギーを駆動力として二酸化炭素と充分に反応させることができる。反応温度はより好ましくは、20〜60℃である。
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程における反応圧力は、1013.25〜1300hPaが好ましい。より好ましくは、1013.25〜1200hPaである。3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の反応性が高いことから、このような反応圧力でも二酸化炭素と充分に反応させることができる。
また、反応時間は、3〜20時間が好ましい。より好ましくは、6〜12時間である。
【0016】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程においては、触媒を用いることが好ましい。この工程に用いる触媒としては、炭酸セシウム、ジアザビシクロウンデセン、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒が好ましい。このような触媒を用いることで、環状化合物と二酸化炭素とをより充分に反応させることができる。これらの触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0017】
上記触媒の使用量は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物1等量に対して、0.01〜10等量であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜5等量である。
【0018】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程によって生成した炭酸エステル化合物は、抽出、蒸留等の通常用いられる生成方法により精製することができる。
【0019】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物を製造する方法は特に制限されないが、原料となる化合物に光を照射することにより反応させる光反応により製造することが好ましい。光エネルギーを利用することで高い反応性を有する3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物をより簡便に製造することができる。
化合物の中には、光を照射すると熱的に安定な化合物から不安定な高い歪みエネルギーを有する化合物となるものがある。この過程は吸熱過程であり、光のエネルギーを分子の歪みエネルギーという形に変換し、分子に内包させたものとみなすことができる。これにより、熱力学的に安定な出発物質を活性化し、高い反応性を有する3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物へと変換することができる。
このような光反応を利用すると、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の原料となる化合物を二酸化炭素と接触する雰囲気下におき、そこに光を照射することで、光反応で生成した3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物を直ちに二酸化炭素と反応させることが可能となり、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の原料となる化合物を出発物質として炭酸エステル化合物を製造するまでの一連の工程をワンポットで行うことが可能となる。
このように、環状化合物が光反応によって得られたものであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0020】
上記光反応は、光の照射により原料となる化合物を環状化合物とする環化反応であることが好ましい。光環化反応を利用すると、安価に入手可能な化合物を原料化合物として3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物を製造することができる。また原料化合物を適宜選択することで、置換基を有する環状の炭酸エステル化合物を容易に製造することができ、4級炭素原子を有する環状の炭酸エステル化合物も容易に製造することが可能となる。
【0021】
上記光反応において、光を照射する方法としては、高圧水銀灯等により光を照射する方法を用いることができる。太陽光を直接あてることでも反応を進行させることができる。
光反応の反応温度は、0〜50℃であることが好ましい。より好ましくは、20〜40℃である。
また、反応時間は、1〜10時間であることが好ましい。より好ましくは、2〜5時間である。
【0022】
上記光反応は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の原料となる化合物を溶媒に溶解して行ってもよい。
溶媒としては、環状化合物の原料となる化合物が溶解する限り特に制限されず、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
上記3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の原料となる化合物としては、下記一般式(1);
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、Rは、水素原子又は1価の有機基を表す。Rは、1価の有機基を表す。)で表される化合物が好ましい。このような化合物に光照射すると、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物を得ることができる。
【0026】
上記Rの1価の有機基としては、上述した3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物が環構造に有する水酸基以外の置換基と同様のものを挙げることができ、好ましいものも同様である。
上記Rの1価の有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;置換基を有していてもよい炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキルアミノ基等が挙げられる。これらの中でも、置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキルアミノ基が好ましい。なお、置換基としては、上述した反応性基やトシル基が挙げられる。
【0027】
本発明の炭酸エステル化合物の製造方法により得られた炭酸エステル化合物を更に塩基性条件下で加水分解することで、ジオール化合物を得ることができる。上述したように、本発明の炭酸エステル化合物の製造方法は、4級炭素原子を有する環状の炭酸エステル化合物を容易に製造することができるため、この炭酸エステル化合物を加水分解することで4級炭素原子を有するジオール化合物を容易に製造することができる。このような方法は、4級炭素原子を有するジオール化合物を簡便に製造することができる、4級炭素原子を有するジオール化合物の有用な製造方法である。
このような、本発明の炭酸エステル化合物の製造方法により得られた炭酸エステル化合物を加水分解する工程を含むジオール化合物の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0028】
上記炭酸エステル化合物を塩基性条件下で加水分解する方法としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の塩基性水溶液を炭酸エステル化合物に添加することで行うことができる。
この場合、溶媒に溶解された炭酸エステル化合物に塩基性水溶液を添加することもできる。溶媒としては、THF、ジエチルエーテル等の1種又は2種以上を用いることができる。
また、塩基性条件下での加水分解は、0〜100℃で行うことができる。
【0029】
上述したように、本発明の炭酸エステル化合物の製造方法は、置換基を有する環状の炭酸エステル化合物を簡便に製造することができる方法であり、環状の炭酸エステル化合物の環を形成する炭素原子として4級炭素原子を有する環状の炭酸エステル化合物も容易に製造することができ、下記一般式(2)で表される化合物のような構造を有する炭酸エステル化合物も、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物の原料となる化合物を適宜選択することにより容易に製造することができる。
このような下記一般式(2);
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、若しくは、脂環式炭化水素又は複素環化合物由来の1価の基を表す。R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表し、RとRとが結合して環構造を形成している構造を含まない。R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。)で表される炭酸エステル化合物もまた、本発明の1つである。
【0032】
上記Rにおけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基が好ましい。
脂環式炭化水素としては、炭素数3〜7の脂環式炭化水素が挙げられる。これらの中でも、炭素数3〜4の脂環式炭化水素が好ましい。
複素環式化合物としては、炭素原子と、酸素原子、硫黄原子、窒素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とから構成される環状化合物が挙げられ、例えば、下記(3−1)〜(3−29)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
上記(3−1)〜(3−29)の化合物の中でも、(3−6)、(3−13)、(3−23)の化合物が好ましい。より好ましくは、(3−6)、(3−13)の化合物である。
【0035】
上記一般式(2)中、Rの置換基、及び、R、R、R、Rにおける1価の有機基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基又は該反応性基で置換された炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;アリール基又は該反応性基で置換されたアリール基;オリゴアリール基又は該反応性基で置換されたオリゴアリール基;1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基又は該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基;アルキルチオ基又は該反応性基で置換されたアルキルチオ基;アリールオキシ基又は該反応性基で置換されたアリールオキシ基;アリールチオ基又は該反応性基で置換されたアリールチオ基;アリールアルキル基又は該反応性基で置換されたアリールアルキル基;アリールアルコキシ基又は該反応性基で置換されたアリールアルコキシ基;アリールアルキルチオ基又は該反応性基で置換されたアリールアルキルチオ基;アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基;アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基; トシル基(p−トルエンスルホニル基)が挙げられる。
これらの中でも、Rの置換基としては、ハロゲン原子;炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基又は該反応性基で置換された炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基が好ましい。より好ましくは、臭素原子、メトキシ基である。
、Rの1価の有機基としては、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;トシル基が好ましい。より好ましくは、トシル基である。
、Rとしては、水素原子が好ましい。
【0036】
本発明の炭酸エステル化合物の製造方法を用いて上記一般式(2)で表される化合物を製造する場合の一例として、一般式(2)におけるRが置換基を有さないフェニル基であり、R、R、R及びRが水素原子である化合物を出発物質として光反応を利用して炭酸エステル化合物を製造する場合の反応スキームを表すと、以下のようになる。
【0037】
【化4】

【0038】
上述したように、炭酸エステル化合物は、電解液等の溶媒として用いられるものであり、環状の炭酸エステル化合物の中でも、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートは、リチウムイオン電池の電解質の溶媒として一般に用いられている。しかしながらエチレンカーボネートは、その使用温度域や安定性の点で課題を有している。また、エチレンカーボネートは室温で固体であるため、他の溶媒と混合して用いなければならないものである。
これに対し、上記一般式(2)で表される本発明の炭酸エステル化合物は、置換基としてアリール基、脂環式炭化水素又は複素環式化合物由来の1価の基を有することによりエチレンカーボネートよりも安定性が高く、かつ室温で液体であって、リチウムイオン電池の電解質の溶媒として好適に用いることができるものである。
このような本発明の炭酸エステル化合物を用いた電解質もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0039】
本発明の炭酸エステル化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、炭酸エステル化合物を穏和な条件で簡便に製造することができるだけでなく、4級炭素原子を有する環状炭酸エステル化合物のような置換基を有する環状炭酸エステル化合物を容易に製造することができる方法である。更に、このような製造方法により容易に製造することができるアリール基とメチルアミノ基とが1つの炭素原子に結合した環状炭酸エステル化合物は、安定性が高く、かつ室温で液体である化合物であって、リチウムイオン電池の電解質の溶媒として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0041】
H−NMRの測定装置及び条件は以下のとおりである。
H−NMR>
得られた化合物を、重水素化クロロホルムの溶液とし、高分解能核磁気共鳴装置(製品名「Gemini 2000」;300MHz、Varian,Inc.社製)を用いて測定した。化学シフトは、テトラメチルシランから低磁場側における100万分の1(ppm;δスケール)として記録し、テトラメチルシランの水素核(δ0.00)を参照とした。
【0042】
実施例1
下記式(5)の化合物Aにおいて、Arがフェニル基である構造に該当するフェニルケトン誘導体30.3mgをシュレンク試験管に入れ、バルーンを用いて二酸化炭素雰囲気にした。ここへN,N─ジメチルアセトアミド1.0mlを加え、高圧水銀灯で360nmの光を照射しながら室温で3時間攪拌した。その後、炭酸セシウム130mgを加え60℃で12時間加熱攪拌した。これを室温まで冷却し、塩酸で反応を終了させた。反応混合物をジエチルエーテルで三回抽出し、併せた有機層を水で三回洗浄、飽和塩化ナトリウム水溶液で一度洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後に溶媒留去した。得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィーを用いて精製し、目的物を68.5mg、80%の収率で得た。化合物の物性値は以下の通りである。得られた化合物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl) : δ2.40(s, 3H), 3.27−3.35(m, 1H), 3.37−3.43(m, 1H), 4.53−4.57(m, 1H), 5.07−5.09(m, 1H), 5.68−5.72(m, 1H), 7.27−7.43(m, 7H), 7.69−7.73(m, 2H)
【0043】
実施例2〜6
下記式(5)に示した反応スキームに沿って反応を行い、炭酸エステル化合物を製造した。
化合物Aをシュレンク試験管に入れ、バルーンを用いて二酸化炭素雰囲気にし、高圧水銀灯で360nmの光を照射しながら室温で3時間攪拌した。その後、炭酸セシウム130mgを加え60℃で12時間加熱攪拌した。これを室温まで冷却し、塩酸で反応を終了させた。反応混合物をジエチルエーテルで三回抽出し、併せた有機層を水で三回洗浄、飽和塩化ナトリウム水溶液で一度洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後に溶媒留去した。得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィーを用いて精製し目的物を得た。化合物Aの構造と反応に使用した分量、得られた目的物の収率を表1に示す。
なお、式(5)中、Tsは、トシル基(p−トルエンスルホニル基)を表す。
【0044】
【化5】

【0045】
【表1】

【0046】
実施例7
シュレンク管に実施例1で得られた炭酸エステル化合物34.7mg、3N水酸化ナトリウム水溶液0.1mlを加え、THFを10ml加え窒素置換した。これを室温で3時間攪拌した。塩酸で反応のクエンチを行い、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。硫酸マグネシウムを用いて有機層を乾燥し、濾過した後に溶媒を留去した。得られた粗生成物を、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)によって単離精製した(31.5mg、98%)。
この反応スキームを式(6)に示す。
【0047】
【化6】

【0048】
得られた化合物のH−NMRの測定結果を下に示す。
H−NMR(CDCl) : δ2.40(s, 3H), 2.92(br, 1H)3.11−3.16(m, 1H), 3.36−3.42(m, 1H), 3.69−3.86(m, 3H), 5.31−5.35(m, 1H), 7.23−7.36(m, 7H), 7.64−7.67(m, 2H)
【0049】
上記実施例の結果から本発明の炭酸エステル化合物の製造方法によれば、環状カーボネートの環構造を形成する炭素原子の1つにアリール基とメチルアミノ基とが結合した構造を有する化合物のような4級炭素原子を有する炭酸エステル化合物を簡便に製造することができ、出発物質を適宜選択することで、様々な置換基を有する炭酸エステル化合物製造することが可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を用いて炭酸エステル化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、3員環構造及び/又は4員環構造に水酸基を有する環状化合物と二酸化炭素とを反応させる工程を含むことを特徴とする炭酸エステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記環状化合物は、光反応によって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の炭酸エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(2);
【化1】

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、若しくは、脂環式炭化水素又は複素環化合物由来の1価の基を表す。R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表し、RとRとが結合して環構造を形成している構造を含まない。R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を表す。)で表されることを特徴とする炭酸エステル化合物。

【公開番号】特開2013−53124(P2013−53124A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194182(P2011−194182)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】