説明

炭酸塩結晶の製造方法

【課題】 アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶の製造方法の提供。
【解決手段】 Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と、炭酸源とを、pH9.0以上であって、凝集防止剤を含む液中で反応させて、アスペクト比が2.5以上、かつ長径の平均値が1μm以下の炭酸塩結晶を製造することを特徴とする炭酸塩結晶の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)は、ゴム、プラスチック、製紙などの分野で広く使用されてきたが、近年、高機能性を付与した炭酸塩が次々と開発され、粒子形状や粒子径などに応じて、多用途、多目的に使用されるようになっている。
炭酸塩の結晶形としては、カラサイト、アラゴナイト、バテライトなどが挙げられるが、これらの中でも、アラゴナイトは針状であり、強度や弾性率に優れる点で、様々な用途に有用である。
【0003】
炭酸塩を製造する方法としては、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液とを反応させて炭酸塩を製造する方法や、塩化物と炭酸ガスとの反応によって炭酸塩を製造する方法などが一般的に知られている。また、アラゴナイト構造を有する針状の炭酸塩の製造方法としては、例えば、前者の方法において、炭酸イオンを含む溶液と塩化物の溶液との反応を超音波照射下に行う方法(特許文献1参照)や、Ca(OH)水スラリーに二酸化炭素を導入する方法において、あらかじめCa(OH)水スラリー中に、種晶となる針状アラゴナイト結晶を入れ、該種晶を一定方向にのみ成長させる方法(特許文献2参照)が提案されている。
しかし、特許文献1に記載の炭酸塩の製造方法では、得られる炭酸塩の長さが30〜60μmと大きいだけでなく、粒子サイズの分布幅が広く、所望の粒子サイズに制御した炭酸塩を得ることができないという問題がある。また、特許文献2に記載の炭酸塩の製造方法を用いても、長さが20〜30μmの大きな粒子しか得ることができない。
【0004】
ところで、近年、眼鏡レンズ、透明板などの一般的光学部品やオプトエレクトロニクス用の光学部品、特に、音響、映像、文字情報等を記録する光ディスク装置などのレーザ関連機器に用いる光学部品の材料として、高分子樹脂が用いられる傾向が強まっている。その理由としては、高分子光学材料(高分子樹脂からなる光学材料)は、一般に、他の光学材料(例えば、光学ガラスなど)に比べて、軽量、安価で加工性、量産性に優れている点が挙げられる。また、高分子樹脂には、射出成形や押出成形などの成形技術の適用が容易であるという利点もある。
【0005】
しかし、従来より使用されている一般的な高分子光学材料に成形技術を施して製品化した場合、得られた製品が複屈折性を示すという性質があった。複屈折性を有する高分子光学材料は、比較的高精度が要求されない光学素子に用いる場合には、特に問題となることはないが、近年、より高精度が要求される光学用物品が求められてきており、例えば、書込/消去型の光磁気ディスクなどにおいては、複屈折性が大きな問題となる。すなわち、このような光磁気ディスクには、読取ビームあるいは書込ビームに偏向ビームが用いられており、光路中に複屈折性の光学素子(例えば、ディスク自体、レンズなど)が存在すると、読取り、あるいは、書込みの精度に悪影響を及ぼす。
【0006】
そこで、複屈折性の低減を目的として、複屈折性の符号が互いに異なる高分子樹脂と無機微粒子とを用いた非複屈折光学樹脂材料が提案されている(特許文献3参照)。該光学樹脂材料は、結晶ドープ法とよばれる手法により得られるものであり、具体的には、高分子樹脂中に多数の無機微粒子を分散させ、延伸などにより成形力を外部から作用させ、高分子樹脂の結合鎖と多数の無機微粒子とを略平行に配向させ、高分子樹脂の結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、符号の異なる無機微粒子の複屈折性で減殺したものである。
【0007】
このように、結晶ドープ法を用いて非複屈折光学樹脂材料を得るためには、結晶ドープ法に使用可能な無機微粒子が必要不可欠となるが、この無機微粒子としては、微細な針状又は棒状の炭酸塩が特に好適に使用可能であることが認識されており、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−203728号公報
【特許文献2】米国特許第5164172号明細書
【特許文献3】国際公開第01/25364号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と、炭酸源とを、凝集防止剤を含む液中で反応させると、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶を得ることができるという知見である。
【0011】
本発明は、本発明者の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と、炭酸源とを、pH9.0以上であって、凝集防止剤を含む液中で反応させて、アスペクト比が2.5以上、かつ長径の平均値が1μm以下の炭酸塩結晶を製造することを特徴とする炭酸塩結晶の製造方法である。
<2> 凝集防止剤が、ポリアルキレンオキシド系化合物及びポリビニル系化合物のいずれかである前記<1>に記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<3> 凝集防止剤が、ポリエチレンオキシド及びポリビニルアルコールのいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<4> 金属イオン源と、炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる前記<1>から<3>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<5> 金属イオンが、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである前記<1>から<4>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<6> 金属イオン源が、水酸化物及び塩化物のいずれかであり、かつ、炭酸源が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、及び炭酸ガスの少なくともいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<7> 金属イオン源と、炭酸源とを、アルコール類存在下で反応させる前記<1>から<6>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<8> 金属イオン源を、0.05mol/L以上用いる前記<1>から<7>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
<9> 金属イオン源と、炭酸源との反応により得られた炭酸塩結晶を乾燥させる乾燥工程を含む前記<1>から<8>のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法である。
該<1>〜<9>に記載の炭酸塩結晶の製造方法においては、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶を効率的かつ簡便に形成することができる。
また、本発明の炭酸塩結晶の製造方法により製造された炭酸塩結晶は、多目的、多用途に使用可能であり、非複屈折光学樹脂材料への応用も可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、アスペクト比が高く、小サイズかつ単分散の炭酸塩結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(炭酸塩結晶の製造方法)
本発明の炭酸塩結晶の製造方法は、金属イオン源と、炭酸源とを、所定値以上のpHであって、凝集防止剤を含む液中で反応させて、アスペクト比が2.5以上、かつ粒子の長径が1μm以下の炭酸塩結晶を製造する。
【0014】
−金属イオン−
前記金属イオンとしては、金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンなどが挙げられる。この中でも、特に、反応性の観点から、アルカリ土類金属イオンであるSr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンが好ましい。前記炭酸源と反応して、カラサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO2−ユニットで表され、該CO2−ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を形成する。このため、該炭酸塩が、後述する延伸処理により、任意の一方向に延伸されると、その延伸方向に粒子の長軸方向が一致した状態で結晶が並ぶ。
また、表1にアラゴナイト型鉱物の屈折率を示す。表1に示すように、前記アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩は、複屈折率δが大きいため、配向複屈折性を有するポリマーへのドープに好適に使用することができる。
【0015】
【表1】

【0016】
前記金属イオン源は、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr、Ca、Ba、Zn、及びPbから選択される少なくとも1種の硝酸塩、塩化物、水酸化物などが挙げられる。この中でも、特に、反応性の観点から、水酸化物、塩化物が好ましい。
【0017】
前記金属イオン源は、NO、Cl、及びOHの少なくともいずれかを含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源の具体例としては、Sr(NO、Ca(NO、Ba(NO、Zn(NO、Pb(NO、SrCl、CaCl、BaCl、ZnCl、PbCl、Sr(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Zn(OH)、Pb(OH)、及びこれらの水和物などが好適に挙げられる。
【0018】
−炭酸源−
前記炭酸源としては、CO2−イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭酸ナトリウム[NaCO]、炭酸リチウム[LiCO]、炭酸カリウム〔KCO〕、炭酸セシウム〔CsCO〕、炭酸アンモニウム[(NHCO]、炭酸水素ナトリウム[NaHCO]、炭酸ガス、尿素[(NHCO]などが好適に挙げられる。これらの中でも、特に、反応性の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ガスが好ましい。
【0019】
−反応方法−
前記液中で反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、反応性の観点から、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる方法などが挙げられる。
具体的に、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる方法としては、ダブルジェット法が挙げられる。
【0020】
−−ダブルジェット法−−
前記ダブルジェット法は、前記金属イオン源と前記炭酸源とを、それぞれ反応用の液面上又は液中に噴射により添加し、反応させる方法であり、例えば、図1に示すように、前記金属イオン源を含むA液と、前記炭酸源を含むB液とを、同時にC液に噴射し、該C液の液中でこれらを反応させる方法である。
【0021】
前記ダブルジェット法による前記金属イオン源及び前記炭酸源の添加速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、より早いことが好ましく、例えば、添加物質の全量を1min以内で添加し終わる程度の添加速度が好ましい。また、モル添加速度として、最終生成物の化学量論比となるように決定するのが好ましく、本発明では等モル速度であるのが最も好ましい。
【0022】
前記ダブルジェット法は、例えば、ダブルジェット反応晶析装置を用いて行うことができる。該装置は、反応容器中に攪拌翼を有し、攪拌翼の近傍に原料溶液を供給するノズルが具備されている。該ノズルの数は2本以上の複数本である。そして、ノズルから供給された前記金属イオン源(前記A液)と前記炭酸源(前記B液)とが攪拌翼による混合作用により高速に均一状態になり、前記C液中で瞬時に均一反応させることが可能である。
なお、ダブルジェット法における撹拌速度としては、500〜1500rpmが好ましい。
【0023】
−pH−
前記金属イオン源と、前記炭酸源とを反応させる液中のpHとしては、針状や棒状の炭酸塩結晶を得やすい観点から、アルカリ雰囲気下であることが好ましく、具体的には、9以上が好ましく、9.5以上がより好ましい。前記pHが9未満であると、得られる炭酸塩結晶の透明性度が低下することがある。
また、前記金属イオン源が、OH基を含む場合には、反応の開始から終了までの間、上記pHを保つことが好ましく、前記金属イオン源が、OH基を含まない場合には、例えば、NaOH等のアルカリ雰囲気を形成する薬品を添加して、上記pHとなるように調整して反応を行うのが好ましい。
【0024】
−凝集防止剤−
前記凝集防止剤は、炭酸塩結晶形成時に、イオン強度が高まると、結晶粒子間の電気二重層による反発力が失われ、凝集を引き起こしやすく、高濃度で効率的に調製することが困難であるため、結晶粒子の凝集を防止するために添加される。該凝集防止剤を添加することにより、前記結晶粒子が安定にコロイド状態にされ、互いに凝集してしまうことが効果的に防止される。
前記凝集防止剤としては、結晶粒子に吸着し、立体反発力を持ち、前記結晶粒子の凝集を防止することができる限り、特に制限はなく、天然物、合成化合物のいずれであってもよい。
前記天然物としては、例えば、ゼラチン、でんぷん、寒天、カラゲーナンなどが好適に挙げられる。
前記合成化合物としては、例えば、ポリアルキレンオキシド系化合物、ポリビニル系化合物などが好適に挙げられる。この中でも、特に、ポリアルキレンオキシド系化合物が好ましい。
前記ポリアルキレンオキシド系化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン−9−オクタデセニルアミン、ポリオキシエチレン−9−オクタデセニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンオクタデシルエーテルなどが挙げられ、この中でも、特に、ポリエチレンオキシドが好ましい。
前記ポリビニル系化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメチルビニルエーテル、ポリビニルイミダゾールなどが挙げられ、この中でも、特に、ポリビニルアルコールが好ましい。
また、この他に、例えば、ポリアクリルアミド系化合物、ポリスチレン系化合物なども好適に挙げられる。
前記ポリアクリルアミド系化合物としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
前記ポリスチレン系化合物としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
前記凝集防止剤の添加量としては、上記目的を達成できる限り、特に制限はないが、金属イオン源に対して、0.1〜10.0質量%が好ましく、0.5〜5.0質量%がより好ましい。
前記凝集防止剤の添加時期としては、結晶粒子の体積増加時に存在し、上記目的を達成できる限り、特に制限はないが、結晶粒子数増加後であって該結晶粒子体積増加前、又は結晶粒子数増加前に添加するのが好ましい。
前記凝集防止剤添加時の温度としては、特に制限はなく、添加する凝集防止剤が溶解する温度に合わせて適宜選択することができるが、0〜50℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。
【0026】
−金属イオン源及び炭酸源の添加濃度−
前記金属イオン源及び炭酸源の添加濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属イオン源の添加濃度としては、反応性の観点から、0.05mol/Lが好ましく、0.10mol/L以上がより好ましい。
【0027】
−反応温度−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液中の温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、凝集防止剤を金属イオン源に溶解させる観点から、0〜50℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。
【0028】
−その他の工程等−
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる際には、有機溶剤存在下で反応させることが好ましい。前記有機溶剤の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、2−アミノエタノール、2−メトキシエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、この中でも、アルコール類が好ましく、反応性の観点、及び材料の入手の容易さという点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及び2−アミノエタノールがより好ましい。
また、前記金属イオン源と前記炭酸源との反応により炭酸塩結晶が得られた際には、炭酸塩結晶を乾燥させる乾燥工程を有するのが好ましい。
前記乾燥工程における、炭酸塩結晶を乾燥させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、濾過等により、溶媒を除去してから乾燥させるのが好ましい。
【0029】
−炭酸塩の性状−
本発明の炭酸塩結晶の製造方法により得られる炭酸塩結晶は、以下の性状を有する。
【0030】
−−アスペクト比−−
前記アスペクト比としては、2.5以上であることが必要であり、3.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。前記アスペクト比が2.5未満であると、例えば、ゴムやプラスチックに応用した場合等、使用用途によっては、強度や弾性率向上の効果が得られない場合がある。
【0031】
−−長径の平均値−−
前記長径の平均値としては、1.0μm以下であることが必要であり、0.9μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましい。前記長径の平均値が1.0μmを超えると、散乱の影響を大きく受けることがあり、光学用途への適応性が低下することがある。
【0032】
−−長径のバラツキ−−
前記長径のバラツキとしては、特に制限はないが、該長径の変動係数が45%以下であることが好ましく、40%以下がより好ましい。なお、前記長径の変動係数とは、長径の平均値に対する該長径の標準偏差の比で表され、以下の数式(1)で求められる。
【数1】

但し、上記数式(1)において、rは長径の平均値、nは長径を測定した粒子の数、rはi番目に測定した粒子の長径を表し、n=50以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0033】
−用途−
本発明の炭酸塩結晶の製造方法により製造される炭酸塩結晶は、アスペクト比が2.5以上、かつ長径の平均値が1μm以下であり、球状ではなく、針状及び棒状などの形状を有するため、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルター等として有用である。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
【0034】
また、本発明の炭酸塩結晶の製造方法により製造される炭酸塩結晶を、複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩結晶とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩結晶の複屈折性で打ち消すことができる。
前記延伸処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一軸延伸が挙げられる。該一軸延伸の方法としては、必要に応じて加熱しながら、延伸機で所望の延伸倍率に延伸することが挙げられる。
【0035】
複屈折性を有する樹脂の固有複屈折率としては、「ここまできた透明樹脂 −ITに挑む高性能光学材料の世界−」(井出文雄著、工業調査会、初版)p29に記載されている通りであり、具体的には下記表2に示す通りである。表2より、前記光学ポリマーは、正の複屈折性を有するものが多いことが認められる。また、前記炭酸塩結晶として炭酸ストロンチウムを用い、例えば、前記光学ポリマーとしてのポリカーボネートに添加すると、該混合物の正の複屈折性を打ち消し、0にすることができるだけでなく、負にすることもできる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【0036】
【表2】

【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
金属イオン源としての0.25mol/Lの水酸化ストロンチウム水溶液300mlに、凝集防止剤としてのポリエチレンオキシド1.0gを添加して溶解し、エタノールを混合して35℃に冷却した溶液に、炭酸源としての0.10mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液300mlを攪拌混合して反応させた。反応液中のpHは12.8であった。
次いで、反応液を攪拌しながら、炭酸源としての過剰の炭酸ガスを供給した後、濾過により溶媒を除去してから乾燥させ、炭酸ストロンチウム結晶T−1を得た。この結晶を透過型電子顕微鏡で観察し、複数の粒子の長径を測定したところ、アスペクト比が5.2、長径平均が730nm、該長径の下記数式(1)で求められる変動係数が36%であった。
【数2】

但し、上記数式(1)において、rは長径の平均値、nは長径を測定した粒子の数、rはi番目に測定した粒子の長径を表す。
【0039】
(実施例2)
金属イオン源としての0.25mol/Lの水酸化ストロンチウムを添加して35℃に冷却した水溶液500mlに、凝集防止剤としてのポリビニルアルコール1.0gを添加して溶解させ、エタノール300mlを加えた。この溶液を35℃に保ったまま、金属イオン源としての0.15mol/Lの塩化ストロンチウム水溶液と、炭酸源としての0.18mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液とを同時添加して混合し、ストロンチウム濃度が0.1mol/Lとなるように調節して反応させた。反応液中のpHは12.3であった。
次いで、金属イオン源としての0.3mol/Lの水酸化ストロンチウム水溶液を添加した後、反応液を攪拌しながら、炭酸源としての過剰の炭酸ガスを供給した後、濾過により溶媒を除去してから乾燥させ、炭酸ストロンチウム結晶T−2を得た。この結晶を実施例1と同様にして観察したところ、アスペクト比が4.7、長径の平均値が780nm、該長径の変動係数が42%であった。
【0040】
(比較例1)
実施例2において、ポリビニルアルコールを添加しなかった以外は同様にして、炭酸ストロンチウム結晶H−1を得た。この結晶を実施例1と同様にして観察したところ、アスペクト比が2.1、長径の平均値が1.1μm、該長径の変動係数が70%であった。
【0041】
これらの結果より、本発明の炭酸塩結晶の製造方法は、金属イオン源と、炭酸源とを、pH9.0以上であって、凝集防止剤を含む液中で反応させることで、得られる炭酸塩結晶が、アスペクト比が高くなり、かつ単分散化することができることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が2.5以上、かつ長径の平均値が1μm以下であり、球状ではなく、針状及び棒状などの形状を有するため、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルター等として有用である。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、ダブルジェット法による本発明の炭酸塩の製造方法を説明する概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と、炭酸源とを、pH9.0以上であって、凝集防止剤を含む液中で反応させて、アスペクト比が2.5以上、かつ長径の平均値が1μm以下の炭酸塩結晶を製造することを特徴とする炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項2】
凝集防止剤が、ポリアルキレンオキシド系化合物及びポリビニル系化合物のいずれかである請求項1に記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項3】
凝集防止剤が、ポリエチレンオキシド及びポリビニルアルコールのいずれかである請求項1及び2のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項4】
金属イオン源と、炭酸源とを、液中に同時に添加して反応させる請求項1から3のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項5】
金属イオンが、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである請求項1から4のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項6】
金属イオン源が、水酸化物及び塩化物のいずれかであり、かつ、炭酸源が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、及び炭酸ガスの少なくともいずれかである請求項1から5のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項7】
金属イオン源と、炭酸源とを、アルコール類の存在下で反応させる請求項1から6のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項8】
金属イオン源を、0.05mol/L以上用いる請求項1から7のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。
【請求項9】
金属イオン源と、炭酸源との反応により得られた炭酸塩結晶を乾燥させる乾燥工程を含む請求項1から8のいずれかに記載の炭酸塩結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−176367(P2006−176367A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372068(P2004−372068)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】