説明

点火コイル

【課題】仮に保持ケースと絶縁固着樹脂との界面が剥離して、点火コイルの加熱時又は冷却時にその内部へ水が浸入するおそれがある場合でも、絶縁固着樹脂と外周コアのコア表面部における内側面又は外側面との間が密閉されることによって、水の浸入を防止することができる点火コイルを提供すること。
【解決手段】外周コア24は、一対の第1コア部と一対の第2コア部とを連ねた環状の閉磁路を形成している。環状の閉磁路を形成する外周コア24の開口側に位置する開口端部の少なくとも一部は、保持ケース3によって覆われないコア表面部240を形成している。このコア表面部240は、絶縁固着樹脂4によって覆われており、コア表面部240を覆う絶縁固着樹脂4は、外周コア24における内側面241と外側面242とに接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の内燃機関において、燃焼室内にスパークを発生させるために用いる点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いる点火コイルは、内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルの内周側と外周側とに軟磁性のコアを配置してなり、一次コイルへの通電を遮断したときの各コアを通過する磁束の変化によって、二次コイルに高電圧を発生させ、点火プラグからスパークを発生させている。各コアは、電磁鋼板を積層して形成する場合と、圧粉材料を圧縮成形して形成する場合とがある。
例えば、特許文献1の点火コイルの製造方法においては、熱硬化性樹脂によって、一次コイル及び二次コイルと樹脂部材とを絶縁を行った状態で固着すると共に、最外殻のケースを形成してなる点火コイルが開示されている。この製造方法によれば、その生産性を向上させることができ、絶縁耐久性に優れた点火コイルを製造することができる。また、特許文献1の点火コイルは、最外殻を構成する熱硬化性樹脂は閉磁路を形成する外周コアに接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−182137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、点火コイルは、その点火動作を受けてエンジンが燃焼、排気を繰り返す度に加熱、冷却を繰り返し、点火コイルを構成する各部品は、特に一次コイル及び二次コイルの軸方向へ膨張、収縮を繰り返す。このとき、特許文献1においては、樹脂部材を構成する熱可塑性樹脂と、絶縁、固着を行う熱硬化性樹脂との線膨張係数の違いによって、これらの膨張・収縮率が異なり、これらの間に界面剥離が生じるおそれがある。この場合、点火コイルの内部へ水が浸入することを防止するためには、更なる工夫が必要とされる。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、仮に保持ケースと絶縁固着樹脂との界面が剥離して、点火コイルの加熱時又は冷却時にその内部へ水が浸入するおそれがある場合でも、絶縁固着樹脂と外周コアのコア表面部における内側面又は外側面との間が密閉されることによって、水の浸入を防止することができる点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した軟磁性の中心コアと、
上記一次コイル及び二次コイルの外周側に配置した軟磁性の外周コアと、
熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル、上記二次コイル、上記中心コア及び上記外周コアを保持する保持ケースと、
熱硬化性樹脂からなり、上記保持ケースと共に上記一次コイル、上記二次コイル、上記中心コア及び上記外周コアを収容する最外殻ケースを構成する絶縁固着樹脂とを備えており、
上記外周コアは、上記一次コイル、上記二次コイル及び上記中心コアに対する径方向の両側に位置する一対の第1コア部と、上記一次コイル、上記二次コイル及び上記中心コアに対する軸方向の両側に位置する一対の第2コア部とを連ねた環状の閉磁路を形成しており、
該環状の閉磁路を形成する外周コアの開口側に位置する開口端部の少なくとも一部は、上記保持ケースによって覆われないコア表面部を形成しており、
該コア表面部は、上記絶縁固着樹脂によって覆われており、該コア表面部を覆う絶縁固着樹脂は、該コア表面部における内側面と外側面とに接触していることを特徴とする点火コイルにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の点火コイルは、熱可塑性樹脂からなる保持ケースと熱硬化性樹脂からなる絶縁固着樹脂とによって、一次コイル、二次コイル、中心コア及び外周コアを収容する最外殻ケースを構成している。
また、外周コアには、一対の第1コア部と一対の第2コア部とを連ねた環状の閉磁路を形成したものを用いており、外周コアの開口側に位置する開口端部の少なくとも一部に、意図的に保持ケースによって覆われないコア表面部を形成している。そして、コア表面部を絶縁固着樹脂によって覆い、このコア表面部を覆う絶縁固着樹脂をコア表面部における内側面と外側面とに接触させている。
【0008】
そして、点火コイルがその点火動作を行う際に加熱されて各構成部品が膨張するとき、又は点火コイルが点火動作を行った後に冷却されて各構成部品が収縮するときには、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との線膨張係数の違いにより、保持ケースと絶縁固着樹脂とがこれらの界面において剥離するおそれがある。各構成部品が膨張するとき、外周コアに比べて線膨張係数が大きい絶縁固着樹脂は外周コアよりも多く膨張し、絶縁固着樹脂は、外周コアのコア表面部における内側面に押し付けられる。一方、各構成部品が収縮するとき、外周コアに比べて線膨張係数が大きい絶縁固着樹脂は外周コアよりも多く収縮し、絶縁固着樹脂は、外周コアのコア表面部における外側面に押し付けられる。
【0009】
それ故、本発明の点火コイルによれば、仮に保持ケースと絶縁固着樹脂との界面が剥離して、点火コイルの加熱時又は冷却時にその内部へ水が浸入するおそれがある場合でも、絶縁固着樹脂と外周コアのコア表面部における内側面又は外側面との間が密閉されることによって、水の浸入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例における、点火コイルの断面を示す説明図。
【図2】実施例における、点火コイルの図1のA−A線矢視断面を示す説明図。
【図3】実施例における、点火コイルにおける各構成部品の配置を下方から見た状態で示す平面説明図。
【図4】実施例における、点火コイルをエンジンに取り付けた状態を示す断面説明図。
【図5】実施例における、外周コアのコア表面部の周辺を拡大して示す断面説明図。
【図6】実施例における、他の外周コアのコア表面部の周辺を拡大して示す断面説明図。
【図7】実施例における、コイル組付体を示す断面説明図。
【図8】実施例における、点火コイルの絶縁固着樹脂を成形する成形型を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した本発明の点火コイルにおける好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記点火コイルは、上記二次コイルの高電圧側巻線端部に接続される高電圧ターミナルを収容してエンジンのプラグホール内に配置される出力タワー部を、上記絶縁固着樹脂によって形成して、上記一次コイル及び二次コイルの軸方向に交差する外周方向へ突出させてなり、上記外周コアは、その開口側を上記出力タワー部の突出側に向けて配置してあり、上記コア表面部は、少なくとも上記第2コア部において上記出力タワー部の側に位置する上記開口端部に形成してあることが好ましい(請求項2)。
この場合には、高電圧ターミナルの絶縁を行う出力タワー部の側にコア表面部を形成し、絶縁固着樹脂によって最外殻ケースを構成することによって、点火コイルの絶縁性を高めることができる。
【0012】
また、点火コイルにおける各構成部品が繰り返し加熱・冷却されるときには、点火コイルにおける保持ケース及び絶縁固着樹脂は、一次コイル及び二次コイルの軸方向へ長く形成されているため、主に一次コイル及び二次コイルの軸方向へ膨張・収縮を繰り返す。このとき、絶縁固着樹脂が外周コアのコア表面部における内側面又は外側面に押し付けられることにより、点火コイル内部へ水が浸入することを防止することができる。
また、点火コイルにおいて、出力タワー部の側は、プラグホールの側に位置し、被水し易く水が溜り易い部分である。これに対し、出力タワー部の側に形成されたコア表面部を絶縁固着樹脂が覆っていることにより、点火コイル内部への水の浸入を効果的に防止することができる。
【0013】
また、上記外周コアにおいて少なくとも上記コア表面部を形成する部分における開口端面には、凹部又は凸部が当該外周コアの環状方向に沿って連続して形成してあり、上記コア表面部を覆う絶縁固着樹脂は、上記凹部又は凸部における内側面と外側面とに接触していることが好ましい(請求項3)。
この場合には、点火コイルの加熱時に各構成部品が膨張するとき、絶縁固着樹脂は、外周コアのコア表面部における内側面に押し付けられると共に凹部における外側面(又は凸部における内側面)に押し付けられる。一方、点火コイルの冷却時に各構成部品が収縮するとき、絶縁固着樹脂は、外周コアのコア表面部における外側面に押し付けられると共に凹部における内側面(又は凸部における外側面)に押し付けられる。これにより、点火コイル内部への水の浸入をより効果的に防止することができる。
なお、上記凹部又は凸部は、外周コアの環状方向に沿って、上記出力タワー部の側に位置する開口端面の全周又は一部に連続して形成することができる。
【0014】
また、上記点火コイルは、上記一対の第2コア部のうちの一方の第2コア部の軸方向外側に、上記一次コイルへの通電及びその遮断を行うためのスイッチング制御回路を備えたイグナイタを配置してなり、上記コア表面部は、上記一対の第2コア部のうちの他方の第2コア部における上記開口端部に形成してあることが好ましい(請求項4)。
この場合には、保持ケースと絶縁固着樹脂との界面が形成され、最も水が浸入し易い部分を保護することができる。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明の点火コイルにかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の点火コイル1は、図1に示すごとく、熱可塑性樹脂からなる保持ケース3と熱硬化性樹脂からなる絶縁固着樹脂4とによって、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23及び外周コア24を収容する最外殻ケースを構成している。
一次コイル21と二次コイル22とは、同一軸心状に内外周に重ねて配置されている。中心コア23は、軟磁性の磁性体から構成され、一次コイル21及び二次コイル22の内周側に配置されている。外周コア24は、軟磁性の磁性体から構成され、一次コイル21及び二次コイル22の外周側に配置されている。保持ケース3は、熱可塑性樹脂からなり、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23及び外周コア24を保持するよう構成されている。絶縁固着樹脂4は、熱硬化性樹脂からなり、保持ケース3と共に一次コイル21、二次コイル22、中心コア23及び外周コア24を収容する最外殻ケースを構成する。
【0016】
図1〜図3に示すごとく、外周コア24は、一次コイル21、二次コイル22及び中心コア23に対する径方向の両側に位置する一対の第1コア部24Aと、一次コイル21、二次コイル22及び中心コア23に対する軸方向Lの両側に位置する一対の第2コア部24Bとを連ねた環状の閉磁路を形成している。図5に示すごとく、環状の閉磁路を形成する外周コア24の開口側に位置する開口端部の一部は、保持ケース3によって覆われないコア表面部240を形成している。このコア表面部240は、絶縁固着樹脂4によって覆われており、コア表面部240を覆う絶縁固着樹脂4は、外周コア24における内側面241と外側面242とに接触している。
ここで、図1、図2は、点火コイル1の断面を示し、図3は、点火コイル1における各構成部品の配置を示す。図3においては、外周コア24を太線によって示し、他の構成部品を細線によって示す。
【0017】
以下に、本例の点火コイル1につき、図1〜図8を参照して詳説する。
図4に示すごとく、本例の点火コイル1は、内燃機関としてのエンジンに用いるものであり、エンジン(シリンダヘッド81及びシリンダヘッドカバー82)のプラグホール83の外部に横置き状態(プラグホール83の軸方向に対して一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lを直交させた状態)で配置して用いるものである。本例の点火コイル1は、エンジンのプラグホール83内に配置したスパークプラグ7に装着すると共に、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24等を配置したコイル本体部をプラグホール83の外部に横置き状態で配置して使用される。
【0018】
図1〜図3に示すごとく、点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22の内周側に、軟磁性材料からなる中心コア23を配置し、一次コイル21及び二次コイル22の外周側に、軟磁性材料からなる外周コア24を配置してなる。
一次コイル21は、中心コア23の外周に一次電線を直接巻回して形成してあり、二次コイル22は、一次コイル21の外周側において、樹脂製の二次スプール221に一次電線よりも細い二次電線を、一次電線よりも多い巻回数で巻回して形成してある。
本例の保持ケース3は、点火コイル1を外部機器と電気的に接続するためのコネクタ部32と、点火コイル1をエンジンに取り付けるための取付部33とを、外周コア24の外周側に配置した連結ケース部31によって連結して形成されている。連結ケース部31は、外周コア24の枠形状の外周側に配置する枠形状を有している。また、本例の点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向一方側にコネクタ部32を配置すると共に、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向他方側に取付部33を配置してなる。
【0019】
図1に示すごとく、本例の点火コイル1は、エンジンのプラグホール83内に配置する出力タワー部42を、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lに交差する外周方向へ突出させてなる。出力タワー部42は、絶縁固着樹脂4によって形成されており、二次コイル22の高電圧側巻線端部に接続される高電圧ターミナル26を収容してなる。外周コア24は、その開口側を出力タワー部42の突出側に向けて配置してある(枠形状の開口方向が出力タワー部42の形成方向と平行に配置されている。)。
【0020】
本例のコア表面部240は、保持ケース3の取付部33側に位置する第2コア部24Bと一対の第1コア部24Aとにおいて、一次コイル21及び二次コイル22に対して出力タワー部42の側に位置する開口端部に形成されている。
コネクタ部32は、イグナイタ27へのスイッチング信号を送信する導電ピン321、プラス電源を接続する導電ピン321、マイナス電源を接続する導電ピン321等を有している。取付部33は、エンジンに取り付けるためのボルトを挿通する貫通穴を形成してなる。
【0021】
図3に示すごとく、外周コア24は、中心コア23、一次コイル21及び二次コイル22の外側において、中心コア23の軸方向Lの両側の端面に各内側面241を対向させる状態で、枠形状(略四角形状の環形状)に形成されている。外周コア24は、上下に開口を位置させるよう保持ケース3の連結ケース部31内に配置してある。また、中心コア23と外周コア24の内側面241との間には、中心コア23及び外周コア24によって形成する磁気回路の特性を改善するための永久磁石とコアギャップ(間隙)とを設けることができる。
【0022】
図1〜図3に示すごとく、本例の外周コア24においては、コア表面部240が形成された出力タワー部42の側(プラグホール83の側)の開口端面(一対の第1コア部24A及び一対の第2コア部24B)の全周に、外周コア24の環状方向に沿って凹部243が連続して形成してある。
図5、図6は、外周コア24におけるコア表面部240を拡大して示す。図5に示すごとく、保持ケース3の取付部33側に位置する第2コア部24Bのプラグホール83の側の開口端部と、一対の第1コア部24Aのプラグホール83の側の開口端部とに形成されたコア表面部240は、絶縁固着樹脂4によって覆われている。このコア表面部240を覆う絶縁固着樹脂4は、取付部33側に位置する第2コア部24Bのコア表面部240における内側面241及び外側面242と、取付部33側に位置する第2コア部24Bのコア表面部240の凹部243における内側面245及び外側面246と、一対の第1コア部24Aのコア表面部240における内側面241及び外側面242と、一対の第1コア部24Aのコア表面部240の凹部243における内側面245及び外側面246とに接触している。
【0023】
なお、外周コア24の開口端面には、図6に示すごとく、凹部243の代わりに凸部244を形成することもできる。この場合にも、コア表面部240を覆う絶縁固着樹脂4は、外周コア24のコア表面部240における内側面241及び外側面242と、コア表面部240の凸部244における内側面245及び外側面246とに接触させることができる。
【0024】
本例の外周コア24は、圧粉材料を圧縮成形した圧粉コアから形成することができる。この場合、圧粉材料は、樹脂等の絶縁被膜を備える鉄系粉末から構成することができ、鉄系粉末としては、例えば、Fe−Si系合金粉末等を用いることができる。また、圧粉材料は、鉄系粉末に対してバインダーを含有させたものとすることができる。また、外周コア24は、電磁鋼板を積層して形成することもできる。
外周コア24を圧粉コアから形成することにより、上記凹部243又は凸部244を容易に形成することができる。
【0025】
図1、図2に示すごとく、本例の絶縁固着樹脂4は、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24及びイグナイタ27等を絶縁固着すると共に最外殻ケースを構成するコイルケース部41と、スパークプラグ7を圧入するためのゴム製のプラグキャップ51を装着する出力タワー部42とを形成している。
本例の点火コイルにおいては、保持ケース3における枠形状の連結ケース部31と、絶縁固着樹脂4によるコイルケース部41とによって、点火コイル1における最外殻ケースが形成されている。連結ケース部31は、外周コア24の開口方向の上側(出力タワー部42又はプラグホール83と反対側)の開口端面を覆っており、コイルケース部41は、連結ケース部31によって外周コア24が覆われた部分を除く残部を覆っている。
また、本例の絶縁固着樹脂4は、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24、高電圧金具25、高電圧ターミナル26、イグナイタ27、ダイオード28等の各構成部品を、保持ケース3に対して絶縁を行った状態で固着している。
【0026】
また、図4に示すごとく、プラグキャップ51内には、高電圧ターミナル26に導通されるコイルスプリング52が配置されている。点火コイル1は、コイルスプリング52にスパークプラグ7の端子部72を接触させると共に、プラグキャップ51内にスパークプラグ7の碍子部71を圧入して、シリンダヘッド81に螺合したスパークプラグ7に装着される。
【0027】
図1に示すごとく、本例の点火コイル1は、電子部品を樹脂によってモールド成形してなるイグナイタ27を内蔵しており、イグナイタ27は、ECU(エンジン制御ユニット)等の外部機器からの指令を受けて、一次コイル21への通電とその遮断とのスイッチングを行うスイッチング制御回路を備えている。イグナイタ27は、一対の第2コア部24Bのうちのコネクタ部32側に位置する一方の第2コア部24Bの軸方向Lの外側に配置されている。
また、二次スプール221には、二次コイル22の高電圧側巻線端部を接続した高電圧金具25が設けてあり、この高電圧金具25は、高電圧ターミナル26と導通している。また、二次スプール221には、一次コイル21に通電を行う際に二次コイル22に生ずる電圧を一次コイル21のプラス電源側又はグラウンドへ逃がすためのダイオード28が設けてある。
【0028】
本例の点火コイル1は、外周コア24と保持ケース3との中間の値の線膨張係数を有する絶縁固着樹脂4によって点火コイル1の最外殻ケースを構成することにより、絶縁耐久性を向上させている。
保持ケース3は外周コア24よりも線膨張係数が大きく、絶縁固着樹脂4は、保持ケース3と外周コア24との間の線膨張係数を有している。具体的には、外周コア24を構成する軟磁性材料の線膨張係数は、11×10-6(1/K)であり、保持ケース3を構成する樹脂であるPBT(ポリブチレンテレフタレート)の線膨張係数は、42×10-6(1/K)であり、絶縁固着樹脂4を構成する熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の線膨張係数は、22×10-6(1/K)である。
【0029】
本例の点火コイル1において、ECUからの指令を受けてイグナイタ27のスイッチング制御回路の動作により一次コイル21へ通電を行ったときには、中心コア23及び外周コア24を通過する磁界が形成される。次いで、一次コイル21への通電を遮断したときには、相互誘導作用により二次コイル22に高電圧の誘導起電力が発生し、点火コイル1に装着されたスパークプラグ7における一対の電極73間にスパークを発生させることができる(図4参照)。
【0030】
図7に示すごとく、本例の点火コイル1は、コイル組付体10を熱硬化性樹脂によってインサート成形して形成される。すなわち、本例においては、熱可塑性樹脂からなる保持ケース3に、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24及びイグナイタ27等を配置してコイル組付体10を形成し、図8に示すごとく、このコイル組付体10を成形型6内に配置した後、この成形型6内に熱硬化性樹脂を充填して絶縁固着樹脂4を成形する。コイル組付体10は、中心コア23、一次コイル21及び二次コイル22を、外周コア24の内側に配置し、この外周コア24を連結ケース部31の内側に配置して形成される。
そして、充填した熱硬化性樹脂を硬化させて絶縁固着樹脂4とし、絶縁固着樹脂4によって、点火コイル1における各構成部品の絶縁固着を行うと共に、保持ケース3の連結ケース部31を除く部分の最外殻ケースを形成する。
【0031】
図8に示すごとく、本例の成形型6は、金属製の金型であり、その内部にコイル組付体10を配置するキャビティ(空間)61を形成してなる。成形型6は、絶縁固着樹脂4を構成する熱硬化性樹脂の射出成形を行うよう構成してあり、成形型6には、上記キャビティ61に連通し、液状態の熱硬化性樹脂を射出する射出ノズルを配置するための注入口62が設けてある。
また、成形型6は、真空ポンプを設けた真空槽内に配置して、キャビティ61内の真空引きができるよう構成することができる。そして、コイル組付体10を配置したキャビティ61内を真空ポンプによって真空状態にした後、このキャビティ61の残部に熱硬化性樹脂を充填することができる。また、成形型6のキャビティ61の残部に熱硬化性樹脂を充填した後には、成形型6を加熱すると共に二次コイル22に通電を行って発熱させてコイル組付体10を加熱することにより、熱硬化性樹脂を硬化させて、絶縁固着樹脂4とすることができる。
【0032】
本例の点火コイル1においては、外周コア24に、一対の第1コア部24Aと一対の第2コア部24Bとを連ねた環状の閉磁路を形成したものを用いており、外周コア24の取付部33側に位置する第2コア部24Bの出力タワー部42側の開口端部と、一対の第1コア部24Aの出力タワー部42側の開口端部とに、意図的に保持ケース3によって覆われないコア表面部240を形成している。また、このコア表面部240には、外周コア24の環状方向に沿って凹部243を連続して形成している。
そして、コア表面部240を絶縁固着樹脂4によって覆い、このコア表面部240を覆う絶縁固着樹脂4をコア表面部240における内側面241及び外側面242と、コア表面部240における凹部243の内側面245及び外側面246とに接触させている。
【0033】
点火コイル1がその点火動作を行う際に加熱されて各構成部品が膨張するとき、又は点火コイル1が点火動作を行った後に冷却されて各構成部品が収縮するときには、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との線膨張係数の違いにより、保持ケース3と絶縁固着樹脂4とがこれらの界面P(図5参照)において剥離するおそれがある。この界面Pにおける剥離は、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lに位置する、外周コア24の第2コア部24Bの表面コア部240の周辺において形成され易い。この理由は、点火コイル1における保持ケース3及び絶縁固着樹脂4は、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lへ長く形成されており、点火コイル1における各構成部品が繰り返し加熱・冷却されるときには、保持ケース3、絶縁固着樹脂4等の各構成部品は、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lへより多く膨張・収縮を繰り返すためである。
【0034】
また、点火コイル1において、出力タワー部42の側は、プラグホール83の側に位置し、被水し易く水が溜り易い部分である。そのため、出力タワー部42の側において界面Pが形成されたときには、この界面Pから点火コイル1の内部へ水が浸入するおそれが増大する。
これに対し、本例の点火コイル1においては、出力タワー部42の側に形成されたコア表面部240を絶縁固着樹脂4が覆い、コア表面部240の開口端面に凹部243が形成されていることにより、点火コイル1の内部への水の浸入を効果的に防止することができる。
【0035】
すなわち、点火コイル1の各構成部品が膨張するとき、外周コア24に比べて線膨張係数が大きい絶縁固着樹脂4は外周コア24よりも多く膨張し、絶縁固着樹脂4は、外周コア24のコア表面部240における内側面241と、コア表面部240の凹部243における外側面246とに押し付けられる。一方、点火コイル1の冷却時に各構成部品が収縮するとき、絶縁固着樹脂4は、外周コア24のコア表面部240における外側面242と、コア表面部240の凹部243における内側面245に押し付けられる。これにより、保持ケース3と絶縁固着樹脂4との界面Pから、点火コイル1の内部へ水が浸入することを防止することができる。
【0036】
なお、図6に示すごとく、外周コア24の開口端面に凸部244を形成した場合には、
コア表面部240に対して絶縁固着樹脂4が次のように作用する。すなわち、各構成部品が膨張するとき、絶縁固着樹脂4は、外周コア24のコア表面部240における内側面241に押し付けられると共に凸部244における内側面245に押し付けられる一方、各構成部品が収縮するとき、絶縁固着樹脂4は、外周コア24のコア表面部240における外側面242に押し付けられると共に凸部244における外側面246に押し付けられる。
【0037】
また、本例においては、外周コア24の開口端面に対する凹部243又は凸部244は、出力タワー部42側の開口端面に形成した。これ以外にも、凹部243又は凸部244は、出力タワー部42側とは反対側の開口端面にも形成して、外周コア24を開口方向において対称形状にすることもできる。
【0038】
それ故、本例の点火コイル1によれば、仮に保持ケース3と絶縁固着樹脂4との界面Pが剥離して、点火コイル1の加熱時又は冷却時にその内部へ水が浸入するおそれがある場合でも、絶縁固着樹脂4と、外周コア24のコア表面部240における内側面241及び凹部243における外側面246との間、あるいは絶縁固着樹脂4と、外周コア24のコア表面部240における外側面242及び凹部243における内側面245との間が密閉されることによって、水の浸入を効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 点火コイル
10 コイル組付体
21 一次コイル
22 二次コイル
23 中心コア
24 外周コア
240 コア表面部
24A 第1コア部
24B 第2コア部
241 内側面
242 外側面
243 凹部
244 凸部
245 内側面
246 外側面
3 保持ケース
4 絶縁固着樹脂
42 出力タワー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した軟磁性の中心コアと、
上記一次コイル及び二次コイルの外周側に配置した軟磁性の外周コアと、
熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル、上記二次コイル、上記中心コア及び上記外周コアを保持する保持ケースと、
熱硬化性樹脂からなり、上記保持ケースと共に上記一次コイル、上記二次コイル、上記中心コア及び上記外周コアを収容する最外殻ケースを構成する絶縁固着樹脂とを備えており、
上記外周コアは、上記一次コイル、上記二次コイル及び上記中心コアに対する径方向の両側に位置する一対の第1コア部と、上記一次コイル、上記二次コイル及び上記中心コアに対する軸方向の両側に位置する一対の第2コア部とを連ねた環状の閉磁路を形成しており、
該環状の閉磁路を形成する外周コアの開口側に位置する開口端部の少なくとも一部は、上記保持ケースによって覆われないコア表面部を形成しており、
該コア表面部は、上記絶縁固着樹脂によって覆われており、該コア表面部を覆う絶縁固着樹脂は、該コア表面部における内側面と外側面とに接触していることを特徴とする点火コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の点火コイルにおいて、上記点火コイルは、上記二次コイルの高電圧側巻線端部に接続される高電圧ターミナルを収容してエンジンのプラグホール内に配置される出力タワー部を、上記絶縁固着樹脂によって形成して、上記一次コイル及び二次コイルの軸方向に交差する外周方向へ突出させてなり、
上記外周コアは、その開口側を上記出力タワー部の突出側に向けて配置してあり、
上記コア表面部は、少なくとも上記第2コア部において上記出力タワー部の側に位置する上記開口端部に形成してあることを特徴とする点火コイル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の点火コイルにおいて、上記外周コアにおいて少なくとも上記コア表面部を形成する部分における開口端面には、凹部又は凸部が当該外周コアの環状方向に沿って連続して形成してあり、
上記コア表面部を覆う絶縁固着樹脂は、上記凹部又は凸部における内側面と外側面とに接触していることを特徴とする点火コイル。
【請求項4】
請求項3に記載の点火コイルにおいて、上記点火コイルは、上記一対の第2コア部のうちの一方の第2コア部の軸方向外側に、上記一次コイルへの通電及びその遮断を行うためのスイッチング制御回路を備えたイグナイタを配置してなり、
上記コア表面部は、上記一対の第2コア部のうちの他方の第2コア部における上記開口端部に形成してあることを特徴とする点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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