説明

無アルカリガラスの製造方法

【課題】未融解珪砂の発生が少なく均質性に優れ、しかもガラス中に泡が少ない無アルカリガラスを得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】珪素源を含有するガラス原料を溶融し、ガラスを得る無アルカリガラスの製造方法において、前記ガラス原料に、粒径D50が5〜150μm、かつ粒径D90が50〜500μmのSrCO及び、粒径D50が50〜500μm、かつ粒径D90が300〜1000μmのSrClを用いることを特徴とする無アルカリガラスの製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等のディスプレイ用のガラス基板には、アルカリ金属が実質的に含まれないことが要求されるため、該ガラス基板としては、無アルカリガラスが用いられている。
また、該ガラス基板には、耐薬品性、耐久性が高いこと、ガラス中に泡が少ないこと、均質性が高く、平坦度が高いことが要求される。
【0003】
ところで、無アルカリガラスのガラス原料には、アルカリ金属化合物が実質的に含まれていないため、該ガラス原料は溶融しにくい。そのため、従来から、ガラス原料の主成分である珪砂として、粒径の小さいものを用いる必要があると言われている。しかし、粒径の小さな珪砂を含むガラス原料を溶融させると、珪砂の微粒子同士が凝集して粗大な二次粒子を形成する場合があり、ガラス原料が完全に溶融しない場合があった。
【0004】
また、無アルカリガラスに溶解性、耐薬品性および耐久性を付与するために、ガラス組成中にBを含ませる場合がある。Bの原料としては、安価で入手しやすい点から、オルトホウ酸(単にホウ酸とも呼ばれる。)が用いられている。しかし、オルトホウ酸を含むガラス原料を用いると、珪砂の微粒子が更に凝集しやすくなる。これにより、溶融窯内の溶融ガラスの温度が不安定になる場合や、溶融ガラスの循環・滞留時間が不安定になる場合があった。
【0005】
珪砂の微粒子の凝集が起きると、溶融ガラスの均質性が悪くなるため、成形された無アルカリガラスの均質性、平坦度が低くなる。また、溶融窯における溶融ガラスの循環・滞留時間が不安定になると、清澄剤によって溶融窯内の溶融ガラスから泡が抜ける前に、溶融ガラスの一部が溶融窯から流出してしまう場合もある。また、ガラス原料の溶融が不均一なため、遅れて溶融した珪砂に対する清澄剤の効果が不充分となり、溶融ガラスから泡が充分に抜けない事態が起きる。
【0006】
無アルカリガラスの均質性を向上させることを目的に、アルカリ土類金属化合物(炭酸ストロンチウムおよびドロマイト。)の粒径が制御されたガラス原料が提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1に記載されたガラス原料は、遅れて溶融する珪砂について何ら考慮していない。珪砂の溶融が遅れると、未融解状態の珪砂が、ガラス融液中に発生した泡に捕捉されてガラス融液の表層近くに集まり、これによりガラス融液の表層とそれ以外の部分とにおけるSiO成分の組成比に差が生じ、ガラスの均質性が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−40641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、未融解珪砂の発生が少なく均質性に優れ、しかもガラス中に泡が少ない無アルカリガラスを得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、珪素源を含有するガラス原料を溶融し、ガラスを得る無アルカリガラスの製造方法において、前記ガラス原料に、粒径D50が5〜150μm、かつ粒径D90が50〜500μmのSrCO及び、粒径D50が50〜500μm、かつ粒径D90が300〜1000μmのSrClを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無アルカリガラスの製造方法によれば、珪砂の溶融性及び均質性に優れ、しかもガラス中に泡が少ない無アルカリガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例におけるガラスの製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態である無アルカリガラスの製造方法について説明する。
本発明に係る無アルカリガラスは、珪素源、アルカリ土類金属源及びホウ素源を含有するガラス原料を溶融し、成形することによって製造する。具体的には、たとえば以下のようにして製造する。
(i)珪素源、ホウ素源、炭酸ストロンチウム(SrCO)、塩化ストロンチウム(SrCl)を含み、好ましくはフッ化カルシウム(CaF)を含み、必要に応じてAl等を含み、目標とする無アルカリガラスの組成となるように原料を混合してガラス原料を調製する。なお、原料としての炭酸ストロンチウムは、本来SrCl・6HOであるが、本発明では単にSrClと記載する。
(ii)該ガラス原料、および必要に応じて、目標とする無アルカリガラスの組成と同じ組成のカレットを、溶融窯のガラス原料投入口から溶融窯内に連続的に投入し、1500〜1600℃にて溶融させ溶融ガラスとする。なお、カレットとは、ガラスの製造の過程等で排出されるガラス屑である。
(iii)該溶融ガラスを、フロート法等の公知の成形法により所定の厚さとなるようにガラス板を成形する。
(iv)成形されたガラス板を徐冷した後、所定の大きさに切断し、板状の無アルカリガラスを得る。
【0013】
(珪素源)
無アルカリガラスを製造する際のガラス原料に含有される珪素源としては、珪砂を用いる。珪砂は、ガラスの製造に用いられるものであればどのようなものでもよいが、本実施形態では特に、粒径D50が20μm〜80μmの範囲であり、粒径2μm以下の粒子の割合が0.3体積%以下であり、粒径100μm以上の粒子の割合が2.5体積%以下である珪砂を用いることが好ましい。珪砂の凝集を容易に抑えて溶融させることができ、泡が少なく、均質性、平坦度が高い無アルカリガラスが得られるからである。
また、珪砂の粒径D50は、50μm以下であり、粒径100μm以上の粒子の割合が2.5体積%を超えないことがより好ましい。また、粒径D50は、30μm以下が好ましく、27μm以下がより好ましく、25μm以下が特に好ましい。粒径D50が30μm以下であれば、珪砂の溶融がより容易になるのでさらに好ましい。
また、珪砂における粒径は、100μm以上の粒子の割合が0%であること、また、2μm以下の粒子の割合が0%であることが珪砂の溶融がより容易になるので特に好ましい。
【0014】
なお、本明細書における「粒径」とは球相当径であって、具体的にはレーザー回折/散乱法によって計測された粉体の粒度分布における粒径をいう。
また、本明細書における粒径D50(メディアン粒径)とは、レーザー回折法/散乱法によって計測された粉体の粒度分布において、累積頻度が50%のときの粒子径をいう。
同様に、粒径D90(メディアン粒径)とは、レーザー回折法/散乱法によって計測された粉体の粒度分布において、累積頻度が90%のときの粒子径をいう。
また、本明細書における「粒径2μm以下の粒子の割合」及び「粒径100μm以上の粒子の割合」は、例えば、レーザー回折/散乱法によって粒度分布を計測することにより測定される。
【0015】
(ホウ素源)
次に、ホウ素源としてのホウ素化合物は、オルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸(HBO)、四ホウ酸(H)、無水ホウ酸(無水B)等が挙げられる。
通常の無アルカリガラスの製造においては、安価で、入手しやすい点から、オルトホウ酸が用いられる。
【0016】
本発明では、ホウ素源100質量%(B換算)のうち、無水ホウ酸を10〜100質量%(B換算)含有することが好ましい。ガラス原料の凝集が抑えられ、さらなる泡の低減効果、均質性、平坦度の向上効果が得られるからである。無水ホウ酸のより好ましい範囲は、20〜100質量%、さらに好ましくは40〜100質量%の範囲である。
【0017】
なお、ホウ素源として無水ホウ酸を用いると、ガラス中の水分量を減少させることが可能になる。ガラス原料中に例えば、粒径D50が50μm以下または30μm以下の珪砂が含まれると、珪砂の溶解性が高まる反面、溶融ガラス中の水分量が増加する傾向になる。溶融ガラス中の水分は、例えばフロート法において、ガラス原料の溶融工程後に減圧脱泡工程を設けた場合に、この減圧脱泡工程において泡を大きくし、泡の浮上速度を増大させるガラスの清澄成分である。しかし、水分量が過剰になると、減圧脱泡工程を経ても泡が完全に取り除かれず、無アルカリガラスの均質性及び平坦度が悪化する可能性がある。溶融ガラス中の水分量が過剰になる場合には、ホウ素源として無水ホウ酸を添加することで、ガラス中の水分量を制御してもよい。例えば上述のように、ガラス原料中に粒径D50が50μm以下または30μm以下の珪砂を含ませることよって、泡の発生が過剰となるおそれがある場合には、ホウ素源の一部または全部に無水ホウ酸を用いるとよい。
【0018】
更に、ガラス原料がアルカリ土類金属化合物を含むとともにホウ素源としてオルトホウ酸を含む場合、ガラス原料投入口にて加熱されたオルトホウ酸から水分子が1つ失われてメタホウ酸となり、このメタホウ酸が、150℃以上で液化してアルカリ土類金属化合物と接触する。これにより、溶解窯のガラス原料投入口にて溶融したオルトホウ酸と、アルカリ土類金属化合物とが凝集する場合がある。メタホウ酸とアルカリ土類金属化合物との凝集を抑えるためには、メタホウ酸からさらに水分子が失われた状態である無水ホウ酸を用いればよい。これにより、さらに泡が少なく、さらに均質性及び平坦度が高い無アルカリガラスを得ることができる。
【0019】
(アルカリ土類金属源)
アルカリ土類金属源としては、アルカリ土類金属化合物を用いる。ここでアルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr及びBa元素を例示できる。
【0020】
(炭酸ストロンチウム)
無アルカリガラスを製造する際にガラス化温度を低下させるために、炭酸ストロンチウム(SrCO)を用いるが、本実施形態では、粒径D50が5〜150μm、かつ粒径D90が50〜500μmの炭酸ストロンチウム(SrCO)を用いる。好ましくは、粒径D50が5〜50μmであり、より好ましくは5〜30μm、かつ粒径D90が50〜460μmの範囲である。
【0021】
(塩化ストロンチウム)
溶融性、清澄性等を高めるために、清澄剤の一成分として塩化ストロンチウム(SrCl)を用いる。本実施形態では、粒径D50が50〜500μm、かつ粒径D90が300〜1000μmの塩化ストロンチウム(SrCl)を用いる。好ましくは、粒径D50が50〜250μm、かつ粒径D90が300〜500μmの範囲である。
【0022】
(フッ化カルシウム)
さらに、清澄剤の一成分としてフッ化カルシウム(CaF)を用いることが好ましい。本実施形態では、粒径D50が4〜40μm、かつ粒径D90が40〜130μmのフッ化カルシウム(CaF)を用いることが好ましい。より好ましくは、粒径D50が4〜20μm、かつ粒径D90が40〜80μmの範囲である。
【0023】
上記範囲にそれぞれ調製された炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、フッ化カルシウムを用いた場合の推定メカニズムについて説明する。
まず、原料溶解過程の500℃付近までの間に、珪素源である珪砂(SiO)とホウ素源であるオルトホウ酸(HBO)やその他のホウ酸とが反応してボロシリケートが形成され、HO脱離が生じる。
次に、高温下でのHOの存在により、塩化ストロンチウムは、下記(1)式に示すように一部分解して、塩化水素(HCl)が発生する。
SrCl+HO → SrO+2HCl …(1)
【0024】
さらに、上記塩化水素と炭酸ストロンチウムとが反応して、下記(2)式に示すような酸による炭酸塩分解反応が生じたと推定される。
SrCO → SrO+CO …(2)
(HCl)
【0025】
一方、高温下でのHOの存在により、フッ化カルシウムは、下記(3)式に示すように一部分解して、フッ化水素(HF)が発生する。
CaF+HO → CaO+2HF …(3)
【0026】
さらに、上記フッ化水素と炭酸ストロンチウムとが反応して、下記(4)式に示すような酸による炭酸塩分解反応が生じたと推定される。
SrCO → SrO+CO …(4)
(HF)
【0027】
上述のように、清澄剤の成分である塩化ストロンチウム及びフッ化カルシウムは、上記範囲の粒径となるように粉砕して用いることにより、本来の清澄作用(1500℃付近)に加えて、500℃付近では炭酸ストロンチウムの分解を促進する作用が発現し、融解しにくい炭酸ストロンチウムの融解温度を低温化させると考えられる。これにより、珪砂とガラス融液との反応が加速され、珪砂が溶融しやすくなる。炭酸ストロンチウムの粒径が上記範囲に調製されており、かつ清澄剤の成分として粒径が上記範囲にそれぞれ調製された塩化ストロンチウム、さらにはフッ化カルシウムを用いた場合は、炭酸ストロンチウムの融解温度が低温化して珪砂を溶かし易くなるため、未融解珪砂が減少し、結果として均質な無アルカリガラスを製造することが可能となる。
【0028】
その他のアルカリ土類金属化合物の具体例としては、MgCO、CaCO、BaCO、(Mg,Ca)(CO(ドロマイト)等の炭酸塩や、MgO、CaO、BaO等の酸化物や、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Sr(OH)等の水酸化物を例示できる。
【0029】
また、上述のように、溶融ガラス中の水分量を減少するために、ガラス原料中おけるホウ素源の一部または全部を無水ホウ酸とすると、溶融ガラス中の水分量が過剰に低下し、減圧脱泡工程において泡が小さくなり、泡の浮上速度が低下する場合がある。この場合には、溶融ガラス中の水分量を補うために、アルカリ土類金属の水酸化物を添加するとよい。但し、Sr源については、Sr(OH)ではSr源100質量%に対し、15質量%以下であることが好ましい。
【0030】
(他の原料)
他の原料としては、Al等が挙げられる。また、溶融性、清澄性、成形性を改善するため、CaSO、ZnO、SnOを含有させてもよい。
なお、原料としてのCaSOは、本来CaSO・2HOと記載するが、本明細書では単にCaSOと記載する。原料の初期溶解時の珪砂の解けやすさを考慮すると、粒径D50が10〜200μm、特に50〜180μm、粒径D90が250〜500μm、特に300〜400μmの範囲が好ましい。
【0031】
(ガラス原料)
ガラス原料は、前記各原料を混合した粉末状の混合物である。
【0032】
目標とするガラス組成となるように原料を調製する。ガラス組成としては、後述の無アルカリガラス組成(1)が好ましく、無アルカリガラス組成(2)又は(3)が特に好ましい。
【0033】
(無アルカリガラス)
本発明の製造方法にて得られる無アルカリガラスは、その組成に、珪素源に由来するSiOを含有する。また、無アルカリガラスとは、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスをいう。
【0034】
以下、無アルカリガラスの好ましい組成について説明する。
【0035】
無アルカリガラスは、ディスプレイ用ガラス基板としての特性(熱膨張係数25×10−7〜60×10−7/℃、耐薬品性、耐久性等。)を有し、板ガラスへの成形に適している点から、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(1)の無アルカリガラスが好ましい。
無アルカリガラス(100質量%)のうち、SiO:50〜66質量%、Al:10.5〜22質量%、B:0〜12質量%、MgO:0〜8質量%、CaO:0〜14.5質量%、SrO:0〜24質量%、BaO:0〜13.5質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:9〜29.5質量%・・・(1)。
【0036】
また、無アルカリガラスは、歪点が640℃以上であり、熱膨張係数、密度が小さく、エッチングに用いられるバッファードフッ酸(BHF)による白濁が抑えられ、塩酸等の薬品への耐久性も優れ、溶融・成形が容易で、フロート法による成形に適している点から、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(2)の無アルカリガラスが特に好ましい。
無アルカリガラス(100質量%)のうち、SiO:58〜66質量%、Al:15〜22質量%、B:5〜12質量%、MgO:0〜8質量%、CaO:0〜9質量%、SrO:3〜12.5質量%、BaO:0〜2質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:9〜18質量%・・・(2)。
【0037】
SiOを58質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの歪点が向上し、耐薬品性が良好となり、また熱膨張係数が低下する。SiOを66質量%以下とすることにより、ガラスの溶融性が良好となり、失透特性が良好となる。
【0038】
Alを15質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの分相が抑えられ、熱膨張係数が低下し、歪点が向上する。また、Alを22質量%以下とすることにより、ガラスの溶融性が良好となる。
【0039】
は、BHFによる無アルカリガラスの白濁を抑え、高温での粘性を高くせずに無アルカリガラスの熱膨張係数および密度を低下させる。
を5質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの耐BHF性が良好となる。また、Bを12質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの耐酸性が良好となるとともに歪点が向上する。
【0040】
MgOは、無アルカリガラスの熱膨張係数、密度の上昇を抑えて、ガラス原料の溶融性を向上させる。
MgOを8質量%以下とすることにより、BHFによる白濁を抑え、無アルカリガラスの分相を抑える。
【0041】
CaOは、ガラス原料の溶融性を向上させる。
CaOを9質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの熱膨張係数が低下し、失透特性が良好となる。
【0042】
SrOを3質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの分相が抑えられ、BHFによる無アルカリガラスの白濁が抑制される。また、SrOを12.5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの熱膨張係数が低下する。
【0043】
BaOは、無アルカリガラスの分相を抑え、溶融性を向上させ、失透特性を向上させる。
BaOを2質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの密度が低下し、熱膨張係数が低下する。
【0044】
MgO+CaO+SrO+BaOを9質量%以上とすることにより、ガラスの溶融性が良好となる。MgO+CaO+SrO+BaOを18質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの密度が低下する。
【0045】
また、本発明における無アルカリガラスは、ディスプレイ用のガラス基板としての特性に優れ、耐還元性、均質性、泡抑制に優れ、フロート法による成形に適している点から、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(3)の無アルカリガラスが特に好ましい。
無アルカリガラス(100質量%)のうち、SiO:50〜61.5質量%、Al:10.5〜18質量%、B:7〜10質量%、MgO:2〜5質量%、CaO:0〜14.5質量%、SrO:0〜24質量%、BaO:0〜13.5質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:16〜29.5質量%・・・(3)。
【0046】
上記組成の組合せにおいては、SiOを50質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの耐酸性が良好となり、密度が低下し、歪点が向上し、熱膨張係数が低下し、ヤング率が向上する。SiOを61.5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの失透特性が良好となる。
【0047】
また、Alを10.5質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの分相を抑え、歪点を上げ、ヤング率を向上させる。また、Alを18質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの失透特性、耐酸性および耐BHF性が良好となる。
【0048】
を7質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの密度を低下させ、耐BHF性を向上させ、溶融性を向上させ、失透特性が良好となり、熱膨張係数を低下させる。また、Bを10質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの歪点が向上し、ヤング率が高まり、耐酸性が良好となる。
【0049】
MgOを2質量%以上とすることにより、無アルカリガラスの密度を低下させ、熱膨張係数を高くすることなく、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる。また、MgOを5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの分相が抑えられ、失透特性、耐酸性および耐BHF性が良好となる。
【0050】
CaOは、無アルカリガラスの密度を高くすることなく、熱膨張係数を高くすることなく、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる。
CaOを14.5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの失透特性が良好となり、熱膨張係数が低下し、密度が低下し、耐酸性および耐アルカリ性が良好となる。
【0051】
SrOは、無アルカリガラスの密度を高くすることなく、熱膨張係数を高くすることなく、歪点を過大に低下させず、溶融性を向上させる。
SrOを24質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの失透特性が良好となり、熱膨張係数が低下し、密度が低下し、耐酸性および耐アルカリ性が良好となる。
【0052】
BaOは、無アルカリガラスの分相を抑え、失透特性を向上させ、耐薬品性を向上させる。
BaOを13.5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの密度が低下し、熱膨張係数が低下し、ヤング率が上がり、溶融性が良好となり、耐BHF性が良好となる。
【0053】
MgO+CaO+SrO+BaOを16質量%以上とすることにより、ガラスの溶融性が良好となる。MgO+CaO+SrO+BaOを29.5質量%以下とすることにより、無アルカリガラスの密度、熱膨張係数が低下する。
【0054】
組成(1)〜(3)においては、溶融性、清澄性、成形性を改善するため、ZnO、SO、F、Cl、SnOを総量で無アルカリガラス(100質量%)のうち5質量%以下含有すると好ましい。特に、Clを0.001〜1%、より好ましくは0.001〜0.3%含有すると好ましい。また、Fを0.001〜1%、より好ましくは0.001〜0.2%含有すると好ましい。また、SOは、10〜100ppm含有すると好ましい。また、カレットの処理に多くの工数が必要となるため、PbO、As、Sbを、不純物等として不可避的に混入するものを除き含有しない(即ち、実質的に含有しない)ことが好ましい。
【実施例】
【0055】
酸化物基準の質量百分率表示で、実質的BaOを含有せず、SiO:59質量%、Al:18質量%、B:8質量%、MgO:3質量%、CaO:4質量%、SrO:8質量%の組成(組成2)の無アルカリガラスとなるように、珪素源、アルカリ土類金属源、ホウ素源、およびその他の原料を調製してガラス母組成原料とし、さらに清澄剤として、得られるガラスの100質量%に対し、Clを濃度換算で0.2質量%、Fを濃度換算で0.1質量%、SOを濃度換算で10〜100ppm含有するように原料を調製して、ガラス原料とした。
【0056】
アルカリ土類金属として、以下の表1に示す粒径のSrCO、SrCl、CaF、CaSOのほか、ドロマイト、Mg(OH)を用いた。また、珪素源として、表1に示す粒径の珪砂を用いた。更に、ホウ素源として、例6には無水ホウ酸(無水B)を、例6以外にはオルトホウ酸(HBO)を用いた。尚、表1のD50、D90、粒径100μm以上の珪素の割合、粒径2μm以下の珪素の割合は、レーザー回折法/散乱法により粒径分布を計測し、測定した。
【0057】
表1の例1,2は、次のように原料の調製を行った。
<例1〜7(実施例)>
SrCO、SrCl、CaF、CaSOをそれぞれ個別に乳鉢で粉砕し、個別に湿潤雰囲気(露点80℃)下で12時間保管し、その後、他の原料と混合した。
<例8(比較例)>
SrCO、SrCl、CaF、CaSOを特に粉砕は行わず、他の原料と混合し、湿潤雰囲気(露点80℃)下で12時間保管した。
【0058】
図1(a)に示すように、ガラス化後の質量が250gとなる量のガラス原料12を、高さ90mm、外径70mmの有底円筒形の、白金ロジウム製の坩堝14に入れた。該坩堝14を加熱炉に入れ、強制的に坩堝14内を撹拌することなく、加熱炉の側面から露点80℃の空気を吹き込みながら1550℃(ガラス粘度ηがlogη=2.5に相当する温度)で1時間加熱し、ガラス原料12を溶融させた。溶融ガラスを坩堝14ごと冷却した後、図1(b)に示すように、坩堝14内の無アルカリガラス16の中央部から縦24mm、横35mm、厚さ1mmのサンプル18を切り出した。
【0059】
サンプル18の中央部における縦24mm、横10mmの領域について、ガラス内に残存する泡の数を数え、ガラス1g当たりの泡の数を求めた。また、ガラス原料を溶解した際に、溶融せずに残存した珪砂(未融解珪砂)の割合を求めた。未融解珪砂は、250gの原料を長さ400mm×幅20mmの白金ボートに添加し800〜1500℃の温度傾斜をつけた炉で1時間加熱した後に1400〜1500℃の温度域のガラス表面に残存する珪砂の占有面積によって測定した。尚、原料が目視で半分以上ガラス化する温度を溶融開始温度とする。これらの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
ガラス中の泡数は、1gあたり100個以下が好ましい。また、溶融開始温度は、1120℃以下が好ましい。さらに、未融解珪砂の割合は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下が特に好ましい。したがって、表1に示すように、例1〜7(実施例)は、未融解珪砂の割合が少なくなっており、均一性に優れることが分かる。また、泡数も少なくなっている。
例8(比較例)では、SrCO、SrCl、CaF、CaSO各原料の粒径が例1〜7(実施例)と比較して粗粒であるため、珪砂とこれらアルカリ土類成分との反応が妨げられたと考えられる。
【0062】
(無アルカリガラスの製造)
本発明の実施例のガラス組成になるように本発明の原料を調製し、該原料を溶融窯に投入し、1500〜1600℃で溶解して溶融ガラスとする。該溶融ガラスをフロート法により板ガラスに成形し、徐冷した後、所定の大きさに切断し、板状の無アルカリガラスを得る。
未融解珪砂の発生が少なく均質性に優れ、ガラス中の泡が少ない無アルカリガラスが得られる。
【符号の説明】
【0063】
12…ガラス原料
14…坩堝
16…ガラス
18…サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素源を含有するガラス原料を溶融し、ガラスを得る無アルカリガラスの製造方法において、
前記ガラス原料に、粒径D50が5〜150μm、かつ粒径D90が50〜500μmのSrCO及び、粒径D50が50〜500μm、かつ粒径D90が300〜1000μmのSrClを用いることを特徴とする無アルカリガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料に、粒径D50が4〜40μm、かつ粒径D90が40〜130μmのCaFを用いることを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス原料が、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(1)の無アルカリガラスとなるガラス原料である請求項1又は請求項2に記載の無アルカリガラスの製造方法。
SiO:50〜66質量%、Al:10.5〜22質量%、B:0〜12質量%、MgO:0〜8質量%、CaO:0〜14.5質量%、SrO:0〜24質量%、BaO:0〜13.5質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:9〜29.5質量%・・・(1)。
【請求項4】
前記ガラス原料が、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(2)の無アルカリガラスとなるガラス原料である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無アルカリガラスの製造方法。
SiO:58〜66質量%、Al:15〜22質量%、B:5〜12質量%、MgO:0〜8質量%、CaO:0〜9質量%、SrO:3〜12.5質量%、BaO:0〜2質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:9〜18質量%・・・(2)。
【請求項5】
前記ガラス原料が、酸化物基準の質量百分率表示で下記組成(3)の無アルカリガラスとなるガラス原料である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無アルカリガラスの製造方法。
SiO:50〜61.5質量%、Al:10.5〜18質量%、B:7〜10質量%、MgO:2〜5質量%、CaO:0〜14.5質量%、SrO:0〜24質量%、BaO:0〜13.5質量%、MgO+CaO+SrO+BaO:16〜29.5質量%・・・(3)。

【図1】
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【公開番号】特開2010−132541(P2010−132541A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254051(P2009−254051)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】