説明

無機中空担体および該担体を用いた機能性材料

【課題】軽量でかつ耐熱性に優れた担体と、該担体を用いた機能性材料を提供する。
【解決手段】機能成分を保持ないし固定する担体であって、シリカ質の中空微粒子からなることを特徴とする無機中空担体であり、好ましくは、容重0.15〜0.35g/cm3であって、内部空間に隔壁を有し、また内部空間が微粒子表面に開口を有しない独立気泡によって形成されており、平均粒径が50μm以下の中空微粒子が用いられる無機中空担体および該担体に機能成分として触媒活性物質ないし吸着物質が担持された機能性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量でかつ耐熱性に優れた担体と、該担体を用いた機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒や吸着材などの機能成分を安定に存在させるために機能成分を保持ないし固定する担体が用いられる。担体は化学的、物理的に安定した物質で、機能性を持つ物質の機能を阻害しないことが求められる。このため、アルミナやシリカなどの材質がよく用いられている。
【0003】
担体の形状は多様であり、球状、ペレット、ハニカム状などの各種の形状が用いられている。触媒などの機能性物質がこれらの表面に保持ないし固定して使用される。これらは強度特性や耐摩耗性、耐熱性、反応物質による耐腐食性等の耐久性に優れているものでなければならない。また、ハンドリング等の面から軽量であることが好ましい。
【0004】
機能性物質の一種である触媒は、1000℃以上の高温で使用されるものが多くある。例えば、自動車の排ガス浄化用の触媒として、排ガス中の炭化水素、COを酸化して水と炭酸ガスにし、同時にNOxを還元する3元触媒が用いられておれり、触媒成分として白金、パラジウム等が使用される。自動車用の触媒としては排ガス温度が極めて高くなるため、1000℃以上の高温が作用しても劣化しない触媒担体が求められている。
【0005】
これらの担体は、強度や熱特性、ハンドリング性能を改良するために、主にアルミナやシリカを加工して形成されており、高純度の原料を使用し、加工や合成に手間がかかるのでコスト高になる。
【0006】
一方、安価な担体として、天然資源であるケイソウ土や産業廃棄物を使用したものが知られている。具体的には、産業廃棄物として石炭火力発電所の副産物である石炭灰を使用するものが知られている。これは真球状であり、一部未燃炭素の発泡により空洞がある微粒子が存在する。これを用いて酸化チタン等を担持させ、空気の浄化に用いている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−152368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のシリカやアルミナを用いた担体は、高純度の材料を使用しているため、コストが高い。さらに担体に機能材料を保持ないし固定した機能材料を製造するには製造工程が複雑になりやすいと云う問題がある。
【0009】
一方、天然資源であるケイソウ土や石炭灰等の産業廃棄物を使用した場合には、成分、形状のばらつきが大きく、特に石炭灰は炭種によって成分が異なり、強度や耐熱温度にばらつきがあり、成分や形状の安定な担体を得るのが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す構成によって上記問題を解決した無機担体と、該担体を用いた機能材料に関する。
〔1〕機能成分を保持ないし固定する担体であって、シリカ質の中空微粒子からなることを特徴とする無機中空担体。
〔2〕容重が0.15〜0.35g/cm3の中空微粒子が用いられる上記[1]に記載する無機中空担体。
〔3〕殻の最も薄い部分の厚さが0.5〜5μmの中空微粒子が用いられる上記[1]または上記[2]に記載する無機中空担体。
〔4〕内部空間に隔壁を有する中空微粒子が用いられる上記[1]〜上記[3]に記載する無機中空担体。
〔5〕内部空間が微粒子表面に開口を有しない独立気泡によって形成されている中空微粒子が用いられる上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する無機中空担体。
〔6〕平均粒径が50μm以下の中空微粒子が用いられる上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する無機中空担体。
〔7〕表面が粗面の中空微粒子が用いられる上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する無機中空担体。
〔8〕機能成分が触媒活性物質または吸着物質である上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する無機中空担体
〔9〕シリカ質中空微粒子を含み、粉状、スラリー、シート、または成形物の形状を有する上記[1]〜上記[8]の何れかに記載する無機中空担体。
〔10〕シリカ質中空微粒子の表面に機能成分が保持ないし固定されていることを特徴とする機能性材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無機中空担体は、シリカ質であるので高温下での耐熱性に優れており、かつ中空微粒子を主体にするので軽量であり、重量の負荷が少ない。従って、高温下での幅広い用途に適する。
【0012】
本発明の無機中空担体は、好ましくは、内部空間に隔壁を有する微粒子が用いられるので、隔壁のない単一空間からなる中空粒子に比較して粒子の強度が大きい。このため、外部からの負荷に対して破壊され難く、長期間安定に中空状態が維持することができる。
【0013】
さらに、本発明の無機中空担体は、シリカ質中空微粒子の内部空間は独立気泡によって形成された閉じられた空間であるので、熱が蓄積されると、熱が長時間保持される。一般に触媒は温度が高いほうが効率がよいので、触媒用の担体として優れている。
【0014】
本発明の上記無機中空担体に機能成分を担持させた機能材料は、耐熱性に優れており、軽量であるので、排ガスの浄化用触媒を担持させることによって、自動車用の排ガス触媒材料などとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の無機中空担体は、機能成分を保持ないし固定する担体であって、シリカ質の中空微粒子からなることを特徴とする無機中空担体である。
【0016】
機能成分としては触媒活性物質、吸着物質などが用いられる。触媒活性物質としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルビジウム、ニッケル等の金属ほかこれら合金や、酸化バナジウム、酸化すず、酸化モルブテン等の化合物を使用することができる。吸着物質としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体、両イオン交換体のようなイオン交換物質、界面活性剤や活性炭、ゼオライト等の吸着物質を使用することができる。触媒物質および吸着物質は単独に使用してもよく、同時に使用してもよい。
【0017】
本発明の担体は中空微粒子を用いており、軽量であるので、機能物質を担持させた後、これを反応器に充填させ、反応流体を流す固定床反応器で使用するのに適する。また、反応器内を自由に移動することができるので、流体のような流動床反応器で使用するのに適する。効率は流動床反応機のほうが高い。
【0018】
中空微粒子の粒子径は小さいほうが良いが、反応流体の分離の容易さや安定な流動状態を形成するには、中空微粒子の直径は50μm以下が好ましい。
【0019】
中空微粒子に機能成分を担持させる方法は、一般的に用いられている方法で良い。例えば、触媒成分を担持させる方法の一例としては、触媒活性成分の水溶液に担体を入れ、沈殿剤を加えて担体表面に沈殿させる沈殿法や、触媒成分溶液を担体に滲み込ませて担持させる含浸法等を利用することができる。また、PVD(物理蒸着)やCVD(化学蒸着)によっても担持させることができる。
【0020】
流動床反応器のような場合には、機能物質を担持させずに投入すると、反応器内で機能物質が激しく移動して機能物質どうしの衝突が起こり、破損する場合がある。従って、機能物質を担持させて用いるのが良く、その担体は強度の大きいものが適当である。
【0021】
本発明の無機中空担体に用いるシリカ質中空微粒子は、好ましくは、内部空間が隔壁によって区切られた複数の独立気泡によって形成されている中空微粒子が用いられる。中空微粒子が内部隔壁を有することによって粒子の強度が向上する。この隔壁は1個よりも複数個あることが望ましい。複数の隔壁を有することによって、粒子の強度がさらに向上する。隔壁の厚さは、例えば、軽量性を大きく喪失させない限り制限されない。
【0022】
なお、上記シリカ質中空微粒子において、隔壁を有する粒子の割合が多いほど材料の強度が向上するので好ましい。例えば、粒子数で50%以上の粒子の内部空間が隔壁によって区切られた複数の独立気泡によって形成されている中空微粒子が好ましい。隔壁を有する粒子の割合が多いと、上部より大きな圧力が加わっても、中空微粒子の強度が大きいので壊れ難く、中空構造が維持されるので、効果を維持することができる。粒子の強度が小さいものは外部の圧力により破損し易く、次第に効果が低下する。
【0023】
本発明で用いる中空微粒子はシリカ質微粒子である。シリカ含有量は70〜90wt%のものが好ましい。シリカ含有量が70wt%未満であると不純物が多くなり、均一な発泡ができなくなるため適当ではない。さらに、70wt%を下回ると、融点が低くなるため耐熱性に劣る。特に排ガス用の触媒では、1000℃以上になることがあり、シリカ含有率が70wt%を下回ると、融解して使用できなくなる場合がある。一方、シリカ含有量が90wt%を超えると融点が高くなるため発泡温度が高くなり、もしくは高温でも発泡しなくなるため、中空微粒子にするのが難しくなるので適当ではない。
【0024】
上記シリカ質中空微粒子はシリカ(化学成分としてSiO2)を主成分とする無機系材料から製造することができる。具体的には、真珠岩、黒曜石、松脂岩などのシリカ含有量70〜90wt%の天然ガラス質岩石を平均粒径100μm以下の微粒子に粉砕し、該岩石微粒子を900℃〜1500℃に加熱して発泡させて中空微粒子にし、この中空微粒子から内部空間が隔壁によって区切られたものを選択することによって製造することができる。また、上記シリカ質中空微粒子は、天然ガラス質岩石に限らず、例えば、岩石粉末に発泡原料を混合して造粒し、加熱発泡させることによって製造することもできる。
【0025】
また、このようにして製造した中空微粒子は内部に大きな空間を有するシリカガラス質粒子であるので、光学顕微鏡によって内部空間や隔壁構造を確認することができる。
【0026】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は、好ましくは、粒子内部の空間が表面に開口のない独立気泡によって形成されている。従って、吸水率が低く、かつ大きな内部空間を有するので軽量である。また、強度が大きいので加圧下でも亀裂が生じ難い。
【0027】
流動床反応器で使用する場合には、安定的で低風量での流動化状態を作るために、担体は軽いほうが好ましい。担体が重いと流動化状態にするための風量を多く必要とし、風量が多いと、反応ガス等の反応物質が反応器を通過する線速度が大きくなるため、十分な反応を行うためには、反応器を長いものにしなければならず、装置が非常に大きなものになる。本発明の無機担体は軽量であり、低風量でも流動状態になるので、装置を小型化することができる。また、固定反応器においても、装置全体の軽量化が図れることから、より軽いほうが好ましい。
【0028】
本発明の無機中空担体は、具体的には、例えば、容重が0.15〜0.35g/cm3の中空微粒子が用いられる。容重が0.15g/cm3を下回ると、殻および隔壁の厚さが薄くなるため強度が弱くなり、担体として必要な強度を維持できなくなる場合がある。一方、容重が0.35g/cm3を上回ると、流動床反応器で使用した場合に風量が大きくなるため、反応効率が低下するので好ましくない。
【0029】
上記中空微粒子の殻の厚さは0.5〜5μmの範囲が好ましい。厚さが0.5μmを下回ると殻が薄く強度が弱い。また、厚さが5μmを超えると中空微粒子が重くなるため、流動化し難くなる。
【0030】
本発明の無機中空担体に用いるシリカ質中空微粒子は、その表面に機能成分が担持されるので、機能成分の付着強度が大きくなるように、中空微粒子の表面は粗面が好ましい。また、本発明の無機中空担体は、上記中空微粒子を粉状のまま使用しても良く、あるいはスラリー、シート、または各種形状に成形して用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。なお、粒子の平均粒径、容重、浮揚残存率は以下の方法によって測定し、また以下の方法で流動化状態にした。
【0032】
〔平均粒径〕レーザー回折粒度分布測定装置を用い、日機装社製測定器(マイクロトラック)によって測定した。
〔容重〕一定容積S(cm3)の容重枡に試料を充填し、開口からはみ出た部分をすり切り、全体の重量G1を測定し、これから容器の重量G2を差し引いて粉末重量G3を求め、上記容積Sに対する粉末重量G3の比〔G3/S〕g/cm3を容重とした。
〔殻の厚さ〕試料をエポキシ樹脂に埋めて切断・研磨し、試料の断面を電子顕微鏡で観察し、ランダムに粒子を30個選択し、殻の最も薄い部分の厚さ測定して平均粒径および最大と最小の厚さを測定した。
【0033】
〔浮揚残存率〕試料を試料容器と共に加圧容器内へ入れ,8MPaで1分間加圧する。加圧後、加圧した試料を全量取り出してメスシリンダー(容量200ml)に入れ、水を200mlまで添加する。静置後、水に濁りがなくなったら、浮いた試料の体積を計測して浮水量とする。加圧試料と同量の非加圧試料の浮水量を同様の測定方法で測定し、加圧試料浮水量/非加圧試料浮水量×100を算出して浮揚残存率とした。
【0034】
〔流動化状態〕耐熱鋳鋼製シリンダー(直径13cm、高さ10cm)の上下部に20μmの金属製網を貼り、その上部に中空微粒子を1リットル入れ、下部より空気(風量1m3N/h)を送り、流動化状態とした。
【0035】
〔使用材料〕
真珠岩〔化学成分含有率(質量%)SiO2 74%、Al2O3 13%、Fe2O3 1%、CaO1%、ig.loss 2.2%〕を発泡させてシリカ質中空微粒子を製造し、容重0.13〜0.20g/cm3、平均粒径50〜200μmのものを選択した。これらの中空微粒子について、容重、平均粒径を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
〔実施例1〕
流動化試験に従って流動化状態とし、6時間実施したのちに、試料を取り出して破損の状態を観察した。この結果を表2に示した。
表2に示すとおり、本発明の中空微粒子は、容重が好ましい範囲内(0.15〜0.35g/cm3)の試料A1〜A3は、流動化による粒子の破損はほとんど見られなかった(目視による破損個数率で概ね1%以下)。一方、容重が好ましい範囲より低い試料A4(容重0.13g/cm3、殻の平均厚さ0.4μm)は粒子の強度が弱く、流動化状態にした場合には表面の殻の薄い部分が若干破損しているのが確認され、内部の空洞が覗ける状態であった。また、この試料A4は粒子の強度が弱いため浮揚残存率も低かった。
【0038】
【表2】

【0039】
〔実施例2〕
流動化試験で使用したシリンダの外部に発熱体を設置し、シリンダ内部温度を加熱して流動化させ、内部の流動化状態を肉眼で観察した。また流動化後、容器内部の試料を取り出して、顕微鏡で試料の状態を観察した。加熱温度はシリンダ外部表面が1100℃となるようにした。冷却後、試料を取り出して表面の状態を観察した。また、比較試料としてコンクリート用フライアッシュ(JIS A 6210)II種品、および平均粒子径0.5mmのガラスビーズを使用した。この結果を表3に示した。
【0040】
表3に示すように、加熱下においても、本発明の試料A1、A2、A4は、流動層が高く形成され流動化状態が良好であり、表面の状態も変わりない。試料A3(容重0.38g/cm3)および試料A5(平均粒径75μm)は流動化状態がやや不良である。なお、試料A4(容重0.13g/cm3)は粒子表面がやや溶けている状態であった。一方、フライアッシュを使用した場合には、粒子どうしが融着して流動化状態にならなかった。また、ガラスビーズは重いため流動化しなかった。
【0041】
【表3】

【0042】
〔実施例3〕
A3の試料100gを用い、塩化白金アンモニウム水溶液に浸漬した後に引き上げて蒸発乾固し、1質量%の白金を担持させた。これを600℃で2時間加熱し、触媒試料を調製した。反応ガスとして表4に示す各成分のガスを微量混合して反応器中に導入し、600℃の温度下で酸化反応を行った。反応条件は空間速度5000(h-1)とした。反応機を通過したガスをガスクロマトグラフィーで測定した。この結果を表4に示した。
表4に示すとおり、メタン、ベンゼン、メタノールフェノールのすべてにおいて、出口側のガスは上記成分の濃度が検出限界以下であり、酸化反応の反応率が高いことが確認された。
【0043】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能成分を保持ないし固定する担体であって、シリカ質の中空微粒子からなることを特徴とする無機中空担体。
【請求項2】
容重が0.15〜0.35g/cm3の中空微粒子が用いられる請求項1に記載する無機中空担体。
【請求項3】
殻の最も薄い部分の厚さが0.5〜5μmの中空微粒子が用いられる請求項1または請求項2に記載する無機中空担体。
【請求項4】
内部空間に隔壁を有する中空微粒子が用いられる請求項1〜請求項3に記載する無機中空担体。
【請求項5】
内部空間が微粒子表面に開口を有しない独立気泡によって形成されている中空微粒子が用いられる請求項1〜請求項4の何れかに記載する無機中空担体。
【請求項6】
平均粒径が50μm以下の中空微粒子が用いられる請求項1〜請求項5の何れかに記載する無機中空担体。
【請求項7】
表面が粗面の中空微粒子が用いられる請求項1〜請求項6の何れかに記載する無機中空担体。
【請求項8】
機能成分が触媒活性物質または吸着物質である請求項1〜請求項7の何れかに記載する無機中空担体
【請求項9】
シリカ質中空微粒子を含み、粉状、スラリー、シート、または成形物の形状を有する請求項1〜請求項8の何れかに記載する無機中空担体。
【請求項10】
シリカ質中空微粒子の表面に機能成分が保持ないし固定されていることを特徴とする機能性材料。

【公開番号】特開2010−172863(P2010−172863A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20817(P2009−20817)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】