説明

無機微粒子およびその製造方法

【課題】 発光材として安定でありかつ液体中での分散が容易である、高率で回収し得る無機微粒子、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 液体中に浸漬した基板に対してレーザアブレーションを行う工程を包含する製造方法によって無機微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアブレーションを用いる無機微粒子の製造方法および当該方法によって製造された無機微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサーは、主に放射性物質またはカドミウム系の有害物質を用いて製造される。しかし、バイオセンサーは主に医療用途であり、安全でありかつ環境に対して無害のものが好ましい。
【0003】
シリコンは、資源が豊富であるという面と環境的な側面とから着目されてきた材料である。近年、シリコンを微結晶化すると、量子閉じ込め効果および表面効果によってバルクのシリコンでは観察されなかった光学特性を示すことが知られるようになった。
【0004】
これまで用いられているシリコン微粒子の製造方法としては、主に、フッ素酸中にて反応を行う陽極化成、ならびにCVD法、気相レーザアブレーション法などの気相法が挙げられる(例えば、特許文献1〜4、非特許文献1を参照のこと)。
【0005】
レーザ光を固体(ターゲット)に照射すると固体表面が瞬間的に高温蒸気化し、その結果、中性原子、分子、正負のイオン、クラスター、電子、光子が爆発的に放出(アブレーション)される。この現象をレーザアブレーションという。レーザアブレーションは、超微粒子の生成、微細加工、薄膜形成、元素分析、レーザ核融合などの分野に応用されている。特に、基板の上に金属、半導体、セラミックなどの薄膜を作製するレーザアブレーション成膜技術は、ターゲットとの組成のずれが生じにくい成膜技術として、半導体薄膜および/または超伝導材料の薄膜を作製する際の技術として非常に注目されている(例えば、非特許文献2〜6を参照のこと)。
【特許文献1】特開平7−113168号公報(平成7年5月2日公開)
【特許文献2】特開平5−247633号公報(平成5年9月24日公開)
【特許文献3】特開平10−32166号公報(平成10年2月3日公開)
【特許文献4】特開平9−256145号公報(平成9年9月30日公開)
【非特許文献1】電子情報通信学会技術研究報告、Vol.98,No.109;Page 13−18(1998)
【非特許文献2】Umezuら、J.Vac.Sci&Technol.,120:30.(2002)
【非特許文献3】Suzukiら、Appl.Phys.Lett.78:2043.(2001)
【非特許文献4】J.Non−Cryst.Solid,Vol.137/138,No.Pt2;Page 733−736(1991)
【非特許文献5】ケミカルエンジニアリング、Vol.38,No.5;Page 434−438(1993)
【非特許文献6】J.Aerosol Sci,Vol.34,No.7;Page 8689−881(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの技術を用いても、溶液中でシリコン微粒子を作製することは困難であった。またシリコン微粒子およびシリコンコロイド溶液を化学的に作製することもまた困難であった。
【0007】
さらに、ポーラスシリコンを製造する際に、人体に有害なフッ素酸含有溶液中でシリコン基材を処理するので、煩雑なフッ素酸処理工程および廃液処理工程を必要とする。
【0008】
このように、シリコン微粒子は媒体への分散安定性および光学特性の安定性が必要とされるので、煩雑であった従前の発光系微粒子の製造方法をより簡便にすることが非常に望まれていた。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発光材として安定でありかつ液体中での分散が容易である、高率で回収し得る無機微粒子、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討の結果、本発明者らは、液体中に無機物を組成として含有する基材を配置して、当該基材に対してレーザ照射するという、液相レーザアブレーション法を採用することにより、分散容易な無機微粒子を高率で回収することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る無機微粒子の製造方法は、液体中に浸漬した基板に対してレーザアブレーションを行う工程を包含することを特徴としている。
【0012】
本発明に係る無機微粒子の製造方法において、上記液体は水または有機溶媒であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る無機微粒子の製造方法において、上記有機溶媒は水より小さいSP値(Solubility Parameter)を有することが好ましい。
【0014】
本発明に係る無機微粒子の製造方法において、上記基板はシリコンを含有することが好ましい。
【0015】
本発明に係る無機微粒子の製造方法において、上記基板はシリコンからなることが好ましい。
【0016】
本発明に係る無機微粒子の製造方法において、当該無機微粒子はシリコン微粒子であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る無機微粒子は、上記のいずれかの方法によって製造されることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る無機微粒子の分散材は、上記のいずれかの方法によって製造されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明を用いれば、レーザアブレーションによって形成した無機微粒子をロスすることなく回収することができると同時に、デブリを自重により液体中で沈殿させて容易に除去することができる。さらに、本発明を用いれば、発光体として優れた光学特性を有する無機微粒子を得ることができる。
【0020】
また、本発明を用いれば、一般的な気相法では作製困難であり、化学的にも作製困難であるシリコンコロイド溶液を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、発光体として優れた光学特性を有する無機微粒子の製造方法を提供する。具体的には、本発明は、液体中に配置した基材(基板)に対してレーザを照射する工程を用いる(すなわち、液相レーザアブレーション法を用いる)ことを特徴とし、本発明を用いれば、無機微粒子を高収率にて調製することができる。
【0022】
本発明に係る無機微粒子は、高機能バイオセンサー、各種デバイス、蛍光、顔料などの広範な種々の分野において簡便に応用することができる。
【0023】
すなわち、本発明に係る無機微粒子の製造方法は、液体中に浸漬した基板に対してレーザアブレーションを行う工程を包含することを特徴としている。好ましくは、本発明に係る無機微粒子の製造方法において、上記液体は水または有機溶媒(例えば、トルエンまたはヘキサン)であり得、水より小さいSP値(Solubility Parameter)を有する有機溶媒であり得る。本明細書中で使用される場合、SP値(Solubility Parameter)は溶解性パラメータが意図される。SP値は当該分野において周知であり、25℃における溶剤1mlの分子間結合エネルギー(蒸発潜熱から気体のエネルギーを引いた値)の平方根と定義されている。SP値は小さい程溶解力が弱く,大きい程強くなり,極性も高くなる。
【0024】
好ましくは、本発明に係る無機微粒子の製造方法における上記基板は、シリコンを含有し得、より好ましくは、上記基板はシリコンからなる。すなわち、本発明に係る方法にて製造される無機微粒子はシリコン微粒子であることが好ましい。
【0025】
シリコンについて気相レーザアブレーション法を用いた場合は、溶液中でのシリコン微粒子の分散は困難であったが、液相レーザアブレーション法を適用することによって本課題を克服し得た。
【0026】
本発明はまた、液相レーザアブレーション法を用いて製造した無機微粒子およびその分散材を提供する。本発明に係る無機微粒子は、発光材として安定であり、かつ液体中での分散が容易である。また、本発明を用いれば、分散媒を適宜選択することにより、無機微粒子の発光安定性および光学特性を首尾よく制御することができる。
【0027】
本発明に係る無機微粒子は、上述した方法のいずれかによって製造されることを特徴としている。
【0028】
本明細書中において使用される場合、用語「分散材」は「分散液」または「コロイド溶液」と交換可能に使用され、1nm〜100nmの範囲内の粒経を有する微粒子を含有する溶液が意図される。
【0029】
本発明の一実施形態について簡単に説明すると以下の通りである。
【0030】
Nd:YAGレーザ(第2高調波532nm)を、液体中に設置したシリコン基板に照射しながら当該シリコン基板を上下運動させる。上記液体としては、ヘキサンまたはトルエンを使用したが、水でもよい。照射するレーザの出力を増減させることによって液体中での発光体(シリコン微粒子)の生成量を増減させた。
【0031】
このように、本発明者らは、液体中のシリコン基板にレーザを照射する液相レーザアブレーション法により、無機微粒子、好ましくはシリコンを主成分とする微粒子を、安価でありかつ操作が簡便に提供し得る製造方法を見出した。本製造方法において基板を浸漬する液体(すなわち、分散媒)を適宜選択することにより、分散液の発色、輝度および/または安定性を制御し得る。
【0032】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0033】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
トルエン中にシリコン基板(N型、抵抗率≧1000Ω・cm、サイズ50×7(cm))を挿入し、Nd:YAGレーザ(第2高調波532nm)をレーザパワー0.1Wにて5時間照射し、ターゲットのシリコン基板をステージ速度10μm/sで上下運動させることにより試料を作製した。なお、焦点距離が2.5cmのレンズを使用した。
【0035】
(実施例2)
実施例1のトルエンをヘキサンに変えて同様に行った。
【0036】
(実施例3)
実施例1のトルエンを水に変えて同様に行った。
【0037】
(実施例4)
実施例2のレーザパワーを0.2Wに変えて同様に行った。
【0038】
(比較例)
液体を用いることなく空気中にて実施例1と同様に行った。
【0039】
(分散液の評価)
作製した試料を、日立U−2000形分光光度計を用いた透過吸収測定、He−Cdレーザ(325nm)を用いるPL(Photoluminescence:フォトルミネッセンス)測定、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)測定、ラマンシフト測定、およびSEM/TEMによって評価した。
【0040】
(結果)
実施例1にて得られた試料(H1)の分散液(約40ml)を、超音波洗浄を施した石英基板上にて蒸発させた後に、試料のラマン散乱を、レーザラマン分光光度計で測定した。結果を図1に示す。図1において、横軸はラマンシフト(cm−1)、縦軸は強度(Intensity)である。
【0041】
この試料のラマン散乱ピークが、単結晶と同じ(520cm−1)付近であることから、この試料の主成分は結晶シリコンであることがわかった。また、520cm−1からシフトしていることより、この試料はバルクではなくナノ結晶であることがわかった。またさらに、ラマンシフトおよびSEM/TEM評価により、ヘキサン中における試料(微粒子)のサイズは、約6.8nmであり、シングルナノサイズ平均粒径であった。なお、水中での試料(微粒子)のサイズは数nm〜数十nmであった。
【0042】
実施例1〜4にて得られた生成物は、溶液中にて容易に分散していた。比較例1のレーザ照射によって得られた生成物をトルエン、ヘキサンまたは水へ分散させようと試みたが、いずれも首尾よくいかなかった。実施例1〜4にて得られた生成物の分散性については、水よりもヘキサン、さらにはトルエンにおいて良好であった。また、水を用いて得られるシリコン粒子は、比較的粗大であるが、トルエンまたはヘキサンを用いて得られるシリコン粒子は、微小サイズであった。
【0043】
このことから、液相レーザアブレーションによって液中での分散化が容易となることが示された。また、水よりもヘキサンまたはトルエンを用いることによって微小でありかつ安定に分散し得るシリコン微粒子を取得し得ることがわかった。
【0044】
微粒子の光学特性を表1および図2に示す。表1に示すように、実施例3にて得られた生成物の分散液(図中、Wで示す)は緑色発光であり、実施例2にて得られた生成物の分散液(図中、H−2およびH−3で示す)は青色発光であり、実施例1にて得られた生成物の分散液(図中、T−1で示す)は青色発光(照射条件によっては緑色発光)であった。
【0045】
【表1】

【0046】
図3に示すように、実施例2からレーザ強度を2倍にすると(実施例4)、分散液の発光強度も2倍(図中、H−1→H−2)であった。
【0047】
試料作製以後の分散液の透過吸収を経時的に測定した結果を図4に示す。分散液は、液相レーザアブレーションによる試料作製を水中にて行った場合は透過吸収が時間とともに緩やかに変化したが、ヘキサンまたはトルエン中にて行った場合はバンドギャップの変化が見られず、発光波長が安定していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高付加価値印刷インク、顔料に加えて、高機能バイオセンサー、有用物質分離精製システム、高機能ファインケミカル、環境負荷低減システム、環境ホルモン計測システムなどに適用可能であり、広範な分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ヘキサン中にて液相レーザアブレーションにより作製した試料についてのラマン散乱を測定した結果を示すグラフである。
【図2】種々の溶液にて行った液相レーザアブレーションによる試料作製の際の、各溶液の光学特性を示すグラフである。
【図3】液相レーザアブレーションによる試料作製の際に照射するレーザ強度と分散液の発光強度を示すグラフである。
【図4】液相レーザアブレーションによる試料作製以後に測定した分散液の透過吸収を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に浸漬した基板に対してレーザアブレーションを行う工程を包含することを特徴とする無機微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記液体が水または有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が水より小さいSP値(Solubility Parameter)を有することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板がシリコンを含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記無機微粒子がシリコン微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする無機微粒子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする無機微粒子の分散材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−45639(P2007−45639A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228763(P2005−228763)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】