説明

無機粒子分散剤および該分散剤を含む無機粒子分散組成物

【課題】 無機粒子を均一に分散し得る金属石鹸でなる分散剤を提供すること、およびその分散剤を含有する無機粒子分散組成物を提供すること。
【解決手段】 平均粒径が0.01〜4μmであり、かつ粒度分布の標準偏差が0.4以下であり、かつ95質量%粒径が平均粒径の3倍以下である金属石鹸からなる無機粒子分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉体の分散性を向上させる分散剤およびその分散剤を用いた無機粒子分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、塗料、印刷インキ、樹脂などには顔料などの無機粒子が分散されている。この無機粒子は、一般に溶剤や樹脂などに対する分散性が低く、そのため、溶剤や樹脂などに無機粒子を分散させるために、無機粒子分散剤が使用される。分散剤の種類としては、陰イオン性または非イオン性の界面活性剤;ポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリエステル酸のアミドアミン塩などの高分子化合物;ステアリン酸アミド、エチレンビスアミドなどの脂肪酸アミド;金属石鹸などがある。
【0003】
このうち、界面活性剤型の分散剤は印刷インキなどに使用されているが、塗布した際、分散剤が塗膜表面にブリードして、ベタツキなどの問題が生じやすい。また、高分子化合物型の分散剤は、溶液が高粘度となり分散不良が発生するなどの問題がある。
【0004】
脂肪酸アミド系の分散剤は無機粒子と混合しやすいという利点はあるが、アミド基の影響による着色等の問題がある。
【0005】
一方、金属石鹸は、分散性に優れ、耐候性があり、例えば、字光性ナンバープレート顔料の分散剤(特許文献1)、熱可塑性樹脂用顔料の分散剤(特許文献2)、磁性塗料用磁性粉の分散剤(特許文献3)などに使用されている。しかし、より薄い塗膜や樹脂フィルムなどに使用する場合には平滑性が必ずしも充分でなかったり、また近年のより微細な磁性粉を用いた磁気フィルムにおいては磁性粉のムラが生じる場合があった。
【0006】
近年、無機粒子の機能向上や新機能の発現を目的として、無機粒子の微細化研究が進んでいる。微細化された無機粒子は、従来のものと比較して、非常に凝集しやすくなるという問題が生じる。そのため、このような微細化された無機粒子に対して、充分な分散性を付与出来る分散剤が切望されている。さらに、樹脂や塗膜に対して充分な平滑性を付与し、かつ表面に白濁やムラが生じにくい無機粒子用分散剤が望まれている。
【特許文献1】特開2001−130320号公報
【特許文献2】特開平9−111178号公報
【特許文献3】特開平5−186717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無機粒子を均一に分散し得る金属石鹸でなる分散剤を提供すること、およびその分散剤を含有する無機粒子分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねたところ、特定の粒度構成を有する金属石鹸を無機粒子に含有させた場合、無機粒子の分散性が向上し、かつ樹脂や塗膜に対して充分な平滑性を付与し、かつ表面に白濁やムラが生じにくいことを見出し、発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒径が0.01〜4μmであり、かつ粒度分布の標準偏差が0.4以下であり、かつ95質量%粒径が平均粒径の3倍以下である金属石鹸からなる無機粒子分散剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、少なくとも前記金属石鹸からなる無機粒子分散剤と無機粒子とを含有し、無機粒子100質量部に対して分散剤が0.5質量部以上含有することを特徴とする無機粒子分散組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分散剤は、特定の粒度構成を有する金属石鹸の微粒子であるため、顔料などの無機粒子の分散性に優れ、かつ樹脂や塗膜に対して充分な平滑性を付与し、かつ表面に白濁やムラが生じにくい。さらに、この金属石鹸微粒子を分散剤として含む顔料、磁性粉などの無機粒子分散組成物を用いて製造された着色塗料、印刷インキ、磁性塗料、化粧料等は、顔料などの無機粒子が凝集することがないため、例えば、平滑性に優れた良好な塗膜、均一に磁性粉が分散され平滑性に優れた記録媒体、あるいは均一に塗布される化粧料を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(分散剤)
本発明の分散剤は、特定の粒度構成、すなわち、平均粒径が0.01〜4μmであり、粒度分布の標準偏差が0.4以下であり、かつ95%粒径が平均粒径に対して3倍以下である金属石鹸の微粒子である。
【0013】
本発明の分散剤である金属石鹸は、炭素数4〜30の脂肪酸の多価金属塩である。金属石鹸を構成する炭素数4〜30の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられる。金属石鹸を構成する多価金属原子としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄などが挙げられる。なかでも、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛が好適に用いられる。本発明の分散剤である金属石鹸は、用途に応じて、上記脂肪酸および多価金属原子を適宜選択して構成される。
【0014】
本発明の分散剤として用いられる金属石鹸は、上記のとおり、平均粒径が0.01〜4μmである。平均粒径が上記範囲を外れる金属石鹸を用いた場合、無機粒子に対して充分な分散性を与える事が出来なくなるおそれがある。
【0015】
また、本発明の分散剤として用いられる金属石鹸は、粒度分布の標準偏差が0.4以下である。より良好な無機粒子分散剤または無機粒子分散組成物を得るためには、粒度分布の標準偏差は好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.1以下である。粒度分布の標準偏差が上記範囲よりも大きな金属石鹸を用いた場合、無機粒子の表面改質状態にムラが生じ、その結果、樹脂や塗膜の表面にムラが生じる場合がある。
【0016】
本明細書において、粒度分布の標準偏差は、「WingSALD-2100 Operating Manual、第26頁、Shimazu Corp.」に記載のように、粒径スケールを対数スケールにした場合における標準偏差であり、例えば、平均粒径を10μとしたときのμが式1で表される場合に、粒度分布の標準偏差σは、以下の式2で表される。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、xは粒径を示す。qは粒径区間[x,x]に対応する相対粒子量(差分%)を示す。
【0019】
【数2】

【0020】
粒度分布の標準偏差σは、その値が小さいほど、粒度分布がシャープであり、粒子群が均一であることを示す。例えば、平均粒径10μ(μm)が0.01(10−2)μmでかつ標準偏差σが0.4で表される金属石鹸は、粒度分布{10(μ±σ)}が10(−2±0.4)である。すなわち約0.004μm〜約0.025μmの範囲の粒子群であることを示す。
【0021】
本発明の分散剤として用いられる金属石鹸は、95質量%粒径が平均粒径の3倍以下である。より良好な無機粒子分散剤または無機粒子分散組成物を得るためには、95%粒径が平均粒径に対して2倍以下である。このような金属石鹸は、粒度分布の粒度幅がより狭く、平均粒径より大きい粒子が非常に少ない。本明細書において、95質量%粒径とは、粉体の粒度累積曲線(粒径と、粒子の小粒径側から積算量(質量基準)との関係を示す曲線)において、積算量が95質量%の点に対応する粒径をいう。95質量%粒径が平均粒径の3倍を超える場合は、無機粒子の分散性が低下し、例えば、無機顔料に添加した際には、色むらなどの問題が生じやすくなる。さらに、大粒径の金属石鹸の含有率が高く、樹脂や塗膜表面の平滑性が低下する場合がある。ある実施態様においては、さらに金属石鹸の90質量%粒径が平均粒径の2倍以下であることが好ましい。
【0022】
上記平均粒径、粒度分布の標準偏差、および95質量%粒径(または90質量%粒径)の測定は、例えば、沈殿法、顕微鏡法、光走査法、レーザー回折散乱法などの当業者が通常用いる測定方法を用いて行われる。これらの中でも、より微細な粒子を精度よく測定できる点から、光走査法、レーザー回折散乱法などが好適に用いられる。
【0023】
本発明に用いられる金属石鹸は、複分解法や直接法によって得られた金属石鹸を機械的に粉砕し、その後、微細なメッシュを有する分級機を用いる方法などを用いて得ることができるが、好適には以下に記載する方法で製造することができる。例えば、炭素数4〜30の脂肪酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩を0.001〜20質量%含有する水溶液または分散液と、無機金属塩を0.001〜20質量%含有する水溶液または分散液(以下、無機金属塩含有液と記す)とを混合して金属石鹸分散液(スラリー)を調製する。この混合温度は、生成する金属石鹸の結晶転移開始温度以下の温度であることが好ましい。次いで、得られた金属石鹸分散液(スラリー)を、フィルタープレスや加圧濾過機等を用いて処理し、水分をある程度除去し、金属石鹸のケーキを得る。ついで、この金属石鹸のケーキを水または低級アルコール、もしくは水と低級アルコールとの混合溶媒を用いて数回洗浄し、金属石鹸中に含まれる無機塩等の不純物を除去する。ついで、このようにして精製された金属石鹸のケーキを乾燥処理する。必要に応じて、凝集した金属石鹸を破砕あるいは粉砕する。上記方法により得られる金属石鹸の平均粒径は0.01〜4μmとなり、粒度分布の標準偏差が0.4以下となり、かつ95%粒径が平均粒径に対して3倍以下とすることができる。
【0024】
上記の脂肪酸塩含有液と無機金属塩含有液とを所定の条件で混合する金属石鹸の製造方法において、特に平均粒径が小さな金属石鹸(例えば、0.5μm以下)を得るためには、具体的には、以下の方法で行うことが好ましい。まず、脂肪酸を2〜3質量%含有する脂肪酸塩含有液および無機金属塩を0.5〜1質量%含有する無機金属塩含有液をそれぞれ調製し、これらの含有液が均一に混合できる下限の温度、すなわち脂肪酸塩含有液が析出しない程度の低い温度(例えば、65℃以下)に設定して混合する。さらに、得られた金属石鹸スラリーを速やかに冷却・濾過・水洗し、50℃以下、好ましくは0℃〜30℃にて乾燥する。
【0025】
平均粒径がより小さなの金属石鹸(例えば、0.1μm以下)を得る場合は、前述した条件に加えて、脂肪酸塩含有液と無機金属塩含有液とを例えば、マイクロリアクターなどを用いて、微細な空間内で混合することにより反応させ、反応後に得られる金属石鹸スラリーを瞬間的に冷却することが好ましい。例えば、金属石鹸スラリーを冷水中または氷中に直接流し込む方法、金属石鹸スラリーを、瞬間的に冷却可能な微細な空間を有する冷却装置(熱交換装置など)に通す方法などが好適に用いられる。得られた金属石鹸スラリーは、さらに50℃以下で乾燥することが好ましい。このような乾燥方法としては、フリーズドライ乾燥装置などを用いた凍結乾燥法、エバポレーター、減圧乾燥装置などを用いた減圧乾燥法または真空乾燥法などが挙げられる。
【0026】
(無機粒子分散組成物)
本発明の無機粒子分散組成物は、上記金属石鹸からなる無機粒子分散剤と、無機粒子とを含有し、無機粒子100質量部に対して、金属石鹸からなる無機粒子分散剤を0.5質量部以上、好ましくは0.5〜100質量部含有する。金属石鹸の含有量が0.5質量部未満の場合は、分散剤としての機能が発揮されない。100質量部を超えると、金属石鹸によっては、顔料などの発色を阻害したり、白濁するため注意を要する。本発明の無機粒子分散組成物は、さらに用途に応じて、樹脂、溶剤、その他の添加剤を含有し得る。本発明の無機粒子分散組成物は、粉状、液状であり得る。
【0027】
本発明の無機粒子分散組成物に用いられる無機粒子は、特に制限されない。例えば、無機顔料、体質顔料などの当業者が通常用いる無機粒子などが挙げられる。無機顔料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、カーボンブラック、クロム酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩などが挙げられる。体質顔料としては、炭酸カルシウム系、硫酸バリウム系、酸化珪素系、水酸化アルミニウム系などの顔料が挙げられる。その他の無機粒子としては、例えば、各種金属粉(金、銀、銅、スズ等)、チタン酸カリウム、スラグ繊維、テフロン(登録商標)粉、木粉、パルプ、ゴム粉及びアラミド繊維等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上併用してもよい。無機微粒子の平均粒径は、好ましくは0.001〜5μmの範囲であり、より好ましくは0.005〜0.1μmである。
【0028】
本発明の無機粒子分散組成物に含有され得る樹脂は、特に制限されず、用途に応じて、その種類および含有量を適宜設定することができる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等熱可塑性樹脂、ポリ塩化ビニル系、ポリアクリル系、ポリメタクリル系、ポリ酢酸ビニル系、ウレタン系の単独共重合体、およびこれらの共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテルなどのビニル系樹脂、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ゼラチン、澱粉などの動物・植物系の樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、スチレンーブタジエン共重合体ラテックス、カルボキシ変性スチレンーブタジエン共重合体ラテックス、アクリル酸エステル共重合体ラテックス、酢酸ビニル共重合体ラテックス、スチレン共重合体ラテックス、酢酸ビニルーエチレン共重合体ラテックス、アクリル酸―スチレンーブタジエン共重合体ラテックス、変性アクリル酸エステル共重合体ラテックス等を使用することができ、これらのブレンド体を併用しても良い。
【0029】
本発明の無機粒子分散組成物に含有され得る溶剤は、特に制限されず、用途に応じて、その種類および含有量を適宜設定することができる。例えば、芳香族・脂肪族炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミン、エステル、エーテル、グリコールおよびその誘導体、水などが挙げられる。溶剤は樹脂を溶解または希釈する目的で用いてもよい。
【0030】
本発明の無機粒子分散組成物に含有され得るその他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤などが挙げられる。その他の添加剤の含有量は、目的に応じて適宜設定され得る。
【0031】
本発明の無機粒子分散組成物は、通常、上記金属石鹸からなる無機粒子分散剤と、無機粒子とを混合すること、あるいは溶剤に分散させることによって調製され得る。必要に応じて、さらに溶融混練して調製され得る。上記調製に際して、無機粒子分散剤(金属石鹸)の形態は特に制限されない。例えば、乾燥する前の金属石鹸ケーキ、乾燥後の金属石鹸(粉末)、および金属石鹸または金属石鹸ケーキを予め界面活性剤を含む水または溶剤に分散させた分散体のいずれを用いてもよい。混合・分散方法としては、当業者が通常用いる方法であれば特に制限されず、例えば、ボールミル、ヘンシェルミキサーなどにより乾式混合する方法、2軸押出機などにより樹脂とともに溶融混練する方法、溶剤や樹脂などに金属石鹸微粒子と無機粒子を分散させた後、ホモジナイザー、高速ディスパーなどにより湿式混合する方法などが挙げられる。
【0032】
特に本発明の無機粒子分散組成物は、いずれの用途にも用いることができるが、特に樹脂バインダーを用いて薄膜を形成する用途に用いることが好ましい。例えば、各種プラスチック、ガラス、金属、皮革材料、木、紙、コンクリート、ゴム、織布、不織布等の各種基材のコーティング剤、磁性塗料等の塗料、印刷インキ、皮材、防水材、繊維加工材、紙加工剤などに使用される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
(金属石鹸の調製例1)
ステアリン酸アンモニウムを3質量%含有する75℃の水溶液および塩化亜鉛を1質量%含有する75℃の水溶液をそれぞれ調製した。これらの2種類の水溶液を、ステアリン酸アンモニウムと塩化亜鉛との当量比が1:1.02の割合となるように、パイプラインホモミキサーに別々の導入路から流し込み、混合しつつ反応液を吐出し、約500gの金属石鹸分散液(スラリー)を得た。なお、反応時の液の温度は、ステアリン酸亜鉛の結晶転移開始温度以下である約71℃であった。得られた金属石鹸スラリーを75℃にて60分間熟成させた後、濾過し、さらにこの濾過物を2回水洗して金属石鹸ケーキを得た。得られた金属石鹸ケーキを、減圧下、70℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物1)を得た。
【0035】
(金属石鹸の調製例2)
直径6センチのタービン羽根を有する攪拌装置付き2リットルの反応容器を用意し、タービン羽根を350回転させた。その反応容器にステアリン酸ナトリウム15質量%を投入し、反応温度80℃にて25質量%の硫酸亜鉛水溶液を30分かけて滴下した。全量仕込み終了後、80℃にて10分間熟成し、反応を終結させた。次に、このようにして得られた金属石鹸スラリーをろ過し、得られた金属石鹸ケーキを2回水洗した。得られた洗浄後の金属石鹸ケーキを乾燥温度100℃にて乾燥し、金属石鹸粉体を得た。その後、得られた金属石鹸粉体をジェットミル粉砕装置、回転数15000rpmにて粉砕した後、空気分級機で分級を行って、10μm以下の粒子を除去し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物2)を得た。
【0036】
(金属石鹸の調製例3)
微小混合装置、熱交換機、および浸透膜を有する浸透装置をこの順序で連結させた。微小混合装置は、導入部分の内径が50μm以下、混合部分の内径が100μm以下の管を有している。この装置を用いて、金属石鹸を以下のようにして調製した。まず、ステアリン酸カリウムを0.2質量%含有する50℃の水溶液および硫酸亜鉛を0.08質量%含有する45℃の水溶液をそれぞれ調製した。これらの2種類の水溶液を、微小混合装置に別々の導入路から供給して衝突させ、反応させた。反応20秒後に、得られた反応混合物を熱交換機に導入して冷却した。熱交換機から出てきた反応物の温度は15℃であった。さらに、浸透膜により水溶性の塩を除去した。脱塩された金属石鹸スラリーを−40℃にて冷凍し、フリーズドライ法によって12時間乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物3)を得た。
【0037】
(金属石鹸の調製例4)
ステアリン酸ナトリウムを0.5質量%含有する75℃の水溶液および塩化カルシウムを0.15質量%含有する75℃の水溶液をそれぞれ調製した。これらの2種類の水溶液を、ステアリン酸ナトリウムと塩化カルシウムとの当量比が1:1.02の割合となるように、パイプラインホモミキサーに別々の導入路から流し込み、混合しつつ反応液を吐出し、約500gの金属石鹸分散液(スラリー)を得た。なお、反応時の液の温度は、ステアリン酸カルシウムの結晶転移開始温度以下である約72℃であった。得られた金属石鹸スラリーを直ちに、濾過し、さらにこの濾過物を2回水洗して金属石鹸ケーキを得た。得られた金属石鹸ケーキを、減圧下、60℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸カルシウム:化合物4)を得た。
【0038】
(金属石鹸の調製例5)
ステアリン酸カリウムを5質量%含有する70℃の水溶液および塩化マグネシウムを2質量%含有する70℃の水溶液をそれぞれ調製した。これらの2種類の水溶液を、ステアリン酸カリウムと塩化マグネシウムとの当量比が1:1.02の割合となるように、パイプラインホモミキサーに別々の導入路から流し込み、混合しつつ反応液を吐出し、約500gの金属石鹸分散液(スラリー)を得た。なお、反応時の液の温度は、ステアリン酸カリウムの結晶転移開始温度以下である約67℃であった。得られた金属石鹸スラリーを70℃にて10分間熟成させた後、濾過し、さらにこの濾過物を2回水洗して金属石鹸ケーキを得た。得られた金属石鹸ケーキを、減圧下、70℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸マグネシウム:化合物5)を得た。
【0039】
(金属石鹸の調製例6)
ステアリン酸ナトリウムを5質量%含有する80℃の水溶液および硫酸亜鉛を2質量%含有する80℃の水溶液をそれぞれ調製した。これらの2種類の水溶液を、ステアリン酸ナトリウムと硫酸亜鉛との当量比が1:1.01の割合となるように、パイプラインホモミキサーに別々の導入路から流し込み、混合しつつ反応液を吐出し、約500gの金属石鹸分散液(スラリー)を得た。なお、反応時の液の温度は、ステアリン酸亜鉛の結晶転移開始温度以下である約75℃であった。得られた金属石鹸スラリーを65℃にて10分間熟成させた後、濾過し、さらにこの濾過物を2回水洗して金属石鹸ケーキを得た。得られた金属石鹸ケーキを、常圧の条件下、70℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛)を得た。得られた金属石鹸の平均粒径をレーザー回折粒度測定装置SALD−2000(株式会社島津製作所製)を用いて測定したところ、0.95μmであった。この金属石鹸に市販品のステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート、日本油脂株式会社:複分解法により生成、平均粒径約5μm)を添加して、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物6)を得た。
【0040】
(金属石鹸の調製例7)
表1に示す化合物3が10質量%、化合物4が86質量%、および化合物6が4重量%となるように混合して、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛およびステアリン酸カルシウムの混合物:化合物7)を得た。
【0041】
(金属石鹸の調製例8)
直径6cmのタービン羽根を有する攪拌装置付き2リットルの反応容器を用意し、タービン羽根を350回転させた。その反応容器にステアリン酸ナトリウム15質量%を投入し、反応温度80℃にて25質量%の硫酸亜鉛水溶液を30分かけて滴下した。全量仕込み終了後、80℃にて10分間熟成し、反応を終結させた。次に、このようにして得られた金属石鹸スラリーをろ過し、得られた金属石鹸ケーキを2回水洗した。得られた洗浄後の金属石鹸ケーキを乾燥温度100℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物8)を得た。
【0042】
(金属石鹸の調製例9)
高粘性物質を混錬可能な攪拌装置の付いた1リットルの密閉可能な反応容器を用意し、その反応容器にステアリン酸500gを投入した。続いて攪拌装置を50rpmで回転させ、液温を70℃に調整した。次に酸化亜鉛68g、及びステアリン酸に対して2質量%の水を投入し、反応容器を密閉した。攪拌装置を回転させながら、180分間反応を行い、反応を終結させた。次に、このようにして得られた金属石鹸粉体をミキサーにて粉砕し、金属石鹸(ステアリン酸亜鉛:化合物9)を得た。
【0043】
(金属石鹸の調製例10)
直径6cmのタービン羽根を有する攪拌装置付き2リットルの反応容器を用意し、タービン羽根を350回転させた。その反応容器にステアリン酸ナトリウム15質量%を投入し、反応温度85℃にて25質量%の塩化マグネシウム水溶液を30分かけて滴下した。全量仕込み終了後、80℃にて10分間熟成し、反応を終結させた。次に、このようにして得られた金属石鹸スラリーをろ過し、得られた金属石鹸ケーキを2回水洗した。得られた洗浄後の金属石鹸ケーキを乾燥温度90℃にて乾燥し、金属石鹸(ステアリン酸マグネシウム:化合物10)を得た。
【0044】
(各金属石鹸の物性値の測定)
上記化合物1〜10の平均粒径、粒度分布の標準偏差、および95質量%粒径を、レーザー回折粒度測定装置SALD−2000(株式会社島津製作所製)を用いて測定・算出した。さらに、得られた測定値から平均粒径に対する95質量%粒径の比(95質量%粒径/平均粒径)を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、化合物1〜5は、本発明に用いる金属石鹸の条件を満たしているが、化合物6〜10は、満たしていない。すなわち、化合物6は、95質量%粒径が平均粒径の5.00倍であり、3倍以下の条件を満たしていない。化合物7は、粒度分布の標準偏差が0.46であり、0.4以下の条件を満たしていない。化合物8〜10は、平均粒径、粒度分布の標準偏差、および95質量%粒径の割合のすべての条件を満たしていない。
【0047】
(実施例1)
表1の金属石鹸(化合物1)、無機粒子、樹脂、および溶剤を表2に示す割合で超音波分散機(海上電機株式会社製)を用いて均一に混合し、分散液を調製した。この分散液を、ガラス上およびPETフィルム上にスピンコーターにて塗布した後、70℃のホットプレート上にて乾燥させて薄膜を作製した。得られた被覆膜の無機粒子分散状態を下記の(1)〜(4)の方法により評価した。
【0048】
(1)分散状態の評価1
超深度形状測定顕微鏡VK−8500(株式会社キーエンス製)を用いて、ガラス基盤上に塗布した樹脂薄膜における無機粒子の分散状態を光学的に観察した(倍率×800倍)。結果を図1に示す。
【0049】
(2)分散状態の評価2
マイクロスコープWH7000(株式会社キーエンス製)を用いて、ガラス基盤上に塗布した樹脂薄膜1立方センチメートル中に存在する平均粒径20μm以上の粒子数を目視にて計測した。得られた値から以下の基準で分散度を評価した。結果を表2に示す。
○:20μm以上の粒子が400個未満である
△:20μm以上の粒子が401〜800個である
×:20μm以上の粒子が800個を超えている
【0050】
(3)表面特性の評価
表面形状測定装置DEKTAK−3ST(株式会社アルバック製)を用いてガラス基盤上に塗布した被覆膜の表面粗さRa(μm)を測定した。なお、測定は5回行いその平均値を算出した。結果を表2に併せて示す。
【0051】
(4)色ムラの評価
薄膜表面の色ムラを目視にて以下の基準で評価した。結果を表2に併せて示す。
○:色ムラが認められない
△:色ムラがやや認められる
×:色ムラが顕著に認められる
【0052】
(実施例2〜9)
表1の金属石鹸(化合物1〜5)、無機粒子、樹脂、および溶剤を表2に示す割合で、実施例1と同様に、超音波分散機を用いて均一に混合し、分散液を調製した。実施例1と同様に、各分散液を、ガラス上およびPETフィルム上にスピンコーターにて塗布した後、70℃のホットプレート上にて乾燥させて薄膜を作製し、得られた被覆膜の無機粒子分散状態を実施例1の(2)〜(4)の方法により評価した。
【0053】
(実施例10)
表1の金属石鹸とカーボンブラック(無機顔料)を表2に示す割合でボールミルにて混合させた。その後、この混合物、樹脂、および溶剤を表2に示す割合で実施例1と同様に、超音波分散機を用いて均一に混合して分散液を調整した。実施例1と同様に、各分散液を、ガラス上およびPETフィルム上にスピンコーターにて塗布した後、70℃のホットプレート上にて乾燥させて薄膜を作製し、得られた被覆膜の無機粒子分散状態を実施例1の(2)〜(4)の方法により評価した。
【0054】
(比較例1〜8)
表1の金属石鹸(化合物6〜10)、無機粒子、樹脂、および溶剤を表2に示す割合で、実施例1と同様に、超音波分散機を用いて均一に混合し、分散液を調製した。実施例1と同様に、各分散液を、ガラス上およびPETフィルム上にスピンコーターにて塗布した後、70℃のホットプレート上にて乾燥させて薄膜を作製し、得られた被覆膜の無機粒子分散状態を比較例1および2については、実施例1の(1)〜(4)の方法により評価し、比較例3〜7については、実施例1の(2)〜(4)の方法により評価した。
【0055】
(比較例9)
表1の金属石鹸とカーボンブラック(無機顔料)を表2に示す割合でボールミルにて混合させた。その後、この混合物、樹脂、および溶剤を表2に示す割合で実施例1と同様に、超音波分散機を用いて均一に混合して分散液を調整した。実施例1と同様に、各分散液を、ガラス上およびPETフィルム上にスピンコーターにて塗布した後、70℃のホットプレート上にて乾燥させて薄膜を作製し、得られた被覆膜の無機粒子分散状態を実施例1の(2)〜(4)の方法により評価した。
【0056】
図1〜図3の結果から、実施例1の本発明の要件を満たす分散液から得られた被覆膜は、比較例1の金属石鹸を含有しない分散液および比較例2の本発明の要件を満たさない市販の金属石鹸(化合物8)を含有する分散液から得られた被覆膜に比べて、凝集している無機粒子が少なく、粒径の大きな金属石鹸も見受けられず、十分に無機粒子の分散性が良好であった。
【0057】
【表2】

【0058】
表2の結果から、実施例1〜10の本発明の要件を満たす分散液から得られた薄膜は、20μm以上の粒子(粗大粒子)が少なく、無機粒子の分散度(分散性)が良好であり、さらに、表面粗さが小さく、平滑性が良好であり、色ムラも認められなかった。一方、比較例1の金属石鹸を含有しない分散液および比較例2〜9の本発明の要件を満たさない金属石鹸(化合物6〜10)を含有する分散液から得られた薄膜は、粗大粒子が多く無機粒子の分散性が不良であり、色ムラが認められた。特に、95質量%粒径が平均粒径の3倍以下の条件のみを満たしていない金属石鹸(化合物6)を含有する分散液(比較例4)、あるいは粒度分布の標準偏差が0.4以下の条件のみを満たしていない金属石鹸(化合物7)を含有する分散液(比較例8)を用いた場合は、粗大粒子が多いため無機粒子の分散性が悪く、表面の粗い薄膜であった。また、実施例4の金属石鹸(化合物3)を含有する分散液から得られる薄膜は、比較例3のすべての要件を満たさない金属石鹸(化合物8)を含有する分散液から得られる薄膜に比べて、表面粗さが小さく、平滑性に優れ、色ムラがないことがわかる。実施例10の金属石鹸(化合物1)を含有する分散液から得られる薄膜と比較例9の金属石鹸(化合物8)を含有する分散液から得られる薄膜との比較からも上記と同様に、本発明の金属石鹸を用いることによって、表面粗さが小さく、平滑性が良好で、かつ色ムラがない薄膜が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の分散剤は、特定の粒度構成を有する金属石鹸の微粒子であるため、顔料などの無機粒子の分散性に優れている。本発明の分散剤および該分散剤と無機粒子とを特定割合で含有する無機粒子分散組成物は、平滑性に優れた良好な塗膜、均一に磁性粉が分散され平滑性に優れた記録媒体、あるいは均一に塗布される化粧料を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1で得られた分散液を塗布したガラス基板の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた分散液を塗布したガラス基板の表面状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】比較例2で得られた分散液を塗布したガラス基板の表面状態を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.01〜4μmであり、かつ粒度分布の標準偏差が0.4以下であり、かつ95質量%粒径が平均粒径の3倍以下である金属石鹸からなる無機粒子分散剤。
【請求項2】
無機粒子100質量部に対して、請求項1の金属石鹸からなる無機粒子分散剤を0.5質量部以上含有することを特徴とする、無機粒子分散組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−82066(P2006−82066A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272627(P2004−272627)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】