説明

無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維、および無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法

【課題】難燃性に優れた無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維、この繊維の製造に用いられる、分散性が高度に優れた無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法を提供する。
【解決手段】無機粒子の分散性の高い難燃性に優れた芳香族ポリアミド繊維、さらには無機塩及び無機粒子を含有するアミド系溶媒より芳香族ポリアミド‐無機粒子スラリーを形成させ、該スラリー中の芳香族ポリアミドを溶解させることで分散性が高度に優れた、前記芳香族ポリアミド繊維を製造するために用いられる無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを用いて得られる難燃性の改善された無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維、及び該無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知である。また、これらの芳香族ポリアミドは、アミド系極性溶媒に可溶であり、芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている(特許文献1〜8)。この繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣などの防災安全衣料用途などに用いられている。
なかでも、防護衣は、溶鉱炉、電気炉、焼却炉などの高温炉前で着用する防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服などとして幅広く使用されている。特に、メタ型芳香族ポリアミド繊維は、その優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて一般の糸質が衣料用繊維、例えば綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性などの面で、従来、防護衣に使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材などよりも防護衣素材として優れていることが認められている。
【0003】
しかしながら、既存のこれらの繊維は、難燃性に限界があるため、消火活動・人命救助活動の範囲にも限界が生じている。従って、従来の防護衣素材の難燃性が飛躍的に向上すれば、例えば消火活動において、火災の進行状況にかかわらず、火災現場内部へ進入して早期の消火・救出活動を可能とすることや、最盛期の火災であっても、火元に接近して直接注水して早期に消火することが可能となる。これにより、消火活動における水損を大幅に低減する、救助の迅速・早期化を実現する、消防隊員の安全性を向上する、などのメリットが期待される。
【0004】
従来、樹脂の難燃性を改善するため、ポリマーに有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物などを添加する方法が提案されており、ハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合して難燃性を改善する方法が提案されている(下記特許文献9参照)。しかし、これらは、低分子量の有機化合物であるため、繊維成形加工時にその一部が排出されてしまう、もしくはハロゲン含有のために環境問題を危惧した近年の脱ハロゲン化の動きに反する問題点を有する。
【0005】
また、耐熱性や難燃性を向上させる目的で、繊維状、針状の無機フィラーが難燃化剤として用いられ、耐熱性、難燃性が向上することが知られている。例えば、水酸化マグネシウム、およびエラストマーをポリアミド樹脂にそれぞれ30質量%以上、3〜20質量%含有させ、難燃性を向上させたポリアミド樹脂が開示されている(下記特許文献10参照)。
しかしながら、金属水酸化物を繊維中に添加して難燃性を向上させるためには、大量に添加しなければならない。その結果、繊維の引張強度、弾性率などの機械的物性が低下すると共に、紡糸工程において生産安定性が著しく低下することがあり、必ずしも難燃性の向上と機械的物性の持続が可能であるとは限らない。また、難燃性向上効果を紡糸工程での生産安定性を損なうことなく有効に発現せるためには、繊維中にフィラーを高度に分散させる必要があり、全芳香族ポリアミド繊維を製造する際に、該ポリアミドのドープ中にフィラーを機械的分散処理による高せん断下での分散等も試みられているが、良好な分散状態は達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭35−14399号公報
【特許文献2】特公昭47−10863号公報
【特許文献3】特公昭48−17551号公報
【特許文献4】特開昭50−52167号公報
【特許文献5】特開昭56−31009号公報
【特許文献6】特開平8−074121号公報
【特許文献7】特開平10−88421号公報
【特許文献8】特開2001−348726公報
【特許文献9】特開昭53−122817号公報
【特許文献10】特開平11−100499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のごとき従来技術の問題を解消するためになされたもので、その1つの目的は、従来の機械物性を損なうことなく難燃性に優れた無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維、さらには当該繊維を得るための無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを紡糸して得られ、限界酸素指数(LOI値)が27以上で、かつ下記式を満たすことを特徴とする、無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維に関する。
T / To≧ 0.7
[但し、式中、Tは無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の引張強度、Toは前記粒子を含有していないことを除き、その他は前記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張強度とする。]
ここで、前記芳香族ポリアミドとしては、好ましくはコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドが挙げられる。
また、前記無機粒子としては、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸カルシウムが挙げられる。
さらに、無機粒子の含有量は、芳香族ポリアミドに対し5〜20質量%が好ましい。
次に、本発明は、芳香族ポリアミド粒子、または芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑(以下「アラミド繊維屑」ともいう)を、該ポリアミドに対し30〜180質量%の無機塩及び該ポリアミドに対し5〜20質量%の無機粒子を含有するアミド系溶媒に添加する添加工程、
該芳香族ポリアミド粒子または該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより芳香族ポリアミド−無機粒子スラリーを形成させるスラリー化工程、
次いで、該スラリー中の芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱する溶解工程、
を備えたことを特徴とする、前記無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド組成物(スラリー)は、無機粒子が高度に分散されている。このため、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド組成物(スラリー)から得られるポリマードープも、無機粒子の分散性に優れたものとなり、したがって、当該ドープから紡糸して得られる無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、無機粒子の分散性が高度に優れた芳香族ポリアミド繊維となる。このため、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、難燃性に優れたものとなり、難燃性に優れた各種繊維製品を提供することができる。特に、防護衣料用途への素材展開について極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維>
本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を有する。本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の物性、および製造方法等について以下に説明する。
【0011】
[無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の物性]
[限界酸素指数(LOI)]
本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、JIS L1091に準拠して測定される限界酸素指数が27以上である。
ここで、限界酸素指数(LOI)は、その材料が燃焼し続けるために必要な酸素の割合を示す指標であり、この数値が大きいほど難燃性が高いことを表すものである。
限界酸素指数を27以上にするには、芳香族ポリアミド繊維中に無機粒子を分散させる必要がある。例えば前記無機粒子としては、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸カルシウムが挙げられる。
なお、限界酸素指数の測定方法は、後掲されたとおりである。
【0012】
[T/To]
また、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、繊維の引張り強さ(T)の、無機粒子を含有していないことを除き、その他は前記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比(T/To)が0.7以上、好ましくは0.8以上である。前記比が0.7未満では、高強度性が失われる。この比を0.7以上にするには、繊維中に分散する無機粒子の分散粒径を小さくする必要がある。例えば、繊維中に分散される無機粒子の分散粒子平均相当径を、0.5μm以下、好ましくは0.4μmとすればよい。
【0013】
[単糸繊度]
なお、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜50dtexである。0.5dtex未満の場合は添加された粒子が糸欠陥として作用し製糸性が不安定となる場合がある。また、繊維の比表面積が大きくなるので耐光劣化を受け易い。一方、50dtexを超える場合は、繊維の比表面積は小さくなり、耐光劣化を受けにくい。反面、製糸工程で比表面積が小さいので凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすい。
【0014】
[強度]
また、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、強度が高い程好ましいが、無機粒子の濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、10cN/dtex以上が好ましい。10cN/dtex未満では高強度繊維としての特長が不足する。さらに好ましくは、15cN/dtex以上である。繊維の引張強度を10cN/dtex以上にするには、例えば延伸倍率や繊維中のポリマー成分に対する分散させる無機粒子の割合などをコントロールすることにより制御することができる。
【0015】
[伸度]
さらに、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の伸度は、好ましくは3.0%以上である。3.0%未満の場合は撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸コードの強力利用率が低下する。従って、耐光性が特に要求される屋外使用のロープやネットの場合、高強力耐久性が問題になる。伸度は、さらに好ましくは3.5〜5.0%である。
【0016】
<本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープに用いられる材料>
[芳香族ポリアミド]
本発明における芳香族ポリアミドは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)とジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。
本発明において使用されるジアミン成分としては、p-フェニレンジアミン、2-クロルp-フェニレンジアミン、2,5-ジクロルp-フェニレンジアミン、2,6-ジクロルp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
中でもジアミン成分として、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミンおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを単独あるいは2種以上使用することができる。
【0017】
また、具体的に本発明において使用される酸クロライドとしては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2-クロルテレフタル酸クロライド、2,5-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、酸クロライドとして、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。従って、本達明における芳香族ポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0018】
芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、具体的にN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。前記溶媒は脱水されていることが望ましい。
この場合、溶解性を挙げるために重合前、途中、終了時に一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として、例えば塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0019】
また、芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミンと酸クロライドは、ジアミン対酸クロライドのモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
この芳香族ポリアミドの末端は封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0020】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば-25℃〜100℃好ましくは-10℃〜80℃である。
このようにして得られる芳香族ポリアミドは、アルコール、水といった非溶媒に投入して、沈澱させ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶媒に溶解して成形に供することもできるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることができる。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、前記芳香族ポリアミドの重合に使用される溶媒が好ましい。
【0021】
[芳香族ポリアミド粒子]
本発明に用いられる芳香族ポリアミド粒子は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。具体的には、例えば、アミド系溶媒中において、芳香族ジカルボン酸クロライドと芳香族ジアミンとを反応させることにより、芳香族ポリアミド溶液を得る。
続いて、得られた芳香族ポリアミド溶液から、本発明に用いられる芳香族ポリアミド粒子を製造することができる。具体的には、例えば、得られた芳香族ポリアミド溶液を水中に滴下することによって芳香族ポリアミドを再沈・精製することにより、芳香族ポリアミド粒子を得ることができる。
【0022】
本発明に用いられる芳香族ポリアミド粒子の平均粒径は、0.1μm以上500μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径0.1μm未満の粒子は、製造することが困難であり、生産性および経済性が低下するため好ましくない。
ここで、平均粒径は、日機装(株)製 マイクロトラック MT3200IIにてレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)で乾式粉末を評価した際に得られた測定値である。
【0023】
[アラミド繊維屑]
アラミド繊維屑に用いられる芳香族ポリアミド繊維は、公知の製造方法により製糸されたものでよい。例えば、紡糸用の芳香族ポリアミドドープを半乾半湿式紡糸法により凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶媒を十分に除去し、乾燥工程にて水分を乾燥したのち熱処理あるいは熱延伸を行なうことにより製造される。
【0024】
また、本発明の方法で原料となるアラミド繊維屑は、前記の如き芳香族ポリアミド繊維の製造現場で発生する繊維屑であり、巻き始め、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時に発生する。
本発明におけるアラミド繊維屑は、芳香族ポリアミド繊維を製造する工程で発生する繊維屑のうち、特に未延伸繊維屑が好適に使用される。未延伸繊維屑とは、熱延伸又は熱処理を行なう工程より前に発生する繊維屑のことであり、この繊維屑は後述のスラリーを形成しやすいため有利に使用される。
なお、アラミド繊維屑の単糸繊度は、200dtex以下、繊維長は、10〜100mm程度が好ましい。
【0025】
以上の芳香族ポリアミド粒子、アラミド繊維屑は、単独であるいは混合して用いることができる。
【0026】
[無機塩]
次に、本発明で用いられる無機塩は、芳香族ポリアミド粒子および/または芳香族ポリアミド繊維屑とアミド系溶媒との混合物を混練・溶解させるにあたり、溶解性を向上させるために用いられる。かかる無機塩としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無機塩の量は、芳香族ポリアミド粒子または芳香族ポリアミド繊維屑からなるポリアミドに対して30〜180質量%、好ましくは50〜100質量%の範囲である。無機塩の量が、30質量%未満の場合には、芳香族ポリアミド繊維屑若しくはポリマー粒子のアミド系溶媒に対する溶解性が不十分となるため好ましくない。一方、180質量%を超える場合には、該無機塩をアミド系溶媒中に完全に溶解することが困難となるため好ましくない。
【0027】
[無機粒子]
次に、本発明に用いられる無機粒子は、例えば水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムを用いることができる。その際、繊維への無機粒子の配合量が少なくても、難燃性が向上することが確認された。このため、高い難燃性を維持しながら、繊維に対する無機粒子の配合量を減らすことができる。従って、繊維の機械的特性を損なうことのない少ない配合量で、高い難燃性を付与することができる難燃性繊維を提供することができる。また、その他の無機粒子として、例えば水酸化アルミニウム等の無機粒子難燃剤を使用することもできる。
【0028】
以上、説明した本発明の無機粒子の繊維への配合量は、芳香族ポリアミド粒子またはアラミド繊維屑からなるポリアミドに対し、1〜20質量%、好ましくは5〜10質量%であり、このような少量の配合量で繊維に対して難燃性を付与することができる。1質量%未満では、所定の難燃性向上効果が発現しない。一方、20質量%を超えると、繊維の成形性が乏しくなり好ましくない。
なお、粒子の繊維への配合量を30〜50質量%とすることもできる。この場合は、繊維の機械的強度が多少犠牲になるが、難燃性を大幅に向上させることができる。
【0029】
また、前記無機粒子は、シラン系カップリング剤もしくはチタン系カップリング剤、好ましくはシラン系カップリングなどのカップリング剤、または界面活性剤などの表面処理剤によって、表面処理された表面処理層をさらに有することが好適である。
この表面処理剤は、被覆層の表面に存在し、表面処理層を形成する。かくて、表面処理剤の種類を適切に選択することにより、無機粒子の表面処理層の表面状態が調整され、ポリマーとの親和性を向上させ、ポリマー中への無機粒子の分散性が良くなって、少量の配合量で高い難燃性を付与することができる。
【0030】
ここで、シラン系カップリング剤としては、下記式(I)で表されるシラン系カップリングが挙げられる。
(R−Si−X(4−n) (I)
(R:C数1〜300からなる有機基でありN、O、S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでも良い。X:ORといったアルコキシル基もしくは、ハロゲン原子であって、RはC数1〜18の有機基である。)
として具体的にはエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など脂肪族アルキル基、シクロヘキシル基などの脂環族基、またフェニル基、トルイル基、ナフチル基といった芳香族基が挙げられる。また、これらにN,O,S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでよく、その場合、アミノ基、クロロ基、ブロモ基、シアノ基、酸無水物、エポキシ基、メルカプト基などが挙げられる。Xに含まれるORのRとしてはメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0031】
このような式(I)で示されるシラン系カップリング剤の具体的な化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン,n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン,n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン,n−ペンチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルルトリメトキシシラン,n−ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、トルイルトリメトキシシラン、トルイルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、P−アミノフェニルトリエトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン、3−シアノメチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピルスクシン酸無水物、2−(3,4,−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2,3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5、6―エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3−ニトロプロピルジメトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、11−ブロモウンデシルトリメトキシシラン、11−ブロモウンデシルトリクロロシラン、11−ブロモウンデシルジメチルクロロシラン、特開2006−124698号公報の段落「0079」−「0085」に記載されているイミダゾールシランなどのシラン系カップリング剤を挙げることができる。
これらのシラン系カップリング剤のうち、エポキシシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、アルコキシシランが好ましい。
これらのシラン系カップリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0032】
シラン系カップリング剤は、無機粒子の分散性を極めて良好にすることができる。従って、無機粒子の少量の配合量で、得られる繊維に高い難燃性を付与することができる。
【0033】
また、界面活性剤としては、イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などを用いることができる。ここで、イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系、リン酸系などの陰イオン界面活性剤、アンモニウム系界面活性剤などの陽イオン系界面活性剤、カルボン酸系、リン酸エステル系などの両性イオン系界面活性剤を利用することができ、非イオン系界面活性剤としてはカルボン酸系、リン酸エステル系などのものを使用することができる。
【0034】
なお、本発明において、物性を損なわない範囲で、本発明の無機粒子以外のフィラーを併用することができる。用いるフィラーとしては、繊維状、もしくは板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が挙げられ、具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、二酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、層状粘土鉱物、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、二酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。また、前記のフィラーは、2種以上を併用して使用することもできる。
【0035】
なお、本発明に使用する前記のフィラーは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0036】
[アミド系溶媒]
さらに、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを調製する際に用いられるアミド系溶媒は、本発明の芳香族ポリアミドを重合するに用いられるN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒が挙げられる。
アミド系溶媒の使用量は、得られるポリアミドドープのポリマー濃度が1〜10質量%、好ましくは4〜6質量%となる量である。
【0037】
<無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法>
次に、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法、およびこのドープを用いた本発明の芳香族ポリアミド繊維の製造方法の具体例を以下に示す。
本発明においては、まず第1の添加工程において、芳香族ポリアミド粒子、またはアラミド繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜180質量%の無機塩及び該ポリアミドに対し5〜20質量%の無機粒子を含有するアミド系溶媒に添加して、混合物を得る。
本発明においては、次いで第2のスラリー化工程で、前記混合物を芳香族ポリアミド粒子またはアラミド繊維屑が、アミド系溶媒に実質的に溶解しない温度において混合することにより、芳香族ポリアミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)をスラリー状態にすることが必要である。本発明におけるスラリー状態とは、数ミクロン〜数千ミクロンの微細な芳香族ポリアミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)がアミド系溶媒中に分散した状態のことである。
【0038】
本発明で言う「実質的に溶解しない温度」とは、アミド系溶媒の種類、無機塩の種類、量によって相違し、また芳香族ポリアミド繊維屑の繊度や芳香族ポリアミド粒子の平均粒径によって相違するが、本発明における「実質的に融解しない温度」とは、アミド系溶剤中に繊維屑(ポリアミド粒子)を1時間浸漬して、質量減少率が0.1%以下の場合、その温度を実質的に溶解しない温度と定義する。本発明においては、この温度は、15〜40℃の範囲が好ましい。このときの温度が40℃を超えると、アラミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)の溶解が進行するため、アラミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)の凝集物が発生してしまい、その後、該凝集物を溶解するのに時間を要するとともに、該凝集物が未溶解物として残留しやすくなる。したがって、スラリー化の温度は、15〜40℃の範囲が好ましい。この温度が15℃未満の場合には、スラリー化するまでに長時間を要するため、工業的に好ましくない。
【0039】
一般的に、繊維屑等を溶解させる際には、溶媒への溶解効果を高める目的で、あらかじめシュレッダー等により微細に粉砕しておくことが行なわれるが、本発明においては、アラミド繊維屑若しくは芳香族ポリアミド粒子のスラリー化によって、微細なアラミド繊維屑若しくは該芳香族ポリアミド粒子がアミド系溶媒中に分散した状態が得られるため、あらかじめシュレッダー等により微細に粉砕しておくことは不要であり、かつ、ドープ調製に要する期間が大幅に短縮できるので、工業的に好ましい。このスラリーは、前記の温度範囲で安定であり、この温度範囲ではスラリーのままで保存したり、輸送したりすることができる。
【0040】
本発明方法によれば、その後、第3の溶解工程において、前記の芳香族ポリアミドスラリーを芳香族ポリアミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)が溶解する温度範囲に加熱し、高せん断応力下に混練することによりを芳香族ポリアミドドープが得られる。この温度は、芳香族ポリアミド繊維屑(芳香族ポリアミド粒子)の溶解性を高める観点からは高い方がよいが、アミド系溶媒の熱劣化・分解を避けるという点で、130℃以下、特に50℃以上120℃以下、が好ましい。
【0041】
本発明において、芳香族ポリアミド粒子またはアラミド繊維屑とアミド系溶媒を混合し、該混合物を高せん断応力下に混練する方法が、特に溶解性が良好であり、工業的に好ましい。
本発明で用いられる混練装置としては、せん断混練りできるものであれば特に制限はなく、一軸押出機、二軸押出機などのスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。
このようにして得られた芳香族ポリアミドドープは、不溶分の濾別、脱色等の処理を施して精製することができる。
【0042】
本発明によって得られる芳香族ポリアミドドープは、そのままで、又はこれに同質の芳香族ポリアミドドープポリマーを加えるか、あるいは同じアミド系溶媒を加えて希釈する等の方法によって適当な濃度に調節され、再利用することができる。
【0043】
なお、本発明により得られた芳香族ポリアミドドープの固有粘度(IV)は2.0〜4.0である。固有粘度は98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値を示す。
【0044】
<無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを原料として用いるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の紡糸方法を採用することができる。湿式紡糸、乾式紡糸、半乾半湿式紡糸のいずれを採用することも可能であり、本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド組成物は融点が非常に高いことから、溶媒に溶解することによりドープを調製し、その後、ドープから紡糸を行う。
【0045】
すなわち、無機粒子を含有した本発明の芳香族ポリアミドドープを用い製糸を行う。
先ず、ポリマードープを紡糸口金から吐出する。吐出する際に用いる紡糸口金の孔径やノズル長、ホール数、材質等は特に限定されるものではなく、得られる繊維の繊維径や単糸数、曳糸性等を考慮し適宜調整することができる。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は、用いるポリマードープの濃度や粘度により適宜調整することができるため特に限定されるものではないが、曵糸性やポリマードープの吐出圧、ポリマードープの劣化などを考慮すると、75〜120℃が好ましい。
【0046】
なお、本発明において、芳香族ポリアミド粒子または芳香族ポリアミド繊維屑からなるポリマーのアミド系溶媒に対する濃度は、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜10質量%である。ポリマー濃度が0.5質量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり安定的に紡糸することが困難となる。
【0047】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを凝固液中で凝固する。この際、紡糸口金と凝固液の温度が大きく異なる場合、紡糸口金と凝固液が接触するとそれぞれの温度が変化し、制御が困難になるため、エアギャップを設けることができる。このときのエアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、単糸の密着や温度の制御性、曵糸性などの観点から5〜15mmが好ましい。ここで用いる凝固液は、ポリマードープに使用しているアミド系溶剤の水溶液であり、その温度や溶剤濃度は、特に限定されるものではなく、出糸した糸の凝固状態や後の工程通過性等に問題がない範囲で適宜調整することができる。
【0048】
なお、凝固浴は、芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、芳香族ポリアミドドープの溶媒が急速に抜け出して芳香族ポリアミド繊維に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。一般には、貧溶媒としては水、良溶媒としては芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのが好ましい。良溶媒/貧溶媒の比は、芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60が一般的に好ましい。
【0049】
次に、凝固した糸を水洗する。この水洗工程では、水を用いて糸中のアミド系溶剤を可能な限り除くことを目的とする。その水洗条件は、特に限定されるものではなく、糸中のNMPを十分に除くことができる範囲で、その水洗浴の数や温度等を適宜調整することができる。
【0050】
次に、水洗後の繊維を乾燥する。このときの乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に含まれる水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃が好ましい。また乾燥は、ローラーなどの接触型の乾燥装置や、乾燥炉中を繊維が通過するなどといった非接触型の乾燥装置のいずれも用いることができる。
【0051】
得られた繊維は、この段階では充分に配向していないので、この後、熱延伸して広角X線回折より求めた結晶配向度が89%以上、結晶化度が74%以上と高度に配向および結晶化させることが好ましい。これより、結晶配向度、結晶化度のどちらか一方または両方が低い場合には、熱(延伸)処理を施しても、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。
【0052】
すなわち、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程では、繊維の熱延伸により、繊維中のポリマー分子を高度に配向させ、強度を付与することを目的とする。このときの熱延伸温度は十分な延伸および強度が発現する条件であれば特に限定されるものではないが、300〜600℃が好ましく、更に好ましくは320℃〜580℃、最も好ましくは350〜550℃である。この熱延伸工程での延伸倍率は、5倍〜15倍が好ましいが、十分な高強度が達成できれば特にこの範囲に限定されるものではない。また、この熱延伸工程では、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。なお、繊維を熱延伸する際に用いる装置としては、接触型の熱板や非接触型の炉などあるが特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、且つ所定の倍率で延伸が可能な装置であれば、適宜用いることができる。
【0053】
そして、必要に応じて繊維に対して帯電抑制や潤滑性を付与する目的で油剤を付与し、最後にワインダーで巻き取る。付与する油剤の種類や付与する量など特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途や繊維の取扱い性などを考慮し適宜調整することができる。また、ワインダーでの巻取り方法については、公知のワインダーを用い、適宜張力や接圧などの巻取り条件を調整して巻き取ることができる。
【0054】
<無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の用途>
かくして得られる本発明の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布などの布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿などの繊維構造物を構成する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例及び比較例は、本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で測定した。
【0056】
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<繊維の引張強度>
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、測定試料長500mm、チャック引張速度250mm/min、初荷重0.2cN/dtexの条件にて測定を実施した。
【0057】
<限界酸素指数LOI値>
限界酸素指数の測定は、JIS L 1091 E法に準拠した測定法にて測定を実施した。
(測定条件)
試験片の区分 :E−2号
布帛の作成方法 :丸編生地(23ウェール/インチ、18コース/インチ)
点火器の熱源の種類:JIS K2240 1種1号(LPガス)
なお、以下の(a)もしくは(b)の早いほうで限界酸素指数を決定
(a)限界酸素指数を決定する際の燃焼長さ:50mm
(b)限界酸素指数を決定する際の燃焼時間:180秒
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
【0058】
<T/To>
T/Toは、繊維の引張り強さ(T)の、複合粒子を含有していないことを除き、その他は前記繊維と同じ繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比として求めた。
【0059】
<分散性(繊維中における無機粒子の分散粒子平均相当径)>
繊維を切断し、断面を電子顕微鏡により倍率10万倍で観察した際の25μmの観察断面積当りの平均粒子分散面積S(μm)としたとき、下記式により計算される(Y)を分散平均相当径とした。
Y(μm)=2×√(S/π)
【0060】
<芳香族ポリアミド繊維屑>
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが当モルとなるように秤量して投入し溶解させた。このジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モル、秤量し投入した。反応終了後、水酸化カルシウムで中和し、芳香族ポリアミドドープを得た。該ドープは孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出され、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出され凝固された後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸された後、巻き取ることにより、単糸繊度が1.67dtexの芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3.4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維)を得た。
芳香族ポリアミド繊維屑としては、前記延伸工程における糸切れによって発生した固有粘度(IV)が3.5の未延伸繊維屑を使用した。この繊維屑の平均繊維長は、20〜50mm程度である。
【0061】
<芳香族ポリアミドドープ製造法>
無機粒子を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中にビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
NMP/塩化カルシウム/無機粒子分散液に繊維屑を所定量になるよう加え、25℃にて30分間撹拌して、繊維屑のアミド系溶媒スラリーを得た。該スラリーを淺田鉄工株式会社製、プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、60℃に加熱、混練し透明な芳香族ポリアミドドープを得た。
【0062】
<芳香族ポリアミド繊維製造法>
このドープを孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出され凝固された後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸させた後、巻き取った。
【0063】
実施例1
無機粒子として水酸化マグネシウムの微粒子(共立マテリアル株式会社製 MG−23D)を用い、10質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0064】
実施例2
無機粒子として、水酸化マグネシウムの微粒子を用い、20質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
無機粒子として水酸化マグネシウムの微粒子を用い、5質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0066】
実施例4
無機粒子として炭酸カルシウムの微粒子(宇部マテリアルズ株式会社製 CS・3N−A)を用い、10質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0067】
比較例1
無機粒子未添加のコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0068】
比較例2
無機粒子として水酸化マグネシウムの微粒子を用い、30質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0069】
比較例3
無機粒子として水酸化マグネシウムの微粒子を用い、1質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,’4−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表2に示す。
【0070】
比較例4
NMPに対して水酸化マグネシウムの微粒子を分散させた後、芳香族ポリアミドドープにブレンドすることによって添加した以外は、同様の方法で10質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。
水酸化マグネシウムの微粒子のNMPへの分散にあたっては、ビーズミル(淺田鉄工株式会社製、商品名:Nano Grain Mill)を使用し、メディアとしては、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。また、芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、淺田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を使用して実施した。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表2に示す。
【0071】
比較例5
水酸化マグネシウムの微粒子を直接、芳香族ポリアミドドープに添加した以外は、実施例1と同様の方法で10質量%添加されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。
なお、水酸化マグネシウムの微粒子の芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、淺田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を使用して実施した。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表2に示す。
【0072】
【表1】
















【0073】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明による無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維は、優れた難燃性を有する繊維製品を提供することができ、特に防護衣料用途の素材として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子含有芳香族ポリアミドドープを紡糸して得られ、限界酸素指数(LOI値)が27以上で、かつ下式を満たすことを特徴とする無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維。
T / To≧ 0.7
[但し、式中、Tは無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維の引張強度、Toは前記粒子を含有していないことを除き、その他は前記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張強度とする。]
【請求項2】
前記芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
前記無機粒子が、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸カルシウムである請求項1または2記載の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
無機粒子の含有量が、芳香族ポリアミドに対し、5〜20質量%である請求項1〜3いずれかに記載の無機粒子含有芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
芳香族ポリアミド粒子、または芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜180質量%の無機塩及び該ポリアミドに対し5〜20質量%の無機粒子を含有するアミド系溶媒に添加する添加工程、
該芳香族ポリアミド粒子または該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより芳香族ポリアミド−無機粒子スラリーを形成させるスラリー化工程、
次いで、該スラリー中の芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱する溶解工程、
を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項6】
前記スラリー化工程時の混合を高せん断応力下にて実施する請求項5記載の無機粒子含有芳香族ポリアミドドープの製造方法。

【公開番号】特開2011−74521(P2011−74521A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226720(P2009−226720)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】