説明

無機系塗装膜を備える物体及びその製造方法

【課題】 硬度が高く、基体を屈曲させても基体から剥離しない塗装膜を備えた物体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 屈曲部7、9を有するアルミ板1と、前記屈曲部7、9の表面に形成された無機系塗装膜3とを備えた物体5の製造方法であって、前記アルミ板1の表面に、(a)アルカリ金属シリケートと、(b)ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛と、(c)コレマイト及び/又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものとを含む無機系塗装膜3を設ける工程と、前記アルミ板1において前記無機系塗装膜3を形成した部分7、9を屈曲する工程と、を有する物体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属(ステンレス、アルミ、鉄等)等から成る基体の表面に無機系塗装膜を備えた物体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車、建築、厨房機器、家電機器、家庭用品等の様々な分野において、金属から成る基体の表面を保護するために、あるいは、親水性、抗菌性等の機能を付与するために、基体の表面に塗装膜を形成することが行われてきた。塗装膜としては、有機系塗装膜や、無機系塗装膜が用いられてきた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−329950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、有機系塗装膜を基体の表面に形成した場合は、有機系塗装膜の硬度が十分でないため、基体の表面を保護できず、基体に傷がついてしまうことがあった。
また、塗装膜を、金属から成る基体の表面に形成し、その基体を屈曲させたとき、一連な硬い塗装膜のため、その屈曲部において塗装膜が基体から剥離してしまうことがあった。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、硬度が高く、基体を屈曲させても基体から剥離しない塗装膜を備えた物体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、
屈曲加工を施す部位を有する基体と、前記屈曲加工を施す部位の表面に形成された無機系塗装膜とを備える物体を要旨とする。
【0006】
本発明の物体は、基体の表面に形成された塗装膜が無機系塗装膜であることにより、基体と塗装膜との密着性が高く、基体に屈曲加工を施しても、塗装膜が基体から剥離してしまうようなことがない。
【0007】
また、本発明の物体は、硬度が高い無機系塗装膜を備えているので、他の物体と接触しても、傷が付きにくい。さらに、本発明の物体は、その表面に無機系塗装膜を有することにより、親水性が高く、耐汚染性及び耐薬品性において優れている。
【0008】
前記基体としては、例えば、自動車、建築、厨房機器、家電機器、家庭用品等の様々な分野において用いられる素材が挙げられる。基体の材質は特に限定されず、例えば、アルミ、ステンレス、鉄などの金属が挙げられる。また、基体の形状は特に限定されず、例えば、板状の形状が挙げられる。
【0009】
前記屈曲加工としては、基体の形状を変形させる加工が幅広く該当し、例えば、図2に示すように、板状の基体を、その主平面に属する折り曲げ線において折り曲げる加工が挙げられる。屈曲させる角度としては、例えば、30〜180度の範囲が挙げられる。また、屈曲部におけるRは、例えば、1.5R〜3.0R(好ましくは1.5R)の範囲が挙げられる。また、屈曲させる方向は、図2における屈曲部7のように、無機系塗装膜3が外側になる方向でもよいし、図2における屈曲部9のように、無機系塗装膜3が内側となる方向でもよい。
【0010】
前記無機系塗装膜は、例えば、無機系塗料を基体の表面に塗布し、溶媒を乾燥させることで形成することができる。無機系塗料としては、例えば、以下のa〜j成分のうちの1以上を含むものがある。
【0011】
a.アルカリ金属シリケート:アルカリ金属シリケートは、アルカリ金属のケイ酸塩であって、バインダーとして使用することができる。a成分としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が挙げられる。a成分は、後述するc成分と併用すれば、脱水収縮反応及びゲル化反応を起こして固化する作用を奏する。
【0012】
b.ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛:このb成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のb成分の配合量は、a成分100重量部に対して、5〜70重量部の範囲が好適である。
【0013】
c.ホウ酸塩:ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、ホウ酸ストロンチウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独で、または2種以上を混合して用いることができる。c成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のホウ酸塩の配合量は、a成分100重量部に対し、0.5〜30重量%の範囲が好適である。0.5重量%以上とすることにより、塗装膜を十分に固化させることができ、35重量%以下であることにより、過剰な固化に起因する塗装膜の微細な亀裂の発生を防止することができる。
【0014】
d.コレマナイト(2CaO、3B23、5H2O)及び/又はウレキサイト(Na2O、2CaO、5B23、16H2O)を主成分とした天然ガラス(無機充填剤):無機系塗料は、d成分を含有すると、コレマナイト又はウレキサイトに含まれるB23成分のガラス化により強固な塗装膜を形成することができる。なお、d成分は、他の天然ガラスをコレマナイト或いはウレキサイトと混合させてもよいが、コレマナイト及び/又はウレキサイトの混合量は少なくともd成分総量の約10重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが一層好ましい。
【0015】
無機系塗料において、d成分の配合量は、基体の材質によって変えることができ、歪みの大きな基体の場合は多く配合し、吸水率の大きな基体の場合は少なく配合することが好ましい。また、d成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合における、d成分の配合量は、a成分100重量部に対して5〜200重量部の範囲が好ましい。コレマナイト及び/又はウレキサイトを含有した天然ガラスの形状は、平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状が好ましい。このような形状とすることにより、天然ガラスを良好に混在できると共に、被覆力の強い塗装膜を形成することができる。
【0016】
e.透明シリカ:透明シリカの形状は、厚み0.01〜0.5μm、面径2〜5μmが好ましい。このような透明シリカとしては、旭硝子株式会社製のサンラブリー(登録商標)LFS等が挙げられる。e成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のe成分の配合量は、a成分100重量部に対し、0.5〜50重量%の範囲が好適である。0.5重量%以上であることにより、塗装膜の被覆力を高めることができ、50重量%以下であることにより、塗装膜の透明性が低下してしまったり、塗料としての粘度が高く不安定となって均一な厚みで塗布できなくなってしまうようなことがない。
【0017】
f.ガラスフレーク:ガラスフレークの厚みは0.5μm以下が好ましく、形状は極薄状が好ましい。f成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のf成分の配合量は、a成分100重量部に対し、1〜30重量部の範囲が好適である。
【0018】
g.微粉状絹雲母(セリサイト):微粉状絹雲母の平均粒度は、30μm以下が好ましい。この成分を配合することにより、塗装面を平滑にし、塗装面の表面での付着物の離型性、即ち付着物の付着状態を弱くして浮き離れを良好にすることで払拭を容易にすることができる。g成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のg成分の配合量は、a成分100重量部に対し、5〜30重量%の範囲が好適であり、特に10〜25重量%の範囲が最適である。
【0019】
h.抗菌金属酸化物粉:無機系塗料は、h成分を含有することにより抗菌効果を奏する。h成分としては、例えば、銀、銅、マグネシウム、亜鉛等の粉状体を用いることができる。h成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のh成分の配合量は、a成分100重量部に対し、0.4〜5重量部の範囲が好適であり、0.5〜4重量部の範囲が特に好適である。0.4重量部以上であることにより、抗菌効果が強くなり、5重量部以下であることにより、顔料の発色に悪い影響をおよぼしたり、コスト高になったりすることがない。
【0020】
i.炭化珪素:無機系塗料は、i成分を配合することにより、顕著な耐熱性を奏する。i成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のi成分の配合量は、a成分100重量部に対し、7〜60重量部の範囲が好適であり、25〜40重量部の範囲が特に好適である。7重量部以上であることにより、耐熱効果が高く、60重量部以下であることにより、無機系塗料が高粘度になって塗料の性状が不良になってしまうようなことがない。
【0021】
j.酸化チタン:j成分は、上記a成分と併用することが好ましく、その場合のj成分の配合量は、a成分100重量部に対し、10〜35重量部の範囲が好適である。
無機系塗料としては、上記a、b、d成分を含むもの、上記a、c、e成分を含むもの、上記a、b、d、f成分を含むもの、上記a、b、d、g成分を含むもの、a、b、d、h、i成分を含むもの等が好適である。これらの3成分以上を含む無機系塗料において、b〜j成分の配合量は、a成分100重量部に対する配合量として上述した範囲が好適である。
【0022】
無機系塗料を塗布後、乾燥させるために、例えば、温風を吹き付けて焼き付けを行うことができる。焼き付けの方法としては、例えば、100℃で約5分間予備乾燥し、その後20〜25分かけて180℃以上(好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃程度)まで昇温させ、5〜10分間その温度を維持する方法がある。また、無機系塗料を塗布後、室温で放置することにより乾燥させ、無機系塗装膜を形成してもよい。
(2)請求項2の発明は、
前記無機系塗装膜が、ホウ素イオンを含有するガラス構造を備えることを特徴とする請求項1記載の物体を要旨とする。
【0023】
本発明の物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、無機系塗装膜の剥離しにくさ、傷の付きにくさが一層著しい。また、本発明の物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、親水性が一層高く、耐汚染性及び耐薬品性において一層優れている。
(3)請求項3の発明は、
前記無機系塗装膜が、(a)アルカリ金属シリケートと、(b)ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛と、(c)コレマイト及び/又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものと、を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の物体を要旨とする。
【0024】
本発明において、無機系塗装膜は、コレマナイト又はウレキサイトに含まれるB23成分のガラス化により強固な塗装膜を形成する。そのため、本発明の物体は、無機系塗装膜の剥離しにくさ、傷の付きにくさが一層著しい。また、本発明の物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、親水性が一層高く、耐汚染性及び耐薬品性において一層優れている。
【0025】
本発明の物体を屈曲させても無機系塗装膜が剥離しにくい、より具体的な理由としては、以下のことが考えられる。すなわち、本発明における無機系塗装膜は、無機充填材であるコレマナイト又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものを幾重にも積層分散させた構造を有するので、被塗物との密着性が促進され、屈曲にも耐えられる強固な塗膜となっている。
【0026】
上記コレマナイト又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものの平均粒径は、30μm程度が好ましく、厚みは1.0μm以下が好ましい。
(4)請求項4の発明は、
屈曲部を有する基体と、前記屈曲部の表面に形成された無機系塗装膜とを備えた物体の製造方法であって、前記基体の表面に無機系塗装膜を設ける工程と、前記基体において前記無機系塗装膜を形成した部分を屈曲する工程と、を有する物体の製造方法を要旨とする。
【0027】
本発明においては、基体の表面に設けられる塗装膜が無機系塗装膜であることにより、基体と塗装膜との密着性が高く、基体を屈曲させても、塗装膜が基体から剥離してしまうようなことがない。
【0028】
従って、本発明によれば、例えば、屈曲した物体を製造するときでも、まず、平板状の基体に無機系塗装膜を形成し、その後に、基体を所望の形状に屈曲させることができる。こうすれば、塗装膜を形成するときは、基体は平板状であるので、最初から屈曲させた基体に塗装膜を形成する場合とは異なり、塗装しにくい部分(例えば凸部の影)がなく、均一に塗装膜を形成することができる。
【0029】
また、本発明により製造される物体は、硬度が高い無機系塗装膜を備えているので、他の物体と接触しても、傷が付きにくい。さらに、本発明により製造される物体は、その表面に無機系塗装膜を有することにより、親水性が高く、耐汚染性及び耐薬品性において優れている。
(5)請求項5の発明は、
前記無機系塗装膜が、ホウ素イオンを含有するガラス構造を備えることを特徴とする請求項4記載の物体の製造方法を要旨とする。
【0030】
本発明により製造される物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、無機系塗装膜の剥離しにくさ、傷の付きにくさが一層著しい。また、本発明により製造される物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、親水性が一層高く、耐汚染性及び耐薬品性において一層優れている。
(6)請求項6の発明は、
前記無機系塗装膜が、(a)アルカリ金属シリケートと、(b)ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛と、(c)コレマイト及び/又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものと、を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の物体の製造方法を要旨とする。
【0031】
本発明において、無機系塗装膜は、コレマナイト又はウレキサイトに含まれるB23成分のガラス化により強固な塗膜を形成する。そのため、本発明により製造される物体は、無機系塗装膜の剥離しにくさ、傷の付きにくさが一層著しい。また、本発明により製造される物体は、無機系塗装膜が上記のものであることにより、親水性が一層高く、耐汚染性及び耐薬品性において一層優れている。
【0032】
本発明により製造する物体を屈曲させても無機系塗装膜が剥離しにくい、より具体的な理由としては、以下のことが考えられる。すなわち、本発明における無機系塗装膜は、無機充填材であるコレマナイト又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものを幾重にも積層分散させた構造を有するので、被塗物との密着性が促進され、屈曲にも耐えられる強固な塗膜となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の形態を実施例により説明する。
【実施例1】
【0034】
(i)無機系塗料の製造
以下の原料をボールミルで10分間混合し、無機系塗料を製造した。
ケイ酸ナトリウム:100重量部
硬化剤(ケイ酸カルシウム):5重量部
硬化剤(リン酸亜鉛):10重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト:80重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたウレキサイト:20重量部
顔料(酸化チタン):33重量部
顔料(チタン黄):1重量部
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母:25重量部
極薄フレーク状をした厚み0.5μm以下のガラスフレーク:10重量部
水:50重量部
(ii) 無機系塗装膜の形成
図1に示すように、アルミ板(基体)1の片方の面全体に、上記(i)で製造した無機系塗料をスプレーを用いて塗布し、無機系塗装膜3を形成した。
(iii) 無機系塗装膜の乾燥工程
無機系塗装膜3を乾燥させ、アルミ板1と、その表面に形成された無機系塗装膜3とを備える物体5を製造した。乾燥方法としては、温度230℃の熱風を無機系塗装膜3に35分間吹き付ける方法とした。乾燥後の無機系塗装膜3の厚みは30μmであった。
(iv)物体5の屈曲加工
図2に示すように、物体5の左端から略1/3の部分(屈曲部7、屈曲加工を施す部位)において、無機系塗装膜3が外側となるように、物体5を屈曲させた。また、物体5の右端から略1/3の部分(屈曲部9、屈曲加工を施す部位)において、無機系塗装膜3が内側となるように、物体5を屈曲させた。
【0035】
屈曲加工は、屈曲部7、9における屈曲度θが、30度、60度、90度、120度、150度、180度の場合のそれぞれについて、別々の物体5を用いて行った。また、屈曲部7、9におけるRはいずれも1.5Rであった。
(v)密着性の評価
屈曲部7、9における無機系塗装膜3とアルミ板1との密着性を評価した。密着性の評価方法は、クラックによる判定、密着による判定、塩水による判定の3つの方法で行った。
【0036】
クラックによる判定とは、JISK 5600-5-1 耐屈曲性試験による判定である。その評価基準は、以下の通りである。
◎:目視観察において、全くクラックが見られない。
【0037】
〇:目視観察において、全体の20%以下の部分に、わずかにクラックが見られる。
△:目視観察において、全体の50%未満の部分に、部分的にクラックがみられる。
×:目視観察において、全体の50%以上の部分にクラックが見られる。
【0038】
密着による評価とは、JISK5400-8-5クロスカット試験(1mm方眼50ケテープ)による評価である。その評価基準は、以下の通りである。
◎:カット縁が完全に滑らかでどの格子の目にも塗膜の剥がれがない。
【0039】
〇:カット交差点に塗膜のわずかな剥がれがあるが、剥がれのある部分の割合は、カット縁全体の20%以下である。
△:カット縁全体のうち、50%未満に、塗膜の部分的な剥がれがある。
【0040】
×:カット縁全体のうち、50%以上に塗膜の剥がれがある。
塩水による評価とは、JISK5600-7-1 塩水噴霧試験(100時間)による評価である。その評価基準は、以下の通りである。
【0041】
◎:変化無し
〇:全体の20%以下の部分に、わずかにサビが発生した。
△:全体の50%以下の部分に、部分的なサビが発生した。
【0042】
×:全体の50%以上の部分に、全体的なサビが発生した。
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1に示すように、物体5において、屈曲度が120度以下では、無機系塗装膜3の密着性は非常に優れていた。特に、無機系塗装膜3が外側となるように屈曲された場合(屈曲部7)は、屈曲度が180度となっても、無機系塗装膜3の密着性は非常に優れていた。
(vi)無機系塗装膜3の硬度の評価
無機系塗装膜3の硬度を鉛筆硬度試験(JIS K7125準拠)により評価したところ、「9H」以上であり、非常に硬いことが確認できた。
(vii) 無機系塗装膜3の表面状態の評価
無機系塗装膜3の表面は親水性を示した。
【実施例2】
【0045】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例2では、無機系塗料を、以下の原料をボールミルで15分間混合したものとした。
ケイ酸ナトリウム:100重量部
硬化剤(ケイ酸カルシウム):7重量部
硬化剤(リン酸亜鉛):3重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト:110重量部
顔料(酸化チタン):28重量部
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母:17重量部
微粉金属粉:11重量部
水:50重量部
本実施例2の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例3】
【0046】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例3では、無機系塗料を、以下の原料をボールミルで7分間混合したものとした。
ケイ酸ナトリウム:70重量部
ケイ酸カリウム:30重量部
硬化剤(ケイ酸カルシウム):11重量部
硬化剤(リン酸亜鉛):1重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト:90重量部
顔料(酸化チタン):36重量部
顔料(チタン黄):1重量部
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母:21重量部
水:50重量部
本実施例3の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例4】
【0047】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例4では、無機系塗料を、以下の原料をボールミルで12分間混合したものとした。
ケイ酸カリウム:70重量部
ケイ酸リチウム:30重量部
硬化剤(ケイ酸カルシウム):1重量部
硬化剤(リン酸亜鉛):9重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト:110重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたウレキサイト:10重量部
顔料(酸化チタン):28重量部
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母:23重量部
厚み0.5μm以下のガラスフレーク:15重量部
微粉金属粉:5重量部
水:50重量部
本実施例4の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例5】
【0048】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例5では、無機系塗料を、以下の原料をボールミルで25分間混合したものとした。
ケイ酸ナトリウム:50重量部
ケイ酸カリウム:50重量部
硬化剤(ケイ酸カルシウム):6重量部
硬化剤(リン酸亜鉛):5重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト:25重量部
平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたウレキサイト:110重量部
顔料(酸化チタン):26重量部
顔料(チタン黄):2重量部
厚み0.5μm以下のガラスフレーク:9重量部
平均粒径30μm以下の微粉状絹雲母:18重量部
水:50重量部
本実施例5の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例6】
【0049】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例6では、無機系塗料を、表2に記載の原料をボールミルで3時間混合したものとした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表2に記載の条件とした。なお、表2における「極薄状ガラスフレーク」の厚みは0.5μm以下である。
【0050】
【表2】

【0051】
本実施例6−1における物体5についても、前記実施例1と同様に、屈曲加工、無機系塗装膜の密着性の評価、親水性/撥水性の評価を行った。その結果を上記表1に示す。
上記表1に示すように、物体5において、屈曲度が120度以下では、無機系塗装膜3が全く剥離していなかった。特に、無機系塗装膜3が内側となるように屈曲された場合(屈曲部7)は、屈曲度が180度となっても、無機系塗装膜3が全く剥離していなかった。また、無機系塗装膜3の表面は親水性を示した。
【実施例7】
【0052】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例7では、無機系塗料を、表3に記載の原料をボールミルで5時間混合したものとした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表3に記載の条件とした。
【0053】
【表3】

【0054】
本実施例7の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例8】
【0055】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例8では、無機系塗料を、表4に記載の原料をボールミルで7時間混合したものとした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表4に記載の条件とした。
【0056】
【表4】

【0057】
本実施例8の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例9】
【0058】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例9では、無機系塗料を、表5に記載の原料をボールミルで7時間混合したものとした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表5に記載の条件とした。
【0059】
【表5】

【0060】
本実施例9の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例10】
【0061】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例10では、無機系塗料を、表6に記載の原料をボールミルで5時間混合したものとした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表6に記載の条件とした。
【0062】
【表6】

【0063】
本実施例10の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例11】
【0064】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例11では、無機系塗料を、表7に記載の原料をボールミルで混合したものとした。混合時間は、実施例11−1、11−2については、3時間とし、実施例11−3、11−4については、5時間とし、実施例11−5、11−6については、7時間とした。また、無機系塗装膜3の乾燥条件は、表7に記載の条件とした。
【0065】
【表7】

【0066】
本実施例11の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例12】
【0067】
基本的には前記実施例1と同様に、アルミ板1の表面に無機系塗装膜3を備える物体5を製造した。ただし、本実施例12では、無機系塗料を、以下の原料をボールミルで10分間混合したものとした。
ケイ酸ナトリウム:100重量部
ホウ酸カルシウム:11重量部
厚み0.01〜0.5μm、面径2〜5μmの鱗片状の透明シリカ(サンラブリー(登録商標)LFS):48重量部(乾燥シリカとして7.2重量部)
水:適量
本実施例12の物体5は、前記実施例1と同様の作用効果を奏する。
(参考例1)
市販の無機系塗料である、(株)日興製のHEATLESS GLASSを、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と無機系塗装膜3とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、無機系塗装膜3の密着性、硬度、親水性/撥水性を評価した。なお、無機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、密着性及び硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、無機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、無機系塗装膜3の膜厚は7μmとした)。密着性の評価結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
表8に示すように、本参考例1で形成した無機系塗装膜3の密着性は、前記実施例1に比べて遙かに劣っていた。また、無機系塗装膜3の硬度は9Hであり、前記実施例1における硬度よりも低かった。また、本参考例1で形成した無機系塗装膜3は撥水性を示した。
(参考例2)
市販の無機系塗料(グリーンケミーインターナショナル製のカイケツ.eco−TiAg)を、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と無機系塗装膜3とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、無機系塗装膜3の密着性、硬度、親水性/撥水性を評価した。なお、無機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、密着性及び硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、無機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、無機系塗装膜3の膜厚は10μmとした)。
【0070】
密着性の評価結果を上記表8に示す。
表8に示すように、本参考例2で形成した無機系塗装膜3の密着性は、前記実施例1に比べて遙かに劣っていた。また、無機系塗装膜3の硬度は6〜7Hであり、前記実施例1における硬度よりも低かった。また、本参考例2で形成した無機系塗装膜3は撥水性を示した。
(参考例3)
市販のポリエステル樹脂系の有機系塗料(川上塗料(株)製のポーセラック3000)を、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と有機系塗装膜とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、有機系塗装膜の硬度、及び親水性/撥水性を評価した。なお、有機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、有機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、有機系塗装膜の膜厚は30μmとした)。
【0071】
本参考例3で形成した有機系塗装膜の硬度は、2Hであり、前記実施例1における硬度よりも遙かに低かった。また、本参考例3で形成した有機系塗装膜は撥水性を示した。
(参考例4)
市販のカラー鋼板(有機系塗料を30μmの厚みで塗布した鋼板)に屈曲加工を施した。次に、有機系塗装膜の硬度、及び親水性/撥水性を評価した。なお、屈曲加工の方法、及び硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした。
【0072】
有機系塗装膜の硬度は、2Hであり、前記実施例1における硬度よりも遙かに低かった。また、本参考例4の有機系塗装膜は撥水性を示した。
(参考例5)
市販のメラミン樹脂系の有機系塗料(ナトコ(株)製のマイルドメリット)を、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と有機系塗装膜とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、有機系塗装膜の硬度、及び親水性/撥水性を評価した。なお、有機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、有機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、有機系塗装膜の膜厚は30μmとした)。
【0073】
本参考例5で形成した有機系塗装膜の硬度は、2Hであり、前記実施例1における硬度よりも遙かに低かった。また、本参考例5で形成した有機系塗装膜は撥水性を示した。
(参考例6)
市販のアクリル樹脂系の有機系塗料(エーエスペイント(株)製のサンメラーマックスホワイト)を、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と有機系塗装膜とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、有機系塗装膜の硬度、及び親水性/撥水性を評価した。なお、有機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、有機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、有機系塗装膜の膜厚は30μmとした)。
【0074】
本参考例6で形成した有機系塗装膜の硬度は、Hであり、前記実施例1における硬度よりも遙かに低かった。また、本参考例6で形成した有機系塗装膜は撥水性を示した。
(参考例7)
市販のシリコンアクリル樹脂系の有機系塗料(ナトコ(株)製のアルコSP)を、アルミ板(基体)1の片方の面全体にスプレーを用いて塗布し、乾燥させることで、アルミ板1と有機系塗装膜とを備える物体5を製造した。次に、物体5に屈曲加工を施した。そして、有機系塗装膜の硬度、及び親水性/撥水性を評価した。なお、有機系塗料の塗布方法、乾燥方法、屈曲加工の方法、硬度の評価方法は前記実施例1と同様とした(ただし、有機系塗料の塗布前に、アルミ板1の表面に予めプライマーを塗布し、有機系塗装膜の膜厚は30μmとした)。
【0075】
本参考例7で形成した有機系塗装膜の硬度は、Hであり、前記実施例1における硬度よりも遙かに低かった。また、本参考例7で形成した有機系塗装膜は撥水性を示した。
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0076】
例えば、前記実施例において、アルミ板の代わりに他の金属板(例えば、ステンレス板)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】物体5の構成を表す説明図である。
【図2】物体5に施した屈曲加工を表す説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・アルミ板
3・・・無機系塗装膜
5・・・物体
7、9・・・屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲加工を施す部位を有する基体と、
前記屈曲加工を施す部位の表面に形成された無機系塗装膜とを備える物体。
【請求項2】
前記無機系塗装膜が、ホウ素イオンを含有するガラス構造を備えることを特徴とする請求項1記載の物体。
【請求項3】
前記無機系塗装膜が、
(a)アルカリ金属シリケートと、
(b)ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛と、
(c)コレマイト及び/又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものと、
を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の物体。
【請求項4】
屈曲部を有する基体と、前記屈曲部の表面に形成された無機系塗装膜とを備えた物体の製造方法であって、
前記基体の表面に無機系塗装膜を設ける工程と、
前記基体において前記無機系塗装膜を形成した部分を屈曲する工程と、を有する物体の製造方法。
【請求項5】
前記無機系塗装膜が、ホウ素イオンを含有するガラス構造を備えることを特徴とする請求項4記載の物体の製造方法。
【請求項6】
前記無機系塗装膜が、
(a)アルカリ金属シリケートと、
(b)ケイ酸カルシウム及び/又はリン酸亜鉛と、
(c)コレマイト及び/又はウレキサイトを主成分とした天然ガラスを鱗片状としたものと、
を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の物体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−167754(P2007−167754A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368013(P2005−368013)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(505297910)有限会社ペイントスタッフ (3)
【Fターム(参考)】