説明

無機系被着体固定用アクリル系粘着剤及び粘着テープ

【課題】
無機系被着体等に対して良好な粘着力を示し、且つ保持力に優れた粘着剤組成物及び粘着テープの供給。
【解決手段】
炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを80重量%以上、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能で単独重合体のガラス転移温度(Tg)が23℃以下である官能基含有不飽和単量体0.1〜3重量%を含有してなる単量体混合物を重合せしめて得られ、ガラス転移温度(Tg)が−26℃〜−30℃で、重量平均分子量(Mw)が55万〜70万であるアクリル系共重合体を含有することを特徴とするアクリル系粘着剤組成物、及び該粘着剤が柔軟な発泡体に積層されてなる粘着テープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系被着体に対して、良好な粘着力、特に低温での粘着力に優れ、且つ、高温下の保持力に優れた粘着剤組成物及び該粘着剤からなる粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系粘着剤は、表面エネルギーの高い金属及び樹脂等の被着体に対しては良好な粘着力が得られやすく広く使用されているが、無機系被着体等の表面エネルギーの低い被着体に対する粘着力は低く、特に低温時ではかなり粘着力が不足していた。そこで、当該用途では、低温粘着性を高めるためにガラス転移温度(Tg)の低い粘着剤を使用するのが一般的であったが、Tgが低く保持力に問題があった。これらの問題を解決するために、官能基を有する特定のアクリル系樹脂を用いることにより、保持力に優れ、粘着性、特に低温粘着性に優れたアクリル系粘着剤に関する技術が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−67974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の技術における粘着剤では低温粘着性は充分であるが、保持力に欠けたり、無機系被着体(特に粗面を有する無機系被着体)への接着性が不足したり、さらには、重合時にゲル化し易いという問題があった。
本発明の目的は、上記の点に鑑み、低温時の粘着力が得られなかった無機系被着体等に対して良好な粘着力を示し、且つ保持力に優れた粘着剤組成物及び粘着テープの供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の点に鑑み、アクリル系共重合体の極性の制御、ガラス転移点(Tg)の制御、並びに重合時のゲル化の解消と分子量を制御することにより、上記課題を解決出来、従来良好な低温時の粘着力が得られなかった無機系樹脂等の被着体に対し良好な粘着力を示し、且つ保持力の優れた粘着剤組成物が得られることを見いだし本発明に至った。
【0005】
請求項1記載の発明は、炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを80重量%以上を含有してなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル87〜99.9%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能で単独重合体のガラス転移温度(Tg)が23℃以下である官能基含有不飽和単量体0.1〜3重量%とからなる単量体混合物を重合せしめて得られ、ガラス転移温度(Tg)が−26℃〜−30℃で、重量平均分子量(Mw)が55万〜70万であるアクリル系共重合体を含有するアクリル系粘着剤組成物であり、該粘着剤を用いた粘着テープを提供する事により、無機系被着体への低温時の粘着力と高温下の保持力を満足するものである。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のアクリル系粘着剤組成物が柔軟な発泡体基材に積層されてなる粘着テープである。
【0007】
本発明に用いられる炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、アルキル基の炭素数が8〜12のメタアクリル酸アルキルエステルであれば特に限定されず、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸iso−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどが上げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アクリル酸2−エチルヘキシルが好適に用いられる。尚、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとはアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを意味する。
【0008】
上記炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の量は、アクリル系重合体中の80重量%以上であり、好ましくは、90重量%以上である。上記炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の量が80重量%未満の場合、無機系樹脂被着体に対する接着性が低下してしまう。特に炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が多くなると、無機系樹脂被着体に対する接着性が低下してしまう。
【0009】
本発明に用いられる、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能で、単独重合体のTgが23℃以下である官能基含有不飽和単量体としては、特に限定されないが、該官能基による水素結合による凝集力の向上が期待でき、架橋により凝集力の改善を期待できることから、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基等を有する不飽和単量体等が挙げられ好適に用いられる。
【0010】
上記水酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸、マレイン酸ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、クロトン酸等が挙げられる。尚、無水マレイン酸も使用できる。
上記アミド基を有する不飽和単量体としては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミドなどのアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミドなどのN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
上記アミノ基を有する不飽和単量体としては、ジメチルアミノエチルアクリレート等が挙げられる。
【0011】
上記単独重合体のTgが23℃以下である共重合可能な官能基含有不飽和単量体の量は、アクリル系重合体中の0.1〜3重量%の範囲であり、好ましくは0.1〜2重量%である。
上記官能基含有不飽和単量体の量が0.1重量%未満の場合は、アクリル系共重合体の極性及び凝集力を高める効果が認められず、官能基含有不飽和単量体の量が3重量%を超えると、アクリル系共重合体の極性及び凝集力が高くなりすぎて、無機系樹脂被着体に対する接着性が低下してしまう。
【0012】
本発明のアクリル系共重合体においては、上記アルキル基の炭素数が8〜12の(メタ)アクリル酸エステル、単独重合体のTgが23℃以下である共重合可能な官能基含有不飽和単量体意外にその他の共重合可能な不飽和単量体が、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合されていて良い。上記その他単量体としては、アルキル基の炭素数が7以下の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等の一般的に使用される不飽和単量体が挙げられる。
【0013】
上記アクリル系共重合体を製造する方法は特に限定されないが、通常は溶液重合で行われ、重合溶剤、重合開始剤等は一般に使用されるものが使用される。
この際、分子量を制御したり、重合中のゲルかを防ぐために、具体的にはモノマーの初期反応濃度を59〜61%の範囲で反応を開始することが好ましい、モノマーの濃度が59%未満の場合は、重量平均分子量を所定の範囲に制御するのが困難になり易く良好な保持力が得られ難くなる。モノマーの濃度が61%を越えると、重合時に3次元化(ゲル化)し易くなり、粘着性能が低下したり粘着剤塗工性が低下し塗面が荒れやすくなる。
【0014】
本発明のアクリル系粘着剤組成物には、上記アクリル系共重合体中に含有される官能基と反応して架橋構造を生じせしめる架橋剤が添加されて良く、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物が挙げられる。これらの内、イソシアネート化合物が好適に用いられる。架橋剤の添加により凝集力を更に向上させることが出来る。
【0015】
本発明のアクリル系粘着剤組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に、充填材、安定剤、チクソ剤、顔料、溶剤等が添加されていて良い。
【0016】
本発明の粘着テープは、柔軟な発泡体からなる支持体に上記アクリル系粘着剤組成物が積層されてなる粘着テープである。上記柔軟な発泡体としては、特に限定されず、ポリエチレン、軟質ポルウレタン等が挙げられ好適に使用される。上記医粘着剤組成物を支持体に積層する方法としては特に限定されず、一般的な粘着剤の製造方法により製造される。
(作用)
【0017】
本発明による、アクリル系粘着剤剤組成物は、炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル80重量%以上と単独重合体のTgが23℃以下である共重合可能な官能基含有不飽和単量体0.1〜3重量%、を共重合してなるアクリル系共重合を含有してなり、アクリル共重合体の極性の制御、Tgの制御、並びに重合処方で分子量を制御する事により、無機系樹脂被着体に対し良好な低温時の接着力及び高温下での保持力が優れたアクリル系粘着剤組成物である。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によるアクリル系粘着剤組成物とそれを使用した粘着テープは、無機系被着体への低温領域においても粘着力が高く、高温下でも充分な保持力を得られる優れたアクリル系粘着剤及び粘着テープである。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
2−エチルヘキシルアクリレート97.5重量部、アクリル酸0.5重量部、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸(単独重合体のTg:−40℃)2重量部のモノマー組成で、初期モノマー濃度が表1の値になるように、溶媒として酢酸エチルを加えて、還流装置にて沸点下撹拌しながら、重合開始剤として過酸化ベンゾイルを添加し、6時間反応させ反応終了後に酢酸エチルで固形分45%に希釈させたアクリル系共重合体(Mw65万)の酢酸エチル溶液を得た。
上記で得られたアクリル系共重合体の酢酸エチル溶液(固形分:45%)100重量部に対し、架橋剤としてコロネートL(固形分55%、日本ポリウレタン社製)を0.45重量部配合しアクリル系粘着剤組成物を調製した。アクリル系粘着剤組成物をポリエチレン発泡体(厚み:1mm)に乾燥後の粘着剤厚が70μmとなるように均一に塗布し、オーブンにて80℃×5分間の条件で乾燥後、40℃×5日間の養生を経て、粘着テープを得た。
【0020】
(実施例2、比較例1〜7)
実施例1において、アクリル系共重合体の組成及び重合時のモノマー濃度を表1に示すように変更する以外は同様の方法にて粘着テープを得た。
【0021】
〔評価方法〕
(0℃対ケイ酸カルシウム板粘着力)
被着体として、ケイ酸カルシウム板(アスベール、積水化学工業社製)を使用する以外はJIS−Z0237に準じ測定を行った。結果を表1に示した。
(保持力)
JIS−Z0237に準拠して保持力を測定した。
23℃×65%RHの試験室にて、上記粘着テープ(20mm×20mm)を加重2kgでSUS板へ圧着貼付して試験片を作成し、20分放置後、40℃で1時間予熱し、1kgの荷重を掛けて、1時間後のズレ長さ値を測定した、尚、1時間以内に落下した場合は落下までの時間を測定した。結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例1及び2では、無機系被着体であるケイ酸カルシウム板に低温時でも良好な粘着力が得られ、高温下での保持力も満足する優れた粘着テープが得られた。
比較例1、2では、分子量が低く、Tgが高く良好な粘着力が得られなかった。比較例3及び4では、1時間以内に落下し凝集力が不十分であった。比較例5、6では、重合初期濃度が高すぎてゲル化により塗工性に不具合が発生した。比較例7では、Tgが高く、ゲル化により粘着力、保持力が低かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを80重量%以上を含有してなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル87〜99.9%と、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能で単独重合体のガラス転移温度(Tg)が23℃以下である官能基含有不飽和単量体0.1〜3重量%とからなる単量体混合物を重合せしめて得られ、ガラス転移温度(Tg)が−26℃〜−30℃で、重量平均分子量(Mw)が55万〜70万であるアクリル系共重合体を含有することを特徴とするアクリル系粘着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載のアクリル系粘着剤組成物が柔軟な発泡体基材に積層されてなることを特徴とする粘着テープ。

【公開番号】特開2006−104389(P2006−104389A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295371(P2004−295371)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】