説明

無機繊維およびその製造方法

【課題】繊維径が小さく、高温環境下に曝されても元の形状を保ち、かつ、水に対して十分な分解性を有すとともに、製造時の環境も安全な無機繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】SiO、CaO、およびMgOを必須成分とする無機繊維であって、ケイ素の含有率が5モル%以上80モル%以下、カルシウムの含有率が5モル%以上80モル%以下、マグネシウムの含有率が2モル%以上80モル%以下(ただし、上記の含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対する各元素のモル%である)であり、実質的にアルミニウムを含まず、平均繊維径が100nm以上2000nm以下であり、瘤状の部分を有しないことを特徴とする無機繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子、カルシウム原子、および、マグネシウム原子を含有する微細な無機繊維、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた耐熱性を有し、かつ、水存在下で分解する超極細無機繊維、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維は、耐熱性、電気絶縁性、低熱伝導性、高弾性等の性質を活かして、電気絶縁材、断熱材、フィラー、フィルター等様々な分野で用いることのできる有用な材料である。このような無機繊維は、通常、溶融法、スピンドル法、ブローイング法等によって作製されており、その繊維径は、一般的に数μmである(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年、特にフィラーやフィルターの分野においては、マトリックス材料との接着面積の増大や、フィルター効率の向上のために、より細い無機繊維が求められるようになってきている。
しかしながら、従来の方法によって得られる繊維は、その繊維径を小さくすることに限界があった。また、2000℃近くの高温による溶融紡糸工程を経なければならないことから、ショットと呼ばれる未繊維化粒子状物が含まれており、当該繊維をフィルター等として使用するためには、ショットを除去する工程が必須となっていた。
【0004】
ところで、近年、特にフィラーやフィルターの分野においては、マトリックス材料との接着面積の増大や、フィルター効率の向上のために、より細い無機繊維が求められるようになってきている。
しかしながら、従来の方法によって得られる繊維は、その繊維径を小さくすることに限界があった。また、2000℃近くの高温による溶融紡糸工程を経なければならないことから、ショットと呼ばれる未繊維化粒子状物が含まれており、当該繊維をフィルター等として使用するためには、ショットを除去する工程が必須となっていた。
【0005】
ここで、従来の繊維よりも細い繊維を作製する方法としては、有機高分子からなる材料を中心として、エレクトロスピニング法(静電紡糸法)が知られている。エレクトロスピニング法(静電紡糸法)は、有機高分子等の繊維形成性の溶質を溶解させた溶液に、高電圧を印加して帯電させることにより、溶液を電極に向かって噴出させ、噴出によって溶媒が蒸発することから、極細の繊維構造体を簡便に得ることのできる方法である(特許文献2参照)。
また、ケイ素、酸素、炭素、および、遷移金属からなる極細無機繊維を、エレクトロスピニング法によって作製する技術は、既に提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−105658号公報
【特許文献2】特開2002−249966号公報
【特許文献3】国際公開第2006/001403号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで得られてきた極細無機繊維は、その安定性の故に、誤って環境中に排出されてしまうと、いつまでも分解せず、環境中に残ってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、使用時は高い安定性を維持しながら、環境中に排出されると水の存在下で分解し、かつ、繊維径の小さい安全な無機繊維および当該無機繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、公知の静電紡糸法において、ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物を原料に用いて、無機繊維を製造しようとすると、瘤状部分を生じた強度が不十分な繊維しか得られないが、ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、界面活性剤、水、および繊維形成性物質を含む繊維形成用組成物を用いて、当該組成物から静電紡糸法にて繊維集合体を製造し、これを焼成することにより、繊維径が小さくて、ショットを含まず、瘤状部分を有さず、水の存在下で分解する極細無機繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨を以下に示す。
【0010】
1. SiO、CaO、およびMgOを必須成分とする無機繊維であって、ケイ素の含有率が5モル%以上80モル%以下、カルシウムの含有率が5モル%以上80モル%以下、マグネシウムの含有率が2モル%以上80モル%以下(ただし、上記の含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対する各元素のモル%である)であり、実質的にアルミニウムを含まず、平均繊維径が100nm以上2000nm以下で瘤状の部分を有しないことを特徴とする無機繊維。
2. 繊維径が2000nmより大きい部分を含まない、上記1.記載の無機繊維。
3. 水の存在下で分解する上記1.または2.に記載の無機繊維
4. ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、界面活性剤、水、および繊維形成性物質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程とを含む、上記1.〜3.のいずれか1項に記載の無機繊維の製造方法。
5. 前記繊維形成性物質が、数平均分子量10,000以上300,000以下の有機高分子である上記4.記載の無機繊維製造方法。
6. 有機高分子が、ポリエチレングリコールである上記5.記載の無機繊維製造方法。
7. 繊維形成用組成物中の界面活性剤の割合が、0.05質量%以上5質量%以下である上記4.〜6.のいずれか1項に記載の無機繊維製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無機繊維は、繊維の平均繊維径が小さく、柔軟性を有する繊維となる。
さらに、本発明の無機繊維は、高温環境下に曝されても元の繊維形状を維持しており、このため、耐熱性を要する環境においても、使用することができる。
【0012】
さらには、本発明の無機繊維は、水の存在下で分解することから、誤って環境中に排出された場合も、やがて分解するために環境に与える影響は小さい。したがって、本発明の無機繊維は、フィラー、断熱材、あるいはフィルター、として非常に有用である。
【0013】
また、本発明の無機繊維は、抄紙等の加工を施すことで、様々な構造体を形成することができる。さらには、取り扱い性やその他の要求事項に合わせて、本発明の無機繊維以外の無機繊維と組み合わせて用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無機繊維を製造するための製造装置を模式的に示した図である。
【図2】実施例1にて得られた無機繊維の電子顕微鏡写真(倍率8000倍)である。
【図3】実施例2にて得られた無機繊維の電子顕微鏡写真である(倍率5000倍)。
【図4】実施例3にて得られた無機繊維の電子顕微鏡写真である(倍率5000倍)。
【図5】比較例1にて得られた無機繊維の電子顕微鏡写真(倍率8000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
<無機繊維>
本発明の無機繊維は、SiO、CaO、およびMgOを必須成分とする無機繊維であって、ケイ素の含有率が5モル%以上80モル%以下、カルシウムの含有率が5モル%以上80モル%以下、マグネシウムの含有率が2モル%以上80モル%以下(ただし、上記の含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対する各元素のモル%である)であり、実質的にアルミニウムを含まず、平均繊維径が100nm以上2000nm以下で瘤状の部分を有しないことを特徴とする無機繊維である。
【0016】
[必須成分]
本発明の無機繊維は、SiO、CaO、およびMgOを必須成分とする。別途示すケイ素、カルシウム、マグネシウムの含有率を満たし、かつ強度など他の物性に影響が無い限り、他の成分の存在を排除するものでは無い。ただし、実質的にアルミニウム元素を含まないことが肝要である。ドイツの危険物規制では、繊維の溶解性として、その化学組成から下記の式によって定義されるKI値(発癌性指数)という指標値を、生体溶解性ひいては人体への安全性の判断基準として採用している。
KI値=Na2O+K2O+CaO+MgO+BaO+B23−2Al23(質量%)
【0017】
すなわち、無機繊維についてその組成に含まれるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムおよびホウ素の各酸化物の含有率(重量%)の総和から酸化アルミニウムの含有率(重量%)を2倍して差し引いた値をKI値とし、それが小さいものほど発癌性が高くなり、40以上であれば発癌性の恐れなしとする扱いをしている(KI値が30〜40である場合には警告を必要とし、KI値が30未満である場合には、より厳重な警告を必要とする)。よって、アルミニウム元素を含まないことにより、本願発明の無機繊維は極めて高い安全性を有していると言える。なお、本願において「実質的にアルミニウム元素を含まない」とは、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対するアルミニウム元素の含有率が1モル%以下であることを意味する。
【0018】
[ケイ素の含有率]
本発明の無機繊維におけるケイ素の含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対して5モル%以上80モル%以下であることが肝要である。ケイ素原子の含有率が5モル%未満である場合には、強度が小さくなるため好ましくない。ケイ素の含有率は、10モル%以上75モル%以下であるとより好ましく、40モル%以上70モル%以下であると特に好ましい。
【0019】
[カルシウムの含有率]
本発明の無機繊維におけるカルシウムの含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対して5モル%以上80モル%以下であることが肝要である。カルシウムの含有率が5モル%未満である場合には、純水への溶解性が小さくなるため好ましくない。カルシウムの含有率は、7モル%以上70モル%以下であるとより好ましく、10モル%以上50モル%以下であると特に好ましい。
【0020】
[マグネシウムの含有率]
本発明の無機繊維におけるマグネシウムの含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対して2モル%以上80モル%以下であることが肝要である。マグネシウムの含有率が2モル%未満である場合には、純水への溶解性が小さくなるため好ましくない。マグネシウムの含有率は、2モル%以上60モル%以下であるとより好ましく、2モル%以上50モル%以下であると特に好ましい。
【0021】
[無機繊維の平均繊維径]
次に、本発明の無機繊維の平均繊維径について説明する。本発明の無機繊維の平均繊維径は、100nm以上2000nm以下である。本発明の無機繊維は、平均繊維径が100nm以上2000nm以下の範囲にあることにより、高温での使用に耐えうる耐久性を有する。また、無機繊維の平均繊維径が2000nmを超える場合には、繊維の体積が大きくなることによって水存在下での分解性が小さくなるため好ましくなく、一方で、平均繊維径が100nm未満の場合には、無機繊維の強度が小さくなるため好ましくない。
より好ましい平均繊維径は、130nm以上1300nm以下の範囲であり、さらに好ましくは、200nm以上900nm以下の範囲である。
【0022】
[瘤状の部分を有しない]
本発明の無機繊維は、瘤状の部分を有しないものであることが肝要である。瘤状の部分を有する無機繊維は強度が低く、使用において問題を生ずる。ここで言う瘤状部分を有するとは、無機繊維を電子顕微鏡などで観察した際、その繊維径が局所的に太くなって、球状または楕円状などの径状の部分があることを言い、繊維径が局所的に最大になっている部分と、繊維径が太くなっていると認められる部分の繊維長との比が1:10〜2:1程度である。
【0023】
[繊維径2000nm以上の部分]
本発明の無機繊維は、繊維径が2000nm以上となる部分を含まないことが好ましい。ここで、「繊維径が2000nm以上となる部分を含まない」とは、電子顕微鏡によって繊維の任意の場所を観察した場合に、2000nm以上となる部分が観察されないことを意味する。繊維が、繊維径2000nm以上となる部分を含む場合には、水存在下での分解性が悪くなり、環境に排出されたときに環境に与える影響が大きくなるため好ましくない。なお、繊維径が1500nm以上となる部分を含まないことがより好ましい。
【0024】
[水存在下での分解性]
本発明の無機繊維は、水の存在下で分解することが好ましい。ここで言う、「水の存在下で分解する」とは、無機繊維0.5gを37℃、24時間、50mLの純水中に浸漬したとき、カルシウムイオンの溶出量が5μg/mL以上となることである。この条件を満たせば、環境中に排出されても、環境に重大な影響を与えることなく分解する。
【0025】
<無機繊維の製造方法>
次に、本発明の無機繊維を製造するための態様について説明する。
本発明の無機繊維を製造するには、前述の要件を同時に満足するような無機繊維が得られる手法であればいずれも採用することができるが、ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、界面活性剤および、繊維形成性物質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程とを含む無機繊維の製造を好ましい一態様として挙げることができる。
【0026】
以下に、本発明の無機繊維を得る方法の好ましい一態様となる繊維形成用組成物の構成成分、および、各製造工程等につき説明する。
【0027】
[繊維形成用組成物の構成]
本発明の無機繊維を得るための好ましい製造方法の一態様に用いられる繊維形成用組成物について説明する。好ましい態様として用いられる繊維形成用組成物は、ケイ素化合物、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、界面活性剤、水、および、繊維形成性物質を、必須成分として含むものである。繊維形成用組成物の構成について以下に説明する。
【0028】
〔ケイ素化合物〕
ケイ素化合物としては、水を含有する溶媒への溶解性を示し、後の焼成工程においてケイ素酸化物が形成されるものであれば用いることができる。このような化合物としては、例えば、ケイ酸アルキルを水中で加水分解反応させて得られるケイ素化合物等が挙げられる。ケイ酸アルキルとしては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラデシルオキシシラン等を挙げることができるが、溶液の安定性や入手の容易さ等の観点から、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0029】
〔カルシウム化合物〕
カルシウム化合物としては、水を含有する溶媒への溶解性を示し、後の焼成工程においてカルシウム酸化物が形成されるものであれば用いることができる。このような化合物としては、例えば、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウムや、塩化カルシウム等が挙げることができるが、後の紡糸工程における安定性等の観点から、硝酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0030】
〔マグネシウム化合物〕
マグネシウム化合物としては、水を含有する溶媒への溶解性を示し、後の焼成工程においてマグネシウム酸化物が形成されるものであれば用いることができる。このような化合物としては、例えば、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウムや、塩化マグネシウム等が挙げられ、後の紡糸工程における安定性等の観点から、硝酸マグネシウムを用いることが好ましい。
【0031】
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、水を含有する溶媒への溶解性を示し、後の紡糸工程において均一な繊維形状の無機繊維を作製することのできるものであればよく、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の各種界面活性剤を用いることができるが、ケイ素、カルシウム、マグネシウム以外の金属イオンを含まないものが、得られる無機繊維の組成に及ぼす影響が少ないため好ましい。
【0032】
よって、このような界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤または両性界面活性剤がより好ましく、例えば、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール共重合体、ツィッタージェント(登録商標)3−16デタージェント等が挙げられる。
本発明の製造方法における該界面活性剤の添加量は、繊維形成用組成物を基準にして0.05質量%以上5質量%以下となる量が好ましい。
【0033】
〔水〕
好ましい製造方法の態様において用いられる水は、特に限定されるものではなく、本発明の無機繊維の特性を損なうほどの不純物が含まれるものでなければ用いることができる。なかでも、入手容易性の観点から、蒸留水やイオン交換水を用いることが好ましい。
また、添加する水の量は、ケイ素化合物、カルシウム化合物、および、マグネシウム化合物を溶解し、得られる繊維形成用組成物から無機繊維を作製することのできる量であれば特に限定されるものではないが、繊維形成用組成物中に含まれる金属化合物の質量に対して0.5倍量以上100倍量以下であることが好ましく、1倍量以上50倍量以下であることがより好ましい。
【0034】
〔繊維形成性物質〕
本発明の無機繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、繊維形成用組成物に曳糸性を持たせるためことを目的として、繊維形成用組成物に繊維形成性物質を溶解または分散させる必要がある。用いられる繊維形成性物質としては、本発明の無機繊維を作製することのできるものであれば特に限定されないが、取り扱い容易さの観点や焼成工程においてによって除去される必要があることから、有機高分子を用いることが好ましい。
【0035】
用いられる有機高分子の数平均分子量は、本発明の無機繊維を作製することができれば特に限定されるものではないが、数平均分子量が低い場合には、有機高分子の添加量を大きくせねばならないことから、焼成工程において発生する気体が多くなり、また、得られる無機繊維の構造に欠陥が発生する可能性が高くなるため好ましくない。一方で、数平均分子量が高い場合には、粘度が高くなりすぎるため紡糸が困難となり好ましくない。用いられる有機高分子の好ましい数平均分子量は、10,000以上300,000以下の範囲であり、50,000以上280,000以下であるとより好ましく、100,000以上250,000以下であるとより一層好ましい。
【0036】
用いられる有機高分子としては、水を含む溶媒に対する溶解性の点から、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉等が好ましく、なかでもポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)が特に好ましい。
【0037】
繊維形成性物質の添加量としては、無機繊維の緻密性を向上させる観点から、繊維を形成することのできる濃度範囲において可能な限り少量であることが好ましく、繊維形成用組成物全体に対して0.01質量%以上5質量%以下の範囲が好ましい。
【0038】
〔その他の成分〕
本発明の無機繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、繊維形成用組成物から繊維を形成でき、本発明の要旨を超えない範囲であれば、上記の必須成分以外の成分を、繊維形成用組成物の成分として含有させてもよい。
【0039】
〔溶媒〕
本発明の無機繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、水を必須成分として用いるが、この水は溶媒としての役割をも果たすものである。好ましい態様においては、繊維形成用組成物の安定性や紡糸の安定性を向上させる観点から、水以外の溶媒、例えば、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、カルボン酸類等を併用することも可能であるし、塩化アンモニウム等の塩を添加することも可能である。
【0040】
[繊維形成用組成物調製工程]
繊維形成用組成物調製工程においては、ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、界面活性剤、水、および、繊維形成性物質を含む繊維形成用組成物を調製する。
【0041】
本発明の無機繊維を得るための好ましい製造方法の態様においては、上記の必須成分を含む繊維形成用組成物を調製できる方法であれば、組成物の調製方法は特に限定されるものではない。例えば、これらを混合することにより、組成物を調製することができる。その際、混合の方法は、特に限定されるものではなく、攪拌等の周知の方法により混合することができる。また、混合の順序も特に限定されるものではなく、同時添加であっても、あるいは逐次添加であっても差し支えない。
【0042】
本発明において、繊維形成用組成物の溶液の安定性や紡糸の安定性の観点から、水以外の溶媒やその他の任意成分を組成物に添加する場合には、繊維形成用組成物調製工程のいずれの時点においても添加することが可能である。
【0043】
[紡糸工程]
紡糸工程においては、静電紡糸法にて、上記で得られた繊維形成用組成物を噴出することにより、繊維を作製する。以下に、紡糸工程における紡糸方法および紡糸装置について説明する。
【0044】
〔紡糸方法〕
好ましい態様の紡糸工程においては、静電紡糸法によって繊維を作製する。ここで、「静電紡糸法」とは、繊維形成性の基質等を含む溶液または分散液を、電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液または分散液を電極に向けて曳糸することにより、繊維状物質を形成する方法である。なお、紡糸により得られる繊維状物質は、後記する累積工程において、捕集基板である電極上に積層される。
また、形成される繊維状物質は、繊維形成用組成物に含まれていた溶媒が完全に留去した状態のみならず、溶媒が繊維状物質に含まれたまま残留する状態も含む。
なお、通常の静電紡糸は室温で行われるが、溶媒の揮発が不十分な場合等、必要に応じて紡糸雰囲気の温度を制御したり、捕集基板の温度を制御したりすることも可能である。
さらに、温度のみならず湿度を制御して紡糸を行うことも可能である。
【0045】
〔紡糸装置〕
次いで、静電紡糸法で用いる装置について説明する。
静電場を形成するための電極は、導電性を示しさえすれば、金属、無機物、または有機物等のいかなるものであってもよい。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物等の薄膜を設けたものであってもよい。
また、静電場は一対または複数の電極間で形成されるものであり、静電場を形成するいずれの電極に高電圧を印加してもよい。これは、例えば、電圧値が異なる高電圧の電極2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極1つの合計3つの電極を用いる場合をも含み、または3つを越える数の電極を用いる場合も含むものとする。
【0046】
[累積工程]
累積工程においては、上記の紡糸工程で得られた繊維を累積させて、繊維集合体を得る。具体的には、上記の紡糸工程で形成される繊維状物質を、捕集基板である電極上に累積(積層)することによって繊維集合体を得る。
したがって、捕集基板となる電極として平面を用いれば平面状の繊維集合体を得ることができるが、捕集基板の形状を変えることによって、所望の形状の繊維集合体を作製することができる。また、繊維集合体が捕集基板上の一箇所に集中して累積(積層)される等、均一性が低い場合には、基板を揺れ動かしたり、回転させたりすることも可能である。
また、繊維集合体は上記同様に、繊維形成用組成物に含まれていた溶媒が完全に留去して集合体となっている状態のみならず、溶媒が繊維状物質に含まれたまま残留する状態も含まれる。
【0047】
[焼成工程]
焼成工程においては、上記の累積工程において得られた繊維集合体を焼成することにより、本発明の無機繊維の繊維構造体を得る。
焼成にあたっては、一般的な電気炉を用いることができるが、必要に応じて、焼成雰囲気の気体を置換することが可能な電気炉を用いてもよい。また、焼成温度は、600℃以上1400℃以下の範囲とすることが好ましい。600℃以上で焼成することにより、耐熱性に優れた無機繊維を作製するができる。しかしながら、1400℃以上で焼成すると、無機繊維中の粒成長が大きくなったり、低融点物が溶融したりすることから、力学強度の低下してしまう。より好ましい焼成温度は、600℃以上1200℃以下の範囲である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等限定を受けるものではない。
【0049】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって測定・評価を実施した。
【0050】
[平均繊維径]
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、商品名:S−2400)により、得られた無機繊維の表面を撮影し、写真図を得た。得られた写真図から無作為に20箇所を選択し、フィラメントの径を測定した。繊維径のすべての測定結果(n=20)の平均値を求めて、無機繊維の平均繊維径とした。
【0051】
[溶解性試験]
得られた無機繊維0.5g又は0.1gを50mLの超純水にひたし37℃で24時間振盪し、延伸分離により上澄みを得た。その上澄みを吸引濾過し、ICP発光分析(バリアン製、VISTA MPX、又は島津製作所製、ICPS−8100)により金属元素の存在を確認した。なお、この溶解性試験における金属元素の検出限界は0.1μg/mLであった。
【0052】
[実施例1]
[繊維形成用組成物調製工程]
オルト珪酸テトラエチル(和光純薬工業製)7質量部に、1mol/Lに調製した塩酸水溶液を5質量部添加した。塩酸水溶液を添加した直後は、液体は相分離しているが、室温にて10分間激しく攪拌することにより相溶化した。
得られた相溶化した溶液12質量部に、硝酸カルシウム4水和物(和光純薬工業製)4質量部、硝酸マグネシウム6水和物(和光純薬工業製)1質量部、繊維形成性物質としてポリエチレンオキシド(シグマアルドリッチ製、数平均分子量:200,000)0.17質量部、界面活性剤としてプルロニックP123(登録商標、シグマアルドリッチ製、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール共重合体)0.17質量部を混合し、均一な繊維形成用組成物(紡糸溶液)を調製した。
【0053】
[紡糸工程・累積工程]
上記で得られた繊維形成用組成物(紡糸溶液)を用いて、図1に示す静電紡糸装置により繊維形成用組成物を噴出し、繊維を紡糸した。さらに、紡糸した繊維を蓄積させて、繊維集合体を作製した。なお、このときの噴出ノズル1の内径は0.2mm、電圧は20kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は30cmであった。
【0054】
[焼成工程]
上記で得られた繊維集合体を、空気雰囲気下で、電気炉を用いて1000℃まで3時間かけて昇温し、その後、1000℃で5時間保持することにより無機繊維の繊維構造体を得た。
【0055】
[測定・評価]
得られた無機繊維について、上記の測定・評価を実施した。無機繊維0.5gを用いた溶解性試験(ICP発光分析はバリアン製、VISTA MPXを使用した。)では、カルシウムの溶出量は43μg/mL、ケイ素の溶出量は50μg/mLであり、マグネシウムは検出されなかった。平均繊維径は800nmであった。得られた無機繊維の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0056】
[実施例2]
[繊維形成用組成物調製工程]
実施例1と同様の操作を行い、繊維形成用組成物(紡糸溶液)を調製した。
【0057】
[紡糸工程・累積工程]
上記で得られた繊維形成用組成物(紡糸溶液)を用いて、図1に示す静電紡糸装置により繊維形成用組成物を噴出し、繊維を紡糸した。さらに、紡糸した繊維を蓄積させて、繊維集合体を作製した。なお、このときの噴出ノズル1の内径は0.25mm、電圧は8kV、噴出ノズル1から電極4までの距離は30cmであった。
【0058】
[焼成工程]
上記で得られた繊維集合体を、空気雰囲気下で、電気炉を用いて1000℃まで2時間かけて昇温し、その後、1000℃で2時間保持することにより無機繊維の繊維構造体を得た。
【0059】
[測定・評価]
得られた無機繊維について、上記の測定・評価を実施した。無機繊維0.1gを用いた溶解性試験(ICP発光分析は島津製作所製、ICPS−8100を使用した。)では、カルシウムの溶出量が11μg/mL、マグネシウムの溶出量が2.4μg/mL、ケイ素の溶出量が8μg/mLであった。平均繊維径は800nmであった。得られた無機繊維の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0060】
[実施例3]
[繊維形成用組成物調製工程、紡糸工程・累積工程]
実施例2と同様の操作を行い、繊維集合体を得た。
【0061】
[焼成工程]
上記で得られた繊維集合体を、空気雰囲気下で、電気炉を用いて800℃まで2時間かけて昇温し、その後、800℃で2時間保持することにより無機繊維の繊維構造体を得た。
【0062】
[測定・評価]
得られた無機繊維について、上記の測定・評価を実施した。無機繊維0.1gを用いた溶解性試験(ICP発光分析は島津製作所製、ICPS−8100を使用した。)では、カルシウムの溶出量が45μg/mL、マグネシウムの溶出量が0.3μg/mL、ケイ素の溶出量が44μg/mLであった。無機繊維の平均繊維径は800nmであった。得られた無機繊維の電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0063】
[比較例1]
[繊維形成用組成物調製工程]
オルト珪酸テトラエチル(和光純薬工業製)7質量部に、1mol/Lに調製した塩酸水溶液を5質量部添加した。塩酸水溶液を添加した直後は、液体は相分離しているが、室温にて10分間激しく攪拌することにより相溶化した。
得られた相溶化した溶液12質量部に、硝酸カルシウム4水和物(和光純薬工業製)4質量部、硝酸マグネシウム6水和物(和光純薬工業製)1質量部、ポリエチレンオキシド(シグマアルドリッチ製、数平均分子量:200,000)0.17質量部を混合し、均一な繊維形成用組成物(紡糸溶液)を調製した。
【0064】
[紡糸工程・累積工程・焼成工程]
上記で得られた繊維形成用組成物(紡糸溶液)を用いて、実施例1と同様にして、無機繊維の繊維構造体を得た。
【0065】
[測定・評価]
得られた無機繊維につき、上記の測定・評価を実施した。その結果、同一繊維上に繊維径が800nmの部位と、2000nmを超過する繊維径の部位を有し、さらに瘤状の部分を多数有する不均一な無機繊維であった。得られた無機繊維の電子顕微鏡写真を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の無機繊維は、電気絶縁材、断熱材、フィラー、フィルター等様々な分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 繊維形成用組成物噴出ノズル
2 繊維形成用組成物
3 繊維形成用組成物保持槽
4 電極
5 高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO、CaO、およびMgOを必須成分とする無機繊維であって、ケイ素の含有率が5モル%以上80モル%以下、カルシウムの含有率が5モル%以上80モル%以下、マグネシウムの含有率が2モル%以上80モル%以下(ただし、上記の含有率は、該無機繊維における酸素以外の元素の存在量の総和に対する各元素のモル%である)であり、実質的にアルミニウムを含まず、平均繊維径が100nm以上2000nm以下であり、瘤状の部分を有しないことを特徴とする無機繊維。
【請求項2】
繊維径が2000nmより大きい部分を含まない、請求項1記載の無機繊維。
【請求項3】
水の存在下で分解する請求項1または2に記載の無機繊維。
【請求項4】
ケイ素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、界面活性剤、水、および繊維形成性物質を含む繊維形成用組成物を調製する繊維形成用組成物調製工程と、静電紡糸法にて前記繊維形成用組成物を噴出することにより繊維を得る紡糸工程と、前記繊維を累積させて繊維集合体を得る累積工程と、前記繊維集合体を焼成して繊維構造体を得る焼成工程とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機繊維の製造方法。
【請求項5】
前記繊維形成性物質が、数平均分子量10,000以上300,000以下の有機高分子である請求項4記載の無機繊維製造方法。
【請求項6】
有機高分子が、ポリエチレングリコールである請求項5記載の無機繊維製造方法。
【請求項7】
繊維形成用組成物中の界面活性剤の割合が、0.05質量%以上5質量%以下である請求項4〜6のいずれか1項に記載の無機繊維製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−202983(P2010−202983A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46004(P2009−46004)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】