説明

無機質バインダー及びこれを用いて製造される成形体

【課題】使用済みのケイ酸カルシウム保温材や、ケイ酸カルシウム保温材の製造・加工時に排出される不良品・端材などを原料として、JIS1号品と同等ないしはそれ以上の性能を有する軽量高強度のケイ酸カルシウム保温材を製造する方法を提供する。
【解決手段】粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸からなるケイ酸質原料と、石灰質原料とを水熱反応させて生成したケイ酸カルシウム水和物スラリーをゾル化してなる無機質バインダーを使用することにより、ケイ酸カルシウム保温材の廃材などから、JIS1号品と同等ないしはそれ以上の軽量・高強度のケイ酸カルシウム再生保温材を製造することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に無機物からなる紛体等を互いに結着させて成形体とするためのバインダー(結着剤)と、これを用いて作製される成形体に関し、より具体的には、このバインダーを用いてケイ酸カルシウム保温材の廃材等を再利用した軽量高強度のケイ酸カルシウム保温材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化対策や原発問題による電力不足から省エネルギーが急務の課題となっている。石油精製や重化学工業など大規模プラントにおける保温・断熱分野においても、熱損失の低減や廃熱利用といったエネルギー効率化のためのさらなる技術革新が望まれている。一方で、地球環境保全のためには、産業活動にともなって排出される廃棄物がもたらす環境負荷も軽減されなければならない。この観点から、保温・断熱分野においては、使用済み保温材を何らかの形で再利用することが望ましい。
【0003】
現在最も一般的に使用されているプラント用保温材は、ケイ酸カルシウム系の無機多孔質保温材であり、中でもJIS A 9510規格1号のゾノトライト結晶成形体(一般に「JIS1号品」と呼ばれる。)が主流となっている。このJIS1号品のゾノトライト結晶成形体は、密度が155kg/m以下ときわめて軽量で断熱性に富む上に、最高使用温度が1000℃という、他の保温材に比較して卓越した特長を有するものである。
【0004】
プラントの定期補修工事や装置点検などの際に、装置の外部に取り付けてある保温材を取り外した場合、何の欠陥も認められなければ工事終了後にそのまま再取り付けしてもよいが、多くの場合は経年変化によりひびや割れが生じていたり水分の浸入があったりして、新品と交換することとなり、結果として大量の嵩高な廃棄物が発生していた。この廃保温材を原料として再生保温材を製造する試みが従来なされており、例えば、下記の特許文献1及び2に記載の技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ケイ酸カルシウムの水スラリーと固形ケイ酸カルシウム廃材とを混合し、成形・乾燥後、再生ケイ酸カルシウム保温材を得る方法が開示されている。
特許文献2には、ケイ酸カルシウム保温材のリサイクル粉体と、バインダーとして製造したケイ酸カルシウム・水酸化アルミニウム・水酸化ナトリウム・水の混合体を混合・成形・乾燥後、ケイ酸カルシウム質の断熱保温材を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2993359号公報
【特許文献2】特許第4090017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に示された例では、廃保温材を原料として製造される再生保温材の密度はせいぜい200kg/mにとどまり、最も需要の大きいJIS1号品レベル(密度155kg/m以下)の製品を得ることはできていない。
また、特許文献1及び2に示された例では、乾燥収縮低減剤やアルカリ成分など何らかの異物を加えているので、JIS1号品のゾノライト保温材の廃材を使用したとしても、再生保温材はその最高使用温度がJIS1号品レベルである1000℃よりも低くなってしまう。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、使用済みのケイ酸カルシウム保温材や、ケイ酸カルシウム保温材の製造・加工時に排出される不良品・端材などを原料として、JIS1号品と同等ないしはそれ以上の性能を有する軽量高強度のケイ酸カルシウム保温材を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究の結果、特殊な原料により合成したケイ酸カルシウムスラリーをバインダーとして用いることにより、製造される成形体がJIS1号品と同等ないしはそれ以上の密度特性・強度特性を有するようになることを発見し、上記の課題を解決するに至った。
【0010】
一般に、ケイ酸カルシウム保温材やケイ酸カルシウム耐火被覆板は、オートクレーブ中にケイ石粉砕物のようなケイ酸質原料と、消石灰・生石灰のような石灰質原料とを投入して、1.2〜2.0MPa程度の水蒸気加圧下で2〜10時間ほど水熱反応を行い、ゾノトライトあるいはトバモライトといったケイ酸カルシウム水和物スラリーを合成し、これを所定の型枠に入れてプレスした後乾燥することによって製造される。中でも耐熱性に優れるゾノトライト系成形体を電子顕微鏡で観察すると、針状の単結晶が集合して中空のマリモ状の二次粒子を形成しており、その表面針状突起が絡みあって成形体をなす構造であるため、軽量で断熱性に富むという特長を有することとなる。
図1に示すのは、このマリモ状二次粒子が形成されたゾノトライト系ケイ酸カルシウム成形体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。尚、写真中央のマリモ体には、内部が中空であることを示すため穴を開けてある。
【0011】
本発明者は、上記ゾノトライトの合成にあたり、ケイ酸質出発原料として、一次粒子径(平均粒径)が1〜100nmの微細球状無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製「アエロジル(登録商標)」)を使用すると、極めて特殊な性質を持つゾル状物質が得られることを発見した。本物質は、通常のゾノトライトとは異なり、マリモ状の二次粒子を形成せず、極めて微細な繊維状ゾノトライト単結晶分散体のみからなる。したがって、本物質それ自体を加圧成形すると、乾燥時に激しく収縮してしまうため、保温材のような軽量体は得られない。しかしながら、本物質は、従来のゾル状無機質バインダー(シリカゾル、アルミナゾル、粘土鉱物懸濁液など)を凌ぐ、極めて強固な無機質バインダーとして作用することを見出した。
【0012】
本物質はゾル状バインダーの一種であるから、従来のゾル状無機質バインダーと同様に、セラミックス原料や鋳物砂のための固着剤などとしても利用可能ではある。しかしながら、同じケイ酸カルシウム質原料からなるものであることから、ケイ酸カルシウム保温材の廃材を再利用した保温材の成形においてバインダーとして用いるのが最適である。この場合、本物質を単独使用してもよいが、マリモ状二次粒子を形成する通常のゾノトライトスラリーを適宜添加して加圧成形することにより、任意の密度の保温材成形体を得ることができる。この製法によって得ることができるケイ酸カルシウム保温材製品は、密度範囲が80〜300kg/mと幅広く、最も軽量となる配合では新品のJIS1号品ケイ酸カルシウム保温材よりも軽量にしてほぼ同等の強度を有するものとなる。すなわち、JIS1号品よりも軽量・高耐久性にして保温性に優れた再生ケイ酸カルシウム保温材が得られたことになる。
【0013】
以上の本発明者による発見に基づきなされた本発明は、粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸からなるケイ酸質原料と、石灰質原料とを水熱反応させて生成したケイ酸カルシウム水和物スラリーからなる無機質バインダーを提供するものである。
【0014】
本発明は、また、粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸を水中に分散させた懸濁液をほぼ常圧下で90〜95℃に加熱し、これに予め石灰分濃度が1〜2%となるように調整した石灰乳を加えてCaOとSiOを一次反応させた後、0.8〜1.5MPaの加圧飽和水蒸気下で30分〜3時間水熱合成反応させることにより製造される、ケイ酸カルシウム水和物スラリーからなる無機質バインダーを提供するものである。
【0015】
本発明は、また、上記の無機質バインダーと、ケイ酸カルシウム単結晶が凝集した中空マリモ状の二次粒子を含むゾノトライトスラリーと、体質材原料とを混合し、型枠に注入し、脱水加圧成形することにより製造される成形体を提供するものである。
【0016】
本発明は、また、10〜20重量部の上記無機質バインダーと、30〜40重量部のケイ酸カルシウム単結晶が凝集した中空マリモ状の二次粒子を含むゾノトライトスラリーと、残50重量部の体質材原料とを混合し、型枠に注入し、脱水加圧成形することにより製造される成形体を提供するものである。
【0017】
本発明の成形体において、前記体質材原料は、2mm径以下に粉砕されたものを用いることを特徴とする。
【0018】
本発明は、また、上記無機質バインダーを吸引ろ過することにより脱水し、真空パック成形することにより製造される非焼成セラミックスを提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、本発明によれば、使用済みのケイ酸カルシウム保温材や、ケイ酸カルシウム保温材の製造・加工時に排出される不良品・端材などを原料として、JIS1号品と同等ないしはそれ以上の性能を有する軽量高強度のケイ酸カルシウム保温材を製造する方法が提供される。
具体的には、粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸からなるケイ酸質原料と、石灰質原料とを水熱反応させて生成したケイ酸カルシウム水和物スラリーとして得られるゾル状の無機質バインダーを使用することにより、ケイ酸カルシウム保温材の廃材などから、JIS1号品と同等ないしはそれ以上の軽量・高強度のケイ酸カルシウム再生保温材を製造することを可能とするものである。
【0020】
また、本発明にかかる無機質バインダーは、ケイ酸カルシウム以外の無機質保温材(例えば、パーライト保温材など)の廃材の再成形や、無機物一般の結着剤としても有効に作用するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マリモ状二次粒子が形成されたゾノトライト系ケイ酸カルシウム成形体の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【図2】この「A−ゾノ」スラリーの分散状態の安定性を示す実験写真である。
【図3】この「A−ゾノ」の電子顕微鏡写真(倍率15000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明にかかる無機質バインダー及びこれを用いた成形体の製造を実施するための最良の形態を詳細に説明する。以下において、本発明にかかる無機質バインダー、すなわち、粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸からなるケイ酸質原料と、石灰質原料とを水熱反応させて生成したケイ酸カルシウム水和物スラリーからなるゾル状の無機質バインダーを「A−ゾノ」と称する。
【0023】
A−ゾノの製造工程
本発明にかかる無機質バインダー「A−ゾノ」の製造工程は、従来のゾノトライト製造工程と同様に、ケイ酸質原料とカルシウム質原料とを水中に分散させた後にオートクレーブ中で水熱合成を行うものである。しかしながら、ケイ酸質原料としては、粒径1〜100nmの微細球状無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製「アエロジル(登録商標)」)を使用する点において従来のゾノトライト製造工程とは大きく異なる。
尚、アエロジル(登録商標)をケイ酸カルシウム生成のためのケイ酸質原料として用いる例は、特開2002−308669号公報や特開2003−277122号公報などに記載があるが、いずれもアエロジル(登録商標)を必須要素とするものではなく、しかもバインダー原料として認識されてはいない。
一方、カルシウム質原料としては生石灰や消石灰などが使用可能である。好ましくは、生石灰を所定の濃度となるように80℃〜100℃の温水中に加え、ホモミキサーにより3000〜5000rpmで攪拌しつつ消化すると嵩高な石灰乳が得られ、石灰分の分散が極めて良好で反応性が高いものとなる。
【0024】
アエロジル(登録商標)を水に分散させた懸濁液を常圧下で90℃〜95℃に加熱しつつ、上記の製法により予め生石灰濃度が1〜2%となるように調整した石灰乳を加え、ホモミキサーにてさらに5分〜40分ほど攪拌する。
ここで、ケイ酸分と石灰分の配合モル比(CaO/SiO)はほぼ1であり、添加水量は最終的に固形分量が1〜2%(水/固体重量比=50〜99)となるようにする。この水/固体重量比は、通常のケイ酸カルシウム水熱合成の場合の20〜40程度と比べてかなり大きいが、それだけ低濃度であっても嵩高なゾルが得られることを意味している。
【0025】
このように、常圧・沸点近傍で加熱攪拌することによりCaOとSiOは一次反応を起こし、非晶質のケイ酸カルシウム水和物スラリーとなる。続いて、このスラリーを攪拌機能付きオートクレーブに移し、0.8〜1.5MPaの加圧飽和水蒸気下で30分〜3時間水熱合成を行って、ゾノトライトスラリーを得る。これらのプロセスは公知技術と同一であるが、原料が微細であるため反応性は極めて高く、一次反応・水熱合成反応ともその処理時間は従来に比べて大幅に短縮可能である。
【0026】
こうして得られた「A−ゾノ」スラリーは沈降体積が50cm/g以上、通常は60 〜 70cm/gにも及び、従来の方法で製造されるゾノトライトスラリーの値を大幅に上回る。ここで、沈降体積とは、スラリーをメスシリンダーに採取し、24時間静置後の固形分体積を固形分重量で除した値である。
また、その分散状態はきわめて安定である。図2は、この「A−ゾノ」スラリーの分散状態の安定性を示す実験写真である。図中右は、「A−ゾノ」スラリーをメスシリンダーに入れて1ヶ月放置したものである。「A−ゾノ」スラリーは安定したコロイド(ゾル)状態にあるため、固形分の沈降がほとんど認められない。これに対して図中左は、ケイ酸質原料としてケイ石粉砕物を使用した従来製法によるゾノトライトスラリーを同様にメスシリンダーに入れて1ヶ月放置したものであり、固形分の沈降が認められる。
このように、「A−ゾノ」スラリーは1ヶ月放置しても固形分が沈降することはなく、その性状はシリカゾルなど従来の水性コロイドに近似している。
【0027】
A−ゾノを用いた成形体の製造
上記のようにして得られる「A−ゾノ」の具体的用途としては、前述の通りケイ酸カルシウム再生保温材の製造においてバインダーとして用いるのに最適である。再生する廃保温材は、ケイ酸カルシウム保温材であればJIS1号品(ゾノトライト系)であるか2号品(トバモライト系)であるかを問わないが、最終製品として1000℃近くの耐熱性を求める場合には、廃保温材原料もJIS1号品を使用する必要がある。その配合量は全体の20〜80%(重量比)の範囲であれば成形可能であるが、50%未満では廃材利用のメリット(コスト及び廃棄物の減少)が小さい。
【0028】
「A−ゾノ」と廃保温材を混合・成形して得られる最終製品の形態は、密度300kg/mの建材用ボードから、密度80kg/mの超軽量体まで様々であるが、密度155kg/m以下のJIS1号品相当の保温材を得ようとする場合は、マリモ状二次粒子から成る通常のゾノトライトスラリーを併用することによって加圧脱水成形が可能となり、通常のケイ酸カルシウム保温材製造と同一ラインでの製造が可能となるとともに、安定した品質の製品が得られるため有利である。
【0029】
マリモ状二次粒子から成るゾノトライトスラリーは、例えば特公平1−16787号公報に示されるように、ケイ酸質原料としてケイ石粉末等を用いる他はほぼ「A−ゾノ」と同様のプロセスで製造するが、水/固体重量比は20〜40とし、また、蒸気圧は1.8MPa以上、反応時間3時間以上とするのが好ましい。
【0030】
スラリーの混合にはミキサーを用い、スクリュー型・パドル型・ニーダー型など、水性スラリーを均一に混合できるものであればいずれも使用可能である。廃保温材はカッターミル、ピンミル、ボールミル等により予め5mm径以下に粉砕しておく。また、密度155kg/m以下のJIS1号品相当の保温材を得ようとする場合はさらに細かく、2mm径以下とすることが望ましい。
【0031】
ミキサー中に廃保温材、「A−ゾノ」スラリー及びマリモ状ゾノトライトスラリーを入れ、均一に混合する。これら以外の成分、例えばガラス繊維などの補強用繊維は不要であるが、添加してもよい。また必要に応じ、シリコーンオイルやシリコーンエマルジョンのような撥水剤を添加することも可能である。但し、セメントや水ガラスなど異成分の添加は耐熱性を損なうおそれがあるという点で好ましくない。
【0032】
混合スラリーを型枠に移し、脱水加圧成形により成形体を得る。成形体を110〜180℃にて2〜24時間乾燥し、再生ケイ酸カルシウム保温材とする。上記の方法でJIS1号品相当の再生ケイ酸カルシウム保温材を製造する場合、得られる製品の密度は120〜 140kg/m、曲げ強度25〜27N/cm、1000℃での収縮率0.8〜1.5%、100℃での熱伝導率0.050〜0.054W/mKと、いずれもJIS A 9510「無機多孔質保温材」に規定されたケイ酸カルシウム1号−15の規格値を満足することが下記の実施例により示されている。
【実施例1】
【0033】
日本アエロジル社製「アエロジル(登録商標)300」(平均粒子径7nm)48gを4Lの温水に分散させ、90℃まで加温しておく。ここに予め生石灰(CaO純度94%)47.6gを温水4Lにて消化して作成しておいた石灰乳を一気に加え、回転速度5000rpmのホモミキサーで攪拌しながら90℃で20分間加熱し、一次反応を行った。
【0034】
その後この液を攪拌機能付きオートクレーブに移して温度200℃、圧力1.7MPaの条件下で攪拌しながら2時間水熱反応を行い、冷却後、粘稠なスラリーを得た。乾燥体のX線回折分析によれば固形分は全てゾノトライトから成ることが示された。また、図3に示すように、顕微鏡写真(倍率15000倍)によって、長さ1〜5μm、径が10nm程度の微細な繊維状結晶の、二次凝集を生じていない分散体であることが分かった(「A−ゾノ」スラリー)。
【0035】
このスラリーについて、ケイ酸カルシウム保温材製造の定法によりプレスによる脱水加圧成形を試みたが、粒子が極めて微細であり、表面部がわずかに脱水したところで濾布が目詰まりし、中央部の水分が多いまま残るため乾燥による変形が著しく、実用的な成形体を得ることは不可能であった。
次いで吸引濾過により少しずつブフナー漏斗上に固形分を堆積させることにより固形分の濃度を上げ、この濃厚スラリーを真空梱包機によりパック成形を試みた。得られた成形体を乾燥したところ、密度550kg/m、曲げ強度1220N/cm、圧縮強度1540N/cmという軽量高強度非焼成セラミックスが得られた。
本実施例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【実施例2】
【0036】
ケイ酸質原料を粒径10〜25μmのケイ石粉砕物に変え、水/固体重量比を23とし実施例1と同様のプロセスで2.3MPa、5.5時間の条件でオートクレーブ反応を行い、ゾノトライトスラリーを得た。このスラリーの乾燥物を電子顕微鏡で観察すると図1に示すように中空マリモ状ケイ酸カルシウム(ゾノトライト結晶体)の形状を呈しており、脱水加圧成形によってJIS1号品に相当する密度150kg/mのケイ酸カルシウム保温材が得られた。
【0037】
このマリモ状ゾノトライトスラリーを固形分が18g含まれるよう採取し、ここに実施例1で得られたアエロジル(登録商標)をケイ酸質原料とするスラリーを固形分が4.5g含まれるように計量して混合する。さらに予めスクリーン孔径2mmφのカッターミルで粉砕した廃保温材(JIS1号−15相当品)を22.5g加え、均一になるようにスクリューミキサーで攪拌後型枠に移して脱水加圧成形を行った。
得られた成形体を150℃で一夜乾燥して得られた再生保温材の物性を測定したところ、密度124kg/m、曲げ強度27N/cm、圧縮強度57N/cmであり、1000℃、3時間加熱後の線収縮率は0.88%であり、100℃での熱伝導率は0.052W/mKといずれもJIS1号品の規格を満足する値であった。
本実施例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【実施例3】
【0038】
実施例2と同様の手順で、各材料の配合比を変化させて再生保温材を作製した。
本実施例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【実施例4】
【0039】
マリモ状ゾノトライトスラリーを使用せず、「A−ゾノ」と廃保温材のみで成形を試みた場合、保温材として使用できる低密度品を安定して得ることは困難であったが、建築内装材等として使用可能な密度300kg/m程度の成形体を得ることができた。
本実施例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【比較例1】
【0040】
「A−ゾノ」を使用せずに廃保温材をマリモ状ゾノトライトスラリーのみで成形した場合、脱水加圧成形によって密度155 以下のJIS1号相当品を得ようとしても、乾燥による収縮やクラックが発生し、強度等の物性を測定するに至らなかった。
本比較例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【比較例2】
【0041】
「A−ゾノ」を使用せずに廃保温材をマリモ状ゾノトライトスラリーのみで成形した場合、製品密度を220kg/mとJIS2号品相当とすると成形可能であった。
本比較例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【比較例3・4】
【0042】
「A−ゾノ」及びマリモ状ゾノトライトスラリーのいずれをも用いずに、従来知られている無機質バインダーを用いて廃保温材の再生利用を試みたが、いずれも保温材として利用可能な製品は得られなかった。
本比較例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【参考例】
【0043】
参考例として、廃保温材を混合せず、「A−ゾノ」とマリモ状ゾノトライトスラリーのみを使用して保温材を作製した。
本参考例における各原料の配合比と成形品の物性値を下記の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
以上、本発明の無機質バインダー及びこれを用いた成形体について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記実施形態におけるバインダーや成形体の原材料、混合方法、反応方法などについて、様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の無機質バインダーは、ケイ酸カルシウムの廃材の再成形に最適に利用できる。また、これに限らず、ケイ酸カルシウム以外の無機質保温材(例えば、パーライト保温材など)の廃材の再成形や、無機物一般の結着剤としても利用することができる。これまで有効利用されてこなかった廃保温材を、保温材分野では最も需要の大きいケイ酸カルシウム保温材として再生使用できることの意義は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸からなるケイ酸質原料と、石灰質原料とを水熱反応させて生成したケイ酸カルシウム水和物スラリーからなる無機質バインダー。
【請求項2】
粒径1〜100nmの粒状無水ケイ酸を水中に分散させた懸濁液をほぼ常圧下で90〜95℃に加熱し、これに予め石灰分濃度が1〜2%となるように調整した石灰乳を加えてCaOとSiOを一次反応させた後、0.8〜1.5MPaの加圧飽和水蒸気下で30分〜3時間水熱合成反応させることにより製造される、ケイ酸カルシウム水和物スラリーからなる無機質バインダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無機質バインダーと、ケイ酸カルシウム単結晶が凝集した中空マリモ状の二次粒子を含むゾノトライトスラリーと、体質材原料とを混合し、型枠に注入し、脱水加圧成形することにより製造される成形体。
【請求項4】
10〜20重量部の請求項1又は2に記載の無機質バインダーと、30〜40重量部のケイ酸カルシウム単結晶が凝集した中空マリモ状の二次粒子を含むゾノトライトスラリーと、残50重量部の体質材原料とを混合し、型枠に注入し、脱水加圧成形することにより製造される成形体。
【請求項5】
前記体質材原料は、2mm径以下に粉砕されたものを用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の成形体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の無機質バインダーを吸引ろ過することにより脱水し、真空パック成形することにより製造される非焼成セラミックス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−23424(P2013−23424A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161900(P2011−161900)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【特許番号】特許第4902008号(P4902008)
【特許公報発行日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(593078224)関西保温工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】