説明

無機質軽量断熱材

【課題】加熱工程など特別な処理を必要とすることなく、簡易な成形装置で製造可能であり、しかも耐水性、耐火性に優れた黒曜石パーライトの成形品を提供する。
【解決手段】黒曜石パーライト30〜50重量%と石膏70〜50重量%とからなる混合物100重量部に対し水20〜50重量部を添加して混練し、混練物を成形、硬化させてなる黒曜石パーライトの成形体は、不燃性、軽量性、高断熱性、耐水性に優れ、また透水性も有し、建物の外壁、屋根の瓦などの仕上げ材と野地板との間、屋上の床面などに敷設して、建築用内外断熱板材などとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性、軽量性、高断熱性、耐水性に優れ、例えば、建築用内外断熱板材や、工場などの外壁、熱媒、冷媒などを覆う保温材、保冷材、路面材などとして使用される無機質軽量断熱材に関するものであり、更に詳しくは、黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートアイランドといわれる都市部の気温の上昇や、全地球規模の温暖化対策、また省資源化対策などの観点から、建物の内外に断熱材を設けることで、冷暖房に費やされるエネルギーを削減するなど、環境に配慮した様々な取り組みが行われている。
【0003】
前記のような建物の内外壁、床、天井、屋根、屋上などに設けられる断熱材には、不燃性、軽量性が求められる。さらに、外壁、屋根、屋上の床、路面材など屋外に設けられる断熱材には、雨に濡れても劣化しない耐水性も求められる。これらの要求特性を満足する断熱材としては、無機質軽量断熱材が主として用いられている。前記無機質軽量断熱材としては、グラスウール、石膏ボード、オートクレーブ養生した軽量気泡コンクリート(ALC)などの発泡成形品や、無機質中空体(粒子)をセメント、水ガラスなどの無機硬化剤を用いて成形したものなどがある。
【0004】
しかしながら、グラスウールはそれ自体に形状保持性がなく、合板などに挟んで使用する必要があるなど用途に制限がある。また、石膏ボードやALCは、必ずしも十分な軽量性と断熱性を備えてはいえない。一方、無機質中空粒子の成形体は、軽量性、断熱性に優れる。無機質中空粒子としては、ガラスバルーン、シラスバルーン、パーライトが知られている。これら無機質中空粒子の中でも、黒曜岩を加熱発泡させた黒曜石パーライトは、独立気泡構造を有し、軽量性、断熱性に優れた材料である。
【0005】
従来、黒曜パーライトを用いた無機質軽量断熱材としては、硬化剤として、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を用いたもの(例えば、特許文献1〜5参照。)、珪酸ソーダに珪酸カルシウム若しくは水硬性セメントを用いたもの(特許文献6参照。)、更には、ニカワなどの天然接着剤からなるバインダーを用いたもの(特許文献7参照。)、などが知られている。
【0006】
しかしながら、シロキサン及びシラノール塩多分子量溶液を用いたものは、成形後に加熱乾燥工程が必要であり、製造コストが高くつく。また、珪酸ソーダ(水ガラス)を用いたものでは、耐水性に難点がある。更に、ニカワなどの天然接着剤からなるバインダーを用いたものでは、耐火性に難点がある。このようなことから、黒曜石パーライトの成形体からなる軽量断熱材で実用化されているものは殆ど見当たらない。
【0007】
なお、代表的な無機質硬化剤であるセメントを用いて黒曜石パーライトの成形体を成形することができれば、前記のような問題は解消されるはずである。ところが、セメントは、硬化(凝結)するまでの時間が最低でも数時間、実用強度に達するまでには数日間を要するうえに、比重も普通ポルトランドセメントで3.15と比較的大きい。一方、無機中空粒子である黒曜石パーライトは、見掛け比重が0.1前後と極めて軽量である。このため、他の充填材とともに一部パーライトを用いる場合はともかくとして、黒曜石パーライトのみ、あるいは黒曜石パーライトを主成分とする材料にセメントを混練すると、混練後、セメントが凝固する前に、混練物中で比重が大きなセメントが沈降する一方、比重の小さな黒曜石パーライトは上部に浮き上がってセメントと分離してしまい、全体に均質な成形体を得ることは、実際には極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−43512号公報
【特許文献2】特開2010−47459号公報
【特許文献3】特開2010−42975号公報
【特許文献4】特開2010−18509号公報
【特許文献5】特開2008−214173号公報
【特許文献6】特開2010−47458号公報
【特許文献7】特開2007−186940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような黒曜石パーライトを用いた無機質軽量断熱材の課題に鑑み、加熱工程など特別な処理を必要とすることなく、簡易な成形装置で製造可能であり、しかも耐水性、耐火性に優れた黒曜石パーライトの成形品からなる無機質軽量断熱材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、黒曜石パーライトの粒子間を結着固化して成形体を形成するための硬化剤として石膏を用いることで、成形品全体に黒曜石パーライトの粒子が均一分散した全体が略均質な成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
前記目的を達成してなる本発明に係る無機質軽量断熱材は、以下のとおりである。
(1)黒曜石パーライト30〜50重量%と石膏70〜50重量%とからなる混合物100重量部に対し水20〜50重量部を添加して混練し、混練物を成形、硬化させてなることを特徴とする、黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材。
(2)前記石膏が焼石膏である前記(1)に記載の無機質軽量断熱材。
(3)前記焼石膏がα型石膏である前記(2)に記載の無機質軽量断熱材。
(4)前記黒曜石パーライトと石膏とからなる混合物に硬化促進剤として吸湿性塩類を1〜5重量%添加してなる前記(1)に記載の無機質軽量断熱材。
(5)前記吸湿性塩類が塩化カルシウム又は硫酸カリウムである前記(4)に記載の無機質軽量断熱材。
(6)見掛け比重が0.6以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載に無機質軽量断熱材。なお、本発明で成形体の「見掛け比重」とは、成形体の重量(g)を体積(cm3)で除した値をいう。
【発明の効果】
【0012】
黒曜石パーライトを用いて成形体を得る場合、硬化剤としてセメントを用いると、セメントが凝結してパーライト粒子間が結着固化するまでの間に黒曜石パーライト粒子とセメントとが分離してしまい、パーライト粒子及びセメントがそれぞれ偏在した不均質な成形体しか得ることができない。これに対し、本発明によれば、黒曜石パーライトの粒子間を結着固化して成形体を得るための硬化剤として、セメントに較べて軽量で、しかも硬化時間の短い石膏を用いることで、他の充填剤などを含まず、黒曜石パーライトのみからなる成形体であっても、全体に略均質な成形体を得ることができる。
【0013】
また、黒曜石パーライトは、比重が0.1前後と非常に軽量であるにもかかわらず、比較的硬度も高く、しかも独立気泡構造を有することから、軽量性、断熱性に優れた成形品を得ることができる。更に、硬化剤も無機質の石膏であるので、耐火性に優れた成形体が得られる。更に、本発明に係る黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材は、耐水性にも優れており、建物の外壁、屋根、屋上などに用いた場合にも耐久性に優れる。更に、本発明の黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材は、透水性を有することから、路面、床面、屋上面などに使用した場合に浸水しても浮き上がることがない。
【0014】
前記石膏として焼石膏を用いることで、硬化時間が短く、より均質な成形体を得ることができる。
【0015】
更に、前記焼石膏としてα型石膏を用いると、より短時間で、かつ硬度の高い成形体を得ることができる。
【0016】
前記黒曜石パーライトと石膏とからなる混合物に硬化促進剤として吸湿性塩類を1〜5重量%添加することで、石膏の硬化時間を更に短くでき、より均質な成形体を短時間で得ることができる。
【0017】
前記吸湿性塩類として、硫酸カリウム又は塩化カルシウムを用いることで、石膏の硬化時間を確実に短縮することができる。
【0018】
本発明に係る黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材は、見掛け比重が0.6以下と、木材と同等またはそれより軽量とすることが可能である。これにより、建築物の壁面、天井面、屋根、屋上などに使用した場合にも、建築物に過剰な負荷かかることがなく、また、軽量であることから、施工時の作業員の負担も軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
黒曜石パーライトは、黒曜石の原石を粉砕・焼成・発泡させたものであり、真珠岩パーライトに較べて硬質である。黒曜石パーライトは、発泡倍率は5〜20倍程度、比重は0.08〜0.3程度、更に粒径は、大きいものでは70mm程度の大きさのものまであるが、本発明では、比重が0.1前後、粒径は1〜5mm程度のものを使用することが好ましく、更には2〜3mm程度の粒径の黒曜石パーライトを使用することが好ましい。この黒曜石パーライトは、例えば芙蓉パーライト株式会社(長野県諏訪郡)などから入手することができる。
【0020】
本発明では、前記黒曜石パーライトの粒子同士を結着固化して成形体とする際の硬化剤として、石膏を用いる。石膏は、α型石膏で比重が2.7程度でありセメントと較べて軽量で、しかもセメントに較べて硬化時間が極めて短いことから、黒曜石パーライトと混練後、両者が分離してしまう前に成形、固化することができる。よって、本発明によれば、全体に略均質な黒曜石パーライトからなる成形体を短時間で製造することができる。
【0021】
石膏には、焼石膏(半水石膏)、二水石膏、無水石膏などがあるが、本発明では、焼石膏を用いることが好ましい。焼石膏にはα型とβ型とがあるが、β型石膏に較べて硬化時間が短く、かつ強度の大きなα型石膏を用いることが好ましい。α型石膏は、その95重量%以上が硫酸カルシウムからなり、S、FeO2、その他の不純物を含有する。前記α型石膏に含まれる不純物を除去してCaSO4の含有率を向上させることで、更に硬化時間を短縮することができる。α型石膏は、水と反応して二水石膏として硬化する。
【0022】
本発明に係る黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材は、前記黒曜石パーライトと石膏とを混合(ドライブレンド)し、これに水を加えて混練し、混練物を成形、硬化させることで得られる。
【0023】
黒曜石パーライトと石膏との配合比率は、黒曜石パーライト30〜50重量%に対し、石膏70〜50重量%が好ましく、より好ましくは、黒曜石パーライト35〜45重量%に対して石膏65〜55重量%とする。石膏の配合割合が少なすぎると成形体の強度が不足することがある。一方、石膏の配合割合が多すぎると、得られる成形体の比重が大きくなるだけでなく、断熱性が低下する。また、水の配合量は、前記黒曜石パーライトと石膏の混合物100重量部に対して20〜50重量部が好ましく、より好ましくは30〜40重量部である。水の量が少なすぎると混練時の粘度が高く、黒曜石パーライトと石膏とが均一に混合され難くなる。一方、水の量が多すぎると成形体の強度が低下するだけでなく、混練物の粘度が低下して成形時に黒曜石パーライトとセメントとが分離しやすくなる。なお、減水剤を使用することで、水の配合量を減らすこともできる。なお、用途によっては、前記石膏の一部を普通ポルトランドセメントなどのセメント類と置き換えてもよい。
【0024】
更に、前記石膏の硬化時間を短縮するために、少量の吸湿性塩類を添加することが好ましい実施形態である。この吸湿性塩類としては、塩化カルシウム、硫酸カリウムなどが、入手が容易で、かつ取り扱い易く、またコスト面からは塩化カルシウムが好ましい。吸湿性塩類の添加量としては、黒曜石パーライトとセメントとの混合物に対して1〜5重量%の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の無機質軽量断熱材は、黒曜石パーライトと石膏とを混合し、好ましくは吸湿性塩類を添加した混合物に水を加えて混練し、混練物を成形型などに充填して成形する。必要に応じて成形時に加圧、転圧してもよい。本発明によれば、黒曜石パーライト及び石膏と水との混練後、数十秒〜数分以内に硬化した成形体が得られる。すなわち、水との混練後、硬化するまでの時間が短い。よって、成形までに必要以上に時間がかかると硬化が始まってしまい、所望の形状の成形体が得られないことがあるので、混練後、成形までの工程を短時間で行うことが肝要である。
【0026】
本発明の無機質軽量断熱材は、見掛け比重が0.1程度と極めて軽量な黒曜石パーライトを、セメントに較べて軽量で、しかも硬化時間の短い石膏を用いて成形、硬化してなることから、成形時に原料中の硬化剤が沈降して黒曜石パーライトが偏在することなく、全体が略均質で、しかも比重が0.6あるいはそれ以下の極めて軽量な成形体が得られる。そして、こうして得られる本発明の黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材は、耐火性、断熱性、耐水性に優れることから、建築物の内壁、床、天井などのみでなく、外壁、屋上、屋外といった雨に晒される環境下での使用も可能である。例えば、建物の外壁に布設する、屋根の場合には、瓦、スレート、トタンなどの仕上げ材と野地板との間に敷設する、建物の屋上の床面に敷設するなどして、建物の外断熱構造を構築することができる。しかも、本発明の黒曜石パーライトの成形体からなる軽量断熱材は、透水性も有することから、路面、床面、屋上面などに使用した場合に、雨水などにより浸水しても浮き上がることもない。
【実施例】
【0027】
黒曜石パーライト(芙蓉パーライト株式会社製)40重量%、石膏60重量%及び硫酸カリウム5重量%を混合した。この混合物100重量部に水35重量部を加え、ミキサーで5分混練した。混練後、直ちに成形型に入れ、硬化時間3分で長さ300mm、幅200mm、厚み20mmの黒曜石パーライトの成形体(板材)を得た。得られた板材は、比重が約0.6、JIS A1412−2(熱絶縁体の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第2部:熱流計法)に準拠して測定した熱伝導率が0.106W/m・k(測定温度;平均で23.2℃)であり、軽量性及び断熱性に優れ、しかも表裏面(成形時の上下面)において殆ど構造に差異のない、全体に略均質の成形体であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒曜石パーライト30〜50重量%と石膏70〜50重量%とからなる混合物100重量部に対し、水20〜50重量部を添加して混練し、該混練物を成形、硬化させてなることを特徴とする、黒曜石パーライトの成形体からなる無機質軽量断熱材。
【請求項2】
前記石膏が焼石膏である請求項1に記載の無機質軽量断熱材。
【請求項3】
前記焼石膏がα型石膏である請求項2に記載の無機質軽量断熱材。
【請求項4】
前記黒曜石パーライトと石膏とからなる混合物に、硬化促進剤として吸湿性塩類を1〜5重量%添加してなる請求項1記載の無機質軽量断熱材。
【請求項5】
前記吸湿性塩類が塩化カルシウム又は硫酸カリウムである請求項4に記載の無機質軽量断熱材。
【請求項6】
見掛け比重が0.6以下である請求項1〜5のいずれかに記載に無機質軽量断熱材。

【公開番号】特開2012−36020(P2012−36020A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175138(P2010−175138)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(390008110)家庭化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】