説明

無機酸化物材料の製造方法、無機酸化物材料、および炭素−金属複合酸化物材料

【課題】安価なコストで、多様性のある形状を有するシリカナノチューブやシリカ以外の無機酸化物ナノ材料の作製方法を提供すること。及びこれを用いて、新規な複合材料を提供すること。
【解決手段】 本発明は、基体に無機酸化物前駆体を付着させる段階と、無機酸化物前駆体を無機酸化物とする段階と、基体を酸化除去する段階とを含む基体の構造をテンプレートとする無機酸化物材料の製造方法を提供する。無機酸化物材料は、断面形状がヘキサゴナル形状を有することができ、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Ca、またはこれらの混合物から選択される金属を担持することができる。さらに本発明によれば無機酸化物材料の少なくとも内壁または外壁に付着したカーボンナノファイバーを含む、炭素−無機酸化物複合材料が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの無機酸化物材料の新規な製造方法、該方法により製造される新規な形態を有する無機酸化物材料および炭素−無機酸化物複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの発見以来、ナノチューブ構造を有する種々の材料の合成・応用が検討されている。その中でも、テンプレート法は代表的なシリカナノチューブの合成方法である。この方法は一般に、4級アンモニウム界面活性剤等の有機物をテンプレート材料として用い、アルコキシシランなどを原料ゾルとして、ゾルゲル法による合成(特許文献1)、あるいは、カーボンナノチューブ、陽極酸化アルミナなどのテンプレート上でテトラエトキシシラン等の加水分解を行うことにより合成されてきた(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、これらのテンプレートには、(1)テンプレートの形状が一様であるため、生成するシリカナノチューブの形状に多様性が無い、(2)テンプレートのコストが高い、等といった問題点がある。また、シリカナノチューブ合成の報告は多数なされているものの、その応用例は極めて少なく、ナノスケールサイズの中空構造を持つシリカナノチューブやシリカ以外の無機酸化物ナノ材料の応用が期待されているが、例えば、シリカナノチューブやシリカ以外の無機酸化物ナノ材料の外壁あるいは内壁のみに金属粒子を担持した新規材料系などは知られていない。
【0004】
さらに、これら新規材料系を利用して、シリカナノチューブやシリカ以外の無機酸化物ナノ材料の外壁あるいは内壁のみに付着した枝状のカーボンナノファイバーを作製することが可能になれば、新規な触媒材料、環境浄化材料、電子放射材料、電磁波吸収体等への応用が期待されるが、このような複合系材料は現在までに提案されていない。一方、本発明者等は、従来から金属触媒上での炭化水素分解によるナノサイズの直径を持つカーボンナノファイバー(以下CNF)の合成を検討してきている(非特許文献2)。これらCNFは安価な金属Ni触媒、メタン等を用いて、500℃程度の低温で得られることが特徴である。さらに、反応条件等を制御することによって、種々の形状を持つCNFを合成可能であることが見出されている。また、これまで、ナノサイズの無機酸化物材料への担持を、高度に制御する手法は、開発されておらず、金属の担持性を制御することにより、特異的な反応を生起させることができる新規なナノサイズの触媒等としての応用が期待される。
【0005】
【特許文献1】特開2000−256007号公報
【非特許文献1】Mitchell等、J.Am.Chem.Soc.2002、124、11864.
【非特許文献2】S.Takenaka、S.Kobayashi、H.Ogihara、and K.Otsuka J. Catal.217(2003)79.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、より一般的には、新規な形態性を有する無機酸化物材料を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、炭化水素分解から生成したCNFをテンプレートに用いてシリカナノチューブなどの中空な構造を有する無機酸化物を作製することにより、従来技術に示した問題点(1)、(2)を解決することを目的とする。
【0008】
また、本発明のさらに他の目的は、上記CNFをテンプレート材料として作製したシリカナノチューブやシリカ以外の無機酸化物材料に、無機酸化物材料の内壁あるいは外壁に金属粒子を担持させた新規な無機酸化物材料を提供することにある。
【0009】
また、本発明のさらに他の目的は、上記金属粒子を担持した無機酸化物材料に対して、金属粒子を担持させ、該金属粒子を担時したシリカナノチューブ等の外壁あるいは内壁から枝状のCNFを含む炭素−無機酸化物複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化除去可能なカーボンナノファイバーを基体として使用することによりカーボンナノファイバーをテンプレートとして耐酸化性を有する材料、好適には無機酸化物材料を成長させることにより新規な形態特性を有する材料を提供することができるという着想に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明により製造される無機酸化物材料は、高いアスペクト比を有しており、また中空構造を備えている。このため、内壁・外壁のいずれかまたは両方に金属粒子を担持させることが可能であり、また本発明により内壁または外壁に対する金属付着を制御することが可能となる。
【0012】
そして、無機酸化物材料には、さらに高いアスペクト比のカーボンナノファイバーといった微細構造を成長させることができ、より高次の形態制御が可能となる。
【0013】
本発明では、例えばシリカナノチューブは、炭素水素の接触的分解で生成させた1〜100nmのカーボンナノファイバー(CNF)をテンプレートとして用い、このCNFとテトラエトキシシラン(TEOS)等の有機ケイ素化合物を混合させ、これをアルゴン等の流通下で加熱後、空気焼成によりCNFを除去することより、1〜600nmのシリカナノチューブが得られることにより達成される。
【0014】
また、シリカ以外の中空な無機酸化物材料としては、例えば、チタンアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解によって得られたゾル溶液にCNFを浸漬して混合し、ろ過・洗浄後、上記と同様に空気焼成によりCNFを除去することにより、中空な酸化チタン材料や酸化ジルコニウム材料とすることができる。
【0015】
また本発明では、例えば、シリカナノチューブの内壁に鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、白金等から選択された金属粒子を内包した無機酸化物材料は、本発明にしたがい製造された無機酸化物材料を金属塩水溶液中に浸漬する。続いて試料を吸引濾過する際に、洗浄処理を施し、乾固した試料を水素等で還元後、空気焼成を行うことにより達成される。
【0016】
また、無機酸化物材料の外壁に金属を担持させるためには、上記金属塩水溶液中に、無機酸化物材料で被覆したCNFを入れ、加熱・攪拌し、乾固した試料を水素等で還元後、空気焼成を施し、CNFを除去して、外壁のみに金属が担持させることにより製造される。
【0017】
さらに本発明によれば、内壁または外壁に金属を担持した無機酸化物材料を固定床流通式反応装置に設置し、高温でメタン等の炭化水素を所定の時間流通させて、炭化水素を接触分解させることで、外壁あるいは内壁からCNFを成長させた炭素−無機酸化物複合材料が提供される。
【0018】
すなわち、本発明によれば、
中実な基体に無機酸化物前駆体を付着させる段階と、
前記無機酸化物前駆体を無機酸化物とする段階と、
前記基体を酸化除去する段階と
を含む前記基体の構造をテンプレートとする中空な無機酸化物材料の製造方法が提供できる。
【0019】
本発明では、前記基体は、炭素質材料とすることができる。本発明の前記炭素質材料は、1〜600nmの高アスペクト比を有する材料とすることができる。前記基体は、カーボンナノファイバーとすることが好ましい。また、前記基体に前記無機酸化物前駆体を付着させる段階は、前記無機酸化物前駆体を、前記基体に担持させる段階を含むことができる。さらに、前記無機酸化物材料は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Ca、またはこれらの混合物から選択される金属を担持することができる。
【0020】
本発明の第2の構成によれば、1〜600nmのサイズであり、高アスペクト比を有する中空構造の無機酸化物材料が提供される。本発明では、前記無機酸化物材料は、断面形状がヘキサゴナル形状を有することができる。本発明では、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属またはこれらの混合物から選択される金属を担持することができる。
【0021】
本発明の第3の構成では、上記に記載の無機酸化物材料の、少なくとも内壁または外壁に付着したカーボンナノファイバーを含む、炭素−無機酸化物複合材料が提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によればナノスケールで形態制御が達成され、金属などの担持制御を行うことができ、さらに、外壁または内壁にカーボンナノファイバーが付着した新規な形態性を有する無機酸化物材料の製造方法、無機酸化物材料、および炭素−無機酸化物複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
[テンプレートの作成]
[カーボンナノファイバー製造用触媒]
本発明においてテンプレート(基体)は、中実で、酸化により除去することができる、炭素質系の基体を使用することができる。このような基体としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、またはカーボンナノファイバーなどを挙げることができるが、特異的な形態性および内壁または外壁を効果的に生成させる観点からは、カーボンナノファイバー(以下CNFをとして参照する。)を使用することが好ましい。使用されるCNFは、これまでに知られた製造法を用いて製造することができる。より具体的には、CNF製造用触媒の担体としては、炭化水素分解により生成したカーボンファイバー(特開2004−074060号公報)、シリカ、チタニア、Y−型ゼオライト、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化ダイアモンド(特開2003−112050号公報)等、従来、公知の担体を使用することができる。
【0024】
また、炭化水素分解法により生成するカーボンナノファイバー用触媒としては、特開2004−074060号公報、特開2003−112050号公報に記載の鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族金属が好ましく、この中でも高い活性を示すニッケルが特に好ましい。
【0025】
鉄族金属の担持量は、炭化水素の分解において触媒が完全に失活するまでの活性成分1原子あたりのカーボン原子析出量が高いという観点から、触媒全体に対して5〜90質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、20〜50質量%がさらに好ましい。
【0026】
本発明の鉄族金属を担持した触媒の作製は、上述した担体をニッケル、コバルトまたは鉄の鉄族金属塩の溶液に浸漬させる。溶液としては、水溶液や有機溶媒による溶液などを使用することができる。水溶液としては、例えば、硝酸ニッケル水溶液、硝酸コバルト水溶液、硝酸鉄水溶液などを使用することができる。また、有機溶媒としては、例えば、アセトンや、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン系溶媒を用いることができる。担体として、表面親水性が高いシリカ等を用いる場合には、水溶液が好ましいが、表面疎水性が高いカーボンファイバー等を用いる場合には、水和した鉄族金属イオンが炭素担体に分散して吸着でき難いため、溶媒に極性の弱いアセトンを用いるとカーボンファイバーの表面がアセトンには良く濡れるため、アセトン溶媒等を用いることがより好ましい。
【0027】
触媒は、担体を鉄族金属塩の溶液に含浸させた後、混合溶液を攪拌しながら(必要に応じて加熱)溶媒を蒸発させて乾燥する。溶液として水溶液を使用した場合、約80℃〜約100℃に加熱して蒸発させることができる。調整した試料に300℃〜500℃程度で水素を流通し、担体上の金属塩を金属に還元する。上述した処理により、鉄族金属の粒子が存在するCNF製造用触媒担体を調製することができる。これらの中でも高い活性を有する点と触媒の再生が容易である点で、Ni/SiO触媒がより好ましい。
【0028】
担持した鉄族金属の粒子径は、活性が完全に失活するまでの触媒の寿命が長いという観点から、10〜100nm、特に20〜80nmの範囲が好ましい。本発明のCNF製造用触媒上で炭化水素を分解させると、金属の粒子径に対応した径のCNFを成長させることができ、20〜80nmの金属粒子が最も効率良くカーボンナノファイバーを成長させるからである。この範囲外の金属粒子は、CNFをある程度成長させはするものの比較的速やかに失活する。
【0029】
[CNFの製造]
本発明で使用するCNFは、上記によって得られたCNF製造用触媒の存在下で炭化水素を、例えば、約400℃〜約600℃に加熱し、炭化水素を分解することにより製造することができる。この場合、CNFの製造と共に水素ガスが発生する。本発明でCNFを製造するために使用することができる炭化水素としては、特に限定されないが、メタン、ヘキサン、オクタン等の炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素が好ましい。また、適宜、炭素数1〜10の脂環式炭化水素や芳香族炭化水素も使用することができる。生成したCNFは、例えば濃硝酸水溶液中等に浸し、加熱・攪拌し、CNFを濾過・洗浄後、シリカナノチューブ合成のテンプレートを得ることができる。
【0030】
[中空構造を有する無機酸化物材料の製造:シリカナノチューブ]
炭化水素分解で得られたCNFは、一般に表面の疎水性が強く、そのままではシリカナノチューブ合成のテンプレートには利用できない。そこでCNF表面を、水酸基(OH)、カルボキシル基(COOH)等の官能基化することによって親水性表面を有するCNFを作製し、これをシリカナノチューブ合成のテンプレートとすることが出来る。CNF表面を官能基化するためには、従来公知の酸化剤やアルコキシドシラン等による方法が可能である。またこれとは別に、製造されたCNFを濃硝酸水溶液中で加熱・攪拌処理等をし、洗浄・乾燥することによっても後述する無機酸化物前駆体を吸着するサイトを生成させることができる。
【0031】
CNF表面を官能基化したCNFと前述のテトラエトキシシラン等のアルコキシシランをはじめとする有機ケイ素化合物を飽和水蒸気雰囲気中等でアルコキシシランや金属アルコキシ化合物を攪拌し、該アルコキシ化合物等の加水分解を行い、ろ過、乾燥した試料をAr等の不活性雰囲気中で熱処理した後に、空気焼成することによりCNFを除去することにより、シリカナノチューブを得ることができる。空気焼成の温度としては、400℃〜1000℃の範囲が好ましい。
【0032】
また、本発明で製造することができる中空な無機酸化物材料は、数100〜数1000nmの長さを有し、外径が、約1〜600nmの範囲であり、そのアスペクト比が、約10〜数100の範囲とすることができる。
【0033】
[中空構造を有する無機酸化物材料の製造:酸化チタンナノチューブおよび酸化ジルコニウムナノチューブ]
無機酸化物前駆体として、他の金属アルコキシド、金属石鹸など有機金属化合物を使用することにより、本発明では目的とする元素を含む無機酸化物材料を製造することができる。例えば、本発明において、チタンアルコキシドあるいはジルコニウムアルコキシドを加水分解することによって、酸化チタンあるいは酸化ジルコニウムのゾル溶液を得ることができる。この酸化物ゾル溶液にCNFを浸漬し、CNFに酸化物ゾルを吸着させた。濾過・乾燥後に空気焼成を行いCNFを除去することにより、酸化チタンナノチューブあるいは酸化ジルコニウムナノチューブを得ることができる。
【0034】
本発明で、シリカナノチューブを作製するために用いる有機ケイ素化合物としては、有機ケイ素化合物を使用することができ、本発明で使用することができる有機ケイ素化合物としては、一般式RSi(OR′)4−aで示される有機ケイ素化合物を上げることができる。上記一般式中、Rはビニル基、アリール基、アクリル基、炭素数1〜8のアルキル基、水素原子またはハロゲン原子であり、R′はビニル基、アリール基、アクリル基、炭系数1〜8のアルキル基、−COC2n+1(n=1〜4)または水素原子であり、aは、0〜3の整数である。)を有するものが好ましい。
【0035】
上述した有機ケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなど従来公知の化合物が使用できる。
【0036】
また、酸化チタンナノチューブを作製するための材料であるチタンアルコキシド等の有機チタン化合物としては、一般式RTi(OR′)3−aで示される化合物を使用することができる。上記一般式中、Rはビニル基、アリール基、アクリル基、炭素数1〜8のアルキル基、水素原子またはハロゲン原子であり、R′はビニル基、アリール基、アクリル基、炭素数1〜8のアルキル基、−COC2n+1(n=1〜4)または水素原子であり、aは0〜2の整数である。)を有するものが好ましい。上述した有機チタン化合物としては、具体的には、例えば、チタントリメトキシド、チタントリエトキシド、チタントリ−n−プロポキシド、チタントリ−i−プロポキシド、チタントリ−n−ブトキシド、チタントリ−sec−ブトキシド、チタントリ−tert−ブトキシド、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラメトキシチタンなどのテトラアルコキシドチタン化合物などの、公知のチタンアルコキシド化合物を用いることができる。
【0037】
また、更にはジルコニウムアルコキシドやアルミニウムアルコキシド等の材料を用いることもでき、このために使用することができる有機金属化合物としては、具体的には例えば、アルミニウムイソプロピネート、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレートなどのトリアルコキシアルミニウム化合物、ジアセチルアセトントリブトキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウムなどのテトラアルコキシジルコニウム化合物などを挙げることができる。
【0038】
さらに、本発明において使用することができる金属化合物としては、上記化合物以外にも、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物などを挙げることができ、これらの化合物は目的とする組成を有する本発明の無機酸化物材料を製造するために適宜単独でまたは混合物として使用することができる。
【0039】
さらに、本発明では、金属酸化物として、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、三酸化コバルト(CoO)、酸化コバルト(CoO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)などの他、酸化アルミニウム(Al)、インジウムスズオキサイド(ITO)、酸化インジウム(In)、酸化鉛(PbO)、PZT、SrCe0.95Yb0.053−δ、酸化ニオビウム(Nb)、酸化トリウム(ThO)、酸化タンタル(Ta)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、コバルト酸ランタン(LaCoO)、三酸化レニウム(ReO)、酸化クロム(Cr)、酸化鉄(Fe)、クロム酸ランタン(LaCrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ZnO−Biなどを使用することもできる。
【0040】
さらに、本発明で使用することができる無機酸化物を与えるための前駆体物質としては、より具体的には、Sn、W、Mo、Co、In、Sb、As、Ti、Co、Al、Zr、Yb、Sr、Th、Taなどの、上述した金属を含むアルコキシド、アセテート、金属有機酸塩、金属塩、金属石鹸、ハロゲン化物、など、これまで知られた有機化合物または金属化合物を、適宜所望する特性に適合させるように、単独で、またはいかなる混合物としても使用することができる。
【0041】
[内壁または外壁への金属担持]
本発明により作製した無機酸化物材料の外壁にのみ金属粒子を担持した新規材料の作製に使用される金属粒子としては、ニッケル、鉄、コバルト、白金、パラジュウム等を含む、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Ca、またはこれらの混合物から選択される金属粒子を使用することができる。これら金属の担持量は、一般には、触媒全体に対して5〜90質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、20〜50質量%が特に好ましい。酸化チタンナノチューブ、ジルコニアナノチューブ、アルミナナノチューブ等を作製する場合も同様である。
【0042】
本発明のシリカナノチューブの外壁にのみ金属粒子を担持したシリカナノチューブは、ニッケル塩、鉄塩、コバルト塩、白金塩、パラジュウム塩等の水溶液あるいは水−アルコール液等中にシリカで被覆したCNFを入れ、加熱・攪拌し、乾固した試料を還元剤で還元し、金属粒子化する、還元の方法としては、300℃〜500℃程度で水素を流通する方法が好ましい。その後、400℃〜600℃での空気焼成を施しCNFを除去して、外壁のみに金属が担持されたシリカナノチューブを得ることができる。また、同様にして、外壁にのみ金属粒子を担持した、酸化チタンナノチューブ、ジルコニアナノチューブ、アルミナナノチューブ等を作製することができる。
【0043】
本発明のシリカナノチューブの内壁に金属粒子を担持したシリカナノチューブは、ニッケル塩、鉄塩、コバルト塩、白金塩、パラジュウム塩等の水溶液あるいは水−アルコール液等中にシリカナノチューブを入れ放置した後、洗浄処理を施しながら、試料を吸引ろ過し、その後乾燥し、調製した試料に300℃〜500℃程度で水素を流通し、担体上の金属塩を金属に還元する。空気焼成を行い、金属粒子を内包させることにより製造することができる。
【0044】
[無機酸化物ナノチューブと炭素との複合材料化]
本発明では、無機酸化物ナノチューブの外壁・内壁からのCNF成長は、前記に述べた金属粒子、特に鉄属元素を担持した無機酸化物ナノチューブに対し、カーボンナノファイバー製造用触媒の存在下で炭化水素を約400℃〜約600℃に加熱し、炭化水素を分解することにより、複合化を行うことができる。本発明にしたがい、CNFは、無機酸化物ナノチューブの金属粒子の担持されたサイトから外壁・内壁から枝状に成長し、無機酸化物ナノチューブ−CNF複合系材料を形成する。炭化水素としては、特に限定されないが、メタン、ヘキサン、オクタンなどの炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素が好ましい。また、炭素数1〜10の脂環式炭化水素や芳香族炭化水素も使用することができる。無機酸化物ナノ材料の外壁からCNFを成長させる場合も同様である。
【実施例】
【0045】
以下本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、本発明の構成を備え、かつその効果を発現する限りにおいて後述する実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
【0046】
CNF合成のため、シリカ担持Ni触媒を含浸法によって調製した。具体的には、15g/Lの硝酸ニッケル水溶液中にシリカを含浸し、溶液を加熱・攪拌した。乾燥後調製した試料に400℃程度で水素を流通し、担体上の金属塩を金属に還元した。乾固した試料を600℃で空気焼成することによって、シリカ担持Ni触媒(Ni/SiO)を得た。得られたシリカ担持(Ni/SiO)を固定床流通式反応装置に設置し、約500℃で純水素を1時間流通させた後に、約550℃で純メタンをNi/SiOに接触させた。ガスクロマトグラフによって反応中の生成ガスを分析し、水素が発生しなくなるまでメタンを流通した。生成したCNFを濃硝酸水溶液中に浸し、約80℃で4時間攪拌した。CNFを濾過・洗浄後、シリカナノチューブ合成のテンプレートとして用いた。
【0047】
次に、シリカナノチューブ合成として、50mgのCNFと5mlのテトラエチルシラン(TEOS)をガラス製容器に入れ、40℃で飽和した水蒸気存在下にて所定時間(4〜48時間)攪拌した。試料を吸引濾過し、80℃で乾燥した後に、アルゴン流通下、約500℃にて加熱して無機酸化物前駆体を焼成した。シリカで被覆されたCNFを、約600℃で空気焼成してCNFのみを酸化させて除去し、シリカナノチューブを得た。
【0048】
図1には、メタン分解により作製したCNFと生成したシリカナノチューブのTEM像を示す。シリカナノチューブとCNFの形状は類似しており、CNFがシリカナノチューブ作製のテンプレートとして機能したことがわかる。シリカナノチューブの長さは数百〜数μmであり、径は、約50nmであった。また従来の陽極酸化アルミナをテンプレートとしてシリカナノチューブを作製する方法に比べて湾曲した構造のシリカナノチューブも得ることが出来た。
【0049】
図2には、製造されたシリカナノチューブのSEM写真を示す。図2に示されるように、製造されたシリカナノチューブの壁は、テンプレートとして使用したカーボンナノファイバーの有する六角形(ヘキサゴナル)構造を有しており、その径は、約600nmであった。図2に示したシリカナノチューブは、図1に示したよりも明確にカーボンナノファイバーがテンプレートとして機能したことが示されている。
(実施例2)
【0050】
実施例2として、本発明の無機酸化物材料の形態制御性として、中空な無機酸化物材料の壁厚の制御を検討した。壁厚の制御は、実施例1と同一の組成および材料を使用して、TEOSの加水分解時間を4h、12h、36hと変化させることにより制御した。
【0051】
図3には、TEOSの加水分解時間を変化させて作製したシリカナノチューブのTEM像を示す。図3(A)は、加水分解時間が4hであり、図3(B)が加水分解時間12hであり、図3(C)が加水分解時間36hについて得られた結果を示す。シリカナノチューブのTEM像から、図3(A)では、加水分解時間4hの壁の厚みは10nm以下であるのに対して、図3(C)に示す加水分解時間36hのシリカナノチューブの壁の厚みは30nmであることがわかった。すなわち、本発明においては、TEOSの加水分解時間によってシリカナノチューブの厚みを制御できることが示された。これらは、従来の陽極酸化アルミナをテンプレートとしてシリカナノチューブを作製する方法ではできないことであった。
(実施例3)
【0052】
実施例3として、内壁に金属を担持したシリカナノチューブを合成した。硝酸ニッケル、硝酸鉄、硝酸コバルト、塩化白金酸、あるいは塩化パラジュウムの水溶液(1−10重量%程度の濃度)中に実施例1で製造したシリカナノチューブを入れて放置し、シリカナノチューブに金属塩を付着させた。続いて試料を吸引濾過する際に、ブフナー漏斗中にて、洗浄処理を施した。乾燥後、調製した試料に400℃程度で水素を流通し、シリカナノチューブ上の金属塩を金属に還元した。その後、空気焼成を行い、金属粒子を内包したシリカナノチューブを得た。金属粒子を内包したシリカナノチューブの蛍光X線分析(XRF)およびTEM観察と同時に行ったエネルギー分散型X線分光分析(EDS)により、シリカナノチューブ内に存在する金属粒子の種類、担持量を見積もった。
(実施例4)
【0053】
実施例4として、外壁に金属を担持したシリカナノチューブを製造した。硝酸ニッケル、硝酸鉄、硝酸コバルト、塩化白金酸、あるいは塩化パラジュウムの水溶液(1−10重量%程度の濃度)に、実施例1と同様にして製造した二酸化ケイ素前駆体ゾルで被覆したCNFを投入し、加熱・攪拌して金属塩を担持させた。乾燥後、調製した試料に400℃程度で水素を流通し、シリカナノチューブを製造し、同時にシリカナノチューブ上の金属塩を金属に還元した。その後、600℃での空気焼成を施しCNFを除去して、外壁のみに金属が担持されたシリカナノチューブを得た。
(実施例5)
【0054】
実施例5として、酸化チタンナノファイバーをTEOSの代わりにテトライソプロポキシチタンを使用して製造した。酸化チタンナノファイバーの合成は、チタンテトライソプロポキシドの加水分解により生成した酸化チタンゾルを含むエタノール溶液中にCNFを室温で浸漬させた。その後、酸化チタンゾルが付着したCNFをエタノールで洗浄してCNFに吸着していない酸化チタンゾルを除去した後、乾燥し、600℃で空気焼成し、テンプレートとして使用したカーボンナノファイバーを酸化除去した。
【0055】
図4にはCNFをテンプレートに用いて作製した酸化チタンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真を示す。図4に示されるように、酸化チタンは、テンプレートに相当するファイバーとして形成されており、また、中心のカーボンナノファイバーは、空気酸化により除去されているので、高アスペクト比の中空無機酸化物材料が得られているのが示された。
(実施例6)
【0056】
実施例6として、酸化ジルコニウムナノファイバーを製造した。酸化ジルコニウムナノファイバーの合成は、金属酸化物前駆体として、ジルコニウムブトキシドを使用し、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドの加水分解により生成した酸化ジルコニウムゾルを含む1−ブタノール溶液中にCNFを室温で浸漬した。その後、CNFをエタノールで洗浄してCNFに吸着していない酸化ジルコニウムゾルを除去した後、乾燥し、600℃で空気焼成して製造したところ、良好な酸化ジルコニウムナノファイバーが製造できた。
(実施例7)
【0057】
実施例7として、カーボンナノファイバーが内壁から成長したシリカナノチューブを製造した。鉄金属粒子としてNi粒子を担持したシリカナノチューブを、実施例3と同様にして製造した。製造したシリカナノチューブを、実施例1と同様のカーボンナノファイバー製造用触媒の存在下、メタンを約550℃で流通させて、メタンの分解により生成されたCNFがシリカナノチューブの内壁から成長させた。その結果を図5に示す。図5に示すように、本発明により製造されたシリカナノチューブの内壁からCNFが成長し、本発明により、新規な形態特性を有する炭素−無機酸化物複合材料が製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、新規な形態性を有する中空な無機酸化物材料および炭素−無機酸化物複合材料が提供でき、本発明により提供される新規な材料は、新規な触媒材料、環境浄化材料、電子放射材料、電磁波吸収体等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】Ni/SiO触媒上でメタン分解を行って得たカーボンナノファイバーのTEM像(a)、およびカーボンナノファイバーをテンプレートに用いて合成したシリカナノチューブのTEM像(b)。
【図2】本発明の無機酸化物材料の外壁構造を示したSEM像。
【図3】TEOSの加水分解時間を変化させて作製したシリカナノチューブのTEM像。加水分解時間は、4時間(a)、12時間(b)、36時間(c)。
【図4】CNFをテンプレートに用いて合成した酸化チタンナノ材料のSEM像。
【図5】シリカナノチューブ内部に担持した金属Ni粒子を触媒としてメタン分解を行い、シリカナノチューブの内壁から延びたカーボンナノファイバーを含む炭素−無機酸化物複合材料のTEM像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実な基体に無機酸化物前駆体を付着させる段階と、
前記無機酸化物前駆体を無機酸化物とする段階と、
前記基体を酸化除去する段階と
を含む前記基体の構造をテンプレートとする中空な無機酸化物材料の製造方法。
【請求項2】
前記基体は、炭素質材料である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記炭素質材料は、1〜600nmの高アスペクト比を有する材料である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基体は、カーボンナノファイバーである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基体に前記無機酸化物前駆体を付着させる段階は、前記無機酸化物前駆体を、前記基体に担持させる段階を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記無機酸化物材料は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Ca、またはこれらの混合物から選択される金属を担持する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
1〜600nmのサイズであり、高アスペクト比を有する中空構造の無機酸化物材料。
【請求項8】
前記無機酸化物材料は、断面形状がヘキサゴナル形状を有する、請求項7に記載の無機酸化物材料。
【請求項9】
Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属またはこれらの混合物から選択される金属を担持する、請求項7または8に記載の無機酸化物材料。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の無機酸化物材料の、少なくとも内壁または外壁に付着したカーボンナノファイバーを含む、炭素−無機酸化物複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−96651(P2006−96651A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243989(P2005−243989)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】