説明

無機EL素子及びその製造方法

【課題】発光層の酸化による劣化を生じ難くすることができ、かつ製造工程も簡素化することができる無機EL素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機EL素子1のホスト化合物として、空気中の湿気や酸素を要因とする酸化の影響を受け難い酸化物系を使用する。酸化物系には、例えばアルカリ度類金属リン酸塩のひとつであるリン酸カルシウムCa(PO)を使用する。そして、このリン酸カルシウムCa(PO)に、赤色蛍光体として+3価のユーロピウムEu3+を添加し、青色蛍光体として+3価のツリウムTm3+又は+2価のユーロピウムEu2+を添加し、緑色蛍光体として+3価のテルビウムTb3+及び+3価のセリウムCe3+を共添加する。これら希土類元素は、リン酸カルシウムCa(PO)中のカルシウムとイオン半径が類似しているため、イオン間の隙間に入り込んで、リン酸カルシウムCa(PO)に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層に無機EL素子を使用した無機EL素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EL(Electroluminescence)の一種には、無機ELを発光層として使用する無機EL素子がある。図9に示すように、無機EL素子81は、表側の透明電極82と裏側の背面電極83との間に、発光層84及び強誘電体層85が設けられている。そして、一対の電極82,83間に電圧を印加して発光層84を光らせ、この光を透明電極82側から引き出すことにより、照明として使用する。一般的に、発光層84としては、硫化亜鉛等のホスト化合物(主成分)に、例えば銅及びインジウムを添加したもの(特許文献1等参照)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−163581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硫化亜鉛は非酸化物系であるので、硫化亜鉛を発光層84のホスト化合物として使用した場合、空気中の湿気や酸素による酸化によって発光体84の劣化してしまう可能性も否めず、無機EL素子81の素子寿命が短いという問題があった。また、無機EL素子は、製造工程で焼成を行うが、上記問題による影響を抑えるために、雰囲気・湿度を厳密にした反応容器内で焼成を行う必要があり、製造工程が複雑化する問題もあった。また、製造工程に特別な反応容器が必要となると、その分だけ製造コストも余計にかかる。
【0005】
本発明の目的は、発光層の酸化による劣化を生じ難くすることができ、かつ製造工程も簡素化することができる無機EL素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本発明では、発光層として無機ELを使用する無機EL素子において、前記発光層の主成分として酸化物系が使用され、当該酸化物系に存在するイオンレベルの隙間に入り込み可能な添加物が、前記発光層にて色を発する物質として該酸化物系に注入されていることを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、発光層の主成分に酸化物系を使用するので、空気中の湿気や酸素を原因とする酸化が発光層に生じ難くなる。よって、発光層が酸化により劣化し難くなるので、無機EL素子の長寿命化が可能となる。また、無機EL素子の製造時、発光層が空気に触れないように管理する必要もなくなる。よって、無機EL素子の製造場において特別な反応容器が不要となるので、無機EL素子の製造工程を簡素化することも可能となる。また、製造時に特別な反応容器が不要となれば、無機EL素子をその分だけ安価に製造することも可能となる。
【0008】
本発明では、前記酸化物系に前記添加物を注入した後、当該酸化物系を焼成することにより製造されていることを要旨とする。
この構成によれば、酸化物系に注入された添加物が焼成によって酸化物系に安定して取り付くので、添加物の脱落を発生し難くすることが可能となる。
【0009】
本発明では、前記添加物は、希土類元素であることを要旨とする。
この構成によれば、実験によって好適な蛍光特性を得ることができた希土類元素中の例えばユーロピウムやツリウムを、発光層の蛍光体として使用することが可能となる。
【0010】
本発明では、前記酸化物系は、アルカリ土類金属リン酸塩のひとつであるリン酸カルシウムであることを要旨とする。
この構成によれば、例えばカルシウムのイオン半径と希土類元素のイオン半径とは非常に類似しているため、添加物として希土類元素を使用した場合には、希土類元素がより安定してリン酸カルシウムに取り付く。よって、発光層に注入した希土類元素の脱落を生じ難くすることが可能となる。
【0011】
本発明では、前記添加物の注入量は、0から10アトミックパーセント以下の範囲内の値に設定されていることを要旨とする。
この構成によれば、例えばリン酸カルシウムに希土類元素を添加するとき、飽和量を超えない量で希土類元素をリン酸カルシウムに添加することが可能となる。
【0012】
本発明では、前記焼成の温度は、1000℃以上1250℃以下の範囲内の値に設定されていることを要旨とする。
この構成によれば、焼成温度を1000℃以上1250℃以下の範囲内の値とすれば、添加物がより安定して酸化物系に付着するため、充分な発光輝度を確保することが可能となる。
【0013】
本発明では、発光層として無機ELを使用する無機EL素子の製造方法において、前記発光層の主成分として酸化物系を使用し、当該酸化物系に存在するイオンレベルの隙間に入り込み可能な添加物を、前記発光層にて色を発する物質として該酸化物系に注入して製造することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発光層の酸化による劣化を生じ難くすることができ、かつ製造工程も簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態の無機EL素子の構成図。
【図2】希土類元素がリン酸カルシウムに付着する原理を示すモデル図。
【図3】(a)〜(k)は無機EL素子の製造工程図。
【図4】希土類元素の注入量と無機EL素子の発光輝度との関係を示すグラフ。
【図5】+3価のユーロピウムを添加したときのPL測定結果を示すグラフ。
【図6】+3価のツリウムを添加したときのPL測定結果を示すグラフ。
【図7】+2価のユーロピウムを添加したときのPL測定結果を示すグラフ。
【図8】+3価のユーロピウムを添加したときのEL測定結果を示すグラフ。
【図9】従来の無機EL素子の概要を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した無機EL素子及び無機EL素子製造方法の一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、本例の薄膜型無機EL素子1は、透明電極2及び背面電極3の間に、発光層4及び強誘電体層5の層を挟み込む構造をとっている。強誘電体層5は、交流駆動において電流を増幅するとともに、光の反射を調整する層である。そして、一対の電極2,3の間に電圧を印加することにより、発光層4を発光させ、この光を透明電極2から照明として引き出す。無機EL素子1は、例えば数十V程度の低い電圧により発光する。
【0017】
発光層4のホスト化合物(主成分)には、アルカリ土類金属リン酸塩が使用されている。本例の場合、アルカリ土類金属リン酸塩の一つとして、例えばリン酸カルシウムCa(PO)が使用されている。リン酸カルシウムCa(PO)は、酸化物系(酸化系物質)であるため、空気中の湿気や酸素による劣化が生じ難く、素子寿命が長い。また、リン酸カルシウムCa(PO)は、熱的安定性や水への難溶解性の性質がよい。
【0018】
発光層4には、三原色(赤青緑)の各色の蛍光体として、色ごとに希土類元素が添加されている。希土類元素は、リン酸カルシウムCa(PO)のイオン半径と類似するイオン半径を持つ元素が使用されている。これは、図2に示すように、リン酸カルシウムCa(PO)にできる隙間rに希土類元素が入り込んで付着することを可能とするためである。本例の場合、発光層4には、赤色蛍光体として+3価のユーロピウムEu3+が添加され、青色蛍光体として+3価のツリウムTm3+又は+2価のユーロピウムEu2+が添加され、緑色蛍光体として+3価のテルビウムTb3+及び+3価のセリウムCe3+が共添加されている。
【0019】
続いて、無機EL素子1の製造手順を図3〜図8に従って説明する。
まず、図3(a)に示すように、チタン酸バリウムBaTiOの焼結体ペレット6を用意する。焼結体ペレット6は、強誘電体層5そのものであり、発光層4の基材としての役割を果たす。
【0020】
続いて、図3(b)に示すように、スプレー法(スプレー熱分解法)より、焼結体ペレット6に前駆体メタノール溶液(例えば0.1mol/L)を噴霧する(注入工程)。つまり、リン酸カルシウムの原料(炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム)を硝酸酸性下で溶解し、メタノールで希釈したメタノール−水系溶液をスプレー溶液として焼結体ペレット6に塗布する。前駆体メタノール溶液には、各色の蛍光体を形成する各希土類元素(Eu3+、Tm3+、Eu2+、Tb3+、Ce3+等)が含まれている。
【0021】
希土類元素の添加後、図3(c)に示すように、スプレー処理後の素子母材7を熱処理によって熱分解する(熱分解工程)。熱分解処理は、1段階目の熱処理(焼成処理)であって、例えば空気中で約1時間、500℃の熱で素子母材7を焼成する処理である。メタノール中に硝酸塩として溶解している蛍光体原料は、成膜後、空気中500℃の条件で焼成されると、熱分解により変化する。
【0022】
熱分解処理後、図3(d)に示すように、熱分解処理後の素子母材7を焼成する(アニール処理)。アニール処理は、2段階目の熱処理(焼成処理)であって、例えば空気中で約1時間、1000〜1250℃の熱で焼成する処理である。
【0023】
ここで、素子母材7を2段階で熱処理するのは、単に1段階で高温まで上げてしまうと、硝酸塩等の原料の一部が蒸発してしまい、組成がずれてしまう可能性があるためである。ところで、低い温度の熱分解工程でできた結晶粒の結晶性は低いため、蛍光が弱い(観察されない)。しかし、熱分解工程の後で、より高い1000〜1250℃という温度で素子母材7を焼成すると、結晶化が進み、蛍光特性に優れた試料が得られる。よって、本例の場合は、1段階目で500℃の熱処理を行い、2段階目で1000〜1250℃の高温で熱処理(アニール)して原料の結晶性を確保する。
【0024】
図4に、一例として赤色蛍光体の希土類元素の注入量(ドープ量)と発光輝度との関係を示す。注入量は、リン酸カルシウムCa(PO)に対する+3価のユーロピウムEu3+の注入割合である。同図からも分かるように、+3価のユーロピウムEu3+を僅かながらでも注入した時点で発光強度(PL強度)が増大し、注入量が1at%(アトミックパーセント)程度で飽和が始まり、6at%程度で飽和傾向が見られる。よって、+3価のユーロピウムEu3+の注入量は、1at%を基準とし、必要以上の材料を注入しない10at%程度までが適切である。つまり、希土類元素の総注入量は、0〜10at%の範囲内の値に設定されている。なお、アトミックパーセントは原子組成百分率である。
【0025】
続いて、図3(e)に示すように、焼成処理後の素子母材7の特性をPL測定により確認する(PL測定工程)。PL測定は、素子母材7に紫外線を当てて発光量を見ることにより、蛍光体が必要量添加しているか否かを確認する測定である。
【0026】
図5に、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のユーロピウムEu3+(赤色蛍光体)を添加して製造した素子母材7のPL測定結果を示す。ここでは、アニール工程の温度を1000℃、1100℃、1200℃、1250℃とした4例の各素子母材7の測定結果を図示する。同図からも分かるように、どの温度でもPL強度にピークが出る。つまり、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のユーロピウムEu3+が添加できていることが分かる。
【0027】
図6に、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のツリウムTm3+(青色蛍光体)を添加して製造した素子母材7のPL測定結果を示す。ここでは、+3価のツリウムTm3+の含有量を0.5%、1.0%、5.0%とした3例の各素子母材7の測定結果を図示する。同図からも分かるように、どの含有量でもPL強度にピークが出ることから、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のツリウムTm3+が添加できていることが分かる。
【0028】
図7に、リン酸カルシウムCa(PO)に+2価のユーロピウムEu2+(青色蛍光体)を添加して製造した素子母材7のPL測定結果を示す。ここでは、アニール工程の温度を1000℃、1100℃、1200℃、1250℃とした4例の各素子母材7の測定結果を図示する。同図からも分かるように、どの温度でもPL強度にピークが出ることから、リン酸カルシウムCa(PO)に+2価のユーロピウムEu2+が添加できていることが分かる。
【0029】
なお、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のテルビウムTb3+及び+3価のセリウムCe3+(緑色蛍光体)を共添加したときのPL測定結果は図示しないが、Tb3+やCe3+はEu3+(赤)、Tm3+(青)、Eu2+(青)と同様の特性を持つものであるため、赤色や青色のときと同様の測定結果が期待できる。
【0030】
PL測定後、図3(f)に示すように、スプレー法(スプレー熱分解法)により、素子母材7に透明電極溶液を添付して、素子母材7の表面に透明電極2を生成する(透明電極製造工程)。透明電極溶液には、アルミニウム添加の酸化亜鉛Al-ZnOが含まれている。
【0031】
この透明電極は、図3(g)に示される熱処理により、前駆体が熱分解して素子母材7上に形成される(第1安定化処理)。第1安定化処理は、例えば空気中で約5分間、450℃の熱で素子母材7を焼く処理である。
【0032】
熱処理後、図3(h)に示すように、前処理後の素子母材7を低抵抗化する(第2安定化処理)。第2安定化処理は、例えばH(0.5%)/Nの充填下で、約15分間、200℃で素子母材7と透明電極とを一緒に焼く処理である。第2安定化処理には、Al-ZnO透明電極材料表面に化学吸着した酸素を取り除く働きがあり、透明電極の低抵抗化が満足される。
【0033】
続いて、図3(i)に示すように、素子母材7の背面に銀ペーストを塗って背面電極3を作製するとともに、素子母材7の上面一部にも銀ペーストを塗る(背面電極製造工程)。
【0034】
そして、図3(j)に示すように、透明電極2と背面電極3とに一対の配線電極8,8を取り付ける(配線電極製造工程)。
電極の取り付け後、図3(k)に示すように、電極取り付け後の素子母材7の発光特性をEL測定により確認する(EL測定工程)。EL測定は、素子母材7に電界を印加して、ELとしての発光能力(輝度、色度、彩度等)を確認するための測定である。EL測定では、交流電圧が使用されるが、交流電圧は波形に制限はなく、例えば正弦波や方形波のいずれでも構わない。
【0035】
図8に、リン酸カルシウムCa(PO)に+3価のユーロピウムEu3+(赤色蛍光体)を添加して製造した素子母材7のEL測定結果を示す。ここでは、アニール工程の温度を1000℃、1100℃、1200℃とした3例の各素子母材7の測定結果を図示する。同図からも分かるように、どの温度でも赤色波長領域(625〜740nm)においてEL強度にピークが出る。つまり、リン酸カルシウムCa(PO)に添加された+3価のユーロピウムEu3+が、充分な赤色発光特性を有していることが分かる。
【0036】
なお、リン酸カルシウムCa(PO)に青色蛍光体(Tm3+、Eu2+)を添加したときのEL測定結果は図示しないが、図6や図7に示すようにリン酸カルシウムCa(PO)に希土類元素の添加が確認されるので、赤色蛍光体と同様に好適なEL測定結果が得られることが期待できる。また、リン酸カルシウムCa(PO)に緑色蛍光体(Tb3+及びCe3+)を共添加したときのEL測定結果も同様である。ちなみに、緑色波長領域が500〜565nmで、青色波長領域が450〜485nmである。
【0037】
以上により、本例においては、発光層4のホスト化合物として、酸化物系の一種であるリン酸カルシウムCa(PO)を使用するので、発光層4が空気中の湿気や酸素により酸化し難くなる。よって、発光層4の酸化劣化が発生し難くなるので、無機EL素子1の長寿命化が可能となる。
【0038】
また、無機EL素子1の製造時、発光層4が空気に触れないように管理する必要もなくなる。よって、無機EL素子1の製造場において特別な反応容器が不要となるので、製造工程を簡素化することが可能となり、ひいては製造コストの削減にも繋がる。
【0039】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)発光層4のホスト化合物にリン酸カルシウムCa(PO)を使用するとともに、蛍光体として希土類元素を注入して無機EL素子1を製造する。よって、無機EL素子1に酸化劣化が生じ難くなるので、無機EL素子1を長寿命化することができる。また、製造場に特別な反応容器が不要となるので、製造工程を簡素することができるとともに、製造コストも削減することができる。
【0040】
(2)焼結体ペレット6に前駆体メタノール溶液を噴霧して、リン酸カルシウムCa(PO)に希土類元素を添加した後、焼結体ペレット6を焼結する。よって、希土類元素がリン酸カルシウムCa(PO)に安定して取り付くので、希土類元素の脱落を発生し難くすることができる。
【0041】
(3)焼結工程は2段階の熱処理により行われるので、原料の組成ずれを生じさせることなく、試料の蛍光特性を確保することができる。
(4)リン酸カルシウムCa(PO)に添加する添加物として希土類元素を使用したので、実験によって好適な蛍光特性を得ることができた希土類元素中の例えばユーロピウムやツリウムを、発光層4の蛍光体として使用することができる。
【0042】
(5)カルシウムのイオン半径と希土類元素のイオン半径とは非常に類似しているため、発光層4のホスト化合物としてリン酸カルシウムCa(PO)を使用し、添加物として希土類元素を使用した場合には、希土類元素がより安定してリン酸カルシウムCa(PO)に取り付く。よって、発光層4に注入した希土類元素の脱落を、一層生じ難くすることができる。
【0043】
(6)リン酸カルシウムCa(PO)における希土類元素の注入量を0〜10at%の範囲内の値としたので、飽和量を超えない量で希土類元素をリン酸カルシウムCa(PO)に添加することができる。つまり、希土類元素の効率よい添加が可能である。
【0044】
(7)焼成温度を1000℃以上1250℃以下の範囲内の値としたので、希土類元素がより安定してリン酸カルシウムCa(PO)に付着する。よって、使用に適した発光輝度を確保することができる。
【0045】
(8)本例の発光層4は微細化及び薄膜化が可能となるので、例えば数十V程度という低い電圧で無機EL素子1を発光させることができる。
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
【0046】
・照明時に無機EL素子1に印加する駆動電圧は、本例のような強誘電体層5を持つ無機EL素子1の場合は交流であることが望ましいが、直流及び交流のいずれを用いてもよい。
【0047】
・希土類元素は、Eu3+、Tm3+、Eu2+、Tb3+、Ce3+に限定されず、他のものが使用可能である。また、添加物は、希土類元素に限定されず、光を出すことが可能で、かつ酸化物系のイオン半径と略同一のイオン半径を持つものであれば、何を使用してもよい。
【0048】
・アルカリ土類金属リン酸塩の一例は、リン酸カルシウムCa(PO)に限定されず、他の種類のものを使用可能である。また、酸化物系の一例は、アルカリ土類金属リン酸塩に限定されず、他の酸化物系の物質を使用可能である。
【0049】
・焼成温度は、1000℃以上1250℃以下の範囲内の値に限定されない。例えば、800℃以上であれば発光確認できたため、上記範囲外の温度を採用してもよい。
・焼成工程は、不要であれば省略してもよい。
【0050】
・無機EL素子1の製造工程は、図3に示した例に限らず、種々変更可能である。
・リン酸カルシウムCa(PO)への希土類元素の添加方法は、スプレー法に限らず、例えばスパッタ法を採用してもよい。
【0051】
・希土類元素の注入量は、適宜変更可能である。例えば、飽和傾向を考えると、1〜6at%範囲内の値であることが好ましい。
・無機EL素子1は、片面発光に限定されず、両面発光としてもよい。
【0052】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項1〜6のいずれかにおいて、前記添加物は、硝酸酸性下で溶解するとともにメタノールで希釈したメタノール−水系溶液をスプレー溶液とするスプレー熱分解法により、前記酸化物系に塗布されている。
【0053】
(ロ)請求項7において、前記発光層の基材に前記添加物を塗布する工程と、該塗布の後、前記添加物を前記基材に取り付かせるために前記基材を焼成する工程と、該焼成の後、前記添加物の付着を安定させる工程と、前記基材に電極を形成する工程と、該電極の形成の後、配線を接続する工程とを備えた。
【符号の説明】
【0054】
1…無機EL素子、4…発光層、r…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層として無機ELを使用する無機EL素子において、
前記発光層の主成分として酸化物系が使用され、当該酸化物系に存在するイオンレベルの隙間に入り込み可能な添加物が、前記発光層にて色を発する物質として該酸化物系に注入されていることを特徴とする無機EL素子。
【請求項2】
前記酸化物系に前記添加物を注入した後、当該酸化物系を焼成することにより製造されている
ことを特徴とする請求項1に記載の無機EL素子。
【請求項3】
前記添加物は、希土類元素である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無機EL素子。
【請求項4】
前記酸化物系は、アルカリ土類金属リン酸塩のひとつであるリン酸カルシウムである
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の無機EL素子。
【請求項5】
前記添加物の注入量は、0から10アトミックパーセント以下の範囲内の値に設定されている
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の無機EL素子。
【請求項6】
前記焼成の温度は、1000℃以上1250℃以下の範囲内の値に設定されている
ことを特徴とする請求項2〜5のうちいずれか一項に記載の無機EL素子。
【請求項7】
発光層として無機ELを使用する無機EL素子の製造方法において、
前記発光層の主成分として酸化物系を使用し、当該酸化物系に存在するイオンレベルの隙間に入り込み可能な添加物を、前記発光層にて色を発する物質として該酸化物系に注入して製造することを特徴とする無機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−43660(P2012−43660A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184400(P2010−184400)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月22日 国立大学法人 山形大学主催の「平成21年度 卒業研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【Fターム(参考)】